JPH11294529A - 免震装置 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 地震に対する上部構造物の揺れを抑えるよう
にした免震装置において、地震収束後に中立状態にスム
ーズに復帰させることを目的とする。 【解決手段】 上部構造物と連結される上側鋼板２と、
この上側鋼板２の下側に対向して設けられ基礎と連結さ
れる下側鋼板３との外周部を、全周に亘って、筒状のゴ
ム部材８にて連結する。上側鋼板２に柱部材５の基端部
を取付固定し、下側鋼板３の球面形状若しくは円錐面形
状の凹面３ａ．３ｂに、柱部材５の先端部に設けた摺動
部材６の凸面６ａ，６ｂを摺動可能に当接させる。摺動
部材６は、上側鋼板２と下側鋼板３とが相対移動してい
ない中立状態で、凹面３ａ，３ｂの最も深さの深い部分
に位置している。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、上部構造物と基礎
との間に設けられ、地震に対する上部構造物の揺れを抑
えるようにした免震装置に関する。本発明は、主として
上部構造物が軽量の場合に用いられるもので、具体的に
は、個人住宅、低層建築物、木造社寺、工場や病院内の
精密機械室、電算機室、免震床、免震台（例えば美術工
芸品用台）などに用いられる。

【０００２】

【従来の技術】従来より、この種の免震装置としては、
例えば図５（ａ）（ｂ）に示すように、上部構造物及び
基礎にそれぞれ連結される円形状の上側板ａ及び下側板
ｂの間において天然ゴムなどからなるゴムｃと鋼板ｄと
を交互に積層した免震支承ゴムタイプのものがよく知ら
れている。このものは、ゴムｃと鋼板ｄとを交互に積層
した積層部の鉛直剛性でもって上部構造物の荷重を支持
し、地震時の横揺れに対しては、ゴムｃの低いせん断力
で対応すると同時に、中心部に設けた鉄や鉛のプラグｅ
の減衰機能により水平方向の力を吸収するようになって
いる。また、前記プラグｅの代わりに油圧機構で減衰さ
れるようにしたものや、ゴムｃを高減衰のものにしてゴ
ムｃ自体で減衰機能を発揮させるようにしたものがあ
る。

【０００３】この免震支承ゴムタイプの免震装置は、構
造が単純であり、しかも、施工前の設計において地震力
の減衰性能の予測が容易であり、施工作業や施工後の維
持管理も簡単であるため、大型集合住宅、病院などの大
型建築物用の免震装置としてかなり普及している。

【０００４】このような免震支承ゴムタイプの免震装置
は、その性能を有効に発揮するための前提条件として、
上部構造物から受ける鉛直荷重が多大であることが必要
とされるので、個人住宅などの軽量の上部構造物には用
いることができない。すなわち、免震支承ゴムタイプの
ものでは、上部構造物から受ける鉛直荷重が面圧で５０
〜１００ｋｇ／ｃｍ²の大きさのときに期待するせん断
力と水平方向変位とを発揮するように断面積と高さとの
バランスを考慮して作製されているため、上部構造物が
軽量でかつ設置面積が小さい個人住宅などに適用しよう
とすると、断面積が小さくかつ高さが大きいものとな
り、座屈を生じ易い不安定なものとなる。そのため、大
型集合住宅、病院などの大型建築物のみにしか採用され
ていないのが現状である。

【０００５】その一方、兵庫県南部地震以降、免震装置
に関する関心が高まり、個人住宅への適用の必要性も高
まりつつあることから、個人住宅などの軽量の上部構造
物について、地震時の倒壊や、家具、調度品の転倒及び
落下を防止するための免震装置が各種提案されている。
具体的には、(１)上下一対の硬質部材間に可撓性構造体
を設け、この可撓性構造体に流動部材が充填された多数
の区画室を形成することによって、簡単な構成で、地震
に対する上部構造物の揺れを抑えるようにしたもの（例
えば特開平８−３２６３５２号公報参照）、(２)ゴムを
用いないで、ベアリングなどのスライド機構とダンパ機
構とを組み合わせた免震装置であって、例えば２つのス
ライド機構を略十字状に結合して上部構造物を基礎に対
して水平２方向に自由に移動可能とし、このスライド機
構にばねやオイルダンパなどのダンパ機構を別途付加し
て上部構造物の揺れを抑えるようにしたもの、(３)鋼鉄
製球を中央が底点となる放物型の円型鋼鉄製皿受台で上
下より挟んだ構成とし、鋼鉄製球が下側の皿受台を上昇
する際の反力により地震加速度を消滅させることで上部
構造物の横揺れを抑えるようにしたもの（例えば特開平
９−４２７９号公報参照）が提案されている。

【０００６】しかしながら、前記（１）の免震装置にお
いては、上部構造物からの荷重を支持するための可撓性
構造体が経年変化により劣化し、強度が低下し、上部構
造物の高さを長期間に亘って一定に保持することができ
ないという問題がある。また、製造上、内部に複数の区
画室を設けることは困難である。

【０００７】また、前記（２）の免震装置においては、
どの方向からの地震力に対しても機能するようにするた
めには、スライド機構及びダンパ機構の構造が非常に複
雑となり、施工に先立つ設計の困難さやコスト高が問題
となり、普及していない。

【０００８】さらに、前記（３）の免震装置において
は、地震による横揺れに対し、鋼鉄製球が放物線型の皿
受台上を移動するため、上部構造物が上下方向にも移動
するという問題がある。また、振動を減衰させるための
機構が重力によるものであるため、上部構造物が自由振
動に近い拳動を示し、振動の収束性に劣るという問題を
有している。

【０００９】そこで、出願人は、個人住宅などのように
上部構造物が軽量の場合にも、地震の震動に対して上下
方向の変位がなく、水平方向の変位に対応しかつ吸収し
て有効に免震機能を発揮させることができる免震装置と
して、上部構造物及び基礎にそれぞれ連結される上下鋼
板の間（側面）を弾性体（例えばゴム部材やコイルスプ
リング）で連結すると共に、上鋼板の下面に下方向に突
出する支持柱を設け、この支持柱の下端部に低摩擦係数
の高分子材料の摺動部材を設けて、支持柱が下鋼板に対
し摺動可能となるようにしたものを開発し、先に出願し
ている。このものにおいては、上鋼板を支持柱を介して
下鋼板に対し摺動可能に支持させていることから、地震
発生時において、前記両鋼板が水平方向において相対移
動する際には、弾性体が伸びることによる復元力と支持
柱の下端部（摺動部材）と下鋼板との摺動により生じる
摩擦抵抗力とによって、地震の震動エネルギが吸収さ
れ、地震収束後には、前記弾性体の伸びによって生ずる
復元力にて、前記両鋼板が対向した位置関係となり弾性
体に復元力が生じていない中立状態へ復帰させるように
なっている。

【００１０】ところで、この免震装置においては、地震
の揺れを和らげ、振動加速度を低下させるためには、弾
性体の引っ張り剛性があまり大きくないことが重要であ
る。

【００１１】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、そのよ
うな免震装置において、弾性体の引っ張り剛性を細かく
調整することは困難であり、また、調整により引っ張り
剛性を小さくし過ぎた場合には、弾性体の復元力が、支
持柱底部と下側鋼板との摺動による摩擦抵抗力よりも小
さくなる場合があり、そのような力関係が地震収束の段
階で生ずると、弾性体による復元力が作用していても、
中立状態に復帰するまでに、支持柱の下側鋼板に対する
摺動が停止してしまい、上下側鋼板が中立状態に復帰し
なくなるおそれがある。

【００１２】本発明はかかる点に鑑みてなされたもので
あり、地震に対する上部構造物の揺れを抑えるようにし
た免震装置において、地震収束後に中立状態に無理なく
復帰させることを目的とする。

【００１３】

【課題を解決するための手段】請求項ｌの発明は、上部
構造物と基礎との間に設けられ、地震に対する前記上部
構造物の揺れを抑えるようにした免震装置であって、前
記上部構造物に連結される第１の板部材と、前記第１の
板部材の下側に略平行に対向して設けられ、前記基礎に
連結される第２の板部材と、前記両板部材のうち一方の
板部材に基端部が取付固定される一方他方の板部材に先
端部が摺動可能に当接せしめられ、前記両板部材の間隔
を一定に保持する支持柱と、前記第１の板部材に一端部
が、前記第２の板部材に他端部がれぞれ固着され、前記
両板部材が水平方向において相対移動したときに、前記
両板部材が対向する位置関係となる中立状態へ復帰させ
る復元力を発現する弾性体と、前記支持柱と他方の板部
材との間に設けられ、前記両板部材を水平方向において
相対移動させる力が解除されたときに、前記両板部材を
中立状態に復帰させる方向へ支持柱を摺動させるアシス
ト力を付与する復帰アシスト手段とを備えるものであ
る。

【００１４】請求項１の発明によれば、地震発生時に
は、地震の震動エネルギによって、両板部材が水平方向
において相対移動せしめられ、この両板部材の相対移動
によって弾性体が伸ばされると共に、摺動部材の先端部
が他方の板部材に対し相対的に摺動せしめられる。前記
弾性体が伸ばされることによって、前記両部材を、弾性
体が伸びていない、相対移動前の中立状態に復帰させる
復元力が発生する。また、この復元力が、摺動部材の先
端部と他方の板部材との摺動により生ずる摩擦力と共
に、上部構造物の揺れを抑制するための減衰力として作
用する。このため、上部構造物の揺れが抑えられ、地震
収束後は、両板部材を水平方向において相対移動させる
力が解除され、前記弾性体の復元力によって、前記中立
状態に戻される。この際、復帰アシスト手段によって、
両板部材を中立状態に復帰させる方向へ支持柱を摺動さ
せるアシスト力が付与され、弾性体による復元力が小さ
くても、中立状態に復帰することになる。よって、上部
構造物が軽量であっても、有効に免震機能が発揮され
る。

【００１５】ここで、どの方向からの地震力に対しても
同じように免震機能を発揮し、地震収束後は中立状態に
復帰できるように、前記弾性体は、前記両板部材に対し
周方向において均等に設けることが望ましい。

【００１６】請求項２の発明は、請求項１の免震装置に
おいて、前記復帰アシスト手段が、前記他方の板部材に
形成され前記支持柱の先端部が摺動可能に当接する球面
形状若しくは円錐面形状の凹面と、前記支持柱の先端部
に形成され前記凹面に対応する形状の凸面とを有し、前
記凹面は、中立状態で前記支持柱が位置している部分の
深さが最も深くなっているものである。

【００１７】請求項２の発明によれば、他方の板部材に
球面形状若しくは円錐面形状の凹面が形成され、それに
摺動部材の先端部（前記凹面に対応する形状の凸面）が
当接して摺動するようにされ、しかも中立状態で支持柱
が位置している部分の深さが最も深くなっていることか
ら、支持柱を下方に変位させようとする重力によるアシ
スト力により、弾性体による復元力が小さくても、支持
柱の先端部は、凹面に沿って、その深さが最も深い部分
に案内され、結果として、中立状態へ復帰せしめられ
る。

【００１８】請求項３の発明は、請求項１又は２の免震
装置において、前記支持柱が、先端部に、摩擦係数の低
い高分子材料からなる摺動部材を有するものである。

【００１９】請求項３の発明によれば、支持柱の先端部
に、摩擦係数の低い高分子材料からなる摺動部材を設け
ていることから、簡単に、支持柱の先端部において良好
な摺動性が確保される。尚、摺動部材に用いる高分子材
料としては、摩擦係数が低いことに加えて、さらに、圧
縮強さが高く、かつ摺動性の経時変化が少ないことが望
ましい。

【００２０】請求項４の発明は、請求項１、２又は３の
免震装置において、前記弾性体が、筒状のゴム部材であ
り、一端部が第１の板部材に、他端部が第２の板部材に
それぞれ外周部全周に亘って固着され、前記両板部材及
びゴム部材にて閉空間が形成されているものである。

【００２１】請求項４の発明によれば、両板部材が、外
周部全周に亘って筒状のゴム部材にて相互に連結されて
いることから、両板部材がどの方向に相対的に移動し
て、ずれが生じても、筒状のゴム部材がそのずれに応じ
て伸び、復元力が安定して発生することになる。

【００２２】請求項５の発明は、請求項４の免震装置に
おいて、前記閉空間が、液状の粘性材料又は粉状若しく
は粒状の高分子材料からなる減衰剤が充填されているも
のである。

【００２３】請求項５の発明によれば、閉空間に充填さ
れた減衰剤によって、上部構造物の揺れを抑制するため
の減衰力が容易に高められる。また、微小な地震動が発
生したり台風時のように大きな風圧が上部構造物に作用
したりしても、減衰剤の抵抗力により、上部構造物が連
結される第１の板部材の移動が抑制される。よって、上
部構造物の不用意な揺れを抑制しつつ、大きな地震動に
対して確実に免震効果が発揮される。

【００２４】請求項６の発明は、請求項１又は２の免震
装置において、前記支持柱が、基端側部材と、先端側部
材とに分割されており、前記両部材の間に、ユニバーサ
ルジョイントが設けられている。

【００２５】請求項６の発明によれば、支持柱が、基端
側部材と先端側部材との間にユニバーサルジョイントが
設けられた構造となっているので、他方の板部材に当接
する先端側部材がいずれの方向にも動きやすくなり、先
端側部材の他方の板部材に対する摺動性が高められ、復
帰アシスト手段によるアシスト効果が効果的に発揮され
る。

【００２６】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面
に沿って説明する。

【００２７】図ｌ（ａ）（ｂ）（ｃ）は本発明に係る免
震装置１を示し、この免震装置１，１Ｂは、建築物など
の上部構造物と基礎との間に設けられ、地震に対する前
記上部構造物の揺れを抑えるようにしたものであり、個
人住宅などのように上部構造物が軽量である場合にも、
その免震効果を発揮するものである。

【００２８】前記免震装置１，１Ｂは、上部構造物と連
結される板部材である上側鋼板２と、この上側鋼板２の
下側に略平行に対向して設けられ、上下面が水平となる
ように基礎と連結される別の板部材である下側鋼板３と
を備えている。なお、前記上側鋼板２と下側鋼板３と
は、同一径の円板形状とされている。

【００２９】前記上側鋼板２の下面中心部に、下方向に
延びる略円柱状の鋼鉄製柱部材５の上端部が接着又はボ
ルトなどにより取付固定され、その柱部材５の下端部
に、柱部材５と略同じ径の円板形状の摺動部材６が接着
又はボルトなどにより同心状に取付固定され、上側鋼板
２、柱部材５及び摺動部材６が一体化されている。よっ
て、柱部材５と摺動部材６とによって、上側鋼板２に基
端部が取付固定される一方下側鋼板３に先端部（摺動部
材６）が摺動可能に当接せしめられ、前記両鋼板２，３
の間隔を一定に保持する支持柱４が構成されている。

【００３０】前記摺動部材６は、低摩擦係数の高分子材
料からなり、下側鋼板３に対し摺動可能で、地震の水平
力に対し、上側鋼板２を水平方向に移動させる機能を有
するものである。この摺動部材６としては、具体的に
は、圧縮強度が強く、自己潤滑性を有する樹脂（例え
ば、フッ素樹脂）、固体潤滑剤又は補強繊維を混合する
ことにより低摩擦係数化した潤滑性樹脂などが用いられ
る。

【００３１】前記上側鋼板２と下側鋼板３とは、それら
の間に閉空間を形成する円筒状のゴム部材８（弾性体）
にて弾性的に連結されている。すなわち、前記ゴム部材
８の上下両端部内に、上側鋼板２及び下側鋼板３がそれ
ぞれ嵌め込まれ、ゴム部材８の上下両端部が、上側鋼板
２及び下側鋼板３の外周部全周に亘って加硫接着されて
いる。このように加硫接着されることで、ゴム部材８と
上側鋼板２及び下側鋼板３との連結を確実ならしめるの
に加えて、上側鋼板２と下側鋼板３との間の空間を略密
閉状の閉空間とするようになっている。なお、前記ゴム
部材８としては、天然ゴム若しくは合成ゴムを主体とす
る配合ゴム、又はそのいずれかの配合ゴムを繊維で補強
した繊維複合ゴムが用いられる。

【００３２】前記上側鋼板２と下側鋼板３との間に形成
される閉空間には、減衰能力を調整するために、液状の
粘性材料又は粉状若しくは粒状の高分子材料からなる減
衰剤１０が充填されている。なお、減衰剤１０が充填さ
れる前記空間は略密閉状であるので、減衰剤１０が外部
に漏れ出ることがなく、前記減衰剤１０の材質及び使用
量を変えることにより減衰力を調節することができる。

【００３３】前記柱部材５と下側鋼板３との間には、前
記両鋼板２，３を水平方向において相対移動させる力が
解除されたときに、両鋼板２，３を前記中立状態に復帰
させる方向へ支持柱４（摺動部材６）を摺動させるアシ
スト力を付与する復帰アシスト手段が設けられている。

【００３４】この復帰アシスト手段は、免震装置１の場
合は、図１（ｂ）に示すように、前記摺動部材６が摺動
する下側鋼板３の上面に形成され、曲率半径が一定で中
心部の深さが最も深い球面形状の凹面３ａ（くぼみ）
と、摺動部材６（支持柱４）の下端面に形成され、前記
凹面３ａに対応する球面形状の凸面６ａとを有し、前記
上側鋼板２及び下側鋼板３が上下において対向する位置
関係となる中立状態（ゴム部材８による復元力が作用し
ていない）においては、支持柱４（摺動部材６）が、前
記凹面３ａの最も深さが深い中心部に位置させるように
構成されている。また、図１（ｃ）に示す免震装置１′
のように、球面形状の凹面３ａと凸面６ａに代えて、円
錐面形状の凹面３ｂと凸面６ｂとすることもできる。こ
の場合は、円錐面形状の凹面３ｂに凸面６ｂの一部が接
触した状態で相対的に摺動するようになる。

【００３５】このように、摺動部材６の下端面と下側鋼
板３の上面とを構成することで、地震収束後に、ゴム部
材８の変形による復元力に加えて、凹面３ａ，３ｂと凸
面６ａ，６ｂとの係合関係で、中立状態へ復帰させる方
向への重力によるアシスト力が作用するため、ゴム部材
８の変形による復元力が小さくても、支持柱４の中立状
態への摺動がアシストされて、支持柱４（摺動部材６）
が最も深さが深い中心部に移動せしめられ、中立状態に
無理なく復帰せしめられることになる。

【００３６】前記摺動部材６の凸面６ａの曲率半径は、
良好な摺動性を確保するために、凹面３ａの曲率半径と
同一かあるいはそれ以下とすることが望ましい。また、
前記下側鋼板３の凹面３ａの球面の曲率半径や凹面３ｂ
の円錐面の傾きを変化させることで、摺動部材６の摺動
による上側鋼板２及び支持柱４の復元力を調整すること
ができる。さらに、前記摺動部材６の凸面６ａ，６ｂが
凹面３ａ，３ｂ上を上昇する際に発生する（重力に対す
る）抵抗力が免震装置１，１′に減衰力を付加すること
になるので、この減衰力の調整も、凹面３ａの球面の曲
率半径や凹面３ｂの円錐面の傾きを調整することでなさ
れる。

【００３７】続いて、上記免震装置１の動作について説
明する。

【００３８】前記免震装置１は、例えば図２に示すよう
に、個人住宅である軽量の上部構造物２１の四隅に位置
する各柱２２と基礎２３との間にそれぞれ設けられるも
のであるが、そのように設けた場合には、上部構造物２
１及びそれに連結された上側鋼板２は、支持柱４によっ
て支持されることとなる。よって、両鋼板２，３の間隔
は支持柱４にて一定に保持され、両鋼板２，３の相対移
動の際に、上部構造物を上下移動させることはない。こ
こで、摺動部材６は、前述したように圧縮強さが高くか
つ摩擦係数が低い潤滑性樹脂を用いているので、経年劣
化により上部構造物２１の高さが変化するということは
ない。

【００３９】また、微小な地震動が発生したり、台風時
のように大きな風圧が上部構造物２１に作用したりして
も、減衰剤１０の抵抗力により上部構造物２１及び上側
鋼板２の移動が抑制される。すなわち、減衰剤１０によ
って、上部構造物に日常的に作用する風力などには反応
せず、大きな地振動に対して、はじめて免震効果を発揮
することになる。

【００４０】さらに、前記支持柱４は、上側鋼板２の下
面中心部に配置されているので、その上側鋼板２の中心
部に、上部構造物２１の荷重が各柱２２を介して作用す
るように上側鋼板２１と各柱２２とを連結するようにす
れば、上部構造物２１が安定して支持されると共に、地
震発生時にどの方向に地震力を受けても、上側鋼板２は
下側鋼板３に対してスムーズに相対移動することにな
る。

【００４１】このように、上側鋼板２が下側鋼板３に対
して水平方向においていずれかの方向に相対移動する
と、前述した減衰剤１０による減衰力が発生するが、そ
のほか、上側鋼板２に対して支持柱４（柱部材５及び摺
動部材６）は一体的に結合されていることから、摺動部
材６が下側鋼板３の上面を摺動して摩擦抵抗力を発生す
ると共に、ゴム部材８が伸びて上側鋼板２を移動前の位
置に復帰させる復元力を発生する。この場合、ゴム部材
８は、円筒形状で、上側鋼板２が下側鋼板３に対して水
平方向においてどの方向に移動したときにも、同様な復
元力が発生するので、どの方向からの地震力に対しても
同様に機能することになる。

【００４２】それに加えて、前記摺動部材６の摺動の際
には、凸面６ａ，６ｂが下側鋼板３の凹面３ａ，３ｂ上
を上昇し、その際に重力に対する抵抗力が生じる。

【００４３】その結果、前記ゴム部材８による復元力
が、摺動部材６が摺動する際に生ずる摩擦抵抗力、減衰
剤１０による変形抵抗力と共に、上部構造物の揺れを抑
制する減衰力として作用するが、それに加えて、凸面６
ａ，６ｂと凹面３ａ，３ｂとの関係から生ずる重力に対
する抵抗力も減衰力として付加されるので、免震効果が
より高められ、上部構造物を上下移動させることなく、
上部構造物の揺れをが抑制され、構造物内部に設置した
ものが倒れたりするのが防止される。ここで、ゴム部材
８の復元力及び減衰剤１０の抵抗力並びに上側鋼板２の
最大水平移動量は、ゴム部材８の材質、大きさ、断面形
状などや減衰剤１０の材質、使用量などをそれぞれ変え
ることにより調整することができるので、上部構造物２
１の重さに応じて最適値に設定することができる。

【００４４】また、万一、予想以上に震度の大きな地震
が発生したとしても、摺動部材６がゴム部材８の内周面
に当接することとなるので、上側鋼板２の過大な移動が
抑制される。

【００４５】そして、地震収束後は、前記ゴム部材８に
よる復元力によって、両鋼板２，３は中立位置に戻され
ることになるが、摺動部材６の凸面６ａ，６ｂは、下側
鋼板３の凹面３ａ，３ｂ内において上方に摺動により移
動していることから、重力により下方に移動させようと
する復元力（アシスト力）も作用し、ゴム部材８による
復元力が小さくても、摺動部材６が摺動して、最も深さ
が深い中心部分に復帰することとなり、中立状態に戻さ
れる。

【００４６】従って、個人住宅などのように、上部構造
物が軽量であっても、効果的に免震機能を発揮させるこ
とができると共に、構造を簡略化しつつ、免震効果の優
れた免震装置１が得られる。

【００４７】続いて、前記免震装置１を使用して、免震
効果を確認した試験について説明する。

【００４８】４つの免震装置１を作製し、この免震装置
を、図２に示すように、個人住宅である上部構造物２１
の四隅に位置する各柱２２と基礎２３との間に設け、こ
の基礎２３に対し水平方向に振動を加えて揺らすことが
できる構造とする。ここで、免震装置１の水平方向バネ
定数は４５ｋｇｆ／ｃｍ、水平方向減衰係数は３４ｋｇ
ｆ・ｓ／ｃｍとした。また、上部構造物２１の重量は、
一般の木造住宅と略同一である約４０ｔとした。

【００４９】そして、前記基礎２３に対して、水平方向
に、兵庫県南部地震で観測された地震波を入力して上部
構造物２１の振動減衰効果を調べたところ、上部構造物
２１の水平方向の最大加速度は約１／４に低減し、免震
効果が十分に発揮されていることが確認された。

【００５０】また、前記免震装置１を、図３に示すよう
に、免震床に適用した場合、つまり免震装置１を、軽量
の上部構造物としての床部材２６と基礎２３との間の四
隅に設けた場合も十分な免震効果が得られ、建築物内部
の精密機械室や電算機室などにおける免震床に適用でき
ることが判明した。

【００５１】以上の説明において、本発明の実施の形態
の一例について説明しているが、本発明は、それに限定
されるものではなく、以下に説明するように種々の変更
が可能である。

【００５２】(１)前記実施の形態においては、下側鋼板
３の上面と支持柱４（摺動部材６）の下面とを対応する
球面形状若しくは円錐面形状の凹凸面とすることで、中
立状態へ復帰する重力によるアシスト力を付与するよう
にしているが、さらに、図４（ａ）（ｂ）（ｃ）に示す
免震装置１Ａ，１Ａ′のように、摺動部材６とで支持柱
４Ａを構成する柱部材３１を、基端側部材３１ａと、先
端側部材３１ｂとに２分割し、該両部材３１ａ，３１ｂ
の間に、ユニバーサルジョイント３２を設けることで、
先端側部材３１ｂ（摺動部材６）がユニバーサルジョイ
ント３２の部位を中心として揺動しやすくして、両鋼板
２，３の相対移動に伴い、摺動部材６の凸面６ａ，６ｂ
が下側鋼板３の凹面３ａ，３ｂの上をよりスムーズに摺
動させるようにすることも可能である。ここで、ユニバ
ーサルジョイント３２は、先端側部材３１ｂ（摺動部材
６）が下側鋼板６の球面形状若しくは円錐面状の凹面３
ａ，３ｂ上を無理なく摺動できるように、前記凹面３
ａ，３ｂの中心に配置され、先端側部材３１ｂの回転中
心が球面形状の凹面３ａ，３ｂの中心と略一致するよう
にすることが望ましい。

【００５３】(２)前記実施の形態においては、上側鋼板
２に柱部材５の上端部を接着又はボルトなどにより取付
固定し、その柱部材５の下端部に摺動部材６を接着又は
ボルトなどにより取付固定するようにしているが、上側
鋼板２と柱部材５とを一体的に形成することもできる
し、また、柱部材５と摺動部材６とを、摺動性を発揮で
きる材料で一体的に形成し、摺動部材を省略して、支持
柱そのものが摺動性を有するようにすることも可能であ
る。

【００５４】(３)前記実施の形態においては、支持柱４
を、柱部材５の下端部に摺動部材６を取付固定すること
で構成するようにしているが、支持柱４側に摺動部材を
設けることなく、下側鋼板３と略同じ大きさの摺動部材
を下側鋼板３の上面に取付固定し、支持柱４の下端部が
その摺動部材の上面を摺動するようにすることもでき
る。

【００５５】(４)前記実施の形態においては、支持柱４
を上側鋼板２の下面中心部に取付固定するようにしてい
るが、それとは逆に、支持柱を下側鋼板３の上面中心部
に取付固定するようにし、前記摺動部材と上側鋼板の下
面との間で、前述したものと同様な摺動が生ずるように
することもできる。

【００５６】(５)前記実施の形態においては、摺動部材
６として摩擦係数の低い高分子材料を用いているが、上
側鋼板２を確実に支持しかつ摺動性が良好なものであれ
ば、金属材料を用いることもできる。

【００５７】(６)前記実施の形態においては、支持柱４
を、上側鋼板２の下面中心部に取付固定するようにして
いるが、支持柱がゴム部材８に当接するまでの距離が大
きい場合には、上側鋼板２の下面の他の部位に支持柱を
取付固定することもできる。

【００５８】(７)前記実施の形態においては、下側鋼板
３の凹面を、曲率半径が一定の球面形状や傾きが一定の
円錐面形状にしているが、支持柱４の先端部を構成する
摺動部材６が滑らかに摺動する形状であればよく、ま
た、滑らかに変化するスプライン曲面や円錐状凹面とす
ることもできる。さらに、複数の円錐面の組み合わせに
より滑らかに変化する凹面としてもよい。

【００５９】(８)前記実施の形態においては、ゴム部材
８で覆われた上側鋼板２及び下側鋼板３間の閉空間に、
大きな減衰力が得られるように、液状の粘性材料又は粉
状若しくは粒状の高分子材料からなる減衰剤１０を充填
するようにしているが、このような減衰剤１０を充填す
ることは必ずしも必要ではなく、摺動部材６の材質や表
面粗さなどの調整により下側鋼板３に対する摩擦係数を
変えてその摩擦力を調整することで対応することも可能
である。

【００６０】(９)前記実施の形態においては、弾性体と
してのゴム部材８の上下端部を上側鋼板２及び下側鋼板
３に加硫接着しているだけであるが、それらをより一層
強固に結合するために、ゴム部材８の上下両端部を、そ
れぞれ、金属や繊維で補強した締付バンドにより、上側
鋼板２及び下側鋼板３の外周面に対して締め付けるよう
にしてもよい。

【００６１】(１０)前記実施の形態においては、弾性体
としてのゴム部材８として、一様厚さのものを用いてい
るが、肉厚が変化するものを用いることもできる。例え
ば、ゴム部材を、上下両端部近傍に上下方向中央と反対
側に向かって肉厚が厚く変化する肉厚変化部を有し、前
記肉厚変化部が、薄肉部から厚肉部に向かって滑らかに
変化する形状とすれば、ゴム部材の上下両端部の肉厚を
上下方向中央部よりも厚くすることで、ゴム部材と上側
鋼板及び下側鋼板との接合を容易かつ確実に行いつつ所
定の復元カが得られる形状にすることができるととも
に、肉厚変化部を滑らかに変化する形状とすることで、
応カ集中を緩和しつつ所定の復元力を確保して、長期間
に亘って免震性能を確保することが可能となる。

【００６２】(１１)前記実施の形態においては、弾性体
として円筒状のゴム部材８を用いているが、それに代え
て、上側鋼板及び下側鋼板の外周部間に周方向に略等間
隔をあけて掛け渡された複数のコイルばねを用い、上側
鋼板が下側鋼板に対して水平方向においてどの方向に移
動してもコイルばね全体で略同じ復元カを発生させるよ
うにすることも可能である。

【００６３】(１２)前記実施の形態においては、第１及
び第２の板部材として円形状の鋼板を用いているが、強
化プラスチックなどの高剛性材料からなる円形状の板を
使用してもよく、また、板部材の形状も、円形状に限ら
れることなく、多角形状とすることもできる。

【００６４】(１３)前記実施の形態においては、予想以
上に震度の大きな地震が発生した場合には、支持柱４が
ゴム部材８の内周面に当接することで、上側鋼板２の過
大な相対移動を抑制するようにしているが、ゴム部材８
の伸び量が所定値よりも大きくなったときに、伸び量に
対する復元力の増加割合が、伸び量が前記所定値以下の
ときよりも大きくなる（線形領域から非線形領域に入
る）ようにゴム部材８の材料などを設定することでも、
上側鋼板２の予想を超える大きな相対移動を防止するこ
とができる。

【００６５】

【発明の効果】本発明は、以上説明したような形態で実
施され、以下に述べるような効果を奏する。

【００６６】請求項１の発明は、上下に互いに対向して
設けられた１対の板部材のうちの一方の板部材にそれら
の間隔を一定に保持する支持柱の基端部を取付固定する
一方その先端部を他方の板部材に摺動可能に当接せし
め、前記両板部材を、それら水平方向に相対移動したと
きに、それらが中立状態に復帰させる復元力を発現する
弾性体により連結するという簡単な構成にしたので、個
人住宅などの軽量の上部構造物であっても、上下変動さ
せることなく、免震機能を有効に発揮することができ、
小形・軽量で、施工作業性、コストダウンを図ることが
できる。それに加えて、両板部材を水平方向において相
対移動させる力が解除されたときに、両板部材を中立状
態に復帰させる方向へ支持柱を摺動させるアシスト力を
付与する復帰アシスト手段を設けているので、地震収束
後は、復帰アシスト手段によるアシスト力を、弾性体な
どによる復元力に付加して、中立状態にスムーズに復帰
させることができる。

【００６７】請求項２の発明は、他方の板部材に球面形
状若しくは円錐面形状の凹面を形成し、その上を支持柱
の先端部（前記凹面に対応する形状の凸面）が摺動する
ようにしているので、簡単な構造で、弾性体による復元
力が小さくても、地震収束後に、重力によるアシスト力
を利用して、中立状態に無理なく復帰させることができ
る。

【００６８】請求項３の発明は、支持部材の先端部に、
摩擦係数の低い高分子材料からなる摺動部材を設けてい
るので、摺動部材を設けるという簡単な構造で、摺動性
を安定して確保することができる。

【００６９】請求項４の発明は、弾性体を筒状のゴム部
材とし、該ゴム部材によって両板部材を外周部全周に亘
って連結するようにしているので、地震力の方向に左右
されずに、復元力を確保することができる。また、この
ようなゴム部材は、低コストで容易に作製することがで
きる。

【００７０】請求項５の発明は、ゴム部材で覆われた両
板部材間の閉空間に、液状の粘性材料又は粉状若しくは
粒状の高分子材料からなる減衰剤を充填しているので、
減衰剤の調整により、上部構造物に日常的に作用する風
力などには反応せず、大きな地震動に対して、はじめて
免震効果を発揮させるトリガー効果を持たせることが可
能となる。

【００７１】請求項６の発明は、支持柱を基端側部材と
先端側部材とに分割し、該両部材の間にユニバーサルジ
ョイントを設けたので、復帰アシスト手段によるアシス
ト力を無理なく作用させることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】（ａ）（ｂ）は本発明に係る免震装置を示す平
面図及び断面図、（ｃ）は他の実施の形態を示す断面図
である。

【図２】免震装置を個人住宅に適用した状態を示す説明
図である。

【図３】免震装置を免震床に適用した状態を示す概賂図
である。

【図４】（ａ）（ｂ）は本発明に係る免震装置の変形例
を示す平面図及び断面図、（ｃ）は他の実施の形態の変
形例を示す断面図である。。

【図５】従来の免震支承ゴムタイプの免震装置を示し、
（ａ）は平面図、（ｂ）は断面図である。

【符号の説明】

１，１′ 免震装置 １Ａ，１Ａ′ 免震装置 ２ 上側鋼板 ３ 下側鋼板 ３ａ，３ｂ 凹面 ４，４Ａ 支持柱 ５ 柱部材 ６ 摺動部材 ６ａ，６ｂ 凸面 ８ ゴム部材（弾性体） １０ 減衰剤 ２１ 上部建築物 ２３ 基礎 ３１ 柱部材 ３１ａ 基端側部材 ３１ｂ 先端側部材 ３２ ユニバーサルジョイント

Claims (6)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 上部構造物と基礎との間に設けられ、地
   震に対する前記上部構造物の揺れを抑えるようにした免
   震装置であって、 前記上部構造物に連結される第１の板部材と、 前記第１の板部材の下側に略平行に対向して設けられ、
   前記基礎に連結される第２の板部材と、 前記両板部材のうち一方の板部材に基端部が取付固定さ
   れる一方他方の板部材に先端部が摺動可能に当接せしめ
   られ、前記両板部材の間隔を一定に保持する支持柱と、 前記第１の板部材に一端部が、前記第２の板部材に他端
   部がれぞれ固着され、前記両板部材が水平方向において
   相対移動したときに、前記両板部材が対向する位置関係
   となる中立状態へ復帰させる復元力を発現する弾性体
   と、 前記支持柱と他方の板部材との間に設けられ、前記両板
   部材を水平方向において相対移動させる力が解除された
   ときに、前記両板部材を中立状態に復帰させる方向へ支
   持柱を摺動させるアシスト力を付与する復帰アシスト手
   段とを備えることを特徴とする免震装置。
2. 【請求項２】 前記復帰アシスト手段は、前記他方の板
   部材に形成され前記支持柱の先端部が摺動可能に当接す
   る球面形状若しくは円錐面形状の凹面と、前記支持柱の
   先端部に形成され前記凹面に対応する形状の凸面とを有
   し、前記凹面は、中立状態で前記支持柱が位置している
   部分の深さが最も深くなっている請求項１記載の免震装
   置。
3. 【請求項３】 前記支持柱は、先端部に、摩擦係数の低
   い高分子材料からなる摺動部材を有する請求項１又は２
   記載の免震装置。
4. 【請求項４】 前記弾性体は、筒状のゴム部材であり、
   一端部が第１の板部材に、他端部が第２の板部材にそれ
   ぞれ外周部全周に亘って固着され、前記両板部材及びゴ
   ム部材にて閉空間が形成されている請求項１、２又は３
   記載の免震装置。
5. 【請求項５】 前記閉空間は、液状の粘性材料又は粉状
   若しくは粒状の高分子材料からなる減衰剤が充填されて
   いる請求項４記載の免震装置。
6. 【請求項６】 前記支持柱は、基端側部材と、先端側部
   材とに分割されており、前記両部材の間に、ユニバーサ
   ルジョイントが設けられている請求項１〜５のいずれか
   に記載の免震装置。