JPH11222648A - 靱性,耐摩耗性に優れた冷間工具鋼及びその製造方法 - Google Patents

靱性,耐摩耗性に優れた冷間工具鋼及びその製造方法

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JPH11222648A
JPH11222648A JP3417398A JP3417398A JPH11222648A JP H11222648 A JPH11222648 A JP H11222648A JP 3417398 A JP3417398 A JP 3417398A JP 3417398 A JP3417398 A JP 3417398A JP H11222648 A JPH11222648 A JP H11222648A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】靱性,耐摩耗性の改善された冷間工具鋼及びそ
の製造方法を提供する。 【解決手段】冷間工具鋼の組成を、重量%で、C:0.
5〜0.8%,Si:≦1.0%,Mn:0.25〜
1.50%,Cr:4.0〜8.0%,Mo:1.0〜
5.0%,V:0.1〜1.0%を含有し、残部実質的
にFeから成る組成とする。また冷間工具鋼の製造に際
して、上記組成の鋼塊を1100〜1300℃の温度で
加熱保持する固溶化熱処理を施す。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は冷間用金型,切れ
刃,掘削刃,ロール等の用途に用い得る靭性,耐摩耗性
に優れた冷間工具鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、
加工対象材(被加工材)の種類,材質等に応じて各種の
冷間工具鋼が用いられてきたが、近年加工の精密化,加
工速度の高速化等に伴い、従来の冷間工具鋼では求めら
れる特性を十分に満たし得なくなって来ている。
【0003】従来の冷間工具鋼、例えばSKD11の場
合、早期に欠け,剥離,焼付き等が発生してしまい、加
工を精密に行う上で、また耐久寿命の上で不十分となっ
て来ている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本願の発明はこのような
事情を背景としてなされたものである。而して請求項1
は冷間工具鋼に係り、重量%で、C:0.5〜0.8
%,Si:≦1.0%,Mn:0.25〜1.50%,
Cr:4.0〜8.0%,Mo:1.0〜5.0%,
V:0.1〜1.0%を含有し、残部実質的にFeから
成ることを特徴とする。
【0005】請求項2の冷間工具鋼は、重量%で、C:
0.5〜0.8%,Si:≦1.0%,Mn:0.25
〜1.50%,Cr:4.0〜8.0%,Mo:1.0
〜5.0%,V:0.1〜1.0%、並びにW,Ni,
Nbの何れか一種又は二種以上を、W:≦2.5%,N
i:<1.0%,Nb:0.2〜2.0%の範囲で含有
し、残部実質的にFeから成ることを特徴とする。
【0006】請求項3は冷間工具鋼の製造方法に係り、
請求項1又は2の組成の鋼塊を1100〜1300℃の
温度で加熱保持する固溶化処理を施すことを特徴とす
る。
【0007】
【作用及び発明の効果】一般に冷間工具鋼においては、
鋼塊の造塊時に晶出した粗大な一次炭化物が残存してい
る。従来の冷間工具鋼の場合、その粗大な一次炭化物が
耐摩耗性に利用されてきた。
【0008】しかしながら一方で鋼中にそのような粗大
な一次炭化物があると靭性が阻害されてしまう。例えば
掘削刃や圧延加工に用いられるロール等の場合、使用条
件によって上記一次炭化物による耐摩耗性よりも靭性不
足からくる折損が特に問題となることがある。
【0009】工具の摩耗態様は必ずしも一様ではなく、
相手材(被加工材)の硬さ等に応じて異なったものとな
る。例えば被加工材が比較的軟らかい材料である場合、
工具と被加工材との凝着に起因する摩耗(凝着摩耗)が
支配的となる。
【0010】このような態様の摩耗に対しては一次炭化
物に起因する耐摩耗性はそれほど寄与せず、むしろ一次
炭化物の存在による靭性低下に基づく折損が問題となる
のであり、また一次炭化物がそのような形態の摩耗に対
してそれほど働かないことから、全体としての耐摩耗性
が不足してしまう。
【0011】そこでこのような粗大な一次炭化物を鋼中
から無くすことが考えられるが、単に一次炭化物を無く
しただけでは冷間工具鋼に求められる耐摩耗性の要求を
満たすことができない。
【0012】ここにおいて本発明は、鋼塊の造塊時に生
じた一次炭化物が焼入れ,焼戻し後に残存しないように
若しくは極微量となるようにC量を低量とし、また、炭
化物を形成するCr,Mo,V等の各成分量を適正化し
たもので、本発明の冷間工具鋼の場合、最終的に残存す
る粗大な一次炭化物をゼロ若しくは1%以下の微量とな
し得、以って冷間工具鋼の靭性を高め得てその強度,耐
久性を効果的に高めることができる。
【0013】また造塊時に晶出した一次炭化物を、その
後の処理によって微細な二次炭化物として再析出させ
得、その二次炭化物による二次硬化によって耐摩耗性、
特に上記凝着摩耗に対する耐摩耗性を確保することがで
きる。このような凝着摩耗に対しては一次炭化物よりも
むしろその後に晶出する微細な二次炭化物析出による二
次硬化が効果的に働く。
【0014】本発明においては、必要に応じてW,N
i,Nbの一種若しくは二種以上を上記範囲で含有させ
ることができる(請求項2)。尚W,Ni,Nbを含有
させる場合において、W≧0.5%,Ni:≧0.5%
とすることが望ましい。
【0015】請求項3の製造方法は、冷間工具鋼を製造
するに際し、熱間加工の前の段階で若しくは熱間加工の
途中の段階又は熱間加工の後の段階で、即ち最終的に冷
間工具鋼を得る過程の何れかの段階で1100〜130
0℃の温度で加熱保持する固溶化処理を施すもので、こ
のような処理を施すことで、鋼塊の造塊時に晶出した粗
大な一次炭化物を、高温域でオーステナイト単相域とし
てマトリックス中にほぼ完全に固溶させることができ、
最終的に冷間工具鋼中における一次炭化物をゼロないし
1%以下とすることができる。また併せて冷却過程で微
細な二次炭化物を晶出させ得、耐摩耗性向上に寄与せし
めることができる。
【0016】ここで焼入れ,焼戻し後の微細炭化物の二
次析出による二次硬化に寄与するのは主としてMC炭化
物である。MC炭化物は他の炭化物(M73,M6C)
に比べて非常に硬度が高く、耐摩耗性に有効である。こ
のMC炭化物はC,Cr,Mo等の適正化により、また
一次炭化物の完全固溶により析出し易くなる。
【0017】次に本発明における各化学成分及び製造条
件の限定理由を以下に詳述する。 C:0.5〜0.8% Cは基地の硬さを高めるとともに二次炭化物を形成して
二次硬化させるための重要な元素である。Cが0.5%
より少ないと基地の硬さが低下し、冷間工具鋼として要
求される耐摩耗性が不足してしまう。逆に0.8%を越
えると鋼塊を熱間加工する前後の何れかの段階で110
0〜1300℃の温度で加熱保持する固溶化処理をした
時に一次炭化物が残存してしまい、靭性の低下を招いて
しまう。
【0018】Si:≦1.0% Siは脱酸材として、また焼戻し軟化抵抗を高める上
で、更に耐摩耗性や耐へたり性を高める上で有用であ
る。但し1.0%を越えて添加すると基地の靭性が低下
する。またオーステナイト単相域が少なくなるので、固
溶化処理の温度管理条件が厳しくなる。
【0019】Mn:0.25〜1.50% Mnは脱酸材として、また焼入れ性を向上させて基地を
強化する上で有用である。但し0.25%より少ないと
効果がなく、逆に1.50%を越えると熱間加工性を阻
害してしまう。
【0020】Cr:4.0.〜8.0% Crは基地中に固溶して軟化抵抗を高める。また焼入れ
性を向上させ、析出物として鋼の硬さを向上させる効果
がある。その効果は4.0%以上の添加で現れる。しか
し8.0%を越えて添加すると、凝固時の一次炭化物が
増加し、固溶化処理での固溶が困難となる。
【0021】Mo:1.0〜5.0% Moは焼戻し軟化抵抗を向上させる効果がある。但し
5.0%を越えると凝固時に形成される一次炭化物が増
大し、固溶化処理時のM6CやM2C型の一次炭化物の固
溶化が困難となる。一方1.0%より少ないとMo添加
の効果が得られない。
【0022】V:0.1〜1.0% VはCと結合し、焼戻し時にMC型の二次炭化物を発生
させて二次硬化に寄与し、耐摩耗性を高める。また耐焼
付き性を向上させるとともに結晶粒微細化の効果があ
る。但し1.0%を越えると凝固時に形成される一次炭
化物が増大し、固溶化処理時のMC型の一次炭化物の固
溶化が困難となる。逆に0.1%より少ないとV添加の
効果が得られない。
【0023】Nb:0.2〜2.0% NbはCと結合してMC型の二次炭化物を焼戻し時に発
生させ二次硬化に寄与する。また結晶粒微細化の効果が
ある。但し2.0%を越えると凝固時に晶出する一次炭
化物が増大し、固溶化処理時の一次炭化物の固溶化が困
難となる。一方0.2%より少ないとNb添加による効
果が期待できない。
【0024】W:≦2.5% Wは焼戻し軟化抵抗を向上させる。但し2.5%を越え
ると凝固時に形成される一次炭化物が増大し、凝固時に
晶出するM6CやM2C型の一次炭化物の、固溶化処理で
の固溶が困難になる。このWの含有量は0.5%以上と
することが望ましい。これよりも少ないとW添加による
十分な効果が得られ難い。
【0025】Ni:<1.0% Niは基地に固溶して靭性を高める効果がある。但し
1.0%以上含有させてもその割に効果が小さく、経済
的に不利であり、また切削性が劣化する。Niは、これ
を積極的に添加する場合において0.5%以上とするこ
とが望ましい。
【0026】1100〜1300℃での加熱保持による
固溶化処理 この固溶化処理は鋳造時(造塊時)に晶出した一次炭化
物をオーステナイト単相域で固溶させて拡散晶出させる
もので、この場合1100℃より低い温度では固溶化処
理の効果が小さく、長時間の処理を必要として不経済で
ある。逆に1300℃を超える温度では炭化物の液相線
を越え、液体化する可能性が高い。また炉の損傷等を招
いて不経済である。
【0027】但しこの固溶化処理の温度はオーステナイ
ト単相域を外れないよう鋼材の炭化物の液相線等により
個別に決定される。また処理時間は一次炭化物の大き
さ,デンドライト間隔等により適宜決定されるが、概ね
5〜30時間の処理時間が実用的には適当である。
【0028】この固溶化処理においては、残存する一次
炭化物を1%以下とすることが望ましい。この固溶化処
理では、造塊時に生じた一次炭化物を完全固溶すること
が望ましいが、実用的には1%以下でも十分な靭性を確
保することができる。
【0029】但し本発明ではC量を低量化しているた
め、固溶化処理時において一次炭化物が1%を越えて多
く残存すると、その後の冷却過程での二次硬化に有効に
寄与するCの不足を招く。また一次炭化物中に合金元素
が濃化するため、二次硬化に寄与する合金元素の不足を
招く。これらの理由によって、固溶化処理に際し一次炭
化物を1%以下とすることが望ましい。
【0030】
【実施例】次に本発明の実施例を以下に詳述する。表1
に示す組成材を高周波誘導加熱にて200kg溶解し、
100〜120mmφの鋼塊とした。次に表面の黒皮を
切削除去した後、真空炉で表2に示す温度,時間で固溶
化処理を行い、その後85mm(巾)×22mm(厚
み)の板に鍛造した。そしてこれを870℃で3時間保
持後、15℃/時の冷却速度で600℃まで冷却し、そ
の後空冷の条件で焼鈍し処理を行って軟化させた。
【0031】
【表1】
【0032】そしてこれよりシャルピー衝撃試験片,大
越式摩耗試験片を、それぞれ長手方向に対して直角方向
より採取して粗加工を行った後、表2の条件で焼入れ,
焼戻し処理を行い、続いて精加工して試験に供した。結
果が表2に示してある。尚焼入れ,焼戻し処理,シャル
ピー衝撃試験,大越式摩耗試験は以下の条件に従って行
った。
【0033】<焼入れ,焼戻し処理> 焼入れ,焼戻し温度:表2に示す温度 焼入れ条件:焼入れ温度に30分保持後油冷 焼戻し条件:焼戻し温度に1時間保持後空冷する処理を
2回繰り返した
【0034】<シャルピー衝撃試験>10×10×55
mm,10Rノッチのシャルピー衝撃試験片にてシャル
ピー衝撃値を求めた。
【0035】<大越式摩耗試験>試験用のローター(相
手材)10及び試験片12を図1に示す形状に作成し
た。尚ローター(相手材)10はSCM415の焼鈍し
材(硬さHV150)を使用し、また試験片12は焼入
れ,焼戻し後に図1a)に示す形状に加工した。ここで
試験片12は#400のエメリー紙で研磨仕上げしたも
のを使用した。そして図1に示す試験条件、即ちすべり
速度2.37m/sec,摩擦距離200m,荷重6
4.7Nの下で大越式摩耗試験を実施し、摩耗量を摩耗
痕の幅から算出し摩耗量を求めた。
【0036】
【表2】
【0037】尚、表2中発明例12は発明例1の組成の
鋼を固溶化処理しなかったものであり、また比較例13
は発明例1に対してC量を高くしたもので、残存一次炭
化物が増大している。また比較例14,15は従来用い
られている冷間工具鋼であり、この内比較例14は代表
鋼種SKD11である。表2中の比摩耗量は、この比較
例14の摩耗量を基準として(1として)求めたもので
ある。
【0038】表2の結果から明らかなように比較例1
4,比較例15の場合一次炭化物量が多く、靱性が劣っ
ている。また比較例13のものは、C量が多いことに伴
って比較例14,比較例15程ではないが一次炭化物の
量が多く、これに伴って低い靱性値を示している。
【0039】一方発明例12は、組成的には本発明の条
件を満たしているが、このものは固溶化処理を施してお
らず、そのために一次炭化物の量が固溶化処理を行った
ものに比べて高い値を示している。そしてこれに伴って
靱性値が他の本発明例のものに比べて低い値を示してい
る。
【0040】これに対してそれ以外の本発明例のもの
は、それぞれ固溶化処理によって一次炭化物量が何れも
1.0%以下と少なく、靱性値も高い値を示している。
更に低C量にも拘らず、摩耗試験での摩耗量は比較例の
ものに比べて殆ど多くなっていない。
【0041】以上本発明の実施例を詳述したがこれはあ
くまで一例示であり、本発明はその主旨を逸脱しない範
囲において、種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の効果を確認するために行っ
た摩耗試験の条件を説明するための説明図である。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で C :0.5〜0.8% Si:≦1.0% Mn:0.25〜1.50% Cr:4.0〜8.0% Mo:1.0〜5.0% V :0.1〜1.0% を含有し、残部実質的にFeから成ることを特徴とする
    靭性,耐摩耗性に優れた冷間工具鋼。
  2. 【請求項2】重量%で C :0.5〜0.8% Si:≦1.0% Mn:0.25〜1.50% Cr:4.0〜8.0% Mo:1.0〜5.0% V :0.1〜1.0% 並びにW,Ni,Nbの何れか一種又は二種以上を W :≦2.5% Ni:<1.0% Nb:0.2〜2.0% の範囲で含有し、残部実質的にFeから成ることを特徴
    とする靭性,耐摩耗性に優れた冷間工具鋼。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2の組成の鋼塊を1100
    〜1300℃の温度で加熱保持する固溶化処理を施すこ
    とを特徴とする靭性,耐摩耗性に優れた冷間工具鋼の製
    造方法。
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