JPH11117017A - マルエージング鋼の浸炭表面硬化方法 - Google Patents

マルエージング鋼の浸炭表面硬化方法

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JPH11117017A JP29504297A JP29504297A JPH11117017A JP H11117017 A JPH11117017 A JP H11117017A JP 29504297 A JP29504297 A JP 29504297A JP 29504297 A JP29504297 A JP 29504297A JP H11117017 A JPH11117017 A JP H11117017A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 マルエージング鋼の疲労強度等の強度を向上
させる。 【解決手段】 マルエージング鋼の浸炭表面硬化方法
は、マルエージング鋼の時効析出処理の際に該時効析出
の処理温度下、即ち450〜500℃で浸炭処理を行
う。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルエージング鋼
の表面を硬化する熱処理方法に関する。さらに詳述する
と、本発明はマルエージング鋼を浸炭処理により表面硬
化する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】マルエージング鋼は超強靱鋼の一種とし
て現在最強の材料であり、航空機や圧力容器等の各種機
械構造の最重要部分に使用されている。このマルエージ
ング鋼は、特に自動車の無段変速機のエンドレス金属ベ
ルト(いわゆるバンドールネ金属ベルト)に使用される
ことにより自動車の燃費の向上に大きく貢献する。
【0003】マルエージング鋼では、例えば約800℃
で溶体化処理後、450〜500℃で1〜4時間程度の
時効析出処理が行うことにより材質の強靭化を図ってい
る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述し
た時効析出処理されたマルエージング鋼では、使用目的
によっては疲労強度が不十分である場合がある。例えば
このマルエージング鋼製のエンドレス金属ベルトを組み
込んだ無段変速機を排気量1600cc以上の大型エン
ジンに使用しようとしてもエンドレス金属ベルトの疲労
強度が不十分であるので使用することができない。この
ような大型エンジンに無段変速機を使用することにより
大型車の燃費を30%以上向上できるので、マルエージ
ング鋼の疲労強度の向上が望まれていた。
【0005】そこで、本発明は、マルエージング鋼の疲
労強度等の強度を向上させるマルエージング鋼の浸炭表
面硬化方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するた
めに、本発明者が種々実験・研究した結果、マルエージ
ング鋼をA1 変態温度以下で浸炭処理を行うことにより
表面硬化できることを知見するに至った。
【0007】通常、浸炭は肌焼き鋼と呼ばれている低炭
素鋼や低合金鋼の表面に、炭素を浸み込ませて表面だけ
を高炭素鋼とし、その後にこれを焼き入れして表面を硬
くする熱処理である。例えば、浸炭方法によっても異な
るが、通常、900〜950℃に加熱して浸炭し、その
後、固体浸炭の場合には900℃で一次焼き入れ、80
0℃で二次焼き入れを行い、また液体浸炭やガス浸炭の
場合にはそのまま直焼き入れを行う。そして、焼き入れ
の後、さらに150〜200℃程度で焼きもどしを行っ
ている。また、最近は、1050〜1100℃の高温で
短時間浸炭する高温浸炭法というものもある。いずれの
浸炭方法を行う場合においても、低くても850℃以上
の高温に加熱して浸炭処理している。
【0008】元来、純鉄はA1 変態温度(約723℃)
以下において浸炭しても、焼き入れ硬化のために有効な
浸炭層は形成されない。これは純鉄をA1 変態温度以下
で浸炭すると、表面に鉄炭化物であるセメンタイト(F
3 C)層が緻密に形成され、それが炭素の侵入を阻む
ためそれ以上浸炭が進行しなくなるからである。このた
め、鋼の浸炭は焼入れを前提とし低くても850℃以上
で施すものと考えられている。これにより、マルエージ
ング鋼の時効析出処理の処理温度(450〜500℃程
度)以下での浸炭が考慮されることはなかった。
【0009】ここで、マルエージング鋼を850℃以上
に加熱して浸炭処理を行ってから焼き入れしてもマルエ
ージング鋼には炭素がほとんど含まれていないため鋼の
内部は軟らかいマルテンサイトになってしまうので、マ
ルエージング鋼の本来の強度を得ることができずこのま
までは構造材として使用できない。このため、例えば5
00℃で1時間時効析出処理を行うことによりマルエー
ジング鋼の内部の強靭化を図らなければならない。よっ
て、マルエージング鋼を850℃以上に加熱して浸炭処
理することは浸炭工程が増える分だけ時間やエネルギを
余分に費やしてしまう。
【0010】一方、マルエージング鋼は表1に例示する
ように例えばNiやCoといった炭化物を極めて形成し
難い元素を少なくとも12%以上含んでいる。
【0011】
【表1】 これらNiやCoの炭化物は、加熱によって容易に分解
する熱力学的に不安定なものである。すなわち、図5に
示すように、例えば500℃におけるNi3 C及びCo
2 Cの自由エネルギはFe3 Cの自由エネルギよりも大
きい正の値であるので、熱力学的に不安定であることが
分かる。したがって、これらNiやCoの元素は、鉄の
活量を低下させて鋼の表面にセメンタイト層を形成し難
くする。
【0012】また、マルエージング鋼の時効析出処理の
処理温度は例えば500℃以下であるので、金属結晶格
子内で各金属原子はほとんど移動できずセメンタイト等
の金属炭化物の結晶は形成され難い。
【0013】本発明者はかかる事実に基づいて、マルエ
ージング鋼が浸炭性雰囲気において時効析出処理の処理
温度に加熱されれば、セメンタイト層が表面に形成され
ることなく炭素がマルエージング鋼中に侵入するという
ことを考えた。
【0014】そこで、請求項1のマルエージング鋼の浸
炭表面硬化方法は、マルエージング鋼の時効析出処理の
際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行うようにし
ている。したがって、時効析出処理によりマルエージン
グ鋼の全体が硬化すると同時に、浸炭処理によりマルエ
ージング鋼の表面が硬化する。これにより、例えば表4
に示すように、時効析出処理のみを行ったマルエージン
グ鋼よりも高い表面硬度のマルエージング鋼を得ること
ができる。この表面硬化により表面に圧縮残留応力が生
じてマルエージング鋼の疲労強度等の強度を向上させる
ことができる。
【0015】ここで、マルエージング鋼はNiやCoと
いった炭化物を極めて形成し難い元素を少なくとも12
%以上含んでいるので、鉄の活量が低下している。この
ため、マルエージング鋼の表面にセメンタイト層が形成
され難い。しかも、マルエージング鋼の時効析出処理の
処理温度は500℃以下であるので、各金属原子は金属
結晶格子内でほとんど移動できずセメンタイトの結晶が
形成され難い。これにより、マルエージング鋼の表面に
セメンタイト層がほとんど形成しないので、炭素がマル
エージング鋼の表面層に浸透拡散することができる。
【0016】また、図5に示すように、マルエージング
鋼に含まれるTiの炭化物(TiC)の自由エネルギは
Fe3 Cの自由エネルギよりも遥かに小さい負の値であ
るので、Tiは鉄よりも炭化物を形成し易いことが分か
る。このため、マルエージング鋼の表面層に浸透拡散し
た炭素は、金属結晶の格子間を容易に移動してTi原子
の周囲に引き寄せられる。そして、マルエージング鋼の
処理温度を500℃以下としていることからTi原子は
金属結晶格子内でほとんど移動できずTiCの結晶はほ
とんど形成されないが、Tiの周囲に炭素が引き寄せら
れて局部的凝集状態を形成すると考えられる。これによ
り、その周囲の鉄の結晶が歪んで析出硬化によりマルエ
ージング鋼の表面層が硬化する。したがって、マルエー
ジング鋼を時効析出の処理温度で加熱することにより浸
炭による表面硬化を行うことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の構成を実施の形態
の一例に基づいて詳細に説明する。本発明のマルエージ
ング鋼の浸炭表面硬化方法は、マルエージング鋼の時効
析出処理の際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行
うようにしている。マルエージング鋼の時効析出処理
は、通常、450〜500℃の温度下で1〜4時間程度
行う。この時効析出処理の際にマルエージング鋼を浸炭
剤に浸して時効析出の処理温度下で浸炭処理を行う。こ
こで、浸炭方法としては、気体法、液体法、プラズマ
法、電解浸炭法(通電液体浸炭法)等の公知の方法の
他、新規な浸炭方法によってもマルエージング鋼の浸炭
処理は可能であるが、スーチング(煤の発生)の観点か
らはプラズマ法の使用が好ましい。また、プラズマ法に
よれば、ステンレス鋼についても容易に浸炭を行うこと
ができる。すなわち、ステンレス鋼はCrを11%以上
含んでいるので気体法では予め表面不動態被膜を還元し
ておかなければ均一な浸炭は不可能であるが、プラズマ
法によれば均一な浸炭を容易に行うことができる。
【0018】例えば気体法では、COやCH4 やC2
2 等の一般的な浸炭性ガスあるいはアセトンやメタノー
ルやベンゼン等の有機化合物の蒸気を例えば水素等のキ
ャリアガスによりマルエージング鋼に作用させて浸炭を
行う。また、液体法では、浸炭性溶融塩または中性若し
くは弱アルカリ性溶融塩に浸炭性物質(例えば木炭の粉
末)を添加するか浸炭性ガスを吹き込んで浸炭液を生成
する。そして、この浸炭液にマルエージング鋼を浸して
浸炭を行う。さらに、プラズマ法では、プラズマ窒化法
と同様の工程によって窒化ガスの代わりに浸炭性のCH
4 やC2 2 等を使用してマルエージング鋼の浸炭を行
う。電解浸炭法では、液体浸炭の際に直流電流を流して
マルエージング鋼の浸炭を行う。
【0019】ここで、各浸炭処理において、浸炭剤の種
類、濃度、流速、流量の少なくとも1つを変更すること
により、浸炭したマルエージング鋼を利用する製品の用
途等に応じて浸炭層の厚さや硬さや炭素濃度等の性質を
変更することができる。また、浸炭温度や浸炭時間や時
効析出処理との開始や終了時の時差によっても浸炭層の
性質を変更することができる。例えば、表3に示すよう
に、時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して同時間
行ったり、各処理の処理時間の長さを異ならせたり、各
処理の開始時をずらして処理を行うことができる。この
ように処理時間を変更することにより、得られる浸炭層
の厚さや硬さや炭素濃度等の性質を変更してマルエージ
ング鋼の強度を調整することができる。したがって、こ
のマルエージング鋼を使用して製品を製造する場合に、
その強度を製品に最も適した大きさに調節して使用する
ことができる。
【0020】例えば、浸炭したマルエージング鋼を無段
変速金属ベルトとして利用する場合、回転軸の周囲に掛
けて回転させるので回転軸の半径が小さいとベルトの曲
率が大きくなる。ここで、浸炭層が厚すぎるとベルトの
曲がりによってクラックが生じてしまう。また、浸炭層
が硬すぎると曲がりに抵抗できずに折れてしまう。これ
に対し、浸炭したマルエージング鋼を耐摩耗面として利
用する場合は、浸炭層が硬い方が利用価値が高い。よっ
て、浸炭したマルエージング鋼を利用する製品の用途等
に応じて浸炭層の厚さや硬さを調節して最も適した強度
のマルエージング鋼を使用すれば良い。また、製品とし
ての浸炭層の厚さや硬さの具体的な値は、実用レベルの
耐疲労耐寿命試験の結果に基づいて決定する。
【0021】マルエージング鋼は、表1に示すようにN
iやCoといった炭化物を極めて形成し難い元素を少な
くとも12%以上含んでいるので、鉄の活量が低下され
ている。また、マルエージング鋼の時効析出処理の処理
温度は500℃以下であるので、各金属原子は金属結晶
格子内でほとんど移動できない。このため、マルエージ
ング鋼の時効析出処理の際には表面にセメンタイト層が
ほとんど形成しないので、炭素がマルエージング鋼の表
面層に浸透拡散することができる。
【0022】また、マルエージング鋼は、表1に示すよ
うにTiを含んでいる。図5に示すように、TiCの自
由エネルギはFe3 Cの自由エネルギよりも遥かに小さ
い負の値であるので、Tiは鉄よりも炭化物を形成し易
い。このため、マルエージング鋼の表面層に浸透拡散し
た炭素は、金属結晶の格子間を容易に移動してTi原子
の周囲に引き寄せられる。そして、マルエージング鋼の
処理温度を500℃以下としていることからTi原子は
金属結晶格子内でほとんど移動できずTiCの結晶はほ
とんど形成されないが、Tiの周囲に炭素が引き寄せら
れて局部的凝集状態を形成する。これにより、その周囲
の鉄の結晶が歪んで析出硬化によりマルエージング鋼の
表面層が硬化する。したがって、マルエージング鋼を時
効析出の処理温度で加熱することにより浸炭による表面
硬化を行うことができる。
【0023】よって、マルエージング鋼の時効析出処理
の際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行うことに
より、時効析出処理でマルエージング鋼自体の強度を向
上すると同時に、浸炭処理でマルエージング鋼の表面を
硬化することができる。この表面硬化により表面に圧縮
残留応力が生じて疲労強度が向上する。したがって、時
効析出処理のみを施したマルエージング鋼よりも表面強
度及び疲労強度等の強度を高めることができる。
【0024】本実施形態の浸炭表面硬化方法により得ら
れた高強度のマルエージング鋼を例えば自動車の無段変
速機のエンドレス金属ベルトに使用することにより、大
型エンジンに使用できるような高い強度の無段変速機を
得ることができるので、大型車の燃費を向上させること
ができるようになる。
【0025】また、本実施形態の浸炭表面硬化方法によ
れば時効析出処理と浸炭処理とを同時に行っているの
で、浸炭処理を別個独立した工程として行う必要が無く
熱処理工程を従来と同等の時間で行うことができる。こ
のため、マルエージング鋼の生産性を維持したまま強度
を高めることができる。
【0026】なお、上述の実施形態は本発明の好適な実
施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発
明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能で
ある。
【0027】
【実施例】表2に示す組成のマルエージング鋼(18N
i300ksi級)により厚さ0.2mmのシートを形
成して試料とした。
【0028】
【表2】 この試料の平均表面硬さ(10点測定)はHv410で
あった。この試料をアセトンで脱脂して布で拭いてガラ
スのビーカーに浸して超音波バスで洗浄した。そして、
この試料に清浄な溶剤を流しかけた。
【0029】一方、0℃に設定されたアセトンの容器中
で水素の気泡を発生させて時効処理を行う雰囲気を生成
した。そして、直径40mmの石英反応管を電気炉に入
れて500℃または450℃に維持した。この石英反応
管中に試料を載置してキャリアガスとして水素を使用し
たアセトンの蒸気を作用させた。これにより、試料の時
効析出処理と浸炭処理とを同時に行った。この時効析出
処理及び浸炭処理の終了後、試料を石英反応管から取り
出して、水素雰囲気中で冷却した。
【0030】(実施例1)表3に示すように、石英反応
管を500℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理と
を同時に開始して、いずれの処理も60分間行った。
【0031】
【表3】
【0032】これにより得られたマルエージング鋼の試
料の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果
を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】また、この試料の表面のX線回折を測定し
た。その結果を図1に示す。さらに、この試料の表面層
をEPMA分析により測定した。その結果を図2に示
す。同図に示すように約20μmの厚さの浸炭層が確認
された。
【0035】(実施例2)表3に示すように、石英反応
管を500℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理と
を同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理
を45分間行った。これにより得られたマルエージング
鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果
を表4に示す。
【0036】(実施例3)表3に示すように、石英反応
管を500℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理と
を同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理
を30分間行った。これにより得られたマルエージング
鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果
を表4に示す。
【0037】(実施例4)表3に示すように、石英反応
管を450℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理と
を同時に開始して、いずれの処理も60分間行った。こ
れにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(1
0点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0038】また、このマルエージング鋼の表面層を光
学顕微鏡により観察した。その結果を図3に示す。同図
に示すように、マルエージング鋼の表面に約13μmの
厚さの浸炭層が観察された。この厚さは、α鉄中の炭素
の既知の拡散係数から算出される浸透深さと一致した。
したがって、マルエージング鋼に対して時効析出処理と
同時に浸炭処理を行ったことにより、浸炭処理のみを行
って形成される浸炭層と同等の厚さの浸炭層が形成され
たことを確認できた。
【0039】(実施例5)表3に示すように、石英反応
管を450℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理と
を同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理
を45分間行った。これにより得られたマルエージング
鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果
を表4に示す。
【0040】(実施例6)表3に示すように、石英反応
管を450℃に維持しながら時効析出処理を開始した1
5分後に浸炭処理を開始し、時効析出処理を60分間、
浸炭処理を45分間行った。これにより得られたマルエ
ージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。
その結果を表4に示す。
【0041】(実施例7)表3に示すように、石英反応
管を450℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理と
を同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理
を30分間行った。これにより得られたマルエージング
鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果
を表4に示す。
【0042】(実施例8)表3に示すように、石英反応
管を450℃に維持しながら時効析出処理を開始した3
0分後に浸炭処理を開始し、時効析出処理を60分間、
浸炭処理を30分間行った。これにより得られたマルエ
ージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。
その結果を表4に示す。
【0043】(比較例1)石英反応管を500℃に維持
しながら時効析出処理のみを60分間行った。これによ
り得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測
定)を測定した。その結果を表4に示す。また、この試
料の表面のX線回折を測定した。その結果を図4に示
す。
【0044】図1及び図4から明らかなように、時効析
出処理及び浸炭処理したもの(図1)のピークP1〜P
5は時効析出処理のみのもの(図4)のピークP1’〜
P5’に比べて回折角度が小角度側にずれている。これ
は、浸炭処理によりマルエージング鋼の表面に炭素が侵
入して結晶格子が膨張したためと考えられる。また、時
効析出処理及び浸炭処理したもののピークP1〜P5は
時効処理のみのもののピークP1’〜P5’に比べて各
ピークのピーク幅(例えばp,p’)が拡大している。
これは、浸炭処理によりマルエージング鋼の表面に炭素
が侵入して結晶格子が歪んだためと考えられる。したが
って、マルエージング鋼に浸炭処理を行ったことによ
り、その表面の結晶構造の観点からも表面硬さが向上し
たことが確認された。
【0045】(比較例2)石英反応管を450℃に維持
しながら時効析出処理のみを60分間行った。これによ
り得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測
定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0046】表4から明らかなように、全ての実施例で
の時効析出処理及び浸炭処理を行ったマルエージング鋼
は、比較例1,2の時効析出処理のみを行ったものに比
べて硬さの向上が認められた。特に実施例1〜4ではH
v800を超える極めて硬度の高いマルエージング鋼を
得ることができた。
【0047】そして、実施例1と実施例4との比較か
ら、また実施例2と実施例5との比較から、さらには実
施例3と実施例7との比較から、時効析出処理及び浸炭
処理を同時に開始してそれぞれ同時間だけ行った場合に
は、温度が高い方が硬くなった。
【0048】また、実施例1と実施例2と実施例3の比
較から、さらには実施例4と実施例5と実施例7の比較
から、時効析出処理及び浸炭処理を同時に開始して同温
度で行った場合には、浸炭処理を行う時間の長い方が硬
くなった。
【0049】さらに、実施例5と実施例6との比較か
ら、また実施例7と実施例8との比較から、時効析出処
理及び浸炭処理を同温度でそれぞれ同時間だけ行った場
合には、浸炭処理を時効析出処理時間の後半に行った方
が前半に行ったものより硬くなった。
【0050】
【発明の効果】以上の説明より明らかなように、請求項
1のマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法はマルエージ
ング鋼の時効析出処理の際に該時効析出の処理温度下で
浸炭処理を行うようにしているので、マルエージング鋼
はNiやCoといった炭化物を極めて形成し難い元素を
少なくとも12%以上含んで鉄の活量が低下しているこ
とと時効析出処理の処理温度は500℃以下であること
により、セメンタイトの結晶が形成され難く炭素がマル
エージング鋼の表面層に浸透拡散することができる。そ
して、マルエージング鋼のTiの周囲に炭素が引き寄せ
られて局部的凝集状態を形成し、その周囲の鉄の結晶が
歪んで析出硬化によりマルエージング鋼の表面層が硬化
する。したがって、マルエージング鋼を時効析出の処理
温度で加熱して浸炭により表面硬化することができる。
【0051】これにより、時効析出処理でマルエージン
グ鋼自体を強化すると同時に、浸炭処理でマルエージン
グ鋼の表面を硬化することができる。この表面硬化によ
り表面に圧縮残留応力が生じて疲労強度が向上する。し
たがって、例えば表4に示すように、時効析出処理のみ
を施したマルエージング鋼よりも表面強度及び疲労強度
等の強度を高めて従来ない優れた材料を作り出すことが
できる。
【0052】ところで、マルエージング鋼を850℃以
上に加熱して浸炭処理を行ってから焼き入れすると鋼の
内部は軟らかいマルテンサイトになってしまいこのまま
では構造材として使用できないので時効析出処理を行っ
てマルエージング鋼の内部の強靭化を図る必要がある。
このため、マルエージング鋼を850℃以上に加熱して
浸炭処理することは浸炭工程が増える分だけ時間やエネ
ルギを余分に費やしてしまう。これに対し、本発明によ
れば時効析出処理と浸炭処理とを同時に行っているの
で、浸炭処理を別工程として行う必要が無く熱処理工程
を従来と同等の時間で行うことができる。このため、マ
ルエージング鋼の生産性を維持しながら強度を高めるこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の浸炭表面硬化方法により得られたマル
エージング鋼の表面をX線回折測定した結果を示すグラ
フである。
【図2】本発明の浸炭表面硬化方法により得られたマル
エージング鋼の表面層をEPMA分析により測定した結
果を示す図である。
【図3】本発明の浸炭表面硬化方法により得られたマル
エージング鋼の表面層を光学顕微鏡により観察した結果
を示す顕微鏡写真である。
【図4】時効析出処理のみにより得られた従来のマルエ
ージング鋼の表面をX線回折測定した結果を示すグラフ
である。
【図5】マルエージング鋼に含まれる主な金属元素の炭
化物の温度と自由エネルギとの関係を示す図である。

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 マルエージング鋼の時効析出処理の際に
    該時効析出処理の温度下で浸炭処理を行うことを特徴と
    するマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法。
JP29504297A 1997-10-14 1997-10-14 マルエージング鋼の浸炭表面硬化方法 Expired - Fee Related JP3950527B2 (ja)

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