JP3950527B2 - マルエージング鋼の浸炭表面硬化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マルエージング鋼の表面を硬化する熱処理方法に関する。さらに詳述すると、本発明はマルエージング鋼を浸炭処理により表面硬化する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルエージング鋼は超強靱鋼の一種として現在最強の材料であり、航空機や圧力容器等の各種機械構造の最重要部分に使用されている。このマルエージング鋼は、特に自動車の無段変速機のエンドレス金属ベルト(いわゆるバンドールネ金属ベルト)に使用されることにより自動車の燃費の向上に大きく貢献する。
【0003】
マルエージング鋼では、例えば約800℃で溶体化処理後、450〜500℃で1〜4時間程度の時効析出処理が行うことにより材質の強靭化を図っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した時効析出処理されたマルエージング鋼では、使用目的によっては疲労強度が不十分である場合がある。例えばこのマルエージング鋼製のエンドレス金属ベルトを組み込んだ無段変速機を排気量1600cc以上の大型エンジンに使用しようとしてもエンドレス金属ベルトの疲労強度が不十分であるので使用することができない。このような大型エンジンに無段変速機を使用することにより大型車の燃費を30%以上向上できるので、マルエージング鋼の疲労強度の向上が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、マルエージング鋼の疲労強度等の強度を向上させるマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明者が種々実験・研究した結果、マルエージング鋼をA1 変態温度以下で浸炭処理を行うことにより表面硬化できることを知見するに至った。
【0007】
通常、浸炭は肌焼き鋼と呼ばれている低炭素鋼や低合金鋼の表面に、炭素を浸み込ませて表面だけを高炭素鋼とし、その後にこれを焼き入れして表面を硬くする熱処理である。例えば、浸炭方法によっても異なるが、通常、900〜950℃に加熱して浸炭し、その後、固体浸炭の場合には900℃で一次焼き入れ、800℃で二次焼き入れを行い、また液体浸炭やガス浸炭の場合にはそのまま直焼き入れを行う。そして、焼き入れの後、さらに150〜200℃程度で焼きもどしを行っている。また、最近は、1050〜1100℃の高温で短時間浸炭する高温浸炭法というものもある。いずれの浸炭方法を行う場合においても、低くても850℃以上の高温に加熱して浸炭処理している。
【0008】
元来、純鉄はA1 変態温度(約723℃)以下において浸炭しても、焼き入れ硬化のために有効な浸炭層は形成されない。これは純鉄をA1 変態温度以下で浸炭すると、表面に鉄炭化物であるセメンタイト(Fe3 C)層が緻密に形成され、それが炭素の侵入を阻むためそれ以上浸炭が進行しなくなるからである。このため、鋼の浸炭は焼入れを前提とし低くても850℃以上で施すものと考えられている。これにより、マルエージング鋼の時効析出処理の処理温度(450〜500℃程度)以下での浸炭が考慮されることはなかった。
【0009】
ここで、マルエージング鋼を850℃以上に加熱して浸炭処理を行ってから焼き入れしてもマルエージング鋼には炭素がほとんど含まれていないため鋼の内部は軟らかいマルテンサイトになってしまうので、マルエージング鋼の本来の強度を得ることができずこのままでは構造材として使用できない。このため、例えば500℃で1時間時効析出処理を行うことによりマルエージング鋼の内部の強靭化を図らなければならない。よって、マルエージング鋼を850℃以上に加熱して浸炭処理することは浸炭工程が増える分だけ時間やエネルギを余分に費やしてしまう。
【0010】
一方、マルエージング鋼は表1に例示するように例えばNiやCoといった炭化物を極めて形成し難い元素を少なくとも12%以上含んでいる。
【0011】
【表1】
これらNiやCoの炭化物は、加熱によって容易に分解する熱力学的に不安定なものである。すなわち、図5に示すように、例えば500℃におけるNi3 C及びCo2 Cの自由エネルギはFe3 Cの自由エネルギよりも大きい正の値であるので、熱力学的に不安定であることが分かる。したがって、これらNiやCoの元素は、鉄の活量を低下させて鋼の表面にセメンタイト層を形成し難くする。
【0012】
また、マルエージング鋼の時効析出処理の処理温度は例えば500℃以下であるので、金属結晶格子内で各金属原子はほとんど移動できずセメンタイト等の金属炭化物の結晶は形成され難い。
【0013】
本発明者はかかる事実に基づいて、マルエージング鋼が浸炭性雰囲気において時効析出処理の処理温度に加熱されれば、セメンタイト層が表面に形成されることなく炭素がマルエージング鋼中に侵入するということを考えた。
【0014】
そこで、請求項1のマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法は、マルエージング鋼の時効析出処理の際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行うようにしている。したがって、時効析出処理によりマルエージング鋼の全体が硬化すると同時に、浸炭処理によりマルエージング鋼の表面が硬化する。これにより、例えば表4に示すように、時効析出処理のみを行ったマルエージング鋼よりも高い表面硬度のマルエージング鋼を得ることができる。この表面硬化により表面に圧縮残留応力が生じてマルエージング鋼の疲労強度等の強度を向上させることができる。
【0015】
ここで、マルエージング鋼はNiやCoといった炭化物を極めて形成し難い元素を少なくとも12%以上含んでいるので、鉄の活量が低下している。このため、マルエージング鋼の表面にセメンタイト層が形成され難い。しかも、マルエージング鋼の時効析出処理の処理温度は500℃以下であるので、各金属原子は金属結晶格子内でほとんど移動できずセメンタイトの結晶が形成され難い。これにより、マルエージング鋼の表面にセメンタイト層がほとんど形成しないので、炭素がマルエージング鋼の表面層に浸透拡散することができる。
【0016】
また、図5に示すように、マルエージング鋼に含まれるTiの炭化物(TiC)の自由エネルギはFe3 Cの自由エネルギよりも遥かに小さい負の値であるので、Tiは鉄よりも炭化物を形成し易いことが分かる。このため、マルエージング鋼の表面層に浸透拡散した炭素は、金属結晶の格子間を容易に移動してTi原子の周囲に引き寄せられる。そして、マルエージング鋼の処理温度を500℃以下としていることからTi原子は金属結晶格子内でほとんど移動できずTiCの結晶はほとんど形成されないが、Tiの周囲に炭素が引き寄せられて局部的凝集状態を形成すると考えられる。これにより、その周囲の鉄の結晶が歪んで析出硬化によりマルエージング鋼の表面層が硬化する。したがって、マルエージング鋼を時効析出の処理温度で加熱することにより浸炭による表面硬化を行うことができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。本発明のマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法は、マルエージング鋼の時効析出処理の際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行うようにしている。マルエージング鋼の時効析出処理は、通常、450〜500℃の温度下で1〜4時間程度行う。この時効析出処理の際にマルエージング鋼を浸炭剤に浸して時効析出の処理温度下で浸炭処理を行う。ここで、浸炭方法としては、気体法、液体法、プラズマ法、電解浸炭法(通電液体浸炭法)等の公知の方法の他、新規な浸炭方法によってもマルエージング鋼の浸炭処理は可能であるが、スーチング(煤の発生)の観点からはプラズマ法の使用が好ましい。また、プラズマ法によれば、ステンレス鋼についても容易に浸炭を行うことができる。すなわち、ステンレス鋼はCrを11%以上含んでいるので気体法では予め表面不動態被膜を還元しておかなければ均一な浸炭は不可能であるが、プラズマ法によれば均一な浸炭を容易に行うことができる。
【0018】
例えば気体法では、COやCH4 やC2 H2 等の一般的な浸炭性ガスあるいはアセトンやメタノールやベンゼン等の有機化合物の蒸気を例えば水素等のキャリアガスによりマルエージング鋼に作用させて浸炭を行う。また、液体法では、浸炭性溶融塩または中性若しくは弱アルカリ性溶融塩に浸炭性物質(例えば木炭の粉末)を添加するか浸炭性ガスを吹き込んで浸炭液を生成する。そして、この浸炭液にマルエージング鋼を浸して浸炭を行う。さらに、プラズマ法では、プラズマ窒化法と同様の工程によって窒化ガスの代わりに浸炭性のCH4 やC2 H2 等を使用してマルエージング鋼の浸炭を行う。電解浸炭法では、液体浸炭の際に直流電流を流してマルエージング鋼の浸炭を行う。
【0019】
ここで、各浸炭処理において、浸炭剤の種類、濃度、流速、流量の少なくとも1つを変更することにより、浸炭したマルエージング鋼を利用する製品の用途等に応じて浸炭層の厚さや硬さや炭素濃度等の性質を変更することができる。また、浸炭温度や浸炭時間や時効析出処理との開始や終了時の時差によっても浸炭層の性質を変更することができる。例えば、表3に示すように、時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して同時間行ったり、各処理の処理時間の長さを異ならせたり、各処理の開始時をずらして処理を行うことができる。このように処理時間を変更することにより、得られる浸炭層の厚さや硬さや炭素濃度等の性質を変更してマルエージング鋼の強度を調整することができる。したがって、このマルエージング鋼を使用して製品を製造する場合に、その強度を製品に最も適した大きさに調節して使用することができる。
【0020】
例えば、浸炭したマルエージング鋼を無段変速金属ベルトとして利用する場合、回転軸の周囲に掛けて回転させるので回転軸の半径が小さいとベルトの曲率が大きくなる。ここで、浸炭層が厚すぎるとベルトの曲がりによってクラックが生じてしまう。また、浸炭層が硬すぎると曲がりに抵抗できずに折れてしまう。これに対し、浸炭したマルエージング鋼を耐摩耗面として利用する場合は、浸炭層が硬い方が利用価値が高い。よって、浸炭したマルエージング鋼を利用する製品の用途等に応じて浸炭層の厚さや硬さを調節して最も適した強度のマルエージング鋼を使用すれば良い。また、製品としての浸炭層の厚さや硬さの具体的な値は、実用レベルの耐疲労耐寿命試験の結果に基づいて決定する。
【0021】
マルエージング鋼は、表1に示すようにNiやCoといった炭化物を極めて形成し難い元素を少なくとも12%以上含んでいるので、鉄の活量が低下されている。また、マルエージング鋼の時効析出処理の処理温度は500℃以下であるので、各金属原子は金属結晶格子内でほとんど移動できない。このため、マルエージング鋼の時効析出処理の際には表面にセメンタイト層がほとんど形成しないので、炭素がマルエージング鋼の表面層に浸透拡散することができる。
【0022】
また、マルエージング鋼は、表1に示すようにTiを含んでいる。図5に示すように、TiCの自由エネルギはFe3 Cの自由エネルギよりも遥かに小さい負の値であるので、Tiは鉄よりも炭化物を形成し易い。このため、マルエージング鋼の表面層に浸透拡散した炭素は、金属結晶の格子間を容易に移動してTi原子の周囲に引き寄せられる。そして、マルエージング鋼の処理温度を500℃以下としていることからTi原子は金属結晶格子内でほとんど移動できずTiCの結晶はほとんど形成されないが、Tiの周囲に炭素が引き寄せられて局部的凝集状態を形成する。これにより、その周囲の鉄の結晶が歪んで析出硬化によりマルエージング鋼の表面層が硬化する。したがって、マルエージング鋼を時効析出の処理温度で加熱することにより浸炭による表面硬化を行うことができる。
【0023】
よって、マルエージング鋼の時効析出処理の際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行うことにより、時効析出処理でマルエージング鋼自体の強度を向上すると同時に、浸炭処理でマルエージング鋼の表面を硬化することができる。この表面硬化により表面に圧縮残留応力が生じて疲労強度が向上する。したがって、時効析出処理のみを施したマルエージング鋼よりも表面強度及び疲労強度等の強度を高めることができる。
【0024】
本実施形態の浸炭表面硬化方法により得られた高強度のマルエージング鋼を例えば自動車の無段変速機のエンドレス金属ベルトに使用することにより、大型エンジンに使用できるような高い強度の無段変速機を得ることができるので、大型車の燃費を向上させることができるようになる。
【0025】
また、本実施形態の浸炭表面硬化方法によれば時効析出処理と浸炭処理とを同時に行っているので、浸炭処理を別個独立した工程として行う必要が無く熱処理工程を従来と同等の時間で行うことができる。このため、マルエージング鋼の生産性を維持したまま強度を高めることができる。
【0026】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0027】
【実施例】
表2に示す組成のマルエージング鋼(18Ni300ksi級)により厚さ0.2mmのシートを形成して試料とした。
【0028】
【表2】
この試料の平均表面硬さ(10点測定)はHv410であった。この試料をアセトンで脱脂して布で拭いてガラスのビーカーに浸して超音波バスで洗浄した。そして、この試料に清浄な溶剤を流しかけた。
【0029】
一方、0℃に設定されたアセトンの容器中で水素の気泡を発生させて時効処理を行う雰囲気を生成した。そして、直径40mmの石英反応管を電気炉に入れて500℃または450℃に維持した。この石英反応管中に試料を載置してキャリアガスとして水素を使用したアセトンの蒸気を作用させた。これにより、試料の時効析出処理と浸炭処理とを同時に行った。この時効析出処理及び浸炭処理の終了後、試料を石英反応管から取り出して、水素雰囲気中で冷却した。
【0030】
(実施例1)
表3に示すように、石英反応管を500℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して、いずれの処理も60分間行った。
【0031】
【表3】
【0032】
これにより得られたマルエージング鋼の試料の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
また、この試料の表面のX線回折を測定した。その結果を図1に示す。さらに、この試料の表面層をEPMA分析により測定した。その結果を図2に示す。同図に示すように約20μmの厚さの浸炭層が確認された。
【0035】
(実施例2)
表3に示すように、石英反応管を500℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理を45分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0036】
(実施例3)
表3に示すように、石英反応管を500℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理を30分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0037】
(実施例4)
表3に示すように、石英反応管を450℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して、いずれの処理も60分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0038】
また、このマルエージング鋼の表面層を光学顕微鏡により観察した。その結果を図3に示す。同図に示すように、マルエージング鋼の表面に約13μmの厚さの浸炭層が観察された。この厚さは、α鉄中の炭素の既知の拡散係数から算出される浸透深さと一致した。したがって、マルエージング鋼に対して時効析出処理と同時に浸炭処理を行ったことにより、浸炭処理のみを行って形成される浸炭層と同等の厚さの浸炭層が形成されたことを確認できた。
【0039】
(実施例5)
表3に示すように、石英反応管を450℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理を45分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0040】
(実施例6)
表3に示すように、石英反応管を450℃に維持しながら時効析出処理を開始した15分後に浸炭処理を開始し、時効析出処理を60分間、浸炭処理を45分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0041】
(実施例7)
表3に示すように、石英反応管を450℃に維持しながら時効析出処理と浸炭処理とを同時に開始して、時効析出処理を60分間、浸炭処理を30分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0042】
(実施例8)
表3に示すように、石英反応管を450℃に維持しながら時効析出処理を開始した30分後に浸炭処理を開始し、時効析出処理を60分間、浸炭処理を30分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0043】
(比較例1)
石英反応管を500℃に維持しながら時効析出処理のみを60分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。また、この試料の表面のX線回折を測定した。その結果を図4に示す。
【0044】
図1及び図4から明らかなように、時効析出処理及び浸炭処理したもの(図1)のピークP1〜P5は時効析出処理のみのもの(図4)のピークP1’〜P5’に比べて回折角度が小角度側にずれている。これは、浸炭処理によりマルエージング鋼の表面に炭素が侵入して結晶格子が膨張したためと考えられる。また、時効析出処理及び浸炭処理したもののピークP1〜P5は時効処理のみのもののピークP1’〜P5’に比べて各ピークのピーク幅(例えばp,p’)が拡大している。これは、浸炭処理によりマルエージング鋼の表面に炭素が侵入して結晶格子が歪んだためと考えられる。したがって、マルエージング鋼に浸炭処理を行ったことにより、その表面の結晶構造の観点からも表面硬さが向上したことが確認された。
【0045】
(比較例2)
石英反応管を450℃に維持しながら時効析出処理のみを60分間行った。これにより得られたマルエージング鋼の平均表面硬さ(10点測定)を測定した。その結果を表4に示す。
【0046】
表4から明らかなように、全ての実施例での時効析出処理及び浸炭処理を行ったマルエージング鋼は、比較例1,2の時効析出処理のみを行ったものに比べて硬さの向上が認められた。特に実施例1〜4ではHv800を超える極めて硬度の高いマルエージング鋼を得ることができた。
【0047】
そして、実施例1と実施例4との比較から、また実施例2と実施例5との比較から、さらには実施例3と実施例7との比較から、時効析出処理及び浸炭処理を同時に開始してそれぞれ同時間だけ行った場合には、温度が高い方が硬くなった。
【0048】
また、実施例1と実施例2と実施例3の比較から、さらには実施例4と実施例5と実施例7の比較から、時効析出処理及び浸炭処理を同時に開始して同温度で行った場合には、浸炭処理を行う時間の長い方が硬くなった。
【0049】
さらに、実施例5と実施例6との比較から、また実施例7と実施例8との比較から、時効析出処理及び浸炭処理を同温度でそれぞれ同時間だけ行った場合には、浸炭処理を時効析出処理時間の後半に行った方が前半に行ったものより硬くなった。
【0050】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、請求項1のマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法はマルエージング鋼の時効析出処理の際に該時効析出の処理温度下で浸炭処理を行うようにしているので、マルエージング鋼はNiやCoといった炭化物を極めて形成し難い元素を少なくとも12%以上含んで鉄の活量が低下していることと時効析出処理の処理温度は500℃以下であることにより、セメンタイトの結晶が形成され難く炭素がマルエージング鋼の表面層に浸透拡散することができる。そして、マルエージング鋼のTiの周囲に炭素が引き寄せられて局部的凝集状態を形成し、その周囲の鉄の結晶が歪んで析出硬化によりマルエージング鋼の表面層が硬化する。したがって、マルエージング鋼を時効析出の処理温度で加熱して浸炭により表面硬化することができる。
【0051】
これにより、時効析出処理でマルエージング鋼自体を強化すると同時に、浸炭処理でマルエージング鋼の表面を硬化することができる。この表面硬化により表面に圧縮残留応力が生じて疲労強度が向上する。したがって、例えば表4に示すように、時効析出処理のみを施したマルエージング鋼よりも表面強度及び疲労強度等の強度を高めて従来ない優れた材料を作り出すことができる。
【0052】
ところで、マルエージング鋼を850℃以上に加熱して浸炭処理を行ってから焼き入れすると鋼の内部は軟らかいマルテンサイトになってしまいこのままでは構造材として使用できないので時効析出処理を行ってマルエージング鋼の内部の強靭化を図る必要がある。このため、マルエージング鋼を850℃以上に加熱して浸炭処理することは浸炭工程が増える分だけ時間やエネルギを余分に費やしてしまう。これに対し、本発明によれば時効析出処理と浸炭処理とを同時に行っているので、浸炭処理を別工程として行う必要が無く熱処理工程を従来と同等の時間で行うことができる。このため、マルエージング鋼の生産性を維持しながら強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の浸炭表面硬化方法により得られたマルエージング鋼の表面をX線回折測定した結果を示すグラフである。
【図2】本発明の浸炭表面硬化方法により得られたマルエージング鋼の表面層をEPMA分析により測定した結果を示す図である。
【図3】本発明の浸炭表面硬化方法により得られたマルエージング鋼の表面層を光学顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡写真である。
【図4】時効析出処理のみにより得られた従来のマルエージング鋼の表面をX線回折測定した結果を示すグラフである。
【図5】マルエージング鋼に含まれる主な金属元素の炭化物の温度と自由エネルギとの関係を示す図である。
Claims (1)
- マルエージング鋼の時効析出処理の際に該時効析出処理の温度下で浸炭処理を行うことを特徴とするマルエージング鋼の浸炭表面硬化方法。
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