JPH11117002A - 金属質粉成形素材及びその製造方法 - Google Patents

金属質粉成形素材及びその製造方法

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JPH11117002A
JPH11117002A JP9296377A JP29637797A JPH11117002A JP H11117002 A JPH11117002 A JP H11117002A JP 9296377 A JP9296377 A JP 9296377A JP 29637797 A JP29637797 A JP 29637797A JP H11117002 A JPH11117002 A JP H11117002A
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sintering
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安間  裕之
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政志 藤長
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 焼結金属による機械的強度の高い機械部品を
得るために好適な、所定量の黒鉛が含まれ、伸びが大き
く、硬さが低い性質を有し、優れた変形能を有する成形
素材を提供する。 【解決手段】 成形工程1で、鉄を主成分とする金属粉
3aに0.3重量%以上の黒鉛3bを混合してなる金属
質粉3を圧粉成形し、密度が7.3g/cm3以上の予
備成形体8を得る。焼結工程2で、予備成形体8を所定
温度で仮焼結して、金属粉3aの粒界に黒鉛3bが残留
している状態の組織を有する成形素材Sを得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、焼結金属による各
種構造用機械部品を得るために好適な、金属質粉成形素
材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】焼結金属を得る工程の基本は、原料粉末
の混合−圧粉成形−焼結−後処理(熱処理等)である。
前記工程のみで製品が得られる場合もあるが、多くの場
合、各工程の間または後に、目的に応じて追加加工や各
種処理が施される。
【0003】例えば、特開平1−123005号公報に
は、焼結金属による機械的強度の高い機械部品を得るた
めに、混合した粉末を圧粉成形して予備成形体を形成
し、この予備成形体を仮焼結して成形素材を形成した
後、この成形素材を再圧縮成形(冷間鍛造)し、焼結
(本焼結)する製造方法が開示してある。
【0004】詳しくは、前記成形素材の再圧縮成形(冷
間鍛造)工程を仮圧縮成形工程と本圧縮成形工程とから
構成してなり、成形素材の表面には液状潤滑剤を塗布し
て仮圧縮成形した後、成形素材に負圧を作用させて潤滑
剤を吸引除去し、その後成形素材を本圧縮成形するよう
にしてある。
【0005】これによって、前記予備成形体の内部に残
留する潤滑剤が予備成形体内部の微小空隙の圧潰消滅を
妨げてポーラス状となることを防止することにより、製
品の密度を7.4〜7.5g/cm3 に高め、従来に比
較して機械的強度の高い製品が得られるものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記従来例
にあっては、成形素材の再圧縮成形工程に着目して、こ
の再圧縮成形での密度を高めることによって、比較的に
機械的強度の高い製品を得るようにしているのである
が、これによって得られる製品の機械的強度には限界が
ある。
【0007】そこで、更に製品の機械的強度を高めるた
めには、製品の炭素量、即ち金属粉に添加する黒鉛の量
を増加させることが効果的であると考えられるけれど
も、一般には、黒鉛の量を増加させると成形素材の伸び
が小さくなると共に、硬さが増すから、成形素材を再圧
縮成形する場合の変形能が低下し、再圧縮成形が困難と
なる問題が招来することになる。
【0008】例えば、第2回粉末冶金開発事例発表会講
演テキスト(昭和60年11月15日、日本粉末冶金工
業会発行)90頁の記載によれば、炭素量が0.05〜
0.5%の成形素材において、伸びは最大でも10%で
あり、この場合の硬さはHRB83となることが示され
ている。しかしながら、前記成形素材の伸びが10%以
下で、硬さがHRB60を超えると、成形素材の再圧縮
成形が困難となることは経験が教えるところであり、こ
のため、更に伸びが大きく、硬さが低い性質を有し、優
れた変形能を有する成形素材を得ることが望まれてい
た。
【0009】発明者等は、焼結金属による機械的強度の
高い構造用各種機械部品を得るための研究を重ねてお
り、それによれば、予備成形体を仮焼結して成形素材を
形成して、この成形素材を再圧縮成形し、本焼結するす
ることによって機械部品を得る場合に、成形素材は、再
圧縮成形の容易さと、得られる機械部品の機械的性質を
決定する重要な因子を担っており、このためには、所定
量の黒鉛を含有し、伸びが大きく、硬さが低い性質を有
し、優れた変形能を有する成形素材を得ることが必要で
あることを認め、研究を進めた。
【0010】研究の結果、前記所定量の黒鉛を含有した
成形素材の性質、とりわけ成形素材の再圧縮成形の容易
さのために重要な性質である伸び及び硬さは、この成形
素材を形成する前の予備成形体の密度と、この予備成形
体を焼結して得られる成形素材の組織、とりわけ成形素
材中に含まれる黒鉛の形態によって決定されることを知
見した。
【0011】本発明は前記従来の実情に鑑みて案出され
たもので、焼結金属による機械的強度の高い機械部品を
得るために好適な、所定量の黒鉛が含まれ、伸びが大き
く、かつ硬さが低い性質を有し、優れた変形能を有する
金属質粉成形素材及びその製造方法を提供することを目
的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】そこで、請求項1記載の
発明は、鉄を主成分とする金属粉に0.3重量%以上の
黒鉛を混合してなる金属質粉を圧粉成形して得られた、
密度が7.3g/cm3 以上の予備成形体を所定温度で
仮焼結してなり、金属粉の粒界に黒鉛が残留している状
態の組織を有する構成にしてある。
【0013】また、請求項2記載の発明は、請求項1記
載の発明の構成のうち、前記金属質粉成形素材は、伸び
が10%以上で、硬さがHRB60以下である構成にし
てある。
【0014】また、請求項3記載の発明は、鉄を主成分
とする金属粉に0.3重量%以上の黒鉛を混合してなる
金属質粉を圧粉成形して、密度が7.3g/cm3 以上
の予備成形体を得る成形工程と、この成形工程で得られ
た予備成形体を所定温度で仮焼結して、金属粉の粒界に
黒鉛が残留している状態の組織を有する金属質粉成形素
材を得る焼結工程と、からなる構成にしてある。
【0015】また、請求項4記載の発明は、請求項3記
載の発明の構成のうち、前記成形工程は、成形ダイスの
成形空間内に充填した金属質粉を上パンチ及び下パンチ
で加圧してなり、前記成形ダイスの成形空間が、上パン
チが挿入される大径部と、下パンチが挿入される小径部
と、これら大径部と小径部とを繋ぐテーパ部とを備え、
前記上パンチ及び下パンチの一方または両方が、成形ダ
イスの成形空間に臨む端面の外周端部に、成形空間の容
積を増大させる切欠きを備えた構成にしてある。
【0016】また、請求項5記載の発明は、請求項3記
載の発明の構成のうち、前記焼結工程の仮焼結温度は、
800〜1000℃である構成にしてある。
【0017】請求項1記載の発明において、本発明の金
属質粉成形素材(以下、成形素材という)は、金属質粉
を圧粉成形して得られる予備成形体を、所定温度で仮焼
結して得られる。
【0018】前記金属質粉は、鉄を主成分とする金属粉
体に0.3重量%以上の黒鉛を混合して形成される。前
記金属粉に添加する黒鉛の量を0.3重量%以上とする
ことによって、成形素材を再圧縮成形、再焼結して得ら
れる機械部品の機械的強度を、鋳鍛造材と同程度に高め
ることができるのである。
【0019】前記予備成形体の密度は7.3g/cm3
以上とされる。前記予備成形体の密度を7.3g/cm
3 以上とすることによって、この予備成形体を仮焼結し
て得られる成形素材の伸びを大きく、かつ硬さを低くす
ることができ、請求項2記載の発明においては、成形素
材の伸びは10%以上とされ、硬さはHRB60以下と
される。
【0020】前記密度が7.3g/cm3 以上の予備成
形体を仮焼結して得られる成形素材の組織は、金属粉の
粒界に黒鉛が残留している組織とされる。これは、前記
金属粉の結晶内部に炭素が殆ど拡散しておらず、少なく
とも結晶粒界に黒鉛が析出していない状態を示してい
る。具体的には、前記金属粉の組織は全体がフェライト
組織か或いは黒鉛の近傍にパーライトが析出した組織を
呈している。このため、前記成形素材は伸びが大きく、
かつ硬さが低い性質を有し、優れた変形能を有すること
になる。
【0021】加えて、前記密度が7.3g/cm3 以上
の予備成形体では、金属粉の粒子間の空隙が連続せず、
孤立した状態となっており、これによって、仮焼結後の
伸びが大きい成形素材が得られる。即ち、前記金属粉の
粒子間の空隙が連続している場合には、仮焼結時の炉内
の雰囲気ガスが予備成形体の内部に侵入して浸炭が促進
されることになるけれども、空隙が孤立しているから、
これが有利に防止されることによって、大きな伸びが得
られることになる。このことは、前記成形素材の伸び
は、密度を7.3g/cm3 以上とすることにより、予
備成形体を仮焼結するするときに炭素の拡散が殆ど生じ
ないことになるから、黒鉛の量の影響を殆ど受けないこ
とを示していると共に、炭素の拡散が殆ど生じないので
あるから、仮焼結して得られる成形素材の硬さも低く抑
えられることを示している。
【0022】また、前記仮焼結によって金属粉の粒子同
士の接触面における表面拡散または溶融による焼結が広
範囲に亘って生じることにより、大きな伸びが得られる
ことになるのである。
【0023】したがって、請求項1記載の発明によれ
ば、焼結金属による機械的強度の高い機械部品を得るた
めに好適な、所定量の黒鉛が含まれ、伸びが大きく、か
つ硬さが低い性質を有し、優れた変形能を有する成形素
材が得られる。
【0024】また、請求項2記載の発明によれば、成形
素材の伸びは10%以上とされ、硬さはHRB60以下
とされるから、従来よりも優れた変形能を有する成形素
材が得られる。
【0025】請求項3記載の発明において、前記予備成
形体は成形工程によって得られ、成形素材は成形工程で
得られた予備成形体を焼結工程で仮焼結して得られる。
【0026】前記成形工程で圧粉成形する金属質粉は、
鉄を主成分とする金属粉体に0.3重量%以上の黒鉛を
混合して形成される。前記金属粉に添加する黒鉛の量を
0.3重量%以上とすることによって、成形素材を再圧
縮成形、再焼結して得られる機械部品の機械的強度を鋳
鍛造材と同程度に高めることができる。
【0027】前記成形工程で形成される予備成形体の密
度は7.3g/cm3 以上とされる。前記予備成形体の
密度を7.3g/cm3 以上とすることによって、この
予備成形体を焼結工程で仮焼結して得られる成形素材の
伸びを大きく、かつ硬さを低くすることができる。
【0028】前記密度が7.3g/cm3 以上の予備成
形体を焼結工程で仮焼結することによって、金属粉の粒
界に黒鉛が残留している組織をもった成形素材が得られ
る。前記金属粉の粒界に黒鉛が残留している状態では、
金属粉の結晶内部に炭素が殆ど拡散しておらず、少なく
とも結晶粒界に黒鉛が析出していない状態となる。具体
的には、前記金属粉の組織は全体がフェライト組織か或
いは黒鉛の近傍にパーライトが析出した組織を呈してい
る。このため、前記焼結工程で仮焼結された成形素材は
伸びが大きく、かつ硬さが低い性質を有し、優れた変形
能を有することになる。
【0029】加えて、前記密度が7.3g/cm3 以上
の予備成形体では、金属粉の粒子間の空隙が連続せず、
孤立した状態となっており、これによって、焼結工程で
の仮焼結後の伸びが大きい成形素材が得られる。即ち、
前記金属粉の粒子間の空隙が連続している場合には、仮
焼結時の炉内の雰囲気ガスが予備成形体の内部に侵入し
て浸炭が促進されることになるけれども、空隙が孤立し
ているから、これが有利に防止されることによって、大
きな伸びが得られることになる。このことは、前記成形
素材の伸びは、密度を7.3g/cm3 以上とすること
により、予備成形体を仮焼結するするときに炭素の拡散
が殆ど生じないことになるから、黒鉛の量の影響を殆ど
受けないことを示していると共に、炭素の拡散が殆ど生
じないのであるから、仮焼結して得られる成形素材の硬
さも低く抑えられることを示している。
【0030】また、前記焼結工程の仮焼結によって金属
粉の粒子同士の接触面における表面拡散または溶融によ
る焼結が広範囲に亘って生じることにより、大きな伸び
が得られることになるのである。
【0031】前記予備成形体の成形工程は、請求項4記
載の発明にあっては、成形ダイスの成形空間内に充填し
た金属質粉を上パンチ及び下パンチで加圧して行われ
る。この場合に、前記予備成形体は全体として7.3g
/cm3 以上の高密度となり、予備成形体と成形ダイス
との摩擦が大きくなるけれども、上パンチ及び下パンチ
の一方または両方に設けた切欠き部分で、予備成形体の
密度が局部的に低密度となって摩擦が低下することにな
る。このため、前記予備成形体は成形ダイスの成形空間
に形成されたテーパー部の作用と相俟って、成形ダイス
から容易に離型され、密度が7.3g/cm3 以上の予
備成形体が容易に得られる。
【0032】前記焼結工程の仮焼結温度は、請求項5記
載の発明にあっては800〜1000℃が選択される。
これによって、前記金属粉の粒界に黒鉛が残留している
状態の組織を有し、伸びが10%以上で、硬さがHRB
60以下の、優れた変形能を有する成形素材が得られ
る。
【0033】したがって、請求項3記載の発明によれ
ば、焼結金属による機械的強度の高い機械部品を得るた
めに好適な、所定量の黒鉛が含まれ、伸びが大きく、か
つ硬さが低い性質を有し、優れた変形能を有する成形素
材の製造方法が得られる。
【0034】また、請求項4記載の発明によれば、密度
が7.3g/cm3 以上の予備成形体が容易に得られ
る。
【0035】また、請求項5記載の発明によれば、前記
金属粉の粒界に黒鉛が残留している状態の組織を有し、
伸びが10%以上で、硬さがHRB60以下となり、従
来よりも優れた変形能を有する成形素材が得られる。
【0036】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図
面に基づいて詳述する。
【0037】図1は本発明の実施の形態を示す金属質粉
成形素材の製造工程説明図、図2は予備成形体の製造工
程を、成形ダイスの成形空間内に金属質粉を充填した状
態(a)、金属質粉を上パンチ及び下パンチで加圧した
状態(b)、加圧完了後予備成形体の取り出しのために
成形ダイスを下降させ始めた状態(c)、予備成形体を
取り出す状態(d)で示す説明図、図3は黒鉛を0.5
重量%混合した金属質粉から形成した予備成形体を80
0℃で仮焼結して得られた成形素材の密度と伸びとの関
係を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面、図4
は成形素材の組織を示す図面、図5は密度が7.3g/
cm3 の成形素材について、黒鉛量と仮焼結温度とを変
化させた場合の伸びの変化を、データ(a)及びグラフ
(b)で示す図面、図6は密度が7.5g/cm3 の成
形素材について、黒鉛量と仮焼結温度とを変化させた場
合の伸びの変化を、データ(a)及びグラフ(b)で示
す図面、図7は密度が7.3g/cm3 の成形素材につ
いて、黒鉛量と仮焼結温度とを変化させた場合の硬さの
変化を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面、図
8は密度が7.5g/cm3 の成形素材について、黒鉛
量と仮焼結温度とを変化させた場合の硬さの変化を、デ
ータ(a)及びグラフ(b)で示す図面、図9は粒径が
20μmの黒鉛を0.5重量%混合した金属質粉から形
成した、密度が7.3g/cm3 及び7.5g/cm3
の成形素材について、仮焼結温度と降伏応力との関係
を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面、図10
は粒径が5μmの黒鉛を0.5重量%混合した金属質粉
から形成した、密度が7.3g/cm3 及び7.5g/
cm3 の成形素材について、仮焼結温度と降伏応力との
関係を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面、図
11は試験片を、平面図(a)及び側面図(b)で示す
図面である。
【0038】図において1は成形工程、2は焼結工程
で、本発明の成形素材Sは、これら成形工程1と焼結工
程2でとを経て得られる。前記成形素材Sは再圧縮成形
(例えば冷間鍛造)された後、再焼結され、所定の機械
部品が得られることになる。
【0039】先ず、前記成形工程1では、この実施の形
態において図2(1)〜(4)に示すように、金属質粉
3を成形ダイス4の成形空間5内に充填し、上パンチ6
及び下パンチ7で加圧して、予備成形体8を得る。この
場合に、前記金属質粉3及び成形ダイス4は常温状態に
ある。
【0040】詳しくは、前記金属質粉3は、鉄を主成分
とする金属粉3aに0.3重量%以上の黒鉛3bを混合
して形成される。前記金属質粉3に添加する黒鉛3bの
量を0.3重量%以上とすることによって、成形素材S
を再圧縮成形、再焼結して得られる機械部品の機械的強
度を、鋳鍛造材と同程度に高めることができるのであ
る。
【0041】前記金属質粉3が充填される成形ダイス4
の成形空間5は、上パンチ6が挿入される大径部9と、
下パンチ7が挿入される小径部10と、これら大径部8
と小径部9とを繋ぐテーパ部11とを備えている。
【0042】前記成形ダイス4の成形空間5内に挿入さ
れる上パンチ6及び下パンチ7の一方または両方、この
実施の形態においては上パンチ6には、成形ダイス4の
成形空間5に臨む端面12の外周端部に、成形空間5の
容積を増大させる切欠き13が形成してある。前記切欠
き13はこの実施の形態において断面が鉤形で環状に形
成してある。
【0043】14は前記成形ダイス4の成形空間5内に
挿入されるコアで、このコア14によって、成形空間5
内で形成される予備成形体8は略円筒状に形成されるこ
とになる。
【0044】前記成形工程1は、先ず、成形ダイス4の
成形空間5内に鉄を主成分とする金属粉3aに0.3重
量%以上の黒鉛3bを混合してなる金属質粉3を充填す
る(図2(1)参照)。
【0045】次に、前記成形ダイス4の成形空間5内に
上パンチ6及び下パンチ7を挿入して金属質粉3を加圧
する。詳しくは、前記上パンチ6が成形空間5の大径部
9内に挿入され、下パンチ7が成形空間5の小径部10
内に挿入されて加圧される。このとき、前記切欠き13
が形成された上パンチ6は大径部9内で停止するように
なっている(図2(2)参照)。
【0046】前記金属質粉3が加圧され、圧粉成形され
た後、上パンチ6を後退(上昇)させると共に、成形ダ
イス4を下降させ(図2(3)参照)、圧粉成形された
予備成形体8を成形空間5内から取り出す(図2(4)
参照)。
【0047】ところで、一般に、金属質粉を圧粉成形す
る場合には、圧粉成形品の密度が高くなるにつれて、圧
粉成形品と成形型との間の摩擦が増大することや、圧粉
成形品のスプリングバック等によって、成形型内から圧
粉成形品を取り出すことが困難となる。このため、高密
度の圧粉成形品を得ることが困難であるとされていると
ころ、前記成形工程1においてはこれが有利に解決され
る。
【0048】即ち、前記成形ダイス4の成形空間5はテ
ーパ部11を備えているから、このテーパ部11が所謂
抜き勾配となって、圧粉成形された予備成形体8の取り
出しが容易に行える。また、前記上パンチ6には、成形
ダイス4の成形空間5に臨む端面12の外周端部に、成
形空間5の容積を増大させる切欠き13が形成してある
から、この切欠き13の部分で局部的に予備成形体8の
密度が低くなり、予備成形体8と成形ダイス4との間の
摩擦や、予備成形体8のスプリングバック等が低く抑え
られ、予備成形体8の取り出しが容易になる。
【0049】これによって、前記密度が7.3g/cm
3 以上の予備成形体8を容易に得ることができる。
【0050】前記予備成形体8の密度を7.3g/cm
3 以上とすることによって、この予備成形体8を焼結工
程2で仮焼結して得られる成形素材S(後に詳述する)
の伸びを大きくすることができる。即ち、図3に示すよ
うに、前記予備成形体8の密度を7.3g/cm3 以上
とすることによって、成形素材Sの伸びを10%以上と
することができるのである。
【0051】次に、前記成形工程1で得られた予備成形
体8を焼結工程2で仮焼結する。これによって、図4に
示すように、金属粉3aの粒界に黒鉛3bが残留してい
る組織を持った成形素材Sが得られる。前記金属粉3a
の粒界に黒鉛3bの全部が残留している場合には、金属
粉3aの組織は全体がフェライト(F)組織であり、黒
鉛3bの一部が残留している場合には、金属粉3aの組
織は、フェライト地に、黒鉛3bの近傍にパーライト
(P)が析出した組織を呈する。少なくとも、前記金属
粉3aの全体がパーライト組織であったり、金属粉3a
の結晶粒界に黒鉛3bが析出した組織とはなっていな
い。このため、前記成形素材Sは伸びが大きく、かつ硬
さが低い性質を有し、優れた変形能を有することにな
る。
【0052】加えて、前記密度が7.3g/cm3 以上
の予備成形体8では金属粉3a粒子間の空隙が連続せ
ず、孤立した状態となっており、これによって、仮焼結
後に伸びが大きな成形素材Sが得られる。即ち、前記金
属粉3aの粒子間の空隙が連続している場合には、仮焼
結時の炉内の雰囲気ガスが空隙を介して予備成形体8の
内部に深く侵入して浸炭が促進されることになるけれど
も、空隙が孤立しているから、これが有利に防止される
ことによって大きな伸びが得られる。このことは、前記
成形素材Sの伸びは、密度を7.3g/cm3 以上とす
ることにより、黒鉛3bの量の影響を殆ど受けないこと
を示している。これは、前記予備成形体8を仮焼結する
ときに、炭素の拡散が殆ど生じないからである。また、
前記予備成形体8を仮焼結するときに炭素の拡散が殆ど
生じないのであるから、仮焼結して得られる成形素材S
の硬さも低く抑えられることになる。
【0053】また、前記焼結工程2によって、金属粉3
aの粒子同士の接触面における表面拡散または溶融によ
る焼結が広範囲に亘って生じることにより、大きな伸
び、好ましくは10%以上の伸びが得られることになる
のである。
【0054】前記焼結工程2の仮焼結温度は、好ましく
は800〜1000℃の温度が選択される。前記焼結工
程2の仮焼結温度を800〜1000℃とすることによ
り、この焼結工程2を経て得られる成形素材Sを再圧縮
成形(例えば冷間鍛造)して所定形状の製品を得る場合
に、この再圧縮成形での変形抵抗を小さくして成形加工
を容易にするために、成形素材Sに優れた変形能が付与
される。即ち、図5及び図6に示すように、前記予備成
形体8を800〜1000℃の温度で仮焼結することに
よって、伸びが10%以上の成形素材Sが得られる。ま
た、図7及び図8に示すように、800〜1000℃の
温度で仮焼結することによって、硬さがHRB60以下
の成形素材Sが得られる。前記成形素材SのHRB60
以下の硬さは、炭素量が0.2%程度の低炭素鋼を焼鈍
して得られる硬さよりも軟らかいものである。
【0055】また、前記成形素材Sの降伏応力は、図9
及び図10に示すように、仮焼結温度が800〜100
0℃の範囲において202〜272MPaとなり、この
値は、炭素量が0.2%程度の低炭素鋼の降伏応力より
も小さな値となる。
【0056】したがって、所定量の黒鉛3bが含まれ、
伸びが大きく、かつ硬さが低い性質を有し、優れた変形
能を有する成形素材S及びその製造方法が得られる。
【0057】また、前記成形工程2の成形ダイス4にテ
ーパ部11を形成すると共に、上パンチ6に切欠き13
を形成したことにより、密度が7.3g/cm3 以上の
予備成形体8を容易に得ることができる。
【0058】また、前記焼結工程2の仮焼結温度を80
0〜1000℃とすることにより、前記金属粉3aの粒
界に黒鉛3bが残留している状態の組織を有し、伸びが
10%以上で、硬さがHRB60以下となり、従来より
も優れた変形能を有する成形素材Sが得られる。
【0059】以上、実施の形態を図面に基づいて説明し
たが、具体的構成はこの実施の形態に限られるものでは
なく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、前記予備成形体8は、金属質粉3及び成形型を
所定温度に加熱して、金属質粉3の降伏点を低下させた
状態で行う、所謂温間成形によって形成するようにして
もよい。
【0060】また、前記上パンチ6に、成形空間5の容
積を拡大させる切欠き13を形成した実施の形態につい
て述べたが、この切欠き13は下パンチ7に設けてもよ
く、また、上パンチ6及び下パンチ7の両方に設けても
よい。
【0061】
【実施例】具体的に次のような条件で実験した結果、次
のような結果が得られた。
【0062】実験例1:鉄を主成分とする、平均粒径が
80μmの金属粉末に、0.5重量%の、平均粒径が2
0μmの黒鉛を混合して金属質粉を形成し、この金属質
粉を圧粉成形して、密度が7.3g/cm3 の予備成形
体を形成した。前記予備成形体を窒素ガス雰囲気のステ
ンレスメッシュ炉内で、900℃で60分間仮焼結して
成形素材を得た。その結果、前記成形素材の伸びは1
6.2%、硬さはHRB48.8であった。なお、仮焼
結時間を60〜120分の範囲で変化させて実験した
が、成形素材の伸び及び硬さへの影響は殆どなかった。
【0063】また、前記成形素材を冷間鍛造し、110
0℃で再焼結した状態の製品から図11に示す試験片を
作成して引張り試験をした結果、引張り強度は637N
/mm2 であった。また、再焼結後に更に熱処理を加え
た製品の引張り強度は1000N/mm2 であった。な
お、前記試験片の密度は炭素鋼の密度と同じ7.87g
/cm3 であった。
【0064】実験例2:鉄を主成分とする、平均粒径が
80μmの金属粉末に、0.5重量%の、平均粒径が2
0μmの黒鉛を混合して金属質粉を形成し、この金属質
粉を圧粉成形して、密度が7.5g/cm3 の予備成形
体を形成した。前記予備成形体を窒素ガス雰囲気のステ
ンレスメッシュ炉内で、900℃で60分間仮焼結して
成形素材を得た。その結果、前記成形素材の伸びは1
6.9%、硬さはHRB50.6であった。なお、仮焼
結時間を60〜120分の範囲で変化させて実験した
が、成形素材の伸び及び硬さへの影響は殆どなかった。
【0065】また、前記成形素材を冷間鍛造し、110
0℃で再焼結した状態の製品から図11に示す試験片を
作成して引張り試験をした結果、引張り強度は637N
/mm2 であった。また、再焼結後に更に熱処理を加え
た製品の引張り強度は1000N/mm2 であった。な
お、前記試験片の密度は炭素鋼の密度と同じ7.87g
/cm3 であった。
【0066】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明に
よれば、焼結金属による機械的強度の高い機械部品を得
るために好適な、所定量の黒鉛が含まれ、伸びが大き
く、かつ硬さが低い性質を有し、優れた変形能を有する
金属質粉成形素材及びそのが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示す金属質粉成形素材の
製造工程説明図である。
【図2】予備成形体の製造工程を、成形ダイスの成形空
間内に金属質粉を充填した状態(a)、金属質粉を上パ
ンチ及び下パンチで加圧した状態(b)、加圧完了後予
備成形体の取り出しのために成形ダイスを下降させ始め
た状態(c)、予備成形体を取り出す状態(d)で示す
説明図である。
【図3】黒鉛を0.5重量%混合した金属質粉から形成
した予備成形体を800℃で仮焼結して得られた成形素
材の密度と伸びとの関係を、データ(a)及びグラフ
(b)で示す図面である。
【図4】成形素材の組織を示す図面である。
【図5】密度が7.3g/cm3 の成形素材について、
黒鉛量と仮焼結温度とを変化させた場合の伸びの変化
を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面である。
【図6】密度が7.5g/cm3 の成形素材について、
黒鉛量と仮焼結温度とを変化させた場合の伸びの変化
を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面である。
【図7】密度が7.3g/cm3 の成形素材について、
黒鉛量と仮焼結温度とを変化させた場合の硬さの変化
を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面である。
【図8】密度が7.5g/cm3 の成形素材について、
黒鉛量と仮焼結温度とを変化させた場合の硬さの変化
を、データ(a)及びグラフ(b)で示す図面である。
【図9】粒径が20μmの黒鉛を0.5重量%混合した
金属質粉から形成した、密度が7.3g/cm3 及び
7.5g/cm3 の成形素材について、仮焼結温度と降
伏応力との関係を、データ(a)及びグラフ(b)で示
す図面である。
【図10】粒径が5μmの黒鉛を0.5重量%混合した
金属質粉から形成した、密度が7.3g/cm3 及び
7.5g/cm3 の成形素材について、仮焼結温度と降
伏応力との関係を、データ(a)及びグラフ(b)で示
す図面である。
【図11】試験片を、平面図(a)及び側面図(b)で
示す図面である。
【符号の説明】
1 成形工程 2 焼結工程 3 金属質粉 3a 金属粉 3b 黒鉛 8 予備成形体

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鉄を主成分とする金属粉に0.3重量%
    以上の黒鉛を混合してなる金属質粉を圧粉成形して得ら
    れた、密度が7.3g/cm3 以上の予備成形体を所定
    温度で仮焼結してなり、金属粉の粒界に黒鉛が残留して
    いる状態の組織を有することを特徴とする、金属質粉成
    形素材。
  2. 【請求項2】 前記金属質粉成形素材は、伸びが10%
    以上で、硬さがHRB60以下であることを特徴とす
    る、請求項1記載の金属質粉成形素材。
  3. 【請求項3】 鉄を主成分とする金属粉に0.3重量%
    以上の黒鉛を混合してなる金属質粉を圧粉成形して、密
    度が7.3g/cm3 以上の予備成形体を得る成形工程
    と、この成形工程で得られた予備成形体を所定温度で仮
    焼結して、金属粉の粒界に黒鉛が残留している状態の組
    織を有する金属質粉成形素材を得る焼結工程と、からな
    ることを特徴とする、金属質粉成形素材の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記成形工程は、成形ダイスの成形空間
    内に充填した金属質粉を上パンチ及び下パンチで加圧し
    てなり、前記成形ダイスの成形空間が、上パンチが挿入
    される大径部と、下パンチが挿入される小径部と、これ
    ら大径部と小径部とを繋ぐテーパ部とを備え、前記上パ
    ンチ及び下パンチの一方または両方が、成形ダイスの成
    形空間に臨む端面の外周端部に、成形空間の容積を増大
    させる切欠きを備えてなることを特徴とする、請求項3
    記載の金属質粉成形素材の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記焼結工程の仮焼結温度は、800〜
    1000℃であることを特徴とする、請求項3記載の金
    属質粉成形素材の製造方法。
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