【発明の詳細な説明】
改変タンパク質
本発明は、安定なC3転換酵素を形成可能である新規の改変タンパク質、この
ようなタンパク質をコードするDNA配列、および特に補体経路のタンパク質の
量を減少させる目的で使用する治療剤としてのこのようなタンパク質の使用に関
連する。
補体系は、ヒトおよび他の脊椎動物の免疫反応において機能し、局部的な炎症
反応を誘導するような食作用、細胞溶解、および細胞の増加等のエフェクター機
能において、重要である[15]。これらの特性は、バクテリアのような侵入してく
る病原体の除去に望ましいが、宿主の組織(例えば、虚血後流障害後[3])に対
して、または外来の治療物質(例えば異種移植片に対する特に激しい拒絶[7])
に対して働き始める場合には、望ましくない。通常の機能が補体の活性を抑制す
るような補体制御タンパク質の誘導体を利用することによって、これらの望まし
くない特性を排除する試みがなされてきた[10,18]。
補体系は、細胞表面にある(受容体および調節因子)タンパク質および液相(
血漿および他の細胞外環境)中のタンパク質の双方を含む。反応が開始するため
の決定的な段階は、C3をC3bおよびC3a断片にタンパク分解的に転換する
ことである。C3aは、C5aと同様に、アナフィラトキシンであり、肥満細胞を
投与部位に引き寄せ、その結果、局部的なヒスタミンの放出、血管拡張および他
の炎症効果を引き起こす。生じたばかりのC3bは、生じた部位の周辺の表面に
結合する能力を有する。それからこのC3bは、細胞溶解性補体組成物(C5-
C9)による攻撃に焦点をしぼる。
表面に結合したC3b、およびその分解産物もまた、例えば食作用のようなC
3受容体を仲介するためのリガンドとして機能する[15]。補体の活性化には、2
つの異なる経路があり、どちらもC3をC3bに変換し、続いて起こる反応を引
き起こす。古典的経路は、抗体が抗原と結合することによって共通に引き金がひ
かれ、C1q、C1r、C1s、C2およびC4タンパク質を含む酵素のカスケ
ードが開始するというものである。もうひとつの経路はC3そのものを含み、因
子BおよびDを必要とする活性化回路に依存している。
C3をC3b(またはC3i)に転換すると、因子Bに結合可能な産物を生じ
C3bB(またはC3iB)が産生される。これらの複合体は、因子Dによって
活性化されて、さらにC3をC3bに切断可能なC3転換酵素であるC3bBb
を生じ、これによってC3bBおよびC3の転換がより多くなる結果となる。あ
る条件下において、C3bBb複合体は、正の制御因子であるプロパジン(P)
と結合することによって安定化される。しかし、この正のフィードバック経路は
、通常、特に因子Hおよび因子Iのような制御タンパク質によって定常状態に抑
えられている。
因子H(および構造的に関連のある細胞に結合する分子)は、(i)C3bを
BおよびBbに置き換える、および(ii)C3bを切断してiC3bに転換する
因子Iのコファクターとして機能することによって、因子Bと共にさらにC3転
換酵素を形成することを防ぐ。この経路は、生じたばかりの(nascent)
C3bに結合して因予HおよびIによる制御を妨害する、多数のバクテリアの細
胞壁のような表面物質が存在する際に、活性化してC3bの生産が増幅される。
生じたばかりのC3bもまた、生体内の細胞に結合することが可能である。それ
ゆえ、通常補体にさらされている生体内の細胞表面は、因子Hと同様の方法でM
CP、DAFおよびCR1のような膜結合型制御因子によってさらに防御されて
いる。
通常の液相における制御は起きないで、突発的なC3転換が最終的に循環から
のC3の総括的な除去という結果になるような自然にはほとんど起こらないよう
な条件がいくつかある:(i)因子HまたはIの遺伝的欠損[13]、(ii)C3b
Bbに結合して解離を妨害する抗体(腎炎ファクター)の存在[4]、および(iii
)因子Bと結合し、C3bを含まないC3転換酵素を形成し、因子HおよびIに
よって影響されないコブラ毒液因子(CVF)と呼ばれるコブラ毒液中にあるタ
ンパク質との接触[14]。これらは、特定の活性化がおきない場合における補体の
下方制御の通常の生理学的な重要性を示している。
また、特定の活性化は起こるが、特に宿主の組織(例えば、虚血または外科手
術によって損害を受けた組織)または治療上の目的で与えられた外来物質(例え
ば、異種移植片、人工器官または透析膜)に向かう場合のように望まれない状況
もある。補体の活性化は、望ましくない攻撃およびさらなる障害を引き起こす結
果となるので、このような場合には、活性化および反応を阻害することが有益で
ある。
補体によって仲介される損傷を防ぐための現存の手法は、補体の活性化を妨げ
る抑制制御タンパク質(CR1、MCP、DAFおよび因子HおよびI)の使用
に的が絞られてきた。因子I、因子Hならびに膜結合タンパク質CR1、DAF
、MCPの可溶性の誘導体のような補体阻害因子は、もうひとつの経路の液相増
幅回路を抑圧する。それゆえ、これらの分子、特に生理学的条件のモデルにて補
体によって仲介される損傷を減少させる(能力が最も高いと思われる)CRIを
使用する試みがなされてきた[10,18]。
因子Hは、血漿中に高濃度で生体内に存在する(典型的に0.3-0.5mg/ml[15])
ため、阻害剤の量を増加して液相における反応を減衰させたとしても、これらの
効能は弱いため、精製したタンパク質を大量にin vivoに投与する必要がある(
例えば、おそらく可溶性のCR1は体重1kgに対して5mgより過剰に)。さらに
、もうひとつの経路は、因子Hの効果が既に阻害されている表面物質によって活
性化される。これは他の阻害剤の活性を必ずしも同時に減少する必要性がない一
方、同一の因子は、完全または普遍的な効果を持つのではないことが示唆される
。
コブラ毒液因子(CVF)は、in vivoにおける動物中、およびin vitroにお
ける他のサンプル(例えば、ヒト血漿)の補体を実験的に減少させるために使用
できる安定なC3転換酵素を生産するという特性をもつ。CVFには活性がある
(例えば、40μg/Kgでマウスの補体活性を遮断することが可能である[16]
)。しかし、ヒトに対する治療として使用するのには適さない不利な点がある。
第一に、これは、コブラ毒液から得られ(入手が難しいものであり、扱いが危
険)、それゆえ、神経毒素である毒液から注意深く精製しなければならない。ま
た、供給源を入手することが明らかに困難である。in vitroで再現することが困
難である(または不可能な)翻訳後修飾(特定のタンパク質分解過程)がヘビ体
内においておこるため、この問題は、ex vivoにおける遺伝子のクローニングお
よび発現によって容易に克服できない。さらに、このプロセッシングに必要な酵
素および分解条件は、現在知られていない。第二に、タンパク質は、(ヒトに対
し
て)外来性のものであり、それゆえ免疫源である。このことから、(例えば、異
種移植片が残るようにするため)何週間もにわたって患者の補体を不活性化する
のに必要な繰返しの治療に使用することは、不能である。
CVFは、ヒトC3と構造的および機能的な相同性もいくらか有するが[17]、
またこの2つの観点について、大きな相違もみられる(例えば、鎖構造、生合成
のおこる場所、補体制御因子に対する不感受性、安定なC3転換酵素の形成)。
これまでに知られている、クローン化されシーケンスされており、それ自身、構
造および機能がCVFよりもヒトC3に類似している、C3に相当するものは、
コブラから単離されていない[8]。
CVFは、人類とは進化的に非常にかけ離れた、毒液特異的な産物である。そ
れゆえ、遺伝学的操作を使用してこのタンパク質を、ヒトにおいて免疫原性がな
く使用可能な産物に改変することは、実際的ではない。
我々は、今や、、生理的な制御をバイパスして、補体の活性を阻害することな
くシステムを超活性化するような別の手法を発明した。これは、2つの応用がで
きる。第一に、in vivoで1つまたはそれ以上の組成物が使いはたされるまで、
補体を活性化するのに使用でき、その結果、(異種移植片のように)引き続いて
行う投与に対して局部的な反応を引き起こす能力が失われる。第二に、制御され
ない超活性化は、補体によって仲介される破壊反応に対する標的の感受性を増加
するために、特定の標的(例えば、ウイルスまたはウイルスに感染した細胞)に
局在させることが可能である。
”補体の活性化制御因子”という言葉は、本明細書において、C3変換の増幅
を阻害するように機能するあらゆるタンパク質を含むとして使用され、遺伝子が
RCA遺伝的座位に位置するタンパク質を意味するということに限らない。しか
し、プロパジンのような”促進制御因子”は含まない。”C3転換”は、例外を
示さない限り、C3のC3bおよびC3aへのタンパク分解的な転換として定義
され、”C3転換酵素”(または単に”転換酵素”)は、この反応を触媒する酵
素(典型的には、2つまたはそれ以上のタンパク質組成物の複合体;例えば、C
3bBb、C3iBb、CVFBbまたはC4b2a)として定義する。
従って、本発明の第一の側面は、安定なC3転換酵素を形成可能なように改変
した天然の補体経路タンパク質を提供する。
”天然の(native)”は、自然におこる、すなわち自然界で入手可能で
あることを意味する。従って、定義は、上記に記載したように自然に生じた改変
された補体経路タンパク質も含まれる。種特異的なタンパク質に限定してはいな
い。言葉を変えて言えば、例えば、改変したヒトタンパク質は、他の哺乳類にお
いて安定なC3転換酵素として使用可能である。典型的に、同一種に由来する改
変した補体経路タンパク質は使用できるであろう。
例えば、部位特異的突然変異導入法を使用したC3DNAコード配列の改変に
よって、正の機能的特性(C3転換酵素によって切断してC3bにする)および
構造的特徴(正確な鎖構造、およびチオールエステル結合の存在)を維持してい
るにも関わらず、補体制御タンパク質に耐性のあるC3誘導体を作成可能である
。本明細書中に記載した発明は、例えば、ヒトC3のような天然の補体タンパタ
質を遺伝的に改変した形態であって、そのC3b断片が生理的な補体制御に対し
て耐性であるという特性を獲得したものに関連する。この耐性のために、これら
の分子は生理学的条件下において(例えばin vivo)、C3をC3bに増幅的に
転換し、分解産物を作るC3転換酵素に相当する安定化した形態を作ることが可
能である。
好適な態様において、本発明は因子Iによる切断に耐性な改変したヒトC3タ
ンパク質を提供する。
これは、タンパク分解部位のタンパク質残基を改変することによって可能であ
る。
本発明の特に好適な態様は、Arg-1303,Arg-1320または両方を他のアミノ酸で
置換することによってタンパク質を改変した、改変ヒトC3タンパク質に関連す
る。他のアミノ酸は、チロシン、システイン、トリプトファン、グルタミン、グ
ルタミン酸、またはグリシンでもよい。Arg-1303は、好適にはグルタミン酸また
はグリシンで置換する(好適さは劣るが、グルタミンでもよい)。Arg-1320は、
好適にはグルタミンで置換する。
本発明の適切な改変したタンパク質を生産するための他の手法は以下を含む:
i)因子Hおよび関連タンパク質(例えばMCP、DAF、CR1)の阻害機能
に
対する感受性の減少。例えば、ヒトC3において、767-776および1209-1271残基
は因子Hの結合に含まれ[20,24]、これらの残基またはこれらのタンパク質の活
性とも関連する他の残基の1つまたはそれ以上の置換によって、1つまたはそれ
以上のこれらの制御タンパク質の結合が減少される。
ii)C3bBbの解離速度の減少。C3およびBb間の相互作用を強化する突然
変異を導入することが可能である。これによって、酵素の突発的な複合体解離が
減少し、およびC3bをBbに置換する際に、因子H(および関連する制御因子
)の効果が減少することになる。
これらの突然変異は、C3bBbの突発的および因子Hに仲介された分解速度
を両方とも減少するのに望ましい。因子Hが存在しない時でさえも、液相におけ
るC3bBb複合体は、プロパジン存在下において37度にて半減期はおよそ1
0分である[6]。
iii)ヒトC3の752-761残基は、因子Bに結合することが示されている。これは
、C3において高度に保存された領域で、C4にも密接に関連した配列が存在す
る。C4が因子B相同体であるC2に結合するように、C3とC4間でこの領域
の強い相同性と、C3において高度に保存されていることをあわせると、C3の
因子B結合部位としてのこの領域の役割がさらに支持される。従って、この領域
を変換することは、Bの親和性およびC3bBbの安定性に影響を与えうる。
iv)CR1、DAFおよびMCPのような補体活性化の他の制御因子に対する耐
性もまた、望ましい。これらの制御因子の活性機構は、すべて因子Hと同様なの
で、さらに突然変異を導入することは必ずしも必要ではないだろう。同様に、病
原性を有する生物は、因子Hにしばしば構造的および機能的相同性のある補体活
性化に対する自分自身の阻害剤を発現する(例えば、ワクシニアウイルス分泌タ
ンパク質)。これらの分子は、免疫反応に対する侵入物を保護し、これによって
これらの防御に耐性な標的C3転換酵素で攻撃することを可能にするという利点
を持つ。
v)プロパジンによってC3転換酵素の安定性を増加させる突然変異。プロパジ
ンの活性は、突発的なそして因子Hに依存した分解を減少させるて、C3bBb
複合体を安定化させる。この安定化は、液相においては効果はないが、適切に活
性
化する表面物質上で一度開始すると、経路を増幅するのにより重要であると考え
られる[5]。(親和性が増加することによって)活性が上昇すると、液相におけ
る平衡をくるわせ、それによって突発的なC3転換を促進する。これは、上述し
た他の改変法と組み合わせると特に有用である。
vi)C5転換酵素活性からC3bBbを保護するための突然変異。循環回路から
活性のあるC3を除去するために使用した場合に、望ましくない副産物である、
大量のアナフィラキシー様のペプチドが生成される。これらのうちでもっとも活
性のあるものは、あるC3転換酵素によってC5から切断されたC5aである。
この反応は、他の分子であるC3bに対する転換酵素の親和性におそらく依存し
[11]、したがって、この相互作用を防ぐようなC3に対する突然変異によって抑
圧を受けやすい。
vii)C3転換酵素の活性の増強。C3bBb C3転換酵素の活性部位は、Bb
部位に存在する。C3b組成物は、おそらく、Bbの活性形態を増幅し、および
/またはBbによって活性化される基質に結合しおよび方向性を与える機能を有
する。これは既知のことではないが、いずれにしても、C3に突然変異を導入す
ることによって転換酵素の活性を増強させると考えられる。
viii)機能形態における発現。野生型C3は、新しいC3転換酵素複合体に結合
できるように、C3bに転換することが必要である。in vivoで使用する場合に
は、C3b(またはC3i)に転換する必要性があると、改変したC3の活性が
減少する可能性がある。それゆえ、すばやく転換酵素の形成ができる形態におい
てタンパク質を投与する、またはあらかじめ形成しておいた転換酵素複合体を投
与することが望ましい。それゆえ、機能するC3b様の試薬を生体外(ex v
ivo)で作成することが有利である。これは、in vitroで遂行することが可能
である(例えば、タンパク質の分解によって)。
ix)因子Bの結合に必要なペプチド領域は維持するが、因子Hの結合に決定的に
必要な領域は特異的に除去できるような、新規の切断部位を導入するような天然
のタンパク質の改変。例えば、改変したC3のC3b様が因子Bにはまだ結合で
きるが因子HおよびIによる不活化を受けにくい形態にさらに分解されるような
部位を導入することが可能である。
x)C3bの因子Bおよび/または因子Hとの相互作用に影響する他の領域の改変
。
本発明は、C3転換酵素を活性化してC3を除去し、それによってシステムを
壊遮断するという、従来の手法の逆の発想に基づいている。本発明のさらなる応
用は、特定の部位においてC3転換を活性化し、これによって特定の標的を攻撃
するための補体に依存したエフェクター機構を機能させる可能性である。
それゆえ、最終的な効果は、改変したタンパク質を補体活性化の制御因子を含
む生理的培地(例えば血液)中に投与する場合に、C3転換の量が増加すること
である。それからこの活性は、天然のC3を培地から除去すること、または望ま
しい標的にC3転換酵素を局在させるために使用可能である。
C3b断片が因子Iの活性に対して耐性のあるC3類似体(例えば、実施例1
に記載した誘導体)は、因子Bに結合し、それから因子Dによって切断されて結
果として不活性化形態へと分解するであろう。因子Iによる不活性化が起こらな
ければ、改変したC3bは新しい因子B分子に繰り返し結合し、それによって不
活性化を促進することが可能である。それゆえ、本発明において記載した改変の
別の可能性のある応用は、因子B活性を消費することによって別の経路を不活性
化することである。似たような手法もまた、C2の消費を促進するようにC4を
改変することに使用でき、それによって、補体活性化の従来の経路が遮断される
のである。
本発明は、補体活性化の制御因子が存在するにも関わらず、C3をC3bに切
断することのできるC3bBb酵素と類似の方法で使用される他のすべてのプロ
テアーゼも含む。
本発明はまた、本発明のDNA配列を含むDNA構築物と同様に、本発明のタ
ンパク質をコードするDNA配列もまた含む。
”DNA配列”は、遺伝コードの縮退(縮重)のために、同様に与えられたア
ミノ酸配列をコードする核酸配列、あるいは実質的にこの配列に相同性のある他
の核酸配列をすべて含む。従って、これらの配列も、また、本発明の範囲内に含
まれる。
”実質的に相同性のある”核酸配列もまた、本発明の範囲内に含まれる。”実
質的な相同性”は、核酸レベルまたはアミノ酸レベルで評価される。核酸レベル
において、実質的に相同性のある配列は、ストリンジェントな条件において(例
えばおよそ0.9Mの塩溶液にて35から65℃)本発明の核酸配列にハイブリダイズす
るものと考えられる。アミノ酸レベルにおいて、有意な数の連続した有意なアミ
ノ酸が相同性を示す場合に、タンパク質配列は他のタンパク質配列に実質的に相
同性があると考えられる。アミノ酸の類似性が少なくとも55%,60%,70%,80%,90%,
95%,または99%ならば、相同性がある。
上記に記載したように、本発明のタンパク質は、局所的な補体活性化効果を遂
行するために使用可能である。これを証明するための1つの方法は、望ましい標
的に結合する分子に、このタンパク質を結合させることである。従って、本発明
の別の見地において、本発明のタンパク質を、例えば、特定の結合タンパク質の
ような、特定の結合分子と結合した結合体を提供する。このようなタンパク質の
例は、抗体またはその抗原結合断片であろう。
本発明のタンパク質は、望ましい治療上の効果を引き出すために、患者に投与
することを目的としている。それゆえ、この目的のために、本発明は、以下のこ
ともまた、提供する:
a)治療において使用する本発明のタンパク質;
b)補体系路のタンパク質の量を減少する、および特に外来物質の拒絶を防ぐた
めに使用するための薬剤の製造における本発明のタンパク質または結合物の使用
;
c)1つまたはそれ以上の本発明のタンパク質または結合物を、1つまたはそれ
以上の薬剤的に受容可能な担体および/または補形剤と一緒にむ薬剤的処方;お
よび
d)好適には薬剤処方の形態において、本発明のタンパク質を哺乳動物に投与す
ることを含む、哺乳動物における補体系路のタンパク質を減少させる方法。
薬剤処方は、服用量あたり活性のある成分を予定量含む一単位の服用量の形態
で存在してもよい。このような単位は、最低でも、例えば、活性成分を1mgおよ
び好適には2-3mg含むことができる。このような一単位の服用量が含むことの可
能な上限は、経済的考慮と、治療の状態、投与の方法および年齢、体重および患
者
の状態のような多くの因子に依存する。例えば、一単位の服用量の形態は、活性
成分を10mgまたは100mgほど含むことができる。
本発明のタンパク質は、補体系路を遮断するために、in vivoにおいて使用可
能である。これが望ましいであろう環境は、以下を含む:
(a)移植片、特に異種移植片(異なる種の動物由来の母性移植)、および特に
適合しない異種移植片(受容体および供与体の種が適合しない場合)に対する補
体を仲介した破壊または損害を防ぐこと。受容体は、手術の前に補体を不活性化
し、および移植片が適応するまたはより適応性のある器官に置き換えるまでこの
状態で維持される。
最初の処置は、移植の数日前に行うことができる。拒絶の危機の際にはさらな
る補体の不活性化が必要となるであろう。処置は、C3aおよび/またはC5aの
生産によって生じると考えられる一般的な炎症反応(例えば、血管拡張)を制御
する抗ヒスタミン剤の使用によって行うことができる。
補体の不活性化は、また、補体系を活性化する人工的な器官または組織(例え
ば、人工腎臓透析膜)の使用において、有益であろう。上記に記載したように、
タンパク質は、機能的にC3bに類似している形態である不活性化形態、または
前もって形成したC3転換酵素(C3bBb様)のいずれかである。これらは、
活性化した転換酵素が循環しているC3に出くわす経路によって投与することが
できる(例えば、静脈注射、皮下など)。
また、例えば活性化した転換酵素を生じる基質を循環しているところに輸注す
るような、生体外における処方がある。これは、補体を不活性化した血液(また
は血漿)を患者に戻す前に、アナフィラキシー様のペプチド(C3aおよびC5a
)および他の低分子量炎症仲介因子(例えば、ヒスタミンおよび酸化窒素)を(
例えば、透析によって)除去することが可能になるという利点がある。
(b)外科手術による補体に仲介される損傷を防ぐこと。患者は、上述したよう
に、好適には手術の前に(必要であればその後に)補体を不活性化し、および補
体に依存した免疫の攻撃によるさらなる体内の打撃の危険が減少するまでこの状
態に維持されるであろう。
(c)外科手術ではない傷害によって生じる補体によって仲介される損傷の最小
化。これらの場合において、補体の不活性化は、最初の傷害後に行われなければ
ならないが、処方および投与の方法は、上述の方法と同様でよい。これは回復が
循環による虚血組織の再潅流(例えば、心筋の虚血、凍傷、火傷など)を含む場
合に特に有用である得る。
(d)抗体-抗原相互作用によって生じる補体によって仲介される損傷の最小化。
補体によって仲介される防御的反応は、糸球体腎炎、溶血性貧血、重症性筋無力
症および2型コラーゲン関節炎を含む自己免疫性疾患において特に望ましくない
。深刻な症状が発現しているあいだ補体系を遮断すれば、症状は軽くなるだろう
。
(e)特定の標的病原体を補体によって仲介される免疫機構をより受けやすくす
ること。この手法において、目的は、超活性化型のC3転換酵素を使用して全身
のC3を減少することではなくて、望ましい標的の場所においてC3転換を局所
的に起こす転換酵素を使用することである。標的は、細菌、ウイルス、または他
の寄生生物のような病原性のある生物、または腫瘍細胞またはウイルスに感染し
た細胞のような心身的に有害な宿主細胞または組織であり得る。C3転換酵素は
、局所的な投与(例えば直接的な注入、一般的な循環中に分散することを阻止す
るような溶媒中で)または標的に結合する分子、例えば抗体、と結合することに
よって標的に局在させることが可能である。従って、タンパク質の化学的クロス
リンクによって、あるいはDNAコード配列に結合して融合タンパク質を発現(
および精製)することによって(例えば、IgGの場合、重鎖または軽鎖のいず
れかをC3に結合してC3と共に発現する、または両方の鎖を完全な1つの融合
ポリペプチドに結合することが可能である)、あるいは混合したときに自己集合
して安定な結合体を形成する産物を発現するような2つの融合分子(例えば改変
したC3および特定の抗体)のDNAに特定のコード配列(例えば”ロイシンジ
ッパー”様のドメイン)を付加することによって、改変したタンパク質を特定の
免疫グロブリンに結合できる。それから、融合タンパク質は、局所的または一般
的な循環の中に投与される。
リポソーム(表面に抗体を生じ、リポソームの表面または内側に改変タンパク
質を伴う)および/またはビリオン(例えば表面にタンパク質を発現するように
操
作したもの)もまた、抗体および改変タンパク質を共に輸送するのに使用可能で
ある。この手段は、病気の過程のどの段階においても、単独または他の処方と組
み合わせて直接使用可能である。腫瘍の外科的除去の後に血管中に残されたがん
細胞を除去するために使用することが特に適しているであろう。抗体を付加した
タンパク質結合体もまた、病原性の組織を除去するために生体外において使用可
能である。例えば、抽出した骨髄由来の白血病細胞を殺して、残った正常な細胞
を患者に戻すこと。
または、受容者のMHC型に適合しないリンパ細胞を、移植に先だって骨髄か
ら除去することが可能である。また、改変したタンパク質も抗原に結合すること
が可能で、この結合物は、in vivoまたはex vivo(生体外)において望ましくない
反応を起こすリンパ細胞を攻撃するために(例えば移植片または自己組織に対し
て)使用可能である。
同様の技術は、ヒト改変タンパク質誘導体、または種に特異的な類似体を使用
して他の種を治療するために適用可能である。
本発明の各々の見地の好適な特色は、それぞれ必要な変更を加えた個々の場合
の見地である。
本発明は、以下の実施例によって記載されるが、いずれの場合においても本発
明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。実施例は、付随する図解を参
照とする:
図1:PC3にコードされるヒトC3の予想されるタンパク質配列を示す;
(標準的な1文字アミノ酸コードを使用)。
図2:PC3におけるcDNA配列を示す;
(5’-3’に書かれたセンス方向の鎖に対する標準的な1文字核酸コードを使
用)。
図3:本発明の改変したタンパク質を視覚化したものを示す。
図4:因子Iによる切断部位であるArg1303またはArg1320を置換したヒトC3へ
のさまざまな突然変異導入の効果を示す。
注意
1、[35S]で生合成して標識した試料。
2、通常のイオン条件下で行った反応。
3、抗C3での免疫沈降。
4、還元条件下におけるSDS-PAGE。
5、オートラジオグラフィー。
図5:Arg1303->Gln1303変異を導入したヒトC3の因子IおよびHによる不活
性化に対する耐性が増加したことを示す。
図6:アミノ酸残基752-754および758-760に突然変異を導入したC3転換酵素の
切断活性の解析を示す。
これは、7.5%ポリアクリルアミドSDS-PAGEゲル(還元条件)を、ウエスタンブ
ロットした写真である。電気泳動の後に、ニトロセルロースにトランスファーし
、ヒツジ抗ヒトC3抗体でプローブ探査し、西洋わさびペルオキシダーゼに結合
させた抗ヒツジ免疫グロブリン抗体およびEnhance ChemiLuminescence(方法お
よび検出試薬はアマシャムより、英国)を使用してX線フィルム上に現像した。
切断反応および検出方法は、図3に示した結果を参照して実施例4に記載したよ
うに行った。
要点:
レーン1-4:野生型C3(COS細胞に発現した)
レーン5-8:変異型C3(752-754残基をGly-Ser-Glyに変換し、758-760残基もGl
y-Ser-Glyに変換した)(COS細胞に発現した)
レーン1、5:何も加えていない
レーン2、6:+CVFBb
レーン3、7:+因子H+I
レーン4、8:+CVFBb+因子H+I
矢印で示したバンドは:
A:C3α鎖
B:C3α’鎖
C:C3β鎖
D:C3α’鎖の68kDaの切断産物
E:IgG重鎖
図7:野生型または変異型のC3(C3i)の存在下における、因子Dによる放
射性標識した因子Bの切断解析を示す。
SDS-PAGEゲルのオートラジオグラフィーの写真を示す。全ての試料は、因子D
および125Iで標識した因子Bを含み、3時間37℃でインキュベートした。
番号を付けたレーンの試料はさらに以下のものを含んだ:
1、バッファーのみ
2、1/125倍の野生型C3
3、1/25倍の野生型C3
4、1/5倍の野生型C3
5、1/25倍の変異型C3(1427残基はGln,1431はAsp、および1433はGln)
6、1/5倍の変異型C3
7、希釈していない変異型C3
矢印で示したバンドは:
A、切断されていない125Iで標識した因子B(93kDa)
B、60kDaの切断産物(”Bb”)
C、33kDaの切断産物(”Ba”)
図8:C3iおよびIgGの結合体の形成を示すSDS-PAGE実験を示す。
これは、非還元条件下で泳動した4%アクリルアミドSDS-PAGEゲルのクマシー染
色を示す。番号を付けたレーンの試料は以下のようである:
1、PDP-IgG
2、C3i
3、PDP-IgG+C3i反応混合物
矢印で示したバンドは:
A、おそらくC3i-IgG結合体(350kDa)
B、C3i(200kDa)
C、IgG(150kDa)
図9:結合体がヒツジ赤血球に対するC3転換酵素活性を攻撃することを示す。
(このグラフは、C3i-IgG結合体、PDP-IgGまたはC3iのいずれかの希釈物で覆い
、洗浄した後にプロパジンおよび因子BおよびDでC3転換酵素を生じ、最終的
に方法に記載したようにCFD/EDTA中のNGPSによって溶菌した、溶解したヒツジ赤
血球の%を示す。結合体のみが溶解を生じさせ、この溶解は服用量に依存的であ
る。)
以下の標準的な方法および定義は、すべての実施例に適用される。
言及したすべての補体組成物はすべて、特定のものを除いてはヒト由来であり
、すべてのタンパク質およびそれから由来した断片に対して標準的な用語を使用
している(例えば参考文献[15]に含まれるように)。さらに、”C3i”という言
葉は、天然のチオールエステル結合を持たないが、α鎖のC3aポリペプチドは
有する、C3のあらゆる分子形態のことである。
ヒトC3cDNAおよびコード配列は、EMBL核酸データベース(参考文献[2]
より)において使用されている番号付けけを使用して、図2に示したように番号
付けしてある。示した配列は、参考文献[2]に報告された5'非翻訳領域の最初の1
1ヌクレオチドを欠くわれわれの構築物(’PC3’)であり、従って、第1番
目の塩基は12番である。推定される開始コドンは、核酸番号61-63であり、β鎖
のアミノ末端のセリン残基のコドンは核酸番号127-129であり、およびα鎖のア
ミノ末端のセリン残基のコドンは核酸番号2074-2076である。
タンパク質配列は、補遺1のDNA配列の予想される翻訳物であり、図1に示
したように前駆体配列に従って番号付けしている(アミノ酸1-22は、生合成で除
去されるシグナル配列を含むと予想され、およびアミノ酸668-671は、前駆体α
およびβ鎖に切断されるときに除去されると考えられる)。
以下の省略記号は、以下の意味を持つ;CVF コブラ毒液因子;ELISA,酵素結合
イムノソルベント分析;E.coli、大腸菌;kb、キロベース;HSV-1、一型単純ヘ
ルペスウイルス;PBS、リン酸で緩衝化した塩溶液。COS-1は、サル腎臓細胞由来
の細胞系列である。以下は、制限酵素である:AflII,DraI,DraIII,EcoRI,EcoRV,
HindIII,NaeI,NheI,XbaI。標準的な方法
プラスミドの単離、アガロースゲル電気泳動、およびDNAラーゲーションとい
った標準的な分子生物学的手法は、参考文献[21]に記載されている。二重鎖DNA
は、’United States Biochemicals'によって提供されている’シークエネース
バージョン2.0'キットを使用してシーケンスした。C3の発現は、培養上清の試料
を添加するプラスチックプレートを親和性精製したポリクローナルなヒツジ抗ヒ
トC3抗体であらかじめコートしたものを使用して、ELISA測定によって測
定した。結合したC3は、アルカリホスファターゼに結合したC3に対するラットモ
ノクローナル抗体および発色基質であるp-ニトロフェノールリン酸で検出した。
測定は、精製したヒトの細胞質C3で換算した。
補体タンパク質およびCVFの精製方法、および測定において使用した親和性精
製した抗C3抗体の調整方法は、参考文献[28]に記載されている。平衡溶液もまた
、シグマ化学会社LTDより購入可能である。C3DNA コード配列
われわれのC3DNAコード配列は、ベクターpGEM4(Promrga)に導入されているラ
ンダムプライムしたヒト肝臓cDNAライブラリーより単離した2つの断片から構築
された。ヒトC3コード配列中の既知の断片に相当する5つのオリゴヌクレオチド
を、T4ポリヌクレオチドキナーゼおよび[γ-32P]ATPで放射性標識し、アガロー
スプレートからライブラリーをトランスファーしたフィルターをプローブ探査す
るために使用した。およそ4kbのインサートを含む2つのクローンを、単離した
。制限酵素による消化、特定のオリゴヌクレオチドプローブに対するハイブリダ
イゼーションおよび部分的な塩基配列決定により、1つ(’A13’)は5.1kbのメ
ッセンジャーの5'末端を含み、もうひとつは(’b44’)3'末端におよぶことが
明らかになった。
それゆえ、これらのインサートは、単一のEcoRI制限酵素部位を含むおよそ3kb
がオーバーラップしていた。A13の不完全な5'部分をEcoRIおよびNheIで切断し、
それをEcoRIおよびXbaIで切断してB44から単離した完全な断片で置換した。両断
片を低融解アガロースにてゲル電気泳動することによって精製し、T4DNAリガー
ゼによってラーゲーションして、完全なC3前駆体タンパク質をコードする5.1kb
のDNAを含むベクター(’PGC’)を作成した。
C3コード領域に対する5'リンカー配列は、2つの間違った翻訳開始部位を含む
。それゆえ、およそ50塩基のリンカー/アダプターDNAを欠失させるオリゴデオキ
シヌクレオチドPL-ATC-3(tagggagaccggaagcttgc cctctccctc tgtccctctg t)を使
用して実施例1の方法に記載したようにギャッププラスミド突然変異導入によっ
て、C3コード配列を変更することなしに、これらを除去した。この突然変異が導
入された、5.1kbのC3DNA配列とPGEM4ベクター(Promega)由来の2.6kbの配列を
含む7.7kbのベクターを、PC3と呼ぶ。
PCG3プラスミドのC3コーディング領域の全塩基配列を決定し、以前に発表され
たヒトC3("S"アリル)のcDNA配列[2]とは4カ所だけ違いがあることが明らかに
なった。
(i) C2481->GおよびC2805->Tの変化はコーディングを変化させない;
(ii) T1001->Cは以前に記載された HAV 4-1-(ロイシン314->プロリン)の多型の
型[20]をコードする;そして
(iii) G2716->Aはバリン886->イソロイシンをコードし、ヒトC3においてはこれ
までに報告がないが、マウスおよびラットのC3ではこの位置にIleが見出されて
いる。
我々の配列は開始および終止コドンを含み、完全なシグナル配列を有するので
、機能をもつC3をコードするものと考えられる。
(リポフェクタミンおよびpcDNA3(インビトロジェン(Invitrogen)社)発現
ベクターを使用して形質転換した)COS-1細胞の培養上清中には、1.7μg/mlに達
するレベルの野生型C3が、ELISAにより検出された。pcDNA3ベクター単独で形質
転換した細胞からは、検出可能なほどのC3は産生されなかった。さらに、発現さ
れた産物を切断反応し、その後免疫沈降、SDS-PAGE、免疫ブロッティングにより
解析した結果、以下のことが示された。
(i) 一次的な翻訳産物は正しくプロセッシングを受けて、成熟した二本鎖型に
なった;
(ii) この産物は、天然のC3と同様にC3転換酵素(CVFBb)によりC3bに切断可能で
あった;そして
(iii) 発現されたタンパク質は、天然のC3と同様に、HおよびI因子により切断
不能であるが、C3転換酵素によりC3bに転換された後に、切断可能となった。こ
れは我々の開始点となるプラスミドが、機能的なC3に翻訳されうることを認める
ものである。
C3コーディング配列の構築および発現の代替となる記述は、参考文献[25]を参
照されたい。実施例1
:2カ所のI因子切断部位のアルギニン残基(アミノ酸位置1303および1
320)をグルタミン残基に変換したC3を作製して、I因子によるC3bの切断を阻害
する。
a)突然変異導入
突然変異導入用のオリゴデオキシヌクレオチドとして用いたのは、QRI1(caact
gcccagccaaagctccaagatcacc)、QRI2(gccagcctcctgcaatcagaagagaccaag)および
AFL4149(taataaattcgaccttaaggtcaccataaaac)であり、対応するアンチセンス
オリゴデオキシヌクレオチドQRI1n(ggtgatcttggagctttggctgggcagttg)、QRI2n(
cttggtctcttctgattgcaggaggctggc)およびAFL4149n(gttttatggtgaccttaaggtcgaa
tttatta)も用いた。
QRI1およびQRI1nは、C3前駆体配列におけるアミノ酸残基1303のI因子切断部位
の(cDNA配列におけるG3968C3969のAAへの変化による)アルギニンからグルタミ
ンへの置換を規定し、QRI2およびQRI2nはアミノ酸残基1320の因子切断部位の同
様の置換を(ヌクレオチドG4019をAに変化させることにより)遂行する。
AFL4149およびAFL4149nは、cDNA配列における4149の位置に(C4149をTに変化
さ
せることにより)制限エンドヌクレアーゼAflIIの切断部位を導入するが、コー
ドするアミノ酸配列は変化させない。この2つのプライマーをマーカーとして用
いることで、DNA産物のAflIIによる切断にもとづいて、突然変異導入の成否を同
定することができた。
突然変異導入は「ギャップドプラスミド」法を用いて遂行した。一回分のPGC3
として、チミジンの位置にウリジンを富ませたもの('UPGC3')を、大腸菌株CJ2
36中で0.25μg/mlのウリジン存在下で増殖させて調製した。このプラスミドをSm
aIで消化し、7.2kbの産物('US1')をアガロースゲルで精製して、C3配列から0.
5kbの断片(1463-1947残基)を取り除いた。ギャップをいれたプラスミドのもう
一つの要素('DN2')は、PGC3をDraIIIとNaeIで同時に消化して、5.1kbの断片を
アガロースゲル電気泳動で二回精製することにより調製した。200ngのDN2を50μ
lのH2Oの中でおよそ500ngのUS1と混合し、100℃に加熱してゆっくりと50℃以下
まで冷却し、それから20μlから25μlの2xT7バッファー(100mM Tris/HCl/pH7.4/
14mM MgCl2,100mM NaCl,2mM ジチオスレイトール、およびそれぞれ1mM のATP,dA
TP,dCTP,dTTPおよびdGTP)と5'をリン酸化した突然変異導入用プライマーそれぞ
れ10nmol(一つの反応は、QRI1,QRI2およびAFL4149を使用し、また別の反応では
QRI1n,QRI2nおよびAFL4149nを使用した)を添加した。混合物を再び70℃まで5
分間加熱し、ゆっくりと(30-60分以上)20℃まで冷却した。0℃にて、10ユニッ
トのT7DNAポリメラーゼおよび80ユニットのT4DNAりガーゼを添加した。混合物(
全量は50μl)を、はじめに0℃で5分間、それから室温において5分間,そして最
後に37℃で3時間インキュベートした。それぞれの混合物1μlを使用して、製造
業者の指示にしたがって、100μl のスーパーコンピテントXL1大腸菌(ストラタ
ジーン(Stratagene)社)を形質転換した。
アンピシリン耐性になったコロニーをAflI切断によりスクリーニングし、得ら
れた突然変異株を100mlの培養液で培養し、これからプラスミドを単離し(C3 c
DNAの核酸3876-3895に合致する塩基配列決定プライマーC3pa-3876、cttcatggtgt
tccaagcctを使用して)塩基配列を決定し、I因子切断部位の突然変異を解析した
。
「ギャップドプラスミド」突然変異導入の代替となる操作法については、参考
文献[26,27]を参照されたい。
b)突然変異DNAの真核生物発現ベクターへの転移
突然変異プラスミドから、HindIIIとNaeIの二重消化によりC3コーディング断
片を切り出した。DraIも残余のプラスミドを不活化するために含めた。C3コーデ
ィング配列をアガロースゲルで精製し、HindIIIとEcoRV酵素で線状化し仔牛腸ホ
スホリラーゼで脱リン酸化してあるpcDNA3ベクター(インビトロジェン(Invitr
ogen)社)にライゲーションした。ライゲーション混合物を使用して、スーパー
コンピテントXL1大腸菌を形質転換し、これをアンピシリンを含む培養プレート
上にまいた。
アンピシリン耐性のコロニーを無作為に選択したもの(三つまたは四つ)を、
2-3mlの培養液で増殖させ、プラスミドDNAを小スケールで単離した。正しい挿入
配列を含んだプラスミドの同定は、プラスミドDNAを制限エンドヌクレアーゼEco
RI、HindIII、AflIで消化することにより行った。対応するコロニーを100mlの培
養液で増殖させ、プラスミドを標準的な操作法により精製した。これらの突然変
異体は元来PCG3から構築したので、コーディング領域の5'側に二つのATGを保有
している。そこでこの領域(およびC3コーディング配列の5'側の3kb)をHindIII
とEcoRIで切り出し、PC3から切り出した同じ領域とライゲーションして置換した
。これらの再構築されたベクターを標準的な操作法により調製し、COS細胞を形
質転換するのに使用した。
c)野生型および突然変異型C3'の発現
突然変異型および野生型のC3は、リポフェクタミン(ギブコ(GIBCO)社)を
用いて製造業者の指示に従ってCOS-1細胞に形質転換導入したプラスミドから、
一過的に発現させた。典型的には標準的な6ウェル培養プレートのウェルあたり
1-1.5x105の細胞を、2-4μgのプラスミドで、9μlのリポフェクタミン試薬を使
用して形質転換した。上清をC3の分泌について検定し、典型的な収率として形質
転換後3-6日で1ml上清あたり0.3-1.7μgを得た。
結果
a)突然変異体の作製
以下の突然変異体がこれまでに単離され、取り込まれた突然変異原オリゴデオ
キシヌクレオチド配列に従って命名されている。
(i) QRI1およびQRI2の両方の突然変異とAFL4149を有する突然変異体3個: C3M
-26、C3M58およびC3M-61;
(ii) QRI1およびQRI2を有するがAFL4149を有さない突然変異体1個: C3M-8お
よび
(iii) QRI2およびAFL4149を有するが、QRI1を有さない突然変異体1個: C3M-5
1(実施例3において使用する)
b)機能的効果がI因子切断部位に特異的に導入した突然変異によることの確認
塩基配列決定により、それぞれの突然変異体の変異を導入した領域の周囲の17
8-350塩基に、他の変化が存在しないことを確認した。この方法で産生した突然
変異体の1つC3M-51の配列(実施例3を参照)は、突然変異導入に使用した「ギ
ャップ」全長(2463-5067塩基)について解析したが、野生型配列からの逸脱は
他に見出されなかった。
さらにすべての突然変異体から、全部で2922塩基に及ぶ代表的な塩基配列の決
定を行ったが、ポリメラーゼを介した間違いに起因すると考えられる点突然変異
は、一つも見られなかった。発現された突然変異体はすべて、天然のC3に特徴的
な、二本鎖構造とC3転換酵素による切断を示した。要約するならば、使用した突
然変異体は完全に再度配列決定をしてはいないが、いかなる望まざる変化も含ま
ないと考えられる。実施例2
:I因子切断部位の一つ(アミノ酸位置1303)のアルギニンをグルタミ
ンに変換したC3の産生
実施例1の操作に従ったが、突然変異導入オリゴヌクレオチドAFL4149とQRI1
、またはAFL4149nとQRI1nだけを突然変異導入に使用した(すなわちQRI2またはQ
RI2nは使用しなかった)ことが異なる。
結果
a)取得した突然変異体
QRI1およびAFL4149を有するがQRI2を有さない突然変異体2個: C3M-I23、27
。C3M-123突然変異体を、実施例1に記載したように発現させた。
このタンパク質はCVFBbにより切断可能であった。C3b類似の産物は比較的(野
生型と比較して)IおよびH因子による1303の位置での切断に耐性であったが、13
20の位置ではまだ切断可能であった。従ってこのC3b誘導体は、I因子に部分的に
耐性である。実施例3
:I因子切断部位の一つ(アミノ酸位置1320)のアルギニンをグルタミ
ンに変換したC3の産生
実施例1の操作に従ったが、突然変異導入オリゴヌクレオチドAFL4149とQRI2
、またはAFL4149nとQRI2nだけを突然変異導入に使用した(すなわちQRI1またはQ
RI1nは使用しなかった)ことが異なる。さらに実施例1において使用した方法で
、QRI2およびAFL4149を有するがQRI1を有さない突然変異体1つが得られた。
結果
a)取得した突然変異体
QRI2およびAFL4149を有するがQRI1を有さない突然変異体3個: C3M-51、C3M-
Q2、C3M-Q13。突然変異体C3M-151を、実施例1に記載したように発現させた。こ
のタンパク質はCVFBbにより切断可能であった。C3b類似の産物は1320の位置でI
およびH因子で容易に切断されることはなかったが、1303の位置ではまだ切断可
能だった。従ってこのC3b誘導体は、I因子に部分的に耐性である。実施例4
:突然変異体の機能的効果の解析
形質転換したCOS細胞の上清(100-400μl)を、以下のものとともに37℃で2時
間インキュベートした:
COS細胞を以下の挿入配列を含むpcDNA3で形質転換した:
1) 突然変異を導入していないC3配列;
2) 突然変異体 C3M-123(Arg1303->Glnをコードする);
3) 突然変異体 C3M-26(Arg1303->Gln、Arg1320->Glnをコードする);および
4) 突然変異体C3M-51(Arg1320->Glnをコードする)。
200μlの培養上清を、形質転換の3日後に採取し、2mMフッ化フェニルメタン
スルホン酸と前処理し(0℃、15分)、その後以下のものと37℃で2時間インキ
ュベーションした。
A) なにも加えない;
B) あらかじめ形成させたC3転換酵素CVFBb(10mM MgCl2を含むリン酸緩衝食塩
水(PBS)中に6.6μg CVF、100μg B因子および1.4μg D因子を含んだもの200μ
lのうち10μl、37℃で15分あらかじめインキュベーションしたもの);
C) H(5μg)およびI因子(1μg);および
D) CVFBbとHおよびI因子。
次に、0.6μgの親和性精製したヒツジ抗ヒトC3免疫グロブリンを室温で加え、
1時間後にホルマリン固定したCグループStreptococcus sp.細胞を洗浄したもの
(タンパク質G)(シグマ(Sigma)社)の5%懸濁液20μlを加えることにより、
これらを免疫沈降した。45分後に室温で、粒子をPBS 5mM NaN3で一回、20mM Tri
s/HCl,137mM NaCl,0.1%(v/v)Tween20,pH7.6で一回洗浄した後、1% SDS/2%
2-メルカプトエタノールに溶出した(90-100℃、5分)。そして、この溶出物を
SDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース上に電気的にブロットし、C3のバンド
の検出は、親和性精製したヒツジ抗ヒトC3免疫グロブリンと、それに続いて西洋
ワサビペルオキシダーゼと結合させたロバ抗ヒツジ免疫グロブリン(シグマ(Si
gma)社)でプローブ探査し、アマシャム(Amersham)社により供給されている"
Enhanced Chemiluminescence"基質を用いて検出することにより行った。X線フィ
ルムへの2分の感光の写真を示す。目に見えるC3由来のバンドは、標識した矢印
で示し、それぞれの試料(1-4、A-D)は、上に記載したとおりである。(すべて
の試料に存在するおよそ50kDa(46kDaと68kDaのバンドの間)の卓越したバンド
は、免疫沈降において使用したIgGの重鎖であり、西洋ワサビペルオキシダーゼ
を結合させたロバ抗ヒツジ免疫グロブリンにより検出されたものである。)
結果(図3を参照)
1. 処理していない試料(1-A、2-A、3-A、4-A)は、C3のアルファ鎖、ベータ
鎖の正しい移動度のバンドを含んでおり、すべての突然変異が発現され、翻訳後
に正しくプロセッシングされていることを示している。これらの試料における43
または46kDaのバンドの存在は、培養培地中のH因子およびI因子類似のなんらか
の活性の存在を示している。3日間の生合成期間中にC3の自発的な加水分解で産
生されたC3iが、この活性により切断されている。突然変異処理していないC3は4
3kDaと75kDaのバンドを生じている(75kDaのバンドが見えないのは(i)これが75k
Daのベータ鎖に隠されている、および(ii)ウェスタンブロットの検出に使用した
抗体が、C3アルファ鎖のこの部分に対してほとんど活性を有さないことによる:
このバンドの存在は、次にこの領域に特異的なラットモノクローナル抗体”Clon
e-3”で再度プローブ探査することにより確認した)。CVFBb非存在下でのHおよ
びI因子の添加(1-C、2-C、3-C、4-C)は残存するC3を切断せず、これが活性を
もつC3(チオールエステルが損なわれていない)を意味することを示している。
2. 突然変異を導入していないC3(1)はCVFBbにより切断され、C3b産物は1-B
における内在性の酵素、あるいは1-Dにおいて添加されたHおよびI因子により、
さらに切断される。43kDaのバンドはArg1320における切断を、68kDaのバンド(
より長時間の感光で見ることができる)はArg1303における切断を示している。
3. 突然変異体C3M-123(Arg1303->Gln)はCVFBbにより切断可能で、その産物
はHおよびI因子類似の内在性の活性(2-B)に対して比較的耐性で、相当量のア
ルファ'鎖(C3b)が存在していたが、過剰量のHおよびI因子が添加されればまだ
切断可能であった(2-D)。43kDaの産物はArg1320での切断を示しているが(ア
ルファ'鎖の他の断片を示す71kDaの薄いバンドは、より長時間の感光で見ること
ができる)、68kDaのバンドは存在せず、この突然変異体が変異を導入したGln13 03
での切断に耐性であることを示している。
4. 突然変異体C3M-26(Arg1303->Gln,Arg1320->Gln)はCVFBbにより切断
可能で、C3b類似の産物(アルファ')はHおよびI因子類似の内在性の活性に対し
て比較的耐性だった(3-B)。これは添加されたHおよびI因子に対しても、突然
変異を導入していないC3(1)および他の突然変異体(2および4)と比較してき
わめて耐
性であった(3-D)。46kDaの産物は少量存在し、突然変異を導入したGln1303で
のある程度の切断を示している(付随する68kDaの断片も、より長い感光で見る
ことができる)。Gln1320での切断に対応して検出されうる43kDaは、ほとんどあ
るいは全く存在しない。従って1303の位置のArg->Glnの突然変異は1320の位置の
変異よりも、I因子による切断を防ぐには効果が低い。(このゆるやかな残存性
の切断は、C3M-123(Arg1303-〉Gln)突然変異体においても起こっているが、46
kDaの中間体は突然変異を導入していないArg1320でのさらなる切断により、速や
かに43kDaにプロセッシングされていると思われる。)
5. 突然変異体C3M-51(Arg1320->Gln)はCVFBbにより切断可能で、その産物
は内在性のHまたはI因子類似の活性により(4-B)、および添加したHおよびI因
子により切断可能であった。46kDaの産物(および68kDaの薄いバンド)は、Arg1
303での切断を示している。しかし43kDaのバンドの非存在は、突然変異を導入し
たGln1320で切断されていないことを示している。実施例5
1303位におけるさまざまなアミノ酸の置換の比較
1. 序
前述した実施例では、arg1303およびarg1320のグルタミン残基への変異を記載
した。どちらの変異も、それらの位置においての因子Iによる切断に対して抵抗
性を付与した。しかしながら、gln1303においては少ないながらも検出可能な程
度の切断が見られた。そのため、この位置に他の多数のアミノ酸への置換を導入
して検定した。切断は1303位の残基が以下のものの時:Arg>Tyr>[Cys または
Trp]>Gln>[Glu またはGly]の順に効率が減少するようにして起こった。こ
れらの結果は予想外であった。なぜならば、(i)既知の自然に起こるヒトの因子
Iを介した切断はすべてアルギニン残基のC端で起こり、そのためにこの酵素は
アルギニンを必要とすると推測されていた; および、(ii)仮にその酵素が他
の残基で切断するとしても、それらの残基は静電気学的にアルギニンに類似した
もの、例えば、塩基性残基(lys またはhis)であろうと推測されており(例え
ば、トリプシンはarg、lys、またはhisのC末端を選択的に切断する)、そのため
、チロシ
ンへの置換で起こる切断は予測できなかったからである。
そのため、arg1303のグリシンまたはグルタミン酸への置換が、因子Iによる
不活性化に耐性となるC3の誘導体を作製するためには好ましい。
2. 方法
2.1 突然変異導入:使用した縮重変異プライマーは以下の通りである:
caactgcccagc(gt)(ag)(cg)agctccaagatcacc(括弧内の文字はその位置におけ
る塩基の混合物を示している)。変異体は、ギャップ・プラスミド法(前述の実
施例に記載されている)、または”メガプライマー法”(V.Picardら、Nuc Aci
d Res 22: 2587-91,(1994))のいずれかにより構築し、その際、上流のプライ
マーはcaccaggaactgaatctagatgtgtccctcであり、下流のプライマーはgttttatggt
gaccttaaggtcgaatttattaであった。すべての変異は、C3をコードしているDNAが
すでに1320位のアミノ酸残基はグルタミンであり、AflIIの制限部位が4149位に
導入されるように変換されている(前述の実施例に記載されている)鋳型に対し
て導入し、DNAの配列決定によって確認した。
2.2 発現:変異体は、前述の実施例で記載されているようにしてpcDNA3ベクタ
ーを用いてCOS細胞内で発現させ、無血清培地で生合成により[35S]メチオニンで
標識した。
2.3 分析:上清をCVFBb(CVFと因子BおよびDとをマグネシウム含有緩衝液中
で反応させることにより生成する)、および因子HおよびIで処理し、その後、
抗C3抗体で免疫沈降し、還元の条件で行うSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動
によって分離した(前述の実施例で記載されているように)。ゲルを固定し、Am
ersham社の”Amplify”試薬で処理し、乾燥させた後、オートラジオグラフィー
・フィルムに露光して、図に示した結果を得た。
3. 結果
因子Iによる1320位(部位2)(この残基はグルタミンに置換されている)の
切断ではなく、1303位(部位1)の切断によって、46および68kDaのバンドが生
成する。切断は次の順序で起こるように思われる:arg(R)>tyr(Y)>cys(C)およ
びtrp(W)>gln(Q)>gly(G)およびglu(E)。野生型(どちらの位置もアルギニン)
ではどちらの位置でも切断され、43(このゲルではあまりにも小さすぎるために
見えない)および68kDaの断片を生じる。
4. 図
結果を図4に示す。部位1(1303位)および部位2(1320)の残基がそれぞれ
の配列上に示されている。実施例6
arg1303からglnへの変換後の因子IおよびHによる不活化に対して増
強された抵抗性の証明
1. 序
前述の実施例では、arg1303またはarg1320のいずれかをグルタミン酸に変換す
ることにより、その部位が因子Iによる切断に対して耐性となることが証明され
た。両方の部位の変異にり、どちらの部位における切断にも耐性となる分子がつ
くられる。ここで、我々はさらに、野生型と比較して、arg1303からglnへの変異
のみで(arg1320は変換しないで)、因子IまたはHによる機能の不活化に対し
てかなりの抵抗性を得られることを証明する。
2. 方法
2.1 発現: arg1303→glnの変異の作製は前述の実施例に記載されている。こ
の変異体をリン酸カルシウム法によりCHO(チャイニーズ・ハムスターの卵巣細
胞由来の一般的な実験細胞株)にトランスフェクションし、安定なトランスフェ
クタントをG418(Sigma社より入手可能な”Geneticin”)に耐性であることを基
準として選択した。細胞培養液の上清を回収し、発現されたC3を硫酸アンモニウ
ム沈澱(10-20%(w/v)画分)、およびQ-セファロースおよびmono-Qセファロース
のイオン交換クロマトグラフィーにより部分的に精製した(A W Dodds Methods
Enzymnol 223: 46(1993))。
2.2 分析: ヒツジの赤血球をSO16モノクローナル抗体(R A HarrisonおよびP
J Lachmann Handbook of Experimental Immunology 第4版 第39章(1986))を用
いてコーティングし、続いて4.4mlの5%(v/v)懸濁液を、約10μgのC2、24μgの
C4および1μgのCl(精製されたヒトの成分)と、CFD(R A HarrisonおよびP J L
achmann、上述)中で37℃で10分間反応させた。次にこの混合液0.8mlを、精製途
中の変異体および野生型のC3、および最終濃度12.5mMのEDTAを含む0.25mlの溶液
と105分間反応させた。続いて細胞をCFDで洗浄し、0.1%(w/v)のゼラチンを含むC
FD(CFD-gel)中で使用した。ほぼ同量の野生型および変異体のC3bが沈澱するこ
とを確認するために、[125I]標識されたクローン4のモノクローナルな抗C3抗体
に結合している放射性リガンドを使用した。
分析では、細胞の5%懸濁液40μlを250μlのCFD-gelで希釈し、50μlの分注液
を、因子IおよびHをそれぞれ最終濃度100、10、1および0μg/mlに希釈したも
のを含む50μlのCFD-gelと37℃で30分間反応させた。次に0.9mlのCFDを添加し、
遠心によって沈澱した細胞を毎回1mlのCFDで2回洗浄した。続いて細胞を、100μ
g/mlの因子B、100μg/mlのプロパジン、1μg/mlの因子D、および0.3mMのNiCl2
を含む100μlのCFD-gelに再懸濁した。37℃で10分経過した後、10mMのEDTAおよ
び2%(v/v)の正常モルモット血清を含む0.9mlのCFDを添加した。さらに37℃で30
分間反応させた後、未溶解の細胞を遠心により沈澱させ、溶解度を上清の412nm
の吸光度を測定することにより決定した。100%溶解に相当する吸光度は水に溶解
させた細胞の分注液より決定し、こうして溶解度を算定した。
この分析により沈澱したC3bの機能的なC3bBbP転換酵素を形成する能力が測定
される。iC3bへの転換が転換酵素の形成およびそれに続く血清/EDTAへの溶解を
阻害するのである。
3. 結果
図に示した結果は、arg1303→gln変異体の溶血活性を失わせるためには、野生
型と比較して10倍以上の因子Iおよび因子Hが必要であることを示している。そ
のため、この変異は、C3b産物が因子HおよびIによる不活化に耐性になるよう
なC3誘導体の作製に有利である。その効果は、1303位の切断に(argをglnに変異
させると)より強い耐性となっていることか、または1303位で最初に切断が起こ
っ
た時に、1320位の切断に対してより耐性となっていることのいずれかによるもの
であろう。
4. 図
結果を図5に示す。x軸は因子HおよびIの濃度を表している。Q1はarg1303→g
lnの変異を示している。溶解%は方法に記載されているようにして測定される。考察
本明細書中に記載されている改変された誘導体に関するヒトC3の本質的な特徴
は以下のような事柄である:-
(i) この分子は機能的に活性なヒトの因子Bと結合することができ、続いてヒ
トの因子Dによって切断されて、ヒトのC3を切断することのできる酵素を形成す
ることができるため、機能的にC3b様の誘導体を有する。
(ii) 誘導体のアミノ酸配列は、配列が現在知られている他の種のC3、または現
在知られている他のタンパク質配列のどれよりもヒトのC3に類似性が高い。野生
型タンパク質には存在するが、改変された誘導体には必ずしも存在しない構造的
な特徴は以下のものを含む:-
(a) 本明細書中に記載されている発明の実施例で使用したヒトのC3の誘導体
のDNAをコードする配列、および翻訳したタンパク質配列はそれぞれ図2および1
に示されている。このタンパク質配列は、公表されている配列[2]と二つのアミ
ノ酸のところだけが異なっている(詳細は実施例に示されている)。多くのさら
なる誘導体が、そのほとんどがタンパク質群中には存在していないとしても、C3
の機能には影響を及ぼさないと考えられる。
(b) 一次翻訳産物は、タンパク質分解によって二つのジスルフィド結合鎖、
α(残基672-1663)およびβ(残基23-667)へと加工され、シグナル配列(残基
1-22)が取り除かれる。
(c) 成熟したタンパク質は、Cys1010およびGln1013の残基の間にチオールエ
ステル結合を含んでいる。
(d) C3転換酵素はC3を切断してC3a(残基672-748)を取り除く。この反応に
続いてチオールエステル結合が破壊される。
(e) 因子Hの存在下では、因子IはC3bをArg1303とSer1304の残基の間、およ
びArg1320とSer1321の残基の間で切断する。元来のC3分子に対して施された改変
Arg1303のGlnによる置換
この改変は因子IによるC3bの切断部位の一つに施されるものである。その効
果は、この位置における因子Iによる切断の割合を減少させることである。因子
Iのセリン・プロテアーゼ活性にとって重要であると思われるアルギニンの正の
電荷を取り除く目的と同時に、疎水性の性質および三次元タンパク質構造の破壊
が最小限に抑えられるはずの類似した側鎖を有しているために、グルタミンへの
変換を選択した。この仮定を支持する証拠として、この変異は二本鎖へのプロセ
ッシング、チオールエステルの形成、またはC3転換酵素によるC3の切断を阻害し
ない。Arg1303の他のアミノ酸への変換は、実施例5で実証されているのと同様、
またはそれ以上の効果でさえ得ることができる。
Ser1304(切断部位のもう一方の側)、または酵素-基質の相互作用に関与する
他の残基に変異を導入することによっても、この切断を減少させることが可能で
あろう。
GlnによるArg1320の置換
この改変は因子IによるC3bの切断のもう一方の部位に施される。その効果は
、この部位における因子Iによる切断の割合を劇的に減少させる(事実上消失さ
せる)ことである。グルタミンへの変換は上述したものと同一の基準で行い、こ
の変異もまた、二本鎖構造、チオールエステルの形成、またはC3転換酵素による
C3の切断を阻害しなかった。ここでも他のアミノ酸への変換によって、Ser1321
または酵素-基質の相互作用に関与する他の残基の変換と同様の効果が得られる
と思われる。
二つの変異、Arg1303-GlnおよびArg1320-Glnを組み合わせたとき、それらはC3
を不活化から保護し、こうして活性なC3bBb転換酵素の一部を形成する能力を維
持する。どちらの切断反応も不可能にする(変異の組み合わせを含む)他の変異
もまた利用可能である(例えば、Arg 1303 Glu、またはArg1303 GlyをArg 1320
Glnと組み合わせて用いることができる)。実施例7
C3b/C3iと因子Hとの相互作用を減少させるさまざまな変異
7.1 序
C3転写産物の一次配列の残基752-761(図1を参照のこと)が因子Hとの相互
作用に関与していることを示唆する、合成ペプチドの効果(Ganu,V.S.およびMu
ller-Eberhard,H.J.,1985,Complement 2: 27; Becherer,J.D.ら、1992,Bioc
hemistry 31: 1787-1794)、または限定された変異導入(Taniguchi-Sidle,A.
およびIsenman,D.E.,1994 J.Immunol.153: 5285-5302)のいずれかに基づ
いた証拠が他の研究室から出されている。しかしながら、他の発表されている証
拠によると、残基767-776のみが因子Hとの相互作用に関与しており、一方残基7
52-761は因子Bとの相互作用において重要であることが示唆されている(Fishel
son,1991,Mol.Immunol.28: 545-552)。我々は、さらにこの領域に対して変
異を導入すれば因子Hへの親和性が減少し、そのゆえに因子Hに対して耐性とな
るC3の誘導体を作製するために妥当であると推測した。さらに我々は、変異を入
れるべき重要な残基は顕著に酸性な残基(アスパラギン酸およびグルタミン酸)
であり、それらを強い相互作用をあまり媒介しそうにない中性残基に変化させる
のが妥当であろうと考えた。本実施例において、我々は、残基758-760のGlu-Glu
-AsnからGly-Ser-Glyへのと変換に加えて、残基752-754をAsp-Glu-AspからGly-S
er-Glyへと変換した。その産物は、因子Hに対する感受性の低下に一致して切断
が減少するという特徴を示した。これは、C3が因子Hとの結合が減少するように
改変され、このために因子HおよびIに対する感受性が低下するという証拠を提
供する。これらの改変は生理的な条件下で安定なC3転換酵素の作製にとって望ま
しいものである。
7.2 方法
変異の導入、発現、および分析は前述の実施例に記載されている。合成した変
異導入用オリゴヌクレオチドは以下の配列を有する:
agtaacctgggttcgggcatcattgcaggatcgggcatcgtttcc
7.3 結果
切断反応の結果は図6に示されている。
これらは以下のことを示している:
1. 野生型C3にCVFBbを添加すると、形成されたC3bが培養液上清中の低濃度の
因子IおよびHに対して感受性であるためにα鎖の削除が起こる(軌跡2)。発
現またはそれに続くインキュベーションの間に形成されたC3iも同様の方法でiC3
iに分解された。そのため、外来性の因子IおよびHを添加すると(軌跡3およ
び4)、培地自体が完全な切断を成し遂げるのに十分な因子HおよびIの活性を
含んでいるために、それぞれ軌跡1および2との違いは生じない。
2. 対照的に、変異体のC3をCVFBbで処理しても(軌跡6)α鎖は消失しない
。C3bに対応していくつかのα'群が存在するが、そのいくつかまたは全てが残存
しており、α鎖の残留物が単にCVFBbによる切断の失敗の結果だけではないこと
を示している。それゆえ、軌跡2において残存している未切断のα鎖は、内在性
の因子HおよびIの活性により切断されなかったC3iを表している。しかしなが
ら、これが、変異体がCVFBbに対する部分的な耐性を獲得したときに残存してい
る天然のC3を表しているということも考えられる。外来性の因子HおよびIを高
濃度で投与すると(軌跡7および8)α鎖およびα'鎖が枯渇し、これは(i)変
異体がこれらの因子に対して完全には耐性でないこと、および(ii)軌跡2のCV
FBbによって切断されないα鎖は、天然に存在するC3(CVFBbにより切断されるが
、因子HおよびIでは切断されない)よりもむしろ主としてC3i(因子Hおよび
Iにより切断されるが、CVFBbでは切断されない)から生じることを示している
。軌跡8においても、おそらく因子HおよびIに対する耐性のために、まだすべ
てのα鎖が切断されているわけではない。
以上の理由から、残基752-754および残基758-760の変異は、依然としてC3転換
酵素により切断されるものの、因子HおよびIの作用には部分的に耐性である。
これは、他の発表されているデータを考慮すると、この変異が因子Hとの相互作
用に関与する領域を改変しており、このために因子Hに対する親和性が低下した
ことに起因する可能性が非常に高い。実施例8
C3iと因子Bの相互作用の改変のために変異を導入できるC3の部位
8.1 序
前述の実施例はC3への変異の導入によって因子HおよびIとの相互作用を調節
できることを証明した。因子Bと相互作用できるC3の他の部位を発見する目的で
、我々は、C4および他の類似性のあるタンパク質の入手可能な配列と同様に、他
の種のC3分子の既知の配列を比較した。我々は、C3およびC4に特異的な機能に関
与すると思われるヒトのC3の残基1427-1433に相当する領域を同定した。この領
域は因子B(またはそのホモログ、C4の場合C2)との相互作用を含み得るが、必
須ではない。なぜなら、他の可能性のある機能として、チオールエステルの形成
、C3b(またはC4b型)への転換、転換酵素の状態における基質C3および/またはC
5との相互作用、および因子Iおよびその補因子との相互作用が含まれるからで
ある。そのために、選択した残基を別の類似性のあるタンパク質、この場合はヒ
トのC5、に見られる(配列表に基づいた)対応する残基に変換した。このように
して、残基1427をArgからGlnへ、残基1431をLysからAspへ、および残基1433をGl
uからGlnへと変換した。生じた変異体はC3転換酵素(CVFBb)による切断に感受
性で、そのC3b産物は因子HおよびIにより切断可能であることが分かった。し
かしながら、この変異体は因子BのC3i(またはC3b)への結合に依存している因
子BのBb+Baへの変換を助長しなかった。そのため、我々はこの領域の変異は因
子Bとの相互作用を消失させるという証拠を得た。これは超活性型C3転換酵素の
作製には不適当であるが、C3のこの領域に対する他の改変によっても因子Bとの
相互作用が変化し、これらの中のいくつかはおそらく親和性を上昇させるであろ
うという示唆を提供する。結果として、そのような変異はまた二分子性の転換酵
素、C3bBb(また
はC3iBb)の安定性および活性を上昇させることにもなる。
8.2 方法
表1の裏面に示されている配列表には、我々がなぜこの領域を変異導入の候補
と考えたかが図示されている。特定の残基の特徴がC3およびC4においては良く保
存されているが、他のタンパク質においては大きくかけ離れていると我々は考え
た。その帯電する性質がタンパク質-タンパク質間の相互作用に関与するグルー
プに特徴的であるために、残基1427、1431、および1433を選択した。非常に異な
る静電気学的特性を示すが類似した局所的構造を示すと思われるいくつかの他の
保存された残基の関係から、ヒトのC5において相当する残基について変換した。
変異の導入、発現およびC3切断反応の分析法は前述の実施例(実施例1-4)
に記載されている。変異導入用のオリゴヌクレオチドは以下の配列で合成した:
tggtgttgaccaatacatctccgactatcagctggacaa
因子Bのターンオーバーの分析
実施例9に記載されているようにして、発現された産物をクローン-3-セファロ
ースのカラムによるアフィニティー精製を用いてCOS細胞培地から精製した。こ
の方法により、チオールエステルの破壊型であるC3iの相当量の転換が起こる。
野生型のC3も同様の方法により単離した。野生型のC3を希釈したもの(1/5、1/2
5、および1/125)を、変異体のC3とともにSDS-PAGE(還元条件下)で泳動し、銀
染色により変異体が野生型C3の1/25希釈液よりも僅かに低いが、1/125希釈液よ
りは高い濃度で存在していることが判明した。同様の希釈液を因子Bのターンオ
ーバーの分析に使用した。これらのC3、5μlを、5μg/mlの因子Dおよび約1.6μ
g/mlの125-Iで標識された因子B(約1000-2000 dpm/μl)を含むCFD-G、25μlと
、37℃で3時間反応させた。次に、試料を乾燥ゲルのオートラジオグラフィーと
ともにSDS-PAGE(還元条件下)により分析した。結果は図7に示されている。
8.3 結果
図7に示されているように、野生型C3(C3i)の1/125希釈液でさえもはっきり
とした因子Bの切断が起こる。対照的に、変異体C3の存在下では、野生型の1/12
5希釈の試料よりも高い濃度になるはずの希釈していないものでさえ顕著な切断
は観察されなかった。
それゆえに、この変異体は、おそらく因子Bに対する結合親和性の低下のため
に、因子Bの切断を助長する能力を喪失していると思われる。そのため、ここは
C3i(またはC3b)と因子Bとの相互作用、およびおそらくは転換酵素(C3iBbま
たはC3bBb)の安定性をも調節できるように変異を入れることのできるC3の領域
である。実施例9
発現された変異体C3分子の精製
9.1 序
本実施例では、変異型C3分子をどのようにしてトランスフェクションされた真
核細胞の培養培地等の発現された培地から単離できるかを示す。C3分子は、単純
なアフィニティー精製により、機能試験および実施例10に記載されている方法に
よる抗体への結合にとって十分な純度が得られる。抗体からの溶出は内部のチオ
ールエステルのかなりの割合の加水分解により行うが、それでもなおC3i産物は
、C3i-抗体結合物の作製と同様に活性なC3転換酵素の作製に適した前駆体である
。この方法はin vivoにおける利用に必要な調製法の一部としても有用であろう
と思われる。
9.2 方法
クローン-3-セファロースによるアフィニティー精製
クローン-3はC3、およびC3bおよびC3iを含むその誘導体に特異的なラットのモ
ノクローナル抗体である(Lachmann,P.J.ら、1980,J.Immunol.41: 503-515
)。C3に対する他のモノクローナル抗体も利用でき、いくつかの場合においては
、僅かな量のヒトの原形質からC3を単離するのに利用して成功しており(Dodds
,A.W.,1993,Methods Enzymol.223: 46-61)、それゆえ、ex vivoで発現され
た分子の単離にも適用できると思われる。IgG画分をセファロースCL-4Bに臭化シ
アンを用いて結合させる(方法論は、HarrisonおよびLachmann,1986,Handbook
of Experimental Immunology,第4版,編集 Weir,Herzenberg,Blackwell,
およびHerzenberg; Blackwell,Oxford、に記載されている)。培養液の上清を
この樹脂のカラムに直接通す(再循環させる)か、または最初に25%(w/v)のNa2
SO4で沈澱させてPBS,5mM NaN3に再溶解および透析することにより濃縮するか
のいずれかを行う。続いてカラムを(i)PBS,5mM NaN3、および(ii)1M NaCl
を含むPBS、で続けて洗浄する。結合したC3は50mM ホウ酸ナトリウム緩衝液、pH
10.5により溶出し、0.9mlの画分を1mlの1M Tris/NaCl pH 7に回収することによ
って直ちに中和される。物質を次に、PBS,5mM NaN3に透析する。
"His-Tag"を有するC3の調製
”His-Tag”はニッケルイオンを有するカラムに親和性を示すヒスチジン残基
のつながったものである。この方法は発現されたタンパク質の単離の手助けにな
るように改良されてきた。我々はこの方法が発現された変異体C3分子の単離に有
用であると考え、それで我々はカルボキシル末端(残基1663の直後のカルボキシ
ル末端)に6つのヒスチジン残基の尾をもつC3をコードするプラスミドを作製す
るために挿入変異導入を用いた。hisタグのこの配置は、元来のC3の合成、折り
畳み、プロセッシング、およびジスルフィド結合の形成への影響を最小限にする
ために選択した。残基1661は上流の配列にある残基(おそらくCys 1537;Dolmer
,K.およびSottrup-Jensen,L.,1993,FEBS-Lett 315: 85-90)とのジスルフィ
ド結合に関与するシステイン残基であり、そのためにこの構造的特徴の範囲以外
で挿入するのが賢明であると思われた。変異は、実施例1で使用した”ギャップ
・プラスミド”法を用いて、以下の配列で合成された変異導入用オリゴヌクレオ
チドを用いて導入した:
tgggtgccccaaccatcatcatcatcatcattgaccacaccccc
正しい配列が挿入されたことはDNAの配列決定により確認した。その時点でこ
のDNA配列は発現ベクターにつなぐことができる。真核細胞にトランスフェクシ
ョンした後、発現されたC3は、ニッケルイオンを有するカラムに対する親和性、
または”His-Tag”に対して特異的な親和性をもつ他のマトリックスにより単離
することができるはずである。
9.3 結果
実施例1および2に記載されているCHO細胞において発現されたC3を含む、多数
の変異体C3をクローン-3-セファロースにより精製した。それらの産物は因子D
による因子Bの切断を助長する能力を保持していた。COS細胞で発現された、実
施例B2に記載されている変異体を単離するために同様の方法を用いた。SDS-PAGE
ゲルの銀染色により、単離された産物は純度100%ではないが、しばしば純度50%
以上であると思われることが判明した。これは、一般的に10%(v/v)の仔牛血清
と他の細
胞質タンパク質との混合物中に10μg/ml未満のC3を含む出発物質から得られる。
さらに、C3は単離の途中では分解されておらず、内在性の因子HおよびIの活性
は除去されていると思われる。
”His-Tag”による精製はニッケルイオンを有するカラムからのより穏和な溶
出条件を必要とする。例えばEDTAを用いた。そのため、C3に対してこの方法を適
用すれば、内部のチオールエステル結合を破壊することなく単離することができ
るはずである。実施例10
C3iの抗体への結合および特定の細胞に対してC3転換酵素の活性を標
的化させるための利用
10.1 序
発明の一側面は、変異体C3分子由来の安定なC3転換酵素が、特定の標的部位に
局在したときにその標的への補体依存性の攻撃を促進すると思われる、増強され
たC3の転換を引き起こすことである。反応の標的化にとって好まれる研究法は、
変異体のC3分子を、C3iまたはC3bの誘導体のどちらかとして望みの標的に特異的
な抗体に結合させることである。本実施例において、我々はそのような結合体、
すなわち、たとえC3のチオールエステルが操作中に破壊されたとしても変異体の
C3iおよびC3b分子に対して適用可能であり、発現システムからアフィニティー精
製された物質に利用できる結合体の形成のための実用的な方法論を証明する。さ
らに我々は、C3iをヒツジの赤血球に特異的に結合する抗体に結合させることに
より、その結合体が、他の補体の構成要素が正常なモルモットの血清の形で(C3
のde-novoの形成を阻害するようにEDTAで)供給されたときに、これらの細胞の
溶解を開始させる転換酵素、C3iBbPが形成されるように、C3iを赤血球表面に固
定することを証明する。今後、抗体への結合はC3i分子を特定の細胞型への補体
依存的な攻撃を開始させるために標的化するのに利用することができる。本実施
例では、in vitroでC3転換酵素を形成する、ヒトの原形質由来の野生型C3iを使
用している。in vivoにおいては、野生型のC3iおよびC3bは因子HおよびIによ
り分解される。そのために、因子HおよびIに対して耐性になるように本特許の
計画に従って作
製され、そのために安定なC3転換酵素を形成する変異体のC3は生理学的な関係に
おいて有用であろう。
10.2 方法
(i) 3i-抗体結合体の作製および精製
使用した抗体はポリクローナルなウサギの抗ヒツジ赤血球抗血清から単離した
IgG画分であった。その1.1mgを結合緩衝液、pH 7.5(20mM KH2PO4,60mM Na2HPO4
,0.12M NaCl)において75nmolのSPDPと室温で2時間反応させた。PDP-IgGはSup
erose-6カラム(Pharmacia)(0.5M NaClを含むリン酸緩衝液、pH 7.4、中で)
によるゲル濾過により精製した。ジチオスレイトールによる試料の還元を利用し
、IgG分子当たり4つのPDPのグループが結合していることが見積もられた。C3iは
精製したC3を0.1mM メチルアミン、pH 7.2、で処理(37℃で2時間)することに
より調製した。余分なメチルアミンはゲル濾過に続く結合緩衝液への透析により
除去した。18nmolのC3iを1.26mlの結合緩衝液中で1.7nmoleのPDP-IgGと混合し、
室温での1日間に続いて4℃で1.5日間反応させた。図8は、PDP-IgGまたはC3iのい
ずれにも存在していなかった約350kDaの種の存在を示す、結合反応混合液のクマ
シーブルー染色したSDS-PAGEゲルを示す。この種は、0.5M NaClを含むリン酸緩
衝液、pH 7.4、においてのSuperose-6カラムによるゲル濾過により部分的に精製
され、続いてPBSに透析した。それはC3の前に、球状分子量基準の目盛りにより
分子量300-400 kDaと見積もられる容量で溶出する。結合体、遊離の抗体、およ
び結合しなかったC3の濃度はクマシー染色したSDS-PAGEゲル(非還元条件)から
算出した。二次元SDS-PAGE(一次元目は非還元条件で、二次元目は還元条件で)
はIgGとC3iとの1:1の結合体に矛盾しないパターンを示した。
(ii) C3-抗体結合体が特定の細胞に対する転換酵素活性の標的化に利用でき
ることの証明。
20μlの結合体の希釈液(0(結合体なし)、1/100、1/50、1/10)を、100μlの
約1%(v/v)ヒツジ赤血球(CFDにてあらかじめ洗浄したもの)と37℃で1時間反
応させた。それと平行して、等量のPDP-IgG(C3なし)およびC3のみでの反応も
行っ
た。続いて細胞をCFDで4回洗浄し、100μlのCFD-Gに懸濁した。この50μlを150
μlのH2Oで溶解し、続いて10mM EDTAおよび2%(v/v)NGPSを含むCFDを800μl添
加した。結合体でコーティングした細胞の残りの50μlは、190μl/mlの因子B、
2μg/mlの因子D、20μl/mlのプロパジン、および0.6mMのNiCl2を含む50μlのCF
D-Gと37℃で15分間反応させ、続いて10mM EDTAおよび2%(v/v)NGPSを含む900μ
lのCFDで溶解した。37℃で30分後、細胞を遠心(2000 x g、約3分)により沈澱
させ、上清の412nmの吸光度を測定した。H2Oで処理した試料を溶解度100%、細胞
のまったくいない緩衝液をブランクとして用い、図9に示されているようにして
溶解度%を算定した。結合体は投与量に依存した溶解を示したが、一方PDP-IgGも
C3iだけのものも、そのような処理をしないときに観察されるもの以上の有意な
溶解は起こらなかった。
10.3 結果の要約
以下に示されている利用した方法はC3iをIgGに結合させるのに有効であること
が示された:
1. 図8のSDS-PAGEにより示された1:1のC3:IgG結合体に対する適切な大きさ(
約350 kDa)のバンドの形成。
2. 二次元SDS-PAGE(一次元目は非還元条件、二次元目は還元条件)は、この
種がIgGとC3iの両方を含んでいることを示した。
3. この種のゲル濾過における溶出の特徴は、ここでも約350 kDaの分子と矛
盾していない。
4. 結合体はPDP-IgGまたはC3iのいずれによっても示されない溶血活性を示す
(図9)。
溶血分析(図9)ではさらに以下のことが証明される:
1. 特異的な抗ヒツジ赤血球抗体はC3iを標的細胞(ヒツジの赤血球)の膜に
局在させ、C3iが洗浄により除去される(遊離のC3iと比較して)のを防いだ。
2. 結合体は、依然としてプロパジンおよび因子BおよびDとの反応によりC3
転換酵素を形成することができることから、C3iの活性を保持している。
3. この転換酵素は、この場合、赤血球を溶解させる溶解経路(C5-9)を活性
化することにより、標的の補体依存的な攻撃を開始させることができる。
さらに他の研究室のデータによると、コブラ毒因子は抗体に結合させることが
でき、それらの結合体は特定の細胞型に対する補体の活性化を引き起こすことが
できることが示されている(Vogel,1988,Targeted.Diagn.Ther.,1: 191-22
4; Muller,B.およびMuller-Ruchholtz,W.,1987,Leuk.Res.11: 461-468;
Parker,C.J.,White,V.F.およびFalk,R.J.,1986,Complement 3: 223-235;
Petrella,E.C.ら,1987,J.Immunol.Methods 104: 159-172)。これらのデ
ータは、コブラ毒因子のように安定なC3転換酵素を形成することができるように
改変されたC3は、本発明に概説されているように、補体を介した応答を引き起こ
させるのに利用できるという主張を支持している。実施例11
変異体C3分子が正常なヒトの血清中において因子Bのターンオーバー
を誘導することの証明
11.1 序
本明細書に記載されている発明の主な目的は、生物製剤の液体の中からの補体
活性の消費による枯渇である。本発明は因子HおよびIによる負の制御に耐性と
なるC3分子の製造法を記載している。この状態ではそれらは因子Bに結合して活
性なC3転換酵素を作り出すだろう。これらの転換酵素の活性は実施例6で用いら
れている溶血分析により証明されている。それゆえにそのような転換酵素はC3を
消費してくれるであろう。もしも転換酵素が不安定であれば、C3の転換をそれほ
ど行わないまま解離するであろう。しかしながら、これによって、新たな因子B
の結合、および因子BのBbおよびBaへの転換が可能になるのである。このように
して変異体C3は因子Bの消費を促進し、最終的には代替経路を利用不能にし、標
準的な経路の活性化を増幅できなくするだろう。もしも安定なC3転換酵素が形成
されれば、因子Bのターンオーバーは減少するが、C3の消費は増加するであろう
。それゆえにどちらの状況も望ましいのである。本実施例において、我々は、因
子Iに対して耐性になるように改変するが、転換酵素の安定性を改変してしまう
ような改変は施していない変異体C3分子が、ヒトの血清において因子Bのターン
オ
ーバーを加速させることを証明する。対照的に、野生型のC3は、おそらく野生型
のC3iが因子HおよびIにより急速に分解されるために、有意なターンオーバー
は引き起こさない。
11.2 方法
調製した変異体は以下の通りである:
Q1R2 Arg1303をGlnに変えたもの(実施例2)
Q1Q2 Arg1303のGlnへの置換に加え、Arg1320をGlnに置換したもの(実施例1)
E1Q2 Arg1303のGluへの置換に加え、Arg1320をGlnに置換したもの(実施例5)
これらの変異体をすべてCHO細胞において発現させ、次に、実施例B3に記載さ
れているようにしてNa2SO4による沈澱とそれに続くクローン-3-セファロースに
よるアフィニティー精製によって精製した。野生型C3(R1R2)も同様にして単離
した。銀染色を伴ったSDS-PAGEによると、Q1の濃度は野生型の濃度の1/5から1/2
5の間であり、Q1Q2の濃度は野生型の濃度の約1/5、E1Q2の濃度は野生型の1/25か
ら1/125の間であった。すべての調製物はおそらくチオールエステルが破壊され
た分子(C3i)の大部分を含んでいた。
これらのC3の調製物10μlを、1mM MgCl2および約300ngの125I標識された因子
B(約2-300,000 dpm)を含むPBSに溶解した20%(v/v)の正常なヒトの血清10μl
と、37℃で1時間反応させた。続いて5μlをSDS-PAGE(還元条件)により分析し
た。完全な因子Bおよびその切断産物に相当するバンドの位置を示すように、乾
燥させたゲルをオートラジオグラフィー フィルムに露光した。次にそれらを摘
出し、切断の度合を正確に決定するためにカウントを計測した。緩衝液のみで得
られた値をバックグラウンド(バックグラウンドの切断だけでなく、分解産物お
よび放射性リガンドの調製物中に存在する他の不純物を含んでいる)として差し
引いた。
11.3 結果
因子Bの切断の起こった割合を以下に示す:
1/25 野生型 1.49%
1/5 野生型 2.74%
Q1R2 6.19%
Q1Q2 7.41%
E1Q2 6.42%
このために、因子Iに耐性な変異体はすべて等量の野生型C3(C3i)よりも多
くの因子B切断を生じる。さらに多くの投与またはより長いインキュベーション
により、代替経路が完全に能力を失うはずである。
前述の実施例において使用した略語には以下のものが含まれる:
CFD、補体固定用希釈液(HarrisonおよびLachman,1986,Handbook of Experime
ntal Immunology,第4版,編集者 Weir,Herzenberg,BlackwellおよびHerzenb
erg; Blackwell,Oxford、で定義されている);CFD-G、0.1%(w/v)のゼラチン
を含むCFD; PBS、リン酸緩衝塩水; NGPS、正常モルモット血清; SDS-PAGE、SD
S-ポリアクリルアミドゲル電気泳動; SPDP、N-スクシニミジル-3-[2-ピリジル
ジチオ]プロピオン酸塩。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C12P 21/02 C12N 5/00 B
(C12N 5/10
C12R 1:91)
(C12P 21/02
C12R 1:91)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AT,AU,BB,BG,BR,BY,CA,C
H,CN,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB
,GE,HU,IS,JP,KE,KG,KP,KR,
KZ,LK,LR,LT,LU,LV,MD,MG,M
K,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO
,RU,SD,SE,SG,SI,SK,TJ,TM,
TT,UA,UG,US,UZ,VN