JPH1017971A - 切削性および耐食性に優れた非熱処理型塑性加工用アルミニウム合金 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 切削性および耐食性に優れた非熱処理型塑性
加工用アルミニウム合金を提供する。 【解決手段】 Ｎｉ：０．５〜４．０ｗｔ％、Ｃｕ：≦
０．５ｗｔ％、Ｍｇ：１．５〜６．０ｗｔ％、Ｓｉ：
０．０５〜１ｗｔ％含有し、Ｂｉ：０．１〜２．０ｗｔ
％、Ｓｎ：０．１〜２．０ｗｔ％のうち１種又は２種含
有し、かつ総量で０．５〜２．０ｗｔ％含有し、Ｆｅ、
Ｍｎの含有量が各々≦１．０ｗｔ％でかつＦｅ＋Ｍｎ≦
１．０ｗｔ％の関係式を満足し、残部がＡｌ及び不可避
不純物からなる切削性および耐食性に優れた非熱処理型
塑性加工用アルミニウム合金。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】この発明は機械加工性および
耐食性に優れた非熱処理型塑性加工用アルミニウム合金
に関するものであり、さらに詳しくは自動車用カーエア
コンのコンプレッサーのフランジや、ＡＢＳ装置の油圧
ユニット部に使用される部品に適したものである。

【０００２】

【従来の技術】従来、切削性の優れたアルミニウム合金
としては、Ｃｕを主要含有元素とし、さらに少量のＰ
ｂ、Ｂｉを含有させた２０１１合金や、Ｍｇ₂ Ｓｉを主
成分とし、さらに少量のＰｂ、Ｂｉを含有させた６２６
２合金等が良く知られている。そして、これらの合金は
いずれも析出硬化型合金であり、焼入れ、焼戻しによる
硬化状態で優れた切削性を有するアルミニウム合金であ
る。

【０００３】しかし、このような熱処理型アルミニウム
合金は焼入れ、焼戻しの熱処理を伴うため、塑性加工後
製品にした場合、寸法精度が劣り、又高温における溶体
化によりマクロ結晶粒組織を粗大化させる現象を生じ、
機械加工後に切削表面に結晶粒模様が生じる。

【０００４】そのため最近、これらの問題の少ない非熱
処理型の快削性合金として、Ｍｎ０．３〜１．７ｗｔ
％、Ｆｅ０．２〜１．５ｗｔ％、Ｐｂ０．２〜１．５ｗ
ｔ％、Ｓｎ０．１〜２．０ｗｔ％、Ｍｇ０．７ｗｔ％以
下、Ｓｉ０．３〜３．０ｗｔ％（０．３ｗｔ％を含ま
ず）を含有し、Ｃｕ６．０ｗｔ％以下、Ｚｎ３．０ｗｔ
％以下の１種または２種、およびＮｉ３．０ｗｔ％以
下、Ｃｒ０．３ｗｔ％以下、Ｚｒ０．３ｗｔ％以下のう
ちから選んだ１種以上、さらに、Ｔｉ０．００５〜０．
３ｗｔ％、Ｂ０．０００１〜０．１ｗｔ％の１種または
２種を含有することを特徴とする非熱処理型快削アルミ
ニウム合金（特開昭６０−２４３４０）や、Ｍｇ３．０
〜５．０重量％、Ｎｉ０．６〜３．０重量％、Ｓｉ０．
１〜０．５重量％、Ｆｅ０．１〜０．７重量％を含有し
耐摩耗性、耐食性に優れ切削工具摩耗が少ないアルミニ
ウム合金（特開昭６３−５０４４２）などが提案されて
いる。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら特開昭６
０−２４３４０で提案されている非熱処理型快削アルミ
ニウム合金は、Ｃｕ、Ｚｎを多量に含有しているため耐
食性が悪く、腐食雰囲気下で使用することは困難であ
る。また特開昭６３−５０４４２で提案されている非熱
処理型アルミニウム合金は、快削成分としてＰｂ、Ｂｉ
を含まないため、切り粉の分断性が悪く、仕上げ面粗さ
も充分でない。さらに、快削成分として含まれるＰｂは
有害物質であり、環境上好ましくない。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明はこれらの問題点
を鑑み、種々研究の結果なされたものである。即ち、本
発明を達成するための手段は、Ｎｉ：０．５〜４．０ｗ
ｔ％、Ｃｕ：≦０．５ｗｔ％、Ｍｇ：１．５〜６．０ｗ
ｔ％、Ｓｉ：０．０５〜１ｗｔ％含有し、Ｂｉ：０．１
〜２．０ｗｔ％、Ｓｎ：０．１〜２．０ｗｔ％のうち１
種又は２種含有し、かつ総量で０．５〜２．０ｗｔ％含
有し、Ｆｅ、Ｍｎの含有量が各々≦１．０ｗｔ％でかつ
Ｆｅ＋Ｍｎ≦１．０ｗｔ％の関係式を満足し、残部がＡ
ｌ及び不可避不純物からなることを特徴とする。

【０００７】以下本発明のアルミニウム合金における成
分限定理由について述べる。 Ｎｉ：Ｎｉは数μｍのＡｌ−Ｎｉ系、Ａｌ−Ｆｅ−Ｎｉ
系等の金属間化合物を晶出させることにより、切削・ド
リル切り粉のチップブレーカーの役割をはたし、さらに
セルフクリーニング効果により、切削またはドリル工具
へのアルミの凝着を防止する働きがあり、構成刃先の形
成による仕上げ面粗度の劣化を防ぐ。また、Ｎｉはマク
ロ結晶組織の微細化効果があり、切削後の結晶粒模様の
防止が出来るだけでなく、粒界腐食による深さ方向への
腐食の進行速度を抑制できる。

【０００８】さらに、Ａｌ−Ｎｉ系の金属間化合物の晶
出物は、それ自体アルミマトリックスと比較して貴であ
るため、本来ガルバニック腐食を促進させるものである
が、かかる晶出物が数μｍの大きさで、アルミマトリッ
クス中に分散・晶出する場合、ミクロ的な孔食が認めら
れるものの、深さ方向への進行がないことを確認した。
しかしながら、Ｎｉの含有量が４．０ｗｔ％を超える
と、粗大な針状の金属間化合物を生じさせ、切削時の脱
落・引き摺りにより表面の仕上り状態を劣化させるだけ
でなく、塑性加工性も悪化させる。さらには、粗大な針
状の金属間化合物の晶出物は腐食領域を深くまた広くす
るため耐食性を著しく劣化させる。また、０．５ｗｔ％
以下ではＡｌ−Ｎｉ系の金属間化合物の晶出物も少な
く、前記効果が得られない。

【０００９】Ｃｕ：０．５ｗｔ％以上の添加では、Ｃｕ
Ａｌ₂ 、ＣｕＭｇＡｌ₂ 等の金属間化合物が、結晶粒界
に析出しやすく粒界腐食の原因となり、腐食性を著しく
劣化させる。また、固溶状態にあるＣｕは、腐食雰囲気
中でアルミマトリックスの溶解に伴い、Ｃｕも溶解し
て、アルミマトリックスと比較して貴であるＣｕイオン
はアルミ表面に再析出して、孔食の原因となる。従っ
て、０．５ｗｔ％以下が好ましい。

【００１０】Ｍｇ：Ｍｇは非熱処理アルミニウム合金に
おいて合金中に固溶して合金強度を向上させるために不
可欠な元素である。また、Ｓｉとの金属間化合物のＭｇ
₂ Ｓｉは数μｍの大きさとなり、切削・ドリル切り粉の
チップブレーカーとしての役割を期待できる。従って、
１．５ｗｔ％以下では、所望の強度が得られないだけで
なく、切削性の向上も期待できないため好ましくない。
また、６．０ｗｔ％を超えると、鋳造割れや高温での塑
性変形時の割れが生じやすくなるだけでなく、Ｍｇ₂ Ａ
ｌ₃ の凝固偏析を生じ逆に合金強度を劣化させる場合も
あり好ましくない。

【００１１】Ｓｉ：ＳｉはＦｅおよびＭｎ系の金属間化
合物の晶出をコントロールして適当な分散状態を取るの
に必要な元素である。また、Ｍｇとの金属間化合物であ
るＭｇ₂ Ｓｉの生成も期待できる。これらの化合物は、
切削・ドリル切り粉のチップブレーカーとしての役割を
期待できる。従って０．０５ｗｔ％以下ではその効果が
期待できない。１ｗｔ％を超えるとＭｇ₂ Ｓｉが粗大化
して、切削時の脱落・引き摺りにより表面の仕上り状態
を劣化させる。さらに、単体Ｓｉの晶出が生じ、この晶
出物は、切削・ドリル切り粉のチップブレーカーとして
の役割を期待できるものの、それ自体の硬度が金属間化
合物で形成される析出・晶出物に比較して高いため、ド
リルやバイトの摩耗を促進して工具寿命を短くする。こ
れらの理由により、その添加量が１ｗｔ％以下が好まし
い。

【００１２】Ｂｉ、Ｓｎ、Ｃｄ、Ｐｂ：これらの低融点
合金は、それぞれアルミマトリックス中に固溶せず、微
細に分散して存在し、チップブレーカーとしての役割を
果たし切削性を改善する。しかしながら、Ｐｂ、Ｃｄは
有害物質であり、環境上好ましくない。従って、本発明
合金に添加する元素をＢｉ、Ｓｎに限定した。各々で
は、０．１ｗｔ％以下では効果がなく、２．０ｗｔ％を
超える場合には切削性は向上するものの、これらの元素
は重元素で、溶製時に重力偏析しやすくＢｉ、Ｓｎの粗
大な偏析相が生成して、腐食を促進するため好ましくな
い。

【００１３】Ｆｅ、Ｍｎ：Ａｌ−（Ｍｎ、Ｆｅ）系の金
属間化合物はＳｉの存在により、晶出が促され、数μｍ
の晶出物相を形成する。これらの晶出物はマクロ結晶粒
組織の微細化、チップブレーカーの役割などの効果があ
り合金の性能を向上させる。しかし、各々で０．１ｗｔ
％以上の添加がないと効果がなく、各々若しくはトータ
ルで１．０ｗｔ％を超えて添加する場合、巨大な初晶化
合物を形成する可能性があり、１．０ｗｔ％以下の添加
が望ましい。近年のリサイクルが叫ばれる中、本元素は
不可避で混入される確率が高い。本発明では、各々また
は、トータルで（１．０ｗｔ％）まで添加しても発明の
効果が損なわれないことから、リサイクル性に優れた合
金であると考えられる。

【００１４】Ｔｉ、Ｂ：本発明においては特に規定して
いないが、通常溶製材の場合、鋳造を安定化させるた
め、組織微細化の目的でＴｉを添加する。さらに、Ｔｉ
と共にＢを添加すれば一層効果的である。Ｔｉ添加は
０．００１〜０．２ｗｔ％の添加が好ましく、Ｂの添加
は１〜５００ｐｐｍが好ましい。

【００１５】

【実施例】次に本発明に係るアルミニウム合金の実施例
を比較例と共に詳細に説明する。表１に示す組成のアル
ミニウム合金を溶製し、直径８インチφのビレットに連
続鋳造した。表２に製造条件を示した。この連続鋳造し
た直径８インチφのビレットを均質化処理を行い、６
２．５ｍｍφの丸棒に押出した。この押出し棒を厚さ９
ｍｍの円板状に切断し、Ｏ材処理後ボンデ処理を施し、
冷間鍛造し外径６３ｍｍφのカップ形状品を成形した。
実施例１〜５および比較例１〜３は鍛造のまま、比較例
４および５は現行合金材で、各々２０１１および６２６
２である。試験および評価方法は次の方法により行っ
た。即ち、硬度、切削性、切削バイト摩耗性、耐食性お
よびマクロ結晶粒の粗大化度を調査した。調査結果は表
３に示す。

【００１６】（１）硬度試験 ロックウェル硬度計にて測定した。 （２）切削試験 カップ形状外周面をバイト（コンパックスバイト Ｒ−
０．４）を使用し、切込み片側０．１ｍｍ、削り速度１
０ｍ／ｓｅｃ（３０００rpm ）、送り速度０．１ｍｍ／
ｒｅｖの条件で行い評価した。評価方法の判断基準は以
下に示す。 切り粉分断性 ○：分断性あり。 ×：切り粉が連続的に繋がる。 切り粉形状 ○：カール状で切り粉の排出性が良好である。 ×：リボン状で切り粉がバイトに絡みやすい。 加工仕上り度 加工後の面粗度をＲ_Z で示した。

【００１７】（３）バイト摩耗性 押出したままの６２．５ｍｍφの丸棒を実施例１〜５お
よび比較例１〜３はそのままで、比較例４および５はＴ
６熱処理を行い試験を行った。試験は、前記丸棒の外周
をバイト（コンパックスバイト Ｒ＝０．４）で、１回
の切込み片側０．０２ｍｍ、削り速度１０ｍ／ｓｅｃ
（３０００rpm ）、送り速度０．０３ｍｍ／ｒｅｖの条
件で総走行距離１２０００ｍ切削後バイト面の摩耗状況
をＳＥＭ観察を行い評価した。評価方法はバイトの逃げ
面の摩耗幅で評価した。 ○：摩耗幅 ２０μｍ未満 ×：摩耗幅 ２０μｍ以上

【００１８】（４）塩水噴霧試験 鍛造したカップ形状品を３５℃の５％食塩水噴霧雰囲気
中に７２時間保持後、硝酸により腐食生成物を除去し
て、腐食部の断面を研磨後、表面からの孔食深さを測定
した。 ○：孔食深さが０．１ｍｍ未満 ×：孔食深さが０．１ｍｍ以上 （５）マクロ結晶粒の評価 （２）の切削試験を行ったサンプルの表面をエッチング
して観察して粒径を測定した。

【００１９】

【表１】

【００２０】

【表２】

【００２１】

【表３】

【００２２】

【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る非熱
処理型塑性加工用アルミニウム合金は、切削性（切り粉
分断性、切り粉形状、加工仕上り度）、バイト摩耗性、
耐食性ともに優れ自動車用カーエアコンのコンプレッサ
ーのフランジや、ＡＢＳ装置の油圧ユニット用材料とし
て優れた効果を有する。さらに熱処理を施さなくとも上
記効果を有することから、寸法精度の向上を図ることが
でき、かつコスト低減を図れる。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 照田 伸二 福島県喜多方市長内7840 株式会社ショウ ティック内 (72)発明者 内田 友生 福島県喜多方市長内7840 株式会社ショウ ティック内 (72)発明者 柳本 茂 福島県喜多方市長内7840 株式会社ショウ ティック内

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 Ｎｉ：０．５〜４．０ｗｔ％、Ｃｕ：≦
   ０．５ｗｔ％、Ｍｇ：１．５〜６．０ｗｔ％、Ｓｉ：
   ０．０５〜１ｗｔ％含有し、Ｂｉ：０．１〜２．０ｗｔ
   ％、Ｓｎ：０．１〜２．０ｗｔ％のうち１種又は２種含
   有し、かつ総量で０．５〜２．０ｗｔ％含有し、Ｆｅ、
   Ｍｎの含有量が各々≦１．０ｗｔ％でかつＦｅ＋Ｍｎ≦
   １．０ｗｔ％の関係式を満足し、残部がＡｌ及び不可避
   不純物からなる切削性および耐食性に優れた非熱処理型
   塑性加工用アルミニウム合金。