JP7318282B2 - コンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金およびコンプレッサー摺動部品鍛造品 - Google Patents

コンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金およびコンプレッサー摺動部品鍛造品 Download PDF

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Description

本発明は、自動車エアコン用コンプレッサー(圧縮機)に代表される摺動部品、とりわけスクロールおよび電動スクロールに好適に使用できるアルミニウム合金に関する。
近年の自動車業界における燃費向上の要求から、自動車に使用される各種部材、例えばカーエアコン用のコンプレッサーには軽量化、高機能化の要求が高まってきている。カーエアコン用コンプレッサーには種々の形式が存在するが、上述の背景に伴い小型コンプレッサーとしてスクロール型が普及している。このような部材については、鉄鋼材料や鋳鉄材料に代えて、重量に対する強度の比である比強度の大きいアルミニウム合金が使用されてきている。特に上記カーエアコン用コンプレッサーに代表されるような、高温雰囲気下の過酷な環境でも使用し得る高温下高強度を有し、且つ摺動時の耐摩耗性に優れたAl-Si系合金等のアルミニウム合金からなる鍛造材が注目されている。
この種のアルミニウム合金鍛造材を製造するに際しては、例えば特許文献1に記載されているように、所定の金属組成のアルミニウム合金を金型鋳造にて成形し、所定の熱処理を施すことによってカーエアコン用スクロールを製造することが行われている。
特開平10-121215号公報
ところで、上記のようなアルミニウム合金を用いてスクロールを製造する際、機械加工を施すが、その際の切削性に課題がある。即ち、スクロールの渦巻き状の溝を切削加工で形成する際に、切粉が1本に繋がり、細かく分断されない場合、この長い切粉が、切削バイトに巻き込まれて、製品(スクロール)に傷が生じる。このような傷が発生しないようにするためには、切粉分断性を向上させる、即ち切粉を細かくする必要がある。Siを多量添加することで、切粉分断性を向上させることは可能であるが、その一方で、Si多量添加により切削バイトの摩耗量が多くなってしまい、切削バイトの寿命を低下させるという問題があった。
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、切削時の切粉分断性に優れると共に、バイト摩耗量を低減することができ、且つ十分な引張強さを確保できるコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金及びコンプレッサー摺動部品鍛造品を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明者は鋭意研究の結果、アルミニウム合金においてSi、Cu、Mgをそれぞれ特定の含有率範囲に制御することにより、切削時の切粉分断性に優れると共に、バイト摩耗量を低減することができ、且つ十分な引張強さを確保できることを見出すに至り、本発明を完成したものである。即ち、本発明は以下の手段を提供する。
[1]Si:4.0質量%を超えて6.0質量%以下、Cu:1.5質量%~3.5質量%、Mg:0.1質量%~0.8質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であって、
前記アルミニウム合金材料の引張強さが360MPa~450MPaであることを特徴とするコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金。
[2]前記アルミニウム合金は、さらにTi:0.001質量%~0.1質量%を含有する前項1に記載のコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金。
[3]前項1または2に記載のコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金で構成されたコンプレッサー摺動部品鍛造品。
[4]前項1または2に記載のコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金で構成された電動コンプレッサー摺動部品鍛造品。
[1]の発明では、切削時の切粉分断性に優れると共に、バイト摩耗量を低減することができ、且つ十分な引張強さを確保できるコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金を提供できる。
[2]の発明では、Tiを特定含有率で含有するので、鋳造品の結晶粒微細化に寄与できる。
[3]の発明では、切削時の切粉分断性に優れる(製品に傷がない)と共に、バイト摩耗量を低減することができ、且つ十分な引張強さを確保できるコンプレッサー摺動部品を提供できる。
[4]の発明では、切削時の切粉分断性に優れる(製品に傷がない)と共に、バイト摩耗量を低減することができ、且つ十分な引張強さを確保できる電動コンプレッサー摺動部品を提供できる。
鍛造前の鋳造材を示す斜視図である。 鍛造材の一例を示す斜視図である。 本発明に係るコンプレッサー摺動部品鍛造品の一例を示す斜視図である。
本発明に係るコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金は、Si:4.0質量%を超えて6.0質量%以下、Cu:1.5質量%~3.5質量%、Mg:0.1質量%~0.8質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であって、前記アルミニウム合金材料の引張強さが360MPa~450MPaであることを特徴とする。このような構成とすることで、切削時の切粉分断性に優れると共に、バイト摩耗量を低減することができ、且つ十分な引張強さを確保できるコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金を提供できる。
次に、上述した本発明に係るコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金における「アルミニウム合金」の組成について以下詳述する。前記アルミニウム合金は、Si:4.0質量%を超えて6.0質量%以下、Cu:1.5質量%~3.5質量%、Mg:0.1質量%~0.8質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金である。
前記Si(成分)は、高温強度を向上させる作用を有する他に、切削時の切粉分断性を向上させる作用(切削時の切粉を細かくする作用)を有する。しかしながら、過剰に添加すると、切削バイトの摩耗量が増加し、切削バイトの工具寿命を短縮させてしまう。Siが4.0質量%以下では、切削時の切粉分断性が不十分になり(切削時の切粉の平均長さが長くなり)、製品(スクロール)に傷が生じる。一方、Siが6.0質量%を超えると、切削バイトの摩耗量が増加し、切削バイトの工具寿命を短縮させる。従って、Si含有率は、4.0質量%を超えて6.0質量%以下に設定する。中でも、Si含有率は、4.5質量%~5.5質量%に設定するのが好ましい。
前記Cu(成分)は、高温強度を向上させる作用を有する。高温強度を向上させる作用はCuの析出によるものであり、人工時効処理を施すことによって上記効果が得られる。Cuが1.5質量%未満では、十分な析出強化が得られず、強度を向上できない。一方、Cuが3.5質量%を超えると、十分な強度が得られない。従って、Cu含有率は、1.5質量%~3.5質量%に設定する。中でも、Cu含有率は、2.1質量%~2.9質量%に設定するのが好ましい。
前記Mg(成分)は、高温強度を向上させる作用を有する。Mgは鋳造時に固溶し、人工時効処理時にSiやCuと化合物を形成して析出することで、高温における強度向上に寄与する。このような効果は、Mg含有率が0.1質量%以上で顕著に表れ、Mg含有率が0.8質量%を超えると上記効果が顕著に表れなくなる。従って、Mg含有率は、0.1質量%~0.8質量%に設定する。中でも、Mg含有率は、0.4質量%~0.7質量%に設定するのが好ましい。
前記アルミニウム合金は、さらにTi:0.001質量%~0.1質量%を含有するのが好ましい。Tiは、微細添加することで鋳造品の結晶粒微細化に寄与する。この効果は、Ti含有率が0.001質量%以上になると顕著に表れるが、0.1質量%を超えると、Tiを含む化合物が粗大に晶出して、延性低下をもたらす。従って、Tiは、0.001質量%~0.1質量%含有せしめるのが好ましい。中でも、Tiは、0.01質量%~0.08質量%含有せしめるのがより好ましい。また、Tiを含有させる場合は、Al-Ti母合金やTiB2の添加剤の形態で添加してもよい。
その他の金属元素として、Zn、Fe、Ni、Mn、Cr、Co、V、Mo、Zr、Sc、Hf、Ce、Nb、Er、Ybは、不可避不純物として、これらの合計量で最大0.5質量%まで許容できる。0.5質量%を超えると、Al母相より先に晶出されて粗大晶出物となり、延性低下をもたらす。
上述した組成のアルミニウム合金を例えば周知の方法で溶製することによって上記合金組成の連続鋳造材(ビレット)を製作し、その連続鋳造材に熱処理を行い、さらに鍛造加工等の塑性加工を行った後、切削加工等を行うことによって、コンプレッサー摺動部品を得ることができる(図3参照)。なお、図3に示すものは、カーエアコン用スクロールであり、52は底板、51は、渦巻き状の羽根部である。
次に、本発明の一態様であるカーエアコン用摺動部品の製造方法の一例について説明する。
まず上述したように成分調整されたアルミニウム合金溶湯を連続鋳造する。電動スクロールの製造を想定した場合、例えば直径60mm~80mm程度の寸法で鋳造する。押出を用いて上記直径の鍛造用ビレットを得ることもできるが、製造コストが高価になるので、鋳造加工により鍛造用ビレットを得るのが好ましい。
得られた鋳造材は、鋳造時に晶出物の偏析等が起きているため、均質化熱処理を施すが、この均質化熱処理では加熱温度を460℃~510℃に設定し、処理時間を0.5時間~6時間に設定するのが好ましい。
次に、鋳造材を所定の長さに切断し、鍛造用ビレットを得る。鍛造工程では、金型温度を100℃~300℃とし、素材温度を370℃~510℃に設定するのが好ましい。
次いで、前記鍛造用ビレットに溶体化処理を行う。この溶体化処理では、加熱の温度を450℃~510℃に設定し、処理時間を0.5時間~8.0時間に設定するのが好ましい。
次に、焼入れ処理を行う。この焼入れ処理は、10℃~80℃の水で急冷するのが好ましい。
次いで、人工時効処理を行う。この人工時効処理は、加熱処理温度を160℃~220℃とし、加熱処理時間を1時間~18時間に設定するのが好ましい。
次に、人工時効処理を施した鍛造品を機械加工にて切削した後、ピーニングし表面近傍に塑性加工を加えて疲労強度を向上させる。このショットピーニング工程では、砥粒サイズは1mm以下とし、砥粒種はSUS304、アルミナ等を用い、ピーニング圧力は1MPa以下とするのが好ましい。
以上のようにして製造された本発明に係るコンプレッサー摺動部品鍛造品は、常温強度、高温強度に優れており、かつ切削時の切粉分断性に優れると共にバイト摩耗量を低減することができて、カーエアコン用として好適である。
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
<実施例1~6、比較例1~8>
表1に示す合金組成(不可避不純物を含む)に調製したアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造にて鋳造して直径82mmの鋳造材10を得た(図1参照)。鋳造時の冷却速度は15℃/秒とした。得られた鋳造材に対し470℃で7時間の均質化熱処理を行った後、空冷した。前記鋳造材を長さ30mmに切断した後、素材温度420℃、金型温度180℃で鍛造した。鍛造においては、スクロール鍛造品の底板52を想定し鋳造材の軸方向と平行な方向に80%の据え込みを行って鍛造材20を得た(図2参照)。次に、前記鍛造材に495℃で3時間加熱して溶体化処理を行った後、25℃の水にて水焼入れ処理を行った。次いで、加熱処理温度180℃で8時間加熱する人工時効処理を行って、T6鍛造品を得た。
Figure 0007318282000001
上記のようにして得られたT6鍛造品について下記評価法に基づいて評価した。これら評価結果を表1に示す。
<引張強度測定法>
鍛造品から切り出し加工を行い、JIS Z2241に規定の4号引張試験片を得た。前記4号引張試験片に対しJIS Z2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張強度を測定した。表では、引張強度が360MPa以上であるものを「○」(合格)とし、引張強度が360MPa未満であるものを「×」(不合格)と表記した。
<切粉分断性評価法>
切削時の切粉分断性は、連続鋳造材(鋳造棒)を用いて実施した。連続鋳造材を旋盤にチャックし、回転数1030rpmで回転させた状態で、ダイヤモンドバイトを用いて削り量1.0mm、送り速度3mm/秒にて連続鋳造棒の端面を切削した。切削した際に発生した切粉100mgを回収し、切粉の数を調べた。切粉100mg中の切粉の数が多ければ、切粉は細かくなっていて切粉分断性に優れており、一方、切粉100mg中の切粉の数が少なければ、切粉は大きく切粉分断性は低いことがわかる。表では、切粉100mg中の切粉の数が50個以上であるものを「○」(合格)と表記し、切粉100mg中の切粉の数が50個未満であるものを「×」(不合格)と表記した。
<バイト摩耗量評価法>
上述した切削(回転数1030rpm、削り量1.0mm、送り速度3mm/秒)を50回繰り返し行った後、ダイヤモンドバイトの先端部の摩耗量を計測した。ダイヤモンドバイトの先端部の摩耗が進行している箇所のバイト長手方向の距離を計測し、これを摩耗量(mm)とした。表では、バイト摩耗量が0.20mm未満であるものを「○」(合格)と表記し、バイト摩耗量が0.20mm以上であるものを「×」(不合格)と表記した。
表から明らかなように、本発明に係る実施例1~6のアルミニウム合金を用いた鍛造品は、優れた引張強度を有すると共に、切削時の切粉分断性に優れ、かつバイト摩耗量が少ないことがわかる。
これに対し、本発明の規定範囲を逸脱する比較例1、4、6、8では、引張強度が不十分であり、比較例1、2では切削時の切粉分断性に劣っており、比較例3、5、7、8ではバイト摩耗量が多いという問題があった。
本発明に係るコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金で構成されたコンプレッサー摺動部品は、自動車エアコン用コンプレッサー(圧縮機)に代表される摺動部品、とりわけスクロール、電動スクロールとして好適に使用できる。
10…鋳造材
20…鍛造材
50…コンプレッサー摺動部品鍛造品

Claims (4)

  1. Si:4.0質量%を超えて6.0質量%以下、Cu:1.5質量%~3.5質量%、Mg:0.1質量%~0.8質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金であって、
    前記アルミニウム合金材料の引張強さが360MPa~450MPaであることを特徴とするコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金。
  2. 前記アルミニウム合金は、さらにTi:0.001質量%~0.1質量%を含有する請求項1に記載のコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金。
  3. 請求項1または2に記載のコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金で構成されたコンプレッサー摺動部品鍛造品。
  4. 請求項1または2に記載のコンプレッサー摺動部品用アルミニウム合金で構成された電動コンプレッサー摺動部品鍛造品。
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