JPH1015484A - 歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れたクロム化合物を含まない絶縁被膜を有する電磁鋼板及びその被膜の形成方法 - Google Patents

歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れたクロム化合物を含まない絶縁被膜を有する電磁鋼板及びその被膜の形成方法

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JPH1015484A
JPH1015484A JP8169286A JP16928696A JPH1015484A JP H1015484 A JPH1015484 A JP H1015484A JP 8169286 A JP8169286 A JP 8169286A JP 16928696 A JP16928696 A JP 16928696A JP H1015484 A JPH1015484 A JP H1015484A
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carboxylic acid
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ethylene
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Hiroaki Toda
田 広 朗 戸
Keiji Sato
藤 圭 司 佐
Kunihiko Eguchi
口 邦 彦 江
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Abstract

(57)【要約】 【課題】歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れたクロム化合
物を含まない絶縁被膜を有する無方向性電磁鋼板の製造
方法に関し、従来より低温での焼付けが可能な絶縁被膜
の形成方法を提供しようとする。 【解決手段】エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の樹
脂エマルジョンの1種または2種以上からなる有機物1
00重量部(固形分換算)に対して、シリカ、ジルコニ
アの1種または2種よりなる無機コロイド状物質が20
〜500重量部(固形分換算)含有する絶縁被膜が形成
されてなる電磁鋼板において、樹脂エマルジョンの平均
粒径をRとした時、無機物質の平均粒径が0.7R以上
であることを特徴とする歪取り焼鈍が可能で耐食性に優
れた絶縁被膜を有する電磁鋼板。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歪取り焼鈍が可能
で耐食性に優れたクロム化合物を含まない絶縁被膜を有
する無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
さらには、従来より低温での焼付けが可能な絶縁被膜の
形成方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】無方向性電磁鋼板は主にモーターやトラ
ンス等の鉄心として用いられる。その使用時には、所定
の形状に連続的に打ち抜きを行った後、積層して歪取り
焼鈍をするか、あるいは歪取り焼鈍を行ってから所定枚
数を積み重ねた後、溶接、かしめ、または接着等により
積鉄心とされている。通常、無方向性電磁鋼板の表面に
は、絶縁被膜が形成されている。この絶縁被膜として、
電気的絶縁性はもちろんのこと、歪取り焼鈍前の耐食
性、打ち抜き性、密着性、溶接性、耐溶剤性、歪取り焼
鈍時の耐焼き付き性、歪取り焼鈍後の耐食性、密着性、
滑り性、さらには高占積率であることなど多岐にわたる
特性が良好な鉄心特性と加工作業性を得るために要求さ
れる。
【0003】無方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法とし
ては、1)無機系、2)有機系、3)有機−無機混合系
の処理液を塗布する方法が知られている。しかし、1)
の無機系絶縁被膜は有機系や有機−無機混合系に比較し
て、耐熱性や歪取り焼鈍後の滑り性は優れているが、打
ち抜き性が劣っている。一方、2)の有機系絶縁被膜で
は、打ち抜き性、密着性は優れているが、歪取り焼鈍に
よって被膜が分解・破壊され、歪取り焼鈍時の耐焼き付
き性、焼鈍後の密着性が劣悪で使用に耐えない。3)の
有機−無機混合系絶縁被膜としては、特公昭50−15
013号公報に、重クロム酸塩と酢酸ビニル、ブタジエ
ン−スチレン共重合物、アクリル樹脂等の有機樹脂エマ
ルジョンを主成分とする処理液を、また、特公昭60−
36476号公報では、処理液中の無水クロム酸100
重量部に対して酢酸ビニル/ベオバ比が90/10〜4
0/60の比率になる樹脂エマルジョンを樹脂固形分と
して5〜120重量部と有機還元剤を10〜60重量部
配合した処理液を用いて絶縁被膜を形成することによっ
て、高占積率、優れた耐食性、密着性、打ち抜き性等の
被膜特性を保ち、かつ歪取り焼鈍を行ってもかなり良好
な被膜特性が得られる絶縁被膜形成法が提案されてい
る。この3)の方法は、クロム酸による優れた耐食性、
密着性および有機樹脂添加による優れた打ち抜き性のた
めに絶縁被膜処理法の主流を占めている。しかしなが
ら、クロム化合物を主成分として含有するものは、焼付
け後の被膜中のクロムは6価から3価に還元されて無害
化されているが、絶縁被膜の形成工程では液調合、塗装
作業等において人体に影響を与えないように保護具など
安全衛生上の厳しい対応が必要である。また、塗装作業
等で生じる廃液、廃水等について公害規則上定められた
水質基準に見合った無害化処理を実施する必要があり、
処理費用等の経済的な問題も大きい。また、電磁鋼板の
需要家における環境問題の厳しい現在、ヨーロッパなど
と同様にクロム化合物の使用制限が強化される方向であ
る。従って、クロム化合物を含まないで、従来と同等の
特性が得られる絶縁被膜処理技術の開発が望まれてい
た。さらには、生産性向上、エネルギーコスト低減の観
点から、従来の被膜焼付け温度(約300〜500℃)
より低い焼き付け温度で被膜形成が可能な技術の開発も
待たれていた。
【0004】クロム化合物を含まない歪取り焼鈍が可能
な絶縁被膜形成法としては次に挙げる技術が開示されて
いる。
【0005】特開昭50−103438号公報では、り
ん酸塩の1種または2種以上を含む溶液にりん酸イオン
10重量部に対して0.1〜50重量部の酸可溶性の有
機樹脂の1種または2種以上を添加した処理液を鋼板表
面に塗布し、300〜800℃で加熱・焼付けして絶縁
被膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、
この技術では、300℃以下では焼付けに長時間を有
し、生産性に劣るという問題点があった。
【0006】特開昭54−31598号公報では、有機
物質を含有し、3次元的シロキサン結合の編目構造を形
成したシリカゲルを主成分として、板温が100〜35
0℃の温度で短時間加熱して絶縁被膜を形成する方法が
開示されている。しかしながら、この技術は、単にシリ
カヒドロゾルあるいは無機コロイド状物質と樹脂の組合
せによるもので、樹脂と無機コロイド状物質に関する規
定がなく、耐食性はクロム酸を含む絶縁被膜に比べて劣
っていたため、用途が限定されていた。具体的には、そ
の実施例から明らかなように、クロム酸を有する比較例
が湿潤試験において錆が生じていないのに対して、発明
例ではいずれも点錆が発生していた。しかも湿潤試験時
間も3時間と短かった。
【0007】また、特公昭59−21927号公報で
は、コロイド状シリカ、アルミナゾル、コロイド状チタ
ン、リチウムシリケート、人工雲母の1種または2種以
上よりなる無機コロイド状物質を主成分とする水溶液ま
たはこの無機コロイド状物質100部に対して水溶性ま
たはエマルジョンタイプの樹脂の1種または2種よりな
る有機物を0.5〜50部加えた水溶液を塗布し、乾燥
後0.02〜0.8g/m2 の被膜を有する鋼板をその
まま調質圧延して被膜形成する技術が開示されている。
しかしながら、これは簡易コート形成の技術であり、歪
取り焼鈍時の耐焼き付き性は良好なものの、焼鈍前の耐
食性など他の特性は従来のクロム化合物を利用した有機
−無機混合系絶縁被膜の特性よりは劣るものであった。
【0008】特開平5−78855号公報では、りん酸
2水素アルミニウムをP2 5 換算量で100〜350
g/l含有する無機質水溶液と、pH1〜3の合成樹脂
水性エマルジョン、さらには架橋体樹脂粒子を添加して
絶縁被膜を形成する技術が開示されている。しかしなが
ら、この技術では被膜の焼付け温度は250〜500℃
の比較的高温である必要があった。
【0009】次に、特開平6−330338号公報で
は、Alの第1りん酸塩溶液100重量部に対し、粒子
径0.2〜3.0μmの有機樹脂エマルジョン1〜30
0重量部を主成分とする処理液、あるいはAlの第1り
ん酸塩溶液100重量部に対し、粒子径0.2〜3.0
μmの有機樹脂エマルジョン1〜300重量部、かつ、
ほう酸1〜20重量部およびコロイダルシリカ1〜5重
量部のいずれかまたは両方を有する処理液を用いて絶縁
被膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、
この技術においても、実施例をみると被膜の焼付け温度
は250℃以上であることが必要であった。
【0010】さらには、特開平7−166365号公報
では、固形分換算で、モル比(Al 2 3 /H3
4 )0.15〜0.20のりん酸Al、モル比(Ca
O/H3PO4 あるいはZnO/H3 PO4 )0.4〜
0.6のりん酸Ca,りん酸Znの1種または2種以上
と有機物質としてpH4〜10で粒子径0.3〜3.0
μmの合成樹脂エマルジョンを配合した処理液、あるい
は固形分換算で、モル比(Al2 3 /H3 PO4
0.15〜0.20のりん酸Al、モル比(CaO/H
3 PO4 あるいはZnO/H3 PO4 )0.4〜0.6
のりん酸Ca,りん酸Znの1種または2種以上とりん
酸、ほう酸、ほう酸塩の1種または2種以上と有機物質
としてpH4〜10で粒子径0.3〜3.0μmの合成
樹脂エマルジョンを配合した処理液を用いて絶縁被膜を
形成する技術が開示されている。しかしながら、この技
術においても、実施例での被膜焼き付き温度は板温25
0℃以上であり、焼き付き温度は従来並の温度が必要で
あった。
【0011】以上、開示されているクロム化合物を含ま
ない絶縁被膜形成技術は次の2つに大別される。
【0012】a)無機コロイド状物質と有機樹脂を配合
した処理液を基本として用いるもので、低温での焼付け
は可能であるが、主に耐食性が従来のクロム化合物を含
む有機−無機混合系被膜より劣っていた。従って、技術
的位置付けは、従来より被膜特性は劣るが生産性は高い
安価な簡易コート相当であった。
【0013】b)りん酸塩と有機樹脂を配合した処理液
を基本として用いるもので、被膜特性はほぼ従来のクロ
ム化合物を含む有機−無機混合系被膜並の性能が得られ
るものの、りん酸塩を基本組成として含むので、耐食性
確保のためには焼付け温度として、りん酸塩の脱水反応
が生じる温度(約250℃以上)は必要であるため、従
来より低温で焼き付けることはできていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】クロム化合物を含まな
いで、従来のクロム化合物を含む有機−無機混合系被膜
並の被膜特性、特に歪取り焼鈍前の耐食性に優れた歪取
り焼鈍が可能な性能を有し、かつ従来より低温焼付けが
できるエネルギーコストが低くて生産性が高い絶縁被膜
付き電磁鋼板およびその絶縁被膜の形成方法を提供する
ものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述した
課題を解決すべく鋭意研究した結果、限定された製法に
よって得られる特定のエチレン系樹脂エマルジョンと無
機コロイド状物質を配合した処理液を用い、さらにエマ
ルジョン粒径(Rとする)と無機コロイド状物質の粒径
との関係で、後者の粒径を0.7R以上とする、有機樹
脂−無機コロイド状物質混合系処理液を用いて、従来の
クロム化合物を含む有機−無機混合系被膜並の被膜特
性、特に歪取り焼鈍前の耐食性に優れた歪取り焼鈍が可
能な性能を有し、かつ従来より低温焼付けができるクロ
ム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板が得られるこ
とを見いだした。
【0016】本発明によれば、エチレン−不飽和カルボ
ン酸共重合体の樹脂エマルジョンの1種または2種以上
からなる有機物100重量部(固形分換算)に対して、
シリカ、ジルコニアの1種または2種よりなる無機コロ
イド状物質が20〜500重量部(固形分換算)含有す
る絶縁被膜が形成されてなる電磁鋼板において、樹脂エ
マルジョンの平均粒径をRとした時、無機物質の平均粒
径が0.7R以上であることを特徴とする歪取り焼鈍が
可能で耐食性に優れた絶縁被膜を有する電磁鋼板が提供
される。ここで、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体
の融点が60℃超であり、乳化剤を含有しないものであ
ることが好ましい。特にエチレン−不飽和カルボン酸−
不飽和カルボン酸金属塩共重合体のアイオノマーである
ことが好ましい。さらに、絶縁被膜の塗布量が乾燥後の
重量で片面当たり0.1〜3g/m2 であることが好ま
しい。
【0017】また、上述の絶縁被膜付き電磁鋼板を得る
ために、絶縁被膜形成のための表面処理剤として、樹脂
エマルジョンの平均粒径をRとした時、無機コロイド状
物質の平均粒径が0.7R以上であるエチレン−不飽和
カルボン酸共重合体の樹脂エマルジョンの1種または2
種以上よりなる有機物100重量部(固形分換算)に対
して、シリカ、ジルコニアの1種または2種よりなる無
機コロイド状物質を20〜500重量部(固形分換算)
である組成の処理液において、絶縁被膜の塗布量が乾燥
後の重量で片面当り0.1〜3g/m2 となるように鋼
板に塗布した後、板温80〜250℃の温度範囲で焼付
け処理することを特徴とする歪取り焼鈍が可能で耐食性
に優れたクロム化合物を含まない絶縁被膜の形成方法が
提供される。ここで、エチレン−不飽和カルボン酸−不
飽和カルボン酸金属塩共重合体のエマルジョンが、自己
乳化性であり、エチレン−不飽和カルボン酸−不飽和カ
ルボン酸金属塩共重合体のアイオノマーであることが好
ましい。
【0018】
【作用】以下、本発明について、実験結果を基に説明す
るが、本発明はこれらの記載に限定されるものではな
い。本発明の絶縁被膜形成用処理液としては、エチレン
−不飽和カルボン酸共重合体の樹脂エマルジョンの1種
または2種以上からなる有機物100重量部(固形分換
算)に対して、コロイド状シリカ、ジルコニアゾルの1
種または2種よりなる無機コロイド状物質が20〜50
0重量部(固形分換算)加えた水溶液を用いる。
【0019】本発明の絶縁被膜を構成する樹脂エマルジ
ョンは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体であり、
例えば、ランダム共重合体、ポリエチレンに不飽和カル
ボン酸がグラフトした共重合体、あるいは第3成分を加
えてポリマーとしたものなどが挙げられる。上記の不飽
和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル
酸・クロトン酸・イソクロトン酸などの炭素原子が通常
6個以下の不飽和カルボン酸や、ジカルボン酸としてマ
レイン酸・フマル酸・イタコン酸などが例示される。
【0020】本発明で使用されるエチレン−不飽和カル
ボン酸共重合体は乳化剤を含まないのが好ましい。すな
わち、エチレン−不飽和カルボン酸を含む絶縁被膜を形
成するためにエマルジョン化した該共重合体を鋼板表面
に塗布するが、エマルジョン化する手段として乳化剤
(界面活性剤)を使用しないものが好適である。乳化剤
が絶縁被膜の中に介在しない場合には、さらに耐食性が
向上する。本発明においては、自己乳化性のエチレン−
不飽和カルボン酸共重合体のエマルジョンが好適であ
る。一般に、不飽和カルボン酸の共重合比率が約10重
量%以上であれば自己乳化が可能である。また、エマル
ジョン化するためには、不飽和カルボン酸の一部を塩基
性物質で中和する必要がある。この中和に使用される塩
基は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリ
ウムなどのアルカリ金属類、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、酸
化亜鉛などの亜鉛類、アンモニア、モルホリン、トリエ
チルアミン、アミノアルコールなどのアミン類が一般に
用いられる。
【0021】本発明で使用されるエチレン−不飽和カル
ボン酸共重合体は絶縁被膜を形成したのちの融点が60
℃超であることが好ましい。融点が60℃未満の場合は
高温下における耐食性が不十分となるほか、焼付け直後
の巻取り工程やコイル輸送時にブロッキングを生じた
り、焼付け直後にテンションパットによって被膜に傷が
生じることがある。なお、融点の上限はエチレンを主成
分とするため必然的に130℃近傍となる。焼付け後の
樹脂の融点は自己乳化性エチレン−不飽和カルボン酸共
重合体エマルジョンの最低成膜温度と概ね相関があるの
で、最低成膜温度を60〜130℃とすることが有効で
ある。
【0022】本発明で使用されるエチレン−不飽和カル
ボン酸共重合体として特に好適なものは、エチレン−不
飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸金属塩共重合体のア
イオノマーである。特に、不飽和カルボン酸としてメタ
クリル酸を使用したものが耐食性の観点から適し、不飽
和カルボン酸を水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウ
ムで中和したものが好ましい。通常、アイオノマー中に
占める不飽和カルボン酸の量は10〜30重量%であ
り、好ましくは15〜25重量%である。金属イオンに
よる不飽和カルボン酸の中和率は、全ての不飽和カルボ
ン酸の50〜80%が好ましい。不飽和カルボン酸の量
およびその中和率が好適範囲である場合にはエマルジョ
ン化が容易である。
【0023】本発明で使用されるエチレン−不飽和カル
ボン酸共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲
で、反応性の付与などによる絶縁被膜の性能改善・塗装
作業性の改善・成膜性の改善・コストダウンなどの観点
から、他のモノマーを共重合することができる。例え
ば、1−ブチルメタクリレート、n−ブチルアクリレー
トなどのアルキルエステルや酢酸ビニルなどのビニルエ
ステル、ビニルアルコール、スチレンなどを共重合する
ことができる。また、イソシアネート化合物、ジヒドラ
ジド化合物、アジリジン化合物、エポキシ化合物などの
架橋剤や他の水性樹脂を混合することもできる。さら
に、不飽和カルボン酸の量が少ないエチレン−不飽和カ
ルボン酸共重合体をエマルジョン化する場合には、少量
の乳化剤(界面活性剤)を配合し、機械的に分散するこ
とも可能である。
【0024】本発明の絶縁被膜を構成するもう一つの成
分である無機コロイド状物質は、歪取り焼鈍時の耐焼き
付き性および歪取り焼鈍後の耐食性、密着性、滑り性を
確保するために必要である。無機コロイド状物質の添加
量については、有機物固形分100重量部に対して20
重量部未満では、歪取り焼鈍時の耐焼き付き性、歪取り
焼鈍後の耐食性と密着性が劣るので、その下限を20重
量部とした。また、500重量部を超えると歪取り焼鈍
前の打ち抜き性におとるのでその上限を500重量部と
した。好ましくは30〜450重量部とする。
【0025】上述の配合において、無機コロイド状物質
(シリカゾル、ジルコニアゾル)の種類を多数変えて検
討したところ、歪取り焼鈍前の製品板耐食性には、SO
4 やClなどの不純物アニオン量やコロイドの安定化物
として使用されている物質(アルカリ性のコロイダルシ
リカの場合はNa2 O)量はあまり影響せず、樹脂エマ
ルジョンの平均粒径と無機コロイド状物質の平均粒径と
の関係が非常に大きく影響することが新たに判明した。
以下、その実験結果について説明する。
【0026】 (実験1)処理液組成:樹脂エマルジョン(固形分25%):ポリエチレン/ メタクリル酸40重量部、平均粒径28nm コロイダルシリカ(濃度20%):50重量部 平均粒径/5,10,20,50,80nmの 5種類 不純物アニオン量:SO4 =40ppm、 Cl=10ppm Na2 O含有量はすべて0.1% 純水:325重量部 乾燥後の被膜塗布量:0.5g/m2 (片面当り) 被膜焼付け温度:150℃ 焼付け後の製品板耐食性試験(歪取り焼鈍前:湿潤試験
/50℃、相対湿度100%、48Hrでの赤錆発生面
積率)の結果を図1に示す。コロイダルシリカ粒径が2
0nm以上の場合、良好な耐食性が得られていることが
わかる。以上の実験結果から、歪取り焼鈍前の製品板耐
食性には、樹脂エマルジョンの平均粒径(Rとする)と
無機コロイド状物質の平均粒径の影響が非常に大きいこ
とが判明した。すなわち、無機コロイド状物質の平均粒
径を0.7R以上とすることで、良好な製品板耐食性が
得られる。その理由については次のように考えられる。
【0027】すなわち、無機コロイド状物質の粒径が樹
脂エマルジョン粒径より小さく、0.7R未満となる
と、エマルジョンの周囲を無機物質が取り囲む頻度が高
くなり、造膜時にエマルジョン同士の融着による成膜が
妨げられるためすきまが多くなり、耐食性は劣ると考え
られる。
【0028】一方、無機コロイド状物質の粒径が大きく
て、0.7R以上になると、無機物質の周囲にエマルジ
ョンが存在する頻度が高くなってエマルジョンが互いに
接する割合が高くなり、造膜時にエマルジョン同士が充
分に成膜するので、耐食性は向上すると思われる。
【0029】なお、無機コロイド状物質に含まれるSO
4 やClなどの不純物アニオン量やコロイドの安定化物
として使用されている物質(アルカリ性タイプのコロイ
ダイルシリカの場合はNa2 O)量は、製品板耐食性に
はほとんど影響しなかった。通常、不純物量は少ない方
が好ましいが、本発明では、その効果を損なわない範囲
内の不純物量は含まれていても構わない。
【0030】また、例えば無機コロイド状物質であるコ
ロイダルシリカは、そのシリカ表面がアルミナなどで表
面処理されたものであってもよい。
【0031】さらに、無機コロイド状物質と有機物の結
合に関与するシランカップリング剤等の添加物を処理液
中に配合することは、密着性や耐溶剤性のさらなる向上
に有効な手段となる。アミン類等の防錆効果を有する有
機物、NaNO2 、NaMoO4 等の不動態化剤の添加
も耐食性の向上に役立つ。
【0032】次に、上記処理液組成配合物を鋼板表面に
塗布・焼き付け処理した後の塗布量は、乾燥後の重量で
片面当り0.1〜3、より好ましくは0.2〜2g/m
2 とするのが好ましい。塗布量が0.1g/m2 未満で
は充分な打ち抜き性や耐食性等が確保できず、3g/m
2 を超えると塗布量の増加に見合った打ち抜き性等の被
膜特性の向上効果が得られなくなるばかりか、溶接性が
劣化する。従って、塗布量の範囲は前記のように限定し
た。
【0033】被膜焼付け温度は80〜250℃とする。
本発明のクロム化合物を含まない無機コロイド状物質と
樹脂エマルジョンを主体にした配合の処理液では、従来
より低温焼付けが可能であり、かつ板温が250℃を超
えると添加した有機物が分解飛散してしまい良好な被膜
特性が得られなくなるので、焼付け温度の上限は250
℃とした。一方板温が80℃未満の加熱では、水分の飛
散に長時間を要し、焼付け後の残留水分量も多くなって
耐食性が劣化するので、焼付け温度の下限は80℃とし
た。好ましくは100〜200℃とする。
【0034】次に本発明の実施例を比較例とともに説明
する。
【0035】
【実施例】
(実施例1)最終仕上焼鈍後の無方向性電磁鋼板(板厚
0.5mm)の表面に、表1に示す組成の処理液をゴム
ロールで乾燥後の目付量が片面当り0.5g/m2 であ
るように均一に塗布し、表1の条件で焼き付け処理を行
った。その後、被膜の各種品質試験を行った。結果を表
2に示す。また、従来のクロム化合物を含む有機−無機
混合系被膜の代表例として、特公昭60−36476号
公報記載の処理液組成および焼付け条件で得られる被膜
の特性を調査した結果も表2に示した。その処理液組成
及び焼付け条件は表1に示す。本発明の条件により、ク
ロム化合物を含まないで従来と同等の被膜特性が得られ
る。すなわち、歪取り焼鈍前の耐食性に優れて他の被膜
特性も良好で、かつ従来より低い焼付け温度で絶縁被膜
が形成できることがわかる。なお、被膜評価の詳細を以
下に示す。
【0036】品質試験条件 製品板(歪取り焼鈍前) 1)耐食性(塩水噴霧試験):35℃、5%NaCl水
溶液を噴霧する条件下で、赤錆発生面積率が10%以上
になる時間から評価した。 評価ランク:◎:5時間以上、 ○:3〜5時間未満 △:1〜3時間未満、×:1時間未満 2)耐食性(湿潤試験):温度50℃、相対湿度100
%の条件で48時間暴露試験後の発錆面積率(%)を測
定して評価した。 評価ランク:◎:5%未満、 ○:5〜20% △:20〜50%、 ×:50%超 3)耐食性(沸騰水蒸気暴露試験):ビーカー中のイオ
ン交換水を沸騰させ、その上に絶縁被膜付き電磁鋼板を
置き、30分経過後の被膜の状態から評価した。 評価ランク:◎:変化なし、 ○:被膜の一部が変色 △:被膜のほぼ全面が変色、×:錆が発生
【0037】4)耐溶剤性:エタノール、アセトンを脱
脂綿にしみこませ、10往復こすりつけた後の外観 評価ランク ○(良)→△→×(劣) 5)層間抵抗:JIS第2法 6)密着性:10mmφでの180°曲げ戻し試験後の
被膜剥離率から評価 評価ランク:◎:変化なし、 ○:剥離20%未満 △:被膜20〜40%、×:剥離40%超 7)打ち抜き性:15mmφスチールダイスにおいて、
かえり高さが50μmに達するまでの打ち抜き数から評
価した。 評価ランク:◎:50万回超、 ○:30〜50万回 △:10〜30万回未満、×:10万回未満
【0038】8)溶接性:TIG溶接、1cmあたりブ
ローホール発生3個以下の溶接速度限界(cm/mi
n)から評価した。
【0039】歪取り焼鈍時の耐焼付き性 9)耐熱性:50mm角の鋼板10枚を重ねて荷重(2
00g/cm2 )をかけながら、750℃×2Hr,乾
燥N2 雰囲気の条件で焼鈍した後、鋼板上に500gの
分銅を落下させ、5分割する時の落下高さを調査した。
【0040】歪取り焼鈍後 10)耐食性(湿潤試験):温度50℃、相対湿度10
0%の条件で5時間暴露試験後の発錆面積率(%)を測
定して評価した。 評価ランク:◎:5%未満、 ○:5〜20%未満 △:20〜50%、×:50%超 11)密着性:10mmφでの180°曲げ戻し試験後
の被膜剥離率から評価 評価ランク:◎:変化なし、 ○:剥離20%未満 △:剥離20〜40%、×:剥離40%超 12)層間抵抗:JIS第2法
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
【発明の効果】本発明に従う絶縁被膜形成用処理液によ
り、クロム化合物を含まないで従来のクロム化合物を含
む有機−無機混合系被膜と同等の被膜特性が得られる。
すなわち、歪取り焼鈍前の耐食性に優れて他の被膜特性
も良好な絶縁被膜が得られることがわかった。本発明の
絶縁被膜はクロム化合物を含まないので、安全衛生上の
問題点がほとんどなく、最近の環境問題にも対応でき
る。また、従来より低温での焼付けができるので、生産
性向上およびエネルギーコスト低減の点でも有利であ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】製品板耐食性(湿潤試験)に及ぼすコロイダル
シリカ粒径の影響を示した図である。(樹脂エマルジョ
ンの平均粒径は28nm)

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の樹
    脂エマルジョンの1種または2種以上からなる有機物1
    00重量部(固形分換算)に対して、シリカ、ジルコニ
    アの1種または2種よりなる無機コロイド状物質が20
    〜500重量部(固形分換算)含有する絶縁被膜が形成
    されてなる電磁鋼板において、樹脂エマルジョンの平均
    粒径をRとした時、無機物質の平均粒径が0.7R以上
    であることを特徴とする歪取り焼鈍が可能で耐食性に優
    れた絶縁被膜を有する電磁鋼板。
  2. 【請求項2】前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体
    の融点が60℃超であり、乳化剤を含有しないことを特
    徴とする請求項1に記載の歪取り焼鈍が可能で耐食性に
    優れた絶縁被膜を有する電磁鋼板。
  3. 【請求項3】前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体
    が、エチレン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸金
    属塩共重合体のアイオノマーである請求項1または2に
    記載の歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れた絶縁被膜を有
    する電磁鋼板。
  4. 【請求項4】前記絶縁被膜の塗布量が乾燥後の重量で片
    面当たり0.1〜3g/m2 である請求項1〜3のいず
    れかに記載の歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れた絶縁被
    膜を有する電磁鋼板。
  5. 【請求項5】連続焼鈍ラインで焼鈍を行った後、鋼板表
    面に絶縁被膜を形成する無方向性電磁鋼板の製造方法に
    おいて、前記絶縁被膜形成のための表面処理剤として、
    樹脂エマルジョンの平均粒径をRとした時、無機コロイ
    ド状物質の平均粒径が0.7R以上であるエチレン−不
    飽和カルボン酸共重合体の樹脂エマルジョンの1種また
    は2種以上よりなる有機物100重量部(固形分換算)
    に対して、シリカ、ジルコニアの1種または2種よりな
    る無機コロイド状物質を20〜500重量部(固形分換
    算)である組成の処理液において、絶縁被膜の塗布量が
    乾燥後の重量で片面当り0.1〜3g/m2 となるよう
    に鋼板に塗布した後、板温80〜250℃の温度範囲で
    焼付け処理することを特徴とする歪取り焼鈍が可能で耐
    食性に優れたクロム化合物を含まない電磁鋼板の絶縁被
    膜の形成方法。
  6. 【請求項6】前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体
    のエマルジョンが、エチレン−不飽和カルボン酸−不飽
    和カルボン酸金属塩共重合体のアイオノマーである請求
    項5に記載の歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れたクロム
    化合物を含まない電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
JP8169286A 1996-06-28 1996-06-28 歪取り焼鈍が可能で耐食性に優れたクロム化合物を含まない絶縁被膜を有する電磁鋼板及びその被膜の形成方法 Withdrawn JPH1015484A (ja)

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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR20010100204A (ko) * 2000-03-16 2001-11-14 이구택 절연피막 형성용 피복조성물 및 이를 이용한 무방향성전기강판의 절연피막 형성방법
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EP2037003A1 (en) * 2006-06-15 2009-03-18 Nippon Paint Co., Ltd. Coated steel sheet

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