【発明の詳細な説明】
留出油フラクションのセタン価向上方法
本発明は、留出油フラクションを、水素化成分およびゼオライトベータを含ん
でなる触媒により水素と反応させることによって、当該フラクションのセタン指
数を増大させる方法を提供するものである。
留出油プールの芳香族化合物の低減およびセタン指数(およびセタン価)の増
大を要求する法令は、製油操業において大きな影響力を与えるようになる。芳香
族化合物、特に粒状物質を生成する多環式芳香族化合物を減らすことは、水素化
分解、水素化、開環(脱環化)または開環と水素化との組合せによって達成する
ことができる。ゼオライト系の触媒をPtと組み合わせて用いて、ベンゼンを水
素化/脱環化する水素化および酸官能性を利用することによってベンゼンを減少
させる方法が、公表された国際出願(PCT)公開(WO)第93/08145
号に開示されている。
本発明によれば、ベンゼンを減らす考え方は、高レベルの多環式芳香族化合物
、例えば、軽質サイクル油および減圧留出油を含むプロセスストリーム中の多環
式芳香族化合物を減らすことにまで拡張されている。そのようにして、著しいH2
の消費および留出油収率の損失を伴うことなく、セタン指数およびセタン価を
著しく向上させることができる。
単環式芳香族化合物の水素脱環化は、上述の国際出願公開第93/08145
号に既に説明されているが、この考え方を多環式化合物の留出油範囲のフィード
に拡張することは当たり前のことではない。沸点の変化(留出油収率)およびH2
消費は、生成物の性質の向上に対して重要視されなければならない。
例えば、欧州特許(EP)第512652号(1992年5月5日)、同第3
03332号(1988年8月11日)、同第247678号(1987年5月
15日);米国特許第5,147,526号および同第4,921,595号等の刊
行物は、Ptおよび/またはPdを含有するUSYをベースとする触媒系が、留
出油ストリームの転化によりセタン指数を上昇させるために活性な触媒であるこ
とを示唆している。
本発明は、供給される炭化水素フィード中に含まれる留出油炭化水素フラクシ
ョンのセタン指数を選択的に向上させる方法であって、
(a)炭化水素フィードおよび水素を、留出油炭化水素フラクションのセタン
指数を向上させるのに充分な反応条件において、ゼオライト・ベータおよび少な
くとも1種の水素化成分を含んでなる触媒に接触させる段階、および
(b)留出油フラクションを回収する段階
を含んでなる方法を提供するものである。
本発明は、留出油範囲のプロセスストリーム中の望ましくない多環式芳香族化
合物を転化するために、ゼオライトベータを、水素化成分、例えば、第VIII族金
属およびMo、WおよびReなどならびにこれらの金属の組合せと組み合わせて
用いる方法を提供するものである。特に好ましいプロセス化学には、水素化また
は脱環化と組み合わされた水素化が含まれる。多環式芳香族化合物の水素化/脱
環化は、沸点の変化を最少にして、広範な水素化分解を伴わずに達成される。低
セタン指数多環式芳香族化合物の転化の結果として、得られる生成物のセタン指
数は、フィードに比べて向上する。更に、容量の増加も達成される。
Pt/水蒸気処理ベータを用いて生成する生成物のセタン指数が、Pt/未水
蒸気処理ベータおよびNiW/USYよりも高いことを示すデータは、ゼオライ
トベータの新しい構造が、特に、より高いSiO2/Al2O3比と組み合わされた
場合に、セタン指数の向上用の他の触媒よりも優れた利点を有し得ることを示唆
している。ゼオライトベータについての比較的高いSiO2/Al2O3比は、水蒸
気処理により得られる。
芳香族化合物の低減を要求する法令によって、高い芳香族化合物含量のプロセ
スストリーム、特に、留出油範囲のものを転化するための接触(または触媒)プ
ロセスの開発が必要とされる。水素化または脱環化と組み合わされた水素化によ
る芳香族化合物の低減によって、留出油範囲の材料について芳香族化合物を低減
させ、ならびにセタン指数を向上させる裏付けが提供される。
本発明の方法において用いられる特定の条件は、前述の米国特許第5,147,
526号において開示されている。処理される炭化水素フィード原料は、大気圧
において、約65.6℃〜約371℃(約150°F〜約700°F)、好まし
くは約140.9℃〜約371℃(約300°F〜約700°F)、より好まし
くは約176.7℃〜約371℃(約350°F〜約700°F)の範囲で沸騰
する1種もしくは数種、または全ての製油所ストリームから本質的になるもので
あってよい。本発明の方法のためには、「本質的になる」という用語は、フィー
ド原料の少なくとも95容量%のものであると規定される。留出油生成物中のよ
り軽質の炭化水素成分は、一般に、ガソリンとして回収されることがより好適で
あり、これらのより低沸点の物質が留出油燃料中に存在することは、留出油燃料
の引火点特性によってしばしば制約を受ける。371.1℃(700°F)以上
で沸騰するより重質の炭化水素成分は、一般に、より好適に、(1)潤滑油に処
理され、または(2)FCCフィードとして処理され、ガソリンへ転化される。
留出油燃料中に重質炭化水素成分が存在することは、留出油燃料終点規格によっ
て更に制約される。
炭化水素フィード原料中の留出油フラクションは、少なくとも204℃の初留
点を有することができる。炭化水素フィード原料中の留出油フラクションは、炭
化水素フィード原料中の少なくとも80容量%を占めることができる。回収され
る留出油フラクションの容量は、炭化水素フィード原料中に含まれていた留出油
フラクションの少なくとも80容量%であってよい。
炭化水素フィード原料には、高および低硫黄分原油から誘導される高および低
硫黄分直留留出油、コーカー留出油、接触分解装置軽質および重質接触サイクル
油、および水素化分解装置および残渣水素処理装置からの留出油沸点範囲生成物
を含み得る。一般に、コーカー留出油ならびに軽質および重質接触サイクル油は
、80重量%(FIA分析)にも達する最も高い芳香族性のフィード原料成分で
ある。コーカー留出油およびサイクル油芳香族化合物の大部分は単環式芳香族化
合物および二環式芳香族化合物であり、より少量の部分として三環式芳香族化合
物が存在する。直留原料、例えば高および低硫黄分直留留出油は、芳香族化合物
が
20重量%(FIA分析)程度と芳香族化合物含量がより低い。一般に、組み合
わされた水素化装置フィード原料の芳香族化合物含量は、約5重量%〜約80重
量%、より一般的には約10重量%〜約70重量%、最も一般的には約20重量
%〜約60重量%である。特に、炭化水素フィードは、少なくとも30重量%の
芳香族化合物含量を有し得る。操作能力が限られている留出油水素化装置におい
て、接触プロセスは十分な空間速度で平衡生成物の芳香族化合物濃度へと進むこ
とが多いので、芳香族性の高い順に処理することが一般に有利である。このよう
にして、留出油プールの最大限の脱芳香族化(dearomatization)が一般に達成さ
れる。
炭化水素フィード原料の硫黄濃度は、一般に、高および低硫黄分原油混合物、
原油容量のバーレルあたりの製油設備の水素化能力、および留出油水素化フィー
ド原料の成分の他の性質の関数である。より高い硫黄分の留出油フィード原料成
分は、一般に、高硫黄分原油から誘導される直留留出油、コーカー留出油および
比較的高い硫黄分のフィード原料を処理する流動接触分解装置からの接触サイク
ル油である。これらのフィード原料成分は、硫黄元素が2重量%の範囲であって
もよいが、一般には硫黄元素が約0.1重量%〜約0.9重量%の範囲である。水
素化設備が2段階プロセスであって、第1段階が脱窒素および脱硫黄ゾーンであ
り、第2段階が脱芳香族化ゾーンである場合、脱芳香族化ゾーンフィード原料の
硫黄含量は、硫黄元素で約100ppm〜約0.9重量%の範囲、または約10
ppm〜約0.9重量%程度に低くてもよい。
炭化水素フィード原料の窒素含量も、一般に、原油の窒素含量、原油容量のバ
ーレルあたりの製油設備の水素化能力、および水素化フィード原料成分の他の性
質の関数である。窒素分がより高いフィード原料は、一般に、コーカー留出油お
よび接触サイクル油である。これらのフィード原料成分は、2000ppm程度
の全窒素濃度を有し得るが、一般には約5ppm〜約900ppmの範囲である
。
特定の水素化設備が2段階プロセスである場合、第1段階は脱硫および脱窒素
を行うように設計され、第2段階は脱芳香族化を行うように設計されることが多
い。これらの操作において、脱芳香族化段階に入るフィード原料は、窒素および
硫黄含量が実質的に低く、芳香族化合物含量は水素化設備に供給されるフィード
原料よりも低くてもよい。
本発明の水素化プロセスは、一般に、留出油フィード原料の予熱段階で開始す
る。フィード原料は、目標とする反応ゾーンの入口温度までの最終予熱用の炉に
入る前に、フィード/留出物熱交換器において予熱される。フィード原料は、予
熱の前、間および/または後に水素ストリームに接触させることができる。水素
含有ストリームは、1段階水素化プロセスの水素化反応ゾーン、または2段階水
素化プロセスの第1段階もしくは第2段階のいずれかに添加することもできる。
水素ストリームは、純粋なストリームであってもよいし、例えば炭化水素、一
酸化炭素、二酸化炭素、窒素、水、硫黄化合物のような希釈物質との混合物であ
ってもよい。水素化ストリームの純度は、少なくとも約50容量%の水素、好ま
しくは少なくとも約75容量%の水素が最良の結果のために必要とされる。水素
は、水素プラント、接触改質設備、または他の水素製造プロセスから供給される
。
反応ゾーンは、同じまたは異なる触媒を含む1またはそれ以上の固定床反応器
からなっていてもよい。2段階プロセスは、脱硫および脱窒素用の少なくとも1
つの固定床反応器、ならびに脱芳香族化のための少なくとも1つの固定床反応器
を有するように設計することができる。固定床反応器は、複数の触媒床を含んで
なっていてもよい。1つの固定床反応器中の複数の触媒床が、同じまたは異なる
触媒を含んでなっていてもよい。多段式固定床反応器の中の触媒が異なる場合、
一般に、最初の1またはそれ以上の床は脱硫および脱窒素のためのものであり、
後の床が脱芳香族化のためのものである。
水素化反応は一般に発熱的であるので、固定床反応器どうしの間または同じ反
応器シェル内の触媒床どうしの間の熱伝達装置からなる中間冷却を行うことがで
きる。水素化プロセスから発生する熱の少なくとも一部は、水素化プロセスにお
いて使用するために回収することが有利な場合がある。この熱回収の選択を利用
することができない場合、冷却ユーティリティズ、例えば冷却水または空気によ
って、または反応器に直接供給される水素冷却(急冷)ストリームを用いること
によって冷却を行うことができる。2段階プロセスによって、1つの反応器シェ
ル
あたりで低下した温度発熱およびより良好な水素化反応器温度制御をもたらすこ
とができる。
反応ゾーン流出物は一般に冷却され、流出物ストリームは水素を除去するため
の分離装置へ送られる。回収された水素の一部をプロセスへリサイクルして戻す
こともできるし、一方、水素の一部を外部のシステム、例えばプラントまたは製
油所燃料にパージすることもできる。水素パージ流量は、水素の最低純度を維持
し、硫化水素を除去するように制御されることが多い。リサイクルされる水素は
、一般に、圧縮され、「メークアップ」水素が補われ、更に水素化に用いるため
にプロセスに再供給される。
続いて、分離装置の液体流出物は、軽質炭化水素を除去することのできるスト
リッパー装置内で処理して、より適当な炭化水素プールへ向けることができる。
ストリッパー液体流出生成物は、続いて、最終留出油生成物を製造するための配
合設備へ送られる。
水素化プロセスにおいて使用される操作条件は、最良の結果のために、約40
0°F(204℃)〜約750°F(399℃)、好ましくは約450°F(2
32℃)〜約725°(385℃)、最も好ましくは約550°F(288℃)
〜約650°F(343℃)の平均反応器ゾーン温度を含む。これらの範囲を下
回る反応温度は、より低効率の水素化をもたらし得る。過度に高い温度は、プロ
セスを芳香族化合物を減らす熱力学的限界に到達させ、水素化分解、触媒失活お
よびエネルギーコストの増大を生じさせることがある。本発明の方法においては
、特に、フィード硫黄レベルが500ppm以下の場合に、例えば2段階プロセ
スの第2段階脱芳香族化ゾーンにおいて、脱硫が反応ゾーン温度によって影響を
受ける程度を従来技術の方法よりも低くすることができる。
プロセスは、最良の結果のためには、一般に、約1480.3kPa〜約1733
8.3kPa(約200psig〜約2500psig)、より好ましくは約2859.3kPa
〜約17338.3kPa(約40Opsig〜約2500psig)、最も好ましくは約4
238.2kPa〜約10443.5kPa(約600psig〜約1500psig)の範囲の
反応ゾーン圧力にて操作される。水素循環流量は、最良の結果のためには、一般
に、約89n.l.l.-1〜約3560n.l.l.-1(約500SCF/Bbl〜約20000SCF
/Bbl)、好ましくは約267n.l.l.-1〜約2670n.l.l.-1(約1500SCF/Bbl
〜約15000SCF/Bb1)、最も好ましくは約445n.l.l.-1〜約2314n.l.l.-1
(約2500SCF/Bbl〜約13000SCF/Bbl)の範囲である。これらの範囲を
下回る反応圧力および水素化循環流量は、より低効率で脱硫、脱窒素および脱芳
香族化をもたらすより大きな触媒失活速度を生じ得る。過度に高い反応圧力は、
エネルギーおよび装置コストを増大させ、わずかな利益の幅を減らす。
プロセスは、最良の結果のためには、一般に、約0.1hr-1〜約10.0hr-1、
好ましくは約0.2hr-1〜約5.0hr-1、最も好ましくは約0.5hr-1〜約2.0hr-1
の液体時間空間速度(LHSV)で操作される。過度に高い時間空間速度は、
全体としての水素化を低下する結果を生じることに成ると考えられる。
脱芳香族化能力は、一般に、フィード原料中の芳香族化合物の重量%から水素
化プロセス生成物中の芳香族化合物の重量%を引いて、フィード原料中の芳香族
化合物の重量%で割って計算される飽和された芳香族化合物の割合で測定される
。本発明の水素化プロセスは、一般に、20%以上、50%以上、および80%
以上もの程度の芳香族化合物飽和レベルを達成し、維持することができる。この
高い芳香族化合物飽和レベルによって、過酷度およびコストのより低い操作条件
で、触媒寿命を長くして操作することができる水素化プロセスがもたらされる。
本発明の水素化プロセスによって、顕著な脱硫および脱窒素性能がもたらされ
る。水素化プロセスは、一般に、100ppm以下、90ppm以下、および5
0ppm以下の生成物硫黄レベルを達成することができる。水素化プロセスは、
一般に、5ppm以下、3ppm以下、および1ppm以下の程度の生成物窒素
レベルを達成することができる。脱硫および脱窒素のこのレベルは、第1段階水
素化精製の触媒要求を減らし、SO2の環境適合のために脱硫された留出油を用
いてプラント燃料に配合して硫黄レベルを低下する魅力を増大させ、脱硫留出油
の接触分解の魅力を増大させる結果をもたらす。
本発明の水素化プロセスは、留出油生成物のセタン価の実質的な増加をもたら
す。流動接触分解の過酷度がより高いと、より低いセタン価を有するFCC留出
油生成物が生じ、それまでは存在し得なかったような製油所留出油プールにおけ
るある種の制限が加わえられる。水素化プロセスは、一般に、生成物セタン価の
向上を、5の値以上、6の値以上、および10の値以上もの程度で達成すること
ができる。セタン価を向上して製造することによって、コストのかかるセタン価
向上添加剤の要求を減らすことができ、そして、価値のある(高セタン価の)留
出油生成能力を増大させることができる。
本発明の水素化プロセスは、留出油容量の実質的な増大をもたらすこともでき
る。留出油容量の増大は、一般に、水素化プロセスにおける比重の低下によって
測定され、フィード原料の比重から水素化プロセス生成物の比重を引いて、フィ
ード原料の比重で割って計算される。水素化プロセスによって、留出油フィード
原料の容量は2.4%以上、3.0%以上、および4.4%以上増大し得る。留出
油水素化プロセスにおける容量の増大によって、石油精製業者は、次第に増える
低級原油の操業で顧客の留出油への要求に適合し得る。
本発明の方法において用いる触媒は、ゼオライトベータおよび水素化成分を含
んでなる。ゼオライトベータは、米国特許第3,308,069号および同再発行
特許第28,341号に記載されている既知のゼオライトであり、このゼオライ
トの詳細、その調製および特性については、これらの公報が参照される。
焼成したH型のゼオライトは、塩基交換に付することができ、ナトリウムをも
う1種のカチオンに置換していずれかの金属、好ましくは、周期表第IA族、第
IIA族、もしくは第IIA族の金属または遷移金属の中の金属を含むゼオライトを
生じさせることができる(本明細書において引用する周期表は、IUPACおよ
びユナイテッド・ステーツ・ナショナル・ビューロー・オブ・スタンダーズ(Un
ited States National Bureau of Standards)により承認されたものであって、
例えばフィッシャー・サイエンティフィック・カンパニー(Fisher Scientific
Company)のカタログ番号5−702−10の表に示されているものである)。
合成された形態のナトリウム型のゼオライトは、間で焼成を行うことなく、塩
基交換に直接付することができる。この形態のゼオライトは、続いて、例えば2
00℃〜900℃またはそれ以上にて焼成することによって、部分的に水素型に
転化することができる。完全な水素型は、アンモニウム交換およびそれに続いて
、空気中または不活性雰囲気、例えば窒素中において焼成することによって形成
することができる。塩基交換は、米国特許第3,308,069号および同再発行
特許第28,341号に開示された方法で行うことができる。
本発明において用いる好ましい形態のゼオライトベータは、シリカ:アルミナ
モル比が少なくとも30:1である高シリカ形態のものである。ゼオライトベー
タは、米国特許第3,308,069号および同再発行特許第38,341号に規
定される100:1の最高値を越えるシリカ:アルミナモル比を有するように調
製することができ、これらの形態のゼオライトは本発明の方法において最良の性
能を示すと考えられている。分解反応を犠牲にして、芳香族化合物転化反応を最
大にするために、少なくとも50:1、好ましくは少なくとも100:1または
それ以上、例えば250:1、500:1などの比のものを利用することができ
る。
本明細書において述べているシリカ:アルミナ比は、構造または骨格における
比、即ち、SiO4対AlO4四面体の比であり、これらが一緒になってゼオライ
トが構成される構造を形成している。この比は種々の物理的および化学的方法に
よって測定されるシリカ:アルミナ比と異なることもあると理解されよう。例え
ば全体的化学分析によれば、ゼオライト上の酸部位(acid site)に結合するカ
チオンの形態で存在するアルミニウムも含まれ得、従って、低いシリカ:アルミ
ナ比が得られることもある。同様に、この比をTGA/NH3吸着法によって測
定する場合、カチオン性のアルミニウムが酸性部位へのアンモニウムイオンの交
換を妨害するならば、低いアンモニアの滴定値が得られることになる。これらの
相違は、ある処理、例えば、ゼオライト構造に存在するイオン性アルミニウムを
なくするような、以下に説明するような脱アルミニウム化方法を行う場合に、特
に問題となる。従って、骨格のシリカ:アルミナ比の正確な測定を確実に行うよ
うに、当然払われるべき注意が必要である。
ゼオライトのシリカ:アルミナ比は、その製造に用いられる出発物質の性質お
よびそれらの相対的な量によって決めることができる。従って、シリカ前駆体の
アルミナ前駆体に対する相対的な濃度を変えることによって、その比を多少変え
ることができるが、ゼオライトのシリカ:アルミナ比について得られる最高に一
定の限度が観察される。ゼオライトベータについてのこの限度は約100:1で
あり、この値を越える比について、所望の高シリカゼオライトを製造するために
は、通常は他の方法が必要とされる。その方法の1つは、酸を用いて抽出するこ
とによる脱アルミニウム化方法が含まれる。
要約すれば、酸抽出法には、ゼオライトを酸、好ましくは鉱酸、例えば塩酸に
接触させることが含まれ得る。脱アルミニウム化は周囲温度およびわずかに高い
温度で容易に進行し、結晶性の損失を最少にして、シリカ:アルミナ比が少なく
とも100:1、或いは200:1もしくはそれ以上のことさえ容易に達成し得
る高シリカ形態のゼオライトを形成する。
ゼオライトは、脱アルミニウム化方法に水素型で用いると好都合であるが、他
のカチオン型、例えばナトリウム型を用いることもできる。これらの他の形態を
用いる場合、ゼオライト中の元のカチオンをプロトンに置換させるために、十分
な酸を使用すべきである。ゼオライト/酸混合物中のゼオライトの量は、一般に
、5重量%〜90重量%であるべきである。
酸は、鉱酸、即ち、無機酸または有機酸であってよい。使用することができる
典型的な無機酸には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸、ペルオキシジス
ルホン酸、ジチオン酸、スルファミン酸、ペルオキシ一硫酸、アミドジスルホン
酸、ニトロスルホン酸、クロロスルホン酸、ピロ硫酸ならびに亜硝酸のような鉱
酸を含む。使用することができる代表的な有機酸には、ギ酸、トリクロロ酢酸お
よびトリフルオロ酢酸を含む。
加える酸の濃度は、反応混合物のpHを処理を受けるゼオライトの結晶性に影
響を与え得る望ましくない低いレベルに低下させないようなものとすべきである
。ゼオライトが耐え得る酸性度は、少なくとも部分的に、出発材料のシリカ:ア
ルミナ比に依存すると思われる。一般に、ゼオライトベータは、結晶性をあまり
損なわずに高濃度の酸に耐え得るということが見出されているが、一般的な指針
としては、酸は0.1N〜4.0N、通常1.0〜2.0Nである。これらの値は、
ゼ
オライト・ベータの出発物質のシリカ:アルミナ比に関係なく、当て嵌まる。強
い酸ほど弱い酸よりアルミニウムを除去する程度に相対的に大きい影響を与える
傾向がある。
脱アルミニウム化反応は周囲温度で容易に進行するが、わずかに高い温度、例
えば100℃までの温度を用いることもできる。抽出は時間に依存するので、抽
出の時間は生成物のシリカ:アルミナ比に影響を及ぼすことになる。しかしなが
ら、ゼオライトはアルミニウムが除かれるに従ってより安定になるので、初期に
おいてよりも処理の終わりに向けての方が、結晶性を損なう危険を伴わずに、よ
り高い温度およびより高濃度の酸を用いることができる。
抽出処理の後、生成物は、流出する洗浄水が約5〜8の範囲のpH値を有する
ようになるまで、不純物を含まないように水洗、好ましくは脱イオン水により洗
浄される。
本発明の方法により得られる脱アルミニウム化された結晶性生成物は、出発材
料のアルミノシリケートゼオライトと実質的に同じ結晶構造を有するが、シリカ
:アルミナ比が増加している。シリカ:アルミナ比は、一般に、100:1〜5
00:1、より通常は150:1〜300:3、例えば200:1またはそれ以
上の範囲にある。
酸抽出の前に、ゼオライトを水蒸気処理して、シリカ:アルミナ比を増加させ
て、ゼオライトを酸に対してより安定にさせることもできる。水蒸気処理は、ア
ルミニウムの除去の容易さを向上させ、抽出プロセスの間における結晶性の保持
を促進させる機能も果たす。例えば酸抽出を伴わなずに、水蒸気処理のみでも、
脱アルミニウム化の許容される手段となる。
ゼオライトは水素化成分と組み合わされ、水素化成分は、貴金属、例えば、白
金、パラジウム、または白金族の他の金属、例えばロジウムなどであってよい。
貴金属の組み合わせ、例えば、白金−レニウム、白金−パラジウム、白金−イリ
ジウム、または白金−イリジウム−レニウムを、非貴金属、特に第VIA族および
第VIIIA族の金属との組み合わせと共に重要であり、特に、コバルト、ニッケル
、バナジウム、タングステン、チタンおよびモリブデンと組み合わせたもの、例
え
ば、白金−タングステン、白金−ニッケルまたは白金−ニッケル−タングステン
などが重要である。
金属は、いずれか適当な方法、例えばゼオライトへの含浸または交換によって
触媒中に組み込むことができる。金属は、カチオン、アニオンまたは中性の錯体
、例えばPt(NH3)4 2+の形態で触媒中に組み込むことができ、ゼオライト上で
金属を交換するためにはこの種のカチオン型錯体が好都合であることが見出され
ている。アニオン型錯体、例えばバナデートまたはメタタングステートイオンは
、ゼオライト中に金属を含浸させるために有用である。
水素化−脱水素化成分の量は、好適には0.01〜10重量%、通常は0.1〜
5重量%であるが、当然ながら、この値は成分の性質によって変動することがあ
り、活性がより低い卑金属よりも、高活性の貴金属、特に白金の方が必要とされ
る量は少ない。
卑金属水素化成分、例えばコバルト、ニッケル、モリブデンおよびタングステ
ンは、金属の酸化物形態を対応する硫化物形態に転化させるために、硫黄含有ガ
ス、例えば硫化水素によって予備硫化処理に付することができる。
触媒を、本発明の方法において用いられる温度およびその他の条件に耐える他
の材料に組み込むことが望ましい場合がある。そのようなマトリックス材料には
、合成または天然材料、ならびに無機材料、例えばクレー、シリカおよび/また
は金属酸化物が含まれる。後者は、天然に産出するものであっても、またはシリ
カおよび金属酸化物の混合物を含むゼラチン状沈降物もしくはゲルの形態のもの
であってもよい。触媒に組み込むことのできる天然産出クレーには、モンモリロ
ナイトおよびカオリン族が含まれる。これらのクレーは、初めに採掘されたその
ままの状態で、または最初に焼成、酸処理もしくは化学変性に付して使用するこ
とができる。
触媒は、多孔質マトリックス材料、例えばアルミナ、シリカ−アルミナ、シリ
カ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シ
リカ−チタニア、ならびにシリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジル
コニア、シリカ−アルミナ−マグネシアおよびシリカ−マグネシア−ジルコニア
などの三元組成物と複合することができる。マトリックスは、ゼオライトとの共
ゲルの形態であってよい。ゼオライト成分と無機酸化物ゲルマトリックスの相対
割合は、ゼオライト含量が、複合物の1〜99重量%、より通常は5〜80重量
%の範囲で幅広く変動し得る。マトリックス自体は、触媒的特性、一般に、酸性
を有していてもよい。
実施例
固定床反応器を用いて、水素処理された製油所ストリーム(軽質サイクル油7
0%および直留軽油30%)について、Pt/水蒸気処理ベータを評価した。フ
ィードの特性を表1に、触媒の特性を表2に示す。
Pt/水蒸気処理ベータの評価において、反応器を、1480.3kPa〜約
13890.9kPa(200psig〜2000psig)の範囲の圧力、1
71℃〜371℃(340°F〜700°F)の範囲の温度、302.6n.l.l.-
1〜2047n.l.l.-1(1700〜11500scfb)の範囲の水素共供給(co-fee
d)流量および0.5〜5.0LHSVのフィード流量で操作した。触媒を反応器内
に入れた後、触媒をH2中200℃で還元した。この還元段階の後、H2中に2容
量%のH2Sを含む混合物を用いて触媒を硫化した。315℃の最高硫化温度を
用いた。触媒の硫化を終えた後、フィードを導入した。
水素処理したフィードの転化の結果を表4に示す。5〜10%の204℃+(
400°F+)の転化レベルにおいて、フィードに対して数値で6向上したセタ
ン指数(53対47)が得られ、留出油収率は80重量%以上であった。表4は
、同様の204℃+(400°F+)の転化レベル(留出油収率)で、Pt/水蒸
気処理したベータを用いた場合のフィードに対するセタン指数の向上は、NiW
/USY(市販の水素化分解触媒(クリテリオン(Criterion)z753))によ
り得られた値よりも数値で3〜4大きく、Pt/未水蒸気処理ベータにより得ら
れた値よりも数値で4〜5大きかったことを示す。
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(72)発明者 マーラー,デイビッド・オーウェン
アメリカ合衆国08096ニュージャージー州
デプトフォード、クーパー・ストリー
ト・ナンバー272ビー、801番