JPH09118916A - 精密誘導焼入方法及び装置 - Google Patents

精密誘導焼入方法及び装置

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JPH09118916A
JPH09118916A JP7300451A JP30045195A JPH09118916A JP H09118916 A JPH09118916 A JP H09118916A JP 7300451 A JP7300451 A JP 7300451A JP 30045195 A JP30045195 A JP 30045195A JP H09118916 A JPH09118916 A JP H09118916A
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cylinder
hardening
induction
induction heating
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大二 伊藤
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Hisashi Tabuchi
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 簡易で経済的に被加熱部と誘導コイルの位置
の変化を減少し、精密な焼入れを可能にする精密誘導焼
入方法及び装置を提供する。 【解決手段】 被焼入体の被焼入部を冷却液中に浸積
し、その被焼入部が液中に浸積した状態で誘導加熱コイ
ルに通電して被焼入部を焼入温度まで加熱した後、誘導
加熱コイルの通電を絶つことにより急冷して焼入れする
誘導焼入において、前記浸積する冷却液の温度を室温に
して冷却する精密誘導焼入。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、ディーゼ
ルエンジンのシリンダブロックのような高負荷で使用さ
れるシリンダの内面に部分的に分割した焼入層を形成す
る場合に、その被焼入部と誘導加熱コイルの関係位置を
精密に制御して誘導焼入れする精密誘導焼入方法及び装
置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】例えば、ディーゼルエンジンのように高
負荷のシリンダの内面には、図9に示すようにシリンダ
75の内径部76に市松模様の部分的な焼入れ硬化部7
6aを形成する内面焼入れが施される。かかるシリンダ
ブロックの内面焼入れに対して、出願人は、さきに特開
平7−161461号及び特開平7−272845号記
載の誘導加熱コイル及び誘導焼入方法を提案した。この
発明は図8に示すほぼ円筒状誘導体部材より形成された
誘導子の円筒部の内周に部分的に凹部を形成した誘導子
からなる誘導加熱コイルを使用して、該誘導加熱コイル
をシリンダ内径に一定間隔をおいて円筒軸方向に移動す
るとともに、一定の回転角で割り出しながら誘導電流を
発生させて、前記誘導子の各凹部に対向するシリンダの
内周部を分割加熱し、シリンダ内周に図9に示すような
円周に等間隔の市松模様の複数列の焼入れ部を形成させ
るものである。
【0003】また、上記の誘導焼入れを量産的に行うた
めに、出願人は特願平7−49337号において、下記
のような方法により、前記市松模様の焼入部にむらのな
い焼入層を形成する量産焼入れ可能なシリンダブロック
の内面焼入装置を提案した。即ち、このシリンダブロッ
クの内面焼入装置は、シリンダーブロックをベースフレ
ーム上に設けたX−Yテーブル上の冷却液槽内に載置し
た後、位置測定手段によりシリンダブロックのシリンダ
ボアの中心位置を測定し、その測定値信号により制御手
段がX−Yテーブルを駆動してシリンダボアの中心を誘
導加熱コイルの中心と一致させ、シリンダボアと誘導加
熱コイルの中心が一致した後、前記冷却液槽内に冷却液
を注入してシリンダーブロック浸積して被焼入部が浸積
した状態で誘導加熱して急冷焼入れするものである。
【0004】上記発明の誘導コイルを使用して焼入れす
る場合に、シリンダ内径と誘導加熱コイル外径の隙間に
偏差が生ずると焼入部の加熱温度が異なり、円周各部の
焼入れ模様の形状にむらが生じ焼入層の深さにも深浅を
生ずる。したがって、上記の市松模様の部分的な焼入れ
硬化部76aを精度良く形成するためには、例えば、シ
リンダ径80mmφの内径焼入れにおいては、その隙間
を1.25mm±0.15mmにして加熱コイルとシリ
ンダの中心の偏差は0.03mm以下になるようにシリ
ンダ中心と誘導加熱コイルを精密に設定しなければなら
ないことが実験によって確かめられている。上記発明の
シリンダブロックの内面焼入装置によればこの精度が量
産的に容易に得られる。
【0005】一方、焼入れの冷却材としては水又は水溶
液が使用される。しかし、水又は水溶液を冷却液として
使用する場合、液温が低すぎると焼入れの際に焼き割れ
が生じ、また液温が高すぎると冷却能が低下して十分な
焼入れ硬さが得られないため、通常、水又は水溶液(以
下冷却液という)の液温は30〜40℃に保って使用さ
れている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記発
明のシリンダブロックの内面焼入装置において、前記の
ような室温より高い温度の冷却材を使用して焼入れを行
うと、装置の温度が上がり装置のベースフレームの熱膨
脹により最初の位置測定手段の測定値から変動してずれ
が生じ精密な焼入れができないという問題点が生ずる。
即ち、作業開始時には焼入装置全体が室温になっている
が、前記のように室温より高い30〜40℃の冷却液を
焼入れの度に冷却液槽に注入したり排出したりすると、
その熱により前記ベースフレームの温度が上昇して、前
記位置測定手段と誘導加熱コイルの距離が変動して作業
開始時の室温で測定された数値から前記制御手段により
計算された値でX−Yテーブルを駆動しても、シリンダ
ボアの中心と誘導加熱コイルの中心にずれが生じ、前記
のシリンダ径と誘導加熱コイルの隙間に偏差が生じて前
記の市松模様の焼入れ部にむらが生ずるという問題点が
生じた。
【0007】この対策として、あらかじめ温度が上昇し
た状態の偏差値を制御手段に組み入れて、前記の位置偏
差が一定になるのを待って焼入れ作業を行うようにする
ことも考えられる。しかし、この装置の温度が上昇する
までにはかなりの時間が掛かり、また冬期などは30〜
40℃に暖めた冷却液を冷却液槽に注入・排出して装置
の温度を均等に上げるなどの手間を要し、作業の前に早
出を要するなどの不経済な問題点がある。又、上記欠点
を解決するために、前記焼入装置を恒温室におくとか、
冷却液の温度を精密に制御するチラーを設けるなどの方
法もあるが、多額の設備費を要する欠点がある。
【0008】そこで本発明は、簡易で経済的にシリンダ
ボアと誘導コイルの中心位置の変化を減少し、前記市松
模様の焼入層にむらのない内面焼入れを可能にする精密
誘導焼入方法及び装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に、本発明の精密誘導焼入方法は、被焼入体の被焼入部
を冷却液中に浸積し、その被焼入部が液中に浸積した状
態で誘導加熱コイルに通電して被焼入部を焼入温度まで
加熱した後、誘導加熱コイルの通電を断つことにより急
冷して焼入れする誘導焼入れにおいて、前記浸積する冷
却液の温度を室温にして冷却することを特徴とするもの
である。
【0010】また、本発明の精密誘導焼入方法は、被焼
入体を移動する移動手段と、その被焼入体の被焼入部を
を誘導加熱する誘導加熱コイルと、被焼入体の待機位置
における被焼入部の位置を測定する測定手段と、該測定
手段の測定値信号により前記移動手段を駆動して前記被
焼入部を前記誘導加熱コイルの位置に移動させる制御手
段とを備えた誘導焼入装置において、室温の冷却液によ
り冷却して誘導焼入れするものである。
【0011】また、本発明の精密誘導焼入装置は、シリ
ンダブロックを液中に浸積して保持する冷却液槽と、該
冷却液槽を載置してX−Y方向にそれぞれ移動可能なX
−Yテーブルと、前記シリンダブロックのシリンダボア
の中心位置を測定する位置測定手段と、シリンダ内面を
誘導加熱する誘導加熱コイルと、前記位置測定手段の測
定値により前記シリンダブロックのシリンダボア中心を
前記誘導加熱コイルの中心と一致させるように前記X−
Yテーブルを駆動する制御手段とを備えたシリンダブロ
ックの内面焼入装置において、前記冷却液槽の液温を室
温にして誘導焼入れするものである。
【0012】即ち、従来のように、30℃〜40℃の室
温より高い冷却液を使用すると、ベースフレームが次第
に膨脹して位置測定手段と誘導加熱コイルの間隔が変動
するが、室温の冷却液を使用するとベースフレームの温
度変化が少なく、前記の位置測定手段と誘導加熱コイル
の間隔の変動が少ない。したがって、特別な手段を設け
なくても精密な誘導焼入れが可能となる。
【0013】また、本発明の精密誘導焼入装置は、前記
の冷却液槽に供給する冷却液の温度を室温に保持する液
温制御手段を備えることが、上記目的達成のために望ま
しい。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図示の一実施形態
について具体的に説明する。図1は本発明の精密誘導焼
入装置の冷却液の系統図、図2は本発明の精密誘導焼入
装置の正面図、図3はその側面図、図4は制御手段の構
成を示すブロック図、図5は冷却液槽の詳細断面図であ
る。図6は位置測定手段と誘導加熱コイルの距離の変化
を示す図、図7は本発明の精密誘導焼入方法により焼入
れした焼入部の寸法のばらつきを示す図、図8は本発明
の実施形態に使用した誘導加熱コイルの誘導子の形状を
示す図、図9はシリンダ内面に市松模様の焼入れを施し
た焼入部をエッチングにより明らかにした状態を示す斜
視図である。
【0015】以下図1〜5を用いて、本発明の実施形態
の精密誘導焼入装置の構造の概要を説明する。本実施形
態の精密誘導焼入装置は、門型フレーム21がベースフ
レーム11の図2の左側第3位置にベースフレーム11
を跨いで固設され、可動フレーム22が門型フレーム2
1に上下に滑動自在に取り付けられ、制御手段100の
制御部101により送られるパルス信号により駆動され
るサーボモータの駆動装置25により上下垂直のZ方向
に移動駆動されるようになっている。また、制御部10
1により送られるパルス信号により回転駆動される駆動
装置26が可動フレーム22に固設され、駆動装置26
の垂直軸24に誘導加熱コイル23が軸止され正逆回転
駆動されるようになっている。
【0016】本発明の実施形態に使用した誘導加熱コイ
ル23は、図8に示すように誘導子70が円筒体誘導体
部材71の内周壁の周方向に等角度に部分的に凹部74
を12個形成しており、誘導加熱により各凹部74に対
向するシリンダ75の内周壁76に12個の市松模様の
部分分割焼入層76aが形成されるようになっている。
誘導加熱コイル23は、前述のように誘導子70の円筒
体誘導体部材71の中心を軸として垂直軸24に軸支さ
れ、かつ駆動装置26を介して可動フレーム22に上下
移動可能に保持されており、制御部101の信号により
誘導加熱コイル23を下方に移動して、焼入れするシリ
ンダブロック(以下ワークブロックという)Wのシリン
ダボアに挿入し、シリンダ内面の所定位置に第1列の円
周の市松模様の焼入層を形成した後、垂直軸Z方向に一
定距離移動し、かつ一定の回転角を割り出し回転して誘
導加熱する動作を繰り返し複数列の焼入部を形成できる
ようになっている。
【0017】ベースフレーム11の図2のX方向のほぼ
中央近くの第2位置の上方に支持フレーム31がベース
フレーム11を跨いで設けられ、支持フレーム31のほ
ぼ中央に制御部101により送られるパルス信号により
上下移動駆動される駆動装置34が固設されている。駆
動装置34の垂直軸33の下部に位置測定手段であるマ
ーポス測定器(マーポス株式会社製の4針式内径測定
器)32が取り付けられて上下Z方向に移動するように
なっている。
【0018】ベースフレーム11の上面のX方向のレー
ル12上をXテーブル41が制御部101により送られ
るパルス信号により駆動されるパルスモータ44、ボー
ルねじ45により図2の左第1位置と右第3位置の間を
往復駆動されるようになっている。Xテーブル41上の
X軸に直角平面のY方向(図2の紙面に垂直)にレール
42が設けられ、レール42上をYテーブル43が制御
部101のパルス信号により駆動されるパルスモータ等
の駆動装置46により図2の紙面に垂直のY方向に往復
駆動されるようになっている。
【0019】Yテーブル43上の冷却液槽48の第3位
置寄りの位置に、第2基準部材となるほぼシリンダボア
径と同一内径のリング体を形成する基準リング51が固
設されている。基準リング51は、リング上面がほぼワ
ークブロックWの上面と同位置で、その中心がワークブ
ロックWのシリンダ列とほぼ同一X線上に中心軸を垂直
にして設けられている。
【0020】図4に示す制御手段100は、制御部10
1と記憶部102からなる。記憶部102はシリンダブ
ロックの内面焼入れの準備段階の各段階におけるX−Y
テーブルの座標と、焼入段階におけるワークブロックの
各シリンダボアの座標の測定値及び誘導加熱コイルの動
作位置を記憶する。制御部101は、記憶部102に記
憶された座標値から、後述する準備段階、焼入段階にお
いて、Xテーブル41、Yテーブル43、マーポス測定
器32、可動フレーム22及び誘導加熱コイル23を所
定の移動・回転するように駆動装置44、46、34、
25及び26に信号を送るようになっている。
【0021】Yテーブル43の上にはワークブロックW
を冷却液中に浸積する冷却液槽48が設けられている。
冷却液槽48は図5に詳細を示すように上面が開放した
箱型の槽をなし、内側底部には空洞部49aを有する底
板49が設けられ、底板49の上に被焼入れ体のワーク
ブロックWが載置される。そして、冷却液はパイプ94
から前記空洞部49aを介して各シリンダボアの中心位
置に相当する部に設けられたシリンダ数と同数の噴出孔
49bからシリンダ内径部を通って冷却液槽48に供給
され、冷却液槽48が空の状態から満液になるまでは大
量の液が送り込まれ、満液になるとタンク内の液面を保
持するように少量の液が送り込まれるようになってい
る。また、焼入れ中も定量の冷却液が注入され、冷却液
槽48の側面に設けられたオーバーフローパイプ83か
ら流出するようになっている。これにより、冷却液槽4
8の液面が一定に保たれるようになっている。冷却液槽
48の底面にはバルブ82を設けた複数の排出管81が
設けられ(図では1本のみを示す)、焼入れが完了する
とバルブ82を開いて急速に冷却液を排出し次のワーク
ブロックと速やかに交換できるようになっている。
【0022】ベースフレーム11の内部は空洞が形成さ
れ、この空洞部にフレームの長さ方向に長い箱型形状の
フレームタンク85がベースフレーム11と断熱されて
内蔵されている。フレームタンク85の上部は開放さ
れ、冷却液槽48がX−Yテーブル41の上をX,Y方
向に走行中でも前記冷却液槽48の排出管81とオーバ
ーフローパイプ83から排出される冷却液を受けられる
ようになっている。図1の系統図に示すように、フレー
ムタンク85に排出された冷却液はパイプ86を介して
受液タンク87に流出するようになっており、受液タン
ク87に流出した冷却液はパイプ88、ポンプ89及び
パイプ90を介して貯液タンク91に送られるようにな
っている。貯液タンク91にはパイプ96を介して送ら
れる冷却水により冷却する熱交換器95が設けられ、貯
液タンク91に貯められる冷却液を室温に維持するよう
に冷却している。この熱交換器95による液温維持の方
法は通常用いられるもので特別の特徴はないが、熱交換
器95には冷凍器などを要せず常温の工業用水で十分で
あるので経済的である。そして、貯液タンク91に貯め
られた冷却液はパイプ92、ポンプ93及びパイプ94
を介して冷却液槽48に送られ、ワークブロックのシリ
ンダ内径を通って冷却液槽48内に注入されるようにな
っている。
【0023】ワークブロックWは冷却液槽48の冷却液
に浸積したまま誘導加熱コイル23に通電することによ
り誘導加熱され、誘導加熱コイルの電流が遮断されると
浸積している冷却液により冷却されて焼入れされるよう
になっている。
【0024】以下、上記構成の精密誘導焼入れ装置の操
作について、1例としてシリンダボア径80mmφ、シ
リンダ間隔105mmの4気筒のシリンダブロックを焼
入れする場合について説明する。本操作には、シリンダ
ボアと誘導加熱コイルの位置を設定するための準備段階
と焼入れ段階とがある。まず準備段階として基準リング
51が第2位置に来るようにX−Yテーブルを移動し、
基準リング51の中心をマーポス測定器32の中心に一
致させる。このときのX−Yテーブルの座標Xo,Yo
を0点に設定する。この座標Xo,Yoは、主として作
業初めのテーブル位置の確正のために使用される。
【0025】次に、別に用意したワークブロックWと同
形状のマスタブロックMの第1シリンダボアM1の中心
のX−Yテーブルの座標を決定する。まず、マスタブロ
ックMを冷却液槽内に載置し、第1シリンダボアM1が
第2位置に来るようにX−Yテーブルを移動する。第1
シリンダボアM1の中心とマーポス測定器32の中心が
一致する点を検出して、その座標をX1,Y1とする。
マスタブロックMのシリンダボアの中心寸法は等間隔1
05mmに機械的に正確に加工されているので、第2シ
リンダボアM2以下の各シリンダボアの座標は、 第1シリンダボアの位置座標:X1,Y1, 第2シリンダボアの位置座標:(X1+105),Y1, 第3シリンダボアの位置座標:(X1+210),Y1, 第4シリンダボアの位置座標:(X1+315),Y1, として記憶部102に記憶させる。
【0026】次に誘導加熱コイル23とX−Yテーブル
の関係位置座標を決定する。X−Yテーブル40を図2
の右側第3位置に移動して、マスタブロックMの第1シ
リンダボアM1の中心と誘導加熱コイル23の中心を一
致させ、その中心の一致点のX−Yテーブルの座標をX
p,Ypとして記憶部102に記憶させる。上記の動作
が完了すると、X−Yテーブルを元の第1位置に戻しX
−Yテーブル上のマスターブロックMを積み下ろす。こ
れにより、シリンダブロックの誘導加熱焼入れの準備段
階が完了する。
【0027】次に焼入段階の動作について説明する。ま
ず、ワークブロックWの各シリンダボアの位置座標を設
定するため、ワークブロックWをX−Yテーブル上の定
位置に載置する。このとき、ワークブロックWの各シリ
ンダボアの位置は、前述のマスタブロックMの各シリン
ダボアとほぼ同位置に位置するが、その載置の精度や個
別のワークブロック加工の精度によりやや位置がずれる
ため、このまま前述のマスタブロックの各シリンダの位
置座標を用いては精度の高い誘導加熱焼入れすることは
できない。そこで、このマスタブロックとワークブロッ
クの位置の偏差を測定する必要がある。以下その動作を
説明する。
【0028】ワークブロックWをX−Yテーブルに載置
した後、制御手段100の制御部101、記憶部102
の信号により駆動装置44、46はX−Yテーブルを座
標X1,Y1の位置に移動する。そして、駆動装置34
によりマーポス測定器32をワークブロックWの第1シ
リンダボアW1に挿入し、マーポス測定器32と当該第
1シリンダボアW1の中心との偏心値を検出する。即
ち、マーポス測定器32は、その偏心値から前記のマス
タブロックMの第1シリンダボアM1の中心の座標X
1,Y1に対するワークブロックWの第1シリンダボア
W1の位置座標のずれ値a1,b1を測定し、その座標
(X1+a1),(Y1+b1)を検出する。このずれ
値a1,b1が制御手段100の記憶部102に記憶さ
れる。上記の動作が終わると、制御部101は駆動装置
34を介してマーポス測定器32を第1シリンダボアW
1から引き上げた後、X−Yテーブル40を駆動して前
記マスタブロックの第2シリンダボアM2の位置座標:
(X1+105),Y1に移動し、前記同様の動作によ
り、ワークブロックWの第2シリンダボアW2のマスタ
ブロックMの第2シリンダボアM2からのずれ値a2,
b2が測定され、 第1シリンダボアW1の位置座標:(X1+a1),(Y1+b1), 第2シリンダボアW2の位置座標:(X1+105+a2),(Y1+b2) 第3シリンダボアW3の位置座標:(X1+210+a3),(Y1+b3) 第4シリンダボアW4の位置座標:(X1+315+a4),(Y1+b4) として記憶される。
【0029】上記のワークブロックの各シリンダボアの
位置座標が決定されると焼入動作に入り、制御部101
はX−Yテーブルを駆動し座標値を(Xp−a1),
(Yp−b1)にX−Yテーブルを移動する。これによ
りマスタブロックとワークブロックのシリンダ位置のず
れ値a1,b1が補正されて誘導加熱コイル23と第1
シリンダボアW1の中心位置が一致する。この位置で駆
動装置25により誘導加熱コイル23を下降させて第1
シリンダボアW1の所定位置に挿入して通電加熱する。
この際に、冷却液槽48には冷却液が充填されているの
で、第1シリンダボアW1の内径が誘導加熱されて焼入
れ温度に達し、通電が遮断されると冷却液槽の冷却液に
より急冷されて焼入れが行われる。同様の操作が第1〜
第4シリンダーについて行われて全シリンダの焼入れが
完了する。全シリンダの焼入れが完了すると、バルブ8
2が開かれて冷却液槽48内の冷却液はフレームタンク
85に排出される。冷却液は排出動作等は焼入れ操作時
間の短縮のために冷却液槽48がX−Yテーブル上を走
行しながら行われる。
【0030】上記の位置計測手段により計測されて制御
手段により計算された設定値は、マーポス測定器32と
誘導加熱コイル23の間隔が変動しなければ計算された
設定値で作動させれば良い。しかし、実際には作業の初
めには機械の温度が低いが運転を始めると次第に機械の
温度が上がるため、ベースフレームの熱膨脹等で前記マ
ーポス測定器32と誘導加熱コイル23の間隔が変化す
る。このため、計算式どおりに設定すると誘導加熱コイ
ル23とシリンダーボアの中心にずれが生じて偏心し焼
入れのむらが生ずる。この両者の距離は焼入れの操作を
行わない場合もモータの発生熱などによるベースフレー
ムの熱膨脹により変化する。図6にこの距離の変化の実
測値の1例を示す。図6の線図Aは室温22℃のときの
焼入れを行わない空運転の場合を示す。図から分かるよ
うに、空運転を始めるとベースフレームの温度が上昇し
てマーポス測定器32と誘導コイル23の間隔が次第に
増加し、約10分間運転すると運転前より前記両者の間
隔寸法は約30μm大きくなる。そして、約30μmで
飽和しその後はほとんど変化しない。また、運転を終了
すると、装置の温度は低下するがその降下速度は上昇時
より小さいために、マーポス測定器32と誘導コイル2
3の間隔が運転前の数値に戻るには約50分を要した。
しかし、前述のようにシリンダボアと誘導加熱コイルの
中心偏差が30μm以下であれば焼入れ精度としては許
容されるので、この空運転程度の変動であれば許容でき
る。
【0031】上記図6の線図Aは冷却液を流さない空運
転の場合であるが、焼入れのために冷却液を流した場合
はさらに変化量が増加することが推定される。そこで、
冷却液の温度を32℃にして(前述のごとく通常は30
℃〜40℃)、冷却液槽に注入・排出を繰り返し前記同
様にマーポス測定器32と誘導コイル23の間隔の変化
を測定した。図6の線図Bにその結果を示す。図から分
かるように、この場合、作業開始後20分間はマーポス
測定器32と誘導コイル23の間隔が増加し、約20分
後にその距離が約100μm伸びた状態で飽和する。こ
の結果から、30℃〜40℃の温度の冷却液を使用する
場合には、室温で測定した制御手段の設定値のままでは
作業中にシリンダボアと誘導加熱コイルの隙間を前述の
許容値1.25mm±0.15mmに維持することがで
きず精密な焼入れができないことが分かった。
【0032】次に、冷却液の温度を室温と同じ22℃に
して前記同様に冷却液槽に注入排出を繰り返し行った。
このときのマーポス測定器32と誘導コイル23の間隔
の変化を図6の曲線Cに示す。この場合、図から分かる
ように間隔の変化は空運転の場合に比しほぼ同じかまた
はそれよりやや少ない値になるが、飽和するのは空運転
の場合よりやや遅れて約15分間運転後になった。これ
は室温の冷却液の冷却効果により、空運転より温度上昇
が押さえられた結果と推定される。運転停止後の前記間
隔の復元時間には大きな差異はなかった。
【0033】
【実施例】以上の結果から、冷却液の温度を室温と同じ
にして焼入れ操作を行えば、制御手段の計算設定値に特
別な補正を行わなくてもシリンダボアと誘導加熱コイル
の隙間を前述の許容値に収められることが分かった。そ
こで、室温が22℃の場合に冷却液の温度も22℃にし
てシリンダボア径80mmφ、シリンダ間隔105mm
の4気筒のシリンダブロックの内径に市松模様の6列の
部分焼入層を形成する内面焼入れを行った。誘導加熱コ
イル23はシリンダ内径との隙間を1.25mmとする
ため、図8に示す円筒体誘導体部材71の内周壁の周方
向に等間隔に12個の凹部74を形成した直径77.5
mmの誘導子70を有する加熱コイルを使用した。この
誘導コイルを使用し、前記の制御手段100により駆動
装置25を作動して誘導加熱コイル23をシリンダ内径
の垂直方向の第1列の焼入列の位置に設定して通電加熱
し、円筒体誘導体部材71の各凹部74に対向するシリ
ンダ75の内周壁76に図9に示すような12の市松模
様76aの第1列の部分分割焼入層を形成した。第1列
の焼入れが完了すると、誘導加熱コイル23をシリンダ
内の第2列の焼入列の位置に設定し、1/24円周の回
転角を回転して図9に示すような第2列の市松模様の部
分分割焼入層を形成した。同様の動作を繰り返して6列
の部分分割焼入層を形成した。
【0034】この焼入部の寸法のばらつきの測定結果を
図7に示す。図は装置の運転開始から5分後に焼入れ作
業を開始し、以下5分毎に焼入れを行った5個のシリン
ダーブロックの円周回りの個々の焼入部の長さの測定値
を示す。図から分かるように、いずれのシリンダーブロ
ックも円周回りの焼入部の長さの差異は1.5mm以下
であった。焼入部の幅には僅かの差異しか認められなか
ったので図示は省略した。また、焼入部を蛍光探傷によ
り検査した結果、いずれの焼入部にも焼き割れは認めら
れなかった。即ち、通常の焼入れ熱処理に使用される3
0℃以下の温度の冷却液を使用しても本焼入方法によれ
ば焼き割れはなく健全な焼入層が得られることが分かっ
た。
【0035】上述のように本発明の焼入方法によれば、
室温の冷却液を用いて焼入れ冷却を行うので、作業開始
から終了まで装置の温度変化が少ないため、位置測定手
段と誘導加熱コイルの間の間隔の変動が少なくなり、作
業開始時の測定値から制御手段により設定した数値で補
正なしに焼入れ作業を行っても精密な焼入れが可能であ
る。また、20℃以上の液温であれば室温の冷却液によ
り急冷を行っても焼き割れが生じないことが確認され
た。したがって、特別な冷却液のチラー等の費用のかか
る設備を要せず、また、暖気運転のための早出作業や、
複雑な制御手段の補正等の手間を要しないで精密な誘導
焼入れができる。
【0036】
【発明の効果】以上説明したように本発明の精密誘導焼
入方法によれば、特別な設備の付加をしないで、シリン
ダブロックの内面焼入れなどで簡易に精密な誘導焼入れ
が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施形態の精密誘導焼入装置の冷却液系
統図である。
【図2】本発明実施形態の精密誘導焼入装置の正面図で
ある。
【図3】本発明実施形態の精密誘導焼入装置の側面図で
ある。
【図4】本発明実施形態の制御手段の構成を示すブロッ
ク図である。
【図5】本発明実施形態の精密誘導焼入装置の冷却液槽
の詳細断面図である。
【図6】本発明実施例の位置測定手段と誘導加熱コイル
の距離の変化を示す図である。
【図7】本発明実施例の焼入部の寸法のばらつきを示す
図である。
【図8】本発明実施例の誘導加熱コイルを示す図であ
る。
【図9】本発明実施例の焼入部の形状を示す図である。
【符号の説明】
11 ベースフレーム 12 レール 21 門型フレーム 21b レール 22 可動フレーム 23 誘導加熱コイル 24 垂直軸 25 駆動装置 26 回転駆動装置 31 支持フレーム 32 マーポス測定器 33 軸 34 駆動装置 40 X−Yテーブル 41 Xテーブル 42 レール 43 Yテーブル 44 パルスモータ 45 ボールねじ 46 駆動装置 48 冷却液槽 49 底板 49a 空洞部 49b 噴出口 51 基準リング 70 誘導子 71 円筒体誘導体部材 74 凹部 75 シリンダ 76 シリンダ内面 76a 市松模様焼入層 81 パイプ 82 排出バルブ 83 フローパイプ 85 フレームタンク 86 パイプ 87 受液タンク 88 パイプ 89 ポンプ 90 パイプ 91 貯液タンク 92 パイプ 93 ポンプ 94 パイプ 95 熱交換器 96 パイプ 100 制御手段 101 制御部 102 記憶部 104 操作スイッチ 105 スタートスイッチ M マスタブロック W ワークブロック

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 被焼入体の被焼入部を冷却液中に浸積
    し、その被焼入部が液中に浸積した状態で誘導加熱コイ
    ルに通電して被焼入部を焼入温度まで加熱した後、誘導
    加熱コイルの通電を断つことにより急冷して焼入れする
    誘導焼入れにおいて、前記浸積する冷却液の温度を室温
    にして冷却することを特徴とする精密誘導焼入方法。
  2. 【請求項2】 被焼入体を移動する移動手段と、その被
    焼入体の被焼入部をを誘導加熱する誘導加熱コイルと、
    被焼入体の待機位置における被焼入部の位置を測定する
    測定手段と、該測定手段の測定値信号により前記移動手
    段を駆動して前記被焼入部を前記誘導加熱コイルの位置
    に移動させる制御手段とを備えた誘導焼入装置におい
    て、室温の冷却液により冷却して誘導焼入れする請求項
    1に記載の精密誘導焼入方法。
  3. 【請求項3】 シリンダブロックを液中に浸積して保持
    する冷却液槽と、該冷却液槽を載置してX−Y方向にそ
    れぞれ移動可能なX−Yテーブルと、前記シリンダブロ
    ックのシリンダボアの中心位置を測定する位置測定手段
    と、シリンダ内面を誘導加熱する誘導加熱コイルと、前
    記位置測定手段の測定値により前記シリンダブロックの
    シリンダボア中心を前記誘導加熱コイルの中心と一致さ
    せるように前記X−Yテーブルを駆動する制御手段とを
    備えたシリンダブロックの内面焼入装置において、前記
    冷却液槽の液温を室温にして誘導焼入れする請求項1に
    記載の精密誘導焼入方法。
  4. 【請求項4】 前記冷却液槽に供給する冷却液の温度を
    室温に保持する液温制御手段を備えた請求項3に記載の
    精密誘導焼入装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR20000001250A (ko) * 1998-02-03 2000-01-15 오타니 시게히사 정밀유도가열형 담금질장치와 담금질방법
JP2010024516A (ja) * 2008-07-23 2010-02-04 Fuji Electronics Industry Co Ltd 高周波焼入装置の浸漬冷却装置
CN113755669A (zh) * 2021-10-25 2021-12-07 南京中盛铁路车辆配件有限公司 超音频电源的铁路货车钩尾框销孔感应淬火装置及方法
WO2023157325A1 (ja) * 2022-02-17 2023-08-24 高雄工業株式会社 高周波加熱装置用の加熱コイル

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