JPH084770A - 耐摩耗性摺動部材 - Google Patents

耐摩耗性摺動部材

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JPH084770A
JPH084770A JP15947494A JP15947494A JPH084770A JP H084770 A JPH084770 A JP H084770A JP 15947494 A JP15947494 A JP 15947494A JP 15947494 A JP15947494 A JP 15947494A JP H084770 A JPH084770 A JP H084770A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】凹凸パターンを施した摺動面の潤滑性,耐摩耗
性,耐焼付性を長期間にわたり確保できる摺動部材を提
供する。 【構成】他部材に摺動接触する母材の摺動面に凹凸パタ
ーンを形成し、この凹凸パターンの凹凸部に固体潤滑剤
又は液体潤滑剤の少なくとも1つからなる潤滑剤を満た
し、この凹部の面積比率を30〜70%、凹部の深さを
10μm以下とした。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、摺動接触する部材の摺
動面に耐摩耗,低摩擦抵抗処理を施した摺動部材に関す
る。特に、本発明は一般の相対摺動接触する機械部品の
他、すべり軸受(真空用を含む),ころがり軸受の内外
輪レース面,グルーブ軸受のスラスト受部あるいは人工
関節等の摺動接触部に適用して有用な耐摩耗性摺動部材
の摺動面構造に関する。
【0002】
【従来の技術】相対摺動接触する部材の摺動面に耐摩耗
処理を施したものとして、例えば特開昭60−1355
64号公報に示された金属摺動部材がある。これは、互
いに摺動接触する金属部材の少なくとも一方の部材の摺
動面に、耐摩耗硬質材と固体潤滑剤とを区分けしてスパ
ッタ蒸着し、これによって硬質材料蒸着部および固体潤
滑材料蒸着部によるまだら状又はディンプル状パターン
(以下まだら状パターンと称する)の蒸着面を形成した
ものである。この構成により、摺動接触する硬質材料部
分で負荷荷重を受け、その周囲の固体潤滑材料が相手部
材との摺動接触で掘り起されて硬質材料部分へ潤滑剤と
して供給され、耐摩耗性と摩擦力の軽減が同時にもたら
される。
【0003】また他の例としては、摺動部材の母材の表
面に凹凸面を形成し、この凹凸面上に直接固体潤滑膜を
形成するか、あるいは該凹凸面にその凹凸形状を維持で
きる範囲で硬質材料層を設けた後、最上層の凹凸部に固
体潤滑膜を形成し、これによって摺動時のせん断応力に
よる固体潤滑膜の剥離を防止するとともに、耐摩耗性お
よび充分な潤滑性を発揮できるようにした耐摩耗性摺動
部材が提案されている(特開平2−76925号公
報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の金属摺
動部材あるいは耐摩耗性摺動部材はいずれも、摺動に伴
なって固体潤滑面からの潤滑剤がそのまわりの耐摩耗硬
質材あるいは母材の摺動面凸部へ供給されるので高い潤
滑性が得られ、しかも耐摩耗硬質材あるいは凹凸パター
ンの凸部の部分で荷重を受けるので、負荷容量および寸
法精度を向上させ得る効果がある。しかし前述の特開昭
60−135564号公報記載のものは、摺動面の硬質
材料部と固体潤滑材料部によるまだら状パターンの両材
料部の面積比率については各々の部材の使用条件によっ
て適宜実験的に定めるとするのみで、具体的に特定され
ていない。特開平2−76925号公報においても円筒
または円柱状の各々の凹部または凸部の直径は例示され
ているものの、それらの個数あるいは分布状況即ち摺動
面全体に占める凹部または凸部の面積比率については示
されていない。
【0005】前述のように凹凸パターンの形成されてい
る摺動部材においては、凸部で荷重を受け凹部の部分か
ら潤滑剤を供給することになるので、凸部の面積が少な
いと耐荷重性能が低下し、逆に凸部全体の面積が大即ち
凹部が少ないと潤滑剤の供給能が低下する。凹部の深さ
についても凹部溝深さが大であると該凹部からの潤滑剤
が凸部へ流出しずらくなり、凹部が浅すぎると潤滑剤の
保持が有効になされない。このように摺動部材の低摩擦
抵抗および耐摩耗性を最大限に発揮するようにするには
凹凸パターンの凹部と凸部の面積比率および凹部の溝深
さを最適な値に定める必要がある。
【0006】本発明は、凹凸パターンを形成した摺動面
の凹凸部の面積比率および凹部の深さを最適な範囲に定
めることにより、摺動面の潤滑性,耐摩耗性,耐焼付性
を長期間にわたり確保できる摺動部材を提供することに
ある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の耐摩耗性摺動部
材は、他部材に摺動接触する母材の摺動面に凹凸パター
ンを形成するとともに該凹凸パターンの凹凸部に固体潤
滑剤又は液体潤滑剤の少なくとも1つからなる潤滑剤を
満たし、該凹部の面積比率を摺動面全体の30〜70
%、深さを1mm以下好ましくは10μm以下としたも
のである。
【0008】本発明の1つの形態によれば、前記凹凸パ
ターンが規則的に配列され、前記凹部の円形換算したと
きの直径が0.2〜0.8mmとされている。
【0009】また本発明の1つの形態によれば、前記凹
凸パターンが規則的に配列され、その凹部間あるいは凸
部間のピッチが0.8〜1.6mmとされている。
【0010】さらに本発明の一形態によれば、前記凹凸
パターンとして円柱状凸部を有する凸パターンあるいは
円柱状凹部を有する凹パターンが人工股関節の相対摺動
面(人工骨頭または臼蓋ソケット)の一方または双方に
形成され、これらの円柱状凸部または円柱状凹部の直径
が略0.5mm、ピッチが略1.2mmに形成された人
工股関節構造が提供される。
【0011】また本発明の一形態によれば、前記摺動面
がころがり軸受の少なくとも内外輪レース面好ましくは
内外輪レース面及び保持器の摺動面、グルーブ軸受のス
ラスト対向受面、あるいは人工関節対向受面の少なくと
も1つから選ばれた耐摩耗性摺動部材が得られる。
【0012】また、本発明の1つの形態によれば、前記
母材がステンレス、炭素鋼などの鉄鋼類、銅、アルミニ
ウム、チタン、チタン合金などの非鉄金属類、樹脂材料
あるいはセラミックスの少なくとも1つから選ばれ、前
記母材にTiN、TiCなどの少なくとも1つから選ば
れる被膜処理が施され、前記固体潤滑剤がMoS2 、W
2 、BN、Au、Ag、ポリエチレン、フッ素樹脂な
どから選ばれた耐摩耗性摺動部材が得られる。
【0013】
【作用】摺動部材の母材表面に凹部の面積比率が30〜
70%、凹部の深さが1mm以下または加工時間を短縮
するため好ましくは10μm以下の凹凸面を形成した摺
動部材は、潤滑剤が下地の凹凸面に拘束され、かつ凹部
が潤滑剤を供給する役割を果たすとともに凸部で荷重を
受けるため、摺動面の潤滑性を長期間にわたり保持でき
る。また凹凸面を維持できる範囲で表面に硬質材料層を
設けることにより、潤滑剤がなくなっても硬質材料層が
摩耗バリアの役目を果たし、より高い耐摩耗性,耐焼付
性が得られる。さらに、摺動部において摩耗が発生した
としても、摩耗粉を凹部に逃がすことができ、アブレシ
ブによる急速な摩耗を防止することができる。
【0014】凹部の円形換算したときの直径を0.2〜
0.8mmとした根拠は、直径0.2mm以下にする
と、パターンが無い場合と殆ど等しくなり、凹部に必要
な量の潤滑剤が貯えられないばかりか、凸部の摩耗潤滑
剤や摩耗粉が凹部に溜めることができないからであり、
また0.8mm以上になると実質的に凸部の面積が減少
し、荷重を支えきれなくなり、摺動面が摩耗または微細
な凹凸が発生し、摺動性が低下するからである。
【0015】凹部間のピッチを0.8〜1.6mmとし
たのは、0.8mm以下になると、凸部の領域が狭くな
り、荷重を支える面積が不足し、摺動面の摩耗が進行し
易く、1.6mm以上になると、凹部の潤滑剤が凸部に
乗り移りにくくなり、かつ凸部の潤滑剤または摩耗粉を
凹部に貯えにくくなるからである。
【0016】
【実施例】次に、本発明を実施例について図面を参照し
て説明する。図1および図2はそれぞれ本発明の各種実
施例による耐摩耗性摺動部材の摺動面の部分的な斜視図
である。母材1は鉄,炭素鋼,ステンレス鋼などの鉄鋼
類をはじめ、銅,アルミニウム、白金、チタンおよびチ
タン合金その他の非鉄金属、PPS(ポリフェニレンサ
ルフアイド)、ポリアミドイミド、ポリイミド、フェノ
ール、PES(ポリエチレンサルフアイド)、PEEK
(ポリエーテルエーテルケトンなど)の樹脂材料、ある
いはAl2 3 、ダイアモンド、サフアイア、Si3
4 、SiC、ジルコニア、シリカ、チタニアなどのセラ
ミックス材料などのセラミックスから選び、母材の表面
に選択的になす被膜材料(コーティング材料)としてT
iN、ダイアモンド、上記の如きセラミックスなどから
選び、また固体潤滑剤として、ポリエチレン、フッ素樹
脂、ナイロン、ポリアセタール、ポリオレフイン、ポリ
エステル、金属石鹸、MoS2 、WS2 、BN、黒鉛、
フッ化カルシウム、フッ化バリウムなどから選ばれる種
々の工業材料が使用される。また後述する人工関節にあ
っての母材の表面に選択的になすコーティング材として
は、凸部を形成するため、TiNを蒸着させて用いるこ
と、また母材がCoーCr合金の場合は表面を窒化し、
表面硬化することもできる。そして同じく人工関節の潤
滑剤として生理食塩水や子牛血清脂肪、脂肪油、ラー
ド、鯨の脂肪、スエット(牛,羊の腎臓周辺の脂肪など
の動植物油)、関節液又はその類似液を用いる。
【0017】図1の例では母材1の摺動面に複数個の円
柱状の凸部2が等間隔に規則的に形成され、凸部2以外
の部分は凹部3となっており、摺動面はこれらの凸部2
と凹部3による凹凸パターンで構成される。凸部2の直
径をDとし、個数をNとすれば、摺動面全体の凸部2の
摺動接触面積はπND2 /4であり、この面積の残余の
面積が摺動面全体に対して30〜70%の比率となって
凹部を形成している。この凹部3全体の円形換算時の直
径をDeqとすれば、Deq=√(4Aeq/πN)である。
ただしAeqは凹部3全体の面積である。摺動面に複数個
分散された凸部あるいは複数個分散された凹部のピッチ
pはこれらの凸部あるいは凹部の隣り合ったものどおし
の図形中心間の距離として定義される。
【0018】図2の場合は直径Dの円柱状の凹部3が複
数個等間隔に規則的に母材1の摺動面上に形成され、こ
れらの凹部3以外の部分が摺動面における凸部2となっ
ている。図2の例においても凹部3全体の摺動面に対す
る面積比率は30〜70%である。
【0019】凹凸パターンとしては必ずしも上述のよう
な円柱状や円筒状のものに限定されるものでなく、矩形
その他多角形状の凹凸部、あるいは凹部と凸部が層状に
区分けされて配置されたもの等でもよい。いずれも規則
的に摺動面全面に配列され、全体の凹部の面積比率は全
摺動面に対し30〜70%である。
【0020】凸部2または凹部3の比率を上述のように
した根拠を具体的な摩耗摩擦試験を示して説明する。ま
ず本発明において採用した摩擦摩耗試験装置を図3に示
す。空気軸受5により垂直に軸支された回転軸4の下端
にその軸芯から偏心して球面状の接触子6が固着され、
この接触子6に、試料取付台7に取り付けられた試料8
が接触している。なお回転軸4と試料取付台7は軸方向
に荷重がかけられ、これによって接触子6と試料8の圧
接力が調整可能となっている。試料取付台7はスラスト
方向およびラジアル方向に空気軸受9で支えられてい
る。試料取付台7の外側部は固定設置したロードセル1
0に連結されており、図示しない可変速モータで回転軸
4を軸線まわりに回転駆動することで接触子6と試料8
との間の摩擦力による試料取付台7の回転方向荷重がロ
ードセル10で検出され、接触子6と試料8間の摩擦力
の経時変化が観察される。なお、この方法で得られた時
間−トルク特性図は一般に図4のようになり、急激にト
ルク変化が増大(E点)し始めるまでの時間をもって寿
命と判定する。
【0021】既に説明したように凹凸パターンの形成さ
れている摺動部材においては、凸部で荷重を受けること
になり、凹部から潤滑剤を供給することになる。凸部が
少なくなれば耐荷重性能が低下し、凹部が少なくなると
潤滑剤の供給能力が低下する。したがって、1つの摺動
面において凸部と凹部の最適な面積比率が存在する。ま
た凹部の深さが大きすぎると潤滑剤が摺動面へ流出しず
らくなり、浅すぎると潤滑不足が生じる。したがって凹
部の深さhについても最適な値が存在する。
【0022】凹凸はまずエッチング、スパッタリング、
ビームプロセス(電子、レーザ)等の方法で母材1に1
〜10μmとなるように形成し、選択的に被膜をスパッ
タ、イオンプレーティング、蒸着、湿式メッキ等により
形成する。また、この被膜により摺動面の凸部を形成し
てもよい。そして固体潤滑剤を同様の方法で前記凹凸に
ならわせて1〜10μmの厚さに形成する。したがっ
て、母材自体に深さ1〜10μmの凹凸を形成した場
合、該母材に被膜形成、固体潤滑膜を形成しても、いず
れもその表面には1〜10μmの深さの凹部が形成され
ていることになる。つまり、凸部の固体潤滑剤が摩耗し
てもこの潤滑剤は凹部に移動し、また凹部の固体潤滑剤
は再び凸部に必要量だけ移動することができ、耐摩耗
性、低トルク、低摩擦などの効果を奏し得る。特に人工
関節では摩耗粉の逃げ場がなく、かかる凹部は余分の固
体潤滑剤や摩耗した潤滑剤の一種のストレージとなると
同時に摺動面への供給源となって耐摩耗性、低トルク、
低摩擦などの効果を発揮する。図1のような円柱状凸部
2による凸パターンを形成した摺動面において、凹部3
全体の摺動面に対する面積比率を変え、該凹部3に固体
潤滑膜としてMoS2スパッタ膜をコーティングした試
料の被膜寿命の試験データを表1に示す。なお、凹部の
深さはいずれも10μmとした。
【0023】
【表1】
【0024】ここで回転軸4の回転数;1000rp
m,接触子の押付荷重;0.23kgf,すべり速度;
0.4m/sとした。凹部3の面積比率14%では潤滑
不足で2時間後にトルクの急激な上昇がみられ、80%
を超えると凸部2のくずれが生じ荷重を受けられなくな
る。パターン種別「なし」は凹凸部のない場合である。
【0025】図2のような円筒状凹部3による凹凸パタ
ーンを摺動面に形成し、凹部3の面積比率を変え、その
上に固体潤滑膜としてMoS2 スパッタ膜をコーティン
グしたときの被膜寿命の試験データを表2に示す。な
お、凹部の深さはいずれも10μmとした。この例でも
凹部の面積比が14%で潤滑不足となり、80%で負荷
容量が低下する。凹凸パターンがなく単にMoS2 膜を
スパッタしただけの試料(表中「なし」で示した)は負
荷容量が小さく、被膜寿命は1時間であった。
【0026】
【表2】
【0027】被膜寿命は凹凸パターンの凹部の深さにも
関係する。図3の装置を用いた摩耗試験において、粗さ
計により摺動面の摩耗状況を観測した場合、表面に超高
分子量ポリエチレンを被覆した摺動面に対して、凹凸パ
ターンの有無による摩耗差は顕著である。凹凸パターン
を付与しない場合の粗さ計の結果にみられる大きな傷跡
は、摩耗粉により摺動面が深く削られたものと考えられ
る。つまり摩耗粉自体が新たな摩耗をひき起す。しかし
凹凸パターンを施した摺動面においては、凹部からの潤
滑剤の供給に加えて凹部への摩耗粉の逃げがもたらさ
れ、摺動面の凸部へ摩耗粉が入り込まない。
【0028】表3は図2のような凹凸パターンを施した
摺動面で凹部3の面積比率を摺動面全体に対し70%と
し、凹部3の溝深さhを変え、その上に固体潤滑膜とし
てMoS2 スパッタ膜をコーティングしたときの被膜寿
命の試験データを示す。
【0029】
【表3】
【0030】このデータから溝深さhが15μmを超え
ると潤滑剤が凹部3の底にたまり、凸部2へ潤滑剤が流
出しなくなり、被膜寿命は著しく低下する。
【0031】本発明による摺動面構造は、凹凸パターン
の凹部の面積比率を30〜70%、凹部の溝深さを10
μm以下1μm以上とするものであるが、この範囲の凹
凸パターンをもつ摺動面は上述の実験結果からも低摩擦
抵抗,耐摩耗性を最大限に発揮することが分る。
【0032】本発明の応用例として人工関節の相対摺動
部の表面改質が挙げられる。人工関節においては互いに
嵌合する人工骨頭および臼蓋ソケットが、金属あるいは
セラミックスと超高分子量ポリエチレンの組み合せから
成るのが一般的である。図3の摩耗摩擦試験装置で接触
子を平面仕上げした超高分子量ポリエチレンとし、試料
にステンレス材に生体適合性に優れたTiNをコーティ
ングしたものを用いて試験した。この場合の摩擦力の変
化を図5に示す。パターンを付加しない試料を使用した
場合、摩擦力の変動が大きく、かつ不安定である。一
方、凹凸パターンを付加した試料を使用した場合、その
変動は小さく、安定しているのが分る。試験後の観察で
試料のTiNの表面においてはパターンの有無による摩
耗の差を判断することは難しいが、固体潤滑剤としての
超高分子量ポリエチレンに関しては、パターンを付加し
ていない場合の方が、パターンを付加したものと比べて
摩耗が著しく起きているのが観測される。またパターン
を付加しない場合の粗さを測定したところ、大きな傷跡
が見られたが、この傷跡は摩耗片により深く削られたも
のと考えられる。パターンを付加している場合は凹部に
摩耗片が取り込まれ、摺動面に出ないので大きな摩耗が
防止される。
【0033】また同様に、摺動面に凹凸パターンを形成
した試料に、生体適合性に優れたTiNをコーティング
し、相手材として超高分子量ポリエチレンを用い、生理
食塩水中にて摩擦試験を行ったときの摩擦力の時間的推
移を図6に示す。比較のため凹凸パターンの無い試料を
同一条件下で試験した場合を同図に併せて示した。この
図からも明らかに凹凸パターンをもつ摺動面の優位性が
顕著である。
【0034】図7は本発明の耐摩耗性摺動面構造を用い
た人工股関節の分解側面図である。ステム11の先端に
ボール(人工骨頭)12が装着され、このボール12に
相手部材である臼蓋ソケット13の凹球面13aが相対
摺動可能に嵌合されるようになっている。ボール12お
よびソケット13の摺動面の一方または双方に図1また
は図2に拡大して示すような円柱状凸部2または円柱状
凹部3による凹凸パターンが形成される。凹凸パターン
の凹部3の面積比率および深さは上述した範囲のものが
採用されてよいが、個々の凸部2または凹部3の直径お
よびピッチについても人工股関節として使用する場合の
最適な値が存在する。なお、人工関節にあっては、ボー
ル12、ソケット13の材料即ち母材としてコバルト−
クロム合金、ジルコニア、超高分子量ポリエチレンなど
が用いられる。
【0035】図8は凹凸パターンの円柱状凹部の直径
(mm)に対する人工股関節部の摺動面特性の実験結果
を示した図である。摺動面には超高分子量ポリエチレン
を用いた。図中にプロットした白丸は凹部直径に対する
摩擦力の減少率(%)の値であり、黒丸は超高分子量ポ
リエチレンの摩耗量(mm)を示している。図9は、同
様に超高分子量ポリエチレンの摺動面において、円柱状
凹部のピッチ(mm)に対する摩擦力の減少率(白丸)
及び摩耗量(黒丸)についての実験結果を示したもので
ある。これらの図から分かるように凹部の直径Dが0.
5mm、ピッチp(図2)が1.2mmのときに摩擦力
の減少率は最も大きく、超高分子量ポリエチレンの摩耗
量は最も小さくなる。以上から凹凸パターンを施した人
工股関節の場合、パターンの直径0.5mm、ピッチ
1.2mmが潤滑特性を最も向上させる最適値となる。
従来のように人工関節の摩擦や摩耗の防止手段として材
質の改良のみでは充分な効果が得られなかったが、本発
明のような摺動面構造とすることにより、人工関節摺動
面の潤滑特性を改善でき人工関節の寿命を大幅に延ばす
ことが可能となる。
【0036】なお、上述の説明で凹部の深さを1.0m
m以下好ましくは10μm以下としたが、例えば人工股
関節などに用いる摺動面には摩耗粉を封じ込める必要が
ある場合は深くし、固体潤滑剤を凹部に満たす場合は浅
くすることが望ましく、使用箇所により深さは適宜前記
の範囲で選択する。ただ加工上からは、特に凹凸パター
ンを微細加工技術で形成する必要がある場合は浅く、好
ましくは10μm以下にするのがよい。
【0037】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、他
部材に摺動接触する母材の表面に凹凸パターンを形成
し、凹部の面積比を30〜70%、凹部の深さを1.0
mm以下または加工時間を短縮するため好ましくは10
μm以下とすることにより、固体潤滑条件下あるいは生
理食塩水等の液体中において、凹部からの潤滑剤の供
給、凹部への摩耗粉の逃げによるアブレシブ摩耗の防止
により、耐摩耗性および耐焼付性が向上する。また母材
の凹凸パターンの形成と共に、TiN,TiC,TiB
2 等の硬質膜やイオン注入による硬質層を設けることに
より、潤滑剤がなくなっても硬質層が摩耗を防ぎ、一層
高い耐摩耗性,耐焼付性および負荷容量の向上が達成さ
れる。本発明を人工関節に適用することにより、関節摺
動面の特性改善、特に摩擦、摩耗を飛躍的に減少させる
ことができ、人工関節の寿命の延長に多大な効果が発揮
される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例による凸パターンをもつ耐摩耗
性摺動部材の部分的な斜視図である。
【図2】本発明の他の実施例による凹パターンをもつ耐
摩耗性摺動部材の部分的な斜視図である。
【図3】本発明に係る摩耗摩擦試験装置の概略的な縦断
面図である。
【図4】摩耗摩擦試験で得られる時間−トルク特性を示
した図である。
【図5】超高分子量ポリエチレンとTiN被覆材との摩
擦力試験における摩擦力の経時変化を示した図である。
【図6】生理食塩水中にて超高分子量ポリエチレンとT
iN被覆材との摩擦試験を行った場合の摩擦力の経時変
化を示した図である。
【図7】本発明の適用例による人工股関節の分解側面図
である。
【図8】本発明による摺動面の凹凸パターンの凹部直径
に対する人工股関節の摺動面特性を示した図である。
【図9】本発明による摺動面の凹凸パターンの凹部ピッ
チに対する人工股関節の摺動面特性を示した図である。
【符号の説明】
1 母材 2 凸部 3 凹部 4 回転軸 5,9 空気軸受 6 接触子 7 試料取付台 8 試料 10 ロードセル 12 ボール 13 ソケット
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 鈴木 富太 神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内 (72)発明者 田中 守 神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】他部材に摺動接触する母材の摺動面に凹凸
    パターンを形成するとともに該凹凸パターンの凹凸部に
    固体潤滑剤又は液体潤滑剤の少なくとも1つからなる潤
    滑剤を満たし、前記凹部の面積比率を摺動面全体の30
    〜70%、深さを10μm以下とすることを特徴とする
    耐摩耗性摺動部材。
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