JPH07114698B2 - 耐熱性β−チロシナ−ゼ及びその製法 - Google Patents

耐熱性β−チロシナ−ゼ及びその製法

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JPH07114698B2
JPH07114698B2 JP12722586A JP12722586A JPH07114698B2 JP H07114698 B2 JPH07114698 B2 JP H07114698B2 JP 12722586 A JP12722586 A JP 12722586A JP 12722586 A JP12722586 A JP 12722586A JP H07114698 B2 JPH07114698 B2 JP H07114698B2
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【発明の詳細な説明】 本発明は、例えばチロシン(tyrosine)、L−ドーパ
(L−dopa)などの工業的合成、その他の用途に有用な
従来公知文献未記載の耐熱性β−チロシナーゼ(β−ty
rosinase)、その醗酵法による製法及びその製法に利用
する従来公知文献未記載の耐熱性β−チロシナーゼ生産
性微生物に関する。
更に詳しくは、本発明は、その耐熱性特性において従来
公知のβ−チロシナーゼと明瞭に区別される耐熱性β−
チロシナーゼ、特に、約80℃(pH=8.0)に作用至適温
度を有し且つ約80℃(pH=8.0、保持時間20分)までは
熱失活しない耐熱特性を有することを特徴とする新規な
耐熱性β−チロシナーゼに関する。
本発明はまた、この新規耐熱性β−チロシナーゼの醗酵
法による製法及びこの製法の実施に使用するのに適した
新規な耐熱性β−チロシナーゼ生産性微生物にも関し、
とくに、チロシン含有合成培地において単独では生育し
ないが、バチルス・エスピー・S株(Bacillus sp.stra
in S)との共生により生育する従来完全に未知の耐熱性
β−チロシナーゼ生産性桿菌をチロシン含有培地で培養
し培養物から耐熱性β−チロシナーゼを採取することを
特徴とする耐熱性β−チロシナーゼの製法にも関する。
従来、β−チロシナーゼは、ピリドキサールリン酸(PL
P)の関与のもとに、L−チロシンからピルビン酸、フ
エノール、アンモニアを生成するα,β脱離反応を触媒
する反応の他に、たとえばフエノールとL−セリンから
L−チロシンを合成する反応、すなわち上記反応とは逆
反応のβ置換反応も触媒する酵素として知られており、
たとえばエシエリキア・インターメデイア(Escherichi
a intermedia)、エルウイニア・ヘルビコラ(Erwinia
herbicola)などの如き腸内細菌群を中心とする微生物
から見出されている公知酵素である。
このような従来公知のβ−チロシナーゼは、約40℃(pH
=8.0)付近に作用至適温度を有し且つ約40℃(pH=8.
0、保持時間20分)以上では実質的に熱失活する酵素特
性を有する酵素であるため、その利用に際し、反応温
度、熱安定性などの耐熱性の点で著るしい制約を受ける
という技術的難点があつた。
本発明者等の一部の発明者等は、天然培地及びトリプト
フアン含有合成培地のいずれにおいても単独では生育し
ないが、バチルス・エスピー・S株(Bacillus sp.stra
in S)との共生により生育する従来完全に未知で且つ如
何なる公知文献にも未記載の特異な生育特性を有するト
リプトフアナーゼ生産性桿菌を土壌試料より分離採取す
ることに成功し、且つ該新規桿菌が約70℃(pH=8.0)
に作用至適温度を有し且つ約65℃(pH=8.0、保持時間4
0分)までは熱失活しない熱安定性を示す点で、約33〜3
5℃(pH=8.0)付近に作用至適温度を有し且つ約40℃
(pH=8.0、保持時間40分)以上では実質的に熱失活す
る酵素特性を有する公知トリプトフアナーゼとは全く別
異の新規酵素である耐熱性トリプトフアナーゼを産生す
ることを発見して、この耐熱性トリプトフアナーゼ、そ
の製法およびその生産菌に関して既に特願昭60−124546
号(昭和60年6月8日出願)に於て詳しく提案した。
本発明者等は更に研究を続けた結果、上記提案において
詳しく開示した耐熱性トリプトフアナーゼ生産性新桿菌
は、トリプトフアン含有培地に於て上記新規酵素である
耐熱性トリプトフアナーゼを産生する他に、チロシン含
有培地に於て、約80℃(pH=8.0)に作用至適温度を有
し且つ約80℃(pH=8.0、保持時間20分)までは熱失活
しない熱安定性を示す点で、前述した公知β−チロシナ
ーゼとは全く別異の新規酵素である本発明に称する耐熱
性β−チロシナーゼを産生することを発見した。
従つて、本発明において、チロシン含有合成培地におい
て単独では生育しないが、バチルス・エスピー・S株
(Bacillus sp.strain S)との共生により生育する耐熱
性β−チロシナーゼ生産性桿菌と呼称する新桿菌の菌学
的性質は、上記先の提案においてトリプトフアン含有合
成培地において単独では生育しないが、バチルス・エス
ピー・S株との共生により生育する耐熱性トリプトフア
ナーゼ生産性桿菌と呼称した新桿菌のそれと実質的に同
一であるし、該先の提案において本発明者等の一部の発
明者等によつてバクテリウム・T株(Bacterium strain
T)と命名された桿菌は本発明において利用できる桿菌
である。
本発明者等の研究によれば、本発明において耐熱性β−
チロシナーゼと呼称する該新規チロシナーゼを生産する
新桿菌は、本発明者等の試みたかぎり、公知の如何なる
微生物用培地においても単独では生育しないが、上記バ
チルス・エスピー・S株(Bacillus sp.strain S)との
共存下に、例えば、リン酸塩でpH調節したチロシン含有
又はトリプトフアン含有合成液体培地において、弱い撹
拌条件下もしくは静置条件下で約58〜約63℃の温度で活
発に増殖生育し、酵素活性の強い混合培養物を与えるこ
とが発見された。
更に又、本発明者等の研究によれば、該バチルス・エス
ピー・S株(Bacillus sp.strain S)は、上記先の提案
において、本発明者等の一部の発明者等によつてバチル
ス・エスピー・S株と命名された微生物と同じ微生物で
あつて、胞子を形成するバチルス(Bacillus)属に属
し、一般細菌用培地を用いて純粋培養可能な新菌株であ
り、 (i)′インドール生成(−) (ii)′硝酸還元(−) の生理学的性質を示し、チロシン含有又はトリプトフア
ン含有合成培地において、単独でも、また前記耐熱性β
−チロシナーゼ生産性桿菌又は耐熱性トリプトフアナー
ゼ生産性桿菌との共生条件においても、チロシナーゼ生
産能又はトリプトフアナーゼ生産能を示さない新菌株で
あることがわかつた。
従つて、本発明の目的は新規な耐熱性β−チロシナーゼ
及びその製法を提供するにある。
本発明の上記目的及び更に多くの他の目的ならびに利点
は、以下の記載から一層明らかとなるであろう。
本発明の新規酵素の製造に利用できるチロシン含有合成
培地(又はトリプトフアン含有合成培地)において単独
では生育しないが、バチルス・エスピー・S株(Bacill
us sp.strain S)との共生により生育して、菌体内に耐
熱性β−チロシナーゼ(又は耐熱性トリプトフアナー
ゼ)を生産蓄積する耐熱性桿菌は、温泉、堆肥などの高
温環境由来の土壌試料から分離採取された。
以下、その分離採取法について述べる。
リン酸塩でpH調節したチロシナーゼ誘導培地である後記
するTyr−PEP液体培地に、温泉、堆肥など高温環境由来
の土壌試料を入れ、L型試験管を用いて約60゜〜70℃で
振盪培養を行ない、4−アミノアンチピリン試薬による
フエノール検出によつてフエノールの生成が検出された
試料培養物をβ−チロシナーゼ生産菌として分離する。
斯くて、分離採取できる約60℃で生育する、本発明に於
て、耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌と呼称する桿菌
を、希釈法、更に、バシトラシン(Bacitracin)に対す
る耐性を利用して純化したβ−チロシナーゼ生産菌を得
ることができる。
得られた耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌を、常法に
従つて、寒天固体培養によるコロニー分離を試みたが、
試験したすべての種類の寒天固体培地においてコロニー
形成は認められなかつた。上記β−チロシナーゼ生産菌
の高濃度の懸濁液(1プレート当たり100〜200コ菌体)
を、メンブレン・フイルターをその表面上に貼着したTy
r−PEP寒天培地上に塗布し、約60℃で培養して、コロニ
ーを形成させる。形成されたコロニーについて、4−ア
ミノアンチピリン試薬によるフエノールの生成を検出
し、フエノール生産菌コロニーとフエノール非生産菌コ
ロニーとを分離することができる。
該フエノール生産菌コロニーは、後に詳しく述べるとお
り、細胞の大きさの異なる二種類の桿菌の混合状態のコ
ロニーとして得られ、フエノール非生産菌コロニーは該
二種類の桿菌の一方の桿菌からなるコロニーとして得る
ことができる。
上記のチロシン含有合成培地において単独でも混合状態
でも生育するが、それ自身単独ではβ−チロシナーゼ生
産能を示さない菌株(フエノール非生産菌)は、本発明
者等の一部の発明者等によつて、前記した先の提案にお
いてバチルス・エスピー・S株(Bacillus sp.strain
S)と命名された微生物と実質的に同一の菌学的性質を
有しており、同じ微生物と同定された。又、上述のよう
にして、バチルス・エスピー・S株との混合菌の状態で
分離採取でき、本発明において、チロシン含有合成培地
において単独では生育しないが、上記バチルス・エスピ
ー・S株との共生により生育する耐熱性β−チロシナー
ゼ生産性桿菌と呼称するところの、チロシン含有培地に
おいて菌体内に耐熱性β−チロシナーゼを生産蓄積する
耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌は、本発明者等の一
部の発明者等によつて、前記した先の提案においてバク
テリウム・T株(Bacterium strain T)と命名された微
生物と実質的に同一の菌学的性質を有しており、同じ微
生物と同定された。
上述のようにして高温環境由来の土壌試料からバチルス
・エスピー・S株との混合菌の状態で分離採取できる本
発明において耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌と呼称
する桿菌は、リン酸塩でpH調節したチロシン含有の下記
合成液体培地〔Tyr−PEP液体倍地〕で混合菌の状態で植
継培養を続けることができるし、また、L−乾燥菌体
(混合菌)として保存可能である。なお、下記合成液体
倍地において、L−チロシンをL−トリプトフアンに代
換した倍地が、Trp−PEP液体倍地である。
Tyr−PEP液体培地:− 培地組成 100ml中 L−チロシン 0.2 g ポリペプトン 0.5 g 酵母エキス 0.1 g K2HPO4 0.3 g KH2PO4 0.1 g MgSO4・7H2O 0.05g ピリドキサール5′リン酸 0.05g 培地pHは6.8〜7.0になる。
更に、上述のようにして高温環境由来の土壌試料からバ
チルス・エスピー・S株との混合菌の状態で分離採取で
き、混合菌の状態で植継培養及びL−乾燥保存可能な本
発明において耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌と呼称
するバクテリウム・T株は、たとえば、以下のようにし
て共生するバチルス・エスピー・S株と分離することが
可能である。
(a) バクテリウム・T株とバチルス・エスピー・S
株は、その細胞の大きさの相違を利用して分別遠心分離
の手法を応用して互いに分離可能である。
(b) バクテリウム・T株とバチルス・エスピー・S
株は、そのリゾチーム感受性が相違し、バチルス・エス
ピー・S株の方がより感受性が高いので、その差を利用
して該S株を選択的に溶菌させることができ、それによ
つて混合菌から該T株を分離可能である。
しかしながら、本発明において耐熱性β−チロシナーゼ
生産性桿菌と呼称する桿菌は、本発明者等の試みたかぎ
りの如何なる微生物用天然及び合成培地においても、単
独では生育しないため、その菌学的性質に関しては、形
態上の性質及び生理学的性質中カタラーゼについての性
質以外は試験不可能である。従つて、以下に試験可能な
性質について示す。
バクテリウム・T株(Bacterium strain T) a)形態 細胞の形及び大きさ:−桿菌(太さ0.25〜0.35μm、
長さ1.5〜7μm)。通常、単独。
細胞の多形性の有無:−なし。
運動性の有無:−なし。
胞子の有無:−なし。
グラム染色性:−不定。
b)次の各培地における生育状態 肉汁寒天平板培養:−生育せず。
肉汁寒天斜面培養:−生育せず。
肉汁液体培養:−生育せず。
肉汁ゼラチン穿刺培養:−生育せず。
リトマス・ミルク:−生育せず。
チロシン含有合成培地〔Tyr−PEP液体培地〕:− 単独では生育せず。バチルス・エスピー・S株(微工研
条寄第809号;FERM BP−809)との共生条件下に上記培
地で生育する。
尚、本発明において、チロシン含有合成培地において単
独では生育しないが、バチルス・エスピー・S株との共
生により生育して、菌体内に耐熱性β−チロシナーゼを
生産蓄積するというのは、上記Tyr−PEP液体培地におい
て単独では生育せず、バチルス・エスピー・S株との共
生条件下に該培地で生育して、菌体内に耐熱性β−チロ
シナーゼを生産蓄積することを意味するものと定義され
る。
c)生理学的性質 硝酸塩の還元:−試験不能。但し、バチルス・エスピ
ー・S株との共生条件下においては(+)。
脱窒反応、MRテスト、VPテスト:−いずれも試験
不能。
フエノールの生成:−試験不能。但ち、バチルス・エ
スピー・S株との共生条件下においては(+)。
硫化水素の生成、デンプンの加水分解、クエン酸
の利用、無機窒素源の利用、色素の生成、ウレア
ーゼ、オキシダーゼ:−いずれも試験不能。
カタラーゼ:−(+)。
生育の範囲(pH、温度など)、酸素に対する態度
(好気性、嫌気性の区別など)、O−Fテスト、糖
類からの酸及びガスの生成の有無:−いずれも試験不
能。
d)その他 DNA中のグアニン・シトシン(GC)含量(Tm法)が約6
5mole%。
前記b)のチロシン含有合成培地において、弱い撹
拌条件下もしくは静置条件下において、温度約58゜〜63
℃で、バチルス・エスピー・S株との共生条件下で生育
増殖する。
上記性質を持つ桿菌、すなわち、チロシン含有合成培地
において単独では生育しないが、バチルス・エスピー・
S株との共生により生育して、菌体内に耐熱性β−チロ
シナーゼを生産蓄積する耐熱性β−チロシナーゼ生産性
桿菌は、バージエズ・マニユアル・オブ・デタミナテブ
・バクテリオロジイ(Bergey′s Manual of Determinat
ive Bacterialogy,8 thd)第8版、その他如何なる公知
文献にも完全に未記載の桿菌であつて、本発明者等によ
つて、バクテリウム・T株(Bacterium strain T)と命
名された。本発明者等により初めて分離された該桿菌
は、バチルス・エスピー・S株との混合菌の状態で、工
業技術院微生物工業技術研究所に、微工研条寄第810号
(FERM BP−810)として寄託されている。
更に、本発明の耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌が、
それとの共生条件下でチロシン含有合成培地で生育する
バチルス・エスピー・S株は、胞子を形成するBacillus
属に属する新菌株であつて、一般細菌用培地を用いて純
粋培養が可能である。その菌学的性質を以下に記載す
る。
バチルス・エスピー・S株(Bacillus sp.strain S) a) 形態 細胞の形及び大きさ:−桿菌(太さ0.6〜0.9μm、長
さ2.5〜6.0μm)。通常、単独。
細胞の多形性の有無:−なし。
運動性の有無:(+)。周鞭毛。
胞子の有無:−有り。だ円、1.1×2.0μm、細胞の一
端に内生。
グラム染色性:−陽性。
b) 次の各培地における生育状態 1. 肉汁寒天培地 円滑、無色半透明、光沢あり。
2. 肉汁液体培地 表面発育、白色菌膜を形成。
c) 生理学的性質 1. 硝酸塩の還元:−(+)。
2. MRテスト:−(+)。
3. VPテスト:−(−)。
4. インドールの生成:−(−)。
5. 0.02%NaN3耐性:−(+)。
6. カタラーゼ:−(+)。
7. 5%食塩存在下での生育:−(−)。
8. 生育の範囲:−pH5.7での生育(+)。生育温度66
℃(上限)、40℃(下限)。
9. 酸素に対する態度:−嫌気性生育(+)。
10. デンプン発酵性:−(+)。
11. アラビノース、キシロース発酵性:−(−)。
12. マンニトール発酵性:−(−)。
13. グルコース発酵性:−(+)。ガス生成(−)。
上記c)の8.に記載したように、65℃で生育するところ
から、バチルス・ステアロテルモフイルス(Bacillus s
tearothermophilus)に類似するが、上記9.嫌気性生育
(+)、5.0.02%NaN3耐性(+)及び8.pH5.7での生育
(+)の各試験結果が一致せず、バージエズ・マニユア
ル・オブ・デタミナテブ・バクテリオロジイ第8版によ
り該当する菌株がない。従つて、新菌株と同定され、本
発明者等により、バチルス・エスピー・S株(Bacillus
sp.strain S)と命名された。本発明者等により初めて
分離された該菌株は、工業技術院微生物工業技術研究所
に微工研条寄第809号(FERM BP−809)として寄託され
ている。
本発明によれば、上に詳しくのべた微生物、すなわち、
チロシン含有合成培地において単独では生育しないが、
バチルス・エスピー・S株との共生により生育する耐熱
性β−チロシナーゼ生産性桿菌をチロシン含有培地で培
養し、培養物から耐熱性β−チロシナーゼを採取するこ
とからなる耐熱性β−チロシナーゼの製法が提供でき
る。
培養は、たとえば、L−チロシンのほかに、適当な炭素
源、窒素源、ミネラル類を含有する培地において、例え
ば、バチルス・エスピー・S株との共生条件下に耐熱性
β−チロシナーゼ生産性桿菌を接種して行なうことがで
きる。利用する炭素源の例としては、グルコース、デン
プン、マルトース、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウ
ムなどの如き炭素源を例示でき、また窒素の例として
は、NH4Cl、(NH42SO4、カザミノ酸、ペプトン、酵母
エキスなどの如き有機もしくは無機窒素源を例示するこ
とができる。更に、ミネラル類の例としては、K2HPO4
KH2PO4、MgSO4・7H2O、FeCl3、ビタミン類などを例示す
ることができる。
培養は、たとえば、上記例示の如き炭素源、窒素源、さ
らにはミネラル及びビタミン類のほかに、L−チロシン
を含有する液体培地を用いて、好気的に行なうことがで
きる。培養方式も適宜に選択できるが、たとえば静置培
養、振盪培養、通気撹拌培養などの培養方式を採用して
行なうことができる。培養条件としては、pH約6〜約8
の如きpH条件下、約55〜約65℃の温度条件において、約
1〜約3日の如き条件を例示することができる。
培養終了後、例えば、遠心分離、別などによつて菌体
を採取し、たとえば、菌体を破砕たとえばアルミナ摩砕
などによつて破砕して、得られる菌体抽出液から、たと
えば硫安分画法により分画して耐熱性β−チロシナーゼ
含有分画を採取することにより、目的とする耐熱性β−
チロシナーゼを分離取得することができる。更に、たと
えばイオン交換、ゲル過、カラムクロマトグラフイー
の如き適当な精製手法を用いて精製することができる。
上述のようにして製造できる本発明の耐熱性β−チロシ
ナーゼは、約80℃(pH=8.0)に作用至適温度を有し、
且つ約80℃(pH=8.0、保持時間20分)までは熱失活し
ない耐熱特性を有するβ−チロシナーゼである点で、従
来公知のβ−チロシナーゼと明確に区別できる新規酵素
である。
以下に、本発明耐熱性β−チロシナーゼの性質を示す。
1. 作用:− ピリドキサールリン酸の関与のもとに、L−チロシンか
らピルビン酸、フエノール及びアンモニアを生成する。
2. 基質特異性:− チロシンを分解する。
3. 至適pH及び安定pH:− 至適pH=約7(65℃)〔第1図参照〕 安定pH=6〜11(25℃,2日間〔第2図参照〕 添付図面第1図は、(1)50mMのリン酸カリウム緩衝液 及び(2)50mMのグリシン−NaOH緩衝液 の各々を用い、各pH(65℃におけるpH)条件下に、本発
明酵素のβ−チロシナーゼ活性を測定した結果を示す図
である。至適pHは上記(1)及び(2)の結果から約7
(65℃)と決定される。
添付図面第2図は、10mMのKCl及び10μMのピリドキサ
ール5′−リン酸を含有する50mMの各種緩衝液(図中、
クエン酸−Na2HPO4緩衝液 K2HPO4−KH2PO4緩衝液 Tris−HCl緩衝液 グリシン−NaOH緩衝液 のそれぞれを用い、各pH(25℃におけるpH)条件下に、
25℃で2日間、本発明酵素を処理した後の残存β−チロ
シナーゼ活性を測定した結果を示す図である−この結果
から安定pH範囲6〜11(25℃,2日間)と決定される。
4. 力価の測定法:− 山田ら(京大)の方法に準じた。すなわち、L−チロシ
ン10μmole、ピリドキサール・リン酸(PLP)0.4μmol
e、K2HPO4−KH2PO4(pH8.0)200μmole及び酵素を含む
反応液4.0mlを用い、70℃で20分間反応後、30%トリク
ロロ酢酸(TCA)水溶液1.0mlを加えて反応を停止する。
反応系中に生成したピルビン酸を、フリードマン−ハウ
ゲン(Friedemann−Haugen)法〔ジヤーナル・オブ・バ
イオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological
Chemistry)147巻,415,1943年〕により定量決定する。
活性は1分間に生成するフエノールのμmole数を1U(μ
moles/min)として表わす。
5. 作用適温の範囲:− チロシン分解活性の至適温度(作用至適温度)は、約80
℃(pH=8.0)である〔第3図参照〕。
添付図面第3図は、各測定温度におけるpHを8.0となる
ように調製した50mMのK2HPO4−KH2PO4緩衝液(pH8.0)
中で、10分間酵素反応を行わせることにより、β−チロ
シナーゼ活性を求めた結果を示す図である。この結果か
ら至適温度約80℃(pH=8.0)と決定される。
6. pH、温度などによる失活の条件:− 約80℃(pH=8.0、保持時間20分)までは熱失活しない
〔添付第4図参照〕。
約85℃(pH=8.0、保持時間20分)で約75%の残存活性
を示す〔添付第4図参照〕。
7. 精製方法:− トリプトフアナーゼ誘導培地で培養した菌体をアルミナ
磨砕し、PLP10μM、2−メルカプトエタノール1mMを含
むK2HPO4−KH2PO450mMの緩衝液(pH8.0)で、50%飽和
硫安溶液を用いて分画し、沈殿を懸濁、透析後、DEAE−
トヨパール、ハイドロキシルアパタイトHT及びセフアク
リルS−300を用いて精製する。
8. 分子量 約46,000(SDSゲル電気泳動による)、 第210,000(セフアクリルS−300、 35℃でのゲル過による)。
本発明の耐熱性β−チロシナーゼは、従来公知のβ−チ
ロシナーゼとは異つて、優れた耐熱特性を有するため、
公知β−チロシナーゼがその利用に際して反応温度や熱
安定性などの面での利用に著るしい制約を受けた技術的
難点が克服でき、工業的に有利に利用することができ
る。
以下、実施例により本発明の数態様について更に詳しく
説明する。
参考例1〔耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌バクテリ
ウム・T株の分離採取。〕 (1−1) 堆肥試料1gをTyr−PEP液体培地10mlに添加
し、L型試験管中で約60℃において1日間振盪培養し
た。4−アミノアンチピリン試薬によりフエノール生成
を確認した後、その一部0.1mlを新たなTyr−PEP液体培
地10mlに接種して同様な培養を繰り返すことにより、フ
エノール生成菌群が充分に生育した培養物を得た。この
培養物0.1mlをバシトラシン1mg/を含有するTyr−PEP
液体培地10mlに接種して、さらに上記と同様な培養を行
つた。
斯くして得られた培養液を滅菌生理食塩水を用いて約10
万倍に希釈したのち、その0.1mlをメンブラン・フイル
ター(Toyo TM−2)を貼着したTyr−PEP寒天培地(寒
天1.5%添加)に塗布することにより、バクテリウム・
T株〔以下において、T株と略記することがある〕及び
バチルス・エスピー・S株〔以下において、S株と略記
することがある〕が混合状態で生育しているコロニーと
S株の単独よりなるコロニーを分離採収した。
(1−2) 上記(1−1)により得られたT株とS株
の混合したコロニーより得られた混合培養物1mlを、チ
ロシン含有合成培地(Tyr−PEP液体培地)200mlに接種
し、60℃で約30時間培養を行うと、約4時間後にまずS
株の活発な増殖が起こり、次いで、S株の増殖停止とほ
ぼ同時に、T株増殖が始まり、それと同時にS株は急速
に死滅し、最終的には菌数の99%以上がT株である培養
を得ることができた。さらにS株の混入率を低下させ、
実質的なT株の純粋培養物を作るためには、T株とS株
の細胞壁分解酵素(リゾチーム)に対する耐性の差を利
用する方法、または分別遠心分離法を用いて、培養のど
の段階でもT株を分離することが可能であつた。
細胞壁分解酵素(リゾチーム)を用いる方法。
上記のT株とS株の混合培養を18時間行い、下記の条件
でリゾチームを作用させると、その時点で約25%存在し
たS株が選択的に溶菌して全菌数の千分の一以下に減少
し、T株の純粋培養を得ることができた。
条件:− 100mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中、 卵白リヂチーム 300μg/ml EDTA 200μg/ml クエン酸ナトリウム 30 mg/ml の反応液を用い35℃で15分間反応させる。
分別遠心分離による方法。
上記のT株とS株の混合培養を20時間行つた培養物を、
1,000xg、15分間の条件で遠心分離することによりS株
を選択的に沈殿させ、改めて、14,000xg、20分間の条件
で遠心分離することによりT株のみを沈殿分離できた。
参考例2〔T株の単独培養が不可能であることの例
証。〕 (2−1) T株とS株の混合培養から参考例1の(1
−2)に示した方法で分離したT株を、下記液体培地に
植菌し、60℃で培養を行つたが、いずれの培地でもT株
の生育は全く認められなかつた。
1. Tyr−PEP液体培地 2. 普通ブイヨン培地 3. ハートインフユージヨンブイヨン 4. 牛血清+ハートインフユージヨンブイヨン 5. 酵母エキス+ハートインフユージヨンブイヨン 6. 0.5%寒天を含有する上記1−5までの各培地 (2−2) S株の菌体生産物または菌体成分がT株の
生育を支持する可能性を検証するために、S菌のみをTy
r−PEP液体培地に接種し、60℃約12時間培養した後、そ
の培養上清及び菌体超音波破砕抽出液を調製し、それら
を無菌過した後、Tyr−PEP液体培地に添加し、これに
純粋分離したT株を接種したが、T株の増殖は全く認め
られなかつた。また、ストレプトマイシンにより細胞分
裂を止めたS株菌体を共存させてT株の培養を試みた
が、増殖は全く認められなかつた。
実施例1〔酵素生産。〕 5三角フラスコにチロシン含有合成培地(Tyr−PEP液
体培地)を1.5入れ、T株及びS株の混合培養を5ml植
菌し、60℃で30時間静置培養を行つたのち、参考例1に
示すと同様に処理して50の培養液から、51gのT株湿
菌体を得た。これを酸化アルミニウムにより摩砕し、次
いで、下記 10μMのピリドキサール5′−リン酸(PLP)、 1mMの2−メルカプトエタノール、 250μMのPMSF(セリンプロテアーゼ阻害剤)〔フエニ
ルメチルスルホニルフルオライド(Phenyl methyl sluf
onyl fluoride)〕、 50mMのK2HPO4−KH2PO4緩衝液、pH6.5、 の組成の精製用緩衝液182mlを添加することにより、可
溶画分として粗酵素液を得た。これから30〜80%飽和硫
安分画を集め、得られた粗酵素分画液をストレプトマイ
シンによる除核酸処理に賦したのち透析し、DEAE−トヨ
パール(東洋曹達工業製品)カラム(2.6cm(径)×12c
m)に吸着させ、0→400mM KCl濃度勾配(400ml)で溶
出処理して活性画分を集め、次いでハイドロキシルアパ
タイトゲルHT(バイオラツド社製品)カラム(2.6cm×8
cm)に吸着させ、0〜600mM(NH42SO4濃度勾配(300m
l)で溶出を行い、活性画分からβ−チロシナーゼ約2mg
を得た。
本酵素は約80℃(pH=8.0)に作用至適温度を有し且つ
約80℃(pH=8.0、保持時間20分)までは熱失活しない
耐熱特性を示した。また、本酵素のトリプトフアン分解
の比活性は市販品(37℃)の8倍以上あり、逆反応によ
るインドール、ピルビン酸、アンモニアよりのトリプト
フアン合成活性も検出された。
【図面の簡単な説明】
添付図面第1図は本発明の耐熱性β−チロシナーゼの至
適pHを示すグラフ、第2図は本発明耐熱性β−チロシナ
ーゼの安定pHを示すための各種緩衝液における残存β−
チロシナーゼ活性とpHの関係を示すグラフ、第3図は本
発明の耐熱性β−チロシナーゼの至適温度を示すグラ
フ、そして第4図は本発明の耐熱性β−チロシナーゼの
熱失活特性を示すグラフである。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】(イ) 作用 ピリドキサールリン酸の関与のもとに、L−チロシンか
    らピルビン酸、フエノール及びアンモニアを生成する、 (ロ) 基質特異性 チロシンを分解する、 (ハ) 至適pH及び安定pH範囲 65℃における至適pHが約7〜7.5であり、そして25℃に
    おける安定pHが6〜11である、 (ニ) 作用至適温度 pH8.0において約80℃に作用至適温度を示す、並びに (ホ) 分子量 SDSゲル電気泳動により測定した場合に約46,000である の特性を有することを特徴とする耐熱性β−チロシナー
    ゼ。
  2. 【請求項2】チロシン含有合成培地において単独では生
    育しないが、バチルス・エスピー・S株(Bacillus sp.
    strain S)との共生により生育する耐熱性β−チロシナ
    ーゼ生産性桿菌をチロシン含有培地で培養し、培養物か
    ら (イ) 作用 ピリドキサールリン酸の関与のもとに、L−チロシンか
    らピルビン酸、フエノール及びアンモニアを生成する、 (ロ) 基質特異性 チロシンを分解する、 (ハ) 至適pH及び安定pH範囲 65℃における至適pHが約7〜7.5であり、そして25℃に
    おける安定pHが6〜11である、 (ニ) 作用至適温度 pH8.0において約80℃に作用至適温度を示す、並びに (ホ) 分子量 SDSゲル電気泳動により測定した場合に約46,000である の特性を有する耐熱性β−チロシナーゼを採取すること
    を特徴とする前記耐熱性β−チロシナーゼの製法。
  3. 【請求項3】該耐熱性β−チロシナーゼ生産性桿菌がバ
    クテリウム・T株(Bacterium strain T)(微工研条寄
    第810号)である特許請求の範囲第2項記載の製法。
  4. 【請求項4】該バチルス・エスピー・S株(Bacillus s
    p.strain S)がバチルス・エスピー・S株(微工研条寄
    第809号)である特許請求の範囲第2項記載の製法。
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