JPH0686898B2 - 車両用ｖベルト式自動無段変速機 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 この発明はスクータ等の車両に使用されるＶベルト式自
動無段変速機に関するものであり、エンジン回転速度に
対するその応答特性を走行中に切換えることができ、こ
れによって高負荷走行中のエンジンの馬力特性を向上さ
せることができるものである。

〔従来技術〕

スクータ等の軽負荷車両用の簡便な自動無段変速機とし
てＶベルト式自動無段変速機が従来から利用されてい
る。このものは駆動可変Ｖプーリに遠心装置が設けられ
ており、これによってＶベルト伝動装置が自動クラッチ
機能と自動無段変速機とを有するものである。この従来
の概略を第１図を参酌しつつ説明すると次のとおりであ
る。

エンジン13のクランク軸21に設けた駆動プーリ23と減速
歯車伝動装置19の入力軸、すなわち従動軸15の従動プー
リ33とにＶベルト31を巻き掛けてＶベルト伝動装置を構
成し、その駆動プーリ23は円錐状の支持板25と重り27と
からなる遠心装置Ｇを有し、従動プーリ33の一方の円盤
（固定盤33a）は従動軸15に固定されているが、他方の
円盤（摺動盤33b）は従動軸の軸方向に摺動可能であ
り、当該摺動盤33bが付勢ばねによって上記固定盤33aに
向かって付勢されている。そして、Ｖベルトは上記遠心
装置Ｇの付勢力によって駆動プーリの半径方向外方に押
し出され、その結果該Ｖベルトは従動プーリの半径方向
内方に引き込まれるようになる。他方、Ｖベルトは付勢
ばねの付勢力によって従動プーリ33の半径方向外方に押
し出され、その結果駆動プーリの半径方向内方に引き込
まれるようになる。

エンジンの回転速度が極低速（アイドリング）であると
きは、駆動プーリ23の摺動盤23bに対する遠心装置Ｇに
よる軸方向の押し出し力は極めて小さいので、Ｖベルト
31は駆動プーリ23に対してスリップし、従動プーリ33は
駆動されない。エンジンの回転速度が上昇するに連れて
伝動が開始され、遠心装置Ｇによって摺動盤23bが強く
押されるとＶベルト31は駆動プーリ23の半径方向外方に
押される方向の力を受け、反対にＶベルトは従動プーリ
33の摺動盤に対する付勢ばねの押し力により従動プーリ
の半径方向外方に押し出される方向の力を受ける。Ｖベ
ルトに対するこの相反する二つの作用力がバランスする
位置でＶベルトを介して駆動プーリと従動プーリ間で減
速伝動がなされ、エンジン回転速度に比例して減速比が
変化し、エンジン回転速度が増すに連れて従動軸15の回
転速度が加速的に増大する。すなわち、エンジン回転速
度が高くなるに連れて従動プーリの上記付勢ばねに抗し
て従動プーリのピッチ円径を小さくしながら駆動プーリ
のピッチ円径が増大し、従動軸が加速的に増速される。
反対にエンジンの回転速度が低下すると、上記遠心装置
Ｇによる押し力に抗して駆動プーリのピッチ円径を小さ
くさせながら上記付勢ばねによって従動プーリのピッチ
円径が大きくなり従動軸が加速的に減速される。したが
って、上記付勢ばねのばね定数が小さいほど従動軸の回
転速度は速やかに高くなり、ばね定数が大きいほど従動
軸の回転速度は緩やかに高くなる。この従動軸の高速度
化に反比例して従動軸の駆動トルクが減少する。

エンジン回転速度とこのＶベルト式自動無段変速機の変
速比との比例関係、すなわちこのＶベルト式自動無段変
速機のエンジン回転速度の変化に対する応答特性は従動
プーリの上記付勢ばねのばね特性によって決まる。この
付勢ばねの初期設定値を調整することによって伝動比が
変化し始める回転速度を調整することはできるが、上記
の応答特性は付勢ばねのばね定数によって決まるのでこ
れを調整することはできない。

車両は平坦な路面を走行するときと、急な坂道を登坂走
行するときとでは、本来要求される応答特性は異なる
が、上記応答特性を走行中に変更することはできないの
で、平坦な路面の走行に適した応答特性と登坂走行に適
した応答特性とのほぼ中間の応答特性を持つように従動
プーリの付勢ばねのばね定数を選定しているのが現状で
ある。すなわち、従来はやむを得ずに平坦な路面走行に
対しても、また登坂走行に対しても対応できる中間的な
応答特性にしてあり、このために平坦な路面対しても、
また登坂走行に対しても必ずしも最適でない応答特性に
せざるを得ないのである。

〔本発明の課題〕

本発明は上記従来技術の問題の解消をその目的とし、そ
のために上記従動プーリの付勢ばねのばね定数を走行中
に手元レバーを操作することによって簡単、容易に切換
えることができるようにすることをその課題とするもの
である。

〔課題解決のために講じた手段〕

上記課題解決のために講じた手段は、上記従来技術を前
提として、次の要素（イ）乃至（ニ）によって構成され
るものである。

（イ）上記従動プーリの付勢ばねを摺動部材を介して直
列に配列した複数のばねによって構成したこと、 （ロ）所定の軸方向位置において上記摺動部材をロック
した上記付勢ばねのばね定数を変換するため、従動軸の
軸孔に設けた蓄力ばねと戻しばね間に制御部材を設け、
該蓄力ばねを介して制御ロッドにより制御部材を摺動し
ロック部材を作動して上記摺動部材をロックするロック
機構を従動軸に設けたこと、 （ハ）上記ロック機構の制御部材を上記制御ロッドを操
作する操作ワイヤを介して操作部材によって操作可能に
したこと、 （ニ）上記操作部材の切換え操作によって上記制御部材
をその戻しばねに抗してロック位置にシフトさせ、操作
部材の操作を解除することによって上記制御部材がロッ
ク解除位置に復帰するようにしたこと。

〔作用〕

直列に配列されたばねによって構成される付勢ばね全体
のばね定数は個々のばねのばね定数よりも小さい。例え
ば二つのばねによって構成され、この二つのばねが同じ
ばね定数を有するものであるときは付勢ばね全体のばね
定数は個々のばね定数の1/2である。したがって、上記
摺動部材が摺動自在のときは、この二つのばねが共に働
いているので、エンジンの回転速度が高くなるに連れて
速やかに従動軸の回転速度が増大（すぐに最小減速比に
達する）、速やかに低トルク、高速走行状態になる。こ
の状態では二つのばねの間に介在する上記摺動部材が付
勢ばねの伸縮に連れて左右に摺動する。しかし操作部材
によって上記制御部材をシフトさせ、これによって上記
ロック機構によって上記摺動部材をロックすると、上記
二つのばねのうち一つ、すなわち、上記摺動部材と従動
プーリの摺動盤との間に介在するばねだけが付勢ばねと
して機能するようになるので、付勢ばねのばね定数が大
きくなり、エンジン回転速度が高くなるに連れて従動軸
の回転速度が緩やかに増大し、（エンジン回転速度が比
較的高い時点で最小限速比に達する）登坂路面での高い
トルク走行に適した変速特性を示す。すなわち、エンジ
ン回転速度の変化に対するＶベルト式自動無段変速機の
応答特性が上記操作部材によって二段階に切換えられ
る。この切換えの前後でエンジン回転速度と従動軸の回
転速度のと比が切換わるので、切換え後は全く異なる応
答特性の無段変速装置として機能することになり、登坂
走行中に操作部材を操作すると車輪は高トルクで駆動さ
れ、登坂能力が格段に向上する。

〔実施例〕

次いで図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。た
だし、変速装置全体の機構の説明は上記〔従来技術〕の
項において説明したとおりであるので、ここではその説
明を省略し、本発明の要部に関する機構の説明に止め
る。

従動軸15に嵌合、固定したスリーブ29に従動プーリ33の
固定盤33aを固着し、スリーブ29に摺動盤33bを摺動自在
に嵌合されている。この摺動盤33bにばねケース35の一
端を固着し、ばねケース35の他端を端板35bに固着して
いる。この端板35bは上記スリーブ29の端部外周面のス
プライン37にスプライン嵌合しているので、摺動盤33b
は端板35bおよびばねケース35と共に従動軸15に固定さ
れたスリーブ29に対して軸方向に摺動自在である。スリ
ーブ29に摺動自在に嵌合された摺動部材41の中央外周に
設けた環状フランジ43を挟んで同じサイズのばね47、49
が直列に配列されており、その一方のばね49の一端はス
リーブ29に固定された支持板29aによって支持されてい
る。したがって、二つのばね47、49から構成される付勢
ばね39によって摺動盤33bが固定盤33aに向かって押され
ている。

スリーブ29の半径方向孔と従動軸15の半径方向のボール
保持孔53にロックボール65を嵌合、保持させ、このロッ
クボール65を円筒状の制御部材59によって半径方向内方
から支えている。制御部材59は小径部59aと大径部59bと
を有し、小径部59aと大径部59bとの間に幅の狭いテーパ
部59cが設けられていて、この制御部材は従動軸の軸孔5
1に摺動自在に嵌合されている。

上記制御部材59は軸孔51に挿入された戻しばね55と蓄力
ばね63とによって挟まれていて、軸孔51に挿入された制
御ロッド61によって、戻しばね55に抗して蓄力ばね63を
介して右方に押される（第２図参照）。制御部材59が右
方に押されたとき、その大径部59aによってロックボー
ル65が半径方向外方に押し出され、摺動部材41内面の環
状溝45に係合して摺動部材を従動軸に固定する。これに
よって摺動部材41はその軸方向への摺動をロック（ある
いは阻止）される。制御部材59が戻しばね55によって左
方に戻されたとき、その小径部59bが従動軸15のボール
保持孔53に一致するので、ロックボール65が半径方向内
方に移動して摺動部材41の環状溝45から外れる。したが
って、この状態において摺動部材41は軸方向に摺動する
ことができるようになる。

変速機のケーシング11の端部67に回動軸71が回転自在に
支持されており、この回動軸71に押圧レバー69が固定さ
れている。操向ハンドル75に設けた操作レバー73をボー
デンワイヤ77を介して回動軸71のアーム71aに連結させ
ている。

通常は制御ロッド61が左方に押し出されているが、操作
レバー73を把持すると回動軸71および押圧レバー69が第
２図において反時計方向に回り、制御ロッド61を右方に
押す。これにより蓄力ばね63が圧縮され、制御部材59が
戻しばね55に抗して第２図に示す位置まで押され、ロッ
クボール65によって摺動部材41がロックされる。

操作レバー73を開放すると戻しばね55によって制御部材
59が左方に押し戻され、摺動部材41に対する上記ロック
が解除される。

摺動部材41に対するロックが解除されているときは、ば
ね47とばね49が共に機能するので付勢ばね39全体のばね
定数は比較的小さい。したがって、従動プーリ33の摺動
盤33bが比較的小さいＶベルト31の張力によって左方に
移動されて従動プーリ33のピッチ円径が小さくなる。反
対に摺動部材41がロックボール65によってロックされた
状態ではばね49が殺され、ばね47だけが付勢ばねとして
機能するので、付勢ばね39全体のばね定数が大きくな
る。したがって、この状態では従動プーリ33の摺動盤33
bは比較的大きいＶベルト31の張力によって左方に移動
され、従動プーリ33のピッチ円径が小さくなる。

したがって、前者の場合はエンジンの回転速度に対する
変速応答性が高く、従動軸15は比較的高速、低トルクで
駆動されることになり、後者の場合はエンジンの回転速
度に対する変速応答性が低く、従動軸15は比較的低速、
高トルクで駆動されることになる。

この実施例においては、付勢ばね39が最も伸びてその付
勢力が最も小さいとき、すなわち、従動プーリ33の摺動
盤33bが最も右側に位置しているとき、摺動部材41の内
面の環状溝45がロックボール65の位置に合致し、この位
置でロックボール65が上記環状溝に係合して摺動部材を
その位置にロックするので、付勢ばねのばね特性は減速
比が最大の時点で二段階に切換えられることになる。し
たがって、走行中に切換える場合は、操作レバー73を把
持して蓄力ばね63を圧縮した状態で、エンジンスロット
ルを絞ってエンジン回転速度を低下させればエンジンの
回転速度の低下に伴って摺動部材41が図示の位置に戻る
ので、この時点でロックボールが摺動部材41の環状溝45
に係合して摺動部材をロックすることになる。操作レバ
ーを開放するとその瞬間に上記ロックが解除され、付勢
ばね39全体のばね定数が低下し、上記応答特性はもとに
戻る。それゆえ、走行中に操作レバー73を把持し、ある
いは開放することによってエンジンの回転速度に対する
変速応答性を簡単、容易に切換えることができる。

従動軸15の半径方向のボール保持孔53の位置を図示の位
置よりも左方向にずらして設けると、図示の実施例より
もエンジン回転速度が高い時点で、上記の切換えが行わ
れることになるので、このボール保持孔53の位置の選択
によってこの切換え時点の選択を行うことができる。こ
の切換え時点をどのようなものにするかの選択は車両の
種類、走行特性等に応じて適宜行えばよい。なお、符号
17は後輪軸、23aはクランク軸に固定した駆動プーリの
固定盤である。

〔発明の効果〕

前記の本発明の課題を解決した発明、考案は公知ではな
い。したがって、前記課題を解決して従来技術の問題を
解消したこと自体が本発明特有の効果である。

すなわち、エンジンの回転速度に対するＶベルト式無段
変速機のエンジン回転速度の変化に対する応答特性を走
行中に手元の操作部材によって簡単、容易に切換えるこ
とができ、平坦路面走行、登坂路面走行に応じてエンジ
ン回転速度と従動軸の回転速度との比を切換えることが
できる。これによって上記切換え前後は無段変速装置の
変速特性が全く異なるものになるので、登坂能力を格段
に向上させることができ、また、平坦路走行および登坂
路走行中においてその馬力特性が最も好ましいエンジン
特性領域でエンジンを活用することができる。

また、前記従来技術の付勢ばねの初期荷重の設定を調整
し、あるいは従動プーリの摺動盤の戻り位置およびその
摺動可能範囲を調整して、Ｖベルト式無段変速機の特性
を作業機の種類、作業機の使用条件に応じて変更するこ
とが実公昭36−16909号公報に記載されている。このも
のは基本的には前記従来技術の付勢ばねの初期設定値、
変速機の変速可能範囲の設定を調整可能にすると言うも
のであるから、この限りにおいては有効なものである
が、平坦路走行、登坂路走行の切換わりに応じて車両用
Ｖベルト式変速機の変速特性（あるいはエンジン回転速
度に対する変速応答特性）を走行中に手元レバーで簡
単、容易に切換えるようにするという本発明の課題を解
決し得たものではない。しかし、この公知の考案と本発
明とを組み合わせれば、付勢ばねのばね荷重の初期値設
定、変速可能な範囲の初期設定を調整自在にし、その上
でさらに走行中に手元レバーの操作によってその変速特
性を変更できるので、耕運機等の作業機、スクータ等の
路面走行車両、各種運搬車両等における駆動特性に関す
る広範囲の要求に十分対応することができる。

【図面の簡単な説明】

第１図は本発明の実施例の断面図、第２図は第１図のＡ
の部拡大断面図、第３図は同実施例の操作部の斜視図で
ある。 13……エンジン、21……クランク軸、23……駆動プー
リ、31……Ｖベルト、33……従動プーリ、35……ばねケ
ース、39……付勢ばね、41……摺動部材、47、49……ば
ね、55……戻しばね、59……制御部材、 61……制御ロッド、63……蓄力ばね、65……ロックボー
ル、73……操作レバー、77……ボーデンワイヤ、 Ｇ……遠心装置、

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】エンジンのクランク軸に設けた駆動プーリ
   と減速歯車伝動装置の入力軸、すなわち従動軸の従動プ
   ーリとにＶベルトを巻き掛けてＶベルト伝動装置を構成
   し、その駆動プーリが遠心装置Ｇを有し、従動プーリの
   一方の円盤（固定盤）が従動軸に固定されており、他方
   の円盤（摺動盤）が従動軸の軸方向に摺動可能であり、
   当該摺動盤が付勢ばねによって上記固定盤に向かって付
   勢されている車両用Ｖベルト式自動無段変速機におい
   て、 上記従動プーリの付勢ばねを摺動部材を介して直列に配
   列した複数のばねによって構成し、 所定の軸方向位置において上記摺動部材をロックし上記
   付勢ばねのばね定数を変換するため、従動軸の軸孔に設
   けた蓄力ばねと戻しばね間に制御部材を設け、該蓄力ば
   ねを介して制御ロッドにより制御部材を摺動しロック部
   材を作動して上記摺動部材をロックするロック機構を従
   動軸に設け、上記ロック機構の制御部材を上記制御ロッ
   ドを操作する操作ワイヤを介して操作部材によって操作
   可能にし、 上記操作部材の切換え操作によって上記制御部材をその
   戻しばねに抗してロック位置にシフトさせ、操作部材の
   操作を解除することによって上記制御部材がロック解除
   位置に復帰するようにした車両用Ｖベルト式自動無段変
   速機。