JPH06113822A - パン酵母の培養方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 パン酵母を効率よく増殖させ、しかも菌体収
率を向上させることの可能な培養方法を提供すること。 【構成】 培養液中の溶存酸素濃度をコントロールして
行うパン酵母の培養に際し、培養前半においては酸素供
給を十分に行うとともに、炭素源は好気的醗酵を最小限
に抑えるようにアルコール制御またはＲＱ制御により培
養液への添加を行い、培養後半においては添加する酸素
源、炭素源、窒素源、およびリン酸源の各栄養源のうち
少なくとも１つ以上の栄養源を、各栄養源の培養時にお
ける最大摂取速度以下で添加して培養する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、パン酵母の培養方法に
関するものであり、更に詳しくはパン酵母の生産量を増
大させ、かつパン酵母を効率よく増殖させて菌体収率を
向上させる培養方法に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】パン酵母を効率よく増殖させるために
は、一般に酸素供給を十分に行い、酸化的代謝過程であ
る呼吸を行わせる。また、パン酵母は培養液中の糖濃度
が高いと好気条件下でもアルコール醗酵を行い、そのた
め菌体の対糖収率が低下することが知られている。そこ
で、このアルコール醗酵を最小に抑制してパン酵母の増
殖を効率よく行わせる方法として、パン酵母の増殖に合
わせて糖の流加を行う流加培養が古くから行われてお
り、これにより糖の過剰添加を避け収率を上げている。
また近年、培養液もしくは廃ガス中のアルコール濃度を
連続的に検出し、基質の添加量をコントロールするアル
コール制御法、またはＲＱ制御法等が知られている。更
に、特開昭６２−２２８２７０号公報には、原料水、培
地、培養液、通気空気のいずれか１つ以上を磁力処理す
ることを特徴とするパン酵母の増収法が開示されてい
る。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明
者らの研究によれば、上記のいずれの方法においても、
酸素供給を十分に行い、更に他の栄養源も十分に与えて
培養を行った場合には、対糖収率が低下することが判明
した。そこで、本発明は、パン酵母の培養において、効
率よく菌体を増殖させ、しかも菌体収率を向上させるこ
とが可能な培養方法を提供することを目的とするもので
ある。

【０００４】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに鋭意研究した結果、前記のようにパン酵母の培養に
おいて酸素供給を十分に行い、更に他の栄養源も十分に
与えて培養を行った場合に対糖収率が低下する原因とし
て、酸素十分条件下で炭素源をアルコール制御法または
ＲＱ制御法により添加すると、維持代謝に用いられる炭
素源（エネルギー源）の割合が増加し、収率が低下する
ことが判明した。そこで、本発明者らは、このような状
態において維持代謝エネルギーを低下させ、収率を向上
させるためには、増殖に重要な因子である炭素源、酸素
源、窒素源、またはリン酸源の各栄養源のうち、少なく
とも１つ以上の栄養源を、菌体増殖の律速因子となるよ
うに制限すればよいことを知見し、本発明を完成するに
至った。

【０００５】即ち、本発明は、培養液中の溶存酸素濃度
をコントロールして行うパン酵母の培養に際し、添加す
る酸素源、炭素源、窒素源、およびリン酸源の各栄養源
のうち少なくとも１つ以上の栄養源を、各栄養源の培養
時における最大摂取速度以下で添加して培養することを
特徴とするパン酵母の培養方法である。

【０００６】本発明において栄養源の最大摂取速度と
は、温度、ＰＨ一定で培養液中の溶存酸素濃度が２〜５
ｐｐｍとなるように酸素分圧を制御した条件下で、窒素
源、リン酸源を含む基礎培地に、糖蜜を培養液中のエタ
ノール濃度が５００〜１０００ｐｐｍとなるように流加
を行った培養により得られる各栄養源の摂取速度であ
る。従って、この栄養源の最大摂取速度は、培養温度、
ＰＨにより変化する。

【０００７】本発明において、添加する栄養源の制限を
行う時期、および期間は特に制限はないが、通常、培養
後半の適当な時期に、全培養時間の１０％以上、好まし
くは２５％以上の期間制限することが望ましい。

【０００８】また、添加する栄養源の制限を行う程度も
特に制限はなく、通常、最大摂取速度の１０〜９０％で
あればよいが、あまりに制限しすぎると菌体の増殖速度
の低下をもたらす結果となるので、増殖速度をあまり低
下させずに高い菌体生産性を達成するため、好ましくは
最大摂取速度の６０〜９０％の摂取速度となるように制
限することが望ましい。

【０００９】そして、本発明による具体的な培養方法と
しては、培養前半においては酸素供給を十分に行い、炭
素源は好気的醗酵を最小限に抑えるようにアルコール制
御またはＲＱ制御により培養液への添加を行い、培養後
半において、炭素源、酸素源、窒素源またはリン酸源の
うち少なくとも１つ以上の栄養源の添加量を、それぞれ
の栄養源の最大摂取速度以下となるように制限すること
により、菌体収率を向上させてパン酵母を培養すること
ができる。

【００１０】

【実施例】次に、本発明の実施例を挙げて更に詳細に説
明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるも
のではない。

【００１１】通気攪拌装置を備えた５Ｌ容ジャーファー
メンター（丸菱バイオエンジ製，型式ＭＤ３００）を用
いて以下に示す条件においてパン酵母を培養した。

【００１２】（基本条件） 菌 体 ： 市販パン酵母 種 母 ： ５０ｇ（生酵母） 仕込水 ： １．５リットル 通 気 ： ２．５リットル／分（溶存酸素濃度２〜５
ppm となるように酸素分圧を制御） 攪 拌 ： ９００rpm ＰＨ ： ４．７（アンモニア水にて調整） 温 度 ： ３０℃ 栄養源 ： 尿素、硫酸アンモニウム、リン酸を含む基
礎培地に、殺菌、清澄化した糖蜜を培養液中エタノール
濃度 500〜1000ppm となるように流加した。 培養時間： １６時間

【００１３】（酸素制限培養）前記の基本条件におい
て、培養１２時間経過後、通気中の酸素含有気体の酸素
分圧を基本条件の７０％に制限し、以後４時間培養を行
った。

【００１４】（糖制限培養）前記の基本条件において、
培養１２時間経過後、エタノール制御による糖添加を解
除し、添加糖量を基本条件で添加された糖量の３／４に
制限し、以後４時間、毎時添加することにより培養を行
った。

【００１５】それぞれの培養結果を、パン酵母の総菌体
量、対糖収率で表１に示した。

【００１６】

【表１】

【００１７】表１の結果から明らかなように、栄養源の
制御を行って培養することにより、総菌体量、対糖収率
が向上することが分かる。

【００１８】

【発明の効果】以上のように、本発明によれば、培養液
中の溶存酸素濃度をコントロールするパン酵母の培養に
際し、添加する酸素源、炭素源、窒素源、およびリン酸
源の各栄養源のうち少なくとも１つ以上の栄養源を、培
養時の各栄養源の最大摂取速度以下で添加して炭素源、
酸素源、窒素源、およびリン酸源を制限して培養するこ
とにより、菌体の維持代謝エネルギーの割合を低く制御
し、パン酵母の生産量の向上と対糖収率の向上とを同時
に達成することができる。

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 培養液中の溶存酸素濃度をコントロール
   して行うパン酵母の培養に際し、添加する酸素源、炭素
   源、窒素源、およびリン酸源の各栄養源のうち少なくと
   も１つ以上の栄養源を、各栄養源の培養時における最大
   摂取速度以下で添加して培養することを特徴とするパン
   酵母の培養方法。
2. 【請求項２】 培養前半においては酸素供給を十分に行
   うとともに、炭素源は好気的醗酵を最小限に抑えるよう
   にアルコール制御またはＲＱ制御により培養液への添加
   を行い、培養後半においては、炭素源、酸素源、窒素源
   またはリン酸源のうち少なくとも１つ以上の栄養源の添
   加量を、それぞれの栄養源の最大摂取速度以下となるよ
   うに制限することを特徴とする請求項１記載のパン酵母
   の培養方法。