JPH05304955A - 新規なノイラミニダーゼ、その製造法及びそれを使用するシアル酸結合化合物の製造法 - Google Patents

新規なノイラミニダーゼ、その製造法及びそれを使用するシアル酸結合化合物の製造法

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JPH05304955A
JPH05304955A JP4309465A JP30946592A JPH05304955A JP H05304955 A JPH05304955 A JP H05304955A JP 4309465 A JP4309465 A JP 4309465A JP 30946592 A JP30946592 A JP 30946592A JP H05304955 A JPH05304955 A JP H05304955A
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【目的】 特定の性質を示すノイラミニダーゼ (neuram
inidase)及びその製造法、このノイラミニダーゼを利用
してシアル酸結合化合物を製造する方法を提供する。 【構成】 バクテロイデス・フラギリス (Bacteroides
fragilis) が産生し、分子量約165,000(ゲル濾過法によ
る測定)及び分子量55,000(SDS−PAGEによる測
定)を有し、次のN末端アミノ酸配列を示し、至適pHが
中性付近でありシアル酸のα2−8結合に対し高い基質
特異性を示すノイラミニダーゼ。 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定) バクテロイデス・フラギリスの培養物から上記性質を示
すノイラミニダーゼの製造法。上記性質を示すノイラミ
ニダーゼを用いてシアル酸結合に存在するα2−8結合
を特異的に分解除去するシアル酸結合化合物の製造法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規な性質を示すノイ
ラミニダーゼ (neuraminidase)及びその製造法に関す
る。また、本発明は、この新規な性質を示すノイラミニ
ダーゼを利用してシアル酸結合化合物を製造する方法に
関する。さらに詳しくは、バクテロイデス属に属し、ノ
イラミニダーゼを生産する能力を有する微生物から得ら
れ、シアル酸のα2−8結合に対し最も高い分解活性を
示すノイラミニダーゼ及びその製造法に関する。また、
このノイラミニダーゼの基質特異性を利用するシアル酸
結合物質の修飾及び製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】ノイラミニダーゼは糖タンパク質、糖脂
質、オリゴ糖および多糖類の糖鎖末端に存在するシアル
酸残基を遊離させる触媒作用をもっている。ノイラミニ
ダーゼはバクテリア類、ウィルス類、動物類が生産し、
現在までに数種類のノイラミニダーゼの製造法が報告さ
れ、酵素の性質が調べられてきている。一方、シアル酸
の結合様式には3種類(α2−3、α2−6、α2−8
結合)が知られており、既存のノイラミニダーゼはα2
−3結合及びα2−6結合に対して触媒活性が高く、α
2−8結合に対する活性が最も低いことが報告されてい
る。現在までにシアル酸の結合様式のうちで、α2−8
結合に対し最も高い活性を示すノイラミニダーゼは知ら
れていない。
【0003】従来、微生物由来のノイラミニダーゼに関
しては、ビブリオ・コレラ (Vibriocholerae)、ディプ
ロコッカス・ニュモニア (Diplococcus pneumoniae) 、
クロストリディウム・パーフリンゲンス (Clostridium
perfringens)、ストレプトコッカス スペシーズ (Stre
ptococcus sp.)、アルスロバクター スペシーズ (Arth
robacter sp.) 、ストレプトマイセス スペシーズ (St
reptomyces sp.) 等の微生物による培養液中への生産が
知られており、またコリネバクテリウム・ディフテリア
(Corynebacterium diphtheriae)、クレブシエラ・アエ
ロゲネス (Klebsiella aerogenes) 、パスツレラ・ムル
トシダ (Pasteurella multocida)等では大部分が膜結合
型として存在することが知られている。
【0004】これまでに、ノイラミニダーゼの製造法と
して、放線菌、スポロトリウム・シェンキ (Sporotrich
um schenckii) 、ペニシリウム・ウルチカ (Penicilliu
m urticae)およびコリネバクテリウム・シアロフィルム
(Corynebacterium sialophilum) (特公昭50-11991) や
ミクロモノスポラ属 (Micromonospora sp.)(特開昭60-3
4181) による生産が報告されている。前者の特許に関し
ては、コロミン酸を単一炭素源として使用することを特
徴としている。
【0005】また、バクテロイデス・フラギリスの生産
するノイラミニダーゼとして、バクテロイデス・フラギ
リスを嫌気性条件下で培養して得られる、ゲル濾過法に
よる分子量92,000のものが報告されている〔J.Berg et
al.;Applied and Environmental Microbiology, 46, 75
-80 (1983)〕。しかし、これらのノイラミニダーゼは、
前述のようにシアル酸結合物質のα2−3結合及びα2
−6結合に対して触媒活性が高く、α2−8結合に対す
る活性が最も低いものであった。
【0006】ノイラミニダーゼは、シアル酸含有物質中
のシアル酸の定量に良く用いられており、例えば血清等
生体物質におけるシアル酸の定量に用いられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来上記したようにノ
イラミニダーゼを生産するには、コロミン酸等をノイラ
ミニダーゼ生産の誘導物質として添加した培養液中でこ
れらのノイラミニダーゼ生産性微生物を培養する方法が
知られている。しかし、このような誘導物質を大量に使
用すると経済的にコストに影響する。また、微生物由来
のノイラミニダーゼは、概してその作用最適pHが酸性域
にあるものが多く、シアル酸の定量試験に使用する場
合、試料のpHを酸性側に補正する必要があり、試験を煩
雑なものにしている。
【0008】本発明では、上記問題点を解決すべく鋭意
ノイラミニダーゼ高生産菌を探索した結果、バクテロイ
デス属においてこのような菌を見出した。この菌は、作
用最適pHを中性域に持ち、pH安定性も高く、しかもその
生産されるノイラミニダーゼの分子量が約165,000 (ゲ
ル濾過法による測定)と従来のバクテロイデス属におい
て報告されているものと、異なった酵素を生産するもの
である。
【0009】さらに、生体中にはシアル酸残基がα2−
8結合で複数結合した糖鎖を有するシアル酸結合化合物
(シアル酸を含有するタンパク質、糖脂質、オリゴ糖な
ど)が存在している。これらの化合物からシアル酸残基
を除去するためには、既存のノイラミニダーゼはα2−
8結合に対する活性が低いため酸加水分解に頼るほかな
い。しかしながら、酸加水分解では末端のシアル酸残基
のみを特異的に遊離させることは困難である。本発明
は、シアル酸のα2−8結合に特異的に作用性の高いノ
イラミニダーゼを使用して、ポリシアル酸結合を有する
化合物からα2−8結合したシアル酸残基を特異的に除
去したシアル酸結合化合物を取得しようとするものであ
る。また、シアル酸結合を有する化合物中にα2−8結
合で存在するシアル酸残基を、α2−8結合に特異的に
作用性の高いノイラミニダーゼの転移反応を用いて、シ
アル酸受容化合物にシアル酸残基を付与して行うシアル
酸結合化合物の製造法を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、バクテロイデ
ス・フラギリスに属し、ノイラミニダーゼ生産能を有す
る菌株を栄養培地に培養し、培養菌体および培養物中に
ノイラミニダーゼを生成、蓄積せしめ、分子量約 165,0
00(ゲル濾過法による測定)及び分子量55,000(SDS
−PAGEによる測定)であり、至適pHが中性付近にあ
り、次のN末端アミノ酸配列を有し、α2−8結合に対
し高い基質特異性を示すノイラミニダーゼを採取するこ
とを特徴とするノイラミニダーゼの製造法である。 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定) さらに、本発明はこのようにして得られた高い基質特異
性を示すノイラミニダーゼ及びこのようなノイラミニダ
ーゼを用いてポリシアル酸結合を有する化合物を処理し
てそのα2−8結合を特異的に除去するシアル酸結合化
合物の製造方法である。また、シアル酸結合を有する化
合物中にα2−8結合で存在するシアル酸残基を、α2
−8結合に特異的に作用性の高いノイラミニダーゼの転
移反応を用いて、シアル酸受容化合物にシアル酸残基を
付与して行うシアル酸結合化合物の製造法である。
【0011】本発明者らは、バクテロイデス属の生産す
るノイラミニダーゼについて、その生産菌について検索
研究を続けている中で、ヒト糞便より分離されたバクテ
ロイデス属の1菌株が、好気的条件下でもノイラミニダ
ーゼを大量に生産し、しかも従来本菌種において報告さ
れているゲル濾過法による分子量92,000とは異なった、
ゲル濾過法による分子量 165,000のノイラミニダーゼを
生産することを認めた。本発明のノイラミニダーゼの分
子量は、非変性状態(ゲル濾過法による測定)では165,
000 であるのに対し変性状態(SDS−PAGEによる
測定)では55,000であり、バクテリア由来のノイラミニ
ダーゼとしては稀なオリゴマー構造(3量体構造)を示
すものである。さらに、本発明のノイラミニダーゼにつ
いてN末端アミノ酸配列を決定したところ、次のアミノ
酸配列を有することが確認された。 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定) この酵素は、至適pHが中性付近にあり、シアル酸がα2
−8結合で 100残基重合した化合物であるコロミン酸に
対する分解活性が高いので、さらにその基質特異性につ
いて詳細に検討したところ、シアル酸のα2−3結合及
びα2−6結合に対する分解活性よりもα2−8結合に
対する分解活性が顕著に高いことを見出し、本発明をな
すに至った。
【0012】本発明において使用した菌株は、以下の菌
学的特徴を有しており、バクテロイデス・フラギリス
(Bacteroides fragilis) と同定され、Bacteroides fra
gilisSBT 3182 株として工業技術院微生物工業技術研究
所に寄託した (微工研菌寄第12352 号) 。なお、菌種の
同定については、バージーズ マニュアル オブ シス
テマチック バクテリオロジー 第一巻 (1984年)(Berg
ey's Manual of Systematic Bacteriology Vol.1, 198
4) に準じた。
【0013】(a) 形態 BG寒天培地に嫌気培養後、生育した菌について以下を観
察した。 菌形 :桿菌 鞭毛 :なし グラム染色:陰性 芽胞 :形成しない
【0014】(b) 生理的性質 (1) PYG 培地(1%ペプトン、1%イースト・エキス、
1%グルコース)を基本培地として以下の性状を検討し
た。 胆汁培地での生育 :発育促進 硫化水素産生 :あり インドール産生 :なし 硝酸塩還元 :なし ゼラチンの液化 :なし デンプンの加水分解 :あり エクスリンの加水分解 :あり
【0015】(2) 糖分解試験培地としてPYG 培地を基本
培地として用いた。供試糖液濃度は0.5 %とし、小試験
管に約3mlずつ分注し、 115℃、20分間滅菌後、菌液を
接種し7日間嫌気培養後、培地のpHを測定し、糖を加え
ていない培地に菌を接種したもののpHを対照として糖の
分解性を判定した。pH5.4 以下を陽性とした。 L-アラビノース − ラフィノース + D-キシロース + メレチトース − D-ラムノース − デンプン + リボース − グリコーゲン + グルコース + イヌリン + マンノース + グリセロール − フルクトース + マンニトール − ガラクトース + ソルビトール − シュークロース + エリトリトール − マルトース + イノシトール − セロビオース − エスクリン ± ラクトース + サリシン − トレハロース − アミグダリン − メリビオース + +;陽性、 −;陰性、 ±;不明
【0016】以上の菌の形態及び各種生化学的性状を総
合し、本発明で得られた菌種は、バクテロイデス・フラ
ギリス (Bacteroides fragilis) と同定した。
【0017】本発明においてバクテロイデス・フラギリ
スを培養するには、通常の栄養培地を使用でき、炭素
源、窒素源、無機塩類等を適当に含有するものであれ
ば、天然培地、合成培地のいずれでも用いることができ
る。
【0018】炭素源としては、グルコース、フラクトー
ス、シュークロース、マルトース、マンノース、澱粉、
廃糖蜜、アルコール類、有機酸類、また天然栄養源とし
てペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、牛心
臓や牛脳の浸出液、牛血液粉末等も使用可能である。窒
素源としては、アンモニア水、硫安、硝安、塩安、尿素
等が利用でき、また窒素含有有機物質のペプトン、NZ
−アミン、肉エキス、コーンスティープリカー、カゼイ
ン加水分解物、フィッシュミール、大豆消化物等も利用
できる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン
酸第二カリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫
酸マンガン、硫酸第一鉄、塩化ナトリウム、炭酸カルシ
ウム等が使用できる。
【0019】培養を、25〜37℃で1〜2日間静置培養を
行うことにより、菌体中および培養物中にノイラミニダ
ーゼが生成、蓄積される。本発明におけるバクテロイデ
ス属に属する菌株は、菌体内にも培養物中にもノイラミ
ニダーゼを生産するが、一般的にその蓄積量は菌体中の
ほうが10〜50倍高い。
【0020】菌体からのノイラミニダーゼの採取は以下
のように行う。培養終了後の培養菌体を遠心分離して捕
集後2〜3回適当なバッファーで菌体を洗浄した後、適
当量のバッファーに懸濁し超音波処理する。次に、この
菌体破砕物を遠心分離し、その上清を粗酵素抽出液とし
て酵素精製で通常用いられている方法で精製する。この
ような方法としては、例えば、硫安分画法、有機溶媒沈
澱法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法等、
アフイニティークロマトグラフィー等がある。また、培
養液中からのノイラミニダーゼの採取についても、菌体
からの酵素の抽出操作における超音波破砕、遠心上清の
取得操作以降の方法で同様に採取できる。
【0021】本発明で得られるノイラミニダーゼの有す
る酵素的性状を、以下に述べる。 (1) 作用 シアル酸 (ノイラミン酸のアシル誘導体) が糖鎖末端に
α配位ケトシド結合したシアロ糖複合体のシアル酸残基
を加水分解的に遊離する。 (2) 基質特異性 コロミン酸、シアリルラクトース、グリコマクロペプチ
ド、ラクトフェリン、グリコプロティン、フェツイン、
ガングリオシド等のシアロ糖複合体の各種N−アセチル
ノイラミン酸ケトシドを加水分解できる。特に、後述す
るように、シアル酸結合を有する化合物のα2−8結合
を、α2−3結合及びα2−6結合よりも高い活性で特
異的に分解する。 (3) 作用最適pH 最適pHは、37℃、10分間の反応で、pH6.0 〜7.0 の間に
ある。 (4) 安定pH範囲 5℃、24時間では、pH5.0 〜10.0においてほとんど活性
の低下はない。アルカリ側でも比較的高い活性を保持し
ている。 (5) 力価の測定法 ノイラミニダーゼ活性は、反応液中に遊離されるシアル
酸をチオバルビツール酸法(TBA法) で定量して求める。
すなわち、1%コロミン酸溶液50μl および100mM リン
酸バッファー、pH7.0 100μl に酵素液50μl を加え、
37℃で10分間反応させる。この反応液に、0.2Mのメタ過
ヨウ素酸ナトリウムを 150μl加え室温に20分放置後、
10%ヒ酸ナトリウム1mlを添加、0.6 %チオバルビツー
ル酸3.0mlを加え100 ℃、15分間加熱後氷冷し、シクロ
ヘキサノン4mlを加え、1000rpmで5分間遠心後の上清
の紫紅色を549nm で吸光度を測定する。上記測定条件
で、1 分間に 1μmol のシアル酸を遊離する酵素量を1
単位とした。 (6) 作用最適温度 pH7.0 、10分間の反応で、45℃に至適温度がある。 (7) 温度安定性 pH7.0 、10分間の反応で、50℃までは安定であるが、そ
れ以上になると、急激に活性が低下し、60℃でほとんど
失活する。 (8) 分子量 約165,000(スーパーロース6を用いるゲル濾過法で測定
した) 。 (9) N末端アミノ酸配列 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定)
【0022】本発明のノイラミニダーゼを用いることに
よりシアル酸残基がα2−8結合で複数結合したポリシ
アル酸結合を有する化合物の修飾が可能である。即ち、
この酵素は特定の条件下においてシアル酸のα2−8結
合を特異的かつ選択的に分解するため、例えば、糖鎖非
還元末端にα2−8結合で存在するシアル酸残基を2個
有するジシアル酸結合化合物に作用して、末端のシアル
酸残基のみが除去されたモノシアル酸結合化合物を高い
変換率で生産できる。さらに、ポリシアル酸結合を有す
る化合物にも作用してα2−8結合によって存在してい
るシアル酸残基のみを除去した、新たなシアル酸結合化
合物を生産することも可能となる。 また本発明の酵素
は、シアル酸受容物質と共存させた特定の条件下ではノ
イラミニダーゼが転移反応を示し、シアル酸残基がα2
−8結合で複数結合したシアル酸結合化合物から分解さ
れたシアル酸残基を直接シアル酸受容物質に転移して、
新たにシアル酸結合化合物を合成することも可能とな
り、本発明を完成するに至った。すなわち本発明のノイ
ラミニダーゼは、シアル酸の3種類の結合様式の中でα
2−8結合に対する酵素活性が最も高くその特異的な基
質特異性を利用してシアル酸結合化合物を製造すること
ができる。
【0023】本発明のα2−8結合が分解されたシアル
酸結合化合物の製造法について説明する。本発明におい
て、このノイラミニダーゼで修飾するシアル酸結合を有
する化合物としては、シアル酸残基をα2−8結合によ
り複数もつ化合物であれば特に制限されず、例えば、糖
類、ガングリオシド類、糖タンパク質類等を挙げること
ができる。
【0024】特に、糖類ではシアル酸を2残基有するジ
シアリルラクトース、ガングリオシド類ではシアル酸を
2残基有するガングリオシドGD3、GD1b、またシ
アル酸を3残基有するガングリオシドGT1a、GT1
bなどが修飾に適している。糖タンパク質ではヒト神経
芽細胞腫細胞由来の糖タンパク質 (Livlngston.B.D.,et
ai.,J.Bi ol.Chem,263.9443(1988)) やニジマス卵ポリ
シアロ糖タンパク質(Kitajima.K.,et al.,J.Biol.Chem.
261.5262(1986)) などを挙げることができるが、特に、
糖タンパク質を糖鎖を含む部分に断片化したものが適し
ている。上記のポリシアル酸結合を有する化合物の構造
を以下に示す。
【0025】ジシアリルラクトース Neu5Ac[α2−8]Neu5Ac[α2−3]Gal [β1−
4]GlcガングリオシドGD3 Neu5Ac[α 2-8]Neu5Ac[α 2-3]Gal [β 1-4]Glc
[β 1-1]Ceramide
【0026】本発明のノイラミニダーゼの示す転移反応
においては、シアル酸供与体としてはシアル酸残基を2
残基以上含む化合物であれば特に制限されず、即ち上述
のシアル酸結合化合物を用いることができる。更に、シ
アル酸がα2−8結合で 100残基重合した化合物である
コロミン酸は、本発明のノイラミニダーゼに対する感受
性が特に高いため供与体となる。シアル酸受容体として
は、シアル酸を受容する化合物であれば特に制限され
ず、例えば、糖類、ガングリオシド類、糖タンパク質類
等を挙げることができる。糖類としては特に制限されな
いが、例えば、ガラクトース、グルコース、キシロー
ス、フコース等の単糖類、サッカロース、マルトース、
ラクトース等の2糖類等が好ましい。ガングリオシド類
としても特に制限されないが、例えば、アシアロガング
リオシド、モノシアロガングリオシド、ポリシアロガン
グリオシド等が好ましい。タンパク質としても特に制限
されないが、例えば、アシアロムチン、アシアロラクト
フェリン、アシアログリコマクロペプチド等が好まし
い。
【0027】本発明の製造法における酵素反応は、通
常、ポリシアル酸結合を有する化合物を含む原料液にノ
イラミニダーゼを加えて行われる。ポリシアル酸結合を
有する化合物の使用量は特に制限されないが、通常は
0.1−10重量%程度、好ましくは1−5重量%程度とす
ればよい。ノイラミニダーゼの使用量もまた特に制限さ
れず広い範囲からの選択が可能ではあるが、通常は原料
液1ml当たり0.01単位以上、好ましくは 0.1−10単位程
度とすれば良い。この時、酵素活性はpH 7.0、37℃にお
いて、0.5 mgのコロミン酸から1分間に1μmol のシ
アル酸を遊離する酵素量を1単位とした。シアル酸含有
化合物合成時の反応条件は、通常、シアル酸供与体とシ
アル酸受容体を含む原料液にノイラミニダーゼを加えて
行われる。シアル酸供与体の使用量は特に制限されない
が、通常は 0.1−10重量%程度、好ましくは1−10重量
程度とすればよい。シアル酸受容体の使用量も特に制限
されず広い範囲からの選択が可能ではあるが、通常は1
−50重量%程度、好ましくは10−50重量%程度とすれば
よい。ノイラミニダーゼの使用量もまた特に制限されな
いが、通常は原料1ml当たり0.01単位以上、好ましくは
0.1−10単位程度とすればよい。緩衝液としては、pHが
3−11程度の範囲に調整できるものであればいずれの緩
衝液でも使用でき、例えば、10-500mM程度の酢酸緩衝
液(pH3.5−6.0)、リン酸緩衝液(pH6.0−9.0)、カコジル
酸ナトリウム緩衝液(pH5.0−8.0)等が使用可能である。
本発明における酵素反応は、通常、10−60℃程度、好ま
しくは25−45℃程度の温度条件下で行われ、反応時間
は、通常 0.5−72時間程度、好ましくは1−10時間程度
で終了する。
【0028】本発明の酵素反応の中で、ノイラミニダー
ゼの転移反応を利用して行うシアル酸結合物質の合成時
の反応に関しては、原料液に有機溶媒または硫酸アンモ
ニウムを加えて反応液をより疎水性の条件とすること
で、移転反応が一層有利に進行し、その結果合成される
シアル酸結合化合物の収量も向上する。有機溶媒として
は特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノー
ル等の低級アルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸
エチル等のエステル類、エーテル類等を挙げることがで
きる。有機溶媒の添加量もまた特に制限されず、通常原
料液1m1に対し0.1 −5m1程度の範囲で自由に選択
可能ではあるが、好ましくは0.5 −2m1程度を原料液
に添加すれば良い。また硫酸アンモニウムの添加量も特
に制限されないが、通常、原料液1m1当たり0.1 −1.
0 g程度、好ましくは0.3 −0.5 g程度とすればよい。
酵素反応により修飾・生成するシアル酸結合化合物は、
公知の手段に従って反応溶液中から原料と容易に分離・
精製することが可能である。例えば、シリカゲルカラム
クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフ
ィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー等により、反
応溶液中の原料、生成物、シアル酸を分離し、さらにそ
れぞれを脱塩、濃縮、凍結乾燥等の方法を用いて精製す
ればよい。
【0029】以下実施例をあげて本発明を具体的に説明
する。
【実施例1】次の組成を有する液体培地1lを 121℃
で、15分間滅菌し、これに、バクテロイデス・フラギリ
ス (B. fragilis) SBT3182株の前培養液30mlを接種し、
好気的条件下で37℃で15時間培養した。培養終了後、培
地を8,900xG で10分間遠心し、捕集した菌体を 800mlの
20mMリン酸バッファー (pH7.0)で2回洗浄後、 120mlの
同バッファーを加えた菌体懸濁液を超音波処理 (2A,10
分) した。これを、45,000xGで10分間遠心し上清液 125
mlを得た。この粗酵素抽出液の活性は0.234U/mlであっ
た。この抽出液を硫安分画し、60%以上の硫安飽和画分
を集め、ビスキングチューブ中で20mMリン酸バッファー
(pH7.0)に対して1夜透析し酵素の濃縮を行った。全活
性で52.6U のものを得た。このものは粗酵素抽出液にく
らべ比活性は4.3 倍上昇した。活性収率は45%てあっ
た。 培地組成:1%ペプトン、1%プロテオーゼペプトン、
0.5 %酵母エキス、0.1%肝臓エキス、0.3 %グルコー
ス、0.25%リン酸2水素ナトリウム、0.3 %食塩、0.5
%可溶性澱粉、0.03%L-システイン塩酸塩、pH7.0
【0030】
【実施例2】実施例1で得た濃縮酵素液を次のようにし
て精製した。硫安分画後の粗酵素液30.5mlを、20mMリン
酸バッファー (pH7.0)で平衡化したDEAE- トヨパールに
負荷し、吸着させ、1M NaCl で溶出した。溶出後の活性
画分をさらにハイドロキシアパタイトカラムおよびゲル
濾過にかけることにより、電気泳動的に単一バンドの精
製酵素を取得できた。出発粗酵素液に比べ、精製度が22
40倍に上昇し、また活性収率は3%であった。この酵素
の分子量をファルマシア社のスーパーロース6を使用す
るゲル濾過法で測定したところ、約165,000 であり、ま
た前記したような酵素的性状を示した。また、ノイラミ
ニダーゼのN末端配列は、Matsudairaの方法(J. Biol.
Chem. 262, 10035-10038.(1987))を用いて決定した。す
なわち、ノイラミニダーゼタンパク質をポリビニリデン
ダイフルオリド膜にウエスタンブロッティングし、ブロ
ッティング後の膜をクマシーブルーで染色して得たノイ
ラミニダーゼタンパク質バンドを直接、アプライドバイ
オシステムズ社の自動アミノ酸配列分析装置 (モデル47
7A) に供して次のN末端配列を決定した。 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定)
【0031】
【実施例3】精製したノイラミニダーゼの基質特異性を
詳細に検討するために、α2−3シアリルラクトース、
α2−6シアリルラクトース、コロミン酸、ガングリオ
シドGM3 (Neu5Ac[α 2-3]Gal [β 1-4]Glc [β
1-1]Ceramide、ガングリオシドGD3 (Neu5Ac[α 2
-8]Neu5Ac[α 2-3]Gal [β 1-4]Glc [β 1-1]Ce
ramide) を基質としてノイラミニダーゼを作用させた。
反応に用いる基質中に含まれるシアル酸量を100 nmolに
統一し、0.05単位のノイラミニダーゼによって基質から
遊離されるシアル酸量を常法により測定することで、本
発明のノイラミニダーゼの各基質に対する活性の高低を
比較した。即ち、100 nmol当量のシアル酸を含む基質溶
液50μlを100 μlの酢酸緩衝液 (pH5.5)と混合し、こ
れに0.05単位/50μlのノイラミニダーゼ溶液を加えて
37℃で20分間反応させた後、100 ℃で1分間加熱して酵
素反応を停止させた。反応後に遊離されたシアル酸量
を、チオバルビツール酸法によって定量し、各基質から
遊離されたシアル酸量を、α2−3シアリルラクトース
を基質として用いた場合を基準として比較検討した。結
果を表1に示す。
【0032】
【表1】 ノイラミニダーゼの基質特異性 ───────────────────── 相対値 基 質 % ───────────────────── α2−3シアリルラクトース 100.0 α2−6シアリルラクトース 70.3 コロミン酸 151.9 ガングリオシドGM3a) 5.1 ガングリオシドGD3b) 13.1 ───────────────────── (註)a)GM3:Neu5Ac[α 2-3]Gal [β 1-4]Gl
c [β 1-1]セラミド b)GD3:Neu5Ac[α 2-8]Neu5Ac[α 2-3]Gal
[β 1-4]Glc[β 1-1]セラミド
【0033】表1の結果から、本発明のノイラミニダー
ゼはシアル酸のα2−8結合による重合体であるコロミ
ン酸に対する活性が、α2−3結合をもつα2−3シア
リルラクトースに対する活性の 1.5倍、α2−6結合を
もつα2−6シアリルラクトースに対する活性の 2.2倍
となっている。すなわち、本発明のノイラミニダーゼは
シアル酸の3種類の結合様式の中でも、α2−8結合に
対する活性が最も高い。また、末端にα2−8結合によ
るシアル酸残基をもつガングリオシドGD3に対する活
性が、末端にα2−3結合によるシアル酸残基のみをも
つガングリオシドGM3に対する活性より高いことから
も、本発明のノイラミニダーゼがシアル酸のα2−8結
合に対し、最も高い活性を示すことがわかる。
【0034】
【実施例4】100mM酢酸緩衝液中にガングリオシドG
D3を10mg加え、つぎにノイラミニダーゼを0.45単位加
えて最終容量を10mlとし、37℃で 120分間反応させた
後、100℃で1分間加熱して酵素反応を停止させた。反
応後の試料溶液をシリカゲルを用いたカラムクロマトグ
ラフィーにより、生成されたガングリオシドGM3と原
料のガングリオシドGD3、また遊離されたシアル酸と
に分離し、ガングリオシドGM3を含む画分を凍結乾燥
して白色粉末を得た。10mgのガングリオシドGD3から
上記の反応によって 6.3mgのガングリオシドGM3を得
た。変換率はモル比で79%であった。
【0035】
【実施例5】100mM酢酸緩衝液中にジシアリルラクト
ースを1mg加え、つぎにノイラミニダーゼを0.05単位加
えて最終容量を1mlとし、37℃で 180分間反応させた
後、100℃で1分間加熱して酵素反応を停止させた。反
応後の試料溶液をシリカゲルを用いたカラムクロマトグ
ラフィーにより、生成されたシアリルラクトースと原料
のジシアリルラクトース、また遊離されたシアル酸とに
分離し、シアリルラクトースを含む画分を凍結乾燥して
白色粉末を得た。1mgのジシアリルラクトースから上記
の反応によって0.52mgのシアリルラクトースを得た。変
換率はモル比で76%であった。
【0036】
【実施例6】100mM酢酸緩衝液中に乳糖を 500mg、コ
ロミン酸を 100mg加え、つぎにノイラミニダーゼを1.5
単位加え、更に、エチレングリコールを1ml加えて最終
容量を2mlとし、37℃で16時間反応させた後、 100℃で
1分間加熱して酵素反応を停止させた。反応後の試料を
薄層クロマトグラフィーを用いて分析したところ、試料
中には標準のシアリルラクトースと同じRf値を示す、
レゾルシン塩酸試薬で染色される新たななスポットが確
認された。つぎに、試料溶液をシリカゲルを用いたカラ
ムクロマトグラフィーにより、合成されたシアリルラク
トースと原料の乳糖、コロミン酸及び遊離されたシアル
酸とに分離し、シアルラクトースを含む画分を凍結乾燥
して白色粉末 8.6mgを得た。
【0037】
【実施例7】シアル酸受容化合物としてアシアロガング
リオシド、エチレングリコールの代わりにメタノールを
使用する以外は実施例4と同様に反応を行った。反応後
の試料を薄層クロマトグラフィーを用いて分析したとこ
ろ、試料中には、原料液中には存在しない新たなスポッ
トがレゾルシン塩酸試薬で染色された。試料溶液をシリ
カゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで処理し、本
スポットを含む画分を単離し、更に凍結乾燥して白色粉
末 3.2mgを得た。白色粉末を酵素分解し、分解産物を薄
層クロマトグラフィー後、レゾルシン塩酸薬、オルシン
硫酸試薬を用いて分析した結果、アシアロガングリオシ
ドとシアル酸が1:1のモル比で検出された。以上の結
果から、生成された白色粉末はモノシアロガングリオシ
ドであることが確認された。
【0038】
【発明の効果】本発明により得られるノイラミニダーゼ
は、バクテロイデス・フラギリス (B.fragilis)、特にS
BT3182 株を好気的培養条件下で培養することによって
大量に生産され、安価にかつ工業的に製造できる。ま
た、シアル酸の定量試験に使用する場合、作用最適pHが
中性付近にあるので従来のノイラミニダーゼによるシア
ル酸の定量のように試料のpHを酸性に補正する必要がな
く、さらに広い範囲のpHで安定であるので使用し易いも
のとなる。さらに、本発明のノイラミニダーゼを使用し
て酵素反応を行うとα2−8結合により結合しているシ
アル酸残基を特定の条件下で特異的かつ選択的に分解す
るので、シアル酸残基、特に末端シアル酸残基のもつ生
理学的、生化学的な研究が可能である。また、特異な基
質特異性を利用すればシアル酸結合化合物を修飾して他
のシアル酸結合化合物を生成し、また、新たにシアル酸
残基を転移させることでシアル酸含有化合物を合成する
ことができる。しかも反応は、酵素と原料溶液を混合す
ることのみで進行するため、反応後の生成物は未反応の
原料、遊離されたシアル酸と共に容易に分離・精製でき
る。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 バクテロイデス・フラギリス (Bacteroi
    des fragilis) が産生し、分子量約 165,000(ゲル濾過
    法による測定)及び分子量 55,000(SDS−PAGEに
    よる測定)を有し、至適pHが中性付近にあり、次のN末
    端アミノ酸配列を有し、α2−8結合に対し高い基質特
    異性を示す、ノイラミニダーゼ。 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定)
  2. 【請求項2】 バクテロイデス属(Bactetroides)に属す
    るバクテロイデス・フラギリス (Bacteroides fragili
    s) のノイラミニダーゼ生産性菌を好気的培養条件下で
    培養し、生産される分子量が約165,000(ゲル濾過法によ
    る測定)及び分子量55,000(SDS−PAGEによる測
    定)であって、至適pHが中性付近にあり、次のN末端ア
    ミノ酸配列を有し、α2−8結合に対し高い基質特異性
    を示すノイラミニダーゼを採取することを特徴とするノ
    イラミニダーゼの製造法。 Ala-Asp-X-Ile-Phe-Val-Arg-Glu-Thr-Arg-Ile-Pro (ただし、X は未同定)
  3. 【請求項3】 ポリシアル酸結合を有する化合物に請求
    項1記載のノイラミニダーゼを作用させてポリシアル酸
    結合中に存在するα2−8結合を特異的に分解除去する
    ことを特徴とするシアル酸結合化合物の製造法。
  4. 【請求項4】 シアル酸結合を有する化合物中にα2−
    8結合で存在するシアル酸残基を特異的にシアル酸受容
    化合物に転移することを特徴とする請求項3記載の方
    法。
  5. 【請求項5】 シアル酸結合を有する化合物が、糖類、
    ガングリオシド類及び糖タンパク質類からなる群から選
    択される化合物である請求項3または4記載の製造法。
  6. 【請求項6】 シアル酸受容化合物が糖類、ガングリオ
    シド類及び糖タンパク質類からなる群から選択されたも
    のである請求項4記載の方法。
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