JPH0517788A - 鋼板の冷間圧延用潤滑油 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 鋼板の冷間圧延用潤滑油の潤滑性、流れ落ち
性および耐熱劣化性を向上させ、圧延機およびその周辺
環境の汚れを防止する。 【構成】 潤滑油の基油成分として使用される改質牛脂
脂肪酸トリグリセライドにおいて、牛脂脂肪酸トリグリ
セライド１分子に含まれる３個のエステル結合形成牛脂
脂肪酸残基のうちの１〜２個を、８〜12個の炭素原子数
を有する１〜２種の飽和脂肪酸によりエステル置換す
る。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、潤滑性、並びに耐熱劣
化性に優れ、且つ冷間圧延作業において圧延機及び圧延
機周辺環境を清浄に保持し得る新規な、鋼板の冷間圧延
用潤滑油に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】従来、鋼板の薄物圧延に用いられる冷間
圧延用潤滑油は牛脂、パーム油等の天然油脂をベースと
し、これらに脂肪酸等の油性向上剤やリン酸エステル等
の極圧添加剤や油の酸化を防止する酸化防止剤、および
油を乳化させる乳化剤などを含んで構成されている。冷
間圧延は、これを大別すると薄物圧延と厚物圧延に区別
できる。圧延条件において厳しい薄物圧延に於いては、
特に潤滑性の優れたものが要求され、それに適応したも
のとして、コスト的に好適な天然油脂を基油とする圧延
用潤滑油が使用されている。

【０００３】しかしながら、例えば、圧延用潤滑油のク
ーラント（一般に圧延用潤滑油を温水でエマルジョン化
したものをクーラントと称する。）をスプレーしながら
冷間圧延作業を行う場合に、クーラントが牛脂を基油と
して含んでいるときは、圧延時にスプレーしたクーラン
トが圧延機並びに圧延機周辺に飛散し、その飛散したク
ーラント中の牛脂成分が圧延時に発生する鉄粉と絡んで
凝固し、圧延機並びに圧延機周辺に付着してこれを汚染
するという問題、また、このような凝固物が再度、クー
ラントに混入してロールバイト内に入り込み、ロールと
圧延鋼板の表面に傷を付けるという問題が発生し易いの
である。また、前記汚染対策としては、圧延作業場の状
況に応じて通常月２回位の頻度で温水、或は、洗浄剤に
より圧延機並びにその周辺の洗浄を行う必要がある。

【０００４】牛脂の代りに、菜種油、およびパーム油な
どのような植物油を基油として含有する潤滑油のクーラ
ントを用いると、上記のような圧延機およびその周辺環
境の汚染はかなり緩和されるが、しかし潤滑油の耐熱性
が不満足になるという問題を生ずる。

【０００５】本発明者らは、牛脂（牛脂脂肪酸トリグリ
セライドを主成とする）を基油とする潤滑油について研
究を重ね、その結果牛脂脂肪酸グリセライド中において
エステル結合を形成している３個の牛脂脂肪酸の１〜２
個を、特定炭素原子数を有する飽和脂肪酸によりエステ
ル交換することによって、上記問題点の解決に成功し、
本発明を完成したものである。

【０００６】すなわち、本発明に係る鋼板の冷間圧延用
潤滑油は、改質牛脂脂肪酸トリグリセライドを基油成分
として含有する潤滑油において、前記改質牛脂脂肪酸ト
リグリセライドが、牛脂脂肪酸トリグリセライド１分子
当り、３個のエステル結合を形成している牛脂脂肪酸残
基のうちの１個又は２個が、８〜12個の炭素原子を有す
る１種、又は２種の飽和脂肪酸残基によってエステル置
換されているものであることを特徴とする、ものであ
る。

【０００７】

【作用】一般に、牛脂は、牛脂脂肪酸トリグリセライド
を主成分とするものであって、その１分子当り、３個の
牛脂脂肪酸が、グリセリンと３個のエステル結合を形成
している。牛脂脂肪酸は、主として14〜18個の炭素原子
を有する飽和、および不飽和脂肪酸からなるものであ
る。

【０００８】本発明の潤滑油においては、改質牛脂脂肪
酸トリグリセライドが基油成分として用いられており、
この改質牛脂脂肪酸トリグリセライドとは、牛脂脂肪酸
トリグリセライド１分子当り、３個のエステル結合を形
成している３個の牛脂脂肪酸残基のうちの１個又は２個
が、８〜12個の炭素原子を有する１種又は２種の飽和脂
肪酸残基によって、エステル置換されているものであ
る。

【０００９】上記牛脂脂肪酸トリグリセライド中の牛脂
脂肪酸の、上記特定飽和脂肪酸によるエステル置換は、
エステル交換反応により達成することができる。

【００１０】本発明においてエステル置換のために用い
られる炭素原子数８〜12の飽和脂肪酸は、カプリル酸、
ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、およびラウ
リン酸から選ぶことができる。

【００１１】上記飽和脂肪酸による牛脂脂肪酸のエステ
ル置換は、牛脂本来のすぐれた潤滑性および耐熱劣化性
を高水準に維持しながら、その融点を約10℃以上低くす
ることができ、それによって、圧延用潤滑油の流れ落ち
性を向上させることができる。

【００１２】上記エステル置換に用いられる飽和脂肪酸
の炭素原子数が、８未満の場合、得られる潤滑油の、潤
滑性が不十分になり、またそれが、12より大きくなる
と、得られる潤滑油の流れ落ち性が不十分になる。

【００１３】本発明の潤滑油において、改質牛脂脂肪酸
トリグリセライドは、潤滑油中に、その重量の50％以上
の含有率で含まれることが好ましく、60〜 100％の含有
率で含まれることがより好ましい。

【００１４】本発明の潤滑油は、前述の特定改質牛脂脂
肪酸トリグリセライドを基油として含有するものである
が、それに加えて、合成エステル、天然油脂、鉱物油な
どから選ばれた少なくとも１種を、追加基油成分として
含んでいてもよい。但し、これらの追加基油成分の含有
量は、基油全重量に対し、50％以下であることが好まし
い。

【００１５】追加基油成分として用いられる合成エステ
ルは、２−エチルヘキシルステアレート、ＴＭＰイ
ソステアレート、およびＮＰＧイソステアレートなど
から選ぶことができる。天然油脂は、牛脂、およびパー
ム油などから選ぶことができる。また、鉱物油はスピン
ドル油、およびアシン油などから選ぶことができる。

【００１６】本発明の潤滑油は、基油成分とともに従来
慣用の添加剤、例えば油性向上剤（例えば、ステアリン
酸、およびオレイン酸など）、極圧添加剤（例えば、ジ
オレイルハイドロゲンフォスファイト、およびトリクレ
ジルフォスフェートなど）、酸化防止剤（例えば、２，
６−ジターシヤルブチル−４−メチルフェノールな
ど）、防錆添加剤（例えば、オレイン酸トリエタノール
アミン塩など）、および乳化剤（例えばポリオキシエチ
レンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノ
オレエート、およびポリオキシエチレンジオレエートな
ど）などを含んでいてもよい。

【００１７】本発明の潤滑油は油状体であってもよい
し、或は水性エマルジョンになっていてもよい。

【００１８】

【実施例】本発明を下記実施例により更に説明する。こ
れらの実施例において潤滑油の潤滑性、流れ落ち性、耐
熱劣化性は、下記方法によりテストされた。

【００１９】（１）供試鋼板 市販のSPCC-B材（1.６mm×50mm×200mm)を、エチルアル
コール、およびジエチルエーテルで完全に脱脂したも
の。

【００２０】（２）潤滑性テスト 供試潤滑油を上水道水に30ｇ／リットルの濃度で添加
し、これを60℃に加温し、これをポンプ循環により攪拌
して、潤滑油エマルジョンを調製した。このエマルジョ
ン５リットルを、クーラントとして用いた。上記鋼板を
短冊圧延機を用いて下記条件下により圧延し、上記クー
ラントを圧延ロールにスプレーした。圧延条件 圧延ロール ： 100mmφ、＃240 研磨 圧延速度 ： 10ｍ／分 圧下率 ： 1パス圧延当り 30％ 上記圧延における、圧延荷重を測定し、潤滑された鋼板
の摩擦係数を、Bland& Fordの圧延理論に従って、上記
圧延荷重から逆算して求めた。

【００２１】（３）潤滑油の流れ落ち性テスト 圧延操作により発生したスカムをエーテルを用いて、洗
浄して油分を除去し、得られた鉄粉１重量部に対し、供
試潤滑油２重量部を混合した。

【００２２】表面を清浄化されたテストピースの片面
に、上記混合物を、５ｇ／ｍ² の塗布量で均一に塗布
し、この混合物塗布テストピースを、その塗布面が、垂
直になるように保持しながら、30℃の温度にコントロー
ルされた恒温槽内に２時間放置し、テストピースから流
れ落ちた混合物の量を測定し、この測定値から、下記式
（Ｉ）により減量率を算出した。

【数１】

【００２３】（４）耐熱劣化性テスト 上記潤滑性テストに用いられたものと同じ鋼板を合わせ
てスタック状に組み、これを 120℃の温度に保持された
オーブン内に16時間放置した。その後この鋼板に下記条
件による電解脱脂処理を施した。脱脂処理条件 脱脂液 ： 20ｇ／リットルオルソ珪酸ソーダ水溶
液、90℃ 電流密度 ： 5Ａ／dm² 極性 ： 供試鋼板を陰極とした。 極間距離 ： 100mm 脱脂処理された鋼板を水洗し、この際この供試鋼板が水
により完全に濡れるのに要する時間（秒）を測定した。
この水濡れ所要時間により、耐熱劣化性を表示した。こ
の時間が長い程、供試潤滑油の耐熱劣化性が低いことに
なる。

【００２４】実施例１ 牛脂脂肪酸トリグリセライドを、カプリル酸（Ｃ＝８）
によるエステル交換反応に供し、その１分子当り１個の
エステル結合形成牛脂脂肪酸残基を、カプリル酸残基に
より置換した。得られた改質牛脂脂肪酸トリグリセライ
ド98重量％に２重量％の乳化剤（ポリオキシエチレンモ
ノオレエート、オレイン酸１モルに対するエチレンオキ
サイドの付加量：20モル）を混合して潤滑油を製造し
た。この潤滑油を上記テストに供した。その結果を表１
に示す。

【００２５】実施例２ 実施例１と同じ操作を行って潤滑油を調製した。但し、
カプリル酸の代りにカプリン酸（Ｃ＝９）を用いた。前
記テストの結果を表１に示す。

【００２６】実施例３ 実施例１と同じ操作を行って潤滑油を調製した。但し、
カプリル酸の代りにラウリン酸（Ｃ＝12）を用いた。上
記テストの結果を表１に示す。

【００２７】実施例４ 実施例３と同じ操作を行って潤滑油を調製した。但し、
牛脂脂肪酸トリグリセライドの改質に際し、その１分子
当り２個のエステル結合形成牛脂脂肪酸残基を、ラウリ
ン酸によってエステル置換した。前記テストの結果を表
１に示す。

【００２８】実施例５ 実施例１と同じ操作により潤滑油を調製した。但し、牛
脂脂肪酸トリグリセライドの改質に際し、その１分子当
り１個の牛脂脂肪酸残基を、カプリル酸により、また他
の１個の牛脂脂肪酸残基を、カプリン酸によって、エス
テル置換した。前記テストの結果を表１に示す。

【００２９】実施例６ 潤滑油の調製に際し、実施例１に記載された改質牛脂脂
肪酸トリグリセライドと、実施例５に記載の改質牛脂脂
肪酸トリグリセライドとを、重量比１：１で混合した混
合物を基油として用いた。前記テストの結果を表１に示
す。

【００３０】比較例１ 牛脂98重量％と乳化剤（実施例１に記載のもの）２重量
％とから潤滑油を調製した。前記テストの結果を表１に
示す。

【００３１】比較例２ 菜種油98重量％と、乳化剤（実施例１に記載のもの）２
重量％とから潤滑油を調製した。前記テストの結果を表
１に示す。

【００３２】比較例３ 実施例１と同じ操作を行った。但し、カプリル酸の代り
にパルミチン酸（Ｃ＝16）を用いた。得られた潤滑油に
対する前記テストの結果を表１に示す。

【００３３】比較例４ 実施例４と同じ操作を行った。但し、カプリル酸の代り
に酪酸（Ｃ＝４）を用いた。得られた潤滑油に対する前
記テストの結果を表１に示す。

【００３４】

【表１】

【００３５】表１から明らかなように、本発明に係る実
施例１〜６の潤滑油はいづれも良好な潤滑性、流れ落ち
性および耐熱劣化性を示した。しかし、比較例１〜４の
潤滑油は、上記特性の少なくとも１特性において不良な
ものであった。

【００３６】

【発明の効果】本発明の潤滑油は、鋼板の冷間圧延に用
いられたとき良好な潤滑性、流れ落ち性および耐熱劣化
性を示し、従って圧延機およびその周辺環境を汚すこと
が少なく、良好な、効率をもって潤滑することができ、
極めて高い実用的効用を有するものである。

Claims (1)

1. 【特許請求の範囲】 【請求項１】 改質牛脂脂肪酸トリグリセライドを基油
   成分として含有する潤滑油において、 前記改質牛脂脂肪酸トリグリセライドが、牛脂脂肪酸ト
   リグリセライド１分子当り、３個のエステル結合を形成
   している牛脂脂肪酸残基のうちの１個又は２個が、８〜
   12個の炭素原子を有する１種、又は２種の飽和脂肪酸残
   基によってエステル置換されているものであることを特
   徴とする、鋼板の冷間圧延用潤滑油。