JPH05171518A - ピッチ系炭素繊維 - Google Patents

ピッチ系炭素繊維

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JPH05171518A
JPH05171518A JP35698591A JP35698591A JPH05171518A JP H05171518 A JPH05171518 A JP H05171518A JP 35698591 A JP35698591 A JP 35698591A JP 35698591 A JP35698591 A JP 35698591A JP H05171518 A JPH05171518 A JP H05171518A
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JP
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fiber
pitch
carbon fiber
temperature
density
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JP35698591A
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English (en)
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Kikuji Komine
喜久治 小峰
Masaharu Yamamoto
雅晴 山本
Kiyotoshi Mase
清年 間瀬
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Tonen General Sekiyu KK
Original Assignee
Tonen Corp
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 約1800〜2300℃の低温焼成で得ら
れ、然も密度が2.20g/cm3 以下で2000℃で
焼成したときの引張弾性率が65ton/mm2 以上の
低密度、高弾性を示し、且つ融膠着度が少なく糸扱い性
が良好なピッチ系炭素繊維を提供することである。 【構成】 密度(ρ)が1.95〜2.20g/cm3
の範囲にあり、X線構造パラメーターの積層厚み(Lc
002 )が80〜180Å、層間隔(d002 )が3.39
〜3.44Å、配向角(φ)が5.0°〜10.0°の
範囲にあり、且つ前記密度、積層厚み、層間隔及び配向
角が式:8.0<ρ×Lc002 /(φ×d002 )<1
5.0を満足し、融膠着度が20%以下で糸扱い性が良
好な高弾性率炭素繊維の特性を有するように規定した。 【効果】 目的の性能の炭素繊維が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、1800〜2300の
低温焼成で得られ、然も密度が2.20g/cm3 以下
で2000℃で焼成したときの引張弾性率が65ton
/mm2 以上の低密度、高弾性を示し、且つ繊維の融膠
着度が少なく糸扱い性が良いピッチ系炭素繊維に関す
る。本明細書にて「炭素繊維」とは特に明記しない場合
には炭素繊維のみならず黒鉛繊維をも含めて使用する。
【0002】
【従来の技術】石油系ピッチ、石炭系ピッチ等の炭素質
ピッチから製造されるピッチ系炭素繊維は、現在最も多
量に製造されているレ−ヨン系やPAN系の炭素繊維に
比較して炭化収率が高く、弾性率等の物理的特性も優れ
ており、更に低コストにて製造し得るという利点を有し
ているために近年注目を浴びている。
【0003】現在、ピッチ系炭素繊維は、概略、次のよ
うな方法で製造されている。即ち、(1)石油系ピッ
チ、石炭系ピッチ等から炭素繊維に適した炭素質ピッチ
を調製し、該炭素質ピッチを加熱溶融して紡糸機にて紡
糸してピッチ繊維を製造し、これを集束してピッチ繊維
束と為した後、(2)ピッチ繊維を不融化炉にて酸化性
雰囲気下にて150〜350℃までに加熱して不融化
し、(3)次いで、得られた不融化繊維を予備炭化炉に
て不活性雰囲気下にて1300℃以下で予備炭化し、
(4)次いで、得られた予備炭化繊維を3000℃以下
にまで加熱焼成して炭化(黒鉛化を含む)すること、に
より製造されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、炭素繊維を
使用した繊維強化複合材料の重量を小さくすべく、低密
度、軽量で高弾性を示し且つ融膠着度が少なく糸扱い性
の良い炭素繊維を、低温焼成の炭化で得ることが望まれ
ている。
【0005】しかしながら、従来は、原料ピッチの選
択、不融化、予備炭化及び炭化の各工程が、低温焼成の
炭化で高弾性率の炭素繊維を得るためには最適ではな
く、約1800〜2300℃の低温焼成で、密度が低く
軽量で且つ融膠着度が少なく糸扱い性の良い高弾性率の
炭素繊維は得られていなかった。
【0006】従って本発明の目的は、約1800〜23
00℃の低温焼成で得られ、然も密度が2.20g/c
3 以下で2000℃で焼成したときの引張弾性率が6
5ton/mm2 以上の低密度且つ高弾性で、融膠着度
が20%以下と少なく糸扱い性が良好なピッチ系炭素繊
維を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的は本発明に係る
ピッチ系炭素繊維にて達成される。要約すれば本発明
は、密度(ρ)が1.95〜2.20g/cm3 の範囲
にあり、X線構造パラメーターの積層厚み(Lc002
が80〜180Å、層間隔(d002 )が3.39〜3.
44Å、配向角(φ)が5.0°〜10.0°の範囲に
あり、且つ前記密度、積層厚み、層間隔及び配向角が下
記式 8.0<ρ×Lc002 /(φ×d002 )<15.0 を満足し、繊維の融膠着度が20%以下で糸扱い性が良
好であることを特徴とする高弾性率のピッチ系炭素繊維
である。
【0008】本発明者等は、約1800〜2300℃の
低温焼成により、密度が低く軽量で、2000℃で焼成
したときの引張弾性率が65ton/mm2 以上を示す
高弾性率の炭素繊維を得るべく鋭意研究を重ね、原料ピ
ッチの選択、不融化前処理、不融化、予備炭化及び炭化
(黒鉛化)の各工程を検討した。
【0009】その結果、(1)特定の原料ピッチを使用
して紡糸し、(2)得られたピッチ繊維を高濃度のオゾ
ンを含む強酸化性ガス雰囲気で前処理し、(3)前処理
したピッチ繊維をオゾンを含まない酸素濃度20〜90
%の酸化性ガス雰囲気で迅速に不融化し、(4)得られ
た不融化繊維を延伸を加えた1段又は2段の延伸熱処理
により予備炭化すれば、その後、得られた予備炭化繊維
を1800〜2300℃の低温焼成で炭化することによ
り、密度が1.95〜2.20g/cm3 の範囲の低密
度且つ2000℃で焼成したときの繊維の引張弾性率が
65ton/mm2 以上の高弾性のピッチ系炭素繊維を
得ることができることが分かった。
【0010】これらの繊維は、1800〜2300℃で
焼成したときの焼成温度と繊維の引張弾性率の関係が次
の式で表され、高温焼成により、より高弾性率の糸が得
られる。
【0011】Et=AT+B Et:繊維の引張弾性率,Ton/mm2 T:焼成温度,℃ A、B:定数。A=0.03〜0.05、B=−20〜
【0012】以下、本発明に係る炭素繊維を製造法に則
して説明する。本発明の炭素繊維は、上述したように、
密度(ρ)が1.95〜2.20g/cm3 の範囲にあ
り、X線構造パラメーターの積層厚み(Lc002 )が8
0〜180Å、層間隔(d00 2 )が3.39〜3.44
Å、配向角(φ)が5.0°〜10.0°の範囲にあ
り、且つこれら密度、積層厚み、層間隔及び配向角が、
8.0<ρ×Lc002 /(φ×d002 )<15.0を満
足する特性を備えている。
【0013】上記において、ρ×Lc002 /(φ×d
002 )が8.0を超えないと、2000℃で焼成したと
きの繊維の引張弾性率が65ton/mm2 を超えず、
ρ×Lc002 /(φ×d002 )が15.0以上である
と、引張弾性率は高くできるが密度が高く、軽量効果が
少なくなり、又複合材料にしたときの圧縮強度が低下し
て好ましくない。このような特性の炭素繊維は、以下の
ようにして得られる。
【0014】本発明の炭素繊維を得るためには、公知の
原料、例えば石油系の各種重質油、熱分解タール、接触
分解タール、石炭の還流によって得られる重質油、ター
ルなどを原料として、その熱分解重縮合により得られる
メソフェースピッチ(光学的異方性ピッチ)を使用する
ことが肝要である。
【0015】更に好ましいピッチとしては、弗化水素、
三弗化硼素触媒の存在下で芳香族炭化水素類(縮合多環
水素又はこれらを含有するピッチ原料)を重合して得ら
れるメソフェースピッチを使用することができる。
【0016】このメソフェースピッチは、軟化点が18
0〜400℃と低く紡糸し易く、又ナフテン水素含有量
が多く、紡糸したピッチ繊維を不融化し易い。このた
め、ピッチ繊維のピッチ分子の配列性及び不融化繊維の
結晶の配向性が高まり、炭化時に炭素繊維の結晶性を高
くすることが可能になり、低温焼成で高弾性率の炭素繊
維を得るのに対し有利となる。
【0017】更にメソフェースピッチとしては、上記の
接触分解タール等の熱分解重縮合により得たメソフェー
スピッチと、芳香族炭化水素類を原料として弗化水素、
三弗化硼素触媒の存在下で重合して得られるメソフェー
スピッチとを混合したメソフェースピッチを使用するこ
とができる。
【0018】メソフェースピッチとして使用するピッチ
のメソフェースピッチ含有量は、メソフェースピッチ7
0〜100%が好ましく、特に実質的に100%のメソ
フェースを含有するピッチが好ましい。
【0019】上記のピッチは、加熱溶融して周知の方法
によって1〜2000本、好ましくは50〜1000本
のフィラメントに紡糸される。
【0020】上記のようにして紡糸された多数フィラメ
ントは、通常通り、各フィラメントに通常オイリングロ
ーラを使用して集束剤を付与しながら収束されて、1本
の糸条としてボビンに巻取られる。
【0021】集束剤としては、例えば水、エチルアルコ
ール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコー
ル、ブチルアルコール、等のアルコール類又は粘度5〜
1000cst(25℃)のジメチルポリシロキサン、
アルキルフェニルポリシロキサン等を、低沸点のシリコ
ーン油(ポリシロキサン)又はパラフィン油等の溶剤で
稀釈したもの、又は乳化剤を入れて水に分散させたも
の;同様にグラファイト又はポリエチレングリコールや
ヒンダードエステル類を分散させたもの;界面活性剤を
水で稀釈したもの;その他通常の繊維、例えばポリエス
テル繊維に使用される各種油剤の内ピッチ繊維を犯さな
いものを使用することができる。
【0022】集束剤のピッチ繊維への付与量は、通常
0.01〜10重量%とされるが、特に0.05〜5重
量%が好ましい。
【0023】上述のようにして一旦ボビンに巻取られた
多数のフィラメントから成る糸条は、複数個の、例えば
2〜50個のボビンを同時に解舒することによって、又
は複数回に分けて、例えば1回目は2〜10本を、次い
で残余分をといつたように、解舒合糸を繰返し行なうこ
とによつて、2〜50本の糸条を合束(合糸)し、10
0〜100000本、好ましくは500〜10000本
のフィラメントからピッチ繊維束が製造され、他のボビ
ンに巻取られる。
【0024】斯る合糸時に、不融化時及び予備炭化時の
処理を考慮してピッチ繊維に耐熱性の油剤が付与され
る。耐熱性の油剤としては、アルキルフェニルポリシロ
キサンが好ましく、フェニル基を5〜80%、好ましく
は10〜50%含み、又、アルキル基としてはメチル
基、エチル基、プロピル基が好ましく、同一分子に2種
以上のアルキル基を有していても良い。又、粘度は25
℃にて10〜1000cstのものが使用される。更に
後述するような酸化防止剤を添加することもできる。
【0025】他の好ましい油剤としては、ジメチルポリ
シロキサンに酸化防止剤を入れたものが使用可能であ
り、粘度としては25℃で5〜1000cstのものが
好ましい。酸化防止剤としては、アミン類、有機セレン
化合物、フェノール類等、例えばフェニル−α−ナフチ
ルアミン、ジラウリルセレナイド、フェノチアジン、鉄
オクトレート等を挙げることができる。これらの酸化防
止剤は、上述したように、更に耐熱性を高める目的で上
記アルキルフェニルポリシロキサンに添加することも可
能である。
【0026】更に、好ましい油剤としては、上記各油剤
を沸点が600℃以下の界面活性剤を用いて、乳化した
ものを使用することもできる。このとき界面活性剤とし
ては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキ
シエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレン変性
シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等を
使用し得る。
【0027】これら油剤は、ローラ接触、スプレー塗
布、泡沫塗布等により、ピッチ繊維に0.01〜10重
量%、好ましくは0.05〜5重量%が付与される。
【0028】上述のように、合糸されたピッチ繊維に耐
熱性油剤を付与することにより、該ピッチ繊維は強度が
著しく強くなり糸扱い性が極めて向上する。
【0029】さて、繊維束とされたピッチ繊維は耐熱性
油剤を付与後に不融化されるが、本発明では、それに先
立って不融化の前処理として、高濃度のオゾンを含む酸
素含有雰囲気を有する前処理炉内にピッチ繊維束を線状
で連続的に通して、130〜220℃で極く短時間加熱
することにより、ピッチ繊維を予備的に不融化する。こ
れは、オゾンで速く不融化することにより、ピッチ繊維
の表面にスキン層を形成して、以後の不融化、予備炭化
及び炭化工程においてピッチ繊維間の融着が起こりづら
くすると共に、ピッチ繊維の内部の結晶性を大とし、炭
素繊維の弾性率を高くするのに有利とするためである。
【0030】これによる結果として、炭化後の炭素繊維
の融膠着度を20%以下に減少することができ、複合材
料にする際の糸扱い性が良好な炭素繊維を得ることがで
きる。
【0031】オゾンを含む酸素含有雰囲気中のオゾン含
有量は、十分な反応効果を得るために0.1wt%以上
必要であるが、10wt%を超えると過度の反応が起こ
り易く、予備的な不融化の目的が達成されない等の問題
が生じるので、0.1〜10wt%の範囲が良く、好ま
しくは0.3〜5wt%とする。
【0032】酸素含有雰囲気としては、空気、空気と酸
素の混合ガス、窒素と酸素の混合ガス又は酸素ガスが使
用される。
【0033】不融化の前処理における処理温度は、上記
したように130〜220℃とする。130℃未満であ
ると反応速度が遅く、ピッチ繊維の表面のみを選択的に
酸化するのが困難であり、逆に反応温度が220°を超
えると、オゾンが分解してしまい反応の促進効果が得ら
れなくなるので、いずれも好ましくない。
【0034】前処理の時間はスキン層のみを酸化させる
必要があることから5分以下であり、好ましくは0.2
〜2分とされる。
【0035】次いで、前処理したピッチ繊維は、前処理
炉に続くオゾンを含まない酸素含有雰囲気の不融化炉内
に連続的に線状で通して、速い昇温速度で最高温度25
0〜350℃まで加熱焼成することにより不融化する。
【0036】不融化時の加熱最高温度250〜350℃
までの昇温速度は、本発明では、既に前処理によりピッ
チ繊維の表面スキン層を酸化して安定化しているので、
不融化を急速に行なうことができることから、8〜40
℃/分の速い速度とする。従って不融化時間も短時間と
され、15分以下、好ましくは2〜13分とされる。
【0037】不融化の酸素含有雰囲気としては、空気、
空気と酸素の混合ガス、窒素と酸素の混合ガス又は酸素
ガスが使用されるが、好ましいガスとして酸素濃度20
〜90%の富酸素ガスが使用される。
【0038】不融化炉内の温度は250〜350℃の範
囲内のある一定温度とすることもできるが、炉入口より
炉出口にかけて250℃から350℃へと次第に増大す
る温度勾配を有するように設定することもできる。
【0039】本発明に従えば、前処理時及び不融化時
に、繊維束には張力をかけずに処理を行なうことができ
るが、不融化炉内での繊維束のたるみによる炉底、炉壁
を擦ることにより生じる引き摺り傷の発生防止、及び外
観が良く且つ引張強度、引張弾性率などの炭素繊維の物
性向上に寄与させるために、1フィラメント当たり0.
001〜0.2gの張力をかけながら前処理及び不融化
を行なうことが好ましい。
【0040】以上のようにして、ピッチ繊維を前処理
し、不融化して得られた不融化繊維は、不活性ガス雰囲
気とされた予備炭化炉内に通して予備炭化される。
【0041】予備炭化時の不活性ガス雰囲気に使用する
好ましいガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスが挙げ
られる。
【0042】本発明では、不融化繊維を予備炭化して得
られる予備炭素繊維が引張強度及び引張弾性率が向上し
た炭素繊維を得るのに有利なようにするために、この予
備炭化を、不融化繊維の溶融破断温度よりも30〜10
0℃低い温度まで急速に昇温して、繊維を短時間熱処理
しながら同時に延伸処理することにより実施する。
【0043】上記において、不融化繊維の溶融破断温度
とは、窒素雰囲気の一定温度(例えば400℃)に保持
された加熱部長さ2mの炉に不融化繊維束を10m/分
で通糸して(繊維束の昇温速度5000℃/分に相
当)、繊維の溶融により繊維束が切断する温度をいう。
繊維の溶融破断温度は、切断した繊維束を目視により観
察して繊維に溶融が認められたときの温度として得るこ
とができるが、正確には走査型電子顕微鏡による観察で
繊維の溶融を認めたときの温度として求められる。
【0044】上記のような不融化繊維の急速な昇温によ
る熱処理及びこれと同時の延伸処理からなる短時間の延
伸熱処理は、不融化繊維の溶融破断温度よりも30〜1
00℃低い温度まで昇温して行なわれるが、好ましくは
溶融破断温度より40〜80℃低い温度がよい。上記の
昇温が溶融破断温度より30℃低い温度を超える高い温
度まで行なわれると、繊維束に融膠着が起こって繊維束
が破断するので、好ましくない。又上記の昇温が溶融破
断温度よりも100℃低い温度未満の低い温度までであ
ると、繊維束の延伸が困難になるので、同様に好ましく
ない。
【0045】上記の溶融破断温度よりも30〜100℃
低い温度までの繊維束の昇温速度は、100〜5000
℃/分の速度が用いられるが、好ましくは500〜40
00℃/分である。昇温速度が100℃/分未満の場
合、繊維組織の熱重合や炭化が一部進みながら焼成され
るので十分な延伸ができにくくなり、逆に5000℃/
分を超える場合、昇温が速すぎて繊維束の通糸速度を速
めなければならず、繊維束の巻取り速度に問題が出て
来、やはり好ましくない。
【0046】上記の延伸熱処理は、例えば400℃とい
うような定温炉で行なってもよく、炉入り口部から出口
部にかけて300℃、400℃、500℃、600℃、
1100℃というように、段階的に高くした温度が保持
された温度傾斜炉で行なってもよい。
【0047】延伸熱処理の時間は、1〜300秒が用い
られるが、好ましくは5〜200秒℃の極く短時間であ
るのがよい。
【0048】延伸熱処理における延伸処理は、繊維束に
テンションを付与するか、2つのローラの差動により行
なわれ、いずれの方法によっても達成される。延伸時の
テンションは1フィラメント当たり0.001〜0.2
0gが付与される。
【0049】繊維束の延伸率は5〜100%、好ましく
は10〜80%とするのがよい。延伸率が5%未満では
十分な延伸効果が得られず、又100%を超えると、延
伸による繊維のダメージが多くなるので好ましくない。
【0050】延伸熱処理は1回で行なってもよいが、例
えば400℃で1度延伸し、引き続き500℃で延伸す
るというように複数回に分けて実施することもできる。
複数回に分けた場合には繊維のダメージが少なく、延伸
が容易にできるようになるので好ましい。
【0051】上記の延伸熱処理終了後、引き続き、不融
化繊維に対し延伸処理のない通常の予備炭化処理を行な
ってもよい。
【0052】従来であると、不融化繊維束は脆弱で、不
融化繊維束の予備炭化で繊維の切断や毛羽立ちが発生す
るのを避けようとすれば、予備炭化工程だけは繊維束に
テンションを掛けないか或いは掛けても取扱性が悪化し
ない最小限のテンションとして行なわざるを得ない状態
で、まして予備炭化の段階で積極的にテンションを掛け
て繊維束の延伸処理を加えることによっては、繊維の引
張強度、引張弾性率、圧縮強度の向上を図ることは不可
能であった。
【0053】これが、本発明では、不融化繊維の溶融破
断温度よりも30〜100℃低い温度まで急速に昇温し
て、短時間の延伸熱処理をすることにより、不融化繊維
の切断や毛羽立ちの発生を防止するだけでなく、テンシ
ョンを掛けて延伸処理しながら予備炭化をすることがで
きる。この予備炭化の際の不融化繊維への積極的なテン
ションを掛けた延伸処理により、繊維組織の配列性が高
まり、最終的に得られる炭素繊維の引張強度、引張弾性
率及び圧縮強度を有効に向上することが可能となる。
【0054】以上のようにして不融化繊維の予備炭化を
行なったら、得られた予備炭化繊維を続いて炭化炉で不
活性ガス雰囲気下にて最高温度1800〜2300℃ま
で加熱焼成して炭化し、黒鉛化すれば良い。これにより
1800〜2300℃の低温焼成で、低密度且つ200
0℃で焼成したときに65ton/mm2 以上の高弾性
のピッチ系炭素繊維を得ることができる。
【0055】尚、ピッチ繊維の配向度を高め、高弾性率
の炭素繊維を得易くするために、通常の紡糸よりも30
〜50℃程度高温度で紡糸(可紡糸温度の直近で紡糸)
することも実施される。
【0056】以上のようにして製造される本発明の炭素
繊維は、密度(ρ)が1.95〜2.20g/cm3
低密度で、繊維の引張弾性率が65ton/mm2 以上
の高弾性を示し、且つ融膠着度が20%以下と少なく繊
維の糸扱い性が良好で、X線構造パラメーターの積層厚
み(Lc002 )が80〜180Å、層間隔(d002 )が
3.39〜3.44Å、配向角(φ)が5.0°〜1
0.0°の範囲にある結晶構造を有し、且つこれら前記
密度、積層厚み、層間隔及び配向角が、8.0<ρ×L
002 /(φ×d002 )<15.0を満足するようにな
っている。
【0057】これらの繊維は、前述したように、180
0〜2300℃で焼成したときの焼成温度と、繊維の引
張弾性率との関係が次の式で表され、高温焼成により、
より高弾性率の糸が得られる。
【0058】Et=AT+B Et:繊維の引張弾性率,Ton/mm2 T:焼成温度,℃ A、B:定数。A=0.03〜0.05、B=−20〜
【0059】本発明の炭素繊維は、低温焼成で高弾性率
が得られるので、圧縮強度の高い繊維になる。又本発明
の炭素繊維は、引張強度が350kg/mm2 以上、破
断伸びが0.55%以上であり、低温焼成で弾性が高い
ばかりでなく、強度及び伸びにも優れる。
【0060】本明細書において、炭素繊維の特性は下記
の如き測定方法を採用して測定した。 ・X線構造パラメータ 配向角(φ)、積層厚さ(Lc002 )、層間隔(d
002 )は広角X線回折により求められる炭素繊維の微細
構造を表すパラメータである。
【0061】配向角(φ)は結晶の繊維軸方向に対する
選択的配向の程度を示すもので、この角度(φ)が小さ
いほど配向が良いことを意味する。積層厚さ(Lc
002 )は炭素微結晶中の(002)面の見掛けの積層の
厚さを表し、一般に積層厚さ(Lc002 )が大きいほど
結晶性が良いと見なされる。又層間隔(d002 )は微結
晶の(002)面の層間隔を表し、層間隔(d002 )が
小さい程結晶性が良いと見なされる。
【0062】配向角(φ)の測定は繊維試料台を使用
し、繊維束が計数管の走査面に垂直になっている状態で
計数管を走査して、(002)回折帯の強度が最大とな
る回折角2θ(約26°)を予め求める。次に計数管を
この位置に保持した状態で、繊維試料台を360°回転
することにより(002)回折環の強度分布を測定し、
強度最大値の1/2の点における半価幅を配向角(φ)
とする。
【0063】積層厚さ(Lc002 )、層間隔(d002
は繊維を乳鉢で粉末状にし、学振法「人造黒鉛の格子定
数および結晶子の大きさ測定法」に準拠して測定・解析
を行ない、以下の式から求めた。 Lc002 =Kλ/βcosθ d002 =λ/2sinθ ここで、K=1.0、λ=1.5418Å θ:(002)回折角2θより求める β:補正により求めた(002)回折帯の半価幅 ・密度(ρ) 密度勾配管にて測定した。 ・融膠着度 3000フィラメントからなる炭素繊維束を1.5mm
幅に切り取り、これをエタノールに浸漬し、30秒間エ
アーを吹き込み、その後顕微鏡下で20倍の倍率で融膠
着しているフィラメントの総本数(N)を数えることに
より、次の式にて求められる。
【0064】融膠着度=(N/3000)×100
(%) 融膠着度が少ない方が糸扱い性が良い。 ・圧縮強度 炭素繊維をエポキシ樹脂に含浸したサンプルをASTM
D3410に従って測定した。
【0065】
【実施例】
実施例1 接触分解タールを原料とし、熱分解重縮合により得た光
学的異方性相98%からなる軟化点268℃の炭素繊維
用ピッチを、500孔の紡糸口金を有する溶融紡糸機
(ノズル孔径:直径0.3mm)に通し、355℃で押
し出して紡糸した。
【0066】紡糸した500本のフィラメントはエアー
サッカーで略集束してオイリングローラに導き、糸に対
して約0.2重量%の割合で集束用油剤を供給し、50
0フィラメントからなるピッチ繊維を形成した。油剤と
しては、25℃における粘度が14cstのメチルフェ
ニルポリシロキサンを使用した。
【0067】該ピッチ繊維は、ノズル下部に設けた高速
で回転するボビンに巻き取り、約500m/分の巻き取
り速度で10分間紡糸した。
【0068】次いで、ピッチ繊維を巻いた前記ボビン6
個を解舒し、そしてオイリングローラを使用して耐熱性
油剤を付与しながら合糸し、3000フィラメントから
なるピッチ繊維束を形成し、他のステンレス製ボビンに
巻取つた。
【0069】合糸時に油剤としては25℃で40cst
のメチルフェニルポリシロキサン(フェニル基含有量4
5モル%)を使用した。付与量は糸に対し0.5%であ
つた。
【0070】このようにして得た、ボビン巻のピッチ繊
維を本ボビンから解舒しつつ、不融化の前処理炉とへと
送給した。
【0071】炉内の雰囲気はオゾン3%を含む酸素/窒
素=60/40の富酸素雰囲気であった。温度は190
℃、前処理時間は1.0分であった。
【0072】このピッチ繊維束を前処理炉に続く、炉入
口温度190℃、最高温度295℃の温度勾配を持つオ
ゾンを含まない酸素/窒素=60/40の富酸素雰囲の
不融化炉に連続的に線状で送給して、ピッチ繊維を不融
化した。昇温速度は8℃/分であり、不融化時間は13
分であった。ピッチ繊維には1フィラメント当たり0.
007g(3000フィラメントの繊維束に対し20
g)のテンションがかけられた。
【0073】不融化中、ボビンからのピッチ繊維の解舒
は円滑に行なわれ、不融化炉内での繊維の断糸もなく円
滑に不融化処理ができた。このようにして不融化された
不融化繊維束の窒素雰囲気中での溶融破断温度は450
℃であった。
【0074】この不融化繊維を、400℃(不融化繊維
束の溶融破断温度よりも50℃低い温度)の窒素雰囲気
の予備炭化炉に3000℃/分の昇温速度で通糸して、
熱処理と延伸処理を同時に行なう延伸熱処理を施すこと
により、不融化繊維を予備炭化した。
【0075】この延伸熱処理時間は25秒であった。繊
維束には1フィラメント当たり0.007gのテンショ
ンが付与された。延伸率は21%であった。1時間の連
続処理を行なったが、その間炉内での繊維束の断糸は生
じなかった。
【0076】次いで上記のように延伸熱処理による予備
炭化をされた繊維束を更に100℃/分で1000℃ま
で昇温して、通常の予備炭化をした。
【0077】このようにして得られた予備炭化繊維を窒
素ガス雰囲気中で2000℃まで昇温して炭素繊維を
得、ボビンに巻取った。
【0078】得られた炭素繊維は、密度(ρ)が2.1
4g/cm3 で、X線構造パラメーターの積層厚み(L
002 )が138Å、層間隔(d002 )が3.422
Å、配向角(φ)が7.0°であり、これらρ、Lc
002 、φ、d002 がρ×Lc002/(φ×d002 )=1
2.3で、本発明の範囲8.0<ρ×Lc002 /(φ×
002 )<15.0にあった。
【0079】上記の炭素繊維の糸径は8.9μmであ
り、引張強度は410kg/mm2 、引張弾性率は6
5.0ton/mm2 、伸び率は0.63%、圧縮強度
は48kg/mm2 であった。
【0080】この場合の炭素繊維の融膠着度は18%と
少なく、繊維から複合材料を作る際の糸扱い性が良好で
あった。
【0081】実施例2 芳香族炭化水素類の1種のナフタレンを原料として、こ
れを弗化水素、三弗化硼素の存在下で重合して得た軟化
点268℃の実質的に100%の光学的異方性相からな
るピッチを用い、320℃で溶融紡糸した。紡糸時の油
剤は実施例1と同じものを使用し、又実施例1と同様に
して合糸を行ない、3000フィラメントからなる繊維
束を得た。合糸の際の合糸油剤も同じものを使用した。
【0082】不融化の前処理は、オゾン3%を含む酸素
/窒素=60/40の富酸素雰囲気で行なった。温度は
190℃、前処理時間は1分であった。
【0083】このピッチ繊維束を炉入口温度190℃、
最高温度295℃の温度勾配を持つ、オゾンを含まない
酸素/窒素=60/40の富酸素雰囲気の不融化炉に、
実施例1と同様に連続で線状に通して、ピッチ繊維を不
融化した。昇温速度は20℃/分であり、不融化時間は
5分であった。
【0084】不融化中、ボビンからのピッチ繊維の解舒
は円滑に行なわれ、不融化炉内での断糸もなく、円滑に
不融化処理ができた。このようにして得た不融化繊維の
窒素雰囲気中での溶融破断温度は400℃であった。
【0085】この不融化繊維を350℃(不融化繊維の
溶融破断温度よりも50℃低い温度)の窒素雰囲気の予
備炭化炉に3000℃/分の昇温速度で通糸して、熱処
理と延伸処理を同時に行なう延伸熱処理を施すことによ
り、不融化繊維を予備炭化した。
【0086】この延伸熱処理の時間は25秒であり、繊
維束には1フィラメント当たり0.007gのテンショ
ンが付与された。延伸率は19%であった。1時間の連
続処理を行なったが、炉内での繊維束の断糸はなかっ
た。
【0087】次いで、この繊維束を実施例1と同様にし
て、100℃/分で1000℃まで昇温して、通常の予
備炭化を行ない、その後2000℃まで昇温して炭素繊
維を得た。
【0088】得られた炭素繊維は、密度(ρ)が2.1
6g/cm3 で、X線構造パラメータの積層厚さ(Lc
002 )が145Å、層間隔(d002 )が3.425Å、
配向角(φ)が7.5°であり、ρ×Lc002 /(φ×
002 )=12.2で、本発明の範囲の8.0<ρ×L
002 /(φ×d002 )<15.0にあった。
【0089】上記の炭素繊維の糸径は9.0μmであ
り、引張強度は410kg/mm2 、引張弾性率は7
0.0ton/mm2 、伸び率は0.59%、圧縮強度
は45kg/mm2 であった。
【0090】この場合の炭素繊維の融膠着度は9%と少
なく、繊維から複合材料を作る際の糸扱い性が良好であ
った。
【0091】比較例1 予備炭化繊維を1700℃で焼成して炭素繊維を得た以
外は、実施例1と同様に処理した。
【0092】得られた炭素繊維は、密度(ρ)が2.0
8g/cm3 で、X線構造パラメータの積層厚さ(Lc
002 )が60Å、層間隔(d002 )が3.448Å、配
向角(φ)が20°であり、ρ×Lc002 /(φ×d
002 )は1.80で、本発明の範囲外であった。
【0093】上記の炭素繊維の糸径は9.0μmであ
り、引張強度は310kg/mm2 、引張弾性率は3
5.0ton/mm2 、伸び率は0.88%、圧縮強度
は100kg/mm2 であり、引張弾性率の高い繊維が
得られなかった。
【0094】この場合の繊維の融膠着度は15%と少な
かった。
【0095】比較例2 予備炭化繊維を2400℃で焼成して炭素繊維を得た以
外は、実施例1と同様に処理した。
【0096】得られた炭素繊維は、密度(ρ)が2.1
4g/cm3 で、X線構造パラメータの積層厚さ(Lc
002 )が18.5Å、層間隔(d002 )が3.401
Å、配向角(φ)が6.2°であり、ρ×Lc002
(φ×d002 )は18.8で、本発明の範囲外であっ
た。
【0097】上記の炭素繊維の糸径は8.9μmであ
り、引張強度は420kg/mm2 、引張弾性率は8
0.1ton/mm2 であり、高い引張弾性率の繊維が
得られたが、圧縮強度は38kg/mm2 と少なく、伸
び率も0.52%と少なかった。又繊維の融膠着度は2
5%と大きく、複合材料を作る際の糸扱い性は良くなか
った。
【0098】比較例3 ピッチ繊維の不融化に先立ってその前処理を実施しなか
った以外は、実施例1と同様に処理した。
【0099】この場合、予備炭化繊維を2000℃に焼
成して得られた炭素繊維は、融膠着度が70%であり、
複合材料にする際の糸扱い性が著しく悪かった。
【0100】この炭素繊維は、密度(ρ)が2.16g
/cm3 で、X線構造パラメータの積層厚さ(Lc
002 )が14.5Å、層間隔(d002 )が3.420
Å、配向角(φ)が7.5°であり、ρ×Lc002
(φ×d002 )は5.3であった。
【0101】又炭素繊維は糸径9.8μmで、引張強度
が250kg/mm2 、引張弾性率が45ton/mm
2 、伸び率が0.55%、圧縮強度が49kg/mm2
と、実施例1と比べて低いものであった。
【0102】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のピッチ系
炭素繊維は、密度(ρ)が1.95〜2.20g/cm
3 の範囲にあり、X線構造パラメーターの積層厚み(L
002)が80〜180Å、層間隔(d002 )が3.3
9〜3.44Å、配向角(φ)が5.0°〜10.0°
の範囲にあり、且つ前記密度、積層厚み、層間隔及び配
向角が、式8.0<ρ×Lc002 /(φ×d002 )<1
5.0を満足する構成と規定したので、ピッチ系炭素繊
維は、密度が1.95〜2.20g/cm3 で繊維の引
張弾性率が65ton/mm2 以上の低密度で高弾性の
物性を備え、且つ融膠着度が20%以下と少なく、糸扱
い性が良好であり、然も1800〜2300℃の低温焼
成での炭化で得られる。

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 密度(ρ)が1.95〜2.20g/c
    3 の範囲にあり、X線構造パラメーターの積層厚み
    (Lc002 )が80〜180Å、層間隔(d00 2 )が
    3.39〜3.44Å、配向角(φ)が5.0°〜1
    0.0°の範囲にあり、且つ前記密度、積層厚み、層間
    隔及び配向角が下記式 8.0<ρ×Lc002 /(φ×d002 )<15.0 を満足し、繊維の融膠着度が20%以下で糸扱い性が良
    好であることを特徴とする高弾性率のピッチ系炭素繊
    維。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH0813255A (ja) * 1994-07-05 1996-01-16 Mitsubishi Chem Corp 超高弾性率かつ高強度を有する炭素繊維とその製造方法
JPH08296125A (ja) * 1995-04-26 1996-11-12 Tokai Carbon Co Ltd リン酸型燃料電池の多孔質電極基板用炭素繊維

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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