JPH05148061A - 中性化したコンクリートの補修方法 - Google Patents

中性化したコンクリートの補修方法

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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【目的】 鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリ
ート構造物及びプレストレストコンクリート構造物の補
修方法、特に、コンクリートのアルカリ度の低下により
中性化したコンクリート構造物の補修方法を提供する。 【構成】 コンクリート内部の鋼材を内部電極とし、コ
ンクリートの表面部に設置した電極を表面電極とし、コ
ンクリート表面と該表面電極の間に腐食抑制剤を含有す
る電解質溶液を存在させ、該内部電極と表面電極の間に
直流電流を流すことを特徴とする中性化したコンクリー
トの補修方法を構成とする。 【効果】 中性化したコンクリート構造物のpHを高め
て、再度コンクリートのアルカリ性を保持させることが
できるので、鋼材の不動体被膜の再形成が可能となる。
耐久性を回復したコンクリート構造物が、環境条件によ
って、再度、中性化したときでも、鋼材の不動体被膜が
保持され、コンクリートのpH低下による発錆という現
象を防げる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄筋やPC鋼材を補強
材とする鉄筋コンクリート構造物及びプレストレストコ
ンクリート構造物の補修方法、特に、コンクリートのア
ルカリ度の低下により中性化したコンクリート構造物の
補修方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】コンクリートは、一般には、
水、火、及び日光等の環境に対する抵抗性が強いもので
ある。
【0003】そして、コンクリートと鋼材を主たる材料
として構築した、鉄筋コンクリート構造物やプレストレ
ストコンクリート構造物などのコンクリート構造物は、
圧縮強度の強いコンクリートと引張強度の強い鋼材とを
組み合わせることによって、圧縮強度と引張強度の力学
的バランスを向上した構造体であり、それゆえ種々の重
要な土木・建築物等に広く使用されてきた。
【0004】さらに、コンクリートは、アルカリ度がp
Hで11〜14の強アルカリ性であるので、その内部にある
鋼材表面に不動体被膜を形成し、コンクリート内部の鋼
材の腐食は防止され、そのために、鋼材を包含するコン
クリート構造物は耐久性のある永久構造物であると考え
られてきた。
【0005】しかしながら、この永久構造物と考えられ
てきたコンクリート構造物も、種々の原因によりその耐
久性が低下し、構造物としての寿命に疑問が投げかけら
れるようになってきた。
【0006】また、コンクリート構造物が劣化する原因
の一つとして、コンクリートの中性化、例えば、「炭酸
化」と呼ばれる現象が挙げられる。
【0007】炭酸化とは、セメントの水和反応によって
生成された水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素と反
応して炭酸カルシウムとなる現象であって、炭酸化によ
り、コンクリートのアルカリ度が通常のpH11〜14より
低下する。そして、pHが10程度にまで低下すると鋼材
の不動体被膜が破壊され、鋼材の腐食がはじまり、コン
クリート構造物としての強度バランスが崩れ、その耐久
性が大きく低下することになる。
【0008】このようなコンクリート構造物の劣化は、
コンクリート内部の鋼材の発錆、コンクリートのひび割
れ、及びコンクリートの欠落という現象を引き起こし、
構造的にも、また、外見的にも大きな課題となってい
る。
【0009】そして、コンクリートの中性化現象は、炭
酸化以外に、酸化イオウ(SOX)や酸化窒素(NOX)によって
も同様に引き起こされている。
【0010】このような劣化したコンクリート構造物の
補修方法としては、鋼材の錆についてはその周囲のコン
クリートを、また、コンクリートのひび割れや欠落部分
についてはその部分のコンクリートを「はつり」取ったの
ち、新しいコンクリートやモルタルを充填する、いわゆ
る、断面修復方法が主体であった。
【0011】しかしながら、この断面修復方法では、鋼
材の発錆やコンクリートのひび割れ・欠落という目に見
える劣化現象についてのみ補修が可能であって、補修時
に劣化現象が確認できていない部分、即ち、潜在的には
コンクリートの劣化が進行しているが、表面的にはその
劣化が顕在化していない危険部分については、全く処置
を行うことができないという課題があった。
【0012】また、さらに、この断面修復方法では、コ
ンクリートが劣化した根本的な原因については、何ら対
策を行っておらず、劣化現象の根本的な解決は期待でき
るものではなかった。
【0013】このように従来全く処置を行うことができ
なかった潜在的な危険部分の課題解決や、劣化現象の根
本原因の課題解決を目的として、電気化学的な手法を用
いた補修工法が提案された(特開平1−176287号公報)。
この方法は、中性化したコンクリート部分にある鋼材と
コンクリート表面、または、アルカリ度がpHで11以上
のアルカリ性雰囲気中にあるコンクリート部分にある電
極との間に直流電流を流すことによって、アルカリ性雰
囲気中にあるアルカリ性物質、例えば、カルシウム、ナ
トリウム又はカリウムの水酸化物が移動し、中性化によ
り低下したコンクリート部分のpHが11以上になり、い
わゆる、再アルカリ化するものである。しかしながら、
ナトリウムやカリウムの水酸化物を使用すると、アルカ
リ骨材反応を促進するので、中性化による劣化現象を解
決できたとしても、新たにアルカリ骨材反応という別の
劣化現象を引き起こすことになり、コンクリート構造物
の全体的な耐久性を改善するという目的は達成されない
ものである。また、カルシウムの水酸化物では、アルカ
リ骨材反応については問題ないが、再アルカル化したコ
ンクリートといえども、時間の経過と共に、いずれまた
中性化するのであり、その時点でコンクリート内部の鋼
材の発錆が始まり、同様の補修を必要とするなどの課題
があり根本的な解決とはなり得なかった。
【0014】一方、コンクリート内部の鋼材の発錆を防
ぐために、亜硝酸塩等を主体とする腐食抑制剤を、劣化
したコンクリートに塗布して鋼材の腐食を防止する方法
が提案されている。しかしながら、コンクリートに塗布
しただけでは、腐食抑制剤がコンクリート内部にまで浸
透することはありえず、最終的には腐食抑制剤の効果が
乏しいという結果に終わるのが常であった。
【0015】本発明者等は、前記課題を解消すべく種々
検討した結果、特定の方法を採用することにより、前記
課題を解消し、コンクリート構造物の補修処理が充分に
行い得る知見を得て本発明を完成するに至った。
【0016】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、コンク
リート内部の鋼材を内部電極とし、コンクリートの表面
部に設置した電極を表面電極とし、コンクリート表面と
該表面電極の間に腐食抑制剤を含有する電解質溶液を存
在させ、該内部電極と表面電極の間に直流電流を流すこ
とを特徴とする中性化したコンクリートの補修方法であ
る。
【0017】以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】硬化したコンクリート内部には、飽和状態
の水酸化カルシウム水溶液が間隙水として充分に存在し
ている。そのため、コンクリートに直流電流を流すと、
この間隙水が電解質の役割をして、コンクリート自身が
持つ抵抗に応じた電流が流れる。しかし、中性化したコ
ンクリートでは、通常、コンクリート内部の電解質であ
るCa(OH)2水溶液が極度に減少しているために、電流を
流すことがかなり困難になっている。そのため、このコ
ンクリートに電解質溶液を与えることが重要となる。こ
の電解質溶液は、コンクリートに電流を流すことによっ
て、徐々にコンクリート内部へと浸透していく。
【0019】ここで、電解質溶液として、好ましいもの
はアルカリ性の溶液であるが、中性の溶液でも充分に使
用可能であり、さらに、各種の支持電解液を含有するも
のも充分に使用可能である。
【0020】アルカリ性の溶液中のアルカリイオンの発
生源としては、各種のアルカリ塩、例えば、ナトリウム
やカリウムなどのアルカリ金属塩や、カルシウムやマグ
ネシウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる
が、ナトリウムやカリウムの塩ではアルカリ骨材反応を
促進する可能性があるので好ましくなく、カルシウム、
リチウム、マグネシウム、及びアルミニウム等の塩が好
ましい。
【0021】また、電解質溶液のアルカリ度は、pHが
10程度より低くなると、鋼材が発錆しはじめるので、p
H10以上が必要であり、pH11以上がより好ましい。
【0022】本発明に係る腐食抑制剤(Corrosion inhib
itor)は、通常、防錆剤と呼ばれるものが使用可能であ
り、腐食が発生する可能性のある条件下で添加すること
によって、金属の腐食を著しく減少させる物質である。
腐食抑制剤としては、亜硝酸塩、クロム酸塩、ケイ酸
塩、及びリン酸塩等の無機系腐食抑制剤、並びに、有機
リン酸塩、エステル塩、有機酸類、スルホン酸類、アミ
ン類、アルキルフェノール類、メルカプタン類、及びニ
トロ化合物等の有機系腐食抑制剤が挙げられる。本発明
では、これらの中でアルカリ性のものや中性のものが使
用できるが、コンクリートの物性に与える影響が少ない
無機系のものの使用が好ましく、特に、亜硝酸塩がより
好ましい。さらに、アルカリ骨材反応の抑制の面から、
カルシウム、リチウム、マグネシウム、及びアルミニウ
ム塩が好ましい。具体的には、エヌエムビー社製商品名
「鉄筋コンクリート用防錆剤NR-1900」や「鉄筋コンクリー
ト用防錆剤NR-1950」、小野田社製商品名「鉄筋コンクリ
ート用防錆剤ラスナイン」、藤沢薬品工業社製商品名「鉄
筋コンクリート用防錆剤パリックC」、及び日産化学化
学工業製商品名「LN−25」等が挙げられる。
【0023】腐食抑制剤の使用量は、アルカリ性水溶液
濃度で0.1〜10mol/リットルが好ましく、0.5〜5mol/リットルが
より好ましい。
【0024】次に、本発明の腐食抑制剤含有の電解質溶
液が、電流を流すことによって、コンクリート内部に移
動していく原理について説明する。
【0025】一般にコンクリート中の毛細管空隙は電荷
を帯びており、しかも、強固に吸着した間隙水を保持し
ている。
【0026】したがって、コンクリート中の1つの空隙
に注目してみると、その空隙内にある間隙水の電荷の状
態は図1のようになる。即ち、空隙内にある間隙水は毛
細管表面との誘電率の差により、正(+)に帯電する。そ
の際、空隙との界面付近に「電気二重層」という電荷層を
持ち、その極性は図1に示す通りとなる。この状態でコ
ンクリートに電流を流すと、空隙中の間隙水の正(+)側
電位の液体が電流の陰極に引き寄せられるこよによっ
て、その空隙内の液体が移動という現象が起る。さら
に、ある空隙の間隙水が移動して間隙水がなくなると、
隣の空隙から液体が引き寄せられて移動してくる。
【0027】このようにして、液体の「電気誘導」という
現象を利用しながら、コンクリート表面に付加した電解
質溶液をコンクリート内部にまで強制的に浸透させるこ
とが可能である。従って、コンクリート表面に腐食抑制
剤をただ単に接触させるだけで、内部への浸透はコンク
リートの吸湿や毛細管現象に頼るだけの従来の方法より
も、「電気の力」を用いて、強制的に電解質溶液を移動さ
せる本発明の方がより効果的であることが理解できる。
【0028】ここで、本発明で使用する電解質溶液をコ
ンクリートに接触させる方法としては、コンクリート表
面に電解質溶液を保持する容器を設けて、その中に電解
質溶液を蓄える方法、または、電解質溶液をパルプや布
などの吸着剤に吸着させ、その吸着剤をコンクリート表
面に接触させる方法などが挙げられる。
【0029】以上のような方法で、電解質溶液を強制的
に中性化したコンクリート内部にまで浸透させることに
より、コンクリートのpHを11〜14にまで高め、さら
に、内部の鋼材の不動体被膜を再形成することによっ
て、「中性化」という現象を解消することが可能となる。
【0030】また、腐食抑制効果のある亜硝酸カルシウ
ムは、通常、セメントと一緒に混練するとセメントの偽
凝結を引き起こすため、まだ硬化していない状態のコン
クリートに混合したままでコンクリート補修に使用する
ことは難しいが、本発明の方法では、硬化しているコン
クリートに直接用いるため、セメントの偽凝結を引き起
こすなどの障害は起こらない。
【0031】さらに、電解質溶液に腐食抑制剤を用いる
ことにより、一度補修したコンクリート構造物が、再度
中性化してコンクリートのpHが低下した場合でも、鋼
材の腐食が抑制され、発錆現象を防止することが可能で
ある。
【0032】
【実施例】以下、本発明の実施例にもとづいて説明す
る。
【0033】実施例1 普通セメント/砂=1/2、水・セメント比60%のモル
タルを用いて、図2に示すような5×10×10cmの直方体
を作り、その中心にφ10mmの鋼棒をかぶり厚2cmに設置
して試験体を作製した。この試験体を材令28日まで室内
保管養生を行い、その後、炭酸ガス濃度80%の雰囲気
下、3kg/cm2の圧力に加圧された密閉容器に、2ヶ月間
保管して試験体を炭酸化した。つぎに、この試験体のか
ぶり厚が2cmとなっている2面以外の4面をエポキシ・
タール系の塗料で完全にシールした。一方、亜硝酸リチ
ウム水溶液(PH=11.5)を使用して、図3に示す通電装置
を用い、エポキシ・タール系の塗料でシールした試験体
に、4週間所定の電流密度の直流電流を流した。通電終
了時点で試験体を二つに切断し、その切断面にフェノー
ルフタレインを塗布して、赤色に変化した部分の試験体
の表面からの深さを測定した。結果を表1に示す。な
お、表1で電流密度は試験体の電解質溶液に浸漬してい
る部分の電流密度で、塗料でシールした部分を除く表面
積当たりの電流量を示す。また、赤色深さの「中心」と
は、試験体の割裂面全面が赤く変化したことを示す。
【0034】<使用材料> セメント:普通ポルトランドセメント、電気化学工業社
製 砂 :姫川産川砂 鋼棒 :磨き鋼棒 亜硝酸リチウム:日産化学化学工業社製商品名「LN-25」、25
%水溶液(PH=11.5)
【0035】
【表1】
【0036】実施例2 電解質溶液を、亜硝酸リチウム水溶液、亜硝酸カルシウ
ム水溶液、及び水酸化カルシウム水溶液と変化させ、炭
酸化した試験体を用いて電流密度を1.0A/m2としたこ
と以外は実施例1と同様に直流電流を流した。その後、
再度、実施例1と同様に炭酸化処理を行い、20℃80%RH
にて1ヶ月放置後、試験体を切断して内部の磨き鋼棒の
発錆の状況を調べた。結果を表2に示す。
【0037】<使用材料> 亜硝酸リチウム :日産化学化学工業社製 亜硝酸カルシウム:日産化学化学工業社製 水酸化カルシウム:和光純薬工業社製、試薬1級
【0038】
【表2】
【0039】実施例3 築後約20年経過しており、中性化深さが約35mmである、
高さ1m、長さ5m、厚み25cmの鉄筋コンクリート製の防
油堤に補修実験を行った。この防油堤のコンクリートを
部分的にはつり、コンクリート内部の鉄筋を内部電極と
し、さらに、コンクリートの表面に直径4mmで間隔10cm
ワイヤーメッシュを固定した後、亜硝酸カルシウム溶液
を含ませた紙パルプを吹き付け、表面電極を形成した。
内部電極と表面電極間に、電流密度1.0A/m2の直流電
流を1ヶ月間流し、電気的に電解質溶液をコンクリート
内部へ浸透させた。1ヶ月後、コンクリート表面の外部
電極と紙パルプとを取り除き、高さ50cmの位置で端部か
ら50cm間隔のピッチでΦ5×10cmのコア抜きを行い、コ
ンクリートの中性化深さを測定した。その結果、コアリ
ングしたコンクリート全体にわたって、フェノールフタ
レインで赤色に変化したので、中性化していた部分のp
Hが高くなり、再アルカリ化が可能になったことが確認
できた。
【0040】
【発明の効果】本発明では、中性化したコンクリート構
造物のpHを高めて、再度コンクリートのアルカリ性を
保持させることができるので、鋼材の不動体被膜の再形
成が可能となる。従って、コンクリートと鋼材との組み
合わせによるコンクリート構造物の耐久性をほぼ完ぺき
に回復させることができる。また、耐久性を回復したコ
ンクリート構造物が、環境条件によって、再度、中性化
したときでも、本発明の方法では、鋼材の不動体被膜が
保持され、コンクリートのpH低下による発錆という現
象を防ぐことが可能となり、従来にない信頼性の高い補
修工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の基本原理である電気浸透の概
略であり、コンクリート中にある一つの空隙についての
模式図である。
【図2】図2は、試験に用いた試験体の斜視図である。
【図3】図3は、試験に用いた時の電流の通電方法を示
す。
【符号の説明】
1 磨き鋼棒 2 モルタル硬化体 3 エポキシタール塗料 4 容器 5 電解質溶液 6 コンクリートの表面電極 7 直流電源 8 可変抵抗器 9 電流計

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 コンクリート内部の鋼材を内部電極と
    し、コンクリートの表面部に設置した電極を表面電極と
    し、コンクリート表面と該表面電極の間に腐食抑制剤を
    含有する電解質溶液を存在させ、該内部電極と表面電極
    の間に直流電流を流すことを特徴とする中性化したコン
    クリートの補修方法。
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