JP4112098B2 - コンクリート硬化体の処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造物及びプレストレストコンクリート構造物などのコンクリート硬化体の処理方法、特に、コンクリート硬化体の表面や内部に存在する細孔中に、表面が正(+)に帯電した微粒子を充填し、コンクリート硬化体を緻密にすることによりコンクリート硬化体の耐久性を向上させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
鉄筋やPC鋼材などの鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造物やプレストレストコンクリート構造物などのコンクリート硬化体は、圧縮強度の高いコンクリートと引張強度の高い鋼材とを組み合わせることによって、力学的に圧縮強度と引張強度のバランスの取れたコンクリート硬化体となり、それゆえ種々の重要な構造物に広く使用されてきた。
【0003】
また、コンクリート硬化体は、一般には、水、火、及び日光等の環境に対する耐久性が強く、また、コンクリートのアルカリ度がpHで11〜14の強アルカリ性であるので、その内部にある鋼材は鋼材表面に不動態被膜を形成して腐食から保護され、そのために、コンクリート構造物は耐久性のある永久構造物であると考えられてきた。
しかしながら、この永久構造物と考えられてきたコンクリート構造物も、種々の原因によりその耐久性が低下し、構造物としての寿命に疑問が投げかけられるようになってきた。
【0004】
コンクリート構造物が劣化する原因の一つとして、コンクリート硬化体の中性化現象があり、例えば、「炭酸化」と呼ばれる現象等が挙げられる。
炭酸化とは、セメントの水和反応によって生成した水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)と反応して炭酸カルシウムとなる現象であって、炭酸化により、コンクリート中のアルカリ度が通常のpH11〜14より低下する。そして、pHが10程度にまで低下すると鋼材表面の不動態被膜が破壊され、鋼材の腐食がはじまり、コンクリート構造物としての強度バランスが崩れ、その耐久性が大きく低下することになる。
このような耐久性の低下などのコンクリート構造物の劣化は、コンクリート硬化体内部の鋼材の錆、コンクリート硬化体のひび割れ、及びコンクリート硬化体の欠落という現象を引き起こし、構造的にも、外見上も、大きな課題となっている。
そして、このようなコンクリート硬化体の中性化現象は、炭酸化の炭酸ガス以外にも、酸化イオウ(SOx) や酸化窒素(NOX)によっても同様に引き起こされている。
【0005】
また、海岸近辺にあるコンクリート構造物では、海水の飛沫が飛んできて、コンクリート硬化体表面に付着し、その海水中に含まれている塩分が、コンクリート硬化体中の空隙を通って、コンクリート硬化体内部に浸透する。そしてこの塩分がコンクリート硬化体内部の鉄筋の位置までくると、その塩素イオンにより、鋼材の不動態被膜が破壊され、腐食がはじまる。
さらに、コンクリート材料として使用される細骨材に海砂が用いられ、その塩分除去が不十分であると、コンクリート製造時から多量の塩化物を含有することとなり、鋼材表面の不動態被膜形成が不十分となり腐食がはじまる。
このような原因で、鋼材に腐食が発生し、さらに、コンクリート硬化体のひび割れ、欠落、及び剥離等に進展し、コンクリート構造物としての耐久性が大きく低下してコンクリート構造物が劣化する。このような現象を一般に「塩害」と呼んでいる。
【0006】
このようなコンクリート構造物の劣化はコンクリート硬化体の緻密性が大きく影響し、緻密性に劣るコンクリート硬化体は劣化が早く、適切な処理方法が必要となる。
劣化したコンクリート構造物の処理方法としては、コンクリート硬化体のひび割れや欠落部分についてはその部分のコンクリート硬化体を「はつり」取ったのち、新しいコンクリートやモルタルを充填する、いわゆる、断面修復が主体であった。
しかしながら、この方法は、コンクリート硬化体が劣化した根本的な原因については、何ら対策を行っておらず、劣化現象の根本的な解決は期待できるものではなかった。
【0007】
このような、潜在的な危険部分の課題解決や、根本原因の課題解決を目的として、電気化学的な手法を応用した処理工法やコンクリート硬化体内部の鉄筋を陰極にして電気的に防食する工法が提案されている(特開平1−176287号公報、特開平2−302384号公報)。
さらに、コンクリート硬化体を劣化する物質がコンクリート硬化体内部へ浸入するのを防ぐためにコンクリート硬化体表面のコーティングによる処理方法も提案されている。
この方法は、前記断面修復法や電気化学的手法による処理を行った後の最終仕上げ法として用いられる他、単独に用いられる場合もある。
【0008】
コンクリート硬化体表面をコーティングする方法は、ポリマー系や含浸塗料等による塗装をコンクリート硬化体表面に行うことにより、炭酸ガス、塩分、水分、及び酸素等のコンクリート硬化体を劣化する物質の浸入を防ぐ方法であるが、通常、塗装部にはピンホールがあり、ピンホール部分でのコンクリート成分と大気中の物質との反応によりコンクリートが劣化し、剥離が生じてしまうなどの課題があった。
【0009】
本発明者はこのような状況に鑑み、前記課題を解消すべく種々検討した結果、特定の処理方法を採用することにより、前記課題を解消し、コンクリート構造物の改質・改善が充分に行い得るという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、コンクリート硬化体の表面及び/又はコンクリート硬化体内部の細孔中に、塩化カルシウムの溶液中に分散させることによりチタニアの微粒子表面にカルシウムイオンを吸着させて表面が正(+)に帯電した微粒子を充填するコンクリート硬化体の処理方法であり、コンクリート硬化体の表面及び/又はコンクリート硬化体の表面近傍に設置した電極を外部電極とし、コンクリート硬化体内部の鋼材を内部電極とし、外部電極間及び/又は外部電極と内部電極間に電流を流して、該細孔中に表面が正(+)に帯電した微粒子を充填するコンクリート硬化体の処理方法である。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
コンクリート硬化体の表面及び/又は内部の細孔とは、コンクリート硬化体の表面やコンクリート硬化体内部に存在する連通する細孔であり、コンクリート硬化時の水分蒸発や結晶水の消失などにより生じるものである。
この細孔の径は、数オングストローム(Å、10-10m)〜数ミリ(10-3m)の広範囲におよび、連通孔としては、通常、数十〜数百μm程度のものであるが、比較的大きな細孔同志を連通孔が繋いでいるようなものもある。
細孔量は、コンクリート材料の種類、配合、及び混練方法等によっても変化するものであり、配合時の水の配合量によって大きく変化するものである。
細孔量は、個数で表すことは困難であり、細孔の体積を全て合計した空隙量とコンクリート硬化体の全体積の割合である空隙率の大小で、細孔量の大小を示すことが通常行われており、通常のコンクリート配合で、水/セメント比(W/C)が50〜60%では空隙率が12%程度であり、W/Cが多くなると空隙率も高くなる。
本発明は、コンクリート硬化体の表面及び/又は内部の細孔中に表面が正(+)に帯電した微粒子を供給し、それを細孔中に充填し、細孔の空隙を埋めて、コンクリート構造物の緻密性を向上し、最終的にコンクリート硬化体の耐久性を向上するものである。
本発明での処理後の最終細孔径は、コンクリートにより処理前の細孔径が種々変化するため一義的には決定できないが、表面が正(+)に帯電した微粒子の充填によって、例えば、水銀ポロシメーターにより測定できる50%空隙量の細孔半径として、250Å以下にすることが好ましく、150Å以下にすることがより好ましい。
【0013】
本発明で使用する表面が正(+)に帯電した微粒子(以下、カチオン化微粒子という)とは、細孔の径より小さいものであり、粒子の表面電位がプラスに帯電した微粒子を意味するものである。
ここで、微粒子とは特に限定されるものではないが、具体的には、チタニアなどの微粒子が挙げられる。
これらの微粒子をコンクリート硬化体の表面及び/又は内部の細孔中に充填すれば物理的作用によりコンクリート硬化体は緻密化し、耐久性が向上する。
また、微粒子がチタニアの場合は、シリカ質のように化学反応は起こさないが、光触媒としての機能を保有しており、炭酸ガスや窒素酸化物などの汚染ガスを分解できるので環境問題の面から好ましい。
微粒子の粒度は、平均粒径が5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。5μmを越えるとコンクリート硬化体の表面及び/又は内部の細孔中に充填されないおそれがある。
【0014】
微粒子の表面を正(+)に帯電する(以下、カチオン化という)方法としては、微粒子を水溶性アルカリ金属塩及び/又は水溶性アルカリ土類金属塩の溶液中に分散させることにより、微粒子表面にアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンを吸着してカチオン化させる方法等がある。
【0015】
ここで、アルカリ金属やアルカリ土類金属の具体例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウム等が挙げられ、これらの塩化物、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩、及び水酸化物等の水溶液が使用可能であるが、コンクリート硬化体の耐久性の面から、カルシウム塩が好ましい。
【0016】
本発明は、コンクリート硬化体の表面やコンクリート硬化体内部の細孔中にカチオン化微粒子を供給し、細孔中に充填させることでコンクリート硬化体の処理を行うものである。
カチオン化微粒子をコンクリート硬化体の表面や内部の細孔中に供給する方法は、カチオン化微粒子が細孔中に充填されれば特に限定されるものではなく、いかなる方法でも可能であるが、カチオン化微粒子がまんべんなくコンクリート硬化体表面や内部に充填する面からコンクリート硬化体の表面及び/又はコンクリート硬化体の内部に電流を流すことが好ましい。
【0017】
また、カチオン化微粒子を、土中のコンクリート構造物に供給する場合は、通常、コンクリート構造物が土と接している境界部分にカチオン化微粒子を含有する溶液を流し込み、常時供給する方法が考えられる。
しかしながら、コンクリート構造物が埋まっている箇所の土壌は区切りがなく、カチオン化微粒子を含有する溶液が逸散する可能性があるため、コンクリート構造物から僅かに離れた箇所の土壌に溶液溜めを設けることが好ましい。溶液溜めを設けることが困難な場合は、カチオン化微粒子を保持する保持材料を使用することが好ましい。
【0018】
コンクリート硬化体の表面に設置した電極を外部電極とし、コンクリート硬化体内部の鋼材を内部電極とし、外部電極間及び/又は外部電極と内部電極間に電流を流す。
外部電極としては導電性のものであれば特に限定されるものではないが、金属を使用する場合は、腐食が発生しないように貴金属メッキ等の処理を行ったものが好ましい。
また、内部電極としては、コンクリート硬化体の内部鉄筋を使用することも可能であり、特別に導電性物質をコンクリート硬化体内部に配置することも可能である。
【0019】
本発明では、カチオン化微粒子を外部電極間や、外部電極と内部電極間に存在させることが必要である。
カチオン化微粒子を外部電極間や、外部電極と内部電極間に存在させる方法は特に限定されるものではないが、カチオン化微粒子を含有する溶液をコンクリート硬化体表面に塗布したり吹き付けたり、コンクリート硬化体表面に容器を設けてその中にカチオン化微粒子を含有する溶液を保持する方法などが可能である。
これらのうち、コンクリート硬化体表面に容器を設けて、その中にカチオン化微粒子を含有する溶液を保持する方法が通常行われるが、その他、カチオン化微粒子を含有する溶液を吸着又は保持する保持材料を用いてコンクリート硬化体表面に供給することも好ましい。
【0020】
保持材料としては、パルプ、布、及び不織布等の繊維状物質又はそのシート、ゼオライト、シラスバルーン、及び発泡ビーズ等の多孔質材料、並びに、吸水性の有機高分子等の一種又は二種以上の使用が可能である。
【0021】
カチオン化微粒子を電気的にコンクリート硬化体内部へ供給する方法としては、コンクリートの壁体の場合、壁をはさむように、カチオン化微粒子の保持材料が存在する一方の表面に陽極を、他方の表面又はコンクリート硬化体内部の鉄筋に陰極を設ける。柱の場合、1つ以上の表面に陽極を、他の表面又は内部鉄筋に陰極を設ける。床の場合、上面に陽極を、下面又は内部鉄筋に陰極を設け、外部電極間及び/又は外部電極と内部電極間に電流を流す方法が可能である。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の実験例にもとづいて説明する。
【0023】
実験例1
各単位量が、セメント280kg/m3、水168kg/m3、細骨材860kg/m3、粗骨材1,002kg/m3、及びAE減水剤0.7kg/m3の配合のコンクリートを調製し、断面の中心に公称径10mmの異形鉄筋を埋設するようにして、φ15cm、高さ30cmの円柱コンクリート供試体を作製した。
この供試体を表1に示すカチオン化微粒子の懸濁液に浸漬し、供試体の周囲にチタンメッシュを表面から10mmの間隔になるように設置した。
次に、チタンメッシュを陽極に、コンクリート硬化体内部の異形鉄筋を陰極にして、コンクリート硬化体表面積1m2当たり1Aとなるように直流電流を流した。この状態で2週間電流を流した後、大気中に1週間放置した。
この処理を行った後、中性化深さ、平均細孔半径、塩分浸透量、及び透水係数を測定した。結果を表1に併記する。
【0024】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製
細骨材 :姫川産川砂
粗骨材 :姫川産砕石、Gmax20mm
水 :水道水
AE減水剤:主成分ポリカルボン酸系、市販品
カチオン化微粒子b:分析用チタニアを0.05mol/lの塩化カルシウム溶液中に分散させたもの、平均粒径1μm
チタンメッシュ:エルテックコーポレーション社製、商品名「エルガードメッシュ#210」
【0025】
<測定方法>
中性化深さ :供試体を30℃、相対湿度60%、炭酸ガス濃度10%の条件で2週間促進中性化させ、供試体を輪切りにして断面にフェノールフタレイン溶液を塗布して呈色反応より、中性化深さをノギスで計測
平均細孔半径:供試体の表面から5mm深さまでのモルタル部分の細孔径を水銀圧入式ポロシメータで測定
塩分浸透量 :供試体の全面をエポキシ樹脂で塗布し、30℃、10%NaCl水溶液中への浸漬を200日間行った後に、表面から深さ5cm部分までを切断し、塩分量を測定
透水係数 :供試体表面から2cmまでを切断し、透水試験用試料とし、円板状の試験片の片面に水圧を加え、試験片を通る浸透流量より透水係数を算出
【0026】
【表1】
【0027】
【発明の効果】
本発明では、コンクリート硬化体の表面又は内部の細孔中にカチオン化微粒子を充填させることによりコンクリート硬化体の緻密性を向上させ、コンクリート硬化体の劣化原因となる因子を遮断することによりコンクリート構造物の耐久性を向上することができる。
そして、コンクリート硬化体の外部に電極を設置し、コンクリート硬化体内部の鉄筋を一方の電極とし、電極間に処理溶液を保持し電流を流すことにより、また、コンクリート硬化体表面及び/又は内部の細孔中にカチオン化微粒子をより多くかつ深い位置にまで充填させることによりコンクリート硬化体の緻密性をより一層向上させコンクリート構造物の耐久性を向上させることができる。
Claims (2)
- コンクリート硬化体の表面及び/又はコンクリート硬化体内部の細孔中に、塩化カルシウムの溶液中に分散させることによりチタニアの微粒子表面にカルシウムイオンを吸着させて表面が正(+)に帯電した微粒子を充填することを特徴とするコンクリート硬化体の処理方法。
- コンクリート硬化体の表面及び/又はコンクリート硬化体の表面近傍に設置した電極を外部電極とし、コンクリート硬化体内部の鋼材を内部電極とし、外部電極間及び/又は外部電極と内部電極間に電流を流して、該細孔中に表面が正(+)に帯電した微粒子を充填することを特徴とする請求項1記載のコンクリート硬化体の処理方法。
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