JPH04223401A - 光学部品用薄膜及びこれを有する光学部品及びその製造方法 - Google Patents

光学部品用薄膜及びこれを有する光学部品及びその製造方法

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JPH04223401A
JPH04223401A JP2414523A JP41452390A JPH04223401A JP H04223401 A JPH04223401 A JP H04223401A JP 2414523 A JP2414523 A JP 2414523A JP 41452390 A JP41452390 A JP 41452390A JP H04223401 A JPH04223401 A JP H04223401A
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thin film
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Abstract

(57)【要約】本公報は電子出願前の出願データであるた
め要約のデータは記録されません。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、反射防止膜等として用
いられる光学部品用薄膜に関し、特にプラスチックレン
ズ上に形成するに好適な光学部品用薄膜に関するもので
ある。
【0002】
【従来の技術】従来、光学部品の反射防止膜としては、
屈折率が低く、可視域での吸収が少ないMgF2 膜が
汎用されている。このMgF2 膜は、ガラスからなる
光学部品の用の反射防止膜として真空蒸着法により実用
化され、今日までに至っている。
【0003】しかし、真空蒸着法によりMgF2 膜を
形成する場合、蒸着時及び蒸着後に高温(200〜40
0℃)で加熱しなければ、光学的及び機械的性能を十分
に満足させることはできない。従って、光学部品がプラ
スチックからなる場合、熱変形等の理由から、MgF2
 膜を形成することは非常に困難である。このため、現
在のところMgF2 膜はプラスチックレンズ等には実
用化されていないのが実情である。
【0004】光学部品用薄膜を常温で形成する試みとし
ては、Hollandらが、”LMartinu,H 
 Biederman  and  L  Holla
nd,Vacuum/vol.35/number  
12/p531〜535/1985”(文献1)の中で
スパッタリングによる方法について記載している。
【0005】Hollandらは、この文献の中で、1
)スパッタリングガスとしてArガスを使って作成した
膜ではMgF2 蒸着膜と同等の低い屈折率(n=1.
38〜1.42)が得られる。2)スパッタリングで形
成したMgF2 膜で可視域での吸収が生じるのは、プ
ラズマ中のF−イオンが基板ホルダ側に励起される負の
プラズマポテンシャルにより反発するため、薄膜内に取
り込まれるF重量が不足することと、プラズマ中での水
の解離により励起されたO− イオンとMg+ イオン
との酸化反応により形成されるMgOによる。と述べて
いる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、本発明者らが
上記のHollandらの文献に基づいて、スパッタリ
ングによってMgF2 膜を作成したところ、後述の比
較例でデータを示すように、Arガスを用いても低屈折
率の薄膜は得られなかった。
【0007】また、基板ホルダ側にRFのバイアスをか
けてMgF2 膜を作成し、光学特性を検討したが、基
板側のプラズマポテンシャルが負電位であるか否かとと
いうことと、薄膜の光学特性の間にHollandらが
述べているような関係は認められなかった。
【0008】この他、MgF2 膜を高温処理せずに作
成する方法としては、IAD法(Ion  assis
ted  deposition)が考えられる。しか
し、このIAD法は、分子容を大きくする(イオン半径
の大きいイオンを導入して配位数を高め、充填率を高く
する)方法であるため、得られたMgF2 膜の屈折率
は蒸着膜に比べて高くなってしまう。
【0009】更に、IAD法でMgF2 膜を作成する
場合、機械的性能を上げるためには、かなり高いイオン
電流密度を必要とするため、イオン損傷による膜の内部
応力の変化に対する影響が大きく、光学特性の経時的安
定性に問題点がある。
【0010】また、プラスチックレンズ用の低屈折率膜
としては、二酸化ケイ素(SiO2 )が用いられるこ
とがあるが、SiO2 の屈折率はn=1.47程度と
高く、反射率が高くなってしまう。
【0011】この発明は、かかる点に鑑みてなされたも
のであり、蒸着法によるMgF2 膜と同等以上の光学
特性及び機械特性を有し、かつ、高温処理が不要で、プ
ラスチックレンズ等にも支障なく用いることのできる光
学部品用薄膜を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明においては、光学
部品用薄膜を、Mg,Si,O及びFからなる無機化合
物で構成することによって、上記の課題を達成している
。また、MgSiOF膜の光学特性の経時安定性を向上
させるためには、無機化合物中のSi濃度を3〜10w
t%とすると良い。この際の各元素の好ましい原子比の
範囲は次のようである。
【0013】 F/Mg=(1.3/1)〜(1.6/1)O/Mg=
(0.4/1)〜(0.7/1)Si/Mg=(0.1
/1)〜(0.3/1)
【0014】本発明のMgSi
OF膜は、MgF2 とSiをプラズマ中で反応させる
方法、具体的にはスパッタリング等によって作成するこ
とができる。スパッタリングの条件は、求める光学的特
性等に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、M
gF2 とSiをターゲットとし、スパッタリングガス
としてArとO2 を用いて、バックグランド圧力を1
.1×10−3Pa程度、スパッタリンガス圧6×10
−1Pa程度とすると良い。
【0015】
【作用】本発明において、MgSiOF膜の屈折率が低
くなる理由としては、薄膜を構成する無機化合物の分子
屈折の変化が考えられる。つまり、Si4+の陽イオン
は一定のイオン屈折をもっているが、O2−のイオン屈
折だけは、その結合状態によって変化する。この意味は
Si4+はイオン半径が小さいため、隣接するO2−を
分極せさる作用が大きいということである。
【0016】また、SiとFとのプラズマ中での反応を
考えると、化学式(1) のSiとラジカルF原子との
間に電荷移動相互作用による安定化(ラジカルF原子は
電気陰性度が大きいから、電子を受入れることによって
安定化する)が起こるため、化学式(2) の生成物が
生ずるものと考えられる。その結果、Si−Si結合が
F原子により分極されて曲げられ、Si−Si間距離が
変化する。これに伴って、Si−O−Siの結合角も変
化し、それによって分子屈折が変化するものと考えられ
る。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】ここで実際にSi−Si間距離を求めてみ
た。Si−Si間距離を求める式は次のように表わされ
る。 dSi−Si =2γ0 sin(θ/2)…(1) 
γ0 :Si−O結合距離(1.60  )θ:Si−
O−Si結合角 また、θは(2) 式によって求められる。
【0020】
【数1】
【0021】ここで、ωS を図1(後述)より106
6cm−1としてθを求めるとθ=137.6°が求ま
る。 これを(1) 式に代入してやるとdSi−Si =2
.98  が求められる。
【0022】以上から求められた値を、Siをターゲッ
トとし、ArとO2 の混合ガスを用いてスパッタリン
グでSiOX 薄膜を形成した場合(dSi−Si =
3.04,θ=144°)と比較すると、Si−Si間
距離は短くなっていて、Si−O−Si結合角も小さく
なっている。
【0023】これらのことは、F原子による分極作用に
よるものと考えられる。また、上述のSiOX 薄膜(
ターゲット:Si,スパッタリングガス:(Ar+O2
 )赤外吸収スペクトルから、波数1068cm−1に
おけるSiOX のXの値は1.72と測定されている
。SiO1.72の屈折率は約1.5であることから、
本発明によるMgSiOF膜の屈折率が低くなっている
原因としてSi−F結合によるSi−Si,Si−O−
Si結合への分極作用が関連性が深いものと考えられる
【0024】以上説明してきたように本発明では、屈折
率を低くする方法として、分子屈折を変化させるため(
結合角を小さくする)、スパッタリング中の酸素イオン
による分子容の変化を抑制でき、IAD法による膜のよ
うに屈折率が高くならず(酸素イオンが取り込まれて分
子容が大きくなると屈折率が高くなる)、MgF2 蒸
着膜と同等の屈折率を得ることができる。
【0025】次に、本発明のMgSiOF膜の光学特性
の経時安定性について述べる。MgSiOF膜を反射防
止膜等として用いるにあたって、屈折率を低い一定の値
に保つ必要がある場合、薄膜中のSi濃度を調整するこ
とで屈折率の経時変化を抑えることができる。
【0026】本発明者らの検討結果によれば(具体的な
データは実施例で説明)、薄膜中のSi濃度が低い場合
、Si濃度が高すぎる場合に比べてSiOX の割合が
低下してSi−F2 結合の割合が高くなる。具体的に
は、Si濃度を3〜10wt%程度とすることで、屈折
率の経時安定性が向上する。この理由は、Si濃度が低
い場合、より結合エネルギーの高いSi−Fの結合が促
進されることにより、Siのダングリングボンドの不動
態化が行なわれるものと推測される。
【0027】次に、本発明と公知文献に記載の発明の違
いについて言及しておく。まず、前述したHollan
dらの文献(1) の薄膜にはかなりの量のAlとOが
X線光電子分光測定により検出されているが、文献(1
) には薄膜中にAlとOが存在することと薄膜の屈折
率の関係については一切記載されてはいない。
【0028】また、Hardingの”High  R
ate  DC  Reactive  Sputte
red  Metal−Oxy−Flyorine  
Dielectric  Materials”Thi
n  Solid  Films  vol.138(
1986),279−287(文献2)には、Alター
ゲットを使ってO2 とCF4 の混合ガスを用いた反
応性スパッタリングにより薄膜を作成すると、屈折率が
n=1.40の薄膜ができることが記載されている。し
かしこの文献においても、Alが膜中に取こまれたこと
と屈折率との関連性については一切述べられていない。 この文献では、AlとO2だけでは屈折率はn=1.6
6になってしまい、屈折率を低くするためにはAlとO
2 ,CF4 が必要であることが示されている。
【0029】本発明者らは、Alを含む薄膜の屈折率が
低くなる理由について鋭意検討した結果、陽イオンのA
l3+とO2−イオンの持つイオン半径比によって配位
状態が変化し、更に、F− イオンによるAl−O結合
への分極作用が起こり、Al−OとAl−Alの原子間
距離が変化するため、分子屈折が変化することにより屈
折率か低くなるものと推察した。以上のような推論から
、本発明者らはAl3+よりもイオン半径が小さく隣接
イオンを分極する作用が大きい物質としてSi4+及び
B3+を考え、Siを薄膜中に取り込むことで本発明を
なすに至った。下記に、Al,Si,Bのイオン半径を
示す。
【0030】さて、ここで、特開昭60−64301号
公報(文献3)には、蒸発材料中にSiO2 を添加し
て、真空蒸発法によってSiO2を含む混合物からなる
反射防止膜を形成することが記載されている。しかし、
この文献3の反射防止膜におけるSiO2 は、あくま
で反射防止膜中に混在しているに過ぎず、本発明のMg
SiOF膜のように他の原子と化学結合しているもので
はない。即ち、F及びSiを含む材料を蒸発させて薄膜
を作成しても、本発明のようにSi−Fの結合はできず
、Si−F結合の分極作用によつて屈折率の低下を図る
本発明と上記の文献3の発明とは本質的に異なるもので
ある。
【0031】また、特開平2−47256号公報及び米
国特許4849081号明細書(文献4)にはSi,T
i,Al,Sn及びこれらの組み合わせからなる群から
選ばれた元素を含むターゲットを用い、酸素と塩素を含
むプラズマ中でスパッタリングすることにより、酸化物
薄膜を得ることが記載されている。しかし、この文献に
記載の発明の特徴は、スパッタリングガス中に塩素を含
有させることで、膜の付着速度を向上させることにあり
、Siの存在と屈折率の関係については何等記載されて
いない。実際、この文献の実施例に示された薄膜の屈折
率の値は2以上と高いものになっている。従って、文献
4についても本発明の構成と効果を何等示唆するもので
はない。
【0032】
【実施例】実施例:1 図1は、本実施例で用いたスパッタ装置(日電アネルバ
株式会社製SPF−530H)の構成を示す概略図であ
る。本実施例では、MgF2 ターゲット(6inch
)1上にSiウエハ(3inch)2を1枚設置し、真
空室3にアルゴン4及び酸素5を40SCCMと20S
CCMそれぞれ導入し真空室内の圧力を6×10−1P
aになるようバリアブルオリフィス6にてクライオンポ
ンプ7の排気速度を調整した。またガス導入前のバック
グランドの圧力は、1.1×10−3Paとした。Mg
F2 ターゲット1にはパワー500WのRF(高周波
)をかけ、基板8にMgSiOF膜を付着させた。スパ
ッタリング中は基板8の加熱は行わなかった。
【0033】上記のようにして、得られたMgSiOF
膜の屈折率はn=1.40〜1.41,吸収係数はα=
2〜3×105 (m−1)(波長λ=400nm)で
あり、光学部品用薄膜として十分な光学特性を有するも
のであった。
【0034】実施例:2 図2は実施例1の応用例を示すスパッタ装置の概略図で
ある。本実施例では、MgF2 ターゲット1とSiタ
ーゲット2を別々のホルダーに載置し、MgF2 ター
ゲット1にはRF電源を接続し、Siターゲット2には
DC電源を接続した。図2のようなスパッタ装置を用い
、MgF2 ターゲット1とSiターゲット2にそれぞ
れRF,DC電圧を印加して、実施例1と同様の条件で
MgSiOF膜を作成した。
【0035】このようにして得られたMgSiOF膜の
屈折率はn=1.40〜1.41,吸収係数はα=2〜
3×105 (m−1)(波長λ=400nm)であり
、光学部品用薄膜として十分な光学特性を有するもので
あった。
【0036】実施例:3 図1で説明した同様なスパッタ装置を用い、MgF2 
ターゲット上にSiウエハ(2inch)を1枚のせて
、スパッタリングガスとしてAr,Ar+O2 ,O2
 +CF4 ,O2 を各々導入し、スパッタリング条
件を変動させて薄膜を形成した。その時のスパッタリン
グ条件及び得られた各薄膜の光学特性を表1に示す。
【0037】表1に示されるように、Arガスを使用し
た場合、バックグラウンドの圧力を低くすると(3.2
×10−5Pa)、膜の屈折率はn=1.38と低い値
になった。O2 +CF4 の場合、膜の屈折率はn=
1.37〜1.43位で、可視域では吸収がほとんど生
じていない透明な膜ができた。
【0038】Ar+O2 の場合、O2 流量を40S
CCMと一定にして、スパッタガス圧力変化させた場合
、膜の屈折率はスパッタガス圧力が高くなるにつれ、低
くなる傾向を示した。この時Arガスの流量も同時に変
化させたが、Arガスの流量による膜の屈折率への影響
は小さかった。また、Arガス流量を40SCCMと一
定にしてO2 流量を変化させた場合、O2 /Arの
流量比が1/2以上の時、最も低い屈折率n=1.40
近くのものが得られた。
【0039】しかし、スパッタリング条件(ガスの種類
や圧力等)によって、屈折率に大きな差はなく、いずれ
の場合も後述する比較例に比べて低い屈折率が得られて
いることがわかる。
【0040】なお、表1での吸収係数の測定波長は40
0nmであり、ガスの種類によって顕著な違いは認めら
れないが、O2 +CF4 ガスを用いた場合、Ar+
O2 ガスを用いた場合に比べて、短波長側での吸収が
大きくなるため、300〜400nm程度の波長域での
透過率についても問題とする場合は、Ar+O2 ガス
を使用することが好ましい。
【0041】
【表1】
【0042】実施例:4 次に、屈折率の経時変化について検討した結果について
説明する。本発明者らは、まず、水との酸化反応により
形成されるSiOHなる反応生成物が経時変化に関連し
ているものと考え、これらのことを確証するため、Ar
+O2 ガスを使って作成したMgSiOF膜の赤外吸
収スペクトル分析を行い、薄膜の屈折率の経時変化を調
べた。この結果を図3に示す。
【0043】図3からわかるように、形成後3日後と1
2日後の薄膜の赤外吸収スペクトルを比較すると、93
5cm−1付近のSi−OH伸縮モードの変化が大きい
。 また1066cm−1のSi−O伸縮モードの透過率の
半値幅が、12日後の薄膜の方が狭くなっている。これ
らのことから、膜形成からの日数の長いものは、水との
酸化反応により薄膜内部の結合ひずみが緩和されたもの
と解釈できる。つまり、スパッタリング中に起こる水の
解離イオンOH− とSi4+イオンとの反応生成物と
してSiOHが形成され、大気中の水との酸化反応によ
り、薄膜内部の結合ひずみの変化により屈折率の経時変
化が生ずるものと考えられる。
【0044】次に、スパッタリング中の残留ガスの変化
を四重極型質量分析計(マスフィルタ)で調べた結果を
図4に示す。図4において、スパッタリングを行なう前
の真空室内のバックグランドの圧力が高い場合は、H2
 O−1,siOH−1で示し、バックグランドの圧力
が低い場合はH2 O−2,SiOH−2で示してある
。図4における縦軸は各質量数のイオン電流(≒分圧)
を表わし、横軸は時間である。バックグランドの圧力が
高い条件(H2 O分圧が高い)では、水のイオンH2
 O−1と共にSiOH−1の分圧も低くなる傾向を示
し、バックグランドの圧力が低い条件(H2 O分圧が
低い)では、水のイオンH2 O−2はほぼ一定に推移
し、SiOH−2に関してもスパッタリング開始時及び
終了時に変化するだけでスパッタリング途中ではほぼ一
定に推移している。
【0045】また、図4の測定で用いた薄膜について、
屈折率の大気中での経時変化及び透過光の中心波長の変
化を調べた結果を図5に示す。図5を見ると、水分圧の
高低によらず屈折率は同じような変化を示し、透過光の
中心波長については、むしろ水分圧の低い条件で作成し
た方が経時変化が大きいことがわかる。
【0046】図4と図5の結果を併て考えると、屈折率
の経時変化を起こしている原因はスパッタ中の水の解離
により形成されるSiOHが膜中に取込まれることによ
り、大気中にさらされて水と酸化反応を起こすためであ
ると考えられるものの、水分圧の相違による差はそれほ
ど大きく依存しているものとは思われない。むしろ、水
分圧の低い条件で作成した方が薄膜中の中心波長の変化
が大きいことがわかる。なお、図4,図5で説明した測
定で用いた薄膜中のSi濃度は、15〜20wt%であ
った。
【0047】次に、経時変化の検討の中で、膜厚874
  のものの屈折率の経時変化が小さい結果が得られた
ため、膜厚1000  前後の3つのMgSiOF膜試
料について、膜厚及び屈折率の経時変化を調べた。この
とき、薄膜中のSi濃度は、膜厚874  の薄膜と同
じく約5wt%とした。この結果を図6に示す。図6か
ら、膜厚によって、特に経時変化の様子に差はなく、図
6で用いた薄膜は何れも屈折率が安定していることがわ
かる。
【0048】続いて、MgSiOF膜の赤外吸収スペク
トルの分析結果について説明する。図7に示されるよう
に、本発明のMgSiOF膜について波数920cm−
1および832cm−1のSi−F2 ,及び850c
m−1  Si−Fの存在が確認され、本発明のMgS
iOF膜はSi−F2 ,Si−Fなる結合を有してい
ることがわかる。
【0049】本発明者等は、結合エネルギーの高いSi
−F2 結合に着目し、このSi−F2 結合が多い場
合薄膜の経時変化が生じにくいくいのではないかと推察
し、更に検討を重ねた。図8,図9は、Si含有量5w
t%のMgSiOF膜とSi含有量20wt%のMgS
iOF膜の赤外線吸収スペクトルを示したものである。
【0050】図9において、Si濃度が低い場合(Si
:5wt%)、825cm−1のSi−F2 結合基の
ピークが顕著に現われる。これに対し、Si濃度が高い
場合(Si:20wt%)、このSi−F2 結合基の
ピークは現われない。
【0051】また、図8において、Si濃度が低いと、
1066cm−1のSiOX のピークはなだらかに広
がり、Si濃度が高い場合と比較して相対的にSiOX
 のピークが低くなっている。
【0052】図8,9の赤外線吸収スペクトルと、図5
,6の経時変化の測定結果から、Si濃度が低い場合、
より結合エネルギーの高いSi−Fの結合が促進される
ことにより、Siのダングリングボンドの不動態化が行
なわれ、これによって光学特性の経時変化が抑えられる
と考えられる。
【0053】実施例:5 本発明によるMgSiOF膜の機械的性能を検討した結
果を以下に示す。試料としては、基板は全て青板ガラス
を用い、基板を270℃にして蒸着法でMgF2 膜を
形成したもの、常温でMgF2 蒸着膜を形成したもの
、スパッタリングにより本発明のMgSiOF膜を形成
したものを用意した。密着性については、4〜5kg/
cm2 でのセロハンテープテストによる引き剥がしテ
ストを行ない、耐溶剤性については、薄膜表面をシルボ
ン紙にアセトンをしみこませて十数回強く拭いた。また
、耐擦傷性については、#0000のスチールウールを
使って荷重800gをかけ、往復50回/30秒こする
ことを行なった。これらの試験の結果は次のようになっ
た。
【0054】
【0055】また、本発明によるスパッタリングMgS
iOF膜(常温作成)と蒸着MgF2 膜(270℃加
熱)とのヌープ硬度を比較した結果を図10に示す。ヌ
ープ硬度の測定は、明石製作所製のマイクロビッカース
硬度計MVK−G3500ATを用いて行ない、負荷を
10g,15g,25gとした。基板は両者共ホウケイ
酸ガラス(青板)を使用した。その他の比較例として青
板単体と溶融石英板の測定結果も併せて記載した。図1
0から、本発明によるMgSiOF膜は、蒸着MgF2
 膜(270℃加熱)よりもヌープ硬度が高く、溶融石
英とほぼ同程度の硬度を持つことがわかる。
【0056】更に、スパッタリングMgSiOF膜(常
温作成)と蒸着MgF2 膜(270℃加熱)の基板対
する付着強度を調べた結果を図12(MgSiOF膜)
,図11(MgF2 膜)に示す。基板は両者共ホウケ
イ酸ガラス(青板)を使用し、付着強度の測定は、スク
ラッチテスタSST−100(島津製作所製)を用いて
行なった。測定条件は、スクラッチ速度:10μm/s
ec,カートリッジ振幅:100μm,最大付加:50
gf,負荷速度:2μm/secとした。
【0057】図12に示されるように、MgSiOF膜
は、40gfまで荷重を増加させても膜は剥離しなかっ
た。しかし、MgF2 膜については、図11からわか
るように、10gfから膜が破砕し始め、24gfで完
全に剥離した。
【0058】以上の結果から、本発明によるMgSiO
F膜は、従来のMgF2 膜よりも格段に機械的強度が
優れていると言える。
【0059】実施例:6 スパッタリングMgSiOF膜(常温作成)と蒸着Mg
F2 膜(270℃加熱)について、片面に膜を付けた
場合の分光透過率を検討した結果を図13に示す。基板
は両者共ホウケイ酸ガラス(青板)を使用した。図13
から、MgSiOF膜は従来から反射防止膜として使用
されているMgF2 膜と同等の光学性能を有し、可視
域ではほぼ94%の透過率であることがわかる。
【0060】なお、上記に説明した実施例では、スパッ
タリングによって、MgSiOF膜を作成しているが、
スパッタリングに限らず、イオンプレーティング等の他
のプラズマを利用した成膜方法によっても本発明のMg
SiOF膜を作成できる。また、上記の例ではターゲッ
トとしてMgF2 とSiウエハを用いているが、Si
の細片をMgF2 中に混在させたものをターゲットと
して用いても良い。
【0061】比較例:1 MgF2 をターゲットとし、スパッタリングガスとし
て、Ar,Ar+O2 ,O2 +CF4 ,Ar+C
F4 をそれぞれ真空室へ導入して、MgF2 膜を作
成し、スパッタリングによるMgF2 膜の光学特性を
調べた。この結果をスパッタリング条件とともに表2に
示す。表2からわかるように、スパッタリング条件を変
動させても、低い屈折率(n=1.38〜1.40)の
ものは得ることができず、屈折率はn=1.51〜1.
61位と高い値となった。また、吸収係数についても、
α(λ0 )=1×105 〜2×106 m−1(λ
0 =400nm)の範囲であり、光学的性能上から反
射防止膜としては使用するのには問題があった。
【0062】
【表2】
【0063】比較例:2 MgF2 をターゲットとし、基板ホルダー側にRFバ
イアスをかけてスパッタリングによってMgF2 膜を
作成した。スパッタリングガスとしては、Ar,Ar+
O2 ,O2 +CF4 ,Ar+CF4 を使用し、
スパッタリング条件を変動させてみた。この結果を表3
に示す。表3からわかるように、Ar+CF4 を使用
した場合、バックグランドの圧力を低くして(6〜9×
10−5Pa)作成した薄膜の屈折率がn=1.39〜
1.41位になり、バックグラウンドの圧力を高くした
場合(1〜2×10−4Pa)の薄膜の屈折率かn=1
.56〜1.58位と高くなつた。この両条件(Ar+
CF4 ガス使用、バックグランド圧力高,低)で作成
した時の基板ホルダ側に発生したプラズマポテンシャル
電位を測定したところ、両者とも負の電位(約−100
V〜−200V)を示していた。
【0064】またArガスを使って同様に基板側にRF
のバイアスをかけた場合、作成した薄膜の屈折率はほと
んど高い値(n=1.44〜1.70)を示した。そし
てこの場合も、基板ホルダ側には負の電位が発生した。 また、作成した膜には全てに可視光における吸収が生じ
ており、安定して低吸収、低屈折率の膜は得られなかっ
た。
【0065】前述したように、本発明者らが実験した表
3の結果とHollandらの文献1の記載内容とは一
致していない。つまり、文献1によれば、Arガスを使
って作成した膜では低い屈折率(n=1.38〜1.4
2)が得られるはずであるが、今回我々の行った結果で
は、Arガスを使用しても低い屈折率の膜は得られなか
った。また、Ar+CF4 ガスを使って基板ホルダ側
にRFのバイアスをかけた場合、プラズマポテンシャル
は負の電位になっているにもかかわらず、屈折率は低い
値(n=1.39〜1.41)を示した。
【0066】
【表3】
【0067】
【発明の効果】以上のように、本発明によるMgSiO
F膜は、MgF2蒸着膜と同等の低屈折率で、可視域で
の吸収がほとんどなく、かつ、常温で作成できるため、
プラスチックレンズ等耐熱性の低い光学部品の反射防止
膜や保護膜等として好適に用いることができる。本発明
のMgSiOF膜の屈折率は、これまで、プラスチック
レンズ用の低屈折率膜として用いられてきた二酸化ケイ
素の屈折率と比べて大幅に低くなっているので、反射率
を低減することができる。
【0068】更に、本発明のMgSiOF膜は、結晶構
造が緻密であり、機械的強度が従来の光学部品用薄膜に
比べて向上しているので、耐久性、耐衝撃性に優れる。 また、水アカ等が付着しても簡単に取り除けるため、現
在メガネのプラスチックレンズ等で行われているような
発水性を持つ有機系コート膜を施す必要性もないという
利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例で使用したスパッタリング装置の
概略図である。
【図2】本発明実施例で使用したスパッタリング装置の
変形例を示す概略図である。
【図3】MgSiOF膜の赤外線吸収スペクトルを示す
線図である。
【図4】スパッタリング中の残留ガスの変化を四重極型
質量分析計(マスフィルタ)で調べた結果を示すグラフ
である。
【図5】MgSiOF膜の光学特性の経時変化を示すグ
ラフである。
【図6】MgSiOF膜の光学特性の経時変化を示すグ
ラフである。
【図7】MgSiOF膜の赤外線吸収スペクトルを示す
線図である。
【図8】MgSiOF膜の赤外線吸収スペクトルを示す
線図である。
【図9】MgSiOF膜の赤外線吸収スペクトルを示す
線図である。
【図10】MgSiOF膜及び比較品のヌープ硬度の測
定結果を示すグラフである。
【図11】MgF2 蒸着膜の付着強度の測定結果を示
すグラフである。
【図12】MgSiOF膜の付着強度の測定結果を示す
グラフである。
【図13】MgSiOF膜及びMgF2 蒸着膜の分光
透過率を示すグラフである。
【符号の説明】
1  MgF2 ターゲット 2  Siウエハ 3  真空室 4  アルゴンガス 5  酸素ガス 6  バリアブルオリフィス 7  クライオンポンプ 8  基板 9  マスフローコントロール

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】Mg,Si,O及びFからなる無機化合物
    で構成された光学部品用薄膜。
  2. 【請求項2】前記無機化合物中のSi濃度が、3〜10
    wt%であることを特徴とする請求項1記載の光学部品
    用薄膜。
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