以下、本発明に係る歯科用接着キットの好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
本実施形態に係る歯科用接着キットは、分子内に主鎖として炭素数が8~16のアルキル基又はアルキレン基を有し、かつ2価のリン酸基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、光重合開始剤(c)及びフィラー(d)を含む1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)と、ポルトランドセメント粉末(e)及び無機フィラー(f)を含む歯科用セメント組成物(Y)とを備え、前記ポルトランドセメント粉末(e)の含有量が60~90質量%であり、前記無機フィラー(f)の含有量が10~40質量%であり、前記自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)を光硬化させた硬化物の曲げ弾性率が1.5~6GPaの範囲である。
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、これと類似の表現(「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリロニトリル」等)についても同様である。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
本発明の1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)(以下、単に「自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)」と称することがある)は、歯科用セメント組成物(
Y)の硬化物(以下、「MTAセメント硬化物」と称することがある)との接着性の観点から、光硬化させた硬化物の曲げ弾性率が1.5~6GPaの範囲であり、2~6GPaの範囲が好ましく、2.5~6GPaの範囲がより好ましく、光照射による自己接着性歯科用コンポジットレジンの硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着強さにより優れる点から、3~6GPaの範囲がさらに好ましい。硬化物の曲げ弾性率の測定方法は後述する実施例に記載のとおりである。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化物の曲げ弾性率が1.5GPa未満である場合、硬化物の機械的強度として不十分である。また、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化物の曲げ弾性率が6GPaを超える場合、歯科用セメント(Y)硬化物との界面で剥離が生じやすくなる。その結果、光照射による自己接着性歯科用コンポジットレジンの硬化直後(以下、「光硬化直後」と称することがある)におけるMTAセメント硬化物に対する接着性が低下してしまう。
本発明の歯科用接着キットが本発明の効果が奏される機序は明らかではないが、以下のように推定される。強度の低いMTAセメント硬化物に対し、高い曲げ弾性率を有する自己接着性歯科用コンポジットレジンを接着させた場合、光硬化直後にMTAセメント硬化物との接着界面に応力が集中し、自己接着性歯科用コンポジットレジンの硬化直後における接着強さを安定して得ることができない。一方で、適切な自己接着性歯科用コンポジットレジンの曲げ弾性率を選択して他の成分と組み合わせることにより、MTAセメント硬化物界面への応力集中が緩和され、自己接着性歯科用コンポジットレジンが光硬化直後においてもMTAセメント硬化物に対して優れた接着強さを示しているものと推定される。
以下、本発明の歯科用接着キットに用いられる各成分について、説明する。
・1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物は、分子内に主鎖として炭素数が8~16のアルキル基又はアルキレン基を有し、かつ2価のリン酸基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、光重合開始剤(c)及びフィラー(d)を含む。
<分子内に主鎖として炭素数が8~16のアルキル基又はアルキレン基を有し、かつ2価のリン酸基を有する単量体(a)>
本発明に用いられる分子内に主鎖として炭素数が8~16のアルキル基又はアルキレン基を有し、かつ2価のリン酸基を有する単量体(a)(以下、「リン酸基を有する単量体(a)」と称する)は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、リン酸基を有する単量体(a)を含むため、リン酸基を有する点に加えてリン酸基を有する単量体(a)の主鎖における長鎖スペーサーの構造に起因して他の成分と組み合わせた際に硬化物が耐水性により優れ、口腔内の湿潤状態という厳しい条件下における自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後においても、MTAセメント硬化物に対してより良好な接着性を示すことができる。リン酸基を有する単量体(a)の炭素数は、8~12が好ましい。リン酸基を有する単量体(a)の具体例を下記する。
リン酸基を有する単量体(a)としては、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルジハイドロジェンホスフェート、14-(メタ)アクリロイ
ルオキシテトラデシルジハイドロジェンホスフェート、15-(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
上述のリン酸基を有する単量体(a)の中でも、歯質への接着強さ、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着強さ及び硬化物の耐水性が良好である観点から、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェートが好ましく、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートがより好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましい。
リン酸基を有する単量体(a)の含有量は、歯質への接着強さ、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着強さ及び該硬化物の耐水性が良好である観点から、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、1~40質量部であることが好ましく、2.5~35質量部であることがより好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。
本発明における自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、リン酸基を有する単量体(a)以外の酸性基を有する単量体を含んでいてもよい。ある実施形態では、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、リン酸基を有する単量体(a)以外の酸性基を有する単量体を実質的に含まない、歯科用接着キットが挙げられる。本明細書において、リン酸基を有する単量体(a)以外の酸性基を有する単量体が有する酸性基としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
<酸性基を有しない単量体(b)>
酸性基を有しない単量体(b)としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1);25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)(以下、単に「疎水性単量体(b-2)」と称することがある);25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性単量体(b-3)(以下、単に「親水性単量体(b-3)」と称することがある)が挙げられる。酸性基を有しない単量体(b)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において、酸性基を有さず、アクリルアミド基とメタクリロイルオキシ基とを含有する化合物を非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)とし、酸性基を有さず、かつ非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に含まれない化合物を、親水性の程度に応じて、疎水性単量体(b-2)と、親水性単量体(b-3)とに分ける。
・非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)
ある好適な実施形態としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)をさらに含む、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の歯質に対する接着性、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性などを向上させることから、下
記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
式中、Zは置換基を有していてもよいC
1~C
8の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基又は芳香族基であって、前記脂肪族基は、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR
1-、-CO-NR
1-、-NR
1-CO-、-CO-O-NR
1-、-O-CO-NR
1-及び-NR
1-CO-NR
1-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合
基によって中断されていてもよい。R
1は、水素原子又は置換基を有していてもよいC
1~C
8の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基を表す。
Zは、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の親水性を調整する部位である。Zで表される置換基を有していてもよいC1~C8の脂肪族基は、飽和脂肪族基(アルキレン基、シクロアルキレン基(例えば、1,4-シクロへキシレン基等))、不飽和脂肪族基(アルケニレン基、アルキニレン基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキレン基)であることが好ましい。Zは、歯質に対する接着性、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性及び重合硬化性の観点から、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のC1~C4の脂肪族基であることが好ましく、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のC2~C4の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基としては、アルキレン基が好ましい。前記C1~C8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。
Zで表される置換基を有していてもよい芳香族基としては、例えばアリーレン基、芳香族性ヘテロ環基が挙げられる。前記芳香族基としては、アリーレン基が、芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環又は6員環であることが好ましい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基が好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、及び1,3,5-トリアジン環が挙げられる。前記芳香族基のうち、フェニレン基が特に好ましい。
R1における脂肪族基としては、飽和脂肪族基(アルキル基)、不飽和脂肪族基(アル
ケニル基、アルキニル基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキル基)が好ましい。R1における前記C1~C8の直
鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
R1としては、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のC1~C4のアルキル基がより好ましく、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖状若しく
は分岐鎖状のC1~C3のアルキル基がさらに好ましい。
Zの前記脂肪族基が前記結合基によって中断されている場合、結合基の数は特に限定されないが、1~10個程度であってもよく、好ましくは1個、2個又は3個であり、より好ましくは1個又は2個である。また、前記式(1)において、Zの脂肪族基は連続する前記結合基によって中断されないものが好ましい。すなわち、前記結合基同士が隣接しないものが好ましい。結合基としては、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NH-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CO-O-NH-、-O-CO-NH-及び-NH-CO-NH-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基がさらに好ましく、-O-、-S-、-CO-、-NH-、-CO-NH-及び-NH-CO-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基が特に好ましい。
Zにおける置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の具体例としては、特に限定されないが、以下に示すものが挙げられる。
この中でも、歯質に対する接着性、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性及び重合硬化性の観点から、Zが置換基を有していてもよいC2~C4の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基である非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物が好ましく、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドがより好ましく、象牙質のコラーゲン層への浸透に関わる親水性の高さの観点からMAEA、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミドがさらに好ましい。
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の
含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、1~60質量部が好ましく、2~45質量部がより好ましく、3~30質量部がさらに好ましく、5~25質量部が特に好ましい。
・酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)
酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性、硬化物の機械的強度などを向上させる。疎水性単量体(b-2)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性単量体(b-2)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の単量体を意味する。疎水性単量体(b-2)としては、例えば、芳香族化合物系の二官能性単量体、脂肪族化合物系の二官能性単量体、三官能性以上の単量体などの架橋性の単量体が挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性単量体としては、例えば、下記一般式(2)
(式中、R
12及びR
13は水素原子又はメチル基であり、R
14及びR
15はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基又は炭素数1~3のアルキル基であり、s、t、u、及びvは0~6の整数であり、p及びqは0~8の整数であって、同じであってもよく、それぞれ互いに異なっていてもよい。)
で表される芳香族ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。芳香族化合物系の二官能性単量体の具体例としては、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス
(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、例えば、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
三官能性以上の単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、硬化物の機械的強度及びハンドリング性の観点で、芳香族化合物系の二官能性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性単量体が好ましく用いられる。芳香族化合物系の二官能性単量体としては、Bis-GMA、D-2.6Eが好ましい。脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、3G、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、DD、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、UDMAが好ましい。
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)として用いた場合の歯質に対する接着性、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性が良好である観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、DDがより好ましく、D-2.6E、3G、Bis-GMAがさらに好ましい。
疎水性単量体(b-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における疎水性単量体(b-2)の含有量
は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、20~99質量部が好ましく、40~95質量部がより好ましく、60~95質量部がさらに好ましい。疎水性単量体(b-2)の含有量が前記上限値以下であることで、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の歯質への濡れ性が低下して接着性が低下することを抑制しやすく、同含有量が前記下限値以上であることで、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性に優れ、所望の硬化物の機械的強度が得られやすい。
・酸性基を有しない親水性単量体(b-3)
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、酸性基を有しない親水性単量体(b-3)を含むことが好ましい。親水性単量体(b-3)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の歯質への濡れ性を向上させる。親水性単量体(b-3)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性単量体(b-3)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性単量体としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロプレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。親水性単量体(b-3)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)などの親水性の単官能性(メタ)アクリレート系単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリヒドロキシメチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドなどの親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体などが挙げられる。
これらの親水性単量体(b-3)の中でも、歯質に対する接着性、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。親水性単量体(b-3)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における親水性単量体(b-3)の含有量は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、0~50質量部の範囲が好ましく、0~40質量部がより好ましく、0~30質量部がさらに好ましい。親水性単量体(b-3)の含有量は単量体の総量100質量部において、0質量部であってもよい。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における親水性単量体(b-3)の含有量が前記下限値以上であることで、自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する十分な接着性の向上効果が得られやすく、前記上限値以下であることで、所望の硬化物の機械的強度が得られやすい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、50~99質量部が好ましく、60~97質量部がより好ましく、70~95質量部がさらに好ましい。また、歯質に対する接着性の観点から、疎水性単量体(b-2)と親水性単量体(b-3)の質量比((b-2):(b-3))は10:0~1:2であることが好ましく、10:0~1:1がより好ましく、10:0~2:1がさらに好ましい。
ある好適な実施形態としては、二官能性以上の(メタ)アクリルアミド系単量体を実質的に含まない、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。また、他の好適な実施形態としては、三官能性以上の(メタ)アクリルアミド系単量体を実質的に含まない、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。本発明において、「ある重合性化合物を実質的に含まない」とは、当該重合性化合物の含有量が、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物に含まれる重合性化合物の総量100質量部において、0.5質量部未満であり、0.1質量部未満であることが好ましく、0.01質量部未満であることがより好ましく、0質量部であってもよい。また、実質的に含まれない当該重合性化合物の含有量は、組成物全体において、0.5質量%未満であってもよく、0.1質量%未満であってもよい。また、本発明において、「実質的にある特定の成分のみから構成される」とは、当該特定の成分以外の他の成分を、実質的に含まないことを意味する。例えば、当該特定の成分以外の他の成分の含有量としては、5.0質量%未満が好ましく、1.0質量%未満がより好ましく、0.5質量%未満がさらに好ましく、0.1質量%未満が特に好ましい。
他のある好適な実施形態としては、(メタ)アクリル系ブロック共重合体を実質的に含まない、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、例えば、1.
02~2.00であってもよい。分子量分布は、公知の方法で測定でき、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定でき、標準ポリスチレン換算の値として算出される。前記(メタ)アクリル系ブロック共重合体は、二官能性以上であってもよく、四官能性以上であってもよい。
<光重合開始剤(c)>
光重合開始剤(c)は水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)に分類される。光重合開始剤(c)としては、水溶性光重合開始剤(c-1)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(c-2)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)を併用してもよいが、併用することが好ましい。
・水溶性光重合開始剤(c-1)
水溶性光重合開始剤(c-1)は、親水的な歯面界面での重合硬化性が向上し、高い接着強さを実現できる。水溶性光重合開始剤(c-1)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(c-1)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
水溶性光重合開始剤(c-1)としては、例えば、水溶性チオキサントン類、水溶性アシルホスフィンオキシド類、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンの水酸基へ(ポリ)エチレングリコー
ル鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したもの、2-ヒドロ
キシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したものなどのα-
ヒドロキシアルキルアセトフェノン類;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[(4-モルホリノ)フェニル]-1-ブタノンなどのα-アミノアルキルフェノン類のアミノ基を四級アンモニウム塩化したものなどが挙げられる。
前記水溶性チオキサントン類としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、下記一般式(3)又は(4)で表されるアシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
式(3)及び(4)中、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は互いに独立して、C1~
C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子であり、Mは水素イオン、
アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+R9R10R11(式中、R9、R1
0、及びR11は互いに独立して、有機基又は水素原子)で示されるアンモニウムイオンで
あり、nは1又は2であり、XはC1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、R8は-CH(CH3)COO(C2H4O)pCH3で表され、pは1~1000の整数を表す。
R2、R3、R4、R5、R6、及びR7のアルキル基としては、C1~C4の直鎖状又は分岐鎖状のものであれば特に限定されず、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。R2、R3、R4、R5、R6、及びR7のアルキル基としては、C1~C3の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。Xとしては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。Xとしては、C1~C3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
Mがピリジニウムイオンである場合のピリジン環の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基などが挙げられる。Mとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+R9R10R11(式中、記号は上記と同一意味を有する)で示されるアンモニウムイオンが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられる。R9、R10、及びR11の有機基としては、前記ピ
リジン環の置換基と同様のもの(ハロゲン原子を除く)が挙げられる。
これらの中でも、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7がすべてメチル基である化合物が自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物中での保存安定性及び色調安定性の点から特に好ましい。また、アンモニウムイオンとしては、各種のアミンから誘導されるアンモニウムイオンが挙げられる。アミンの例としては、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアニリン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノメタクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、4-(N,N-ジエチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。
R8としては、接着性の観点から、pは1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3
以上がさらに好ましく、4以上が特に好ましく、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、75以下がさらに好ましく、50以下が特に好ましい。
これらの水溶性アシルホスフィンオキシド類の中でも、一般式(3)で表され、Mn+がリチウムイオンである一般式(3)で表される化合物、及び、R8で表される基に相当する部分が分子量950であるポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートから合成された一般式(4)で表される化合物が特に好ましい。
このような構造を有する水溶性アシルホスフィンオキシド類は、公知方法に準じて合成することができ、一部は市販品としても入手可能である。例えば、特開昭57-197289号公報や国際公開第2014/095724号などに開示された方法により合成することができる。水溶性光重合開始剤(c-1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性光重合開始剤(c-1)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に溶解されていても自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物中に粉末で分散されていてもよい。
水溶性光重合開始剤(c-1)を粉末で分散する場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるので、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって組成物への分散可能な量が減少するため、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(c-1)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
各々の水溶性光重合開始剤(c-1)の粉末の平均粒子径は、粒子100個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View;株式会社マウンテック製)を用いて画像解析を行った後に体積平均粒子径として算出することができる。
水溶性光重合開始剤(c-1)を粉末で分散する場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(c-1)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
水溶性光重合開始剤(c-1)の含有量は、得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化性などの観点からは、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、歯質への接着力の点から、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。水溶性光重合開始剤(c-1)の含有量が前記下限値以上であることで、接着界面での重合が十分に進行し、十分な接着性を得られやすい。一方、水溶性光重合開始剤(c-1)の含有量が前記上限値以下であることで、十分な接着性が得られやすい。
・非水溶性光重合開始剤(c-2)
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、硬化性の観点から、水溶性光重合開始剤(c-1)以外に25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(c-2)(以下、非水溶性光重合開始剤(c-2)と称することがある。)を含むことが好ましい。本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(c-2)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。非水溶性光重合開始剤(c-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
非水溶性光重合開始剤(c-2)としては、水溶性光重合開始剤(c-1)以外の(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,
3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなど及びこれらの塩が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド及びこれらの塩などが挙げられる。
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノク
マリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどの特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上述のクマリン類の中でも、特に、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
これらの非水溶性光重合開始剤(c-2)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が得られる。
非水溶性光重合開始剤(c-2)の含有量は特に限定されないが、得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物の硬化性などの観点から、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~7質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。なお、非水溶性光重合開始剤(c-2)の含有量が前記上限値以下であることで、非水溶性光重合開始剤(c-2)自体の重合性能が低い場合には、十分な接着性を得られやすく、さらには自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)からの非水溶性光重合開始剤(c-2)自体の析出を抑制できる。
水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)を併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)の質量比〔(c-1):(c-2)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、特に好ましくは3:1~1:3である。水溶性光重合開始剤(c-1)が質量比10:1より多く含有されると、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)自体の硬化性が低下し、高い接着性を発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(c-2)が質量比1:10より多く含有されると、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い接着性を発現させることが困難になる場合がある。
<フィラー(d)>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、ハンドリング性を調整するために、また硬化物の機械的強度を高めるために、フィラー(d)を含んでいてもよい。このようなフィラーとして、無機フィラー、有機無機複合フィラー、有機フィラー等が挙げられる。フィラー(d)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムなどのケイ素原子が含まれる無機フィラー及び酸化物から構成される無機フィラーが挙げられる。これらもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の機械的強度、透明性が優れる点で、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムが好ましく、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、シリカコートフッ化イッテルビウムがより好ましい。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。なお、本発明において、無機フィラーに、後記するように表面処理をした場合、無機フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。ある好適な実施形態としては、フィラー(d)が無機フィラーである自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。
無機フィラーの形状としては、特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができ、例えば、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。ここで球状フィラーとは、電子顕微鏡でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。前記球状フィラーの平均粒子径は好ましくは0.05~5μmである。平均粒子径が前記下限値以上であることで、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)において十分な球状フィラーの充填率が得られやすく、所望の機械的強度が得られやすい。一方、平均粒子径が前記上限値以下であることで、前記球状フィラーの表面積が低下しにくく、所望の機械的強度を有する自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化物が得られやすい。
前記無機フィラーは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の流動性を調整するため、必要に応じて、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。例えば、表面処理剤で無機フィラーの表面に存在する水酸基を表面処理することで、該水酸基が表面処理された無機フィラーを得ることができる。表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく撹拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、あるいは水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法などがあり、いずれの方法においても、通常50~150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。なお、表面処理量は特に制限されず、例えば、処理前の無機フィラー100質量部に対して、表面処理剤を1~10質量部用いることができる。
本発明で用いられる有機無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機無機複合フィラーは、無機フィラーと単量体の重合体とを含むフィラーを示す。前記有機無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。有機無機複合フィラーもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法により測定した値である。
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
他のある好適な実施形態としては、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)が、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)(以下、単に「フィラー(d-ii)」と称することがある)及び/又は平均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-iii)(以下、単に「フィラー(d-iii)」と称することがある)を含む、歯科用接着キットが挙げられる。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)がフィラー(d-ii)及び/又はフィラー(d-iii)を含む場合、リン酸
基を有する単量体(a)の所定の含有量、さらに必要に応じて他の構成と組み合わせた際に、歯質に対するより優れた接着性と、より優れた自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対するより優れた接着性が得られる。また、他のある好適な実施形態としては、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)がフィラー(d-ii)及び/又はフィラー(d-iii)を含み、前記フィラー
(d-ii)及び/又は前記フィラー(d-iii)が、ケイ素原子が含まれる無機フィラー
又は酸化物から構成される無機フィラーを含み、前記無機フィラーが表面に水酸基を有し、該水酸基が表面処理剤で表面処理されてなるものである、歯科用接着キットが挙げられる。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上のフィラーを、混合又は組み合わせて用いることが好ましい。2種以上のフィラーを組み合わせることにより、フィラーが密に充填されるとともに、フィラーと単量体、もしくはフィラー同士の相互作用点が増える。また、フィラーの種類により、剪断力の有無によるペーストの流動性をコントロール可能となる。中でも、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性とペースト性状の観点から、前記フィラー(d)が、平均粒子径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-i)と、平均
粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)との組み合わせ(I)、平均粒子
径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-i)と、平均粒子径1μm超10μm以下
のフィラー(d-iii)との組み合わせ(II)、平均粒子径1nm以上0.1μm未満の
フィラー(d-i)と、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)、平
均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-iii)との組み合わせ(III)、及び平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)同士の組み合わせ(IV)が好ましく、これらの組み合わせの中でも、ペースト性状の観点、リン酸基を有する単量体(a)の所定の含有量等の他の構成と組み合わせた際に自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後におけるMTAセメント硬化物に対する接着性がより優れる観点から、(I)、(II)、(III)がより好ましく、(I)、(II)がさらに好ましい。平均粒子径0.
1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)同士の組み合わせ(IV)とは、平均粒子径が異なる2種の0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-ii)を含む実施形態を意味する。なお、上記組み合わせであれば、各粒子径のフィラー(d)に異なる種類のフィラーが含まれていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、フィラー以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
フィラー(d)の含有量は特に限定されないが、硬化物の機械的強度と歯質に対する接着性の観点から、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)100質量部において、50~90質量部であることが好ましく、55~85質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の製造方法は、上記成分を含み、単量体の総量100質量部において、リン酸基を有する単量体(a)の含有量が1~30質量部であり、好ましくは自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)100質量部において、フィラー(d)の含有量が50~90質量部であれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の製造方法は、分子内に主鎖として炭素数が8~12のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、光重合開始剤(c)及びフィラー(d)を含むものであれば、特に限定はなく、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
<重合促進剤(g)>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、非水溶性光重合開始剤(c-2)及び/又は後述する化学重合開始剤とともに重合促進剤(g)を用いることができる。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に用いられる重合促進剤(g)としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、硫黄を有する還元性無機化合物、チオ尿素化合物、アルデヒド類、チオール化合物、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物などが挙げられ、アミン類、スルフィン酸及びその塩、硫黄を有する還元性無機化合物、チオ尿素化合物、アルデヒド類、チオール化合物、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物が好ましい。
重合促進剤(g)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミンなどの第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミンなどの第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル
)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
スルフィン酸及びその塩としては、ベンゼンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸(ナトリウム塩は以下、「TPBSS」と略称することがある)、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩が挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の点で、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸及び2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましく、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩がより好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物及び/又はベンゾイミダゾール化合物としては、それぞれ下記一般式(5)で表される化合物及び一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
上記一般式(5)及び(6)において、A1~A8は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニル基、アラルキル基、又はハロゲン原子を表す。
A1~A8で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1~10のものが好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシ
ル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、シクロノニル基、n-デシル基などが挙げられる。これらの中でも特にメチル基、エチル基が好ましい。
A1~A8で表されるアリール基は、炭素数が6~10のものが好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられる。
A1~A8で表されるアルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1~8のものが好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基などが挙げられる。
A1~A8で表されるアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1~6のものが好ましい。具体例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
A1~A8で表されるアラルキル基の例としては、アリール基(特に、炭素数6~10のアリール基)で置換されたアルキル基(特に、炭素数1~10のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基などが挙げられる。
A1~A8で表されるハロゲン原子の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
A1~A8としては、水素原子、又はメチル基が好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物の具体例としては、1H-ベンゾトリアゾール(以下、「BTA」と略称することがある)、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチル-1H-ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、5-メチルベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の色調や保存安定性の点で、1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾールが好ましい。
硫黄を有する還元性無機化合物としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩(亜硫酸水素塩)、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩、亜二チオン酸塩などが挙げられる。これらの中でも亜硫酸塩、重亜硫酸塩が好ましく、具体例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどが挙げられる。硫黄を有する還元性無機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
チオ尿素化合物としては、チオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、ジメチルエチレンチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジn-プロピルチオ尿素、ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリn-プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラn-プロピルチオ尿素、ジシクロヘキシルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素,N-ベンゾイルチオ尿素,ジフェニルチオ尿素、ピリジルチオ尿素などが挙げられ、これらの中でも4,4-ジメチルエチレンチオ尿素、ピリジルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ
尿素が好ましい。
アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒド、ベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-メトキシベンズアルデヒド、p-エトキシベンズアルデヒド、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。
チオール化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、デカンチオール、チオ安息香酸などが挙げられる。
ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、亜硫酸塩、及び亜硫酸水素塩の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
重合促進剤(g)は、1種単独を含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。本発明に用いられる重合促進剤(g)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用接着キットの硬化性などの観点からは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.001~30質量部が好ましく、0.01~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。重合促進剤(g)の含有量が前記下限値以上である場合、重合が十分に進行し、十分な接着性を得られやすく、より好適には0.05質量部以上である。一方、重合促進剤(g)の含有量が前記上限値以下である場合、十分な接着性が得られやすく、さらには自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)からの重合促進剤(g)自体の析出を抑制できるため、より好適には20質量部以下である。
<化学重合開始剤>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、さらに化学重合開始剤を含有することができる。化学重合開始剤としては、特に制限されることなく公知のものが使用でき、有機過酸化物、無機過酸化物及び遷移金属錯体が挙げられ、有機過酸化物が好ましい。化学重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。これらの有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。無機過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ二リン酸塩などが挙げられ、これらの中でも、硬化性の点で、ペルオキソ二硫酸塩が好ましい。ペルオキソ二硫酸塩の具体例としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが挙げられる。
遷移金属錯体としては、特に限定されないが、銅化合物及びバナジウム化合物が挙げられる。
銅化合物としては、カルボン酸銅(II)、β-ジケトン銅(II)、β-ケトエステル銅(II)、銅アルコキシド、ジチオカルバミン酸銅、銅と無機酸の塩等が挙げられる。カルボン酸銅(II)としては、クエン酸銅(II)、酢酸銅(II)、フタル酸銅(II)、酒石酸銅(II)、オレイン酸銅(II)、オクチル酸銅(II)、オクテン酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)、メタクリル酸銅(II)、4-シクロヘキシル酪酸銅(II)等が挙げられる。β-ジケトン銅(II)としては、アセチルアセトン銅(I
I)、トリフルオロアセチルアセトン銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトン銅(II)、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト銅(II)、ベンゾイルアセトン銅(II)等が挙げられる。β-ケトエステル銅(II)としては、アセト酢酸エチル銅(II)等が挙げられる。銅アルコキシドとしては、銅(II)メトキシド、銅(II)エトキシド、銅(II)イソプロポキシド、銅(II)2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシド、銅(II)2-(2-メトキシエトキシ)エトキシド等が挙げられる。ジチオカルバミン酸銅としては、ジメチルジチオカルバミン酸銅(II)等が挙げられる。銅と無機酸の塩としては、硝酸銅(II)、臭化銅(II)及び塩化銅(II)が挙げられる。これらの内でも、単量体に対する溶解性と反応性の観点から、カルボン酸銅(II)、β-ジケトン銅(II)、β-ケトエステル銅(II)が好ましく、酢酸銅(II)、アセチルアセトン銅(II)がより好ましい。
バナジウム化合物としては、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物が挙げられる。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、バナジルアセチルアセトナート(IV)、ステアリン酸酸化バナジウム(IV)、シュウ酸オキソバナジウム(IV)、硫酸バナジル(IV)、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシド、メタバナジン酸(V)ナトリウム、メタバナジン(V)酸アンモニウム等が挙げられ、中でも接着性などの観点から、バナジウムアセチルアセトナート、バナジルアセチルアセトナート(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)が好ましく、バナジルアセチルアセトナート(IV)及びビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)が好ましい。
<フッ素イオン放出性物質>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、さらにフッ素イオン放出性物質を含有してもよい。フッ素イオン放出性物質を含有することによって、歯質に耐酸性を付与することができる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が得られる。フッ素イオン放出性物質としては、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体などのフッ素イオン放出性ポリマー;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物類;フルオロアルミノシリケートガラスなどが挙げられる。フッ素イオン放出性物質は1種を単独で含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
また、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料)、紫外線吸収剤、水、有機溶媒等の溶媒、増粘剤等が挙げられる。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ある実施形態では、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における溶媒(例えば、水、有機溶媒)の含有量が自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の総量に基づいて、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤の含有量は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の単量体の総量100質量部に対して、0.001~1.0質量部が好ましい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成割合の一例を示す。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量を100質量部とした場合、リン酸基を有する単量体(a)を1~40質量部、酸性基を有しない単量体(b)を60~99質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c)を0.05~10質量部、フィラー(d)を100~900質量部、重合促進剤(g)0.001~30質量部を含むことが好ましく、単量体の総量100質量部において、リン酸基を有する単量体(a)を2.5~35質量部、酸性基を有しない単量体(b)を65~97.5質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c)を0.1~5質量部、フィラー(d)を120~560質量部、重合促進剤(g)0.01~10質量部含むことがより好ましく、単量体の総量100質量部において、リン酸基を有する単量体(a)を5~30質量部、酸性基を有しない単量体(b)を70~95質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c)を0.15~2.5質量部、フィラー(d)を150~400質量部、重合促進剤(g)を0.1~5質量部含むことがさらに好ましい。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、操作性の観点から、全ての成分が予め混合された1材型(1ペースト型)である。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、レジンコーティング法に好適に使用できる。一般的に、レジンコーティング法では、窩洞形成面に歯科用コンポジットレジンを塗布することによって露出した象牙質及び歯髄を保護する。レジンコーティング法に用いる歯科用コンポジットレジンが2材型である場合、適用すると、2材を使用直前に混和して用いる必要があり、気泡が混入するおそれがあり、自己接着性歯科用コンポジットレジン硬化物の特性にも影響するおそれがある。そのため、本発明では、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が1材型であることにより、2材を混和する必要がなく、そのまま使用することができ、操作性に優れ、気泡が混入するおそれがなく、組成物ペーストの廃棄ロスも抑制できる。本発明の1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、円筒状のシリンジ容器に充填されて使用することがより好ましい。シリンジ容器の円筒部の大きさは、長さ10cm、かつ内径15mm以下が好ましく、長さ7.5cm、かつ内径10mm以下がより好ましい。又はハンドリング性を向上させるためにシリンジの先端にノズルを装着して使用することができる。ノズルの大きさは長さ25mm、かつ開口部の内径1.5mm以下が好ましく、長さ20mm、かつ開口部の内径0.75mm以下がより好ましい。
・歯科用セメント組成物(Y)
本発明の歯科用セメント組成物(Y)は、ポルトランドセメント粉末(e)と無機フィラー(f)を含む。本発明の歯科用セメント組成物(Y)は、MTA(Mineral Trioxide Aggregate)セメント組成物である。
歯科用セメント組成物(Y)において、ポルトランドセメント粉末(e)の含有量は60~90質量%であり、ポルトランドセメント粉末(e)の含有量は60~80質量%が好ましく、65~75質量%がより好ましい。ポルトランドセメント粉末(e)の含有量が60質量%未満であると、セメント硬化物の強度がポルトランドセメントよりも低下する傾向がある。ポルトランドセメント粉末(e)が90質量%以上であると流動性が低すぎるため、練和や充填操作が困難となる。
歯科用セメント組成物(Y)において、無機フィラー(f)の含有量は10~40質量%であり、無機フィラー(f)の含有量は20~40質量%が好ましく、25~35質量%より好ましい。無機フィラー(f)の含有量が10~40質量%であることにより、練和後の硬化時間が改善され、さらにセメント硬化物の強度も増加する。無機フィラー(f)の含有量が、10質量%未満ではペーストの流動性が不十分となり、40質量%を超えるとセメント硬化物の強度が大きく低下する傾向がある。
また、ポルトランドセメント粉末(e)と無機フィラー(f)とを、配合割合(質量比)で表すこともできる。この場合、本発明の歯科用セメント組成物(Y)において、ペーストの流動性とセメント硬化物の強度の観点から、ポルトランドセメント粉末(e):無機フィラー(f)の質量比が60:40~90:10の範囲であることが好ましく、ポルトランドセメント粉末(e):無機フィラー(f)の質量比が60:40~80:20の範囲であることがより好ましく、ポルトランドセメント粉末(e):無機フィラー(f)の質量比が65:35~75:25の範囲であることがさらに好ましい。
<ポルトランドセメント粉末(e)>
ポルトランドセメント粉末(e)としては、例えば、JIS R 5210:2019に規定されている普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の粉末が挙げられる。
これらのうち、特に、白色ポルトランドセメントを用いることが歯質と色調が近い白い色調であるという観点から好ましい。
上記ポルトランドセメント粉末(e)は、別名「クリンカー」とも呼ばれる、ケイ酸三カルシウム(エーライト、3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(ビーライト、2
CaO・SiO2)、カルシウムアルミネート(アルミネート、3CaO・Al2O3)、
及びカルシウムアルミノフェライト(フェライト、4CaO・Al2O3・Fe2O3)を主成分とするセメントである。クリンカーの主要な化合物は、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、及び酸化鉄(Fe2O3)で
ある。これらの各々の成分の割合により、セメントの硬化速度、硬化物の機械的強度を調整できる。
上記ポルトランドセメント粉末(e)に含まれる成分の割合としては、一般に、以下の組成が挙げられる。
酸化カルシウム(CaO):55~85質量%
二酸化ケイ素(SiO2):10~40質量%
酸化アルミニウム(Al2O3):0~15質量%
酸化鉄(Fe2O3):0~10質量%
これらの中でも、特に硬化性の観点から、以下の成分であることが好ましい。
酸化カルシウム(CaO):60~66質量%
二酸化ケイ素(SiO2):20~26質量%
酸化アルミニウム(Al2O3):3~9質量%
酸化鉄(Fe2O3):2~5質量%
ポルトランドセメント粉末(e)は、1種又は2種以上混合して使用することができる。
ポルトランドセメント粉末(e)の平均粒子径としては、100μm以下であるものが好ましく、1μm~50μmの範囲がより好ましく、5μm~25μmの範囲がさらに好ましい。
なお、ポルトランドセメント粉末(e)及び無機フィラー(f)の平均粒子径とは、レ
ーザー回折散乱法により体積基準で計測される粒子径分布における累積体積50%時の粒子径、すなわちD50(メジアン径)をいう。レーザー回折散乱法を用いた測定方法としては、フィラーの平均粒子径と同様に、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)を用いた測定方法が挙げられる。
ポルトランドセメント粉末としては、粉末、粒状等が挙げられる。
<無機フィラー(f)>
無機フィラー(f)は、平均粒子径が0.2~50μmであることが好ましく、中でも、0.3~40μmであることがより好ましく、0.3~30μmであることがさらに好ましい。ある実施形態では、無機フィラー(f)の平均粒子径は、10μmであってもよい。
無機フィラー(f)の平均粒子径が0.2μm未満ではペーストの粘性が高くなる傾向がある。
無機フィラー(f)の平均粒子径が50μm以上では得られるペースト組成物の表面にざらつき又は粗造感が生じる、或いは操作性が低下する傾向がある。
無機フィラー(無機フィラーともいう)の種類としては、特に制限はなく、公知のものが使用できる。例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(二酸化チタン)、酸化亜鉛等の金属酸化物;シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、シリカ-チタニア等の複合酸化物;石英ガラス、バリウムガラス、アルミノシリケートガラス、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノボロシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス類;ヒドロキシアパタイト、フッ化カルシウム、フッ化イットリウム、リン酸カルシウムなどが挙げられる。これら以外にも、珪藻土、粘土鉱物(モンモリロナイトなど)、活性白土、合成ゼオライト、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物、及びこれらの複合体も挙げられる。また、タングステン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化セリウム、酸化スズ、ケイ酸ジルコニウム、酸化ランタン、酸化亜鉛、酸化イッテルビウム、フッ化イッテルビウム、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、硫酸ビスマスなどが挙げられる。無機フィラー(f)としては、これらの中でも、シリカ系フィラー(シリカ;シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、シリカ-チタニア等のシリカの複合酸化物)、アルミナフィラー、ジルコニアフィラー、タングステン酸カルシウム、及び酸化ビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、シリカ系フィラー及びジルコニアフィラーが特に好ましい。ある実施形態では、無機フィラー(f)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)とは異なる。
上記無機フィラー(f)としては、例えば、アルコキシシラン等によって表面を修飾されたものを使用してもよい。
無機フィラー(f)は、1種又は2種以上混合して使用することができる。
また、必要以上に無機フィラー(f)を添加することは、ポルトランドセメントの特性である抗菌性や封鎖性に影響を及ぼす可能性がある。
また、本発明の歯科用セメント組成物(Y)は、X線造影性の観点からは、該組成物中に、無機フィラー(f)として、ジルコニアフィラーを20質量%以上含有していることが好ましい。中でも、歯科用セメント組成物(Y)中のジルコニアフィラーの含有量とし
ては、20~40質量%が好ましく、25~35質量%がより好ましい。
無機フィラー(f)の形状は、球状、破砕状が挙げられる。中でも、ベアリング効果が発揮される球状が好ましい。
<その他の成分>
本発明の歯科用セメント組成物(Y)は、物性や操作性に影響を及ぼさない範囲で、その他の充填材、着色剤、安定剤等の添加剤を配合することができる。添加剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上混合して使用することができる。
該添加剤の含有量としては、歯科用セメント組成物中に、10質量%未満であれば含有していてもよく、好ましくは0質量%~5質量%であり、より好ましくは0質量%~3質量%である。
上記本発明の歯科用セメント組成物(Y)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、ポルトランドセメント粉末(e)(A成分)と無機フィラー(f)(B成分)とを一括で混合する方法;
A成分に、B成分を、何回かに分けて添加し、混合する方法;
B成分に、A成分を、何回かに分けて添加し、混合する方法
等が挙げられる。
本発明の歯科用セメント組成物(Y)を混合する方法としては、特に制限はなく、使用量に応じた方法を用いてもよい。歯科用セメント組成物(Y)を混合する方法としては、例えば、少量であれば、メノウ乳鉢とメノウ棒とで均一に混合する方法が挙げられる。また、大量であれば、セメント組成物を製造する際に通常使用されるオムニミキサー、アイリッヒミキサー、万能ミキサー、ライカイ機等を使用して混合する方法などが挙げられる。
混合時間としては、特に制限なく、均一に混合できる時間であればよい。
本発明により得られる歯科用セメント組成物(Y)は、所定量の水を混練して、ペーストを得ることができる。
該ペーストの稠度は、通常、10~50mmの範囲であることが好ましく、15~50mmの範囲であることがより好ましく、20~50mmの範囲であることがさらに好ましい。また、本明細書において、「稠度」は高い値ほど組成物のペーストが柔らかく、流動性が高いことを意味し、低い値ほど組成物のペーストが硬く、流動性が低いことを意味する。
稠度は、以下のように測定することができる。歯科用セメント組成物(Y)のペーストをサンプルとして0.4mL計量し、25℃の恒温室内(湿度40%)でガラス板(5cm×5cm)上にポリエステルフィルム(5cm×5cm)を敷き、その中心に盛り上げるように量り取った試料を静置した。次に、別のポリエステルフィルム(5cm×5cm)を被せ、別途用意したガラス板(5cm×5cm)の上に重しを乗せて計1000gとした、ガラス板面を含む複合物を準備した。この複合体のガラス板面を静置した試料の上に載せ、試料をポリエステルフィルムで挟むようにして静置した。30秒経過後の試料の長径と短径をポリエステルフィルム越しに測定し、その両者の算術平均を算出し、25℃における稠度とした(n=2)。なお、試料の長径とは、試料の中心を通る直径のうち最も長いものを、試料の短径とは、試料の中心を通る直径のうち試料の長径に直交するもののことである。
本発明により得られる歯科用セメント組成物(Y)は、所定量の水との配合物を硬化させて、硬化物(硬化体)を得ることができる。
上記水の量としては、ペースト又は硬化物が得られる量であれば特に制限なく、例えば、本発明の歯科用セメント組成物(Y)100質量部に対して、水を20~50質量部の範囲で添加することができ、さらに25~45質量部の範囲で添加することが好ましく、25~40質量部の範囲で添加することがより好ましい。上記硬化物を得るための硬化時間としては、180分以内であることが好ましい。該硬化物の圧縮強度は、30MPa以上であることが好ましい。
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り質量部である。
次に、実施例及び比較例の1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の成分を略号とともに以下に記す。
・1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)
[リン酸基を有する単量体(a)]
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を有する単量体]
GPDM:グリセロールホスフェートジメタクリレート
4-META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸
[酸性基を有しない単量体(b)]
Bis-GMA:2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
D-2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
DD:1,10-デカンジオールジメタクリレート
HEMA-ヒドロキシエチルメタクリレート
DEAA:N,N-ジエチルアクリルアミド
[光重合開始剤(c)]
・水溶性光重合開始剤(c-1)
Li-TPO:フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム
・非水溶性光重合開始剤(c-2)
CQ:カンファーキノン
[フィラー(d)]
フィラー1:日本アエロジル株式会社製、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)R
972」、平均粒子径:16nm
フィラー2:シラン処理珪石粉
珪石粉(株式会社ニッチツ製、商品名:ハイシリカ)をボールミルで粉砕し、粉砕珪石
粉を得た。得られた粉砕珪石粉の平均粒子径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.2μmであった。この粉砕珪石粉100質量部に対して、常法により4質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、フィラー2を得た。
フィラー3:シラン処理バリウムガラス粉
GM27884 NF180グレード(SCHOTT社製バリウムガラス、平均粒子径:0.18μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン13g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー3(平均粒子径:0.18μm)を得た。
フィラー4:シラン処理バリウムガラス粉
8235 UF0.7グレード(SCHOTT社製バリウムガラス、平均粒子径:0.7μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン6g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー4(平均粒子径:0.7μm)を得た。
[重合促進剤(g)]
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
[重合禁止剤]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
次に、実施例及び比較例の歯科用セメント組成物(Y)の成分を略号とともに以下に記す。
・歯科用セメント組成物(Y)
[ポルトランドセメント粉末]
平均粒子径約14.2μmの白色ポルトランドセメント粉末(商品名 ホワイトセメン
ト:太平洋セメント株式会社製)
[シリカ系フィラー]
SO-E2:平均粒子径約0.5μmの球状シリカフィラー(株式会社アドマテックス製)
SO-E5:平均粒子径約2μmの球状シリカフィラー(株式会社アドマテックス製)
[ジルコニアフィラー]
HT:平均粒子径約0.5μmの丸みを帯びた破砕状ジルコニアフィラー(新日本電工株式会社製)
[市販の歯科用ポルトランドセメント粉末]
プロルート(登録商標)MTA(デンツプライシロナ株式会社製、ポルトランドセメント粉末(e)及び無機フィラー(f)を含み、ポルトランドセメント粉末(e)の含有量が60~90質量%の範囲内であり、前記無機フィラー(f)の含有量が10~40質量%の範囲内である)
[実施例1~16及び比較例1~3]
[歯科用セメント組成物(Y)の調製]
表1に示す組成の歯科用セメント組成物を調製した。メノウ乳鉢中に、ポルトランドセ
メント粉末とシリカフィラーとを加えて、メノウ乳棒で10分間混合し、本発明の歯科用セメント組成物を得た。
[1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の調製]
表2及び表3に示す原料を常温(23℃)暗所で混合、及び混練してペースト状の1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジンを調製し、以下の試験例1、2の方法に従って特性を調べた。結果を表2及び表3に示す。
試験例1 曲げ弾性率
1-1)光硬化
ISO 4049:2009に準拠して曲げ試験により曲げ弾性率を評価した。具体的には以下のとおりである。作製したペースト(1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン用組成物)をSUS製の金型(縦2mm×横25mm×厚さ2mm)に充填し、ペーストの上下(2mm×25mmの面)をスライドガラスで圧接した。次いで、歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、スライドガラス越しに10秒間ずつ片面5箇所でペーストの裏表に光照射してペーストを硬化させた。得られた硬化物について、万能試験機(オートグラフAG-I 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて、支点間距離12mm、クロスヘッドスピード1mm/minで3点曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を測定し(n=5)、平均値を算出した。
試験例2 自己接着性歯科用コンポジットレジンの光硬化直後の歯科用セメントの硬化物に対するせん断接着強さ
表1に記載した歯科用セメント組成物を、歯科用セメント組成物/精製水=75/25となるようにプラスチックスパチュラを用いて30秒間練和し、練和物を内径5mm、高さ2mmの金属型に填入し、円柱型の硬化物を得た。前記硬化物を練和終了から120秒後に37℃、相対湿度95%の恒温恒湿器中に24時間静置した。15穴を有するモールド(15-hole mold、ウルトラデント社製、φ35mm×高さ25mm)の底面にテープを貼り、前記硬化物を固定した。トレーレジンII(株式会社松風製)をモールド内に充填し、約30分静置し、トレーレジンIIを硬化させて、歯科用セメントの硬化物とレジン硬化物の複合物を得た。モールドから、該複合物をサンプルとして取り出した。前記複合物は、歯科用セメントの硬化物がレジン硬化物の上部表面に出ている状態のものとした。後の工程で、自己接着性歯科用コンポジットレジンと接着できるように、歯科用セメントの硬化物が上部表面に出ている面をサンプルの被着面とした。
続いて、別途用意したφ2.38mmのCR充填用モールド(Bonding Mold Insert、ウルトラデント社製)を専用器具(Bonding Clamp、ウルトラデント社製)に取り付けた。次に、専用器具に取り付けられたCR充填用モールドが、前記サンプルの被着面と密着するように、CR充填用モールドを下げて、該サンプルを固定した。次に、各実施例及び比較例で作製した自己接着性歯科用コンポジットレジン用組成物をCR充填用モールドが有する穴に厚さ1mm厚以内となるように薄く充填した。その後再度、モールド内に充填し(モールドの2/3ぐらいまで、2mm厚程度)、10秒間放置した後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント社製、商品名「VALO」)にて10秒間光照射することにより、自己接着性歯科用コンポジットレジンを硬化させた。モールドからサンプルを外し、接着試験供試サンプルとした。次いで、接着試験供試サンプルを37℃に設定した恒温器内に10分間放置した後、取り出して、これを、硬化直後の接着試験供試サンプルとして、接着強さを測定した。接着強さ(せん断接着強さ)の測定は、接着試験供試サンプルを専用ホルダー(Test Base Clamp、ウルトラデント社製)に取り付け、専用冶具(Crosshead Assembly、ウルトラデント社製)と万能試験機(株式会社島津製作所製)を用い、クロスヘッドスピードを1mm/分に設定して測定し、平均値を表に示した(n=10)。
歯科用MTAセメント硬化物に対する自己接着性歯科用コンポジットレジンのせん断接着強さは、5MPa以上であることが好ましく、6.5MPa以上であることがより好ましく、8MPa以上であることがさらに好ましい。
表2及び3の結果より、実施例の1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、曲げ弾性率が2.6~5.7GPaであり、MTAセメント硬化物に対する接着強さが6MPa以上と優れていることが分かる。一方、1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジンの曲げ弾性率が8.2GPa以上である比較例1、2及び3においては、MTAセメン
ト硬化物に対する接着強さが4.1MPa以下と低いことが確認された。また、酸性基を有する単量体が炭素数8~16のリン酸基を有する単量体でない比較例4においてもMTAセメント硬化物に対する接着強さが4.4MPaと低いことが確認された。