JP7509324B2 - 酸化銅クロムスピネル、及びその樹脂組成物、樹脂成形品、酸化銅クロムスピネルの製造方法 - Google Patents

酸化銅クロムスピネル、及びその樹脂組成物、樹脂成形品、酸化銅クロムスピネルの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、モリブデンを含む酸化銅クロムスピネル、及びその製造方法に関する。さらに、前記酸化銅クロムスピネルと、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と、無機充填剤と、を含有する樹脂組成物、及びその成形品に関する。
近年、エレクトロニクス、メカトロニクスの分野において機器の小型化、軽量化、多機能化が進んでいる。特に自動車分野では、コネクト化、サービス化、自動化が進み、センサーやモジュールが増加する一方、電動化に向け車重の抑制が求められ、機械的部品と電気回路部品の軽量小型化が強く要望されている。これに対応可能な技術として、成形回路部品(MID:Molded Interconnect Device)に係る技術が注目されている。MIDとは、樹脂成形品に回路、電極等を成形する技術であり、回路、電極等が樹脂成形品と一体化されることにより、部品の小型化、軽量化を可能とすることができる。
MIDには、樹脂成形品を表面粗化してめっきを行う1回成形法、回路形成用樹脂と絶縁部形成用樹脂とを個別に2回成形してこれを一体化する2回成形法、樹脂成形品にスタンピングダイを用いて直接回路等を形成するホットスタンピング法等がある。
これらのうち、1回成形法の1種であるLDS(Laser Direct Structuring)技術が、製造コストを削減でき、超微細な回路が短期間で作製可能である等の観点から特に注目されている。なお、LDS技術とは、所定の添加剤を含む樹脂成形品に対し、レーザーを照射すると、レーザーを照射した部分が表面粗化および添加剤が活性化し、レーザー照射部分に強固なめっき層の形成を可能とする技術である。
このため、LDS技術に適用できる添加剤の研究が進められている。添加剤としては、スピネル型の金属酸化物が一般的に用いられている(特許文献1、2)。特に銅を含むスピネル型の金属酸化物は、銅めっきパターンとの密着性の観点から活用されている。
特許文献1には、熱的に高安定性であり、酸性またはアルカリ性の水性金属化浴中において耐久性があるスピネル構造を有する高酸化物、又は、簡単なd-金属酸化物またはその混合物、又は、スピネル構造に類似する混合金属酸化物を含有するコンダクタートラック構造物が示されている。
特許文献2には、非導電性金属化合物が、スピネル型の金属酸化物、周期表第3族~第12族の中から選択されており、かつ当該族が隣接する2以上の遷移金属元素を有する金属酸化物、および錫含有酸化物からなる群から選択される一種以上を含むものである、活性エネルギー線の照射により金属核を形成する非導電性金属化合物を含むLDS用熱硬化性樹脂組成物が示されている。
しかしながら、これらの金属酸化物を含む樹脂組成物では、めっき後の金属配線が、成形品から剥落することがあるという問題がある。その要因として、金属酸化物の粒子形状や粒子径の制御が不十分で樹脂中に均一に分散されていないこと、めっき析出の核となる金属酸化物とめっき金属との結合力が弱いことなどが挙げられる。
特許文献3には、銅-クロムの黒色剤の製造方法として、酸化クロムと酸化銅、酸化亜鉛、酸化モリブデンを、52~75%:22~44%:1~6%:0.1~4%の比率で混合し、820~960℃で1~3時間、固相焼結し、ボールミル粉砕によってD99を5~5.5μmに調整する銅-クロムの黒色剤の製造方法が示されている。しかしながら、得られる粒子は、粉砕により結晶性が低下しており、また、粒子径は依然として大きく、LDS用添加剤には適していない。
非特許文献1には、CuCr粒子の製造方法として、硝酸銅3水和物と硝酸クロム9水和物を純水中で攪拌し、アンモニア溶液を加えてpHを8に調整後、CTABエタノール溶液とヒドラジンを添加し、Cu:Cr:CTB:HO:ヒドラジンのモル比を1:2:0.75:250:1となるように調製する工程、前記溶液をオートクレーブ容器中で180°Cで24時間常圧で水熱処理する工程、得られた固体生成物を120°Cで乾燥後、大気中で750°Cで6時間焼成する工程、を有するCuCrスピネルナノ粒子の製造方法が示されている。しかしながら、得られる粒子は100nm以下の微小粒子であり、LDS用添加剤として用いるには小さすぎるという課題がある。
特表2004-534408号公報 国際公開第2017/199639号公報 中国特許出願公開第110951281号公報
Catal.Sci.Technol.,2014,4,4232-4241
そこで、本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、簡便な方法で粒子径を制御した酸化銅クロムスピネルおよびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、モリブデン化合物をフラックスとして使用することで、酸化銅クロムスピネルの粒子径を容易に制御可能であること、モリブデンを含む酸化銅クロムスピネルを製造可能であることを見出だし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
(1) モリブデンを含み、D50が2.0μm以下であることを特徴とする、酸化銅クロムスピネル。
(2) 前記酸化銅クロムスピネルにおけるモリブデン含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる、前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で0.05~5.0質量%である、前記(1)に記載の酸化銅クロムスピネル。
(3) 前記酸化銅クロムスピネルの表層におけるモリブデン含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる、前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で0.05~15.0質量%である、前記(1)又は(2)に記載の酸化銅クロムスピネル。
(4) 前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)に対する、前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)であるモリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が2.0以上である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の酸化銅クロムスピネル。
(5) 平均粒子径が0.1~10μmである、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の酸化銅クロムスピネル。
(6) BET法で測定される比表面積が0.01~10m/gである、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の酸化銅クロムスピネル。
(7) モリブデン化合物の存在下で、銅化合物、及びクロム化合物を焼成することを含む、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の酸化銅クロムスピネルの製造方法。
(8) 前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデンである、前記(7)に記載の酸化銅クロムスピネルの製造方法。
(9) 前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の酸化銅クロムスピネル、
熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂、及び、
無機充填剤を含有する樹脂組成物。
(10) 前記(9)に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
本発明によれば、粒子径が制御された酸化銅クロムスピネルを提供できる。
また、本発明によれば、簡便でかつ生産性の高い前記酸化銅クロムスピネルの製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、前記酸化銅クロムスピネルを含む樹脂組成物、およびその成形品を提供できる。
実施例1の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。 実施例2の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。 実施例3の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。 比較例1の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
以下、本発明の酸化銅クロムスピネル、及び酸化銅クロムスピネルの製造方法、前記酸化銅クロムスピネルを含む樹脂組成物の実施形態を説明する。
<酸化銅クロムスピネル>
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、モリブデンを含むものである。実施形態の酸化銅クロムスピネルは、モリブデンを含んでおり、モリブデンに由来する触媒活性等の優れた特性を有する。
実施形態の酸化銅クロムスピネルに含まれるモリブデンとしては、その存在状態や量は特に制限されず、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物等として酸化銅クロムスピネルに含まれてよい。モリブデンは、MoOとして酸化銅クロムスピネルに含まれると考えられるが、MoO以外にもMoOやMoO、またはモリブデン酸塩等として酸化銅クロムスピネルに含まれてもよい。
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、酸化銅クロムスピネルの表面に付着する形態で含まれていても、酸化銅クロムスピネルの結晶構造の一部に置換された形態で含まれていても、アモルファスの状態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
本明細書において、粒子形状を制御することとは、粒子形状が無定形では無いことを意味する。すなわち、本明細書において粒子形状の制御された酸化銅クロムスピネルとは、粒子形状が無定形では無い酸化銅クロムスピネルを意味する。
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、例えば後述する製造方法において、原料のモリブデン化合物の使用量や種類、焼成温度等を制御することにより、得られる酸化銅クロムスピネルの粒子径やモリブデン含有量を容易に制御できる。
実施形態の酸化銅クロムスピネルの平均粒子径は、0.1~10μmであってもよく、0.1~2μmであると好ましく、0.1~1μmであるとさらに好ましい。前記範囲内にあることで、LDS用樹脂組成物とした際に、めっき吸着性能が向上し、好ましい。
本明細書において、酸化銅クロムスピネルの「平均粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された二次元画像において、酸化銅クロムスピネルの一次粒子の粒子像から判別される最短径(最も短い直径:観察視野上又はその画像上で、個々の粒子を平行な2本の線分で挟みこんだときの最短距離)と最長径(最も長い直径:観察視野上又はその画像上で、個々の粒子を平行な2本の線分で挟みこんだときの最長距離)の比(最短径/最長径)をそれぞれ算出する。
酸化銅クロムスピネルの平均粒子径の値は、上記の測定対象の自形を有する粒子のなかから、無作為に選出した50個以上の酸化銅クロムスピネルから得られた平均値とする。
実施形態の酸化銅クロムスピネルの、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、2.0μm以下であってもよく、0.2~2.0μmであってもよく、1.0~2.0μmであってもよい。前記範囲内にあることで、LDS樹脂組成物とした際に、めっき吸着性能が向上し、好ましい。
酸化銅クロムスピネル試料の、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、レーザー回折式粒度分布計を用いて乾式で測定された粒子径分布において、体積積算%の割合が50%となる粒子径として求めることができる。
実施形態の酸化銅クロムスピネルの、BET法により求められる比表面積は、0.01~10m/gであってもよく、1~10m/gであってもよく、3.5~10m/gであってもよい。前記範囲内にあることで、活性点が多くなり、触媒性能、めっき吸着性能が向上し、好ましい。
上記の比表面積は、比表面積計(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法(Brunauer-Emmett-Teller法)による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出する。
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、亜クロム酸銅を含むものである。
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対して、CuCrを90~99.9質量%含むことが好ましく、95~99.9質量%含むことがより好ましく、98~99.9質量%含むことがさらに好ましい。
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、モリブデンを含むものである。酸化銅クロムスピネルに含まれるモリブデン含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態の酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる含有率(Mo)で、0.05質量%以上であることが好ましく、0.05~5.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.5質量%であることがさらに好ましい。
上記のXRF分析には、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、PrimusIV)を用いることができる。
MoO換算での含有率(Mo)とは、酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められるモリブデン含有量を、MoO換算の検量線を用いて換算したMoO量から求めた値をいう。なお、含有率(Mo)は前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するものである。
酸化銅クロムスピネルの表層に含まれるモリブデン含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態の酸化銅クロムスピネルの表層におけるモリブデン含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる含有率(Mo)で、0.05質量%以上であることが好ましく、0.05~15.0質量%であることが好ましく、1.0~10.0質量%であることがより好ましく、1.0~7.0質量%であることがさらに好ましい。前記範囲内にあることで、レーザー照射により露出した酸化銅クロムスピネルの銅をより活性化させ、めっきが結合しやすくなるため、好ましい。また、前記範囲内にあることで、例えば、カルボニル化合物、および芳香族化合物の官能性側環の水素化用触媒としての活性が向上するため好ましい。
上記の、XPS分析には、走査型X線光電子分光分析装置(例えば、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM)を用いることができる。
上記の含有率(Mo)は、酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoOの含有率として求めた値をいう。
実施形態の酸化銅クロムスピネルにおいて、前記モリブデンは、前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることが好ましい。
ここで、本明細書において「表層」とは、実施形態の酸化銅クロムスピネルの表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
本発明の酸化銅クロムスピネルにおいて、モリブデンが前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO換算でのモリブデンの含有率(Mo)が、前記酸化銅クロムスピネルをXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO換算でのモリブデンの含有率(Mo)よりも多いことで確認することができる。
実施形態の酸化銅クロムスピネルにおいて、モリブデンが前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることの指標として、実施形態の酸化銅クロムスピネルは、XRF分析により求められる含有率(Mo)に対するXPS表面分析により求められる含有率(Mo)であるモリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が、1.0より上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、10以上であることが特に好ましく、300以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
モリブデン又はモリブデン化合物を酸化銅クロムスピネルの表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一にモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、触媒活性等の優れた特性を効率的に付与することができる。
また、実施形態の酸化銅クロムスピネルに含まれる銅含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態の酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる含有率(Cu)で、25.0質量%以上であることが好ましく、30.0~40.0質量%であることがより好ましく、32.0~35.0質量%であることがさらに好ましい。
CuO換算での含有率(Cu)とは、酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる銅含有量を、CuO換算の検量線を用いて換算したCuO量から求めた値をいう。なお、含有率(Cu)は前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するものである。
酸化銅クロムスピネルの表層に含まれる銅含有量は、XPS表面分析により測定できる。実施形態の酸化銅クロムスピネルの表層における銅含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる含有率(Cu)で、50.0質量%以上であることが好ましく、55.0~80.0質量%であることが好ましく、60.0~75.0質量%であることがより好ましい。前記範囲内にあることで、レーザー照射により活性化される酸化銅クロムスピネルの銅が多く存在し、めっきが結合しやすくなるため、好ましい。
上記の含有率(Cu)は、酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、銅含有量を酸化物換算することにより、酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するCuOの含有率として求めた値をいう。
実施形態の酸化銅クロムスピネルにおいて、前記銅は、前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることが好ましい。
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりの銅又は銅化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりの銅又は銅化合物の質量よりも多い状態をいう。
本発明の酸化銅クロムスピネルにおいて、銅が前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するCuO換算での銅の含有率(Cu)が、前記酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するCuO換算での銅の含有率(Cu)よりも多いことで確認することができる。
実施形態の酸化銅クロムスピネルにおいて、銅が前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることの指標として、実施形態の酸化銅クロムスピネルは、XRF分析により求められる含有率(Cu)に対するXPS表面分析により求められる含有率(Cu)である銅の表層偏在比(Cu/Cu)が、1より上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.7以上であることが特に好ましい、3以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
銅又は銅化合物を酸化銅クロムスピネルの表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一に銅又は銅化合物を存在させる場合に比べて、レーザー照射により、活性化された酸化銅クロムスピネルの銅が表面に多く露出し、結果的にめっきとの結合点が増え、めっきの密着性が向上し、好ましい。
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、酸化銅クロムスピネルの集合体として提供可能であり、上記のモリブデン含有量および銅含有量の値は、前記集合体を試料として求められた値を採用することができる。
本発明の酸化銅クロムスピネルは、モリブデンの他に、ナトリウムやカリウムを含んでいてもよい。
<酸化銅クロムスピネルの製造方法>
実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法は、モリブデン化合物の存在下で、銅化合物、及びクロム化合物を焼成することを含む。より具体的には、本発明の製造方法は、前記酸化銅クロムスピネルの製造方法であって、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含むものであってよい。
モリブデン化合物の存在下で、銅化合物、及びクロム化合物を焼成することにより、モリブデン化合物を使用しない場合と比べて、単一組成の酸化銅クロムスピネルを効率よく製造可能であり、更には、粒子径を容易に制御し製造可能である。
実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法によれば、上記で説明した実施形態の酸化銅クロムスピネルを製造可能である。
酸化銅クロムスピネルの好ましい製造方法は、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
[混合工程]
混合工程は、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物と、を混合して混合物とする工程である。
混合方法は、特に制限されるものではなく、モリブデン化合物の粉体と、銅化合物の粉体と、クロム化合物の粉体とを混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合、乾式状態、湿式状態での混合などを用いることができる。
例えば、湿式状態での混合としては、液体媒質中にモリブデン化合物の粉体と、銅化合物の粉体と、クロム化合物の粉体と、を添加し撹拌ミルで混合する方法が挙げられる。
前記液体媒質としては、有機溶剤、油脂、水等を使用することができるが、後処理が容易なことから水が好ましい。
前記撹拌ミルとしては、媒体メディア(ビーズ、ボール、砂)を用いる媒体撹拌ミルであれば特に制限されず、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカーなどが挙げられ、取扱いが容易なことから、ボールを媒体としたペイントシェイカーが好ましい。
撹拌時間は、原料が混合できるという観点から、5~240分であってもよく、30~180分であってもよく、60~180分であってもよい。
例えば、乾式状態での混合としては、モリブデン化合物の粉体と、銅化合物の粉体と、クロム化合物の粉体と、を袋の中に入れて振盪や揉みほぐし等の人的手法や、媒体メディア(ビーズ、ボール、砂)を用いる、ボールミル、チューブミル、振動ミル、遊星ミルなどが挙げられるが、取扱いが容易なことから、ボールを媒体とした遊星ミルが好ましい。
(銅化合物)
前記銅化合物の種類は特に限定されない。例えば、前記銅化合物として、1価、又は2価のものであればよく、塩化銅、硫酸銅、硫化銅、炭酸銅、酸化銅等が挙げられ、入手容易性の観点から、炭酸銅、酸化銅が好ましい。
焼成後の酸化銅クロムスピネルの形状は、原料の銅化合物の形状が殆ど反映されていないため、銅化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
(クロム化合物)
前記クロム化合物の種類は特に制限されない。例えば、前記クロム化合物として、塩化クロム、硫酸クロム、硫化クロム、炭酸クロム、酸化クロム等が挙げられ、入手容易性の観点から、炭酸クロム、酸化クロムが好ましい。
焼成後の酸化銅クロムスピネルの形状は、原料のクロム化合物の形状が殆ど反映されていないため、クロム化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
(モリブデン化合物)
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸、硫化モリブデン、ケイ化モリブデン、ケイモリブデン酸、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸塩化合物等が挙げられ、酸化モリブデンが好ましい。
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン(MoO)、三酸化モリブデン(MoO)等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO 2-、Mo 2-、Mo10 2-、Mo13 2-、Mo16 2-、Mo19 2-、Mo24 6-、Mo26 4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が挙げられ、例えば、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムである。
前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましく、三酸化モリブデンであることが特に好ましい。
モリブデン酸塩化合物を用いる場合、酸化モリブデンと金属塩化物(例えば、金属炭酸塩、ハロゲン塩、硫酸塩など)の混合物を予め焼成して、形成したモリブデン酸塩化合物を使用してもよい。例えば、モリブデン酸ナトリウムの場合、酸化モリブデンと炭酸ナトリウムとの混合物を焼成して、形成したモリブデン酸ナトリウムを使用することができる。
実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法における、好ましい原料の組み合わせとして、酸化銅と、三酸化クロムと、三酸化モリブデンと、を用いることが挙げられる。
本発明の酸化銅クロムスピネルの製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物とが高温で反応し、一部がモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムを形成する。このモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムは、更に高温で酸化銅クロムスピネルの形成に伴い分解され、その際に一部の酸化モリブデンは酸化銅クロムスピネル内に取り込まれるものと考えられる。一部の酸化モリブデンは蒸発して系外に取り除かれるが、モリブデン化合物としてモリブデン酸ナトリウムなどを用いた場合には、アルカリ金属化合物と酸化モリブデンは結合しやすく、再度モリブデン酸塩を形成して系外にはほとんど排出されずに系内に残る。
酸化銅クロムスピネルに含まれるモリブデン化合物の生成機構について、より詳しくは、酸化銅クロムスピネル中にCu原子およびCr原子の反応によるMo-O-CuおよびMo-O-Crの形成が起こり、高温焼成によって大部分のMoの脱離が生じるが、一部のモリブデンは上記Mo-O-CuおよびMo-O-Crを形成したまま粒子内に残るものと考えられる。
酸化銅クロムスピネルに取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することもできる。こうすることで、酸化銅クロムスピネルの表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、酸化銅クロムスピネル本来の性質を最大限に付与することができる。
一方、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩は、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
上記フラックス法において、例えばモリブデン酸ナトリウムを使用すると、液相のモリブデン酸ナトリウムの存在下でモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが分解し、酸化銅クロムスピネルを形成した後に結晶が成長する。その結果、上述のフラックスの蒸発(MoOの昇華)を抑制しつつ、凝集の程度の低い又は凝集の無い酸化銅クロムスピネルを容易に得ることができると考えられる。
上記の効果は、モリブデン酸ナトリウムをモリブデン化合物およびナトリウム化合物に代替しても得られると想定される。モリブデン化合物とナトリウム化合物を併用した場合、まず、モリブデン化合物とナトリウム化合物が反応してモリブデン酸ナトリウムを形成すると考えられる。その後、上記と同様に、液相のモリブデン酸ナトリウムの存在下でモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが分解し、酸化銅クロムスピネルを形成した後に結晶が成長する。その結果、上述のフラックスの蒸発(MoOの昇華)を抑制しつつ、凝集の程度の低い又は凝集の無い酸化銅クロムスピネルを容易に得ることができると想定される。
本発明の酸化銅クロムスピネルの製造方法において、使用する銅化合物、クロム化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、原料中、例えば前記混合物中において、銅化合物およびクロム化合物の総配合量100質量部に対し、モリブデン化合物を、1~1000質量部で配合してもよく、5~100質量部で配合してもよい。
本発明の酸化銅クロムスピネルの製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中の銅に対するクロムのモル比(Cu/Cr)は2を基本とするが、過剰な生成物あるいは原料は、後に詳述する精製工程にて容易に除去可能であることから、前記Cu/Crは1.5~2.5の範囲であってもよい。
本発明の酸化銅クロムスピネルの製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中のモリブデン化合物中のモリブデン原子と、銅化合物およびクロム化合物中の銅およびクロム原子とのモル比(モリブデン/(銅+クロム))の値は、0.001以上であることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.02以上であることが特に好ましい。
原料中の、例えば前記混合物中のモリブデン化合物中のモリブデン原子と、銅化合物およびクロム化合物中の銅およびクロム原子とのモル比の上限値は、適宜定めればよいが、使用するモリブデン化合物の削減と製造効率向上の観点から、例えば、上記モル比(モリブデン/(銅+クロム))の値は、1以下であってもよく、0.5以下であってもよく、0.2以下であってもよく、0.1以下であってもよい。
原料中の、例えば前記混合物中の上記モル比(モリブデン/(銅+クロム))の数値範囲の一例としては、例えば、モリブデン/(銅+クロム)の値が0.001~1であってもよく、0.005~0.5であってもよく、0.01~0.2であってもよく、0.02~0.1であってもよい。
なお、銅およびクロムに対するモリブデンの使用量を増やすほど、後述の実施例で示すように、一次粒子径が小さな酸化銅クロムスピネルが得られる傾向にある。
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られる酸化銅クロムスピネルが含むモリブデン化合物の量がより適当となるとともに、粒子形状及び粒子径の制御された酸化銅クロムスピネルが容易に得られる。
(その他添加剤)
実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法は、モリブデン化合物と、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物との存在下で、銅化合物及びクロム化合物を焼成する工程を含んでもよい。
実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法は、焼成工程に先立ち、銅化合物、クロム化合物、モリブデン化合物、並びにナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
実施形態の製造方法において、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を併用することで、製造される酸化銅クロムスピネルの粒子径の調整が容易であり、凝集の程度の少ない又は凝集のない酸化銅クロムスピネルを容易に製造可能である。
ここで、少なくとも一部のモリブデン化合物及びナトリウム化合物に代えて、モリブデン酸ナトリウムのような、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物を使用することもできる。同様に、少なくとも一部のモリブデン化合物及びカリウム化合物に代えて、モリブデン酸カリウムのような、モリブデンとカリウムとを含有する化合物を使用することもできる。
そのため、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデンとカリウム及び/又はナトリウムとを含む化合物と、を混合して混合物とする工程も、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物と、カリウム化合物及び/又はナトリウム化合物と、を混合して混合物とする工程とみなす。
また、フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
(ナトリウム化合物)
ナトリウム化合物としては、特に制限されないが、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
なお、上述のナトリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記と同様に、モリブデン酸ナトリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
(カリウム化合物)
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記と同様に、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
(金属化合物)
実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法において、さらに、金属化合物を所望により焼成時に使用しても良い。製造方法としては、焼成工程に先立ち、銅化合物、クロム化合物、モリブデン化合物、並びに金属化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
前記第II族の金属化合物としては、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物を用いることが好ましく、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
金属化合物は、混合工程で使用されるクロム化合物の総量に対して、例えば、0~1.2質量%(例えば、0~1モル%)の割合で使用することが好ましい。
[焼成工程]
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係る前記酸化銅クロムスピネルは、前記混合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ結晶体を形成できる等のメリットを有する。
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法による酸化銅クロムスピネルの製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下で銅化合物およびクロム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが形成される。この際、当該モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムは、上述の説明からも理解されるように、亜クロム酸銅の融点よりも低温で亜クロム酸銅結晶を成長させる。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが分解し、結晶成長することで酸化銅クロムスピネルを得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムという中間体を経由して酸化銅クロムスピネルが製造される。
上記フラックス法により、モリブデンを含み、前記モリブデンが酸化銅クロムスピネルの表層に偏在している酸化銅クロムスピネルを効率よく製造することができる。
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行うことができる。焼成の過程で銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物とが反応して、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムを形成すると考えられる。さらに、焼成温度が700℃以上になると、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが分解し、酸化銅クロムスピネルを形成すると考えられる。また、酸化銅クロムスピネルでは、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが分解することで、酸化銅と酸化クロムと酸化モリブデンになり、その後亜クロム酸銅が形成される際に、モリブデン化合物が酸化銅クロムスピネル内に取り込まれるものと考えられる。
また、焼成する時の、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物が、銅化合物とクロム化合物とに作用できる同一の空間に存在すれば良い。
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とする酸化銅クロムスピネルの粒子径、酸化銅クロムスピネルにおけるモリブデン化合物の形成、酸化銅クロムスピネルの形状等を考慮して、適宜、決定される。焼成温度は、モリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムの分解温度に近い700℃以上であってもよく、800℃以上であってもよく、900℃以上であってもよく、950℃以上であってもよい。焼成温度が高いと、平均粒子径が大きくなる1つの要因と考えられる。
後述の実施例で得られている結果によれば、上記焼成温度が900℃以上であると、粒子制御された酸化銅クロムスピネルが得られ易い。
一般的に、焼成後に得られる酸化銅クロムスピネルの形状等を制御しようとすると1500℃超の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。、
本発明の一実施形態によれば、例えば、銅化合物と、クロム化合物と、を焼成する最高焼成温度が1500℃以下の条件であっても、酸化銅クロムスピネルの形成を低コストで効率的に行うことができる。
また、実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法によれば、1500℃よりもはるかに低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく、自形をもつ酸化銅クロムスピネルを形成することができる。また、酸化銅クロムスピネルを効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、1500℃以下であってよく、1000℃以下であってよい。
焼成工程における、銅化合物と、クロム化合物とを焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、700~1500℃であってもよく、800~1200℃であってもよく、900~1000℃、950~1000℃であってもよい。
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、100~400℃/hであってもよく、200~400℃/hであってもよい。
前記範囲であることにより、粒子径が制御される傾向にある。
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。酸化銅クロムスピネルの形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることがさらに好ましく、2~15時間の焼成温度保持時間であることが特に好ましい。
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
[冷却工程]
酸化銅クロムスピネルの製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長した酸化銅クロムスピネルを冷却する工程である。
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
[後処理工程]
本発明の酸化銅クロムスピネルの製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去する後処理工程をさらに含んでいてもよい。
方法としては、洗浄および高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
なお、上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、酸化銅クロムスピネルの表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、また酸化銅クロムスピネルの表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
モリブデンは、酸化銅クロムスピネルの表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄することにより除去することができる。
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、及び洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、酸化銅クロムスピネルにおけるモリブデン含有量を制御することができる。
また、高温処理の方法としては、モリブデン化合物の昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
[粉砕工程]
焼成工程を経て得られる焼成物は、酸化銅クロムスピネルが凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、酸化銅クロムスピネルは、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
[分級工程]
焼成工程により得られた酸化銅クロムスピネルを含む焼成物は、粒子径の範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる酸化銅クロムスピネルの粒径を調整することができる。
実施形態の酸化銅クロムスピネル、或いは実施形態の製造方法で得られる酸化銅クロムスピネルは、凝集の程度が少ない或いは凝集していないものであるので、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
なお、上記の実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法によれば、凝集の程度が少ない又は凝集のない酸化銅クロムスピネルを容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有する酸化銅クロムスピネルを、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
以上に説明した実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法によれば、モリブデンを含有し、形状の制御された高品質の酸化銅クロムスピネルを、高効率に製造可能である。
(用途)
本発明の酸化銅クロムスピネルが、モリブデンを含み、粒子径が精密に制御されていることから、触媒や樹脂組成物に好適に使用可能であり、具体的には、合成反応触媒、排気ガス浄化触媒、耐熱顔料、LDS用樹脂組成物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
<触媒>
本発明の酸化銅クロムスピネルは、触媒として好適に使用できる。具体的には、水素化、酸化、アルキル化、環化反応の様な有機合成に用いられる反応触媒、揮発性有機化合物(VOC)、NO等の自動車排気ガスの浄化に用いられる浄化触媒としての利用が挙げられる。本発明の酸化銅クロムスピネルは、モリブデンを含有する為、従来の酸化銅クロムスピネルと比較して、高い触媒機能を有することができる。
<樹脂組成物>
本発明の酸化銅クロムスピネルは、樹脂組成物に好適に使用できる。具体的には、本発明の酸化銅クロムスピネルから樹脂組成物を得る方法としては、前記酸化銅クロムスピネルと、熱可塑性樹脂と、無機充填剤とを必要に応じて押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで十分に溶融混錬し、混錬物を冷却することで得られる。なお得られる樹脂組成物の形状は、熱可塑性樹脂を用いる場合、ペレット状など任意の形状であってもよく、熱硬化性樹脂を用いる場合は、適当な大きさに粉砕し、打錠成型機等によりタブレット形状にしてもよい。
前記LDS用樹脂組成物には、更に、粘土鉱物、充填剤、カップリング剤、その他の添加剤を任意成分として含有していてもよい。
樹脂組成物における、酸化銅クロムスピネルの含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、下限としては、0質量部を超えて含まれていればよく、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、上限としては、好ましくは30質量部未満、より好ましくは20質量部未満であればよい。前記範囲内にあることで、得られる成形品のめっき性を良好にすることができる。
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂が好ましく、めっきの密着力を維持する観点からレーザー感応性が高い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂が特に好ましい。
前記熱硬化性樹脂としては、特に制限されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上組み合わせ用いてもよい。これらの中でも、硬化性、保存性、耐熱性、耐湿性、および耐薬品性を向上させる観点からエポキシ樹脂が特に好ましい。
前記熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂の配合率は、前記樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは10質量%以上から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下までの範囲である。前記樹脂組成物の全質量に対する前記熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂の配合率が5質量%以上であると、得られる成形品のめっき析出速度を向上できることから好ましい。また、得られる成形品のめっきの密着力の観点、充填性や成形安定性の観点からは40質量%以下が好ましい。
前記無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、クリストバライト、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化チタン、ガラス繊維、アルミナ繊維、酸化亜鉛、タルク、炭化カルシウム等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。樹脂組成物の分散性向上の観点から、溶融シリカ、結晶シリカがより好ましく、成形品の機械的強度向上の観点から、ガラス繊維がより好ましい。
前記樹脂組成物は粘土鉱物を任意成分として配合することができる。前記粘土鉱物は、本発明の酸化銅クロムスピネルと相乗効果を発揮して、得られる成形品のめっき性能、めっき層の接合強度を向上させる機能を有する。得られる成形品について実用的なめっき析出速度を得る点から、前記粘土鉱物は酸化銅クロムスピネルと同じく前記樹脂組成物中に均一に含有されていることが好ましい。
前記粘土鉱物としては、層状かつ劈開性を有するものが用いられる。当該粘土鉱物としては、特に制限されないが、炭酸塩鉱物、ケイ酸塩鉱物が挙げられる。
前記充填剤としては、特に制限されないが、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ケイ酸カルシウム(ウォラストナイト)等の繊維状充填剤;ガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤等が挙げられる。これらの充填剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら充填剤は、成形品にさらに機械的強度を付与する等の機能を有する。
前記カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらカップリング剤は、成形品に異種材料との接着性を付与する他、機械的強度を付与する機能を有する。
前記その他添加剤としては、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、難燃剤、光安定剤、熱安定剤、アルカリ、エラストマー、酸化チタン、酸化防止剤、耐加水分解性改良剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤等が挙げられる。
<樹脂成形品>
本発明の樹脂組成物から樹脂成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができるが、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形等の金型成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、溶融成形法などが挙げられる。
得られた成形品は、表面または内部をレーザーダイレクトストラクチャリングにより、成形品表層を粗化させ、めっき処理を施すことで、粗化領域にのみめっきを析出させることができることから、内蔵アンテナやタッチセンサー、チップパッケージの回線回路に好適に使用できる。
表層を粗化させる方法としては、レーザーが挙げられる。レーザーの波長は、150~12000nmの範囲から適宜選択でき、好ましくは、185nm,248nm、254nm、308nm、355nm、532nm、1,064nm又は10,600nmである。
めっき処理としては、電解めっき又は無電解めっきのいずれであってもよい。前述のレーザー照射により、成形品の表層が粗化され、樹脂組成物中の活性化された酸化銅クロムスピネルの一部が露出する。これにより、めっき処理時に、めっきが粗化領域にのみ析出し、回路等を形成することが可能となる。めっき液としては、特に制限はなく、公知のめっき液を適宜使用することができ、Cu、Ni、Agなどの必要とする金属成分を含有しためっき液を用いることができる。
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、以下において、「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。なお、以下に示す条件にて、酸化銅クロムスピネルを合成し、以下の条件にて測定または計算し、評価を行った。
<酸化銅クロムスピネルの合成>
(実施例1)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr)15.20部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)1.16部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて950℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。
(実施例2)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr)15.20部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)2.32部と、5mmφボール120部とを遊星ミルに仕込み、250rpmで120分間(15分毎に混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて950℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。
(実施例3)
焼成温度を900℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、酸化銅クロムスピネルを得た。
(比較例1)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr)15.20部とを、坩堝に入れ、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、深緑色の粉末を得た。続いて、前記深緑色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、深緑色の粉末を得た。
得られた酸化銅クロムスピネルは実施例1~3と比較して、反応が未完結なため粒子径が所望の範囲に制御されておらず、不純物が残存するものであった。さらに、樹脂組成物とした際に、均一に分散されず、また、モリブデンを含まないため、レーザーによる銅の活性化が期待できず、めっきとの密着性に劣る。
[結晶構造解析:XRD(X線回折)法]
試料粉末を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10~70°の条件で測定を行った。
[酸化銅クロムスピネルの比表面積測定]
酸化銅クロムスピネルの比表面積は、比表面積計(マイクロトラック・ベル株式会社製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m/g)として算出した。
[メディアン径測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒子径分布を測定した。体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として求めた。
[平均粒子径測定]
各試料を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JCM-7000)を用いて観察し、無作為に50個の粒子の粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径とし算出した。
[XRF(蛍光X線)分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、試料粉末約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて、次の条件でXRF(蛍光X線)分析を行った。
測定条件
EZスキャンモード
測定元素:F~U
測定時間:標準
測定径:10mm
残分(バランス成分):なし
XRF分析により得られた酸化銅クロムスピネルの銅含有量、クロム含有量、及びモリブデン含有量を酸化物換算することにより、酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO含有率(Mo)の結果を取得した。
[XPS表面分析]
試料粉末に対する表面元素分析は、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXMを用い、X線源に単色化Al-Kαを使用し、X線光電子分光法(XPS:XrayPhotoelectron Spectroscopy)の測定を行った。1000μm四方のエリア測定で、n=3測定の平均値を各元素についてatom%で取得した。
XPS分析により得られた酸化銅クロムスピネルの表層の銅およびクロムの含有量及び表層のモリブデン含有量を酸化物換算することにより、酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO含有率(Mo)(質量%)を求めた。
[等電点の測定]
ゼータ電位測定をゼータ電位測定装置(マルバーン社、ゼータサイザーナノZSP)にて行った。試料20mgと10mM KCl水溶液10mLを泡取り錬太郎(シンキー社、ARE-310)にて攪拌・脱泡モードで3分間攪拌し、5分静置した上澄みを測定用試料とした。自動滴定装置により、試料に0.1N HClを加え、pH=2までの範囲でゼータ電位測定を行い(印加電圧100V、Monomodlモード)、電位ゼロとなる等電点のpHを評価した。
[表1]
Figure 0007509324000001
[表2]
Figure 0007509324000002

Claims (11)

  1. モリブデンを含み、D50が2.0μm以下である、酸化銅クロムスピネルであって、
    前記モリブデンは、前記酸化銅クロムスピネルの表面に付着する形態、前記酸化銅クロムスピネルの結晶構造の一部を置換する形態、及び、アモルファスの状態で含まれる形態のうちの少なくとも一つの形態で含まれ、
    前記酸化銅クロムスピネルにおけるモリブデン含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる、前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で0.05~5.0質量%である、酸化銅クロムスピネル。
  2. 前記酸化銅クロムスピネルの表層におけるモリブデン含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる、前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)で0.05~15.0質量%である、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
  3. 前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)に対する、前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO換算での含有率(Mo)であるモリブデンの表層偏在比(Mo/Mo)が2.0以上である、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
  4. 前記酸化銅クロムスピネルのXRF分析により求められる含有率(Cu)に対するXPS表面分析により求められる含有率(Cu)である銅の表面偏在比(Cu/Cu)が、1より上である、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
  5. 前記酸化銅クロムスピネルの表層における銅含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる、前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するCuO換算での含有率(Cu)で50.0質量%以上である、請求項1又は4に記載の酸化銅クロムスピネル。
  6. 平均粒子径が0.1~10μmである、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
  7. BET法で測定される比表面積が0.01~10m/gである、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
  8. モリブデン化合物の存在下で、銅化合物、及びクロム化合物を焼成することを含む、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネルの製造方法。
  9. 前記モリブデン化合物が、三酸化モリブデンである、請求項8に記載の酸化銅クロムスピネルの製造方法。
  10. 請求項1又は4に記載の酸化銅クロムスピネル、
    熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂、及び、
    無機充填剤を含有する樹脂組成物。
  11. 請求項10に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
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