以下、図面を参照しながら、本発明の耐圧低減回路、回転機、および、インバータ電源装置に係る好適な実施形態として、直流電動機、誘導電動機、およびインバータ電源装置を例に説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。なお、本発明はこれらの実施形態での例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内および均等の範囲内におけるすべての変更を含む。また、回転機に関する以下の説明では、固定子にスロットを形成したインナーロータ型の回転機を例に説明するが、本発明の回転機は、アウターロータ型、あるいは、アキシャルギャップ型等の回転機として構成してもよい。また、スロットを構成要件としない回転機は、スロットレスの回転機として構成してもよい。
さらに、以下で説明する直流電動機は、従来のブラシ付き直流電動機と同様に発電機としても機能するものであり、その構造は直流電動機と同様である。また、以下で説明する誘導電動機は、従来のすべりsが負の状態で運転される誘導発電機としても機能するものであり、その構成は誘導電動機と同様である。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る直流電動機の概略を示す図であり、図2は、本実施形態に係る直流電動機のスイッチング回路と固定子巻線の展開を示した図である。また、図3は、本実施形態に係る直流電動機のコイルとスイッチング回路の等価回路を示す図である。本実施形態の直流電動機101は、図1に示すように、固定子10、回転子20、スイッチング回路30、位置検出センサ40、および、制御回路50を備えており、スイッチング回路30には直流電源60が接続される。
本実施形態を含む直流電動機の実施形態においては、説明の簡単化のため、回転子20の極数を2m(mは整数)とした場合に、mが1の場合、すなわち、回転子の磁極がN極とS極の2極の場合について説明する。また、図面によっては、簡略化のため、トランジスタをスイッチの記号あるいは方形のブロックとして表現しているが、これらのトランジスタは、図2に示すフリーホイルダイオードを備えたトランジスタと同様のものである。トランジスタの表現は、他の図面についても同様である。なお、図1では、直流電動機101を模式的に描いているため、回転子20と固定子10とが離れているが、製作上、回転子20と固定子10とのギャップは、磁気結合が十分確保できる長さとする。この点は、他の図面においても同様である。
図1において、固定子10は、n(nは4m以上の整数であり、本実施形態ではn=15)個のスロット(溝)を形成した電磁鋼板を積層した固定子コア11と、固定子コア11の各スロットに収納した15個のコイルA~Oからなる固定子巻線12を備えている。本実施形態の固定子巻線12は2層巻きの分布巻となっている。以下の説明で、例えば、「A」の符号については、「コイルA」と「コイル辺A」の両者に用いるが、分布巻の場合、図1、図2に示すように、「コイルA」は、回転子20の磁極ピッチだけ隔てた2つのスロットに収納されたコイル辺Aおよびコイル辺aと、これらの2つのコイル辺A,aを接続するコイル端と、2本の口出線を有するものを意味し、「コイル辺A」と記す場合は、コイルAの2つのコイル辺の一方のコイル辺Aを示すものとする。他のコイルB~0についても同様である。分布巻の固定子10を有する実施形態において、コイル辺は、回転子20の磁界の磁力線が直角に交差するコイル部分である。
本実施形態の直流電動機の場合、回転子20の磁極数と固定子10の磁極数とは等しくなる。したがって、直流電動機101の固定子10の極数は2(2mでm=1)である。
また、固定子10の磁極ピッチは、固定子10の隣接する磁極同士の間隔(角度)を意味する。例えば、固定子10に、N極、S極の2個の磁極が形成される2極機の場合は、固定子10の磁極ピッチは180°となる。この場合、回転子20の極数も固定子10の極数と等しいため、回転子20の磁極ピッチも180°となる。また、固定子10が、例えば、N極、S極、N極、S極の4個の磁極が形成される4極機の場合は、回転子20と固定子10の磁極ピッチはともに90°となる。
15個のコイルA~Oの各コイル辺は、それぞれで2π/nの位相をずらせてスロットに収納されている。コイル数nが奇数の場合、スロット数も奇数となる。この場合、15個のコイルA~Oのそれぞれのコイル辺は、一方のコイル辺を収めたスロットとこのスロットから固定子10の磁極ピッチ(180°)内で最も磁極ピッチに近いスロットに他方のコイル辺が収められる。換言すれば、各コイルの2つのコイル辺は、n/2の商、すなわち、7(15÷2=7余り1)個離れたスロットに収納される。
なお、2極機でスロット数が偶数の場合は、各コイルの2つのコイル辺は180°離れた位置のスロットに収められる。すなわち、スロット数が偶数の場合は、全節巻となり、コイルピッチは磁極ピッチと等しくなる。また、スロット数が奇数の場合は、短節巻となり、コイルピッチは磁極ピッチよりも短くなるが最も磁極ピッチに近くなるように設けられる。本発明では、スロットを有する固定子の場合に、コイルピッチが磁極ピッチと等しい場合および磁極ピッチよりも短いが最も磁極ピッチに近い場合の両者を含めて、コイルピッチが磁極ピッチに略等しいコイルピッチという。
15個のスロットは位相差2π/n(n=15)を有して設けられているため、コイルA~Oは、2π/15の位相、すなわち24°の位相をずらせて各スロットに収納されている。コイルの数は、奇数、偶数を問わず4個以上であればよい。このため、スロットを有する固定子の場合、コイルが収納される固定子のスロット数も4個以上となる。図1に示す直流電動機101は、2極のロータと15個のスロットに収納したコイルA~Oと15個の整流子片を備えたブラシ付き直流電動機に相当する。
固定子巻線12に関して、より具体的には、コイルAは、コイル辺Aが収納されるスロットとこのスロットから7個のスロット分離れたスロットに収納されるコイル辺aとを有している。また、コイルBは、コイル辺Aが収納されるスロットに隣接したスロットに収納されるコイル辺Bとこのスロットから7個のスロット分離れたスロットに収納されるコイル辺bとを有している。以降、コイルC~Oについても同様であり、例えば、コイルIは、コイル辺Aが収納されるスロットから8個のスロット分離れたスロットに収納されるコイル辺Iと、コイル辺Aが収納されるスロットと同じスロットに収納されるコイル辺iとを有している。
これにより、コイル辺Aとコイル辺i、コイル辺Bとコイル辺j、コイル辺Cとコイル辺k、コイル辺Dとコイル辺l、コイル辺Eとコイル辺m、コイル辺Fとコイル辺n、コイル辺Gとコイル辺o、コイル辺Hとコイル辺a、・・・、および、コイル辺Oとコイル辺hが、順次同じスロット内に収納される。
本実施形態では、図2に示す固定子巻線12の展開を示す図あるいは図3に示す等価回路から明らかなように、15個のコイルA~Oはそれぞれが直列接続されており、全体で環状の一つの閉ループが形成されている。これにより、本実施形態の直流電動機101は、隣接する2つのコイルに電流を流した際に、2つのコイルが共通に取り囲む領域において、同じ方向の磁界が発生するように、隣接するコイルの口出線が順次接続されて、各コイルが環状に直列接続されている。例えば、隣接する2つのコイルB,Cに注目すると、コイル辺Bの口出線からコイル辺cの口出線へ電流を流した際に、コイルBとコイルCに生じる磁束は、2つのコイルB,Cが共通に取り囲む領域に対しては同方向の磁界が発生する。
図1、図2、図3におけるスイッチング回路30は、本発明の耐圧低減回路に相当するものであり、第1の実施形態の直流電動機101の構成要素となっている。具体的には、コイルA~Oの接続点は、それぞれ2個の上アームと下アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTA1とTA2,トランジスタTB1とTB2,・・・,トランジスタTO1とTO2からなる15個のハーフブリッジTA,TB,・・・,TOの接続点に接続されている。以降、第1スイッチング素子のトランジスタTA1とTA2からなるハーフブリッジをハーフブリッジTAと呼ぶ、他のハーフブリッジについても同様であり、例えば、第1スイッチング素子のトランジスタTH1とTH2からなるハーフブリッジをハーフブリッジTHと呼ぶ。なお、本発明では、ハーフブリッジのプラス電源側に接続され、負荷に電流を供給する側の回路を上アームと呼び、ハーフブリッジのマイナス電源側に接続され、負荷からの電流をマイナス側メイン電源線に引き込む回路を下アームと呼ぶ。
図2、図3に示すように、本実施形態では、スイッチング回路30の15個のハーフブリッジTA~TOは、それぞれ複数、例えば、5つのハーフブリッジからなるk個(kは2以上の整数で本実施形態ではk=3)のスイッチ群に分割されている。具体的は、ハーフブリッジTA~TEが第1スイッチ群31、ハーフブリッジTF~TJが第2スイッチ群32、ハーフブリッジTK~TOが第3スイッチ群33の3群に分割されている。そして、各第1~第3スイッチ群31~33に属する上アームのスイッチング素子は、それぞれ各スイッチ群で共通のプラス側サブ電源線31H~33Hに接続され、第1~第3スイッチ群31~33に属する下アームのスイッチング素子は、それぞれ各スイッチ群で共通のマイナス側サブ電源線31L~33Lに接続されている。
例えば、第1スイッチ群31について説明すれば、コイルOのコイル辺o側の口出線と隣接するコイルAのコイル辺A側の口出線が接続され、その接続点は第1スイッチング素子であるトランジスタTA1を介してプラス側サブ電源線31Hに接続されるとともに、第1スイッチング素子であるトランジスタTA2を介してマイナス側サブ電源線31Lに接続されている。また、コイルAのコイル辺a側の口出線と隣接するコイルBのコイル辺B側の口出線が接続され、その接続点は第1スイッチング素子であるトランジスタTB1を介してプラス側サブ電源線31Hに接続されるとともに、第1スイッチング素子であるトランジスタTB2を介してマイナス側サブ電源線31Lに接続されている。コイルBのコイル辺b側の口出線からコイルEのコイル辺E側の口出線の各接続点についても同様に、上アーム側の第1スイッチング素子であるトランジスタTC1~TE1を介してプラス側サブ電源線31Hに接続されるとともに、下アーム側の第1スイッチング素子であるトランジスタTC2~TE2を介してマイナス側サブ電源線31Lに接続されている。
具体的には、第1スイッチ群31に属する上アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TE1がプラス側サブ電源線31Hに接続され、第1スイッチ群31に属する下アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTA2~TE2がマイナス側サブ電源線31Lに接続されている。また、第2スイッチ群32に属する上アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTD1~TH1がプラス側サブ電源線32Hに接続され、第2スイッチ群32に属する下アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTD2~TH2がマイナス側サブ電源線32Lに接続されている。第3スイッチ群33についても同様であり、上アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTK1~TO1が共通のプラス側サブ電源線33Hに接続され、下アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTK2~TO2が共通のマイナス側サブ電源線33Lに接続されている。
また、第1~第3スイッチ群31~33の各プラス側サブ電源線31H~33Hが、それぞれ第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T31を介して、直流電源60のプラス側メイン電源線61に接続されており、第1~第3スイッチ群31~33の各マイナス側サブ電源線31L~33Lが、それぞれ第2スイッチング素子であるトランジスタT12~T32を介して、直流電源60のマイナス側メイン電源線62に接続されている。具体的には、例えば、第1スイッチ群31のプラス側サブ電源線31Hが第2スイッチング素子であるトランジスタT11を介して直流電源60のプラス側メイン電源線61に接続されており、マイナス側サブ電源線31Lが第2スイッチング素子であるトランジスタT12を介して、直流電源60のマイナス側メイン電源線62に接続されている。この構成は、他の第2スイッチ群32、第3スイッチ群33についても同様である。
さらに、第1~第3スイッチ群31~33の各プラス側サブ電源線31H~33Hが、それぞれ抵抗R11~R31を介して当該第1~第3スイッチ群31~33のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されており、同様に、第1~第3スイッチ群31~33の各マイナス側サブ電源線31L~33Lが、それぞれ抵抗R12~R32を介して当該第1~第3スイッチ群31~33のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されている。具体的には、例えば、第1スイッチ群31のプラス側サブ電源線31Hが抵抗R11を介して当該第1スイッチ群31のいずれか1つのハーフブリッジ、例えば、ハーフブリッジTAの接続点に接続されており、第1スイッチ群31のマイナス側サブ電源線31Lが抵抗R12を介して当該第1スイッチ群31の同じハーフブリッジTAの接続点に接続されている。この構成は、他の各スイッチ群のプラス側サブ電源線32H、33Hおよびマイナス側サブ電源線32L、33Lについても同様である。
なお、本実施形態では、抵抗R11と抵抗R12とは、それぞれ同じハーフブリッジTAの接続点に接続されているが、同じスイッチ群内であれば異なるハーフブリッジの接続点に接続されていてもよい。例えば、プラス側サブ電源線31Hが抵抗R11を介してハーフブリッジTBの接続点に接続され、マイナス側サブ電源線31Lが抵抗R12を介してハーフブリッジTDの接続点に接続されていてもよい。この接続の構成は、他のスイッチ群についても同様であり、他の実施形態においても同様である。また、これらの抵抗R11~R32は、抵抗R11~R32に流れる電流が各コイルA~Oを流れる電流に比べて無視しうる程度の高い抵抗値を有している。
このように、本実施形態では、各コイルA~Oに電流を流すためのスイッチング回路30では、隣接するコイルの口出線の接続点にそれぞれハーフブリッジが接続され、各ハーフブリッジが複数のハーフブリッジからなる複数の第1~第3スイッチ群31~33に分けられ、各スイッチ群のハーフブリッジの複数の上アームのスイッチング素子および複数の下アームのスイッチング素子が、それぞれ各スイッチ群に共通のプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線に接続され、各スイッチ群の各プラス側サブ電源線および各マイナス側サブ電源線が、それぞれ上アーム側の第2スイッチング素子および下アーム側の第2スイッチング素子を介して、直流電源のプラス側メイン電源線およびマイナス側メイン電源線に接続されるとともに、それぞれ抵抗を介して当該スイッチ群のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されている。
そして、各ハーフブリッジTA~TOを構成する第1スイッチング素子である30個のトランジスタTA1~TO2は、第1スイッチング素子として同じ規格のトランジスタが用いられ、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TO2を直流電源60に接続する6個のトランジスタT11~T32は、第2スイッチング素子として第1スイッチング素子とは異なる規格のトランジスタが用いられる。
図2に示すように、プラス電源側の上アームの複数のトランジスタTA1~TO1とマイナス電源側の下アームのトランジスタTA2~TO2の接続点を直流電動機の整流子片と仮定した場合、各コイルA~Oは、一方の口出線と他方の口出線とが隣接する整流子片に接続される。本実施形態の直流電動機101の各コイルA~Oは,整流子付き直流電動機における重ね巻と同様の固定子巻線構造となっている。
図1に戻り、回転子20は図示しない軸を中心に回転可能に設けられており、本実施形態では永久磁石を備えている。回転子20は永久磁石回転子に限る必要はなく、励磁コイルを備えたものでもよい。また、説明を簡単にするために、本実施形態では、固定子10と回転子20の極数は2極としているが、2極より多くても構わない。例えば、回転子20を4極とし、本実施形態と同様の構成をとる場合は、例えば、回転子20の2極(N局とS極)当たりに15個のコイルを配置すればよく、30個のスロットに30個のコイルを収納した固定子巻線12とし、固定子10を4極で構成すればよい。但し、スイッチング回路30のトランジスタの数と後述する位置検出センサ40のセンサの数は2倍にする必要はない。直流電動機101を4極機として構成する場合は、空間的に180°の対称位置にある2本のコイルの口出線を、同じハーフブリッジの2個のトランジスタ素子の接続点に接続すればよく、スイッチング回路30、位置検出センサ40、後述する制御回路50は共通のものを用いることができる。
位置検出センサ40は、図1に示すように、回転子20の回転位置を検出するためのものであり、本実施形態では、スロット数あるいはコイル数に等しいn個(n=15)のホール素子からなるセンサSa~Soが用いられる。図1では、固定子10のスロットの箇所にセンサSa~Soが位置するように図示しているが、実際は、固定子10から軸方向に離間させた位置に設けることができる。ホール素子からなるセンサSa~Soは回転子20の磁界を検出する一例であり、可飽和コイルを用いたセンサや、非接触で回転子20の位置を検出できるものであれば光検出素子によるアブソリュートエンコーダを用いてもよい。センサSa~Soは、例えば、回転子20のN極が対向している際に論理値“H”を出力し、S極が対向しているときに論理値“L”を出力するように調整されている。なお、回転子20の位置検出のためにレゾルバを用い回転子20の回転角を算出してもよい。
制御回路50は、位置検出センサ40からの回転子20の位置信号を受けて、スイッチング回路30のプラス側メイン電源線61に接続された上アーム側のトランジスタT11~T31、および、マイナス側メイン電源線62に接続された下アーム側のトランジスタT12~T32のオン・オフ状態を切り換えるとともに、各ハーフブリッジTA~TOを構成する上アームのトランジスタTA1~TO1、および、下アームのトランジスタTA2~TO2のオン・オフ状態を切り換えることによって、各コイルA~Oに流れる電流の方向を切り換えている。
本実施形態では、後述するスイッチング素子のオン・オフの切り換え時を除き、通常、第1スイッチング素子である上アームのトランジスタTA1~TO1のいずれか1つがオン状態になり、このオン状態のトランジスタとは異なる下アームのトランジスタTA2~TO2であって、オン状態にある上アームのトランジスタが接続されたコイルと磁極ピッチに相当する略180°離れた位置にあるコイルに接続されたトランジスタがオン状態になる。さらに、オン状態にある上アームのトランジスタに接続された第2スイッチング素子である上アーム側の第2スイッチング素子のトランジスタT11~T31のいずれか1つと、オン状態にある下アームのトランジスタに接続された第2スイッチング素子である下アーム側のトランジスタT12~T32のいずれか1つがオン状態になる。また、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子の他のトランジスタは、全てオフ状態となる。
次に、本実施形態の直流電動機の第1スイッチング素子および第2スイッチング素子のオン・オフを切り換えるための制御回路について説明する。
図4Aは、図4Bとともに、図1に示す直流電動機の制御回路50の一構成例を示す図であり、図4Bは、図4Aとともに、図1に示す直流電動機の制御回路50の一構成例を示す図である。また、図5は、本実施形態に係る直流電動機のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図である。図5において、t1からt9は時刻を示しており、上から下にかけて時間が経過する。また、それぞれの時刻においてオン状態にあるトランジスタを太枠で囲みハッチングを施している。
図4A、図4Bに示す制御回路50は、15個のセンサSa~Soの信号を受けて、第1スイッチング素子である30個のトランジスタTA1~TO2と第2スイッチング素子トランジスタであるトランジスタT11~T32の各ゲートへオン・オフ信号を送信する。制御回路50を構成する論理回路は、センサSa~So側を上流側、トランジスタTA1~TO2側を下流側とした場合、図4Aに示す第1段目51の15個のXOR(排他的論理和)回路と、第2段目52の15個のXOR回路と、第3段目53の15個のNOT(否定)回路と、第4段目54の30個のAND(論理積)回路、および、第5段目55の30個の増幅器と、図4Bに示す第6段目56の6個のOR(論理和)回路と、第7段目57の6個の増幅器を備えている。
第4段目54のAND回路は15個のコイルおよび各ハーフブリッジの上アームのトランジスタと下アームのトランジスタに対応した対をなしており、第4段目54のAND回路の出力信号は、第5段目55の増幅器で増幅されて第1スイッチング素子の各トランジスタTA1~TO2のゲートに供給されている。すなわち、一対のAND回路からの出力は、それぞれ第1~第3スイッチ群31~33のプラス側サブ電源線31H~33Hとマイナス側サブ電源線31L~33Lに接続されたハーフブリッジを構成する一対のトランジスタの各ゲートに入力される。
例えば、コイルCとコイルD(コイル辺cとコイル辺D)の口出線の接続点に接続されたハーフブリッジを構成するトランジスタTD1,TD2に注目すると、隣接する2つのホール素子、例えば、センサScとSdからの信号が、第1段目51のXOR回路に入力され、その出力は、トランジスタTD1,TD2に接続された第4段目54の対となるAND回路にそれぞれ入力される。また、センサScからの信号と正逆回転制御入力端子70からの正逆信号Qが、第2段目52のXOR回路に入力され、その出力は、対となる第4段目54のAND回路の一方に直接入力され、他方のAND回路には、第3段目53のNOT回路を介して入力される。このため、トランジスタTD1,TD2に接続された第4段目54の対となるAND回路の出力値は同時に“H”になることはない。
また、センサSa~Soは、各トランジスタをスイッチングすることによって各コイルA~Oに電流を流した際に、回転子20にトルクが作用するように図4Aに示す位置に配設される。例えば、回転子20のN極がセンサSh~Soに対向し、回転子20のS極がセンサSa~Sgに対向している状態とすると、センサSh~Soの出力は“H”となり、センサSa~Sgの出力は“L”となる。そして、正逆回転制御入力端子70からの正逆信号Qが正回転の論理値“H”である場合、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1のゲートに接続される第4段目54のAND回路とトランジスタTH2のゲートに接続される第4段目54のAND回路の出力値が“H”となり、他の第1スイッチング素子であるトランジスタのゲートに接続されたAND回路の出力は全て“L”となる。この状態は、図5に示すスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移図において、時刻t1の状態を示している。
図4Aに示した第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32へのゲート信号は、第4段目54のAND回路の所定の出力信号の論理和信号から得ている。具体的には、図4Bに示すように、例えば、第1スイッチ群31の上アーム側に設けた第2スイッチング素子であるトランジスタT11のゲート信号S11は、第1スイッチ群31に属する上アームのトランジスタTA1,TB1,TC1,TD1,TE1のゲート信号となる信号A1,B1,C1,D1,E1の論理和信号から得ている。この構成は、他の第2、第3スイッチ群32、33の上アーム側に設けた第2スイッチング素子であるトランジスタT21、T31のゲート信号S21、S31についても、同様である。
また、第1スイッチ群31の下アーム側に設けた第2スイッチング素子であるトランジスタT12のゲート信号S12は、第1スイッチ群31に属する下アームのトランジスタTA2,TB2,TC2,TD2,TE2のゲート信号となる信号A2,B2,C2,D2,E2の論理和信号から得ている。この構成は、他の第2、第3スイッチ群32、33の下アーム側に設けた第2スイッチング素子であるトランジスタT22、T32のゲート信号S22、S32についても、同様である。
これにより、本実施形態では、コイルに接続された第1スイッチング素子であるハーフブリッジの上アームまたは下アームのいずれかのトランジスタTA1~TO2のゲートが論理値“H”となった場合に、ゲートが論理値“H”となった第1スイッチング素子であるトランジスタが属するスイッチ群の第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32のゲートが論理値“H”となるように構成されている。このため、ゲートが論理値“H”となった上アームのトランジスタTA1~TO1は、プラス側メイン電源線61に接続され、ゲートが論理値“H”となった下アームのトランジスタTA2~TO2は、マイナス側メイン電源線62に接続される。また、他のすべての第1、第2スイッチング素子のゲート信号は論理値“L”となるように構成されている。
これにより、制御回路50は、一つのスイッチ群に属する上アーム側の第1スイッチング素子の1つと第2スイッチング素子をオン状態にするととともに、他のスイッチ群に属する下アーム側の第1スイッチング素子の1つと第2スイッチング素子をオン状態にする。
図5は、このような第1スイッチング素子と第2スイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示している。例えば、時刻t1において上アームのトランジスタTA1がオンしているときには、トランジスタTA1が属する第1スイッチ群31の上アーム側の第2のスイッチング素子であるトランジスタT11がオンする。また、下アームのトランジスタTH2がオンしているときには、トランジスタTH2が属する第2スイッチ群32の下アーム側の第2のスイッチング素子であるトランジスタT22がオンする。このため、本実施形態では、コイルA~Oに流れる電流は、第1スイッチング素子であるハーフブリッジを構成するトランジスタTA1~TO2のオン・オフ状態に注目することによって求まる。
図5に示す時刻t1では、回転子20のN極がセンサSh~Soに対向し、回転子20のS極がセンサSa~Sgに対向している状態であり、上アーム側は、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1と第2スイッチング素子であるトランジスタT11がオン状態にあり、下アーム側は、第1スイッチング素子であるトランジスタTH2と第2スイッチング素子であるトランジスタT22がオン状態にある。図3の等価回路を参照すれば、時刻t1において、直流電源60からの電流は、プラス側メイン電源線61、トランジスタT11、プラス側サブ電源線31H、トランジスタTA1を経て、コイルA、コイルB、コイルC、コイルD、コイルE、コイルF、コイルGの順に直列接続された1つのコイル群に流れる経路と、コイルO、コイルN、コイルM、コイルL、コイルK、コイルJ、コイルI、コイルH、の順に直列接続されたもう1つのコイル群に流れる経路に分かれ、さらに、トランジスタTH2、マイナス側サブ電源線32L、トランジスタT22を経由してマイナス側メイン電源線62に流れる。
図6A~図6Cは、図1に示す直流電動機の各コイル辺に流れる電流を説明するための図であり、図6Aは、図5の時刻t1の状態を示し、図6Bは、図5の時刻t2の状態を示し、図6Cは、図5の時刻t3の状態を示している。
時刻t1において、各コイル群に流れる電流によって、図6Aに示すように、コイル辺A,B,C,D,E,F,G,h,i,j,k,l,m,n,oには紙面手前から奥に向けて、また、コイル辺H、I,J,K,L,M,N,O,a,b,c,d,e,f,gには紙面奥から手前に向けて電流が流れる。なお、同じスロットに収納されたコイル辺Oとコイル辺hには互いに逆方向に電流が流れる。これにより、固定子10の内部には、図6Aに示す回転子20の磁極NSの境界線にほぼ沿った方向(コイル辺h,Oを収納したスロット位置からコイル辺o,Gを収納したスロットとコイル辺a、Hを収納したスロットとの中間位置に向かう方向)の磁界が発生する。固定子10の磁界と回転子20の磁界とはほぼ90°の位相差を有しており、回転子20の磁界の方向が固定子10の磁界の方向に揃うように回転子20に力が作用する。これにより、回転子20には反時計方向のトルクが作用し、回転子20は、正回転方向である反時計方向に回転する。
図6Aに示す時刻t1の状態から、さらに回転子20が反時計方向に回転すると、図6Bに示すように、回転子20のN極がセンサSi~Soに対向し、回転子20のS極がセンサSa~Shに対向する。これにより、トランジスタTA1のゲートに接続される第4段目54のAND回路とトランジスタTI2のゲートに接続される第4段目54のAND回路の出力値が“H”となり、第2スイッチング素子であるトランジスタT11,T22のゲート信号が“H”となる。また、他のトランジスタのゲート信号は全て“L”となる。そして、図5の時刻t2に図示するように、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1,TI2、および、第2スイッチング素子であるトランジスタT11,T22がオン状態となり、他のトランジスタは全てオフ状態となる。
この状態では、直流電源60からの電流は、コイルA、コイルB、コイルC、コイルD、コイルE、コイルF、コイルG、コイルHの経路のコイル群と、コイルO、コイルN、コイルM、コイルL、コイルK、コイルJ、コイルIのコイル群に分かれて流れるため、図6Bに示すように、コイル辺A,B,C,D,E,F,G,H,i,j,k,l,m,n,oには紙面手前から奥に向けて、また、コイル辺I,J,K,L,M,N,O,a,b,c,d,e,f,g,hには紙面奥から手前に向けて電流が流れる。なお、同じスロットに収納されたコイル辺aとコイル辺Hには互いに逆方向に電流が流れる。このため、固定子10の内部には、図6Bに示す回転子20のNSの境界線にほぼ沿った方向(コイル辺i,Aを収納したスロットとコイル辺h,Oを収納したスロットとの中間位置からコイル辺a,Hを収納したスロット位置に向かう方向)の磁界が発生する。この磁界より、回転子20には反時計方向のトルクが作用し、反時計方向に回転する。
さらに回転子20が反時計方向に回転すると、図6Cに示すように、回転子20のN極がセンサSi~So,Saに対向し、回転子20のS極がセンサSb~Shに対向する。これにより、図5の時刻t3に図示するように、第1スイッチング素子であるトランジスタTB1,TI2、および、第2スイッチング素子であるトランジスタT11,T22がオン状態となり、他のトランジスタは全てオフ状態となる。
この状態では、直流電源60からの電流は、コイルB、コイルC、コイルD、コイルE、コイルF、コイルG、コイルHの経路のコイル群と、コイルA、コイルO、コイルN、コイルM、コイルL、コイルK、コイルJ、コイルIのコイル群に分かれて流れるため、図6Cに示すように、コイル辺B,C,D,E,F,G,H,i,j,k,l,m,n,o,aには紙面手前から奥に向けて、また、コイル辺I,J,K,L,M,N,O,A,b,c,d,e,f,g,hには紙面奥から手前に向けて電流が流れる。なお、同じスロットに収納されたコイル辺iとコイル辺Aには互いに逆方向に電流が流れる。このため、固定子10の内部には、図6Cに示す回転子20のNSの境界線にほぼ沿った方向の磁界が発生する。この磁界によって、回転子20には反時計方向のトルクが作用し、反時計方向に回転する。図5に示す第1スイッチング素子と第2スイッチング素子のオン・オフ状態の遷移によって、時刻t1から時刻t3の間に、図1に示す回転子20は、反時計方向に、2π/15、すなわち24°回転する。
以降、同様に、回転子20が反時計方向のトルクを受けて、反時計方向に回転するにしたがって、位置検出センサ40の各センサSa~Soの信号出力が変化し、これに伴って、図2に示す第1スイッチング素子である上アームのトランジスタTA1~TO1と下アームのトランジスタTA2~TO2のオン状態にあるトランジスタが切り換わる。さらに、第1スイッチング素子のオン・オフ状態の切り換わりに連動して第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32のオン・オフ状態が切り換わる。これにより、回転子20は正回転方向である反時計方向に回転し続ける。
図5に示すように、固定子巻線として奇数個(15個)のコイルA~Oがある場合、上アームのトランジスタTA1~TO1のオン状態の切り換えと、下アームのトランジスタTA2~TO2のオン状態の切り換えは、交互に行われる。すなわち、時刻t2では時刻t1の状態から、下アームのトランジスタTH2に代わってトランジスタTI2がオン状態になり、時刻t3では上アームのトランジスタTA1に代わってトランジスタTB1がオン状態になり、さらに、時刻t4では下アームのトランジスタTI2に代わってトランジスタTJ2がオン状態になる。なお、固定子10のスロットの数が偶数の場合は、上アームのトランジスタと下アームのトランジスタは、同じタイミングでオン状態が切り換わる。
以上のように、本実施形態の直流電動機101は、固定子10のすべてのコイルに流れる電流が回転子20に回転トルクを与えることになる。このため、直流電動機101は、コイルの電流利用率の高い直流電動機となる。
また、図4Aに示す制御回路において、正逆回転制御入力端子70からの正逆信号Qを逆回転の論理値“L”にした場合は、図1に示す回転子20は、時計方向に回転する。例えば、図4Aに示すように、回転子20のN極がセンサSh~Soに対向し、回転子20のS極がセンサSa~Sgに対向している状態とすると、センサSh~Soの出力は“H”となり、センサSa~Sgの出力は“L”となる。そして、正逆回転制御入力端子70からの正逆信号Qが正回転の論理値“L”である場合、第1スイッチング素子であるトランジスタTH1のゲートに接続される第4段目54のAND回路とトランジスタTA2のゲートに接続される第4段目54のAND回路の出力値が“H”となり、他の第1スイッチング素子であるトランジスタのゲートに接続されたAND回路の出力は全て“L”となる。これにともない、第2スイッチング素子であるトランジスタT21とトランジスタT12のゲート信号が“H”となる。
この状態において、図3の等価回路を参照すれば、直流電源60からの電流は、プラス側メイン電源線61、トランジスタT21、プラス側サブ電源線32H、トランジスタTH1を経て、コイルH、コイルI、コイルJ、コイルK、コイルL、コイルM、コイルN、コイルOの順に直列接続された1つのコイル群に流れる経路と、コイルG、コイルF、コイルE、コイルD、コイルC、コイルB、コイルAの順に直列接続されたもう1つのコイル群に流れる経路に分かれ、さらに、トランジスタTA2、マイナス側サブ電源線31L、トランジスタT12を経由してマイナス側メイン電源線62に流れる。
このため、各コイル辺に流れる電流は、図6Aで示した各コイル辺A~oに流れる電流とは反対方向となる。そして、固定子10の内部には、図6Aに示す回転子20の磁極NSの境界線に沿った方向(コイル辺o,Gを収納したスロットとコイル辺a、Hを収納したスロットとの中間位置からコイル辺h,Oを収納したスロット位置に向かう方向)の磁界が発生する。固定子10の磁界と回転子20の磁界とはほぼ90°の位相差を有しており、回転子20の磁界の方向が固定子10の磁界の方向に揃うように回転子20に力が作用する。これにより、回転子20には時計方向のトルクが作用し、回転子20は、逆回転方向である時計方向に回転する。以降、正回転方向の場合と同様に、回転子20は逆回転方向である時計方向に回転を続ける。
このように、本実施形態の直流電動機100は、回転子20の磁極の位置に応じて、回転子のN極に対向するコイルのコイル辺とS極に対向するコイルのコイル辺とに流れる電流の方向が異なる方向となるように、制御回路50がスイッチング素子である各トランジスタTA1~TI2の導通・非導通を切り換えている。
以上のように、本実施形態の直流電動機101は、図17、図18で従来例として示した直流電動機100と比べて、回転子と、極数2m(mは整数)の磁極ピッチに略等しいコイルピッチを有し、2π/n(nは4以上の整数)位相をずらせて設けたn個のコイルを備え、各コイルはそれぞれ2本の口出線を有しており、隣接するコイルの口出線が順次接続されて各コイルが環状に直列接続され、各口出線の接続点がそれぞれ2個の第1スイッチング素子からなるハーフブリッジの接続点に接続されている点で共通している。しかしながら、従来例と比べて、次の点でその構成が異なっている。
(1)隣接するコイルの口出線に接続されたハーフブリッジが、それぞれ複数のハーフブリッジを有するk個(kは2以上の整数)のスイッチ群に分けられ、各スイッチ群のハーフブリッジの複数の上アームの第1スイッチング素子および複数の下アームの第1スイッチング素子が、それぞれ各スイッチ群に設けたプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線に接続されている点。
(2)各スイッチ群の各プラス側サブ電源線および各マイナス側サブ電源線が、それぞれ第2スイッチング素子を介して、直流電源のプラス側メイン電源線およびマイナス側メイン電源線に接続されている点。
(3)各スイッチ群のプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線が、それぞれ抵抗を介して当該スイッチ群のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されているか、あるいは、直接抵抗を介して接続されている点。
上記の(1)~(3)の構成による作用効果について、以下に説明する。例えば、図5に示す時刻t1では、第1スイッチ群31の上アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT11、第1スイッチ群31の上アームのトランジスタTA1、第2スイッチ群32の下アームのトランジスタTH2、および、第2スイッチ群32の下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT22の4つのトランジスタがオン状態にあり、他のすべてのトランジスタがオフ状態にある。図3に示した等価回路は、図5に示す時刻t1での状態を示している。
図3を参照すれば、第1スイッチ群31において、第2スイッチング素子であるトランジスタT11はオン状態にあるが、第2スイッチング素子であるトランジスタT12はオフ状態にあるため、トランジスタT12は直流電源60の電源電圧Vdcに耐え得る高耐圧のトランジスタを用いる必要がある。また、第2スイッチ群32において、第2スイッチング素子であるトランジスタT22はオン状態にあるが、第2スイッチング素子であるトランジスタT21はオフ状態にあるため、トランジスタT21は直流電源60の電源電圧Vdcに耐え得る高耐圧のトランジスタを用いる必要がある。第1スイッチング素子のオン状態の切り換えを考慮すれば、プラス側メイン電源線61またはマイナス側メイン電源線62に接続される第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32は、電源電圧Vdcに耐え得る高耐圧のトランジスタを用いる必要がある。
各コイルA~Oに接続されるハーフブリッジTA~TOにおいて、それぞれ第1~第3スイッチ群31~33の上アームのトランジスタTA1~TO1はプラス側サブ電源線31H~33Hに接続され、下アームのトランジスタTA2~TO2はマイナス側サブ電源線31L~33Lに接続されている。図3に示す状態では、直流電源60からの電流は、プラス側メイン電源線61、第2スイッチング素子であるトランジスタT11、プラス側サブ電源線31H、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1を経由して、コイルA,B,C,D,E、F,Gの直列回路を流れる。
各コイルの口出線の接続点の電位、すなわち各ハーフブリッジ接続点の電位は、ハーフブリッジTAの接続点の電位から、直列接続されたコイルの電圧降下分に相当する電圧分を差し引いた電位となる。このため、第1スイッチ群31の第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TE2に係る電圧は次のようになる。
第1スイッチ群31の第2スイッチング素子であるトランジスタT11と第1スイッチング素子であるトランジスタTA1がオン状態にあるため、トランジスタTA1の印加電圧は零となり、プラス側サブ電源線31HとハーフブリッジTAの接続点は、プラス側メイン電源線61とほぼ同電位となっている。このため、上アームのトランジスタTB1には、コイルAを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、上アームのトランジスタTC1には、コイルA,Bを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加される。また、上アームのトランジスタTE1には、コイルA~Dを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加される。
一方、下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT12はオフ状態であるため、トランジスタT12には、ほぼ電源電圧Vdcに等しい電圧が印加される。そして、マイナス側サブ電源線31Lは、マイナス側メイン電源線62とは同電位とはならず、数MΩの高い抵抗値の抵抗R12、R11を通じて、プラス側メイン電源線61とほぼ同電位となっている。
このため、第1スイッチ群31の下アームの第1スイッチング素子に注目すれば、トランジスタTA2の印加電圧は零となり、下アームのトランジスタTB2には、コイルAを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、下アームのトランジスタTC2には、コイルA,Bを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加される。また、例えば、下アームのトランジスタTE2には、コイルA~Dを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加される。このように、第1スイッチ群31の下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT21には高い電源電圧Vdcがかかるが、第1スイッチ群31の第1スイッチング素子である各トランジスタTA1~TE2には電源電圧Vdcよりも低い電圧しかかからない。
また、第2スイッチ群32に注目すれば、第2スイッチング素子であるトランジスタT22と第1スイッチング素子であるトランジスタTH2がオン状態になるため、トランジスタTH2の印加電圧は零となり、マイナス側サブ電源線32LおよびハーフブリッジTHの接続点は、マイナス側メイン電源線62とほぼ同電位となっている。このため、例えば、下アームのトランジスタTF2には、コイルF,Gを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、また、例えば、下アームのトランジスタTG2には、コイルGを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、下アームのトランジスタTI2には、コイルHを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加される。
一方、上アーム側の第1スイッチング素子であるトランジスタT21はオフ状態であるため、上アーム側のトランジスタT21には、ほぼ電源電圧Vdcに等しい電圧が印加される。そして、プラス側サブ電源線32Hは、第2スイッチング素子であるトランジスタT22がオン状態にあるため、プラス側メイン電源線61とは同電位とはならず、数MΩの高い抵抗値の抵抗R21を通じて、ハーフブリッジTFの接続点と同じ電位になっている。
このため、上アームのトランジスタTF1の印加電圧は零となる。また、上アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTG1には、コイルFを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、上アームのトランジスタTH1の印加電圧はコイルF,Gを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、上アームのトランジスタTI1には、コイルF,Gを流れる電流の電圧降下分とコイルHを流れる電流の電圧降下分との差分に相当する電圧が印加される。このように、第3スイッチ群33の下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT32には高い電源電圧Vdcがかかるが、第3スイッチ群33の各第1スイッチング素子であるトランジスタTG1~TI2には電源電圧Vdcよりも低い電圧しかかからない。
また、第3スイッチ群33に注目すれば、第2スイッチング素子であるトランジスタT21とトランジスタT22がともにオフ状態になるため、トランジスタT31、抵抗R21,R22、および、トランジスタT32には電源電圧Vdcが印加される。また、第2スイッチ群32のプラス側サブ電源線32Hおよびマイナス側サブ電源線32Lの電位は、それぞれ抵抗R31およびR32を介して、ハーフブリッジTKの接続点(コイル辺jとコイル辺Kの接続点)の電位となっている。このため、第1スイッチング素子のトランジスタTK1,TK2には電圧が印加されず、トランジスタTL1,TL2にはコイルKを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加され、トランジスタTM1,TM2には、コイルK,Lを流れる電流の電圧降下分に相当する電圧が印加される。このように、第3スイッチ群33では、上アーム側と下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT31、T32には高電圧(それぞれ電源電圧Vdcの1/2)がかかるが、第3スイッチ群33の各第1スイッチング素子であるトランジスタTK1~TO2には低い電圧しかかからない。
以上のように、本実施形態では、各スイッチ群の上アーム側と下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32の6個のトランジスタについては、高耐圧のトランジスタを用いる必要があるが、各ハーフブリッジを構成する第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TO2の30個のトランジスタについては、低耐圧のトランジスタを用いることが可能になる。このことは、オン状態にあるスイッチング素子が順次切り換わった場合においても、同様である。
直流電動機の出力トルクを大きくするためには、コイルA~Oに流す電流の値を大きくする必要があり、直流電源60の電源電圧Vdcの値を大きくする必要が生じる。このため、使用するスイッチング素子に求められる耐圧も高くする必要がある。また、直列接続したコイルの電磁的なリアクションを軽減し、回転子20のコギングトルクを小さくするためには、固定子10のスロット数を多くしコイル数を増やすことが望ましい。このため、図17、図18で従来例として示した直流電動機100では、コイルの電流効率は高くできるものの、コイル数の2倍のスイッチング素子が必要となり、高出力を得るためには、耐圧は大きいが高価なトランジスタを用いる必要がある。例えば、直流電源60の電源電圧Vdcが250Vで、コイル数が15個として構成した場合、少なくとも耐圧性能が250Vのトランジスタがコイル数の2倍の30個必要となる。
ここで、第1の実施形態における直流電動機において、電源電圧Vdcと第1スイッチング素子に印加される電圧の関係について説明する。コイル数n、スイッチ群数kとし、コイル数nが偶数でk個の各コイル群のコイル数が同じである場合、コイルを流れる電流は2つの経路に分かれるため、各コイルには、Vdc/(n/2)の電圧が印加される。また1つのスイッチ群にはn/k本のコイルが含まれ、各スイッチング素子のいずれかはサブ電源線に接続されているため、第1スイッチング素子には最大で(n/k-1)本のコイルの電圧降下分の電圧がかかる。したがって、スイッチング素子の耐圧は、2Vdc×(n/k-1)/nとなる。また、コイル数nが奇数で各コイル群のコイル数が同じである場合は、各コイルには最大でVdc/((n-1)/2)の電圧がかかることになるため、第1スイッチング素子の耐圧は、2Vdc×(n/k-1)/(n-1)となる。このように、本実施形態では、第1スイッチング素子である低耐圧のトランジスタの耐圧は、第2スイッチング素子である高耐圧のトランジスタの耐圧に比べて、2Vdc×(n/k-1)/nまたは2Vdc×(n/k-1)/(n-1)まで引き下げることができる。
したがって、スイッチ群の数kを多くするほど第2スイッチング素子の耐圧を低くすることができ、2k個の高耐圧のトランジスタと2n個の低耐圧のトランジスタを用いて、直流電動機101の耐圧低減回路としてのスイッチング回路30を構成することができる。そして、コイル数nとスイッチ群数kを選択することにより、第1スイッチング素子として耐圧性能が100V以下のトランジスタを選ぶことが実用上望ましい。例えば、電源電圧Vdcが250Vで、コイル数nを16、スイッチ群数kを4とした場合、耐圧が250Vのトランジスタ8個と、耐圧100V以下のトランジスタ32個でスイッチング回路30を構成することができる。このように、本実施形態の直流電動機101では、トランジスタの総数は増えるものの、従来例と比べて必要な高耐圧のトランジスタの数を大幅に減らすことができ、全体としてスイッチング素子の大幅なコストダウンが可能となる。
[スイッチング素子切り換え方法]
次に、第1スイッチング素子である上アームのトランジスタTA1~TO1あるいは下アームのトランジスタTA2~TO2について、オン状態にあるトランジスタを切り換える際の方法について説明する。例えば、図5に示す時刻t1から時刻t2にかけて、下アームのトランジスタTH2がオン状態からオフ状態に、また、これに伴い、下アームのトランジスタTI2がオフ状態からオン状態に切り換わる。これによって、コイルHに流れる電流の方向が、時刻t1と時刻t2とでは反対方向に切り換わることになる。このため、コイルHを流れる電流による電磁的なリアクションがトランジスタのスイッチングに問題となる場合がある。
この場合、トランジスタTH2からTI2へオン状態の切り換え方法として、下アームのトランジスタTI2をオフ状態からオン状態にする際に、同時にオン状態にあるトランジスタTH2をオフ状態にするのではなく、トランジスタTI2をオン状態にした際に、トランジスタTH2については微小時間だけオン状態を保つようにし、その後、トランジスタTH2をオフ状態にすることが望ましい。これにより、コイルHは、トランジスタの切り換え時に微小時間だけ短絡された状態となる。これは、ブラシ付き直流電動機において、ブラシが隣接する整流子片に跨って接触した際に、コイルが短絡される現象と同じであり、トランジスタTH2とトランジスタTI2とを同時に開閉する場合よりも、安定的にコイルに流れる電流を切り換えることができる。
このように、第1スイッチング素子のオン状態を順次切り換える際は、オン状態の切り換えの対象となる2つのトランジスタを微小時間だけ両者ともオン状態に保つことが望ましい。これにより、例えば、スイッチ群を跨って第1スイッチング素子のオン状態を切り換える際は、第1スイッチング素子が属するスイッチ群に対応する第2のスイッチング素子についても、切り換える2つのトランジスタをともに微小時間だけオン状態に保つことが望ましい。
[第1の実施形態の変形例]
図7は、本発明の第1の実施形態に係る直流電動機の変形例の概略を示す図である。本実施形態の直流電動機101’は、耐圧低減回路を構成するスイッチング回路30’において、第1~第3スイッチ群31’~33’の各プラス側サブ電源線31H~33Hと当該第1~第3スイッチ群31’~33’のマイナス側サブ電源線31L~33Lとが、それぞれ抵抗R1~R3を介して直接接続されている。抵抗R1~R3については数MΩ以上の高抵抗が用いられる。他の構成については、第1の実施形態の直流電動機100と同じである。
直流電動機101’において、第1~第3スイッチ群31’~33’の第2スイッチング素子については、上アーム側または下アーム側のいずれかの第2スイッチング素子がオン状態になるか、あるいは、両者がオフ状態になるため、第2スイッチング素子のトランジスタT11~T32は、電源電圧Vdcが印加されるため、高い耐電圧のトランジスタを用いる必要がある。
例えば、図5に示す時刻t1では、第1スイッチ群31の上アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT11、第1スイッチ群31の上アームのトランジスタTA1、第2スイッチ群32の下アームのトランジスタTH2、および、第2スイッチ群32の下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT22の4つのトランジスタがオン状態にあり、他のすべてのトランジスタがオフ状態にある。
この状態において、第1スイッチ群31’に注目すれば、第1スイッチ群31’のプラス側サブ電源線31Hとマイナス側サブ電源線31Lの電位は、プラス側メイン電源線61の電位とほぼ等しくなっている。このため、上アームのトランジスタTB1~TE1および下アームのトランジスタTB2~TE2には、それぞれコイルB~Dを流れる電流の電圧降下分に応じた電圧しか印加されない。
また、第2スイッチ群32’については、第2スイッチ群32’のプラス側サブ電源線32Hとマイナス側サブ電源線32Lの電位は、マイナス側メイン電源線62の電位とほぼ等しくなっている。このため、上アームのトランジスタTH1と下アームのトランジスタTH2には電圧がかからない。また、上アームのトランジスタTF1,TG1と下アームのトランジスタTF2,TG2には、それぞれコイルF,Gを流れる電流の電圧降下分に応じた電圧しか印加されない。上アームのトランジスタTI1,TJ1と下アームのトランジスタTI2,TI2についても、コイルH,Iを流れる電圧降下分に応じた電圧が印加されることになる。
第3スイッチ群33’については、第2スイッチング素子である上アーム側のトランジスタT31と下アーム側のトランジスタT32がともにオフの状態にある。このため、第3スイッチ群33のプラス側サブ電源線33Hとマイナス側サブ電源線33Lの電位は定まらない、このため、第1スイッチング素子である上アームのトランジスタTK1~TO1と下アームのトランジスタTK2~TO2については、電圧が印加されない。
このように、本実施形態の直流電動機101’では、耐圧低減回路としてのスイッチング回路30’の一部の構成が、直流電動機100のスイッチング回路30と異なり、各スイッチ群のプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線を、それぞれ抵抗を介して当該スイッチ群のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続する代わりに、直接抵抗を介して接続しているが、直流電動機100のスイッチング回路30と同様に、第1スイッチング素子の耐圧を低くすることができる。このため、スイッチング回路30’のトランジスタの総数は増えるものの、従来例と比べて必要な高耐圧のトランジスタの数を大幅に減らすことができ、全体としてスイッチング素子の大幅なコストダウンが可能となる。なお、他のすべての実施形態において、耐圧低減回路としてのスイッチング回路30として、本実施形態の変形例と同様に、各スイッチ群のプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線を、直接抵抗を介して接続した構成を採用することができる。
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係る直流電動機の概略を示す図であり、図9は、図8に示す直流電動機のスイッチング回路と固定子巻線の展開を示した図である。本実施形態の直流電動機102は、図8に示すように、固定子10’、回転子20、耐圧低減回路としてのスイッチング回路30、位置検出センサ40、および、制御回路50を備えており、スイッチング回路30には直流電源60が接続される。
固定子10’は、n(nは4m以上の整数であり、本実施形態ではn=15)個のスロット(溝)を形成した電磁鋼板を積層した固定子コア11と、固定子コア11の各スロットに収納した15個のコイルA~Oからなる固定子巻線12’を備えている。各コイルA~Oは、隣接するスロット間にコイル収納された、いわゆる集中巻となっており、隣接するコイルがそれぞれ直列接続されており、全体で環状の一つの閉ループを形成している。したがって、コイルA~Oは、15個のスロットに位相差2π/n(n=15)を有して設けられる。
第1の実施形態の直流電動機101では、各コイルA~Oからなる固定子巻線12は、2層巻きの分布巻であったが、本実施形態の直流電動機102では、各コイルA~Oが、集中巻となっている。後述するように、本実施形態の集中巻の固定子10’を有する直流電動機102の各コイルA~Oの配置と各ハーフブリッジTA~TOの配置関係が、分布巻の固定子10を有する直流電動機101のそれらの配置関係と同じ場合に、集中巻の固定子10’内に生じる磁界の方向は、分布巻の固定子10内に生じる磁界の方向と、ほぼ90°ずれる。本実施形態の直流電動機102は、回転子20の磁極の位置に応じて、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子のオン・オフを切り換えている。そして、回転子20に回転トルクを与えるために、本実施形態の直流電動機102では、各コイルA~Oに対する位置検出センサ40の各センサSa~Soの位置を第1の実施形態の直流電動機101と異ならせており、ほぼ90°ずらしている。その他の構成については、本実施形態の直流電動機102は、第1の実施形態の直流電動機101と同じ構成となっている。このため、図3に示す直流電動機のコイルとスイッチング回路の等価回路を示す図、図4Aと図4Bに示す制御回路の構成を示す図、および、図5に示す直流電動機のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図は、本実施形態に係る直流電動機102にも、適用可能である。
制御回路50は、回転子20の磁極ピッチに略等しいコイルピッチ離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジの内、一のスイッチ群の上アームの第1スイッチング素子および他のスイッチ群の下アームの第1スイッチング素子を導通させる。同時に、制御回路50は、導通させた上アームの第1スイッチング素子および下アームの第1スイッチング素子が属するスイッチ群の第2スイッチング素子を導通させる。
例えば、図8に示すように、回転子20のN極がセンサSh~Soに対向し、回転子20のS極がセンサSa~Sgに対向している場合、第1の実施形態において説明したように、図4A,図5Bに示す制御回路50によって、上アーム側は、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1と、第2スイッチング素子であるトランジスタT11がオン状態となり、下アーム側は、第1スイッチング素子であるトランジスタTH1と第2スイッチング素子であるトランジスタT22がオン状態となる。
これにより、図9に示す展開図において、直流電源60からの電流は、プラス側メイン電源線61、トランジスタT11、プラス側サブ電源線31H、トランジスタTA1を経て、コイルA、コイルB、コイルC、コイルD、コイルE、コイルF、コイルGの順に直列接続された1つのコイル群に流れる経路と、コイルO、コイルN、コイルM、コイルL、コイルK、コイルJ、コイルI、コイルH、の順に直列接続されたもう1つのコイル群に流れる経路に分かれ、さらに、トランジスタTH2、マイナス側サブ電源線32L、トランジスタT22を経由してマイナス側メイン電源線62に流れる。
図8に示した矢印は、この時に各コイルA~Oを流れる電流の方向を示したものであり、各コイルA~Oを流れる電流によって、図8に示す突極P1~P7はS極となり、突極P8~P15はN極となる。このように。集中巻の固定子10’内に発生する磁界の方向は、第1の実施形態の直流電動機101のように分布巻の固定子10内に発生する磁界の方向とほぼ90°ずれている。そして、固定子10’の磁界と回転子20の磁界とはほぼ90°の位相差を有しており、回転子20のN極が固定子10’のS極に、また、回転子20のS極が固定子10’のN極に揃うように回転子20に力が作用する。これにより、回転子20には反時計方向のトルクが作用し、回転子20は、正回転方向である反時計方向に回転する。
以降、回転子20が反時計方向のトルクを受けて、反時計方向に回転するにしたがって、位置検出センサ40の各センサSa~Soの信号出力が変化し、これに伴って、図9に示す第1スイッチング素子である上アームのトランジスタTA1~TO1と下アームのトランジスタTA2~TO2のオン状態にあるトランジスタが図5の遷移図に示すように、切り換わる。さらに、第1スイッチング素子のオン・オフ状態の切り換わりに連動して第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32のオン・オフ状態が切り換わる。これにより、回転子20は正回転方向である反時計方向に回転し続ける。
そして、本実施形態の直流電動機102においても、第1の実施形態の直流電動機101と同様に、耐圧低減回路としてスイッチング回路30を備えており、従来例と比べて、トランジスタの総数は増えるものの、必要な高耐圧のトランジスタの数を大幅に減らすことができ、全体としてスイッチング素子の大幅なコストダウンが可能となる。なお、本実施形態においても、オン状態にあるトランジスタを切り換える際は、第1の実施形態と同様に、切り換える2つのトランジスタをともに微小時間だけオン状態に保つことが望ましい。また、スイッチング回路30の代わりに図7で示した変形例のスイッチング回路30’を用いてもよい。
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、本発明を誘導電動機として構成したものである。誘導電動機は、固定子が作る回転磁界によって回転子に誘導電流を発生させ、その誘導電流の電磁力によって回転子を回転させるものである。誘導電動機は、電動機の中でも構造が簡単であり、高い安定性と耐久性を持っている。図10は、本発明の第3の実施形態に係る誘導電動機の概略を示す図であり、図11は、図10に示す誘導電動機の固定子の概略を示す図である。
誘導電動機103は、固定子10、回転子20、耐圧低減回路であるスイッチング回路30、および、制御回路50’を備えている。スイッチング回路30には直流電源60が接続される。図10、図11に示す本実施形態の誘導電動機103と第1の実施形態で説明した直流電動機101と比較すると、本実施形態の誘導電動機103では、回転子21として、一般的にかご形回転子が用いられ、回転子21の位置検出のための位置検出センサ40を備えていない。このため、制御回路50は、回転子の位置に応じてスイッチング回路30のトランジスタのオン・オフ状態を切り換えるのではなく、所望の周期でスイッチング回路30のトランジスタのオン・オフ状態を切り換えることによって、固定子10に回転磁界を発生させている。回転子21は、エンドリングとロータバー22を備えたかご型回転子以外に、スリップリングを介して外部抵抗が接続可能な巻線形回転子であってもよい。
図10、図11に示す誘導電動機103では、固定子10の極数を2m(mは整数)とした場合に、mが1の場合、すなわち2極の場合について記載している。誘導電動機103は、固定子10の極数によって回転磁界の同期速度が変化する。固定子10にN極とS極の磁極を1組発生させる場合は2極となり、N極とS極の磁極を2組発生させる場合は4極となる。また、中心から見た場合、隣接する磁極同士の間隔(角度)が磁極ピッチとなる。本実施形態は、2極の誘導電動機であり、磁極ピッチは180度となる。
固定子10は、n(nは4m以上の整数であり、本実施形態ではn=15)個のスロット(溝)を形成した電磁鋼板を積層した固定子コア11と、固定子コア11の各スロットに収納した15個のコイルA~Oからなる分布巻の固定子巻線12を備えている。誘導電動機103の固定子コア11と固定子巻線12からなる固定子の構成は、第1の実施形態で説明した直流電動機101の固定子10と同じであるため、その説明を省略する。
図11において、誘導電動機103の15個のコイルA~Oとスイッチング回路30の接続関係は、第1実施形態の直流電動機101と同じである。すなわち、15個のコイルA~Oはそれぞれが直列接続されており、全体で環状の閉ループが形成されている。そしてコイルA~Oの接続点は、それぞれ2個の上アームと下アームの第1スイッチング素子であるトランジスタTA1とTA2,トランジスタTB1とTB2,・・・,トランジスタTO1とTO2からなる15個のハーフブリッジTA,TB,・・・,TOの接続点に接続されている。また、15個のハーフブリッジTA~TOは、それぞれ5つのハーフブリッジからなる3個(k=3)のスイッチ群に分割されている。
そして、各第1~第3スイッチ群31~33の各プラス側サブ電源線31H~33Hが、第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T31を介して、直流電源60のプラス側メイン電源線61に接続されており、各第1~第3スイッチ群31~33の各マイナス側サブ電源線31L~33Lが、第2スイッチング素子であるトランジスタT12~T32を介して、直流電源60のプラス側メイン電源線61に接続されている。さらに、各プラス側サブ電源線31H~33Hが、それぞれ抵抗R11~R31を介して当該第1~第3スイッチ群31~33のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されており、各マイナス側サブ電源線31L~33Lが、それぞれ抵抗R12~R32を介して当該第1~第3スイッチ群31~33のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されている。
制御回路50は、スイッチング回路30のプラス側メイン電源線61に接続された上アーム側のトランジスタT11~T31、および、マイナス側メイン電源線62に接続された下アーム側のトランジスタT12~T32のオン・オフ状態を切り換えるとともに、各ハーフブリッジTA~TOを構成する上アームのトランジスタTA1~TO1、および、下アームのトランジスタTA2~TO2のオン・オフ状態を切り換えている。これにより、各コイルA~Oに流れる電流の方向が切り換わり、固定子10に回転磁界が発生する。誘導電動機103は、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子である各トランジスタのオン・オフ状態の切り換えの周期を可変とすることにより、三相誘導電動機のインバータ制御と同様の可変速運転が可能である。
図3に示した等価回路および図5に示したスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図は、それぞれ、第3の実施形態の誘導電動機103についても適用可能である。制御回路50’は、固定子10の磁極ピッチに略等しいコイルピッチ離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジの内、一のスイッチ群の上アームの第1スイッチング素子および他のスイッチ群の下アームの第1スイッチング素子を導通させる。同時に、制御回路50’は、導通させた上アームの第1スイッチング素子および下アームの第1スイッチング素子が属するスイッチ群の第2スイッチング素子を導通させる。
例えば、図3に示す場合と同様に、第1スイッチング素子であるTA1とTH2,および、第2スイッチング素子であるT11とT22がオン状態にあるとき、直流電源60からの電流は、プラス側メイン電源線61、第2スイッチング素子であるトランジスタT11、プラス側サブ電源線31H、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1を経由して、コイルA,B,C,D,E、F,Gの直列回路を流れる経路とコイルO,N.M.L,K,J,I,Hの直列回路を流れる経路に分かれ、さらに、第1スイッチング素子であるトランジスタTH2、マイナス側サブ電源線31L、第2スイッチング素子であるトランジスタT22、マイナス側メイン電源線62を経由して流れる。
これにより、コイル辺A,B,C,D,E、F,G,o,n,m,l,k,j、i,hには、図10の紙面手前から奥に向けて、また、コイル辺a,b,c,d,e、f,g,O,N.M.L,K,J,I,Hには、図10の紙面奥から手前に向けて電流が流れる。この電流の方向は、図6Aに示した第1の実施形態の直流電動機101の各コイル辺に流れる電流の方向と同じである。これにより、固定子10の内部には、コイル辺h,Oを収納したスロット位置からコイル辺o,Gを収納したスロットとコイル辺a、Hを収納したスロットとの中間位置に向かう方向の磁界が発生する。以降、誘導電動機103の固定子10の巻線に流れる電流の方向は、図6B、図6Cに示した第1の実施形態の直流電動機101の各コイル辺に流れる電流の方向と同様に変化する。このように、本実施形態の誘導電動機103では、n個(本実施形態ではn=15)のコイルの隣接するコイル辺を2m(本実施形態ではm=1)組のコイル辺群に分割した際に、隣接する組のコイル辺群を流れる電流が互いに反対方向となるように、制御回路50’が第1および第2のスイッチング素子のオン・オフ状態を切り換えている。そして、制御回路50’は、図5に示すように、各スイッチング素子のオン・オフ状態を周期的に切り換えることによって、固定子10内に回転磁界を発生させている。
第1の実施形態の直流電動機101は、回転子20の位置に応じて各スイッチング素子のオン・オフを切り換えているのに対して、第2の実施形態の誘導電動機103は、所望のスイッチング時間間隔(周期)で各スイッチング素子のオン・オフを切り換えている点が異なる。誘導電動機103において、各コイルA~Oに流れる電流や第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TO2や第2スイッチング素子である各トランジスタT11~T32に印加される電圧は、直流電動機101の場合と同様である。
本実施形態の誘導電動機103では、第1の実施形態の直流電動機101と同様に、耐圧低減回路としてスイッチング回路30を備えており、第1の実施形態の直流電動機101と同様に、各スイッチ群の上アーム側と下アーム側の第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32の6個のトランジスタについては、高耐圧のトランジスタを用いる必要があるが、各ハーフブリッジを構成する第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TO2の30個のトランジスタについては、低耐圧のトランジスタを用いることが可能になる。このように、本実施形態の誘導電動機103は、ハーフブリッジに用いるトランジスタの耐圧を低減することができる。なお、本実施形態においても、オン状態にあるトランジスタを切り換える際は、第1の実施形態と同様に、切り換える2つのトランジスタをともに微小時間だけオン状態にすることが望ましい。また、スイッチング回路30の代わりに図7で示した変形例のスイッチング回路30’を用いてもよい。
[第4の実施形態]
図12は、本発明の第4の実施形態に係る誘導電動機の概略を示す図であり、図13は、図12に示す誘導電動機の固定子の概略を示す図である。本実施形態の誘導電動機104は、固定子10’、回転子20、スイッチング回路30、および、制御回路50’を備えている。スイッチング回路30には直流電源60が接続される。本実施形態の誘導電動機104は、第3の実施形態の誘導電動機103の固定子巻線12を、分布巻から集中巻の固定子巻線12’に変更したものであり、その他の構成については同様であるので、詳細な説明は省略する。
図3に示した等価回路および図5に示したスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図は、それぞれ、第4の実施形態の誘導電動機104についても適用可能である。制御回路50’は、固定子10’の磁極ピッチに略等しいコイルピッチ離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジの内、一のスイッチ群の上アームの第1スイッチング素子および他のスイッチ群の下アームの第1スイッチング素子を導通させる。同時に、制御回路50’は、導通させた上アームの第1スイッチング素子および下アームの第1スイッチング素子が属するスイッチ群の第2スイッチング素子を導通させる。
例えば、図5の時刻t1で示すように、第1スイッチング素子であるTA1とTH2,および、第2スイッチング素子であるT11とT22がオン状態にあるとき、図13に示す直流電源60からの電流は、プラス側メイン電源線61、第2スイッチング素子であるトランジスタT11、プラス側サブ電源線31H、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1を経由して、コイルA,B,C,D,E、F,Gの直列回路を流れる経路とコイルO,N.M.L,K,J,I,Hの直列回路を流れる経路に分かれ、さらに、第1スイッチング素子であるトランジスタTH2、マイナス側サブ電源線31L、第2スイッチング素子であるトランジスタT22、マイナス側メイン電源線62を経由して流れる。
ここで、第1スイッチング素子であるTA1とTH2は、固定子10’の磁極ピッチに略等しいコイルピッチ離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジTAとTHに属しており、トランジスタTA1は、ハーフブリッジTA,THの内、一のスイッチ群である第1スイッチ群31の上アームの第1スイッチング素子であり、トランジスタTH2は、他のスイッチ群である第2スイッチ群32の下アームの第1スイッチング素子である。本実施形態では、制御回路50’は、固定子10’の磁極ピッチに略等しい間隔離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジの内、一の前記スイッチ群の上アームの第1スイッチング素子および他のスイッチ群の下アームの第1スイッチング素子を導通させている。
図12に示した矢印は、この時に各コイルA~Oを流れる電流を示したものであり、各コイルA~Oを流れる電流によって、図12に示す突極P1~P7はS極となり、突極P8~P15はN極となる。そして、制御回路50’は、図5の遷移図に示すように、各スイッチング素子のオン・オフ状態を周期的に切り換えることによって、固定子10内に回転磁界を発生させている。図14は、第4の実施形態に係る誘導電動機の固定子の突極に現れる極性の遷移を示す図であり、図5に示した第1、第2のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移に応じて、それぞれ時刻t1~t9において各突極P1~P9に現れる極性の変化を示している。図14に示すように、固定子10’内には回転磁界が発生する。
本実施形態の誘導電動機104は、第3の実施形態の直流電動機102と比べて、回転子の磁極の位置によらず、所望のスイッチング時間間隔(周期)で各スイッチング素子のオン・オフを切り換えている点が異なる。
本実施形態の誘導電動機104では、他の実施形態の直流電動機や誘導電動機と同様に、耐圧低減回路としてスイッチング回路30を備えており、第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32の6個のトランジスタについては、高耐圧のトランジスタを用いる必要があるが、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TO2の30個のトランジスタについては、低耐圧のトランジスタを用いることが可能になる。このように、本実施形態の誘導電動機104は、ハーフブリッジに用いるトランジスタの耐圧を低減することができる。なお、本実施形態においても、オン状態にあるトランジスタを切り換える際は、第1の実施形態と同様に、切り換える2つのトランジスタをともに微小時間だけオン状態にすることが望ましい。また、スイッチング回路30の代わりに図7で示した変形例のスイッチング回路30’を用いてもよい。
本発明の回転機では、コイル数が偶数の場合は、ハーフブリッジの上アームのトランジスタと下アームのトランジスタのスイッチングを同時に行うことになる。これにより、コイルの電磁的なリアクションが大きくなり、コギングトルクも増加する。これに対して、コイル数が奇数の場合は、ハーフブリッジの上アームのトランジスタと下アームのトランジスタのスイッチングが時間的に交互に行われる。このため、コイル数を奇数とした直流電動機や誘導電動機は、コイルの電磁的なリアクションが小さくなり、コギングトルクを低減できる。
また、スイッチ群の数は3以上が望ましく、各スイッチ群のハーフブリッジには複数のコイルが接続されるため、コイルの数は6個以上を設けるのが望ましい。なお、各スイッチ群に属するハーフブリッジの数は、等しいことが望ましいが、各スイッチ群で異なっていてもよい。
[第5の実施形態]
図15は、本発明の第5の実施形態に係る、直流電源から単相、三相、多相交流電源を得ることのできるインバータ電源装置の概略を示す図であり、図16は、図15に示す三相インバータ電源装置の等価回路を示した図である。また、図5に示したスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示す図、および、図14に示した突極に現れる極性の遷移を示す図は、本実施形態においても適用可能である。
本実施形態のインバータ電源装置105は、図15に示すように、一次側ユニット80、二次側ユニット90からなるトランスと、スイッチング回路30、および、制御回路50’を備えており、スイッチング回路30には直流電源60が接続される。以下の説明では、直流電源から三相交流を得るためのインバータについて説明する。なお、トランスについては、コイルを卷回しやすくするために、一次側コア81と二次側コア91とを別体に作製し、両者を接触させることで磁気的に結合したコアを有するトランスを例に説明するが、一次側コア81と二次側コア91とは、一体に形成されていてもよい。図15では、一次側コア81と二次側コア91とを一体に形成した場合における、一次側コア81と二次側コア91との境界を破線で示している。なお、後述するように、一次側コア81と二次側コア91を別体に形成し、積層断面が櫛形のコアの櫛形端部を互いに重ねた接触部を有する場合は、一次側コア81と二次側コア91の境界は、実際の接触部と一致しない。
一次側ユニット80は、環状のコアの内側にn(nは4以上の整数であり、本実施形態ではn=15)個のスロット(溝)を形成した電磁鋼板を複数枚積層した一次側コア81と、一次側コア81の各スロットに収納した15個のコイル(一次側コイル)A~Oからなる一次側巻線82を備えている。一次側ユニット80の構成は、第2の実施形態の直流電動機102の固定子10’および第4の実施形態の誘導電動機104の固定子10’の構成と同じであり、その詳細な説明は省略する。一次側コア81は、15個のスロットによって形成された15個の一次側の突極P1~P15を有している。なお、一次側の突極は、本発明の第1突極に相当する。
二次側ユニット90は、中心のコア部分からq(qは2以上の整数であり、本実施形態ではq=3)個の二次側の突極Pu~Pwを備えた電磁鋼板を複数枚積層した二次側コア91と、3個の突極Pu~Pwのそれぞれに卷回された二次側コイル92u~92wからなる二次側巻線92とを備えている。一次側ユニット80の一次側の突極P1~P15と二次側コア91の二次側の突極Pu~Pwは、1個の二次側の突極Pu~Pwに対して隣接する5個の一次側の突極P1~P15が接触することで磁気的に結合している。本実施形態のインバータ電源装置105は、三相の電源装置であり、二次側コイル92u~92wは外部の三相負荷に接続される。なお、二次側の突極は、本発明の第2突極に相当する。
図15において破線で示した、一次側コア81と二次側コア91との境界付近の接触部では、それぞれの電磁鋼板の接触部の積層断面が櫛形となるように形成し、櫛形積層コアの櫛形端部を互いに重ねてた接触部とすることによって、接触部の磁気抵抗を低減することが望ましい。このため、例えば、一次側コア81の突極P1~P15の先端部分の積層鋼板の積層断面が櫛形となるように形成するとともに、二次側コア91の突極Pu~Pwからそれぞれ一次側コア81の突極P1~P15に向けて突出した突出部分を形成し、この突出部分の積層断面が櫛形となるように形成する。そして、両者の櫛形端部を互いに重ねてた接触部とする。また、二次側コア91についても同様に、二次側コイル92u~92wを卷回しやすくするために、突極P1~P15の先端の円弧状部分と二次側コイル92u~92wを卷回したコイル卷回部分を別体で形成し、円弧状部分とコイル卷回部分の接触部における磁気抵抗を小さくするために、コイル卷回部分において、積層断面が櫛形のコアの櫛形端部を互いに重ねた接触部として形成することが望ましい。
一次側コア81の各スロットに収納した15個のコイルA~Oは、隣接するスロット間にコイル収納された、いわゆる集中巻となっており、隣接するコイルがそれぞれ直列接続されており、全体で環状の一つの閉ループを形成している。このため、コイルA~Oは、15個のスロットに位相差2π/n(n=15)を有して設けられている。各コイルA~Oの口出線の接続点は、図16の等価回路に示すように、スイッチング回路30の15個のハーフブリッジTA~TOの各接続点に接続されている。
本実施形態のスイッチング回路30は、耐圧低減回路になっており、第1~第4の実施形態のスイッチング回路30とその構成が同じである。すなわち、スイッチング回路30の15個のハーフブリッジTA~TOは、それぞれ複数、例えば、5つのハーフブリッジからなるk個(kは2以上の整数で本実施形態ではk=3)のスイッチ群に分割されている。具体的には、ハーフブリッジTA~TEが第1スイッチ群31、ハーフブリッジTF~TJが第2スイッチ群32、ハーフブリッジTK~TOが第3スイッチ群33の3群に分割されている。そして、各第1~第3スイッチ群31~33に属する上アームのスイッチング素子は、それぞれ各スイッチ群で共通のプラス側サブ電源線31H~33Hに接続され、第1~第3スイッチ群31~33に属する下アームのスイッチング素子は、それぞれ各スイッチ群で共通のマイナス側サブ電源線31L~33Lに接続されている。
このように、スイッチング回路30は、隣接するコイルの口出線に接続された前記ハーフブリッジが、それぞれ複数の前記ハーフブリッジを有するk個(kは2以上の整数)のスイッチ群に分けられ、各スイッチ群のハーフブリッジの複数の上アームの第1スイッチング素子および複数の下アームの第1スイッチング素子が、それぞれ各スイッチ群に設けたプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線に接続され、各スイッチ群のプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線が、それぞれ第2スイッチング素子を介して、直流電源60のプラス側メイン電源線およびマイナス側メイン電源線に接続されており、さらに、各スイッチ群のプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線が、それぞれ抵抗を介して当該スイッチ群のいずれかのハーフブリッジの接続点に接続されている。
本実施形態では、制御回路50’は、一次側ユニット80内にN極とS極の2極の磁極が現れるように、スイッチング回路30のプラス側メイン電源線61に接続された上アーム側のトランジスタT11~T31、および、マイナス側メイン電源線62に接続された下アーム側のトランジスタT12~T32のオン・オフ状態を切り換えるとともに、各ハーフブリッジTA~TOを構成する上アームのトランジスタTA1~TO1、および、下アームのトランジスタTA2~TO2のオン・オフ状態を切り換えることによって、各コイルA~Oに流れる電流の方向を切り換えている。
一次側ユニット80内に、N極、S極の2個の磁極を形成する場合、一次側ユニット80の磁極ピッチは180°となる。制御回路50’は、一次側ユニット80の磁極ピッチ(180°)に略等しいコイルピッチ離れた2個のコイルの口出線の接続点にそれぞれ接続される2個のハーフブリッジの内、一のスイッチ群の上アームの第1スイッチング素子および他のスイッチ群の下アームの第1スイッチング素子を導通させる。同時に、制御回路50’は、導通させた上アームの第1スイッチング素子および下アームの第1スイッチング素子が属するスイッチ群の第2スイッチング素子を導通させる。例えば、コイルAに対して180°に略等しいコイルピッチ離れたコイルは、コイルHまたはコイルIとなる。
図5は、本実施形態のインバータ電源装置105のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移を示しており、図14は、本実施形態のインバータ電源装置105の一次側ユニット80の突極に現れる極性の遷移を示している。本実施形態のインバータ電源装置105の制御回路50’、スイッチング回路30、および、一次側ユニット80の構成は、第4の実施形態の誘導電動機104の制御回路50’、スイッチング回路30、および、固定子10の構成と同様である。このため、図5に示した第1、第2のスイッチング素子のオン・オフ状態の遷移に応じて、それぞれ時刻t1~t9において、一次側コア81の各突極P1~P15には、図14に示す極性が現れる。すなわち、スイッチング素子のオン・オフ状態の切り換えによって、一次側ユニット80内には2極の回転磁界が発生する。制御回路50’は、一次側コア81の突極P1~P15を流れる磁束によって、突極P1~P15の断面に現れる磁極による磁界が回転磁界となるように、第1、第2のスイッチング素子のオン・オフ状態を周期的に切り換えている。
一次側ユニット80と二次側ユニット90とは互いに接触して固定されているが、磁気的には、二次側ユニット90の周囲を、一次側ユニット80が疑似的に外転型の2極永久磁石回転子として回転している場合と同じと考えられる。このため、一次側ユニット80の各突極P1~P15を流れる磁束の変化に応じて、二次側ユニット90の各二次側の突極Pu~Pwを流れる磁束が変化する。これにより、二次側コイル92u~92wに鎖交する磁束が変化し、二次側コイル92u~92wには、それぞれ電圧eu~ewの交流電圧が発生する。二次側ユニット90の各二次側の突極Pu~Pwは、本実施形態の場合、それぞれ120°の位相差を有しているため、電圧eu~ewとして直流電源60と絶縁された三相交流電圧が得られる。
本実施形態のインバータ電源装置105では、他の実施形態の直流電動機や誘導電動機と同様に、耐圧低減回路としてスイッチング回路30を備えており、第2スイッチング素子であるトランジスタT11~T32の6個のトランジスタについては、高耐圧のトランジスタを用いる必要があるが、第1スイッチング素子であるトランジスタTA1~TO2の30個のトランジスタについては、低耐圧のトランジスタを用いることが可能になる。このように、本実施形態のインバータ電源装置105は、ハーフブリッジに用いるトランジスタの耐圧を低減することができる。なお、本実施形態においても、オン状態にあるトランジスタを切り換える際は、第1の実施形態と同様に、切り換える2つのトランジスタをともに微小時間だけオン状態にすることが望ましい。また、スイッチング回路30の代わりに図7で示した変形例のスイッチング回路30’を用いてもよい。
なお、二次側ユニット90として、2つの突極間に1本の二次側巻線92を卷回した二次側コアを用い、各突極をそれぞれ一次側コアの複数の突極に接触させた場合は、出力として単相交流電圧を得ることができる。この場合、一次側コアの突極数は偶数とし、二次側コアの各突極に接触する一次側コアの突極数を等しくすることが望ましい。
以上、耐圧低減回路としてスイッチング回路30を用いた直流電動機、誘導電動機、および、インバータ電源装置に係る好適な実施形態について説明したが、各実施形態で説明したスイッチング回路30の構成は、複数のハーフブリッジを介して直流電源から負荷に対して電力を供給する際の耐圧低減回路として利用可能である。
この場合、耐圧低減回路の複数のハーフブリッジは、それぞれ複数のハーフブリッジを有するk個(kは2以上の整数)のスイッチ群に分けられ、各スイッチ群のハーフブリッジの複数の上アームの第1スイッチング素子および複数の下アームの第1スイッチング素子が、それぞれ各スイッチ群に設けたプラス側サブ電源線およびマイナス側サブ電源線に接続される。そして、各スイッチ群の各プラス側サブ電源線および各マイナス側サブ電源線が、それぞれ第2スイッチング素子を介して、直流電源のプラス側メイン電源線およびマイナス側メイン電源線に接続されており、さらに、それぞれ抵抗を介して当該スイッチ群のいずれかのハーフブリッジの前記接続点に接続されているか、あるいは、直接抵抗を介して接続されている。
また、耐圧制御回路は、一のスイッチ群の上アームの記第1スイッチング素子と他の一のスイッチ群の下アームの第1スイッチング素子を導通させるとともに、導通させた上アームの第1スイッチング素子および下アームの第1スイッチング素子が属するスイッチ群の第2スイッチング素子を導通させ、他の第1および第2スイッチング素子が非導通となるように、第1および第2のスイッチング素子の導通・非導通を切り換える制御回路を備えていてもよい。
そして、本発明に係る耐圧低減回路では、第2スイッチング素子の数は増えるものの、第1スイッチング素子の耐圧を大幅に減少することが可能となるため、回路のコストダウンを図ることができる。