JP7478051B2 - 乗客コンベアの診断装置および乗客コンベア - Google Patents

乗客コンベアの診断装置および乗客コンベア Download PDF

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Description

本発明は、乗客コンベアの診断装置および乗客コンベアに関する。
乗客コンベアの踏段チェーンの伸びを検出する技術として、下記特許文献1に開示のものがある。この特許文献1には「前記トルク制御装置の出力信号から無負荷状態を判定し、この状態における前記従動部ターミナルギアまでの距離を計測し、稼動直後からの変化量から踏段チェーンの伸びを診断するチェーン伸び診断手段と、左右に設けられる踏段チェーンの伸び量の差を算出して踏段チェーンの片伸び状態を診断するチェーン片伸び診断手段とを備え…チェーン伸び及び左右チェーン長さ不均衡といった現象を機械的に診断することができ、信頼性、保全性に優れた診断結果を得ることができる。」と記載されている。
特開2010-149970号公報
ところで、踏段チェーンの伸びは、全体的な伸びの他に、踏段チェーンの部分的な摩耗による部分的な伸びも一般的に想定されるモードである。しかしながら、上述した技術では、踏段チェーンの部分的な摩耗による踏段チェーンの部分伸びを検出することが困難であった。
そこで本発明は、踏段チェーンの部分伸びの検出が可能な乗客コンベアの診断装置および乗客コンベアを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、駆動モータと同期して回転する駆動部ターミナルギアと、所定間隔で複数の踏段が固定された無端状の踏段チェーンと、前記駆動部ターミナルギアとの間で前記踏段チェーンが掛け回されたことで前記駆動部ターミナルギアと同期して回転し、前記踏段チェーンの伸びに対応して前記駆動部ターミナルギアに対する位置を変位させる従動部ターミナルギアとを備えた乗客コンベアの診断装置であって、前記従動部ターミナルギアの基準位置からの変位を検出する変位検出器と、前記踏段チェーンの回動による前記複数の踏段の移動距離を検出する移動距離検出器と、前記複数の踏段の周回軌道に沿って配置され、前記複数の踏段のうちの少なくとも任意の踏段の通過を検出する踏段通過検出器と、前記踏段通過検出器において前記任意の踏段の通過を検出するのに同期させて、前記移動距離検出器で検出した前記踏段の移動距離に対する前記変位検出器で検出した前記従動部ターミナルギアの変位の測定を開始するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した前記移動距離と前記変位とから、前記踏段チェーンの部分伸びの発生を検知するチェーン伸び診断部とを備えた乗客コンベアの診断装置の構成が例示される。
本発明によれば、踏段チェーンの部分伸びの検出が可能な乗客コンベアの診断装置および乗客コンベアを提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下側の実施の形態の説明により明らかにされる。
実施形態に係る乗客コンベアの構成図である。 従動部ターミナルギアの周辺部分の拡大図である。 踏段通過検出器の周辺部の拡大図である。 踏段通過検出器の検出信号のタイミングチャートである。 実施形態に係る乗客コンベアの診断方法を示すフローチャートである。 初期状態においての踏段移動距離とギア変位との関係を示す図である。 踏段チェーンに全体的な伸びが発生している場合の踏段移動距離とギア変位との関係を示す図である。 踏段チェーンに部分的な伸びが発生している場合の踏段移動距離とギア変位との関係を示す図である。る。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。ここでは先ず、診断装置を有する乗客コンベアの基本構成を説明し、次いでこの乗客コンベアに設けられる診断装置の構成、および診断装置による診断方法の順に実施の形態を説明する。なお、以下の実施形態においては、乗客コンベアの一例としてエスカレーターを例に挙げて説明するが、乗客コンベアとしては、エスカレーターの他に例えば移動歩道などであってもよい。
≪乗客コンベアの基本構成≫
図1は、実施形態に係る乗客コンベアの構成図である。図1に示す乗客コンベア1は、建築構造体の上階床と下階床との間に架け渡して設けられたものであり、乗客を高さ方向に運搬する。このような実施形態の乗客コンベア1は、階床間に掛け渡されたフレーム100を備え、以下に説明する各要素がフレーム100に支持される状態で配置されている。
すなわち乗客コンベア1は、フレーム100の内部の上床階または上床階に近い位置に配置された駆動モータ2を備えている。駆動モータ2は、ベルト3によって減速機4に連結され、その動力が減速機4へ伝達される。また駆動モータ2は、駆動モータ2のトルク指令値を可変制御するトルク制御装置5に接続され、このトルク制御装置5によって、回転加速度、速度、トルクなどが制御される。
減速機4は、駆動モータ2の駆動軸と平行な2方向に延設された軸を備え、一対のドライビングチェーン6によって、上床階側に設けられた一対の駆動部ターミナルギア7(図面においては一方のみを図示)と連結されている。これにより、一対の駆動部ターミナルギア7は、駆動モータ2と同期して回転する。
また乗客コンベア1は、フレーム100の内部の下床階側に、一対の従動部ターミナルギア8(図面においては一方のみを図示)を備えている。各従動部ターミナルギア8は、各駆動部ターミナルギア7との間に無端状の踏段チェーン9が掛け渡されるもので、踏段チェーン9によって駆動部ターミナルギア7に連結されている。これにより、各従動部ターミナルギア8は、各駆動部ターミナルギア7と同期して回動する。
一対の踏段チェーン9の間には、複数の踏段10が掛け渡され、各踏段10が一対の踏段チェーン9に固定されている。複数の踏段10の両側には、一対の駆動部ターミナルギア7と従動部ターミナルギア8と踏段チェーン9とが配置され多状態となっている。これにより、複数の踏段10は、踏段チェーン9によって無端状に連結され、駆動モータ2の回転に同期して、上床階と上床階との間で回動する構成となっている。また複数の踏段10は、初期の状態においては、一定の間隔を保って踏段チェーン9に固定されている。
ここで、先に説明した各従動部ターミナルギア8は、駆動部ターミナルギア7に向かう方向および離反する方向に対して摺動自在に設置されている。図2は、従動部ターミナルギア8の周辺部分の拡大図である。この図に示すように、この従動部ターミナルギア8には、引っ張り軸11が固定されている。引っ張り軸11は、一端11aが従動部ターミナルギア8に連結され、他端11bが駆動部ターミナルギア7(図1参照)から離反する方向に延設されている。この引っ張り軸11は、固定部材12によってフレーム100に固定されたコイルばね13に内挿されている。
コイルばね13は、引っ張り軸11を介して従動部ターミナルギア8を、駆動部ターミナルギア7から離反する方向に付勢するように、フレーム100および引っ張り軸11に固定されている。これにより、従動部ターミナルギア8は、踏段チェーン9の伸びに対応して駆動部ターミナルギア7に対する位置を変位させ、踏段チェーン9の撓みを防止する方向に摺動する構成となっている。
図1に戻り、乗客コンベア1は、フレーム100の上部に立設された欄干14と、欄干14の周縁に沿って設けられた無端状の移動手摺15とを備える。この移動手摺15は、踏段10と同期して踏段10と同一方向に回動する構成となっている。
≪診断装置の構成≫
次に以上のように構成された乗客コンベア1が有する診断装置20の構成を、図1および図2と、必要に応じて他の図を参照して説明する。診断装置20は、乗客コンベア1の踏段チェーン9の伸びを診断するための装置であって、変位検出器21、移動距離検出器22、踏段通過検出器23、検出体24(図3を用いて説明)、および診断部25によって構成されている。これらは、次のようなものである。
<変位検出器21>
変位検出器21は、一対の従動部ターミナルギア8のそれぞれに対応して設けられたものであり、各従動部ターミナルギア8の基準位置に対する変位を検出する。ここで基準位置とは、例えば踏段チェーン9が新しいものであって、全体伸びおよび部分伸びが無い状態で、かつ乗客コンベア1に乗客が乗っていない場合の位置であることとする。この変位検出器21は、従動部ターミナルギア8に固定された引っ張り軸11の他端11b側の延設方向に配置され、引っ張り軸11の他端11bの軸方向の変位を検出する。これにより、駆動部ターミナルギア7方向に対する従動部ターミナルギア8の変位(以下、ギア変位と記す)を検出し、踏段チェーン9の全体的な伸びを検出することができる。
<移動距離検出器22>
移動距離検出器22は、踏段10の移動距離を検出するためのものである。この移動距離検出器22は、例えば駆動モータ2の回転軸に取り付けられたエンコーダーであってよく、駆動モータ2の回転数によって踏段10の移動距離を検出する。
<踏段通過検出器23>
踏段通過検出器23は、各踏段10が周回軌道の所定位置を通過したことを検知するためのものである。このような踏段通過検出器23は、例えば金属材料を検知する磁気誘導式の変位検出器(Magnet-Inductive desplacement Sensor:MDS)であってよい。またこのような踏段通過検出器23は、踏段10の周回軌道に沿って、踏段10の両側に配置されている。
<検出体24>
図3は、踏段10と踏段通過検出器23の周辺部分の拡大図である。先ず、検出体24の説明に先立ち、各踏段10の構成を説明する。この図に示すように各踏段10は、踏み板10aと、踏み板10aの端縁から略垂直に延設された蹴上げ板10bとを備える。また各踏段10は、その両端にて前輪10cと後輪10dとを備える。前輪10cは、踏段チェーン9(図1参照)の軌道に沿ってフレーム100に固定された前輪案内レール101内を走行する。また後輪10dは、踏段チェーン9(図1参照)の軌道に沿ってフレーム100に固定された後輪案内レール102内を走行する。
このような構成の各踏段10は、蹴上げ板10bの端縁の両側からブラケット10eの先端を突出させている。図面においてはブラケット10eの一部のみを図示しているが、ブラケット10eは、踏み板10a、蹴上げ板10b、前輪10c、および後輪10dを支持する支持体であって金属材料からなる。
このような構成の踏段10において、特に起点踏段10’のブラケット10eは、その両側の先端に検出体24を設けている。この検出体24は、起点踏段10’におけるブラケット10eの先端を変形させることで、踏段通過検出器23による起点踏段10’の検出信号を他の踏段10におけるブラケット10eの先端の検出信号と差別化する形状を有する。ここでは一例として、検出体24は、ブラケット10eの先端の移動方向の幅Wを、この幅Wよりも大きな幅W’となるように特殊加工によって成型したものであることとする。構造的に問題が無い場合においては、幅W’は幅Wより小さくてもよい。
図4は、踏段通過検出器の検出信号のタイミングチャートである。以下、先の図1~図3を参照してこのタイミングチャートを説明する。このタイミングチャートは、踏段10を周回動作させている状態において、踏段通過検出器23から出力される信号である。踏段通過検出器23は、金属材料からなるブラケット10eの先端が踏段通過検出器23に対向する位置を通過することでこれを検出して検出信号がオン状態となる。
ここで、検出信号のピーク幅Pは、踏段10の移動速度が一定であれば、ブラケット10eの先端の移動方向の幅に対応する。このため、起点踏段10’のブラケット10eの先端、すなわち検出体24に対応する検出信号のピーク幅P’は、他の起点踏段10’のブラケット10eの先端に対応する検出信号のピーク幅Pと比較して大きくなる。したがって、幅広のピーク幅P’の検出信号を検知した時点を基点として、起点踏段10’の周回を検知することができる。
なお検出体24は、踏段通過検出器23の出力信号に基づいて、少なくとも起点踏段10’の通過信号を検知できればよい。このため検出体24は、起点踏段10’のブラケット10eの先端を変形させたものに限定されることはなく、起点踏段10’に対して別体として設けたものであってもよい。これにより踏段通過検出器23の配置位置の自由度が確保される。
<診断部25>
診断部25(図1参照)は、トルク制御装置5、変位検出器21、移動距離検出器22、および踏段通過検出器23からの情報に基づいて、踏段チェーン9の伸びの診断を実施する。このような診断部25は、計算機によって構成されている。計算機は、いわゆるコンピューターとして用いられるハードウェアである。計算機は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)やHDD(hard disk drive)のような不揮発性の記憶部を備えている。また診断部25は、ネットワークインターフェースを備え、トルク制御装置5、変位検出器21、移動距離検出器22、および踏段通過検出器23の各部からの情報を取得する構成であってもよく、さらに遠隔監視装置200に対して信号を送信する。
このような計算機によって構成された診断部25は、乗客コンベア1の踏段チェーン9の伸びの診断のための診断プログラムを不揮発性の記憶部に保存し、保存された診断プログラムに基づく処理を実行することにより、踏段チェーン9の伸びの診断の診断を実施する。このような診断部25は、保存された診断プログラムを実行する各機能部として、運転状態判定部25a、データ取得部25b、チェーン伸び診断部25c、および報知部25dを備える。これらは、次のような機能を有する。
[運転状態判定部25a]
運転状態判定部25aは、トルク制御装置5からの情報に基づいて、乗客コンベア1の運転状態の判断を実施する。ここでトルク制御装置5は、乗客コンベア1への乗客の乗降によって、駆動モータ2に対する負荷が変化しても、踏段10の移動速度を一定に保つために、駆動モータ2のトルク制御を行う。したがって運転状態判定部25a、トルク制御装置5による出力情報を読み込んで、乗客コンベア1が運転中であるか否か、および運転中の乗客コンベア1に乗客が乗車しているか否かの判定を行う。なお、この運転状態判定部25aによる判定の手順は、後の乗客コンベアの診断方法において説明する。
[データ取得部25b]
データ取得部25bは、変位検出器21、移動距離検出器22、および踏段通過検出器23から、踏段チェーン9の伸びの診断に必要なデータを所定のタイミングで取得し、取得したデータを格納する。なお、このデータ取得部25bによるデータ取得の手順は、後の乗客コンベアの診断方法において説明する。
[チェーン伸び診断部25c]
チェーン伸び診断部25cは、データ取得部25bに格納されているデータに基づいて、踏段チェーン9のチェーン伸びの診断を実施する。チェーン伸び診断部25cによる診断は、変位検出器21で検出したギア変位と、移動距離検出器22で検出した踏段10の移動距離とに基づいて実施される。チェーン伸び診断部25cによる診断は、踏段チェーン9の部分伸びの検出と部分伸びの発生箇所の検出、および踏段チェーン9の全体伸びの検出である。なお、このチェーン伸び診断部25cによる診断の手順は、後の乗客コンベアの診断方法において説明する。
[報知部25d]
報知部25dは、チェーン伸び診断部25cでの診断の結果を、外部装置としての遠隔監視装置200に報知する。
なお、診断部25は、この他にも従動部ターミナルギア8の摺動機構の固渋状態を診断する固渋診断部をそなえていてもよいが、ここでの説明は省略する。
≪乗客コンベアの診断方法≫
図5は、実施形態に係る乗客コンベアの診断方法を示すフローチャートである。このフローチャートは、診断部25が有する診断プログラムによって実施される乗客コンベアの踏段チェーンの伸び診断方法の手順を示している。以下、図5のフローチャートに沿って、先の図1~図4、および必要に応じた他の図を参照しつつ、実施形態の診断方法を説明する。なお、乗客コンベア1は、上述した用に一対の踏段チェーン9を備えるが、診断部25は、以下のステップを一対の踏段チェーン9のそれぞれに対して同時に実施し、踏段チェーン9の片伸びの診断も実施する。
<ステップS1>
ステップS1において、運転状態判定部25aは、例えばトルク制御装置5からの情報に基づいて、乗客コンベア1が運転中か否かを判断する。この診断は、乗客コンベア1が運転中に実施される診断である。このため運転状態判定部25aは、運転中である(YES)と判断するまで判断を繰り返し、運転中である(YES)と判断した場合に次のステップS2に進む。
<ステップS2>
ステップS2において、運転状態判定部25aは、トルク制御装置5からの情報に基づいて、乗客コンベア1への乗客の乗り込みがないことを判断する。この診断は、乗客コンベア1に乗客が乗車している場合には、従動部ターミナルギア8の位置が変位して診断結果に対する外乱の影響が大きくなる。このため、運転状態判定部25aは、乗客の乗り込みがない(YES)と判断するまで判断を繰り返し、乗客の乗り込みがない(YES)と判断した場合に次のステップS3に進む。
<ステップS3>
ステップS3において、データ取得部25bは、乗客コンベア1の踏段チェーン9の伸びの診断を開始する。
<ステップS4>
ステップS4において、データ取得部25bは、踏段通過検出器23からの情報に基づいて、踏段通過検出器23が起点踏段10’の通過を検出したか否かを判断する。起点踏段10’の検出は、踏段通過検出器23からの検出信号のピーク幅によって判断される。データ取得部25bは、幅広のピーク幅P’(図4参照)の検出信号を検知したことで、起点踏段10’を検出した(YES)と判断されるまで判断を繰り返す。そして、検出した(YES)と判断した場合にステップS5に進む。
<ステップS5>
ステップS5において、データ取得部25bは、踏段移動距離とギア変位の測定を開始する。この際、データ取得部25bは、ステップS4のいての起点踏段10’による起点踏段10’の検出を起点踏段10’の周回開始とし、これに同期させて、変位検出器21によるギア変位の測定を開始する。また、データ取得部25bは、起点踏段10’の周回開始に同期させて、移動距離検出器22による踏段移動距離の測定を開始する。
<ステップS6>
ステップS6において、データ取得部25bは、踏段通過検出器23からの情報に基づいて、起点踏段10’が踏段チェーン9の周回軌道を1周したか否かを判断する。データ取得部25bは、ステップS4の判断の後、踏段通過検出器23が起点踏段10’の通過を、次に検出した場合に、起点踏段10’が1周した(YES)と判断して次のステップS7に進む。
<ステップS7>
ステップS7において、データ取得部25bは、起点踏段10’が1周する間に取得した踏段移動距離とギア変位との取得データを格納する。この際、データ取得部25bは、起点踏段10’の周回開始に同期させ、踏段移動距離に対するギア変位として取得データを格納する。
<ステップS8>
ステップS8において、チェーン伸び診断部25cは、データ取得部25bに格納されたデータに基づき、ギア変位の平均値[dav]は、予め設定されている第1の閾値[th1]以上であるか否かを判断する。図6は、初期状態においての踏段移動距離とギア変位との関係を示す図であって、データ取得部25bに格納されたデータである。ここで初期状態とは、例えば踏段チェーン9が新しいものであって、全体伸びおよび部分伸びが無い状態であることとする。図6に示すように、第1の閾値[th1]は、初期状態におけるギア変位の平均値[dav]よりも大きな値であって、ギア変位の平均値[dav]の許容上限値を示す。ここで、ギア変位は、駆動部ターミナルギア7方向に対する従動部ターミナルギア8の変位であって、従動部ターミナルギア8が駆動部ターミナルギア7から遠ざかる方向への変位をプラスとしている。
一方、図7は、踏段チェーン9に全体的な伸びが発生している場合の踏段移動距離とギア変位との関係を示す図である。この図7は、乗客コンベア1の運転を開始してから積算したt時間経過後の診断において、データ取得部25bに格納されたデータの一例であって、踏段移動距離とギア変位との関係を示している。この図に示すように、チェーン伸び診断部25cは、ギア変位の平均値[dav]が第1の閾値[th1]以上である(YES)と判断した場合には、ステップS9に進む。一方、ギア変位の平均値[dav]が第1の閾値[th1]以上ではない(NO)と判断した場合には、ステップS10に進む。
<ステップS9>
ステップS9において、報知部25dは、遠隔監視装置200に対して踏段チェーン9の全体伸びを報知する。これにより、遠隔監視装置200の監視員が、踏段チェーン9の全体伸びを検知し、この全体伸びを階床するための踏段チェーン9のメンテナンスを行うことができる。
<ステップS10>
一方、ステップS10において、チェーン伸び診断部25cは、データ取得部25bに格納されたデータに基づき、ギア変位のピーク高さ[dp]は、予め設定されている第2の閾値[th2]以上であるか否かを判断する。図8は、踏段チェーン9に部分的な伸びが発生している場合の踏段移動距離とギア変位との関係を示す図である。この図8は、乗客コンベア1の運転を開始してから積算したt時間経過後の診断において、データ取得部25bに格納されたデータの一例であって、踏段移動距離とギア変位との関係を示している。図8に示す第2の閾値[th2]は、ギア変位がピークを有する場合に、ピーク高さ[dp]の許容上限値を示す。なお、第2の閾値[th2]は、実験的に設定された値であって、図示したように第1の閾値[th1]よりも大きな値であるか、または同じ値であってもよく、第1の閾値[th1]よりも小さな値であってもよい。
ここで踏段チェーン9は、駆動部ターミナルギア7または従動部ターミナルギア8を通過する部分において反転し、反転部分が衝撃を受けて瞬間的な伸びを生じる。この際、踏段チェーン9が摩擦によって部分伸びを生じている場合、この部分伸びを生じた部分が反転する際には、通常よりも大きく瞬間的な伸びを生じることになり、その差分がギア変位のピークとして表れる。
チェーン伸び診断部25cは、ギア変位がピークを有している場合に、そのピーク高さ[dp]が第2の閾値[th2]以上であるか否かを判断する。ピークを有するか否かの判断は、例えば踏段移動距離に対するギア変位の変化量と変化の大きさとによって判断する。チェーン伸び診断部25cは、複数のピークを検出した場合、全てのピークについて判断を実施する。チェーン伸び診断部25cは、全てのピークのうちの一つでも、ピーク高さ[dp]が第2の閾値[th2]以上である(YES)と判断した場合には、ステップS11に進む。一方、チェーン伸び診断部25cは、全てのピークのピーク高さ[dp]が第2の閾値[th2]以上ではない(NO)と判断した場合には、ステップS13に進む。
<ステップS11>
ステップS11において、チェーン伸び診断部25cは、ピーク高さ[dp]が第2の閾値[th2]以上であると判断した全てのピークについて、前回の診断においても同様のピークが検出されているか否かを判断する。ここで同様のピークとは、同一の踏段移動距離[x]で、第2の閾値[th2]以上の高さのピークである。チェーン伸び診断部25cは、データ取得部25bに格納された前回の取得データを参照してこの判断を実施する。ここで前回の取得データは、以降に説明するステップS13で格納されたデータであることとする。
チェーン伸び診断部25cは、前回も測定された(YES)と判断した場合に、部分伸びが発生していると判断してステップS12に進む。一方、前回は測定されていない(NO)と判断した場合には、ステップS13に進む。
<ステップS12>
ステップS12において、報知部25dは、遠隔監視装置200に対して踏段チェーン9の部分伸びを報知する。この際、報知部25dは、連続して第2の閾値[th2]以上の高さが検出された全てのピークの踏段移動距離[x]を報知する。これにより、遠隔監視装置200の監視員が、踏段チェーン9の部分伸びを検知し、この部分伸びを解消するための踏段チェーン9のメンテナンスを行うことができる。
また監視員は、報知されたピークが発生している踏段移動距離[x]と、駆動部ターミナルギア7または従動部ターミナルギア8から踏段通過検出器23までの距離とに基づいて、踏段チェーン9において部分伸びが発生した位置を特定することができる。なお、チェーン伸び診断部25cは、ステップS11において、前回も測定された(YES)と判断した場合には、これらの情報に基づいて部分伸びの発生位置を算出してもよい。この場合、本ステップS12において、報知部25dは、チェーン伸び診断部25cが算出した部分伸びの発生位置を遠隔監視装置200に対して報知する。
<ステップS13>
ステップS13において、チェーン伸び診断部25cは、取得データを測定日時と対応付けて格納する。この場合、過去に格納した取得データを消去し、必要範囲で最新の取得データのみを格納するようにしてもよい。その後、一連の処理を終了させる。
≪実施形態の効果≫
以上説明した実施形態によれば、起点踏段10’の周回に同期させて踏段の移動距離に対する従動部ターミナルギア8のギア変位を測定することにより、ギア変位が瞬間的に急変する位置を、踏段チェーン9の部分伸びの発生位置に精度良く対応させることができる。また、またギア変位は、踏段チェーン9の伸びを直接的に示す値であるため、外乱を取り除いて踏段チェーン9の部分伸びの発生を高精度に検知することができ、かつ部分伸びの発生位置を高精度に検知することが可能である。またこれにより、乗客コンベア1における踏段チェーン9のメンテナンスが容易となる
≪変形例≫
以上説明した実施形態において、ステップS6では起点踏段10’が1周したか否かを判断する構成とした。しかしながら、乗客コンベア1に乗客が搭乗しない条件下であれば、ステップS6では、起点踏段10’が2周以上の所定回数を周回したか否かを判断することとしてもよい。この場合、ステップS11では、各周回においての同一の踏段移動距離[x]で、第2の閾値[th2]以上の高さのピークが測定されているか否かを判断すればよい。この場合、ステップS13は必要に応じて実施すればよい。
またステップS9の後、ステップS13に進む構成としたが、ステップS10に進んでもよい。さらに、移動距離検出器22は、駆動モータ2に設けられたエンコーダーであることとしたが、踏段通過検出器23で代用してもよい。この場合、踏段通過検出器23による各踏段10の部材(例えばブラケット10e)の検出回数と、踏段10の配置間隔とから、起点踏段10’の移動距離を算出することができる。また、データ取得部25bは、踏段通過検出器23が、起点踏段10’に設けた検出体24の検出信号を検知することで、起点踏段10’の周回を検出することとした。しかしながらデータ取得部25bは、踏段10の設置数に対応する数の検出信号を踏段通過検出器23から受信した場合に、起点踏段10’の周回を検出したと判断してもよい。この場合、起点踏段10’に検出体24を設ける必要はないため、構成が簡便となる。
なお、本発明は上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
1…乗客コンベア、2…駆動モータ、5…トルク制御装置、7…駆動部ターミナルギア、8…従動部ターミナルギア、9…踏段チェーン、10…踏段、10’…起点踏段(任意の踏段)、20…診断装置、21…変位検出器、22…移動距離検出器、23…踏段通過検出器、25a…運転状態判定部、25b…データ取得部、25c…チェーン伸び診断部、[th1]…第1の閾値、[th2]…第2の閾値、[dav]…変位の平均値

Claims (10)

  1. 駆動モータと同期して回転する駆動部ターミナルギアと、
    所定間隔で複数の踏段が固定された無端状の踏段チェーンと、
    前記駆動部ターミナルギアとの間で前記踏段チェーンが掛け回されたことで前記駆動部ターミナルギアと同期して回転し、前記踏段チェーンの伸びに対応して前記駆動部ターミナルギアに対する位置を変位させる従動部ターミナルギアとを備えた乗客コンベアの診断装置であって、
    前記従動部ターミナルギアの基準位置からの変位を検出する変位検出器と、
    前記踏段チェーンの回動による前記複数の踏段の移動距離を検出する移動距離検出器と、
    前記複数の踏段の周回軌道に沿って配置され、前記複数の踏段のうちの少なくとも任意の踏段の通過を検出する踏段通過検出器と、
    前記踏段通過検出器において前記任意の踏段の通過を検出するのに同期させて、前記移動距離検出器で検出した前記踏段の移動距離に対する前記変位検出器で検出した前記従動部ターミナルギアの変位の測定を開始するデータ取得部と、
    前記データ取得部で取得した前記移動距離と前記変位とから、前記踏段チェーンの部分伸びの発生を検知するチェーン伸び診断部とを備えた
    乗客コンベアの診断装置。
  2. 前記チェーン伸び診断部は、前記データ取得部で取得した前記移動距離に対する前記変位に、予め設定された閾値以上の高さのピークが発生した場合に、前記踏段チェーンに部分伸びが発生したと判断する
    請求項1に記載の乗客コンベアの診断装置。
  3. 前記チェーン伸び診断部は、前記踏段の周回においての前記移動距離が同一の位置で、連続して前記ピークが発生した場合に、前記踏段チェーンの部分伸びが発生したと判断する
    請求項2に記載の乗客コンベアの診断装置。
  4. 前記チェーン伸び診断部は、前記移動距離における前記ピークの発生位置に基づいて、前記踏段チェーンの部分伸びが発生した位置を特定する
    請求項2に記載の乗客コンベアの診断装置。
  5. 前記チェーン伸び診断部は、前記変位の平均値が、前記平均値に対して設定した閾値以上となった場合に、前記踏段チェーンの全体伸びが発生したと判断する
    請求項1に記載の乗客コンベアの診断装置。
  6. 前記駆動モータのトルク指令値を可変制御するトルク制御装置からの情報に基づいて、前記乗客コンベアの運転状態を判定する運転状態判定部を備え、
    前記データ取得部は、前記運転状態判定部において前記乗客コンベアに乗客が乗車していないと判断した場合に、前記測定を開始する
    請求項1に記載の乗客コンベアの診断装置。
  7. 前記任意の踏段は、前記踏段通過検出器によって検出される部分において、前記踏段通過検出器による検出信号を他の踏段の検出信号と差別化する形状を有する
    請求項1に記載の乗客コンベアの診断装置。
  8. 前記データ取得部は、前記踏段通過検出器で検出した前記複数の踏段の検出信号の数に基づいて、前記任意の踏段の周回を検出する
    請求項1に記載の乗客コンベアの診断装置。
  9. 前記移動距離検出器は、前記駆動モータに設けられたエンコーダーである
    請求項1に記載の乗客コンベアの診断装置。
  10. 請求項1~9のうちの何れか1項に記載の乗客コンベアの診断装置を備えた
    乗客コンベア。
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