JP7468460B2 - 疲労強度に優れた回し溶接継手および回し溶接方法 - Google Patents

疲労強度に優れた回し溶接継手および回し溶接方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼構造物を建造する際に広く採用される主板とガセットとの回し溶接継手および溶接方法に関し、特に、優れた疲労特性が要求される鋼橋や船舶等の鋼構造物に好適な回し溶接継手および回し溶接方法に関する。
一般に、鋼構造物では、図6に示すように、ガセット2の周囲を主板1に隅肉溶接(いわゆる角回し溶接)した回し溶接継手が多数存在する。この回し溶接継手においては、溶接ビード3がガセット2を取り囲んでおり、その溶接ビード3に欠陥、例えば、割れなどが発生して、溶接ビード3と主板1との溶接止端部3aの形状が円滑に形成されなかった場合、その溶接止端部3aにおいて応力集中が生じ易くなる。その結果、回し溶接に起因する溶接残留応力と外力に起因する繰り返し応力とが重畳して疲労亀裂を発生させ、さらに、その疲労亀裂が伝播して疲労破壊を引き起こすことになる。なお、上記の外力とは、鋼構造物に外部から繰り返し作用する荷重であり、鋼構造物が鋼橋である場合は、風などの自然の気象状況や車両の通行によって繰り返し生じる荷重であり、鋼構造物が船舶である場合は、風や波によって繰り返し生じる荷重である。
近年、鋼構造物の老朽化に伴って、疲労に起因する損傷に関する報告が増加している。そのような損傷を防止するためには、鋼構造物を定期的に検査して、損傷の進行状況を管理し、さらに、損傷の進行に応じて対策を講じる必要がある。とりわけ疲労に起因する損傷が鋼橋に発生した場合は、車両の通行を規制することによって鋼橋に作用する外力を軽減することは可能であるが、交通の渋滞や物流の遅延等を引き起こすので社会活動に多大な悪影響を及ぼす。そこで、鋼構造物の回し溶接継手を健全化することにより、溶接継手の疲労特性を改善する技術が検討されている。
特許文献1には、ガセットが主板に当接する矩形の当接面(以下、矩形当接面という)の長辺を主板に隅肉溶接し、次いで室温まで冷却した後に、矩形当接面の角部から短辺を回し溶接することによって、継手疲労強度を安定して高める技術が開示されている。この特許文献1の図1、2に図示されている通り、この技術は、矩形当接面の短辺に沿って形成される溶接ビード(以下、短辺ビードという)が、長辺に沿って形成される溶接ビード(以下、長辺ビードという)の上に被せられ、且つ、短辺ビードが長辺ビードを超えて主板上に延伸する。このように、まず長辺ビードを溶接し、その上に短辺ビードを被せて溶接すると、溶接ビードが重なる部位に隙間(すなわち主板、長辺ビード、短辺ビードで囲まれた空間)が生じ易く、応力集中に起因する疲労亀裂が容易に発生し、その疲労亀裂の伝播を防止することは困難である。つまり特許文献1に開示された技術では、回し溶接継手の疲労強度の大幅な向上は期待できない。
特許文献2には、溶接ビードのマルテンサイト変態開始温度が350℃以下である溶接材料を用いてガセットの長手方向両端部から各々伸長ビードを主板の上面に形成することによって、回し溶接継手の疲労強度を高める技術が開示されている。この技術は、高価な溶接材料を選択せざるを得ないので、回し溶接の施工コストの上昇、ひいては鋼構造物の建造コストの上昇を招く。また、溶接止端部の形状によっては、疲労亀裂が発生する起点となる可能性があるので、溶接止端部の仕上げ状態に応じて疲労強度が変動するおそれがある。
特許文献3には、船体の溶接桁構造について側縁部の両側でやや延長させた一対の肋材付き延長ビードが開示されている。しかしながら、特許文献3には、溶接順序、疲労強度向上の効果のある間隔と、それに対する効果が記載されていない。
特許文献4および特許文献5には、ガセットの長手方向両端部から各々伸長ビードを主板の上面に形成することにより、疲労寿命を向上させる技術が開示されている。この技術では、溶接の回し部をカバーする形で伸長ビードを形成する必要があるため、時間を要するだけでなく、溶接作業員の負担も大きい。
特許文献6には、回し溶接にあたり短辺ビードを形成し、次いで矩形当接面の長辺に沿って2本の長辺ビード形成し、かつその長辺ビード間隔を適当な条件とすることにより、疲労強度を向上させる方法が開示されている。この技術は、ガセットの矩形当接面の短辺に沿って形成される溶接ビードが短いため、回し溶接継手の応力集中箇所に溶接始終端が存在する。溶接始終端の溶接ビードには空隙等が生じやすく、疲労亀裂の発生起点となることが懸念される。
特開平8-19860号公報 特開2013-99764号公報 特開平8-155634号公報 特開2014-233747号公報 特開2012-110950号公報 特開2018-158380号広報
本発明は、従来の技術の問題点を解消し、疲労強度を安価に且つ安定して向上させることができる回し溶接継手および回し溶接方法を提供することを目的とする。
本発明者は、回し溶接継手の疲労強度を高めるために、疲労亀裂の発生およびその伝播を抑制する技術について検討した。その結果、短辺ビードが短い、いわゆるショートビードとならないようガセットと主板とを隅肉溶接によってガセットの長辺から短辺を通過し、反対側のガセット長辺に至るよう連続的に溶接ビードを形成し、その後にガセット長辺の溶接ビード沿って主板上に延伸して第2溶接ビードならびに第3溶接ビードを形成することで、溶接部からの疲労亀裂の発生を抑制できることを見出した。
さらに、疲労亀裂が発生した場合には、疲労亀裂の起点が2本の延伸された溶接ビードの間にのみ存在させ、主板側に発生する疲労亀裂の伝播が2本のビードの間に制限させて、ひいては疲労亀裂が広範囲に伝播するのを防止できることを知見した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものであって、本発明の要旨は、次のとおりである。
〔1〕ガセットを主板に回し溶接して得られる溶接継手であって、前記ガセットと前記主板とを隅肉溶接によって前記ガセットの長辺の一方の側から前記ガセットの短辺を通過し、前記ガセットの長辺の他方の側に至るよう連続的に盛られた第1溶接ビードを有し、さらに前記ガセット長辺の一方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸して形成された第2溶接ビードと、前記ガセット長辺の他方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸して形成された第3溶接ビードとを有し、前記第2溶接ビードの延伸部と前記第3溶接ビードの延伸部との間隔Mが前記ガセットの短辺の長さW以下(M≦W)であることを特徴とする回し溶接継手。
〔2〕〔1〕において、前記ガセットの短辺の長さWが30.0mm以下であり、前記間隔Mが10.0mm以下であることを特徴とする回し溶接継手。
〔3〕〔1〕または〔2〕において、前記間隔Mが1.0mm~4.0mmであることを特徴とする回し溶接継手。
〔4〕〔1〕ないし〔3〕のいずれか一つにおいて、前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板幅または板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であることを特徴とする回し溶接継手。
〔5〕〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つにおいて、前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下であることを特徴とする回し溶接継手。
〔6〕ガセットを主板に回し溶接して接合する溶接方法において、前記ガセットと前記主板とを隅肉溶接によって前記ガセットの長辺の一方の側から前記ガセットの短辺を通過し、前記ガセットの長辺の他方の側に至るよう連続的に盛られた第1溶接ビードを形成し、前記ガセット長辺の一方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸する第2溶接ビードを形成し、前記ガセット長辺の他方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸する第3溶接ビードを形成し、前記第2溶接ビードの延伸部と前記第3溶接ビードの延伸部との間隔Mを前記ガセットの短辺の長さW以下(M≦W)とすることを特徴とする回し溶接方法。
〔7〕〔6〕において、前記ガセットの短辺の長さWを30.0mm以下とし、前記間隔Mを10.0mm以下とすることを特徴とする回し溶接方法。
〔8〕〔6〕または〔7〕において、前記間隔Mを1.0mm~4.0mmとすることを特徴とする回し溶接方法。
〔9〕〔6〕ないし〔8〕のいずれか一つにおいて、前記回し溶接を行うにあたって、前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板幅または板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であることを特徴とする回し溶接方法。
〔10〕〔6〕ないし〔9〕のいずれか一つにおいて、前記回し溶接を行うにあたって、前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下であることを特徴とする回し溶接方法。
本発明においては、どのような材質の主板やガセットを用いても効果が発揮されるが、疲労破壊の初期段階である、主板において発生した疲労亀裂の進展を制限できることから、疲労亀裂伝播速度の低い(疲労亀裂が進展しにくい)主板およびガセットに適用することによって、より一層の長寿命化が期待できる。
なお本発明は、鋼構造物を新たに建造する場合のみならず、老朽化した鋼構造物を補修する場合にも適用できる。
本発明によれば、鋼構造物を新たに建造する場合や老朽化した鋼構造物を補修する場合に、回し溶接継手の疲労強度を安価に且つ安定して向上することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
本発明に係る回し溶接継手を模式的に示す概略斜視図である。 本発明に係る回し溶接方法の溶接施工手順を模式的に示す概略平面図である。 本発明に係る回し溶接継手のガセット短辺側の正面から見た概略断面図である。 本発明に係る回し溶接継手の溶接ビード延伸部周辺を示す概略平面図である。 本発明に係る回し溶接継手の試験片を示す概略平面図および概略右側面図である。 従来の回し溶接継手を模式的に示す概略斜視図である。
まず、本発明の対象となるガセットおよび主板について説明する。
[ガセット]
ガセットの板厚は、前述したガセットの短辺の長さWのことであり、具体的には、5.0mm~30.0mmが好ましい。また、ガセットの板長がガセットの長辺の長さであり、具体的には、30.0mm~1,000.0mmが好ましい。さらに、ガセットの板幅がガセットの高さであり、具体的には、50.0mm~1,000.0mmが好ましい。
ガセットの鋼種としては、SM400などが挙げられ、引張強度は、400MPa~720MPaの範囲が好ましい。
[主板]
主板の形状としては、特に規定されるものではなく、どのような形状であっても適用することができるが、一般的には、板状であれば、板厚は、9.0mm~80.0mmが好ましい。
主板の鋼種としては、SM400、SM490などが挙げられる。特に、耐疲労亀裂伝播特性が必要な鋼材としては、SM570などが挙げられ、引張強度は、400MPa~720MPaの範囲が好ましい。
この耐疲労亀裂伝播特性は、後述するように、ASTM E647に規格に準拠した疲労亀裂伝播試験により、応力拡大係数範囲(ΔK)と疲労亀裂伝播速度(da/dN)を求めて評価している。
次に、図面を用いて本発明の溶接継手および施工手順を具体的に説明する。
[回し溶接継手の施工手順および構造]
図1は、本発明に係る回し溶接継手の例を模式的に示す概略斜視図であり、図2の(a)~(c)は、その回し溶接継手を得るための溶接施工の手順を模式的に示す概略平面図である。なお、図3において、ガセット2が主板1に当接する矩形当接面2aは、ガセット2を主板1に投影した矩形線の形状と一致する。
以下に、図2(a)~(c)により本発明に係る回し溶接継手の施工手順を説明する。
まず、図2(a)に示すように、ガセット2の全周に亘って第1溶接ビード3を形成する。第1溶接ビード3は、ガセット2の周囲を回り込むように形成されているので、ガセット2の短辺よりも長くなり、短辺の周辺領域における溶接ビードの健全性を確保している。
なお、図3に示すように、第1溶接ビード3の幅Sは、第1溶接ビード3の高さHと、ほぼ等しくすることが好ましい。具体的には、幅と高さの割合〔S/H〕を0.9~1.2の範囲とすることが当該領域の応力集中を軽減する観点から好ましい。
次いで、図2(b)に示すように、ガセット2に形成された第1溶接ビード3の長辺の一方の側に沿って第2溶接ビード4を形成する。そして、第2溶接ビード4を第1溶接ビード3から更に主板1上に延伸して延伸部4aを形成する。
続けて、図2(c)に示すように、ガセット2に形成された第1溶接ビード3の長辺の他方の側に沿って第3溶接ビード5を形成する。そして、第3溶接ビード5を第1溶接ビード3から更に主板1上に延伸して延伸部5aを形成する。
このようにして、第1溶接ビード3の長辺に沿って第2溶接ビード4および第3溶接ビード5を形成することによって、第1溶接ビード3内部の空隙等の欠陥が生じるのを防ぎ、かつ、溶接ビード3、4、5と主板1との間に物理的に隙間が生じるのを防止でき、その結果、第1溶接ビード3の溶接止端部3aの形状に関わらず疲労亀裂が発生するのを防止できる。
なお、第2溶接ビード4、第3溶接ビード5について、図2(b)~(c)では、ガセット2の長辺の左側に沿って形成した溶接ビードを第2溶接ビード4とし、長辺の右側に沿って形成した溶接ビードを第3溶接ビード5としたが、左右を逆にしても問題はない。つまり、ガセット2の長辺の右側に沿って形成した溶接ビードを第2溶接ビード4とし、長辺の左側に沿って形成した溶接ビードを第3溶接ビード5としても、本発明を適用することができる。
[延伸部の間隔M、長さN]
以上のような手順で図2(c)に示す溶接ビード3、4および5を形成した溶接継手の延伸部周辺を拡大したのが、図4である。主板1上に延伸して形成された第2溶接ビード4の延伸部4aと第3溶接ビード5の延伸部5aとの間隔Mがガセット2の短辺の長さWよりも大きくなると、第2溶接ビード4と第3溶接ビード5との間の第1溶接ビード3の溶接止端部に起点を持つ疲労亀裂が発生し易くなる。したがって、上記の間隔Mは、短辺の長さW以下(M≦W)とする。ここで、間隔Mは、第2溶接ビード4の延伸部4aと第3溶接ビード5の延伸部5aとの間の最も短い距離を指す。
また、短辺の長さWは、一般的な例としては30.0mm以下であり、したがって、短辺の長さWが10.0mm~30.0mmの場合には、間隔Mを10.0mm以下とすることが好ましい。当然ながら、短辺の長さWが10.0mm以下の場合には、間隔M≦Wとする。さらに、短辺の長さWがいずれの場合であっても、間隔Mを1.0mm~4.0mmとすることにより、耐疲労特性がより優れる(疲労寿命向上効果が大きい)ことからより好ましい。なお、間隔M=0mm、すなわち間隔が存在しない場合は、従来の回し溶接継手において回し溶接部が延伸された状態となり、本発明の形態を実施することができなくなる。したがって、間隔Mは、M>0mmを満たすこととする。また、間隔Mが短辺の長さWよりも大きくなったとしても、通常の溶接継手に比べて若干の疲労寿命向上の効果が見込まれることを付記しておく。
次に、第2溶接ビード4と第3溶接ビード5の延伸部4aと5aの長さNは、図4に示すように、第1溶接ビード端部から延伸部先端までの長さを言い、その長さNが10.0mmを超えると、溶接施工効率および施工コストの観点から好ましくないので、Nは10.0mm以下であることが好ましい。より好ましくは、Nは、4.0mm~8.0mmである。
なお、上記の説明では、ガセット2の一方の短辺の周辺に第2溶接ビード4および第3溶接ビード5を形成した例について説明したが、図1に示すように、ガセット2の反対側の短辺周辺に第2溶接ビード6および第3溶接ビード7を形成する場合も、同様に本発明を適用することができる。
以上に説明した本発明によって得られる回し溶接継手は、溶接止端部の形状に関わらず疲労亀裂の発生を防止できる。そして、疲労亀裂が発生した場合には、その疲労亀裂が広範囲に伝播するのを防止できる。しかも、従来の溶接装置、溶接材料を用いて得ることが可能であるから、施工コストの上昇を抑制できる。
[溶接方法]
回し溶接を行なう溶接方法は、被覆アーク溶接法、ガスメタルアーク溶接法が主であるが、それ以外の手段についても適宜用いることができ、手動溶接または自動溶接いずれを採用しても良い。
本発明は、鋼構造物を新たに建造する場合のみならず、老朽化した鋼構造物を補修する場合にも適用できる。
[耐疲労亀裂伝播特性]
溶接継手および鋼板(ガセット、主板)の耐疲労亀裂伝播特性は、ASTM E647の規格に準拠した疲労亀裂伝播試験により、応力拡大係数範囲ΔKと疲労亀裂伝播速度(da/dN)を求めて評価している。この応力拡大係数範囲ΔKとは、ΔK=Kmax-Kminであり、応力拡大係数の最大値と最小値の差を表している。また、疲労亀裂伝播速度(da/dN)は、試験片に一定荷重が繰り返し負荷されると疲労亀裂が伝播し、そのときの速度(疲労亀裂伝播速度)は、亀裂長さaと繰り返し数Nの関係を表す曲線の接線(da/dN)として求められる。
ここで、本発明において、耐疲労亀裂伝播特性に優れた溶接継手および鋼板としては、応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、疲労亀裂伝播速度が板幅または板厚方向へ1.75×10-8m/cycle以下となるものをいい、さらに優れた特性を示す溶接継手および鋼板としては、応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下となるものをいう。
ガセットを主板に回し溶接して得られる溶接継手において、疲労亀裂は、図3に示す溶接止端部3aで発生し、板幅方向および板厚方向に伝播し、板幅または板厚を貫通することで継手の破損を引き起こす。したがって、鋼板の板幅または板厚方向への疲労亀裂伝播が遅延されれば、すなわち疲労亀裂伝播速度が遅ければ、継手破断までの期間が延びることが期待される。種々の鋼板で溶接継手を作製し、疲労亀裂伝播特性と溶接継手の破断寿命の関係を検証した。本発明の溶接継手において、板幅または板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であれば、そうでない鋼板の溶接継手に対して、破断寿命が3%以上向上することが明らかとなった。さらに、板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下となる鋼板が主板である溶接継手は、その特性を満たさない鋼板に対し、破断寿命が20%以上向上することが明らかとなった。
図5に示す試験片を用いて、以下の溶接実験を行った。
主板1(板厚:12mm、板幅:80mm、長さ:500mm)にガセット2(板厚:25mm、板幅:75mm、高さ:60mm)をフラックス入り溶接ワイヤを用いたガスシールドアーク溶接によって回し溶接を行い、溶接継手を作製した。フラックス入り溶接ワイヤは、(株)神戸製鋼所製MX-Z200(ワイヤ径1.2mm)を用い、溶接条件は電圧240V、電流36Aを狙いとし、脚長が8mm程度となるよう溶接を行った。ガセット2は、主板1の板幅および長さ方向それぞれの中央に位置するようにした。主板1およびガセット2には、表1に示す成分を有する材料を使用した。
Figure 0007468460000001
鋼種Cは、ガセット2に用いており、試験番号11~17については、ガセット2は、板厚が10mmとなるように加工を施した。試験番号1~8については、応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合の、板幅方向への疲労亀裂伝播速度は1.92×10-8m/cycleとなる鋼種Aを主板1として使用した。試験番号9~16については、応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下となる鋼種Bを主板1として使用した。
上記の通り作製した溶接継手の疲労試験結果を表2に示す。試験番号19~27については、鋼種AまたはBを主板1として使用し、図6に示す角回し溶接継手を作製し、疲労試験を行った結果である。
なお、疲労試験は、油圧サーボパルサを用い、試験片長手両端部を試験機に固定して荷重制御によって実施した。時刻に沿って正弦波状に荷重が変化する負荷を与えた。最小または最大荷重に到達し、再び最小または最大荷重に到達するまでの期間を1回の応力負荷サイクルとする。最小荷重は、最大荷重の0.1倍となるように設定し、最大荷重は、1本の疲労試験において一定とした。応力範囲は、最大荷重から最小荷重を減算した値である。破断寿命は、負荷開始、すなわち0サイクルから、疲労亀裂が主板の板厚および板幅方向を貫通し、試験片が破断するまでのサイクル数と定義した。6,000,000回の負荷サイクルを与えても試験片が破断しなかった場合、破断寿命が6,000,000回よりも多いと断定して試験を終了し、破断寿命を「>6,000,000」と記載した。
Figure 0007468460000002
表2の結果から、本発明例である試験番号1~16は、いずれも優れた破断寿命、すなわち疲労特性を有することが分かる。板厚方向への疲労亀裂伝播速度に優れた鋼種Bを用いた試験番号9~16は、特に優れた疲労特性を示した。
1 主板
2 ガセット
2a 矩形当接面
3 第1溶接ビード
3a 溶接止端部
4、6 第2溶接ビード
5、7 第3溶接ビード
4a 第2溶接ビードの延伸部
5a 第3溶接ビードの延伸部

Claims (10)

  1. ガセットを主板に回し溶接して得られる溶接継手であって、前記ガセットと前記主板とを隅肉溶接によって前記ガセットの全周に亘って、前記ガセットの周囲を回り込むように形成された第1溶接ビードを有し、さらに前記ガセット長辺の一方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸して形成された第2溶接ビードと、前記ガセット長辺の他方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸して形成された第3溶接ビードとを有し、前記第2溶接ビードの延伸部と前記第3溶接ビードの延伸部との間隔Mが前記ガセットの短辺の長さW以下(M≦W)であることを特徴とする回し溶接継手。
  2. 前記ガセットの短辺の長さWが30.0mm以下であり、前記間隔Mが10.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の回し溶接継手。
  3. 前記間隔Mが1.0mm~4.0mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の回し溶接継手。
  4. 前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板幅または板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の回し溶接継手。
  5. 前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の回し溶接継手。
  6. ガセットを主板に回し溶接して接合する溶接方法において、前記ガセットと前記主板とを隅肉溶接によって前記ガセットの全周に亘って、前記ガセットの周囲を回り込むように第1溶接ビードを形成し、前記ガセット長辺の一方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸する第2溶接ビードを形成し、前記ガセット長辺の他方の側の前記第1溶接ビードに沿って前記主板上に延伸する第3溶接ビードを形成し、前記第2溶接ビードの延伸部と前記第3溶接ビードの延伸部との間隔Mを前記ガセットの短辺の長さW以下(M≦W)とすることを特徴とする回し溶接方法。
  7. 前記ガセットの短辺の長さWを30.0mm以下とし、前記間隔Mを10.0mm以下とすることを特徴とする請求項6に記載の回し溶接方法。
  8. 前記間隔Mを1.0mm~4.0mmとすることを特徴とする請求項6または7に記載の回し溶接方法。
  9. 前記回し溶接を行うにあたって、前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板幅または板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.75×10-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか一項に記載の回し溶接方法。
  10. 前記回し溶接を行うにあたって、前記主板の応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m1/2である場合に、前記主板の板厚方向への疲労亀裂伝播速度が1.00×10-8m/cycle以下であることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか一項に記載の回し溶接方法。
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