JP7466054B2 - 原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、着色された原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものであり、さらに詳しくは、要求された様々な色の原着繊維を効率よく製造し、コストアップを最低限に抑えた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミド繊維が、耐熱性および難燃性に優れていることは公知であり、かかる全芳香族ポリアミド繊維のうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドに代表されるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、耐熱性および難燃性繊維として特に有用であることが知られている。そして、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、これらの特徴を活かし、例えば、消防服、耐熱性作業服などの防護衣料分野で好適に使用されている(特許文献1参照)。
このような衣料分野での使用においては、着色した繊維を用いるのが一般的である。そして、着色した繊維を得る方法としては、繊維化後、染料を用いて染色する後染色法、あるいは紡糸ドープに顔料を添加した後に繊維化する原着法が知られている。
しかしながら、繊維化後、染料を用いて染色する後染色によって着色されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、光照射により変色や褪色を起こすという欠点を有しており、また洗濯による色素の脱落による変色や褪色を起こすという欠点も有している。
そこで、長期間屋外で使用される消防服、耐熱性作業服などの防護衣料においては、紡糸原液に顔料を添加した後に繊維化する原着法での着色が行われている。この原着法において、メタ型全芳香族ポリアミドと顔料との混合方法は、例えば図1に示す如く、アミド系溶媒中に顔料を混合撹拌して均一分散させた配合顔料分散体を作成し、当該アミド系溶媒スラリーをメタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解した溶液(ポリマードープ)に添加する方法、あるいは顔料粉末を直接、メタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解した溶液(ポリマードープ)に添加する方法等が挙げられている(特許文献2参照)。
また、メタ型全芳香族ポリアミドと顔料との混合方法として、アミド系溶媒で希釈された低濃度メタ型全芳香族ポリアミドのポリマードープ中に顔料を分散させたメタ型全芳香族ポリアミド-顔料混合物を作成し、高濃度のメタ型全芳香族ポリアミドのドープと混合撹拌する方法も挙げられている(特許文献3参照)。
しかしながら、これらの方法では、メタ型全芳香族ポリアミドのドープをタンク内で顔料と混合してから紡糸するため、色替えの度に顔料タンクおよび配管内に残った顔料の抜出、顔料タンク・配管内の洗浄、新規顔料の投入と時間がかかるとともにメタ型全芳香族ポリアミドのドープ、顔料及びアミド系溶媒を多く廃棄しなければならないという問題点があった。
そこで、メタ型全芳香族ポリアミドと顔料との混合方法を、アミド系溶媒中に顔料を均一分散したアミド系溶媒スラリー(顔料分散体)と、メタ型全芳香族ポリアミドのドープを同時に分割式2軸エクストルーダーのヘッドへ供給する方法とすることにより、顔料スラリーの工程が短く、また、スクリューを簡単に取り外すことができるので色替え時の洗浄を短時間とし、メタ型全芳香族ポリアミドのドープ、顔料及びアミド系溶媒の廃棄量を削減することが提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、この方法においても色替え時に供給する顔料を均一分散したアミド系溶媒スラリーのタンクおよび配管と分割式2軸エクストルーダーの洗浄が必要であり、十分な解決に至っていなかった。
特開2006-016709号公報 特許第5852127号公報 韓国特許第101961189号公報 中国特許第102400242号公報
本発明の課題は、かかる従来技術における問題点を解消し、色の切り替え時に発生するロスを最小限に抑えた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法を提供することにある。
発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、以下の工程を用いた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、
(A)原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、下記(1)~(7)の工程を含むことを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
(1)メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸からメタ型全芳香族ポリアミドを重合し、アミド系溶媒のドープを作成する工程
(2)黒色顔料以外の顔料の1種又は複数種を、それぞれ(1)で使用したアミド系溶媒中に5~50質量%で分散した少なくとも3種類以上のマスター顔料分散体であって、それぞれのマスター顔料分散体を、繊維中の顔料濃度が1質量%となるように含有させた繊維それぞれのカラーa値(以下単にa値と称することがある)を横軸に、カラーb値(以下単にb値と称することがある)を縦軸にプロットした点を互いに交差しない直線で結んだ時、その直線で囲まれた面積が1500以上となるマスター顔料分散体を作成する工程
(3)(2)の3種類以上のマスター顔料分散体を予め混合することなく、繊維中の顔料濃度の総和が0.1~5.0質量%(ポリマー99.9~95.0質量%+顔料濃度の総和が0.1~5.0質量%)となるように(1)で作成したドープと逐次混合させる工程
(4)(3)でマスター顔料分散体が混合されたドープを紡糸口金から凝固液中に紡出して凝固させ、繊維を得る工程
(5)凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する工程
(6)可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する工程
(7)洗浄工程を経た繊維を乾燥、熱処理する工程
(B)繊維中に1質量%となるよう含有させた時の繊維のカラーL値(以下単にL値と称することがある)が40以下となる黒色顔料を、(1)で使用したアミド系溶媒中に5~50質量%で分散した黒色顔料分散体を含む、上記(ア)に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
(C)前記マスター顔料分散体それぞれのL値が35~85、a値が-30~60、b値が-30~60の範囲にある上記(ア)又は(イ)に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法
ある。
本発明によれば、少なくとも3種類以上のマスター顔料分散体を目標色の比率となるように調整しながら紡糸ドープと逐次的に混合、紡糸することによって原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維が連続して得られるため、紡糸しながらそれぞれのマスター顔料分散体の添加比率を変更することで色替えが実施でき、その間の紡糸ドープのロスが少なくなり、さらに顔料タンクに残ったマスター顔料分散体の廃棄、顔料タンクや配管などの設備の洗浄等で発生する洗浄後のアミド系溶媒の廃棄に伴うロスをなくすことができ、環境への負荷を小さくすることができる。また、その際、特定の色相を有する3種類以上のマスター顔料分散体を使用することにより、目標色とする色相の範囲を可及的に広げることができる。
従来の原着法におけるポリマードープと顔料との混合方法の1例を例示したフローチャートである。 マスター顔料分散体を用い、繊維中の顔料濃度が1質量%となるよう顔料を含有させた原綿それぞれのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を互いに交差しない直線で結んだ1例を示したグラフである。 本発明の原着法におけるポリマードープとマスター顔料分散体との混合方法の1例を例示したフローチャートである。 比較例1において、マスター顔料分散体を用い、繊維中の顔料濃度が1質量%となるよう顔料を含有させた原綿それぞれのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を互いに交差しない直線で結んだ三角形と2色目の目標色の位置を示したグラフである。
以下、本発明について製造工程の順にしたがって詳細を説明する。
(1)アミド系溶媒のドープを作成する工程
この工程では、メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとを原料として、例えば溶液重合や界面重合させることにより製造されるポリアミドであるが、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばパラ型等の他の共重合成分を共重合したものであってもよい。
上記のメタ型芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼン等を使用することができる。なかでも、メタフェニレンジアミン、またはメタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する上記の混合ジアミンが好ましい。
また、上記のメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライドを使用することができる。なかでも、イソフタル酸クロライド又はイソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する上記の混合カルボン酸ハライドが好ましい。
上記のメタ型芳香族ジアミンと上記のメタ型芳香族ジカルボン酸ハライド以外で使用し得る共重合成分としては、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられ、一方、芳香族ジカルボン酸ハライドとして、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド等が挙げられる。
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいので、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下が好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、全繰返し単位の80モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位からなるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい。 かようなメタ型全芳香族ポリアミドの重合度は、30℃において97%濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)が、1.3~3.0の範囲が適当である。
上記で得られたメタ型全芳香族ポリアミドを溶媒に溶解して紡糸ドープを調整するが、重合後、メタ型全芳香族ポリアミドを単離せずに、そのまま紡糸ドープとすることも可能である。ここで用いる溶媒としては、アミド系溶媒を一般的に用いることができる。主なアミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのアミド系溶媒のなかでは、溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
上記紡糸ドープの溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は溶液濃度は10~30質量%(溶媒90~70質量%+ポリマー10~30質量%)の範囲とすることが好ましい。
(2)顔料を分散した3種類以上のマスター顔料分散体を作成する工程
要求された色相を持った原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するにあたり、紡糸ドープにマスター顔料分散体を添加する必要がある。
ここで、マスター顔料分散体とは、一定の色相になるように調整して顔料を溶媒に分散したものを指し、一般的には1種類の顔料を分散したものが多いが、2種類以上の顔料を混合して作成してもよく、また市販の顔料分散体を調達してもよい。
ここで選定されるマスター顔料分散体に使用される顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系等の有機顔料、あるいは、カーボンブラック、群青、ベンガラ、酸化チタン、酸化鉄等の無機顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
そして、選定された顔料それぞれを、上記(1)で使用したアミド系溶媒中に5質量%~50質量%(アミド系溶媒95~50質量%+顔料5~50質量%)で分散させたものを作成するか、または市販品からマスター顔料分散体を選定する。このマスター顔料分散体の顔料濃度が5質量%より低い場合、濃い色を生産する場合にマスター顔料分散体の添加量が増加し、紡糸ドープにおけるメタ型全芳香族ポリアミドの濃度が低下し紡糸工程で単糸が切れやすくなるなど不安定になることがある。また、マスター顔料分散体の顔料濃度が50質量%を超える場合は、淡い色を生産する場合に顔料の添加量が非常に少なくなるため、安定した添加が困難となることがある。
前述のように、本願発明で使用する少なくとも3種類以上のマスター顔料分散体は、それぞれのマスター顔料分散体を用いて、繊維中の顔料濃度が1質量%(ポリマー99質量%+顔料1質量%)となるように顔料を含有させて得られた繊維を、カード機で十分に開繊し、1.3グラム取り出して直径30mmの測定用の円形セルに詰め、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて測定して得られた、それぞれのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を互いに交差しない直線で結び、その直線で囲まれた面積が1500以上となるマスター顔料分散体を選定する必要がある。(図2参照)
例えば3種類のマスター顔料分散体を使用する場合、3種類のそれぞれのマスター顔料分散体を用いて繊維中の顔料濃度が1質量%となるように顔料を含有させた繊維それぞれのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を互いに交差しない直線で結ぶと、図2に示す如く三角形になるが、これら3種類のマスター顔料分散体を如何なる比率で配合しようと、得られる色相のa値、b値はこの三角形の中に納まるので、上記a値、b値をプロットした点で囲まれた面積が大きければ大きいほど表現できる色の範囲が広くなる。従って、本発明においては、この面積は少なくとも1500以上が必要であり、1800以上が好ましい。この面積が1500未満の場合、選定された顔料を調整して表現できる色相範囲が狭く、表現不可能な色相が多くなってしまう上、色替えの際、紡糸しながらそれぞれの顔料の添加比率を変更することで色替えが実施できるという本願の特徴が充分に発揮できない結果となる。
このように、調整できる色の範囲を広くし、本願発明の特徴を最大限に発揮させるためには、最低3色のマスター顔料分散体を選定する必要があり、色の3原色と言われるシアン・マゼンタ・イエローに近い色のマスター顔料分散体や、青・赤・黄などのマスター顔料分散体を選定することが望ましい。換言すると、マスター顔料分散体のそれぞれのL値が35~85、a値が-30~60、b値が-30~60の範囲であることが好ましい。またさらに調整できる色の範囲を広げるためには、4色5色と緑やバイオレットのような色を追加で選定することもより有効であるが、あまり顔料の種類が増えると多くの顔料タンクを製造ラインに設置する必要があり、スペースの確保等に制限が出てくる場合がある。
また、3種類以上のマスター顔料分散体のa値、b値で囲まれた範囲内に位置するa値
、b値を持った他のマスター顔料分散体をさらに追加しても、a値、b値のグラフで囲まれた面積に変化は無いが、他の要因で必要と判断した場合、使用することが可能である。
一方、効率的に濃色を作成するため、顔料の含有量が1質量%となるように含有させた時の繊維のL値が40以下となるような、黒色顔料を繊維中に含有させるのも有効な手段である。すなわち、(2)のマスター顔料分散体に加えてさらに、繊維中の顔料の含有量が1質量%となるよう含有した繊維のL値が40以下となる黒色顔料を選定して、(2)に加えても良い。
ここで使用される黒色顔料は、一般的には1種類の顔料を用いることが多いが、2種類以上の顔料を混合して使用してもよく、また市販の黒色顔料を調達してもよい。主に選定される黒色顔料としては、酸化鉄、カーボンブラック、チタン系黒色顔料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(3)マスター顔料分散体を目標色の比率となるように調整しながらドープと逐次混合する工程
次に、これら3種類以上のマスター顔料分散体を、予め混合することなく、それぞれ個別に顔料タンクに入れ、目標色の比率となるようにそれぞれの添加量を調整しながら(1)で作成したドープに逐次混合させる。
この際、3種類以上のマスター顔料分散体の添加による繊維中の顔料濃度の総和が0.1~5.0質量%(ポリマー99.9~95.0質量%+顔料濃度の総和が0.1~5.0質量%)となるように混合させることが肝要である。顔料濃度の総和が0.1質量%未満の場合、マスター顔料分散体それぞれの添加量が非常に少なくなるため安定した添加が困難となる。一方、顔料濃度の総和が5.0質量%を越える場合は繊維強度の低下がみられ防護衣料分野での仕様が困難となる。
3種類以上のマスター顔料分散体を、ドープと逐次混合する方法は、例えば図3に示す如く、各顔料タンクからそれぞれ定量ポンプを用いて紡糸ドープとともに2軸エクストルーダーのヘッド部に連続的に供給混合させる方法、顔料タンクより定量ポンプを用いて直接配管内の紡糸ドープにインジェクションし混合する方法など、様々な方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
この際、タンクから連続的に紡糸ドープへ添加することができることからその比率を調整することで色替えを行うことができ、色が切り替わる間の紡糸ドープがロスになる以外は、顔料タンクや配管などの装置洗浄にかかるロスの発生が無くなり効率的な生産を行うことが可能となる。
(4)マスター顔料分散体が混合されたドープを紡糸口金から凝固液中に紡出して凝固させ、繊維を得る工程
(3)の工程で連続的に着色された紡糸ドープを凝固液中へ紡出し凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500~30000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。また、紡糸口金から紡出する際の紡糸ドープの温度は、10~90℃の範囲が適当である。
本願発明の繊維を得るために用いる凝固浴の例としては、無機塩を含まないアミド系溶媒の、濃度45~60質量%の水溶液(アミド系溶媒45~60質量%+水55~40質量%)を、浴液の温度10~35℃の範囲で用いる。アミド系溶媒濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、最終繊維に溶媒が残存することとなる場合がある。また、アミド系溶媒濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このため、繊維成形加工時に単糸が切断するなどの不具合が多く発生することがある。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1~30秒の範囲が適当である。
(5)凝固繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する工程
次に凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、例えば、アミド系溶媒0~60質量%+水100~40質量%となるアミド系溶媒の水溶液など、従来公知の浴液を採用することができる。
本願発明の繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5~5.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは3.7~4.5倍の範囲とする。本願発明の繊維の製造においては、可塑延伸浴中にて特定倍率の範囲で可塑延伸することにより、凝固糸中からの脱溶剤を促進することができる。
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、凝固糸中からの脱溶剤が不十分となる。また、破断強度が不十分となり、紡績工程等の加工工程における取り扱いが困難となる。一方で、延伸倍率が5.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、工程安定性が悪くなることがある。
可塑延伸浴の温度は、好ましくは10~90℃の範囲、より好ましくは20~90℃の範囲にあると工程安定性がよい。
(6)可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する工程
次に、繊維中に残留している溶剤を洗浄する。この工程においては、上記の可塑延伸浴にて延伸された繊維を十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態、および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
上記の洗浄浴の温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば、特に限定されるものではない。ただし、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
繊維中にアミド系溶媒が残っている場合、該繊維の難燃性を低下させる上に、該繊維を用いた製品の加工、および当該繊維を用いて形成された製品の使用における環境安全性においても好ましくない。このため、本願発明に用いられる繊維中に含まれるアミド系溶媒量は、0.2質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以下であり、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
(7)洗浄工程を経た繊維を乾燥、熱処理する工程
次に、乾熱処理工程においては、上記の洗浄工程を経た繊維を、乾燥・熱処理(乾熱処理と呼ぶこともある)する必要がある。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
本願発明に用いられる繊維を得るためには、乾熱処理工程における熱処理温度を、260~350℃の範囲とすることが好ましく、270~340℃の範囲とすることがより好ましい。乾熱処理温度が260℃未満の場合には、繊維の結晶化が不十分となり、繊維の収縮性が高くなることがある。一方で、乾熱処理温度が350℃を越える場合は、破断伸度が著しく低下することがある。また、乾熱処理温度が270~340℃の範囲とすることは、得られる繊維の破断強度が向上する傾向となり好ましい。
上記の乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
以下、実施例および比較例により本願発明を詳細に説明するが、本願発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。
なお、実施例中の「部」および「%」は特に断らない限りすべて質量基準に基づく値であり、量比は特に断らない限り質量比を示す。実施例および比較例における各物性値は下記の方法で測定した。
<固有粘度(IV)>
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
<繊度>
JIS L1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
<引張強度、引張伸度>
JIS L1015に基づき、インストロン社製 型番5565を用いて、以下の条件で測定した引張破断強度、引張破断伸度の値を繊維の引張強度、引張伸度とした。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
<L値、a値、b値>
得られた繊維をカード機で十分に開繊し、1.3グラム取り出して直径30mmの測定用の円形セルに詰め、分光色彩計 SD7000(日本電色工業製)を用いて測定した。
[実施例1]
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)721.5質量部を秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン97.2質量部(50.18モル%)を溶解させ、0℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド(以下IPCと略す)181.3質量部(49.82モル%)を徐々に攪拌しながら添加し、重合反応を行った。
次に、平均粒径が10μm以下の水酸化カルシウム粉末を66.6質量部秤量し、重合反応が完了したポリマー溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに40分間攪拌して、透明なポリマードープを得た。
得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離してIVを測定したところ、1.65であった。また、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)、黄色系顔料であるPigment Yellow 138(PY138)それぞれを、上記ポリマードープに、ポリマーと顔料の合計質量に対して1質量%(ポリマー99質量%+顔料1質量%)となるように添加した紡糸ドープを用いて紡糸・水洗・延伸・熱処理を行い、着色された3種類の繊維を得た。これらの繊維に捲縮を施し50mmにカットし原綿とした後、L値、a値、b値を測定した。これらのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を交差しない直線で結びその直線で囲まれた三角形の面積を求めた結果、1815であった。
乾燥窒素雰囲気下の高速撹拌が可能な容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を90質量%秤量し、0℃に冷却した。このDMAc中に高速撹拌しながら上記で選定された顔料10質量%を徐々に加えた後、さらに1時間撹拌し、DMAc中に顔料が均一に分散した3種類のマスター顔料分散体を作成し、それぞれを顔料タンクに保管した。
上記マスター顔料分散体を、図3に示す装置を用い、予め混合することなく、上記ポリマードープに、ポリマーと顔料の合計質量に対してPB15:1=0.31質量%、PR254=0.35質量%、PY138=0.54質量%となるようにドープ配管を介して逐次混合した後、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量%)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。得られる原綿の目標色はL値=41.9、a値=-3.0、b値=3.4であった。
次に、連続して紡糸を行いながら、マスター顔料分散体の比率を上記ポリマードープにポリマー重量に対してPB15:1=0.05質量%、PR254=0.17質量%、PY138=0.48質量%となるように変更を行い2色目への色替えを行った。得られる原綿の目標色はL値=53.5、a値=3.9、b値=14.5であった。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水洗浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の水洗浴(温水)(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
この1色目の原綿の繊度は、1.67dtex,引張強度3.25cN/dtex、引張伸度32.3%であった。また、2色目の原綿の繊度は、1.67dtex,引張強度3.37cN/dtex、引張伸度34.3%であった。これらは、防護衣料等に用いるのに問題ない強度を有していた。
得られた原綿を、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて、L値、a値、b値を測定した結果、1色目は、L値=42.1、a値=-3.1、b値=3.3、2色目は、L値=53.3、a値=3.9、b値=14.9とそれぞれ目標色に近いことを確認した。
1色目から2色目の色替えの際、連続して紡糸を行いながら切替えを行ったため、顔料タンクや配管の洗浄は不要であり、紡糸ドープやマスター顔料分散体を僅かにロスしただけで色の切替を行うことが可能であった。
[比較例1]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)、黄色系顔料であるPigment Green 7(PG7)を選定し、それぞれを上記ポリマードープに、ポリマーと顔料の合計質量に対して1質量%となるように添加した紡糸ドープを用いて紡糸・水洗・延伸・熱処理を行い着色された繊維を得た。この繊維に捲縮を施し50mmにカットし原綿とした後、L値、a値、b値を測定した。このa値を横軸にb値を縦軸にプロットした点を交差しない直線で結びその直線で囲まれた面積を求めた結果、683であった。
次に、実施例1と同じ方法でそれぞれのマスター顔料分散体を作成し、顔料タンクに保管した。
上記マスター顔料分散体を、図3に示す装置を用い、予め混合することなく、上記ポリマードープに、ポリマーと顔料の合計質量に対してPB15:1=0.17質量%、PR254=0.48質量%、PG7=0.35質量%となるようにドープ配管を介して逐次混合した後、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。得られる原綿の目標色は、実施例1と同じくL値=41.9、a値=-3.0、b値=3.4であった。
次に、連続して紡糸を行いながらマスター顔料分散体の比率を表2に示す如く変更して2色目への色替えを行い、得られる原綿の目標色をL値=53.5、a値=3.9、b値=14.5となるようにしようとしたが、図4に示す如く、これらのマスター顔料分散体の組み合わせで得られた三角形で囲まれた範囲では、b値が最大で11.3までしか実現することができず、この範囲に目標色が入っていないことから、L値=53.7、a値=3.0、b値=6.1と目標色とは色の違う原綿しか得ることができなかった。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
1色目の原綿の繊度は、1.66dtex,引張強度3.40cN/dtex、引張伸度29.9%であった。また、2色目の原綿の繊度は、1.67dtex,引張強度3.39cN/dtex、引張伸度34.2%であり、これらは、防護衣料等に用いるのに問題ない強度を有していた。
得られた原綿を、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いL値、a値、b値を測定した結果、1色目は、L値=41.8、a値=-3.2、b値=3.6と目標色に近いことを確認したが、2色目は、上述の通り、L値=53.7、a値=3.0、b値=6.1であり、目標色とは色の違う原綿しか得ることができなかった。
また、1色目から2色目の色替えの際、連続して紡糸を行いながら切替を行ったため、顔料タンクや配管の洗浄は不要であり、紡糸ドープや顔料を僅かにロスしただけで色の切替を行うことは可能であったが、選定したマスター顔料分散体のa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を交差しない直線で結びその直線で囲まれた面積が1500より小さかったため目標原綿色を表現することができなかった。
[比較例2]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
比較例1で使用した、青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)が0.17質量%、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)が0.48質量%、緑色系顔料であるPigment Green 7(PG7)が0.35質量%となるよう予め配合された顔料分散体を比較例1と同様の方法で作成し、顔料タンクに保管した。得られる原綿の1色目の目標色は、実施例1と同じくL値=41.9、a値=-3.0、b値=3.4であった。
次に、青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)が0.03質量%、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)が0.17質量%、黄色系顔料であるPigment Yellow 138(PY138)が0.51質量%となるよう予め配合された顔料分散体を比較例1と同様の方法で作成し、ドラム缶で保管した。得られる原綿の2色目の目標色は、実施例1と同じくL値=53.5、a値=3.9、b値=14.5であった。
上記1色目の、予め配合された顔料分散体を、図1に示す装置を用い、上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対して1.0質量%となるように混合し、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。
続けて、上記2色目の繊維の紡糸を行うために、顔料タンクから残った顔料を抜出し、着色のないアミド系溶媒を用いてタンクと周辺配管を4回洗浄し残留する顔料がないことを確認したのち、ドラム缶に保管していた2色目の、予め配合された顔料分散体を顔料タンクに入れたのち、図1に示す装置を用い、上記ポリマードープにポリマー重量に対して1.0質量%となるように混合し、1色目と同条件で紡糸し2色目への色替えを行った。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
この1色目の繊維の繊度は、1.67dtex,引張強度3.30cN/dtex、引張伸度34.2%であった。また、2色目の繊維の繊度は、1.67dtex,引張強度3.42cN/dtex、引張伸度33.2%であった。これらは、防護衣料等に用いるのに問題ない強度を有していた。
得られた原綿を、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いL値、a値、b値を測定した結果、1色目は、L値=41.9、a値=-3.1、b値=3.5、2色目は、L値=54.2、a値=4.0、b値=14.3とそれぞれ目標色に近いことを確認した。
しかしながら、1色目から2色目への色替え時において顔料タンク内の顔料分散体入替が必要であるためタンクや配管などの洗浄が必須であり、洗浄に多大の労力と時間がかかる上、洗浄に用いるアミド系溶媒が多く使用され大きなロスとなった。
[実施例2]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)、黄色系顔料であるPigment Yellow 93(PY93)、紫系顔料であるPigment Violet 29(PV29)それぞれを上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対して1質量%となるように添加した紡糸ドープを用いて紡糸・水洗・延伸・熱処理を行い着色された4種類の繊維を得た。この繊維に捲縮を施し50mmにカットし原綿とした後、L値、a値、b値を測定した。これらのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を交差しない直線で結びその直線で囲まれた四角形の面積を求めた結果、2629であった。
次に、実施例1と同じ方法でそれぞれのマスター顔料分散体を作成し、顔料タンクに保管した。
上記マスター顔料分散体を、図3に示す装置を用い、予め混合することなく、上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対してPB15:1=0.72質量%、PR254=0.45質量%、PY93=0.27質量%、PV29=0.36質量%となるようにドープ配管を介して逐次混合した後、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。得られる原綿の目標色は、L値=36.0、a値=3.4、b値=-24.9であった。
次に、連続して紡糸を行いながら、マスター顔料分散体の比率を上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対してPB15:1=0.04質量%、PR254=0.18質量%、PY93=0.58質量%となるように変更を行い2色目への色替えを行った。得られる原綿の目標色はL値=53.5、a値=3.9、b値=14.5であった。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
この1色目の繊維の繊度は、1.66dtex,引張強度3.52cN/dtex、引張伸度35.2であった。また、2色目の繊維の繊度は、1.68dtex,引張強度3.38cN/dtex、引張伸度32.7%であった。これらは、防護衣料等に用いるのに問題ない強度を有していた。
得られた原綿を分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いL値、a値、b値を測定した結果、1色目は、L値=36.3、a値=3.4、b値=-25.2、2色目は、L値=53.9、a値=3.7、b値=15.0とそれぞれ目標色に近いことを確認した。
また、1色目から2色目の色替えの際、連続して紡糸を行いながら切替を行ったため、顔料タンクや配管の洗浄は不要であり、紡糸ドープやマスター顔料分散体を僅かにロスしただけで色の切替えを行うことが可能であった。
[比較例3]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
実施例2で使用した、青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)を0.72質量%、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)を0.45質量%、黄色系顔料であるPigment Yellow 93(PY93)を0.27質量%、紫系顔料であるPigment Violet 29(PV29)を0.36質量%となるよう予め配合された顔料分散体を実施例1と同様の方法で作成し、顔料タンクに保管した。得られる原綿の1色目の目標色は、L値=36.0、a値=3.4、b値=-24.9であった。
次に、青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)が0.04質量%、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)が0.18質量%、黄色系顔料であるPigment Yellow 93(PY93)が0.58質量%となるよう予め配合された顔料分散体を実施例1と同様の方法で作成し、ドラム缶で保管した。得られる原綿の2色目の目標色は、L値=53.5、a値=3.9、b値=14.5であった。
上記1色目の、予め配合された顔料分散体を、図1に示す装置を用い、上記ポリマードープに、ポリマーと顔料の合計質量に対して1.8質量%となるように混合し、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。
続けて、上記2色目の繊維の紡糸を行うために、顔料タンクから残った顔料を抜出し、着色のないアミド系溶媒を用いてタンクと周辺配管を4回洗浄し残留する顔料がないことを確認したのち、ドラム缶に保管していた2色目の、予め配合された顔料分散体を顔料タンクに入れたのち、図1に示す装置を用い、上記ポリマードープに、ポリマーと顔料の合計質量に対して0.8質量%となるように混合し、1色目と同条件で紡糸し2色目への色替えを行った。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。 延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
この1色目の繊維の繊度は、1.65dtex,引張強度3.30cN/dtex、引張伸度32.4%であった。また、2色目の繊維の繊度は、1.67dtex,引張強度3.31cN/dtex、引張伸度33.2%であった。これらは、防護衣料等に用いるのに問題ない強度を有していた。
得られた原綿を、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いL値、a値、b値を測定した結果、1色目は、L値=35.7、a値=3.6、b値=-24.8、2色目は、L値=53.8、a値=3.8、b値=14.8とそれぞれ目標色に近いことを確認した。
しかしながら、1色目から2色目への色替え時において顔料タンク内の顔料入替が必要であるためタンクや配管などの洗浄が必須であり、洗浄に多大の労力と時間がかかる上、洗浄に用いるアミド系溶媒が多く使用され大きなロスとなった。
[実施例3]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)、黄色系顔料であるPigment Yellow 138(PY138)それぞれを、上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対して1質量%となるように添加した紡糸ドープを用いて紡糸・水洗・延伸・熱処理を行い着色された3種類の繊維を得た。これらの繊維に捲縮を施し50mmにカットし原綿とした後、L値、a値、b値を測定した。これらのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を交差しない直線で結びその直線で囲まれた三角形の面積を求めた結果、1815であった。
さらに、黒系顔料であるPigment Black 7(PB7)を上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対して1質量%となるように添加した紡糸ドープを用いて紡糸・水洗・延伸・熱処理を行い着色された繊維を得た。この繊維に捲縮を施し50mmにカットし原綿とした後、L値、a値、b値を測定した。得られた繊維のL値は、36.6であった。
次に、実施例1と同じ方法でそれぞれのマスター顔料分散体を作成し、顔料タンクに保管した。
上記マスター顔料分散体を、図3に示す装置を用い、予め混合することなく、上記ポリマードープにポリマー重量に対してPB15:1=0.02質量%、PR254=0.15質量%、PY138=0.31質量%、PB7=1.72質量%となるようにドープ配管を介して逐次混合した後、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量%)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。得られる原綿の目標色はL値=31.1、a値=0.3、b値=-3.6であった。
次に、連続して紡糸を行いながら、マスター顔料分散体の比率を上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対してPB15:1=0.62質量%、PR254=1.01質量%、PY138=0.13質量%、PB7=0.55質量%となるように変更を行い2色目への色替えを行った。得られる原綿の目標色はL値=31.6、a値=0.5、b値=-2.1であった。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
この1色目の繊維の繊度は、1.67dtex,引張強度3.12cN/dtex、引張伸度30.7%であった。また、2色目の繊維の繊度は、1.67dtex,引張強度3.21cN/dtex、引張伸度30.7%であった。これらは、防護衣料等に用いるのに問題ない強度を有していた。
得られた原綿を分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いL値、a値、b値を測定した結果、1色目は、L値=31.2、a値=0.3、b値=-3.7、2色目は、L値=31.6、a値=0.6、b値=-1.7と黒系顔料を用いることで非常に濃い目標色に近い原着原綿を製造することができた。
1色目から2色目の色替えの際、連続して紡糸を行いながら切替を行ったため、顔料タンクや配管の洗浄は不要であり、紡糸ドープやマスター顔料分散体を僅かにロスしただけで色の切替を行うことが可能であった。
[比較例4]
実施例1と同じ方法でポリマー溶液を作成した。IVは、1.65であり、ポリマードープ中のポリマー濃度は、17質量%であった。
青色系顔料であるPigment Blue 15:1(PB15:1)、赤色系顔料であるPigment Red 254(PR254)、黄色系顔料であるPigment Yellow 138(PY138)それぞれを上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対して1質量%となるように添加した紡糸ドープを用いて紡糸・水洗・延伸・熱処理を行い着色された3種類の繊維を得た。これらの繊維に捲縮を施し50mmにカットし原綿とした後、L値、a値、b値を測定した。これらのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を交差しない直線で結びその直線で囲まれた三角形の面積を求めた結果、1815であった。
次に、実施例1と同じ方法でそれぞれのマスター顔料分散体を作成し、顔料タンクに保管した。
上記マスター顔料分散体を、図3に示す装置を用い、予め混合することなく、上記ポリマードープにポリマーと顔料の合計質量に対してPB15:1=0.26質量%、PR254=1.70質量%、PY138=3.34質量%となるようにドープ配管を介して逐次混合した後、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/DMAc=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して1色目の紡糸を実施した。得られる原綿の目標色はL値=31.1、a値=0.3、b値=-3.6であった。
引き続き、温度40℃の水/DMAc=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、20℃の水/DMAc=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
洗浄後の繊維について、表面温度300℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、次いで繊維を束ねてクリンパーを通し、捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、顔料で着色された原着原綿を得た。
得られた原綿を、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いL値、a値、b値を測定した結果、L値=31.4、a値=0.3、b値=-3.9と黒系顔料を用いなくとも非常に濃い目標色に近づけることができたが、トータルの顔料濃度が高く、紡糸、延伸、或いは洗浄の工程で単糸切れ等が多発し、それに伴うロスが多く発生した。
また、この繊維の繊度は、1.68dtex,引張強度1.98cN/dtex、引張伸度19.3%と、防護衣料等に用いるのは不可能な強度しか有しておらず、2色目への色替えは実施しなかった。
実施例1、比較例1~2により得られた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性を表1、表2に、実施例2~3、比較例3~4により得られた原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性を表3、表4に示す。
Figure 0007466054000001
Figure 0007466054000002
Figure 0007466054000003
Figure 0007466054000004
本発明は、防護衣料等に用いられる原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の効率的な製造方法であり、かつ廃棄される顔料やアミド系溶媒等のロスを大幅に削減することが可能であり、環境に対する負荷が小さい製造方法である。

Claims (3)

  1. 原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するに際し、下記(1)~(7)の工程を含むことを特徴とする原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
    (1)メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸からメタ型全芳香族ポリアミドを重合し、アミド系溶媒のドープを作成する工程
    (2)黒色顔料以外の顔料の1種又は複数種を、それぞれ(1)で使用したアミド系溶媒中に5~50質量%で分散した少なくとも3種類以上のマスター顔料分散体であって、それぞれのマスター顔料分散体を、繊維中の顔料濃度が1質量%となるように含有させた繊維それぞれのa値を横軸に、b値を縦軸にプロットした点を互いに交差しない直線で結んだ時、その直線で囲まれた面積が1500以上となるマスター顔料分散体を作成する工程
    (3)(2)の3種類以上のマスター顔料分散体を予め混合することなく、繊維中の顔料濃度の総和が0.1~5.0質量%となるように(1)で作成したドープと逐次混合させる工程
    (4)(3)でマスター顔料分散体が混合されたドープを紡糸口金から凝固液中に紡出して凝固させ、繊維を得る工程
    (5)凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する工程
    (6)可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する工程
    (7)洗浄工程を経た繊維を乾燥、熱処理する工程
  2. 繊維中に1質量%となるよう含有させた時の繊維のL値が40以下となる黒色顔料を、(1)で使用したアミド系溶媒中に5~50質量%で分散した黒色顔料分散体を含む、請求項1に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
  3. 前記マスター顔料分散体それぞれのL値が35~85、a値が-30~60、b値が-30~60の範囲にある請求項1又は2に記載の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
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