JP2005042262A - 易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法 - Google Patents

易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】染料に対する染色性に優れ、しかも繊維強度及び熱収縮安定性を兼備した易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を生産性よく安定して製造できる方法を提供すること。
【解決手段】(1)アミド系溶媒に溶解したメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を、無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固せしめ、(2)この凝固糸を水性洗浄浴中にて水洗し、(3)次いで温水浴中において3.6〜4.0倍に延伸し、(4)さらに温水浴中にて繊維中の無機塩を取り除き、(5)続いて下記(a)〜(c)を満足する条件にて水蒸気中で弛緩熱処理し、(6)さらに下記(d)〜(f)を満足する条件にて水蒸気中で延伸して易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得る。
(a)水蒸気圧力が196〜392kPa
(b)弛緩率が最大弛緩率の1.0〜1.2倍
(c)弛緩処理時間が1秒〜1分
(d)水蒸気圧力が29.4〜147kPa
(e)前記温水延伸倍率との積(全延伸倍率)が4.2〜4.8倍となる延伸倍率
(f)延伸時間が0.5〜30秒
【選択図】なし

Description

本発明は、カチオン染料や分散染料等の染料に対する染色性が良好であり、かつ、繊維強度及び熱収縮安定性にも優れた易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法に関するものである。
ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維などのメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子骨格がほとんど芳香族環から構成されているため、優れた耐熱性と寸法安定性を有する。これらの特性を生かし、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、産業用途や耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される用途に好適に使用されている。特に、その耐炎性と防炎性を生かした寝具、衣料、インテリア分野への用途が急速に広がりつつある。これら分野では、審美性や視覚性の観点から着色した繊維が求められるが、それと同時に優れた繊維強度や熱収縮安定性も求められる。すなわち、良好な染色性を有し、かつ繊維強度や熱収縮安定性は非着色と同等の性能を備えた繊維及びそれを不利なく製造する製造法が求められる。しかし、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は優れた物性を有する反面、ポリマー分子鎖が剛直なために通常の方法ではその染色が困難であるという問題がある。
このような問題を解消するため、特開昭50−59522号公報には、特定の顔料をメタ型全芳香族ポリアミド繊維に含有させた着色繊維が提案されている。しかし、繊維の製造工程で顔料を含有させるため、製造時のロスが多くなり、そのため小ロット対応の生産が困難である、要求される各種の色相の繊維を得るのが困難であるなどの問題がある。
また、特開昭55−21406号公報には、キシリレンジアミンを共重合させたポリアミドを混合して染色性を向上させる方法が提案されている。しかし、このように第3成分を共重合させたポリアミドの製造には、重合装置の稼働率が低下するなどの問題がある。
染色性を向上させる別の手段として、特開平8−81827号公報には、アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩を添加してカチオン染料易染性とする方法が提案されている。確かにこの方法によれば、カチオン染料に対しては良好な染色性が得られるものの、該オニウム塩の添加によりコストが高くなるだけでなく、製糸時に該オニウム塩が繊維から脱落しないように製糸時や後加工時の条件設定を厳しくしなければならないという問題がある。
このように、重合時又は紡糸時に添加剤等を加えて染色性を改善する方法では、例え優れた染色性、繊維強度、熱収縮安定性を兼備させることができるとしても、コストアップや工程増加、工程管理などの問題がある。
一方、添加剤等を加えることなく良好な染色性と熱収縮安定性を備える方法として、特公昭50−13846号公報には、アミド溶媒溶液を湿式紡糸した凝固糸を、溶媒及び可溶化塩を含有する水性浴中で熱延伸し、次いで水性浴中で延伸糸中に残存する溶剤及び可溶化塩をすべて抽出洗浄し、さらに実質的に張力をかけていない状態で蒸気処理した後に、実質的に張力をかけていない状態下110〜150℃で乾燥する方法が提案されている。確かにこの方法によれば、良好な染色性及び良好な熱収縮安定性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維が得られるものの、該繊維は径0.1μm程度のミクロボイドが多数形成された多孔性繊維であるために切断強度がやや低いという問題がある。
このように、良好な染色性を有すると共に、良好な繊維強度及び熱収縮安定性を兼ね備えたメタ型全芳香族ポリアミド繊維は未だ提案されていないのが実情である。
特開昭50−59522号公報 特開昭55−21406号公報 特開平8−81827号公報 特公昭50−13846号公報
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、染料に対する染色性に優れ、しかも繊維強度及び熱収縮安定性を兼備した易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を生産性よく安定して製造できる方法を提供することにある。
本発明者らの研究によれば、上記本発明の課題は、
「アミド系溶媒に溶解したメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法において、(1)該重合体溶液を、無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固せしめ、(2)この凝固糸を水性洗浄浴中にて水洗し、(3)次いで温水浴中において3.6〜4.0倍に延伸し、(4)さらに温水浴中にて繊維中の無機塩を取り除き、(5)続いて下記(a)〜(c)を満足する条件にて水蒸気中で弛緩熱処理し、(6)さらに下記(d)〜(f)を満足する条件にて水蒸気中で延伸することを特徴とする易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
(a)水蒸気圧力が196〜392kPa
(b)弛緩率が最大弛緩率の1.0〜1.2倍
(c)弛緩処理時間が1秒〜1分
(d)水蒸気圧力が29.4〜147kPa
(e)前記温水延伸倍率との積(全延伸倍率)が4.2〜4.8倍となる延伸倍率
(f)延伸時間が0.5〜30秒」
により達成できることが見いだされた。
本発明の製造方法によれば、染料に対する染色性が良好であり、かつ優れた繊維強度、熱収縮安定性をも兼ね備えたメタ型全芳香族ポリアミド繊維を生産性よく安定して製造することができる。
本発明において使用されるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるもので、その製造方法は特に限定されず、例えば、メタ型芳香族ジアミンとメタ型芳香族ジカルボン酸クロライドとを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。この際、本発明の目的を阻害しない範囲内でパラ型等の他の共重合成分を共重合してもよい。
上記メタ型芳香族ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミン又はメタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する上記の混合ジアミンが好ましい。
またメタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、及びこれらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライドを例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライド又はイソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%、特に好ましくは95モル%以上含有する上記の混合カルボン酸ハライドが好ましい。
上記ジアミンとカルボン酸ハライド以外で使用し得る共重合成分としては、芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロロベンゼン、2,5−ジアミノブロモベンゼン、アミノアニシジン等のベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等を例示することができる。また、芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’−ジフェニルエーテルカルボン酸クロライド等を例示することができる。これらの共重合成分の共重合量は、あまりに多くなりすぎるとメタ型芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいので、好ましくは全芳香族ポリアミドの全酸成分を基準として15モル%以下、好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下とするのが適当である。
特に好ましく使用されるメタ型芳香族ポリアミドは、全繰返し単位の85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%がメタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドである。
かかるメタ型全芳香族ポリアミドの重合度は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒として30℃で測定した固有粘度(IV)が0.8〜3.0、特に1.0〜2.0の範囲にあるものが好ましい。
このメタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、先ずメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を調整する。ここで使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができ、なかでもNMPが好ましい。溶液濃度としては、次の凝固工程での凝固速度及び重合体の溶解性の観点から適当な濃度を選択すればよく、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は15〜25重量%の範囲が好ましい。
このメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液は、従来公知の湿式紡糸装置を使用し、従来公知の無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固させる。すなわち、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は、安定して湿式紡糸できるものであれば特に制限する必要はなく、例えば孔数が1000〜30000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmであるスフ用の多ホール紡糸口金でも、水性凝固浴中で安定に凝固させることができる。紡糸口金から紡出するメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液の温度は、50〜90℃の範囲が適当である。
無機塩を含む水性凝固浴液も、従来公知の水性凝固浴液を使用することができる。具体的には、塩化カルシウム濃度が34〜42重量%、NMP濃度が5〜10重量%の水溶液が好ましいものとして例示される。かかる水性凝固浴液の温度は80〜95℃の範囲が適当である。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、1〜11秒の範囲が適当である。
凝固浴中で凝固された繊維は、次に水性洗浄浴中にて水洗されるが、該水洗工程は、得られる繊維の品質面及び繊維中のアミド系溶媒含有率を適正な範囲に調整する面から多段で行なうのが好ましい。すなわち、凝固液から引き出された繊維を水性洗浄浴中で水洗する際、該洗浄浴の温度及びアミド系溶媒濃度は、繊維中からのアミド系溶媒の抽出状態及び洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与えるため、それらを最適な状態とするには、多段での温度条件及び多段でのアミド系溶媒濃度として制御することが好ましい。例えば、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入がここで一気に起こり、繊維中に巨大なボイドが生成して糸品質の劣化を招くため、最初の洗浄浴は30℃以下の低温とすることが好ましい。また、後述する温水浴中での延伸において、延伸前の繊維中のアミド系溶媒含有率を制御することが重要であり、それを適正範囲とするための手段として、洗浄浴中のアミド系溶媒濃度を多段に調整することが有効である。このように、該洗浄工程は多段で行なうのが好ましい。なお、該洗浄浴中への繊維の浸漬時間は、用いる洗浄浴の温度、アミド系溶媒濃度に応じて適宜選択すればよいが、通常1洗浄工程の浸漬時間は10秒〜180秒の範囲が適当である。
洗浄された繊維は、次に温水浴中にて延伸処理される。ここで延伸倍率は3.6〜4.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは3.7〜3.9倍である。本発明においては、温水浴での延伸により分子鎖配向を上げておくことが、最終的に得られる易染性繊維の熱収縮安定性及び単糸強度を確保するのにたいへん重要である。この温水浴中での延伸倍率が3.6倍未満である場合には、十分な熱収縮安定性及び単糸強度が達成できない。一方、延伸倍率が4.0倍を越える場合には、単糸切れが発生し、本発明の目的である良好な生産安定性での製造ができなくなる。このように、延伸倍率を3.6〜4.0倍の範囲にすることは、良好な生産安定性にて、最終的に得られる易染性繊維の熱収縮安定性及び単糸強度を十分なレベルにするために必須である。この際の温水浴の温度は、70〜100℃の範囲が好ましく、特に温度が低めであると工程調子が悪くなりやすいので、85〜100℃の範囲がより好ましい。
なお、前記洗浄工程の条件を制御して、温水延伸する前の繊維中のアミド系溶媒含有率を10〜30重量%の範囲に制御することが好ましい。この値が10重量%未満の場合には、単糸切れが発生しやすくなり、一方、30重量%を越える場合には、温水浴中で繊維中に水が一気に浸入しやすくなり、ボイド生成のために繊維強度が低下しやすくなる。
本発明においては、温水延伸された繊維は、さらに温水浴中に浸漬して繊維中に残存している無機塩を取り除く必要がある。該温水浴の温度は、無機塩が取り除ける温度であれば特に制限する必要はないが、70〜100℃の範囲が好ましく、特に効率よく無機塩を取り除くためには85〜100℃の範囲がより好ましい。その際の浸漬時間も特に制限する必要はない。
本発明においては、このように温水浴中で無機塩を除去した繊維を、下記(a)〜(c)を満足する条件にて水蒸気中、好ましくは飽和水蒸気中で弛緩熱処理することが肝要である。
(a)水蒸気圧力が196〜392kPa
(b)弛緩率が最大弛緩率の1.0〜1.2倍
(c)弛緩処理時間が1秒〜1分
この水蒸気中での弛緩熱処理の目的は、結晶化を進行させずに分子鎖を配向緩和させることにあり、飽和水蒸気中が特にその効果が大きい。かくすることにより、易染性を維持しながら熱収縮安定性を付与することができるのである。
まず、弛緩熱処理の水蒸気圧力は196〜392kPaとする必要があり、さらに好ましい範囲は225〜363kPaである。弛緩熱処理の水蒸気圧力が196kPa未満の場合には、分子鎖の十分な配向緩和が起きず、目的とする熱収縮安定性を付与できない。一方、392kPaを越える場合には、熱収縮安定性は付与できるものの、繊維の易染性が大きく低下してしまうので好ましくない。
また、弛緩熱処理の弛緩率は、最大弛緩率の1〜1.2倍の範囲とする必要があり、さらに好ましい範囲は1〜1.15倍である。弛緩率がこの範囲を越える場合には、分子鎖の十分な配向緩和が起こらないため、最終的に得られる繊維に目的とする熱収縮安定性を付与することができない。なお、最大弛緩率が0.84倍以上の場合には、最大弛緩率の1.2倍は弛緩率1.0倍を越えるために弛緩熱処理とはならないが、本発明のような飽和水蒸気中での弛緩熱処理前の工程を経た繊維は、最大弛緩率が0.84倍より十分に小さくなるため、最大弛緩率の1.2倍が1.0を越えることはない。なお、本発明でいう最大弛緩率とは、水蒸気中弛緩熱処理工程を挟む2点のロールにより繊維を把持し、出側ロールの速度を下げていくとき、入側ロールで繊維が弛みはじめる直前の倍率(出側ロール速度/入側ロール速度)をいう。
さらに、水蒸気中での弛緩熱処理時間は、1秒〜1分の範囲とする必要があり、さらに好ましい範囲は3秒〜1分である。この弛緩熱処理時間が1秒未満の場合には、十分な弛緩熱処理がなされないため、分子鎖の十分な配向緩和が起きず、最終的に得られる繊維に目的とする熱収縮安定性を付与することができない。一方、2分を越える場合には、不必要な繊維構造の変化が起きて所望の特性を有する繊維が得られなくなる可能性があるだけでなく、生産速度が遅くなる、水蒸気中延伸の装置が過大になるなど、生産性、設備投資の点からも好ましくない。
本発明においては、このように水蒸気中にて弛緩熱処理した繊維を、さらに下記(d)〜(f)を満足する条件にて水蒸気中、好ましくは飽和水蒸気中で延伸する必要がある。
(d)水蒸気圧力が29.4〜147kPa
(e)前記温水延伸倍率との積(全延伸倍率)が4.2〜4.8倍となる延伸倍率
(f)延伸時間が0.5〜30秒
この水蒸気中での延伸工程も、本発明にとって極めて重要であり、その目的は、繊維構造を結晶化させずに分子鎖をわずかに配向させることにより、易染性、熱収縮安定性を維持しながら強度を付与することにあり、飽和水蒸気中が特にその効果が大きい。
ここで、水蒸気中延伸の水蒸気圧力は29.4〜147kPaとする必要があり、さらに好ましい範囲は39.2〜127kPaである。水蒸気中延伸の水蒸気圧力が29.4kPa未満の場合には、単糸切れが発生しやすくなり、良好な生産性が得られない。一方、147kPaを越える場合には、延伸中に結晶化が進行するためと推定され、繊維の易染性が大きく低下してしまうので好ましくない。
また、この水蒸気中延伸の延伸倍率は、前記温水延伸倍率との積(全延伸倍率)が4.2〜4.8倍、好ましくは4.3〜4.6倍の範囲となるようにする必要がある。この全延伸倍率が4.2倍未満と低い場合には、配向を十分に上げることができないため、目的とする繊維強度が達成できない。一方、全延伸倍率が4.8倍を越える場合には、工程調子が低下して毛羽や断糸が多発するようになり、良好な生産安定性が達成できない。なお本発明においては、強度付与のための延伸を、水蒸気中弛緩熱処理を挟んで、温水中延伸及び水蒸気中延伸の2回に分けて行なうことにより、全延伸倍率は高いものの、それぞれの延伸倍率を工程調子が悪くならない程度の倍率とすることができ、良好な生産安定性を実現できるのである。
さらに、水蒸気中での延伸の延伸時間は、0.5〜30秒の範囲とする必要があり、さらに好ましい範囲は0.8〜20秒である。この延伸時間が0.5秒未満の場合には、水蒸気が繊維中に十分浸透しないため、単糸切れが発生し、良好な生産安定性が得られない。一方、30秒を越える場合には、不必要な繊維構造の変化が起きて所望の特性を有する繊維が得られなくなる可能性があるだけでなく、生産速度が遅くなる、水蒸気中延伸の装置が過大になるなど、生産性、設備投資の点からも好ましくない。
以上に説明した本発明の製造方法によれば、カチオン染料や分散染料等の染料に対する染色性が良好であり、繊維強度及び熱収縮安定性にも優れた易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を良好な生産安定性の下に製造することができる。なお、ここでいう優れた繊維強度とは、切断強度が3.5〜5.0cN/dtexであることをいい、優れた熱収縮安定性とは、300℃乾熱収縮率が10〜30%でかつ135℃湿熱収縮率が0〜12%であることをいう。
ここで300℃乾熱収縮率及び135℃湿熱収縮率の測定は、以下の方法にしたがって測定したものである。
<300℃乾熱収縮率>
約3300dtex(3000デニール)のトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後の印間長Lを測定する。(30−L)/30×100の値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
<135℃湿熱収縮率>
約3300dtex(3000デニール)のトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、50cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウと水を染色用耐圧ポットに入れ、135℃の水中に60分間置いた後の印間長Kを測定する。(50−K)/50×100の値を135℃湿熱収縮率(%)とした。
また、本発明でいう易染性とは、下記の染色方法で染色した際の染着率が90%以上であり、かつ、マスベク(株)製のカラー測色装置「マクベスカラーアイ」で測定した染色トウの明度指数L*値が30以下のことをいう。
<染色方法>
試料繊維をトウの状態で、Kayacryl Blue GSL−ED(B−54)(日本化薬(株)製カチオン染料)6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリア剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤としてディスパーTL(明成化学工業(株)製染色助剤)0.5g/Lの染色液を用い、繊維と染色液の浴比を1:40として120℃下60分間染色処理する。染色後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アラミジンD(第一工業製薬(株)製)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用い、浴比1:20で80℃下20分間還元洗浄し、水洗後乾燥する。
<染着率>
上記の染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出する。この抽出液の670、540、530nm波長の吸光度を測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から、この抽出液の染料濃度(C)を求める(3波長での濃度の平均をとる)。染色前の染料濃度(Co)を用いて、下記式より染着率(U)を算出する。
U=(Co−C)/Co×100
<染色トウのL*値>
マスベク(株)製のカラー測色装置「マクベスカラーアイ モデルCE−3100」を用い、10度視野、D65光源、波長360〜740nmの条件で測定して、明度指数L*を求めた。なお、明度指数L*は、数値が小さいほど濃染化されていることを示す。
さらに、本発明でいう良好な生産安定性とは、得られた繊維15000m当りの単糸切れ個数が40個/15000m以下の場合のことである。ここで単糸切れ個数は、以下の方法にしたがって測定したものである。
<繊維中の単糸切れ個数>
任意長の3000ホールのトウを50本束ね、1箇所を紐でくくる。この紐から20cm離れた箇所を切断する。紐でくくってある側のトウ束を、切断片から紐まで水浴に浸し、紐の部分を持ち10cm振幅にて4往復/秒の速さで32往復振る。その後、トウ束を水浴から取り出し、水浴に脱離した繊維片の数を数える。これを5回繰り返し、水浴に脱離した繊維片の総本数Nを数える。N/(3000×50×0.2)×15000の値を、繊維15000m当りの単糸切れ個数とした。
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各物性値は、前述した測定法以外は下記の方法で測定した。
<固有粘度IV>
ポリマーをNMPに0.5g/100mLの濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用い、30℃で測定した。
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
<強度、伸度>
JIS−L−1015に準じ、試料長20mm、初荷重0.044cN(1/20g)/dtex、伸張速度20mm/分で測定した。
[実施例1]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した固有粘度が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末21.5重量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)78.5重量部中に懸濁させ、スラリー状にした後、60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
このポリマー溶液を85℃に加温して紡糸原液とし、孔径0.07mm、孔数3000の紡糸口金から85℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが40重量%、NMPが5重量%、残りの水が55重量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)100cmにて糸速9.5m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
この凝固糸条を第1〜第3水性洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は36秒とした。なお、第1水性洗浄浴組成(重量%)はNMP/水=30/70、温度は25℃とし、第2水性洗浄浴組成(重量%)はNMP/水=25/75、温度は30℃とし、第3水性洗浄浴組成(重量%)はNMP/水=20/80、温度は30℃とした。次に、この洗浄糸条を95℃の温水中にて3.7倍に延伸し、引続き95℃の温水中に24秒浸漬した。
続いてこの糸条を、飽和水蒸気圧力294kPa下に3.7秒間曝して最大弛緩率である0.60倍にて弛緩熱処理した。さらに、飽和水蒸気圧力98kPa下に1.7秒間曝して1.20倍に延伸した。前記温水延伸と水蒸気中延伸の積である全延伸倍率は4.44倍である。これにより、繊度1.90dtex、強度3.72cN/dtex、伸度56.1%、300℃乾熱収縮率25.5%、135℃湿熱収縮率10.2%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は91.2%、L*値は28.7であり、良好な染色性を示した。なお、繊維中単糸切れ個数は15000m当り27個であり、良好な生産安定性を示唆するものであった。
[実施例2]
温水中延伸倍率を3.9倍、水蒸気中弛緩熱処理時間を3.6秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.68倍である。なお、このときの水蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩率は0.63倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.84dtex、強度3.92cN/dtex、伸度53.3%、300℃乾熱収縮率23.6%、135℃湿熱収縮率9.8%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は90.4%、L*値は29.6であり、良好な染色性を示した。なお、繊維中単糸切れ個数は15000m当り38個であり、良好な生産安定性を示唆するものであった。
[実施例3]
水蒸気中弛緩熱処理時弛緩倍率を最大弛緩率の1.15倍である0.69倍とし、水蒸気中弛緩熱処理時間を3.5秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.44倍である。
これにより、繊度1.94dtex、強度3.76cN/dtex、伸度48.6%、300℃乾熱収縮率27.6%、135℃湿熱収縮率10.7%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は90.6%、L*値は29.3であり、良好な染色性を示した。なお、繊維中単糸切れ個数は15000m当り28個であり、良好な生産安定性を示唆するものであった。
[実施例4]
水蒸気中弛緩熱処理蒸気圧力を363kPa、時間を3.6秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.44倍である。なお、このときの水蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩率は0.63倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.83dtex、強度3.81cN/dtex、伸度57.9%、300℃乾熱収縮率24.6%、135℃湿熱収縮率10.4%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は90.3%、L*値は29.8であり、良好な染色性を示した。なお、繊維中単糸切れ個数は15000m当り38個であり、良好な生産安定性を示唆するものであった。
[実施例5]
水蒸気中延伸蒸気圧力を127kPaとした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.44倍である。なお、このときの蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩率は0.60倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.76dtex、強度3.77cN/dtex、伸度59.2%、300℃乾熱収縮率24.9%、135℃湿熱収縮率11.1%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は90.9%、L*値は29.2であり、良好な染色性を示した。なお、繊維中単糸切れ個数は15000m当り35個であり、良好な生産安定性を示唆するものであった。
[比較例1]
温水中延伸倍率を3.4倍、水蒸気中弛緩熱処理時間を3.7秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.08倍である。なお、このときの水蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩倍率は0.59倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.98dtex、強度3.32cN/dtex、伸度62.7%、300℃乾熱収縮率28.8%、135℃湿熱収縮率14.1%のトウを得たが、強度及び135℃湿熱収縮率に劣るものであった。
[比較例2]
温水中延伸倍率を4.2倍、水蒸気中弛緩熱処理時間を3.6秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は5.04倍である。なお、このときの水蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩率は0.67倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.74dtex、強度3.96cN/dtex、伸度47.7%、300℃乾熱収縮率21.2%、135℃湿熱収縮率8.6%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は88.6%、L*値は30.4であり、やや染色性が劣るものであった。また、繊維中単糸切れ個数は15000m当り93個であり、生産安定性に劣ることを示唆するものであった。
[比較例3]
水蒸気中弛緩熱処理倍率を最大弛緩率の1.33倍である0.80倍、水蒸気中弛緩熱処理時間を3.3秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.44倍である。
これにより、繊度1.90dtex、強度3.81cN/dtex、伸度49.4%、300℃乾熱収縮率32.6%、135℃湿熱収縮率16.2%のトウを得たが、300℃乾熱収縮率及び135℃湿熱収縮率に劣るものであった。
[比較例4]
水蒸気中弛緩熱処理蒸気圧力を441kPa、時間を3.5秒とした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.44倍である。なお、このときの水蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩率は0.68倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.89dtex、強度3.76cN/dtex、伸度58.3%、300℃乾熱収縮率23.2%、135℃湿熱収縮率9.6%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は82.0%、L*値は33.1であり、染色性に劣るものであった。
[比較例5]
水蒸気延伸の蒸気圧力を294kPaとした以外は、実施例1と同様に行なった。温水延伸と水蒸気中延伸の全延伸倍率は4.44倍である。なお、このときの水蒸気中弛緩熱処理時の最大弛緩率は0.60倍であり、この倍率にて弛緩熱処理を行なった。
これにより、繊度1.88dtex、強度3.83cN/dtex、伸度53.1%、300℃乾熱収縮率19.6%、135℃湿熱収縮率8.4%のトウを得た。
得られたトウを染色したところ、染着率は83.0%、L*値は32.9であり、染色性に劣るものであった。
以上の結果をまとめて表1に示す。
Figure 2005042262
以上に説明した本発明の易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法によれば、染料に対する染色性が良好であり、かつ優れた繊維強度、熱収縮安定性をも兼ね備えた繊維が、良好な生産安定性の下に製造することができる。

Claims (1)

  1. アミド系溶媒に溶解したメタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法において、(1)該重合体溶液を、無機塩を含む水性凝固浴中に紡出して凝固せしめ、(2)この凝固糸を水性洗浄浴中にて水洗し、(3)次いで温水浴中において3.6〜4.0倍に延伸し、(4)さらに温水浴中にて繊維中の無機塩を取り除き、(5)続いて下記(a)〜(c)を満足する条件にて水蒸気中で弛緩熱処理し、(6)さらに下記(d)〜(f)を満足する条件にて水蒸気中で延伸することを特徴とする易染性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
    (a)水蒸気圧力が196〜392kPa
    (b)弛緩率が最大弛緩率の1.0〜1.2倍
    (c)弛緩処理時間が1秒〜1分
    (d)水蒸気圧力が29.4〜147kPa
    (e)前記温水延伸倍率との積が4.2〜4.8倍となる延伸倍率
    (f)延伸時間が0.5〜30秒
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