添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および添付の請求の範囲において、特段の説明がなければ軸はステータおよびロータの中心軸を意味し、通常にはカップリング装置が連結するシャフトの回転軸とも一致する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに特に注意を要する。
図1Aを参照するに、4輪駆動車1は、概して、エンジン/モータ3と、トランスミッション5とを備える。エンジン/モータ3が生み出したトルクはトランスミッション5を介して前輪13R,13Lへ分配される。トルクの一部はパワートランスファユニット7を介してプロペラシャフト11へ引き出され、ファイナルドライブ9を介して後輪15R,15Lへ分配される。以下に説明するカップリング装置またはこれに均等なクラッチ装置は、かかるドライブラインの何れかに介在して回転を制御する。
例えば図1Bに示す例によれば、カップリング装置10はプロペラシャフト11とファイナルドライブ9との間に介在する。カップリング装置10はクラッチ17を備え、クラッチ17が連結したときにはトルクがプロペラシャフト11からファイナルドライブ9へ伝えられて4輪駆動車1は4輪駆動モードで走行し、脱連結したときには2輪駆動モードで走行する。クラッチ17にはアクチュエータ19が結合しており、その連結/脱連結を制御する。
あるいは、図示を省略するが、カップリング装置は例えばエンジン/モータ3とトランスミッション5との間に介在してもよい。エンジン/モータ3の出力を断続することに利用することができる。またあるいは、ギアチェンジに伴う同期を行わせる目的で、トランスミッション5が以下に説明するクラッチ装置を内蔵してもよい。さらにあるいは、ロックアップやフリーランニング動作を行わせる目的で、デファレンシャル装置がクラッチ装置を内蔵してもよい。なおあるいは、アクスルディスコネクト、車軸、メイン駆動側とサブ駆動側との間、パワーテイクオフ等にカップリング装置ないしクラッチ装置を利用することができる。言うまでもなく、これらの二つ以上に利用することもできる。
また以下において、一のシャフトと他のシャフトとの間にカップリング装置10が介在する例を説明するが、他のシャフトは固定部材であってもよい。かかる例によれば、一のシャフトの回転を制限ないし停止する目的に装置を使用することができ、例えばシフトパーキングやリバース機構に利用することができる。
説明の便宜のために、以下の実施形態は主に図1Bに示す例に基づいて説明するが、言うまでもなく説明に基づき上述の何れの例も実現することができる。
図2を参照するに、アクチュエータ19には、アキシャルギャップモータ21を利用することができる。アキシャルギャップモータ21は、カップリング装置10の軸Xと同軸に配置することができ、軸X周りにトルクを生ずることができる略円形のモータである。
そのステータ23は回り止めされた静止部材であり、軸X周りに並べられた複数のコア23Bと、コア23Bをそれぞれ囲む複数の電磁コイル25とよりなる。それぞれのコイル25とコア23Bとの組み合わせは、軸Xに平行な磁束を生ずるように構成されている。
ロータ27は、磁性材料よりなり、軸X周りに対称的な略円形体であり、回り止めされずに軸X周りに回転運動Rをすることができる。ステータ23が生じた磁束を受けることができるよう、ロータ27は軸Xの方向にステータ23から僅かに離れ、かつ対向するように配置される。ロータ27は、また、ステータ23に向かって軸Xの方向に突出した複数の突起27Pを備えることができる。
図2に組み合わせて図3Aを参照するに、ロータ27とステータ23とは、特にコア23Bと突起27Pとは、軸Xの方向にごく接近しており、以ってステータ23は磁束を漏らさずに受容できる。コア23Bと突起27Pとは、互いに対向する面においてそれぞれ平面であってもよいが、磁束が通過する面積を増大するべく、それぞれ3次元構造を備えてもよい。かかる構造の一例は、図3Bのごとく、それぞれ周方向に延びた複数のリブ23R,27Rであって互いに入り組んだものであるが、もちろんこれに限られない。かかる構造はトルクの増大に寄与し、あるいは電力の利用効率を改善するのに寄与する。
アキシャルギャップモータ21の駆動には、通常、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のごときスイッチング素子を用いた駆動回路を利用する。すなわち、スイッチング素子を利用して位相差を有する交流ないしパルス電流を生成し、これを複数の電磁コイル25に入力することにより、ロータ27にトルクを生ずる。
発生するトルクは、ラジアルギャップモータでは磁束が通過する面の半径の2乗および軸方向長さに比例するが、アキシャルギャップモータでは半径の3乗に比例する。カップリング装置10に同軸な配置においては、軸方向長さよりも半径方向に比較的に余裕があるので、アキシャルギャップモータ21を利用することは出力の向上に有利であり、あるいは同じ出力では小型化に有利である。
図4乃至9を参照するに、図1Bに示す例によれば、カップリング装置10は、軸Xの周りに回転可能なプロペラシャフト11と、同じく軸Xの周りに回転可能であってファイナルドライブ9に連絡するシャフトとの間に介在する。ファイナルドライブ9に連絡するシャフトはこれらの図中に描かれていないが、それぞれの図の左手のスプライン73に結合する。
アクチュエータ19およびクラッチ17の全体はケーシングに収容される。ケーシングは、必須ではないが2以上の部分31,33に分割することができ、内部の部品を組み込んだ後にボルト等により互いに結合される。プロペラシャフト11と他方のシャフトとは、いずれも、部分31,33を互いに結合した後に図中左方から挿入してカップリング装置10と結合することができる。
各図の右手に示される通り、ステータ23はケーシングの部分31に固定される。ロータ27はベアリング35を介して同じ部分31に支持されるが、ステータ23に対するギャップを適当に維持できる限りにおいて、部分31でなく他の部分33がこれを支持してもよい。また詳しくは後述するが、ロータ27には軸方向には顕著な力がかかるわけではないので、ベアリング35にはボールベアリングのごときラジアルベアリングを利用することができ、あるいは滑り軸受けを利用してもよい。
ロータ27を支持するに、唯一つのベアリング35によることができる。ベアリング35は、図4乃至6および8,9に示すごとく、ロータ27の内周に介在してもよいが、図7に示すごとく、ロータ27の外周に介在してもよい。いずれにせよ、ベアリング35は径方向にはロータ27とケーシングの部分31との間に配置することができる。また特に図4,7,8に典型的なように、軸方向にはこれらが互いにオーバーラップした位置にすることができる。かかる配置はカップリング装置10の軸方向の寸法を小さくすることに寄与し、またロータ27が径方向に偏心することを防止するのに役立つ。
またベアリング35は、図4乃至9に示すごとく、ステータ23とも軸方向に少なくとも部分的にオーバーラップしていてもよい。これらの図から理解される通り、ステータ23より径方向に外側または内側には空間的に余裕があり、かかる空間を利用してベアリング35を配置することは、カップリング装置10の径方向の寸法を小さくすることに寄与する。またこれらの位置はステータ23に近接していることから高い精度を確保することができ、結果的にステータ23に対するロータ27の位置の精度を高めることができる。これは動作の安定化に寄与する。
アクチュエータ19は、さらに、トルクを軸Xに沿う方向のスラスト力に変換する変換機構41を備える。変換機構41は、アキシャルギャップモータ21が生じるトルクをスラスト力に変換してこれをクラッチ17に印加する。変換機構41は、スラスト力を行使するに例えばスラスト部材43を備え、スラスト部材43がクラッチ17の一端に当接することによりスラスト力をクラッチ17に及ぼし、以ってこれを連結する。
変換機構41は、トルクを増倍するべく減速機構を含むことができ、例えば図4,5,7に示すごとく、減速機構はプラネタリギヤ機構であってもよい。かかる例によれば、ロータ27は例えばキャリア45に結合しており、プラネタリギヤ47がキャリア45に回転可能に支持されている。プラネタリギヤ機構は、また、それぞれ歯数の異なるギヤ歯を備えた静止部材51と被動部材55とを備える。プラネタリギヤ47は静止部材51および被動部材55とギヤ結合し、歯数差に応じて減速された回転が被動部材55に生じる。
変換機構41は、また、回転運動を直線運動に変換するカム機構を備える。本実施形態においてカム機構は、静止部材51と被動部材55との間に介在したカムボール53と、部材51,55の一方または両方が備える傾斜したカム面である。ロータ27が軸X周りに回転すると、カムボール53が部材51,55のカム面上を転動して被動部材55を押圧し、以ってトルクをスラスト力に変換する。
静止部材51は、スラスト力の反力を負担するべく、ケーシングの部分31または部分33に着座し、またこれに回り止めされる。これまでの説明より理解される通り、変換機構41はロータ27に対して周方向にのみ力学的に連結しており、軸方向の反力はケーシングが負担するので、ギヤ47やロータ27等の部材に反力が伝わることがない。
図4の例では部材51,55のギヤ歯は外歯であり、プラネタリギヤ47はこれらの外側に噛合する。図5の例では内歯であってプラネタリギヤ47は内側に噛合する。いずれの場合においてもキャリア45,プラネタリギヤ47,および被動部材55は、ギヤ結合によって間接的に静止部材51に支持されるので、これらを支持するためにボールベアリングやローラベアリングを必要としない。もちろん各部材の安定等のために、ベアリングが介在してもよい。
スラスト部材43は、図4に示すごとく、被動部材55に結合することができ、以ってスラスト力をクラッチ17に行使する。あるいは図5に示すごとく、被動部材55はスラスト部材43と一体であってもよい。
スラスト部材43とクラッチ17との間には、スラストベアリング39と、プレッシャプレート59とが介在してもよい。スラストベアリング39は、変換機構41に対するプレッシャプレート59およびクラッチ17の相対回転を許容する。プレッシャプレート59は、相対回転なしにクラッチ17を押圧する。
またスラスト力が印加されていないときにプレッシャプレート59を押し戻す向きに、スプリング60が介在してもよい。スプリング60には、板ばね、あるいはウェイブばねを利用することができる。例えばプレッシャプレート59は径方向に内方または外方に延長され、また適宜に軸方向に曲げられてインナドラム71またはアウタドラム75に対向しており、かかる縁とインナドラム71またはアウタドラム75との間にスプリング60が介在し、以って付勢力がプレッシャプレート59に及ぶ。プレッシャプレート59とは別体の、同様にZ型に曲げられたZワッシャを利用し、かかるワッシャにスプリング60が当接してもよい。またあるいはスプリング60はスラスト部材43に直接に当接してもよい。スプリング60が介在すれば、脱連結の際にはクラッチ17が連結から脱連結へ迅速に切り替わり、またスラスト力が作用しないときに脱連結を維持するので、外部からの制御に対するクラッチ17のレスポンスを向上する。
減速機構としては、上述のプラネタリギヤ機構に限らず、図6に示すごときサイクロイドギヤ機構を利用することができる。かかる例によれば、歯車部材61は、軸Xに対して僅かに偏心した偏心軸EX周りに回転するように、ロータ27に支持される。円滑な回転を可能にするべく、その間にはボールベアリング等のベアリング67が介在してもよい。歯車部材61はその外周にギア歯63を備え、静止部材51は、ギア歯63に噛合するべく内歯歯車65を備える。カム機構は部材61に係合しており、ロータ27が軸X周りに回転すると、減速された回転が被動部材55に生じ、カムボール53が部材51,55の間で転動してトルクをスラスト力に変換する。
かかる例においても図4,5の例と同じく、反力はケーシングに着座した静止部材51が負担するので、反力が歯車部材61やロータ27に伝わることはない。またかかる例においても、被動部材55自体がスラスト部材43を兼ねてもよく、あるいは別体のスラスト部材が介在していてもよい。言うまでもなく、スラスト部材とクラッチ17との間にはスラストベアリング39が介在してもよい。
図4乃至7に示した例においては、回転運動から直線運動への変換はカム機構によったが、もちろん他の機構によることもできる。図8はボールねじ57による例である。かかる例において、静止部材51および被動部材55には、ボールを介して互いに螺合する螺子が切られており、部材51,55の組み合わせはボールねじ57を構成する。被動部材55にはスラスト部材43が結合し、あるいはこれと一体である。
ロータ27が軸X周りに回転し、プラネタリギヤ機構により被動部材55が静止部材51に対し回転させられると、ボールねじ57の作用により被動部材55が軸方向に前進し、スラスト部材43を介してクラッチ17を連結する。もちろんプラネタリギヤ機構に代えて、サイクロイドギヤ機構あるいは他の減速機構を利用することができる。
また図4乃至8に示した例においては、減速機構を利用してモータ21の出力が増倍されるが、あるいは減速機構はなくてもよい。図9に示す例においては、変換機構41は単純に回転運動を直線運動へ変換するカム機構であって、ロータ27のトルクが直接にスラスト部材43のスラスト力に変換される。あるいはカム機構によらず、ボールねじや他のリンク機構を利用してもよい。スラスト力の強さの点では不利だが、図示されたドッグクラッチ79のごとく、連結した後にはその維持に大きなスラスト力を必要としない噛み合いクラッチと組み合わせるには、かかる単純な構造は好適である。
クラッチ17には、何れの形式のクラッチを利用することもできる。アキシャルギャップモータ21が生ずる比較的に大きなトルクと、プラネタリギヤ機構等の減速機構との組み合わせによれば、大きなスラスト力が得られる。これを利用するに、摩擦クラッチ、特に図4乃至8に示すごとき多板クラッチと組み合わせるのが好適だろう。
例えば多板クラッチの一方のディスク群と結合したインナドラム71は、その内周にスプライン等の結合手段を備え、プロペラシャフト11と結合することができる。他方のディスク群と結合したアウタドラム75は、スプライン73等の結合手段を備え、ファイナルドライブ9に連絡するシャフトと結合することができる。
あるいは摩擦クラッチに代えて、噛み合いクラッチ、特に図9に示すごときドッグクラッチ79を利用することができる。この場合にクラッチの脱連結を促すべく、例えばクラッチ歯間にリターンスプリング83が介在していてもよい。またクラッチ歯の連結を維持、あるいは脱連結を維持する向きに、ラチェット機構を利用してもよい。
何れの例においても、インナドラム71とアウタドラム75との間には、ベアリング77が介在していてもよい。かかるベアリングにはスラスト力は作用しないので、ボールベアリングのごときラジアルベアリングを利用することができ、あるいは滑り軸受けを利用してもよい。またアウタドラム77とプロペラシャフト11との間、またはアウタドラム77とケーシングとの間にもベアリング81が介在してもよい。かかるベアリングにもスラスト力は作用しないので、ニードルベアリングのごときラジアルベアリングを利用することができ、あるいは滑り軸受けを利用してもよい。これらのベアリングにより、プロペラシャフト11、クラッチ17、およびケーシングが互いに軸合わせされる。
変換機構41によるスラスト力を受けるべく、クラッチ17の背面、例えばアウタドラム75の端面、とケーシングの部分33との間には、スラストベアリング37が介在してもよい。これはケーシングにスラスト力を負担させるのに役立つと共に、クラッチ17の円滑な回転を助ける。
図4乃至6および8,9より理解される通り、アキシャルギャップモータを利用することにより、ロータ27の外周にはなお利用できる空間が残されている。あるいは図7に示す通り、ロータ27の内周に空間を残すことができる。かかる空間を利用して、例えばロータ27の回転数を読み取るエンコーダ29を設置することができる。もちろん他の種々のセンサ等を設置してもよい。
これまでの説明より理解される通り、カップリング装置は径方向には寸法的な余裕があるので、アキシャルギャップモータを利用することにより比較的に大きな出力を得ることができる。これにさらに減速機構を含む変換機構を組み合わせることにより、クラッチの連結に関わるレスポンスの改善と装置全体の小型化とを両立している。
またクラッチの軸合わせのために幾つかのベアリングが必要であるとしても、モータのために必要なベアリングは少なく、あるいは省くことができ、これによってもカップリング装置の小型化および構造的簡略化を追求することができる。
さらには変換機構が生ずるスラスト力は、専らクラッチと変換機構とが負担し、クラッチの背面と静止部材とをケーシングが支持することによりスラスト力のループが完結し、他の構成要素にスラスト力は及ばない。これは他の構成要素の支持や補強の必要性を減じ、このことによっても装置の小型化および構造的簡略化が達成されている。
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。