JP7453662B2 - ジペプチジルペプチダーゼiv阻害活性が高い豆類発酵物およびその製造方法 - Google Patents

ジペプチジルペプチダーゼiv阻害活性が高い豆類発酵物およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)阻害活性が高い豆類発酵物、その製造方法、それを含む食品および医薬組成物等に関する。
平成26年の厚生労働省の調査によると、糖尿病の総患者数は316万6千人(前回調査よりも46万人以上増加)、年間死亡数は約1万3千人となっている。糖尿病が疑われる成人の推計が約1千万人、発症に至らない糖尿病予備群が約1千万人となっている。日本人の糖尿病の多くは2型糖尿病で、人口の高齢化によって今後さらに患者数が増えることが予測される。2型糖尿病の治療薬には様々なタイプが存在するが、その一つとして、DPP-4阻害薬がある。DPP-4は膜結合型プロテアーゼの一つで、腎臓、肝臓、腸、リンパ球および血管内皮細胞など多くの組織において広く発現している。DPP-4は、インスリン分泌を促進するホルモンであるインクレチンを分解し、そのためインスリンの分泌が抑えられた状態となる。DPP-4の活性を阻害することで、インクレチンが膵臓に直接作用し易くなり、インスリン分泌が亢進し、高血糖が改善される。したがって、DPP-4活性を阻害することは、2型糖尿病治療のための重要なアプローチである。DPP-4阻害薬としてシタグリプチン(STP)、ビルダグリプチン、サキサグリプチンが臨床的に使用されているほか、DPP-4阻害薬の開発は世界中で積極的に行われている。
糖尿病治療薬の副作用として最も注意すべきは、血糖値を下げすぎることで急激な低血糖状態に陥る点であり、発作による意識障害を起こし、特に高齢者の場合は生命の危機に瀕する。現在、糖尿病治療薬よりも力価は低いものの血糖値低下作用が期待でき、かつ副作用の懸念がないものとして、タンパク質由来のペプチドがDPP-4阻害剤として研究されている。これらの研究では、タンパク質を各種消化酵素で処理した画分の中から単離したものを対象として活性の評価を行う、もしくは既報のペプチド配列をもとに有効と予想される配列を設計し、その配列を化学合成し、評価するというアプローチが主流となっている。しかし、酵素消化法では特定のペプチド配列のみを選択的に確保するのは難しく、化学合成法は製造コストが安いが副生成物の混入があるため、食品や医薬品に利用した場合に安全性に問題が生じる。
きのこの血糖値低下作用に関連して、これまで、アガリクス、ヤマブシタケ、ブナシメジの熱水抽出物中にインスリン分泌促進活性が見出されている。また、カバノアナタケの水抽出物を用いる抗糖尿病食品が知られている(特許文献1)。しかし、きのこによる豆類発酵物がDPP-4阻害活性、血糖低下活性、あるいは糖尿病治療および/または予防活性を有することは、これまで報告されていない。
特開2008-074796号公報
我が国の糖尿病患者数は今後さらに増加すると予想されている。高血糖の状態を放置すると網膜症、腎症、神経障害など重篤な合併症を引き起こすほか、特に高齢者糖尿病患者は認知症を起こしやすく、少子高齢化社会において血糖値コントロールはより重要となってくる。また、いわゆる糖尿病予備群の数を減少させる必要もある。かかる状況下において、糖尿病の治療および予防効果が高く、しかも安全性が高く日常的に摂取可能な抗糖尿病食品および医薬が必要とされている。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、きのこを用いて得られた豆類発酵物が、極めて高いDPP-4阻害活性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、以下のものを提供する。
(1)ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる、きのこによる豆類発酵物。
(2)きのこがエノキタケ属のきのこ、カワタケ属のきのこ、またはマイタケである(1)記載の発酵物。
(3)大豆の発酵物である(1)または(2)記載の発酵物。
(4)大豆豆乳の発酵物である(1)または(2)記載の発酵物。
(5)きのこを用いて豆類を発酵させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる発酵物の製造方法。
(6)きのこがエノキタケ属のきのこ、カワタケ属のきのこ、またはマイタケである(5)記載の方法。
(7)大豆を発酵させる(5)または(6)記載の方法。
(8)大豆豆乳を発酵させる(5)または(6)記載の方法。
(9)(1)~(4)のいずれか記載の発酵物を含む、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる食品組成物。
(10)(1)~(4)のいずれか記載の発酵物を含む、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる医薬組成物。
(11)(1)~(4)のいずれか記載の発酵物を食品または食品素材、あるいは担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる食品組成物の製造方法。
(12)(1)~(4)のいずれか記載の発酵物を医薬上許容される担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる医薬組成物の製造方法。
本発明によれば、DPP-4阻害活性、血糖値低下活性、および/または2型糖尿病治療および/または予防活性が非常に高い豆類発酵物、それを含む食品組成物および医薬組成物を得ることができる。しかも、食用きのこや毒のないきのこを本発明の豆類発酵物の製造に用いた場合、本発明の豆類発酵物、それを含む食品組成物および医薬組成物は安全性が高いものとなる。本発明の豆類発酵物、それを含む食品組成物および医薬組成物は日常的に摂取可能である。本発明の豆類発酵物、それを含む食品組成物および医薬組成物は、高齢化の加速によって今後いっそう患者数が増えると予測される2型糖尿病の予防、改善および/または治療に貢献するものである。
図1は、エノキタケ属のきのこTUFC100533株を用いて発酵させた大豆豆乳のDPP-4阻害率の培養日数に伴う変化を示すグラフである。左端のバーは指標阻害剤P32/98(1μM)の結果である。 図2は、カワタケ属のきのこおよびエノキタケ属のきのこを用いて発酵させた大豆豆乳のDPP-4阻害効果を調べたグラフである。発酵豆乳を25倍希釈してDPP-4阻害率を調べた。指標阻害剤はP32/98(1μM)である。 図3は、5種類のマイタケを用いて発酵させた大豆豆乳のDPP-4阻害効果を調べたグラフである。発酵豆乳を25倍希釈してDPP-4阻害率を調べた。各日数において、バーは右端からNBRC32987株、NBRC30661株、NBRC30522株、NBRC7040株、およびNBRC4911株の結果を示す。指標阻害剤はP32/98(1μM)である。指標阻害剤の結果を35日目の左端のバーで示す。 図4は、カワタケ属のきのこ、マイタケ、およびエノキタケ属のきのこを用いて発酵させた黒豆、枝豆、および大豆の水抽出物のDPP-4阻害効果を調べたグラフである。発酵液を25倍希釈してDPP-4阻害率を調べた。各日数において、バーは右端からエノキタケNBRC30876株、エノキタケTUFC100533株、マイタケNBRC30661株、マイタケNBRC7040株、およびカワタケYM5314株の結果を示す。指標阻害剤はP32/98(1μM)である。指標阻害剤の結果を10日目の左端のバーで示す。 図5は、きのこによる豆類発酵物中に生成されるジペプチド類のDPP-4阻害率を測定した結果を示す。各ペプチド濃度は100μg/mlである。指標阻害剤はP32/98(1μM)である。
本発明のきのこによる豆類発酵物はDPP-4阻害活性が高い。上で説明したように、DPP-4の活性を阻害することで、インクレチンが膵臓に直接作用し易くなり、インスリン分泌が亢進し、高血糖が改善される。すなわちDPP-4活性を阻害することは、2型糖尿病治療のための重要なアプローチである。したがって、本発明のきのこによる豆類発酵物を、対象におけるDPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いることができる。ここに、対象とは、DPP-4の阻害、血糖値の低下、ならびに/あるいは2型糖尿病の治療および/または予防を必要とする、あるいは望む動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトをいう。
本発明は、1の態様において、対象におけるDPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる、きのこによる豆類発酵物を提供する。
本発明は、もう1つの態様において、きのこを用いて豆類を発酵させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる発酵物の製造方法を提供する。
きのこによる豆類発酵物とは、きのこの作用で発酵した豆類をいう。
きのことは、菌類のうち肉眼で観察できる程度の大きさの子実体を形成するものをいい、その多くは担子菌門または子のう菌門に属する生物である。本発明の発酵物の製造に用いられるきのこは、食用とされているきのこ、あるいは毒性が認められないきのこであれば特に限定されない。そのようなきのこの例としては、ヒラタケ(Pleurotus osteatus)、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)、ウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)、トキイロヒラタケ(Pleurotus djamor)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、バイリング(ハクレイタケ)(Pleurotus nebrodensis)、オオヒラタケ(Pleurotus cystidiosus)、クロアワビタケ(Pleurotus abalonus)、マツオウジ(Neolentinus lepideus)、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)、シイタケ(Lentinula edodes)、ハタケシメジ(Lyophyllum decastes)、ブナシメジ(Hypsizygus marmoreus)、ムラサキシメジ(Lepista nuda)、コムラサキシメジ(Lepista sordida)、ニオウシメジ(Trichoroma giantea)、ナラタケ属のきのこ(Armillaria spp.)、ムキタケ(Panellus serotinus)、ヌメリツバタケ(Oudemansiella mucida)、ヤコウタケ (Mycena chlorophos)、エノキタケ属のきのこ(Flammulina sp.)、カワタケ属のきのこ(Peniophora sp.)、オオイチョウタケ(Leucopaxillus giganteus)、フクロタケ(Volvariella volvacea)、ツクリタケ(マッシュルーム)(Agaricus bisporus)、カワリハラタケ(別名ヒメマツタケ、アガリクス)(Agaricus brazei)、ササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)、サケツバタケ(Stropharia rugosoannulata)、キサケツバタケ(Stropharia rugosoannulata Farlow in Murrill f. lutea Hongo)、クリタケ(Naematoloma sublateritium)、ナメコ(Pholiota nameko)、ヌメリスギタケ(Pholiota adiposa)、ヌメリスギタケモドキ(Pholiota aurivella)、チャナメツムタケ(Pholiota lubrica)、シロナメツムタケ(Pholiota lenta)、ハナビラタケ(Sparassis crispa)、カンゾウタケ(Fistulina hepatica)、サンゴハリタケ(Hericium ramosum)、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、エゾハリタケ(Climacodon septentrionalis)、ブナハリタケ(Mycoleptodonoides aitchisonii)、タマチョレイタケ(Polyporus tuberaster)、アミスギタケ(Favolus arcularius)、チョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)、トンビマイタケ(Meripilus giganteus)、マイタケ(Grifola frondosa)、マスタケ(Laetiporus sulphureus)、ヒイロタケ(Picnoporus coccineus)、ブクリョウ(Wolfiporia cocos)、マンネンタケ(Ganoderma lucidum)、マゴジャクシ(Ganoderma neojaponicum)、コフキサルノコシカケ(Elfvungia applanata)、カバノアナタケ(Inonotus oblizua)、メシマコブ(Phellius linteus)、シロキクラゲ(Tremella fuciformis)、ハナビラニカワタケ(Tremella foliacea)、アラゲキクラゲ(Auricularia polytricha)、キクラゲ(Auricularia auricula)、キヌガサタケ(Dictyophora indusiata)などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明において好ましく用いられるきのこは、発酵物中にDPP-4阻害活性、血糖値低下活性、および/または2型糖尿病治療および/または予防活性を生じさせることができるきのこである。このようなきのこの例としては、エノキタケ属のきのこ(Flammulina sp.、例えばFlammulina velutipes)、カワタケ属のきのこ(Peniophora sp.)、およびマイタケ(Grifola frondosa)が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に用いることができるきのこは、森林、山野、野原などから採取することができる。本発明に用いることができるきのこは、鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝子資源研究センター(FMRC)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、American Type Culture Collection(ATCC)などの機関から分譲してもらうこともできる。
豆類とは、マメ科植物の種子をいう。マメ科植物はいずれの種類のものであってもよい。本発明の発酵物の製造に用いられる好ましい豆類は、食用とされている豆類、あるいは毒性が認められない豆類であれば特に限定されない。また、水に浸漬する、あるいは蒸る、蒸す、炒める等の処理を施すことによって毒性が軽減、消失する豆類も好ましい。好ましい豆類の例としては、ダイズ属(Glycine)、ソラマメ属(Vicia)、ササゲ属(Vigna)、キマメ属(Cajanus)、エンドウ属(Pisum)、インゲンマメ属(Phaseoleae)、ヒヨコマメ属(Cicer)、ラッカセイ属(Arachis)、ヒラマメ属(Lens)、ルピナス属(Lupinus)などの種子が挙げられるが、これらに限定されない。かかる好ましい豆類の具体例としては、大豆、青大豆、黒大豆、ソラマメ、小豆、大納言、緑豆、ササゲ、キマメ、エンドウ豆、インゲン豆、キドニービーン、赤インゲン、白インゲン、ブラックビーン、うずら豆、とら豆、ライマメ、ヒヨコマメ、ラッカセイ、レンズ豆、ヒラ豆、ルピナス豆などが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい豆類としては大豆、青大豆、黒大豆などが挙げられる。
本明細書において、豆類は、豆類の植物の種子のみならず、該種子の加工品、例えば豆乳、おからなども包含する。本発明における好ましい加工品は豆乳である。一般的には、豆乳は、豆類を水に浸してすり潰したものに水を加え、これを煮て得られた汁を漉すことによって得られる。好ましい豆乳は大豆豆乳である。大豆豆乳は成分調整豆乳であっても、無調整豆乳であってもよいが、無調整豆乳が好ましい。
典型的には、きのこによる豆類の発酵は、加熱し、粉砕またはすり潰した豆類に水を添加して得られた混合物にきのこの菌糸または胞子を添加して一定時間培養することにより行われる。豆類を加熱し、粉砕またはすり潰したものに、水を添加せずに、あるいは少量の水を加えて混合物(例えば粒状、ペースト状)を得て、これにきのこの菌糸または胞子を添加して発酵させてもよい。加熱されていない豆類を発酵に用いてもよい。例えば、収穫直後の豆類をすり潰し、これに水を添加して、あるいは水を添加せずに、きのこの菌糸または胞子を添加して発酵させてもよい。豆乳にきのこの菌糸または胞子を添加して発酵させてもよい。発酵方法は上記方法に限定されない。きのこによる豆類の発酵において、ラクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース、マルトース、セロビオース、デンプン、廃糖蜜などの炭素源を添加してもよい。酵母エキス、カゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物、コーンスティープリカー等の有機窒素含有物を窒素源として添加してもよい。リン酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などの無機塩類を添加してもよい。
発酵温度はきのこの種類、豆類の種類や形状、添加物の種類、発酵時間などの要因によって異なり、通常は20℃~37℃、好ましくは24℃~33℃であるが適宜変更できる。発酵は、通常は、好気条件下または微好気条件下で行う。微好気条件下とは、きのこが増殖可能な中~低酸素環境下をいう。このような条件は当業者に公知であり、適宜定めうる。静置培養、撹拌培養、振とう培養などの様々な公知の培養様式にて発酵を行うことができる。培養容器も公知のものを適宜選択して使用することができ、フラスコ、ジャー、タンク、培養皿などの培養容器を用いることができる。発酵過程においてpHの調節を行ってもよく、行わなくてもよい。発酵時間もきのこの種類、豆類の種類や形状、添加物の種類、発酵温度などの要因によって異なり、通常は1日~40日、好ましくは3日~30日、より好ましくは5日~20日であるが適宜変更できる。発酵時間は、例えば発酵物中のDPP-4阻害活性を測定することによって決めることができる。DPP-4の阻害活性を測定するために、市販のキット(例えばDPPIV drug discovery kit (Enzo Life Sciences, Inc.))を用いてもよい。発酵条件は当業者が通常の知識を用いて、あるいは通常の実験を行うことにより決定することができる。豆類へのきのこの接種は、あらかじめ作成しておいた種培養を豆類または豆類を含む混合物に添加することにより行ってもよく、きのこの菌体または胞子を豆類または豆類を含む混合物に添加することにより行ってもよい。
本発明の発酵物は、きのこにより発酵された発酵物そのままであってもよく、きのこによる発酵物を濃縮、希釈、乾燥などの処理・加工に付したものであってもよい。これらの処理・加工は当業者に公知であり、公知の方法により行うことができる。したがって、本発明の発酵物の形態はいずれの形態であってもよく、特に限定されない。本発明の発酵物の形態は液体であってもよく、あるいは粉末、顆粒、フレーク、ブロックなどの固体、ゲル、ペースト、クリームなどの半固体であってもよい。
本明細書において、DPP-4を阻害するとは、好ましくはDPP-4活性を約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約60%以上阻害することをいう。DPP-4を阻害することは、DPP-4活性を検知可能レベル以下にすることも包含する。DPP-4活性の測定方法は公知であり、市販のキット(例えばDPPIV drug discovery kit (Enzo Life Sciences, Inc.))を用いて測定してもよい。好ましくは、本発明の発酵物は5倍希釈した場合に、1μMの指標阻害剤(P32/98、下式参照)と同等もしくはそれ以上のDPP-4阻害活性を示す。より好ましくは、本発明の発酵物は10倍希釈した場合に、1μMのP32/98と同等もしくはそれ以上のDPP-4阻害活性を示す。さらに好ましくは、本発明の発酵物は25倍希釈した場合に、1μMのP32/98と同等もしくはそれ以上のDPP-4阻害活性を示す。
Figure 0007453662000001
本明細書において、血糖値の低下とは、本発明の発酵物を対象が摂取した後の血糖値が、本発明の発酵物を摂取する前の血糖値と比べて低くなることをいう。好ましくは、血糖値の低下は、正常範囲よりも高い血糖値を正常範囲または正常範囲付近にまで低下させることをいう。
本明細書において、2型糖尿病を治療するとは、対象における上昇した血糖値を正常範囲またはその付近まで低下させることのほか、2型糖尿病の1つ以上の症状を緩和することおよび無くすことを包含する。2型糖尿病の症状の例としては、多渇症、多尿症、体重減少、多食症、疲労感、傷が治りにくいなどが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、2型糖尿病を予防するとは、2型糖尿病の発症を阻止すること、2型糖尿病が発症しにくくすること、発症しても軽症で済むようにすること、および動脈硬化、網膜症、腎症、神経障害などの合併症を発症しにくくすることを包含する。
本発明は、さらなる態様において、本発明の発酵物を含む、対象におけるDPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる食品組成物を提供する。
本発明は、さらにもう1つの態様において、本発明の発酵物を含む、対象におけるDPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる医薬組成物を提供する。
本発明は、さらなる態様において、本発明の発酵物を食品または食品素材、あるいは担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、対象におけるDPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる食品組成物の製造方法を提供する。
きのこを用いて豆類を発酵させて得られる発酵物を含有させる食品は、いかなる種類の食品であってもよく、またいかなる種類の飲料であってもよく、特に限定されない。きのこを用いて豆類を発酵させて得られる発酵物を含有させる食品素材についても、いかなる種類の食品素材であってもよく、特に限定されない。食品素材は、食品を製造するために処理・加工される素材であり、食品の原料も含まれる。
本発明の発酵物を食品または食品素材、あるいは担体または賦形剤に含有させる方法は公知であり、撹拌、混合、混練などが例示されるが、これらに限定されず、適宜選択することができる。また、撹拌、混合、混練等のための手段も公知であり、適宜選択して用いることができる。
本発明の食品組成物はあらゆる形態の飲食物であってよく、ジュース、茶、乳飲料などの液体であってもよく、粉末、顆粒、塊状、棒状、板状のごとき固体であってもよく、ペースト、クリームなどの半固体であってもよい。本発明の食品組成物を固体、液体または半固体として調製する方法は公知である。本発明の発酵物をそのまま食品組成物として提供してもよく、あるいは本発明の発酵物を既存の飲食物、例えば飲料、菓子、惣菜、調味料、あるいはクリームやチーズなどの乳製品に含有させて食品組成物を製造してもよい。
本発明の発酵物や食品組成物はサプリメントであってもよい。サプリメントの製造方法は公知であり、製薬分野で公知の担体や賦形剤を用いて製造してもよい。サプリメントは、ドリンク剤、濃縮液のごとき液剤、錠剤、粉末や顆粒あるいはドロップのごとき固形剤、クリーム、ペースト、ゲルのごとき半固形剤、あるいはカプセル剤などとして製造することができる。本発明の発酵物をクロマトグラフィー法などの公知の方法により分画し、DPP-4阻害活性、血糖値低下活性または2型糖尿病の治療および/または予防活性の高い1またはそれ以上の画分を用いて、該画分を含む食品組成物を製造してもよい。食品組成物という場合、特定保健用食品や機能性表示食品なども包含する。
本発明は、さらなる態様において、本発明の発酵物を医薬上許容される担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、対象におけるDPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる医薬組成物の製造方法を提供する。
医薬上許容される担体や賦形剤は製薬分野で公知のものを用いることができる。本発明の医薬組成物は、混合、粉砕、充填、打錠などの公知のプロセスにより製造することができる。着色料、香料、甘味料などの公知の添加物を本発明の医薬組成物に用いてもよい。
本発明の発酵物を医薬上許容される担体や賦形剤に含有させる方法は公知であり、撹拌、混合、混練などが例示されるが、これらに限定されず、適宜選択することができる。また、混合等のための手段も公知であり、適宜選択して用いることができる。
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されず、いずれの剤形であってもよい。錠剤、ドロップ、顆粒、粉末などの固形であってもよく、シロップなどの液体であってもよく、クリーム、ペーストのような半固体であってもよく、あるいはカプセル剤としてもよい。各種剤形の製法は公知であり、本発明の医薬組成物にも適用することができる。本発明の発酵物をクロマトグラフィー法などの公知の方法により精製し、DPP-4阻害活性、血糖値低下活性または2型糖尿病の治療および/または予防活性の高い1またはそれ以上の画分を用いて、該画分を含む医薬組成物を製造してもよい。
本発明の医薬組成物の投与量は、対象の2型糖尿病を治療する場合は、2型糖尿病の重さ、対象の体重、年齢、既往症、投与されている薬剤などを考慮して、通常の方法にて決定し、適宜増減することができる。例えば、最初は少量の本発明の医薬組成物を血糖値が高い対象に投与し、血糖値をモニターしながら本発明の医薬組成物の投与量を徐々に増加させていき、対象の血糖値が正常範囲またはそれに近づいたときの投与量を、適切な投与量とすることができる。本発明の医薬組成物の投与経路は、通常は経口投与である。本明細書の実施例1または実施例2にて得られた発酵物の場合、例えば成人1日あたり約50ml~約200mlを飲用してもよい。本発明の医薬組成物を2型糖尿病の予防に使用する場合、治療に用いるのと同等またはそれよりも少量の投与量としてもよい。本発明の食品組成物の摂取量についても、本発明の医薬組成物と同様に決定し、適宜増減することができる。
本発明の発酵物、それを含む食品組成物および/またはそれを含む医薬組成物を、インスリン、ビグアナイド、チアゾリジン、DPP-4阻害薬、スルホニル尿素、グリニド、α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬などの2型糖尿病治療薬と併用してもよい。本発明の発酵物、それを含む食品組成物および/またはそれを含む医薬組成物を、2型糖尿病治療薬と併用することによって、2型糖尿病の治療効果を高めることができる。また、該併用によって2型糖尿病治療薬の投与量を減らすことができ、これらの薬の副作用を減じることができる。本発明の発酵物、それを含む食品組成物および/またはそれを含む医薬組成物を、食後の血糖値の急激な上昇の抑制作用が報告されている水溶性食物繊維(難消化性デキストリン)と併用してもよい。
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
実施例1 エノキタケ属のきのこ(Flammulina velutipes)を用いた豆類の発酵物の製造とそのDPP-4阻害活性の培養日数に伴う変化
鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝子資源研究センターが所有するエノキタケ属のきのこ(Flammulina velutipes TUFC100533株)をMYG平板培地(麦芽エキス1.0%、酵母エキス0.4%、グルコース0.4%、寒天1.5%)上で24℃にて生育させ、得られた菌糸体をオートクレーブ済みの無調整大豆豆乳1L(大豆固形分9%)に直接植菌し、24℃で回転振盪培養(160rpm)を行い、培養物の一部を経時的にサンプリングし、遠心分離(4℃、15000rpm、10分)して上清をフィルター濾過し、25倍希釈したサンプルについて、DPPIV drug discovery kit (Enzo Life Sciences, Inc.)を用いてDPP-4阻害率を測定した。結果を図1に示す。培養物のDPP-4阻害率は培養日数とともに上昇し、培養12日目で70%近くに達した。その後DPP-4阻害率はわずかに減少傾向を示し、培養20日目で約60%であった。
実施例2 カワタケ属のきのこ(Peniophora sp.)およびエノキタケ属のきのこ(Flammulina velutipes)を用いた豆類の発酵物の製造とそのDPP-4阻害活性
実験方法は実施例1に準じた。鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝子資源研究センターが所有するカワタケ属のきのこ(Peniophora sp. YM5314株(NITE-02284))およびエノキタケ属のきのこ(Flammulina velutipes NBRC7046株、NBRC7663株、NBRC30490株、NBRC30875、TUFC100533株、TUFC100710株)を用いて無調整大豆豆乳を発酵させた。発酵は、24℃で回転振盪培養(160rpm)することにより行った。培養物の一部を培養開始から8日後、12日後および16日後にサンプリングした。25倍希釈したサンプルについて、DPP-4阻害活性を測定した。結果を図2に示す。発酵物は、培養時間にもよるが、1μMの指標阻害剤(P32/98)と遜色ないDPP-4阻害活性を示した。得られた発酵物のDPP-4阻害活性が十分に高いことがわかった。
実施例3 5種類のマイタケ(Grifola frondosa)を用いた豆類の発酵物の製造とそのDPP-4阻害活性
実験方法は実施例1に準じた。鳥取大学農学部附属菌類きのこ遺伝子資源研究センターが所有するマイタケ(Grifola frondosa NBRC4911株、NBRC7040株、NBRC30522株、NBRC30661株、NBRC32987株)を用いて無調整大豆豆乳200mLを発酵させた。発酵は、24℃で回転振盪培養(160rpm)することにより行った。培養物の一部を培養開始から35日後、40日後および45日後にサンプリングした。25倍希釈したサンプルについて、DPP-4阻害活性を測定した。結果を図3に示す。マイタケの種類によってDPP-4阻害率が異なっていた。NBRC7040株およびNBRC32987株を用いた発酵物のDPP-4阻害率が高かった。NBRC30661株を用いた発酵物のDPP-4阻害率も比較的高かった。
実施例4 カワタケ属のきのこ、マイタケ、およびエノキタケ属のきのこを用いて発酵させた黒豆、枝豆、および大豆の水抽出物のDPP-4阻害効果
乾燥させた黒豆および大豆それぞれ10gに蒸留水90mLを加えて培地とした。生の枝豆を剥いて凍結乾燥させたもの10gに蒸留水90mLを加えて培地とした。上記以外は、実施例1に準じて実験を行った。使用菌株は、カワタケYM5314株、マイタケNBRC7040株、マイタケFMRC30661株、エノキタケTUFC100533株、およびエノキタケNBRC30876株であった。培養は、24℃で回転振盪培養(160rpm)することにより行い、10日目および16日目のサンプリングし、サンプルを25倍希釈してDPP-4阻害活性を測定した。結果を図4に示す。いずれの培地においても、カワタケおよびエノキタケの発酵物のDPP-4阻害率が高かった。マイタケによる発酵物についてもDPP-4阻害活性が見られたが、他のきのこと比べて低かった。これらの結果から、豆類の水抽出物を培地とした場合にも、DPP-4阻害活性を有する発酵物が得られることがわかった。
実施例5 きのこによる豆類発酵物中に生成されるジペプチド類のDPP-4阻害活性
実施例1および2で得られた発酵物に含まれるペプチド類を分析したところ、C末端にプロリンを有する様々なジペプチド(X-Pro、Xはアミノ酸)が見出された。これらのジペプチドのうち数種類のDPP-4阻害活性について調べた。比較のため、市販の乳酸菌飲料(トクホ)に含まれるIle-Pro-ProおよびVal-Pro-ProについてもDPP-4阻害活性を調べた。なお、Ile-Pro-ProおよびVal-Pro-Proは大豆タンパク質グリシニン中にも存在する配列である。各ペプチド濃度は100μg/mlとした。結果を図5に示す。なかでもIle-Pro、Val-Pro、Met-ProおよびTyr-ProのDPP-4阻害活性が高かった。Ile-Pro-ProおよびVal-Pro-ProはDPP-4阻害活性を殆ど示さなかった。本発明の発酵物は多くの種類のDPP-4阻害活性を有するペプチド類を含むので、DPP-4阻害活性が高いと考えられる。
本発明は、食品や医薬品などの分野、特に健康食品の分野において利用可能である。

Claims (12)

  1. ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-4)を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる、きのこによる豆類発酵物であって、DPP-4阻害活性を有する発酵物
  2. きのこがカワタケ属のきのこ、エノキタケ属のきのこ、またはマイタケである請求項1記載の発酵物。
  3. 大豆または大豆豆乳の発酵物である請求項1または2記載の発酵物。
  4. Ile-Pro、Val-ProおよびMet-Proを含む請求項1~3のいずれか1項記載の発酵物。
  5. きのこを用いて豆類を発酵させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる発酵物の製造方法であって、発酵物がDPP-4阻害活性を有するものである方法
  6. きのこがカワタケ属のきのこ、エノキタケ属のきのこ、またはマイタケである請求項5記載の方法。
  7. 大豆または大豆豆乳を発酵させる請求項5または6記載の方法。
  8. 発酵物がIle-Pro、Val-ProおよびMet-Proを含むものである請求項5~7のいずれか1項記載の方法。
  9. 請求項1~4いずれか1項記載の発酵物を含む、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる食品組成物。
  10. 請求項1~4のいずれか1項記載の発酵物を含む、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる医薬組成物。
  11. 請求項1~4のいずれか1項記載の発酵物を食品または食品素材、あるいは担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる食品組成物の製造方法。
  12. 請求項1~4のいずれか1項記載の発酵物を医薬上許容される担体または賦形剤に含有させることを特徴とする、DPP-4を阻害するため、血糖値を低下させるため、ならびに/あるいは2型糖尿病を治療および/または予防するために用いられる医薬組成物の製造方法。
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