本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置は、第1の壁部を有する第1のケースと、第1の壁部に対向する第2の壁部を有する第2のケースと、一端部に外周スプラインが形成され、外周スプラインが第1の壁部から第2の壁部側に突出するように軸受を介して第1の壁部に支持される第1の回転軸と、一端部に外周スプラインに嵌合される内周スプラインが形成されたスプライン孔を有し、内周スプラインが第2の壁部から第1の壁部側に突出するように軸受を介して第2の壁部に支持される第2の回転軸と、外周スプラインと内周スプラインとを取り囲むように第1の壁部と第2の壁部に設けられ、第1の壁部と第2の壁部とを接続する接続部とを有する動力伝達装置であって、第1の壁部と第2の壁部と接続部とによって囲まれる空間は、内周スプラインと内周スプラインが嵌合されるスプライン嵌合部が設置される接続室を構成し、第1の壁部は、第1のケースの内部から接続室に潤滑油を流入させる流入口を有し、第2の壁部は、接続室から第2のケースの内部に潤滑油を流出させる流出口を有する。
これにより、本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置は、第1のケースと第2のケースに収容される潤滑油を共有でき、動力伝達装置のメンテナンス作業の作業性を向上できる。
以下、本発明の一実施例に係る動力伝達装置について、図面を用いて説明する。
図1から図7は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置を示す図である。図1から図7において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態の動力伝達装置を基準とし、車両の前後方向を前後方向、車両の左右方向(車両の幅方向)を左右方向、車両の上下方向(車両の高さ方向)を上下方向とする。
まず、構成を説明する。
図1において、ハイブリッド車両(以下、単に車両という)の図示しないエンジンルームには変速機1が設置されており、変速機1には内燃機関としてのエンジン2が連結されている。本実施例の変速機1は、本発明の動力伝達装置を構成する。
変速機1は変速機ケース3を備えており、変速機ケース3は、エンジン2の側から順に、ライトケース4、レフトケース5、減速機ケース6、減速機カバー7、および、パーキングカバー8を有する。各ケースやカバーは、左右方向に垂直な面にて結合されている。つまり、各ケースやカバーの合わせ面は、左右方向に垂直な面に形成されている。
エンジン2は、ライトケース4に連結されている。エンジン2は、図示しないクランク軸を有し、クランク軸は、車両の幅方向(左右方向、以下、単に車幅方向という)に延びるように設置されている。本実施例のエンジン2は、横置きエンジンから構成されており、本実施例の車両は、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)車両である。
ライトケース4は、右側端部がエンジン2に連結される周壁、および、周壁の左側端部に架設設置された仕切壁4Wを有し、右側が開口した形状のケースである。
レフトケース5は、ライトケース4に対してエンジン2と反対側となる周壁の左側端部に連結されている。すなわち、レフトケース5は、ライトケース4の左側に連結されている。ライトケース4の仕切壁4Wの外周縁にはフランジ部4Aが形成されている。
レフトケース5は、右側端部がライトケース4に連結される周壁、および、周壁の左側端部に架設設置された左側壁5Wを有し、右側が開口した形状のケースである。
レフトケース5の周壁の右端部にはフランジ部5Aが形成されている。フランジ部4Aは、図示しないボルトによってフランジ部5Aに締結されており、ライトケース4とレフトケース5は、フランジ部4A、5Aを介して連結されている。
仕切壁4Wの右側に位置するライトケース4の内部の空間には、図示しないクラッチが収容されている。ライトケース4の仕切壁4Wとレフトケース5の左側壁5Wに囲まれる空間、すなわち、レフトケース5の内部には変速機室9が形成されており(図2、図6参照)、変速機室9にはエンジン2から図示しないディファレンシャル装置に動力を伝達する複数の回転軸が収容されている。
図2に複数の回転軸のうちの1つの回転軸11を示す。回転軸11は、エンジン2とディファレンシャル装置の間の動力伝達経路上に設置されており、複数の変速用のギヤ11A、11Bと同期装置12とを有する。
変速用のギヤ11A、11Bは、回転軸11と相対回転自在となっており、それぞれ図示しない他の回転軸の図示しない変速用のギヤに噛み合っている。
同期装置12は、回転軸11の軸方向で変速用のギヤ11A、11Bの間に設置されている。
図6に示すように、同期装置12は、ハブ12A、スリーブ12Bおよびシンクロナイザリング12C、12Dを備えている。
同期装置12は、シフト操作によって変速段が第1の変速段(例えば、1速段)または第2の変速段(例えば、2速段)にシフトされると、スリーブ12Bが中立位置から図示しないシフトフォークによって変速用のギヤ11A側または変速用のギヤ11B側に移動され、変速用のギヤ11Aおよび変速用のギヤ11Bのうちのいずれか1つを同期装置12を介して回転軸11に連結する。
これにより、変速用のギヤ11Aまたは変速用のギヤ11Bに噛み合う他の回転軸との間で動力の伝達が行われる。このため、エンジン2の動力が回転軸11を介してディファレンシャル装置に伝達される。
ディファレンシャル装置は、エンジン2の動力を図示しない左右のドライブシャフトに分配して図示しない駆動輪に伝達する。
図3、図4に示すように、減速機ケース6は、右側壁6Wと、右側壁6Wの外周縁に形成された周壁6Aと、右側壁6Wの上部に設けられた円盤状のモータ取付部6Bとを有する。 図1に示すように、減速機カバー7は、左側壁7Wと、左側壁7Wの外周縁に形成された周壁7Aとを有する。
図6に示すように、減速機カバー7の左側壁7Wは、回転軸11と後述する回転軸15の軸方向で減速機ケース6の右側壁6Wに対してレフトケース5の左側壁5Wと反対側(左側)に位置している。つまり、これらの壁は、左側から、減速機カバー7の左側壁7W、減速機ケース6の右側壁6W、レフトケース5の左側壁5Wの順に配置されている。
図1に示すように、減速機カバー7の周壁7Aは、複数のボルト10によって減速機ケース6の周壁6Aに締結されている。ボルト10のうちの幾つかのボルトは、減速機カバー7から減速機ケース6を通して左側壁5Wに締結されており、減速機ケース6および減速機カバー7は、一体でレフトケース5に取付けられている。
図6に示すように、減速機ケース6がレフトケース5に取付けられた状態において、減速機ケース6の右側壁6Wがレフトケース5の左側壁5Wに対向している。すなわち、レフトケース5の左側壁5Wと減速機ケース6の右側壁6Wは、回転軸11、15の軸方向で対向している。
本実施例のレフトケース5は、本発明の第1のケースを構成し、減速機ケース6および減速機カバー7は、本発明の第2のケースを構成する。レフトケース5の左側壁5Wは、本発明の第1の壁部を構成し、減速機ケース6の右側壁6Wは、本発明の第2の壁部を構成する。回転軸11は、本発明の第1の回転軸を構成し、回転軸15は、本発明の第2の回転軸を構成する。
減速機ケース6のモータ取付部6Bには図示しない走行用のモータが取付けられており、モータは、減速機ケース6および減速機カバー7と一体でレフトケース5に取付けられている。
図6に示すように、レフトケース5の左側壁5Wには筒状の軸受支持部5Bが形成されており、軸受支持部5Bは、レフトケース5の左側壁5Wからレフトケース5の内部(減速機ケース6と反対側)に突出している。
回転軸11の左端部11fは、玉軸受14Aを介して軸受支持部5Bに回転自在に支持されている。本実施例の回転軸11の左端部11fは、本発明の第1の回転軸の端部を構成し、玉軸受14Aは、本発明の軸受を構成する。
ライトケース4の仕切壁4Wには図示しない軸受支持部が形成されており、軸受支持部は、ライトケース4の仕切壁4Wからレフトケース5の左側壁5W側に突出している。回転軸11の右端部11rは、軸受を介して仕切壁4Wの図示しない軸受支持部に回転自在に支持されている。
図1、図5、図6に示すように、レフトケース5の左側壁5Wには開口部5hが形成されており、開口部5hは、軸受支持部5Bの径方向の内方で開口している。図6に示すように、回転軸11の左端部11fには外周スプライン11sが形成されている。
回転軸11の外周スプライン11sは、開口部5hを通してレフトケース5(変速機室9)から減速機ケース6の右側壁6W側に突出している。すなわち、回転軸11の外周スプライン11sは、レフトケース5の変速機室9の外部に位置している。
このように、回転軸11は、外周スプライン11sがレフトケース5の左側壁5Wから減速機ケース6の右側壁6W側に突出するように、玉軸受14Aを介してレフトケース5の左側壁5Wに支持されている。
減速機ケース6と減速機カバー7によって囲まれる空間、すなわち、減速機ケース6と減速機カバー7の内部には減速機室13が形成されており、減速機室13には回転軸15およびチェーン16が収容されている。
回転軸15は、減速機ケース6と減速機カバー7に架設され、回転軸15の右端部15rは減速機ケース6の右側壁6Wに支持され、回転軸15の左端部15fは減速機カバー7の左側壁7Wに支持されている。回転軸15の軸長は、回転軸11の軸長よりも短く形成されている。回転軸15の外周部にはスプロケット15Aが設けられており、スプロケット15Aは、回転軸15と一体で回転する。
図4、図6に示すように、減速機ケース6の右側壁6Wには軸受支持部6Cが形成されており、回転軸15の右端部15rは、玉軸受14Bを介して軸受支持部6Cに回転自在に支持されている。本実施例の回転軸15の右端部15rは、本発明の第2の回転軸の一端部を構成し、玉軸受14Bは、本発明の軸受を構成する。
図6に示すように、減速機カバー7の左側壁7Wには軸受支持部7Bが形成されており、軸受支持部7Bは、減速機カバー7の左側壁7Wから減速機ケース6の右側壁6W側に突出している。
回転軸15の左端部15fは、玉軸受14Cを介して軸受支持部7Bに回転自在に支持されている。本実施例の減速機カバー7の左側壁7Wは、本発明の第3の壁部を構成する。
回転軸11を支持する玉軸受14Aは、回転軸15を支持する玉軸受14B、14Cよりも大型の軸受が用いられている。玉軸受14Aは玉軸受14B、14Cよりも大きな外径を有し、玉軸受14Aにおける内輪と外輪の間の環状の隙間(転動体や保持器が配置される隙間)は玉軸受14B、14Cのそれよりも大径となっている。
レフトケース5の開口部5hは略円形状の開口であって、レフトケース5の左側壁5Wの開口部5hの中心軸が玉軸受14A、14B、14Cの回動中心軸とともに回転軸11、15の中心軸と同一となるように設置されている。
レフトケース5の左側壁5Wの開口部5hの内径、すなわち、開口部5hの直径は、玉軸受14Bの外径よりも小さく形成されている。詳細には、開口部5hの直径は、玉軸受14Bの外輪肩径寸法とほぼ同等かそれよりも小さくなるように形成されている。また、開口部5hの直径は、玉軸受14Aの内輪肩径寸法とほぼ同等かそれよりも小さくなるように形成されている。
図3、図4、図6に示すように、減速機ケース6の右側壁6Wには開口部6hが形成されており、開口部6hは、軸受支持部6Cの径方向の内方で開口している。詳細には、開口部6hの直径は、玉軸受14Bの外輪の外径寸法よりも小さくなるように形成されている。また、開口部6hの直径は、玉軸受14Bの外輪肩径寸法とほぼ同等かそれよりも小さくなるように形成されている。
回転軸15には貫通孔15Bが形成されており、貫通孔15Bは、回転軸15の軸方向に貫通している。貫通孔15Bの右端部15rにはスプライン孔15bが形成されており、スプライン孔15bにはスプライン孔15bに沿って内周スプライン15sが形成されている。
回転軸15の軸方向において、スプライン孔15bは、玉軸受14Bの左側面の位置からスプライン孔15bの開口端15cに亙って形成されている。
本実施例の貫通孔15Bは、回転軸15の左端部15f側の開口端15dから右端部15r側の開口端15cまでの範囲であり、貫通孔15Bのうち、内周スプライン15sが形成されている部分がスプライン孔15bを構成している。
スプライン孔15bの開口端15cは、レフトケース5の左側壁5Wに対向して開口しており、貫通孔15Bの開口端15dは、減速機カバー7の左側壁7Wに対向している。回転軸15の内周スプライン15sの端部となる開口端15cは、減速機ケース6の右側壁6Wから開口部6hを通してレフトケース5の左側壁5W側に突出している。回転軸15の内周スプライン15sは、少なくともその一部が開口部6h内に配置している。
すなわち、回転軸15は、内周スプライン15sが減速機ケース6の右側壁6Wからレフトケース5の左側壁5W側に突出するように玉軸受14Bを介して減速機ケース6の右側壁6Wに支持されている。
回転軸15のスプライン孔15bには回転軸11の外周スプライン11sが挿入されており、回転軸11の外周スプライン11sは、回転軸15の内周スプライン15sに嵌合している。
これにより、回転軸15は、回転軸11と一体で回転する。回転軸11の外周スプライン11sと外周スプライン11sに嵌合される回転軸15の内周スプライン15sは、スプライン嵌合部17を構成する。回転軸15の軸方向において、回転軸11の左端部11fが玉軸受14Bの左側面よりも減速機カバー7の左側壁7W側に位置するように、回転軸11は回転軸15のスプライン孔15bに挿入されている。
チェーン16は、回転軸15のスプロケット15Aとモータの図示しないモータ軸に取付けられた図示しないモータスプロケットに巻き掛けられている。モータの動力は、モータスプロケットからチェーン16およびスプロケット15Aを介して回転軸15に伝達される。
回転軸15に伝達されたモータの動力は、回転軸15から回転軸11を介してディファレンシャル装置に伝達された後、左右のドライブシャフトから左右の駆動輪に伝達される。これにより、車両がモータ単独で、またはモータとエンジン2の両方によって駆動される。
一方、車両の減速時に駆動輪から左右のドライブシャフトを介してディファレンシャル装置に伝達される動力は、回転軸11から回転軸15およびチェーン16を介してモータに伝達される。これにより、モータは、回生発電を行う。
レフトケース5の左側壁5Wに筒状の外側嵌合部5Cが形成されており、外側嵌合部5Cは、レフトケース5の左側壁5Wから減速機ケース6の右側壁6W側に突出している。
減速機ケース6の右側壁6Wには筒状の内側嵌合部6Dが形成されている。内側嵌合部6Dは、減速機ケース6の右側壁6Wからレフトケース5の左側壁5W側に突出しており、外側嵌合部5Cの内周面に嵌合されている。
本実施例の減速機ケース6は、右側壁6Wが外側嵌合部5Cと内側嵌合部6Dを介してレフトケース5の左側壁5Wに接続されることにより、レフトケース5に取付けられている。本実施例の外側嵌合部5Cと内側嵌合部6Dは、本発明の接続部を構成する。
外側嵌合部5Cと内側嵌合部6Dは、スプライン嵌合部17を取り囲んでおり、外側嵌合部5Cと内側嵌合部6Dとレフトケース5の左側壁5Wと、減速機ケース6の右側壁6Wがとによって囲まれる空間は、スプライン嵌合部17が設置される接続室18を構成している。
内側嵌合部6Dと外側嵌合部5Cの間にはシール部材(Oリング)30が設けられており、内側嵌合部6Dと外側嵌合部5Cの間からの潤滑油の漏れ出しを防止している。つまり、接続室18は、シール部材30によって変速機ケース3の外側空間と密閉状態にされている。
図2に示すように、軸受支持部5Bの上部には切り欠き5gが形成されており、切り欠き5gは、軸受支持部5Bの内部と変速機室9とを連通している。詳細には、切り欠き5gは、軸受支持部5Bの外部から玉軸受14Aの外輪にまで達しており、玉軸受14Aの上面は切り欠き5gを通して変速機室9内に露出している。また、回転軸11の軸方向において、切り欠き5gは玉軸受14Aの左側面よりも減速機ケース6の右側壁6W側に達している。
図5、図6に示すように、レフトケース5の左側壁5Wには流入口5aが形成されており、流入口5aは、回転軸11、15よりも上方に位置する開口部5hの上部に形成されている。
流入口5aは、回転軸11の軸方向において、切り欠き5gの左側(減速機ケース6の右側壁6W側)端部であって、切り欠き5gの接続室18への開口部分である。これにより、流入口5aは、軸受支持部5Bの切り欠き5gを介して変速機室9に連通されているとともに、接続室18に連通されている。このため、変速機室9と接続室18は、流入口5aを通して連通されている。
図2に示すように、レフトケース5にはオイルガター21が設置されている。オイルガター21は、右側オイルガター22と左側オイルガター23を有する。右側オイルガター22は、前後方向に延びる第1のオイルガター部22Aと、第1のオイルガター部22Aの前端から左方に折り曲げられ、車幅方向に延びる第2のオイルガター部22Bとを有する。
左側オイルガター23は、第2のオイルガター部22Bの左端の下に重なる位置から左方に延びる第1のオイルガター部23Aを有する。
左側オイルガター23は、第1のオイルガター部23Aの左端から前側下方に延びる第2のオイルガター部23Bを有する。第2のオイルガター部23Bの延びる方向の先端が、回転軸11、15の軸方向で流入口5aに対向し、かつ、上下方向で切り欠き5gに重なるように配置される。
第1のオイルガター部22Aは、ディファレンシャル装置の図示しないファイナルドリブンギヤの前方に位置している。レフトケース5の底部には潤滑油が収容(貯留)されている。ファイナルドリブンギヤによって掻き上げられた潤滑油は、第1のオイルガター部22Aに導入され、第1のオイルガター部22Aから第2のオイルガター部22Bに流れる。
第2のオイルガター部22Bに流れ込んだ潤滑油は、左側オイルガター23の第1のオイルガター部23Aに導入され、第1のオイルガター部23Aから第2のオイルガター部23Bに流れた後、第2のオイルガター部23Bから切り欠き5gを通して流入口5aに導かれる。
第2のオイルガター部23Bから切り欠き5gを通して流入口5aに導かれた潤滑油は、流入口5aから接続室18に流れ込む。つまり、ファイナルドリブンギヤによって掻き上げられた潤滑油が、オイルガター21(右側オイルガター22と左側オイルガター23)によって軸受支持部5Bの上部に形成された切り欠き5gに流れ込み、切り欠き5gに流れ込んだ潤滑油は、接続室18の上部に開口する流入口5aから接続室18に流れ込む。
図6に示すように、回転軸15のスプライン孔15bの開口端15cは、流入口5aの下方に位置しており、流入口5aから接続室18に流入(流下)した潤滑油は、スプライン孔15bの開口端15cおよびその近傍の回転軸11に降り掛かる。このため、潤滑油は、開口端15cを通してスプライン孔15bの内部に供給される。
図6に示すように、減速機カバー7の左側壁7Wに対向する回転軸15の左端部15f側の開口端15dにはオイルチャネル24が設けられている。
オイルチャネル24は、円板部24Aと筒状部24Bとを有する。円板部24Aは、減速機カバー7の左側壁7Wに対して一定の隙間を介して対向しており、回転軸11、15の軸方向で軸受支持部7Bと玉軸受14Cに挟まれることにより、減速機カバー7に固定されている。
筒状部24Bは、貫通孔15Bに挿入されており、円板部24Aから回転軸11に向かって突出している。本実施例のオイルチャネル24は、本発明の給油部材を構成する。具体的には、図6に示すように、減速機カバー7の左側壁7Wに沿って流下した潤滑油を、軸受支持部7Bの上部に形成した切り欠きから左側壁7Wと円板部24Aの間の隙間に捕集し、筒状部24Bを通して貫通孔15Bに導入することができる。貫通孔15Bに流れ込んだ潤滑油は、スプライン嵌合部17の潤滑に用いられるとともに、玉軸受14Cに流れてその潤滑に使用される。
減速機ケース6の右側壁6Wには流出口6aが形成されており(図3、図4参照)、流出口6aは、軸受支持部6Cの下部に形成されている。流出口6aは、接続室18と減速機室13とを連通しており、接続室18の内部の潤滑油は、流出口6aを通して減速機室13に流出される。流出口6aは軸受支持部6Cの一部を切り欠いて形成されており、潤滑油は玉軸受14Bの外径側を通過して接続室18の内部から減速機室13に流出される。
図5、図7に示すように、レフトケース5の左側壁5Wには戻り口5bが形成されており、戻り口5bは、接続室18とレフトケース5の変速機室9とを連通している。詳細には、戻り口5bは、外側嵌合部5Cの内側となる左側壁5Wの下部であって、開口部5hの前方に形成されて、接続室18とレフトケース5の変速機室9とを連通している。また、図2に示すように、戻り口5bの変速機室9側は軸受支持部5Bに形成された切り欠きとなっており、潤滑油は玉軸受14Aの外輪の外側を流れて変速機室9に戻る。
図3、図4、図7に示すように、減速機ケース6の右側壁6Wには戻り口6bが形成されており、戻り口6bは、回転軸11、15の軸方向で戻り口5bに対向(合致)している。戻り口6bは、接続室18と減速機室13とを連通している。本実施例の戻り口5bは、本発明の第1のケース側戻り口を構成し、戻り口6bは、本発明の第2のケース側戻り口を構成する。なお、戻り口6bのレフトケース5側は、後述する戻り室26となっている。
図7に示すように、戻り口6bは、回転軸11、15の軸方向でチェーン16に対向しており、図4に示すように、チェーン16に沿って下方から前斜め上方に延びている。
図3、図6に示すように減速機ケース6の右側壁6Wには区画壁6Eが形成されており、区画壁6Eは、右側壁6Wの壁面6w(図6参照)からレフトケース5の左側壁5W側に突出している。区画壁6Eの突出高さは、内側嵌合部6Dとほぼ同程度であって、外側嵌合部5Cの内側の左側壁5W付近まで突出している。区画壁6Eのレフトケース5側の先端、および、内側嵌合部6Dのレフトケース5側の先端は、切削加工されて寸法精度が確保されている。
図3に示すように、区画壁6Eは、右側壁6Wの開口部6hの径方向の外側に位置して回転軸11の周方向に延びる周壁部6mと、周壁部6mの上端から上方に延び、内側嵌合部6Dに連結される縦壁部6nとを有する。縦壁部6nは、レフトケース5の左側壁5Wに形成された流入口5aと同じ高さ位置で、流入口5aよりも前側に位置している。周壁部6mの下部は、内側嵌合部6Dから上方に突出する突部6dに連結されている。突部6dは、流出口6aと同じ高さ位置で、流出口6aよりも前側に設けられている。
図5、図6に示すように、レフトケース5の左側壁5Wには区画壁5Dが形成されており、区画壁5Dは、左側壁5Wの壁面5wから減速機ケース6の右側壁6W側に突出している。区画壁5Dの突出高さは区画壁6Eほどではなく、区画壁5Dの先端位置は外側嵌合部5Cの内部に入り込む内側嵌合部6Dの先端位置とほぼ同程度であって、外側嵌合部5Cの内側の左側壁5Wからやや突出し、減速機ケース6側となるその先端は切削加工されて寸法精度が確保されている。区画壁5Dは、回転軸11の周方向に延びて開口部5hを取り囲むように形成されており、区画壁5Dの上部を切り欠くように流入口5aが形成されている。流入口5aの前側において、区画壁5Dは回転軸11の周方向に延びる部分から上方に延びている。
区画壁5Dは、回転軸11、15の軸方向で右側壁6Wの区画壁6Eに微小な隙間を介して対向している。つまり、開口部5hを取り囲むように形成されている区画壁5Dの部分と周壁部6mとが対向して近接配置され、流入口5aの前側で上方に延びている区画壁5Dの部分と縦壁部6nとが対向して近接配置されている。なお、区画壁5Dと区画壁6Eの間の微小な隙間とは、潤滑油の粘性を考慮した時に潤滑油が容易に流れ出ない隙間である。そして、図3、図7に示すように、接続室18は、区画壁5Dと区画壁6Eによって流入室25と戻り室26と軸室27とに区画されている。
流入室25は、流入口5aを介してレフトケース5の変速機室9に連通され、連通部25cを介して軸室27に連通されている。軸室27は、その下部に流出口6aを有し、流出口6aを介して減速機室13に連通されている。すなわち、変速機室9と減速機室13は、接続室18を介して連通されている。詳細には、変速機室9と減速機室13は、流入室25を介して連通されており、変速機室9と減速機室13は、流入室25を介して潤滑油が流通自在となっている。
戻り室26は、戻り口5bを介して変速機室9に連通され、かつ、戻り口6bを介して減速機室13に連通されている。すなわち、変速機室9と減速機室13は、戻り室26を介して連通されており、変速機室9と減速機室13は、戻り室26を介して潤滑油が流通自在となっている。
このように、本実施例の接続室18には、区画壁5D、6Eで区画された流入室25と軸室27と戻り室26によって変速機室9と減速機室13との間で潤滑油が流通する2系統の独立したオイル通路が形成されている。図3に示すように軸方向から見て、流入室25は開口部6hの上後側となる略90度の範囲に配置され、軸室27は開口部6hの下後側となる略90度の範囲とスプライン嵌合部17の周囲に配置され、戻り室26は開口部6hの前側に配置されている。
変速機室9の内部空間が減速機室13の内部空間に対して低い位置に大きく形成されているので、戻り口5b、6bの高さ位置(詳細には下端の位置)によって、車両が駐停車した時の減速機室13における潤滑油の量を設定することができる。そして、本実施例で戻り口5b、6bは、減速機室13に収容される潤滑油にスプロケット15Aやチェーン16の下部が浸かることが可能な高さに設置されている。なお、戻り口6bの下端は、玉軸受14Bの外輪の内径の下端位置よりも低い位置に設定されている。
すなわち、戻り口5bと戻り口6bは、戻り室26を介して連通されており、減速機室13に収容される潤滑油は、戻り口5bから戻り室26および戻り口5bを通して変速機室9に戻される。
このため、戻り口5b、6bの高さ位置がスプロケット15Aの下端よりも低いと、車両が駐停車した時に減速機室13の潤滑油が変速機室9に流出してしまうので、減速機室13に収容される潤滑油の油面が過度に低くなりスプロケット15Aやチェーン16が潤滑油に浸かることができず、走行初期にスプロケット15Aやチェーン16を潤滑油で充分に潤滑できないおそれがある。
一方、戻り口5b、6bの高さ位置が高い位置に設定されると、減速機室13に収容される潤滑油の油面が過度に高くなり、スプロケット15Aやチェーン16の攪拌抵抗が増大するとともに、潤滑油の温度が不必要に上昇して劣化を早めてしまう。
したがって、本実施例の戻り口5b、6bは、スプロケット15Aとチェーン16を充分に潤滑でき、かつ、スプロケット15Aとチェーン16の攪拌抵抗が増大しない高さに設置されている。具体的には、スプロケット15Aの下側部分と同じ高さ位置に形成されている。
図3、図6に示すように、接続室18は、軸室27を有する。軸室27は、区画壁6Eの周壁部6mの内方でスプライン嵌合部17を収容している空間であって、スプライン嵌合部17の外周部の周囲を取り囲むように配置されている。軸室27は、スプライン嵌合部17の中心軸の後方に位置する連通部25cを介して流入室25に連通されていて潤滑油が流れ込む。また、軸室27は、その下部に位置する流出口6aを介して減速機室13に連通されていて潤滑油が流出するとともに、その上部に位置する流入口5aから潤滑油が流れ込む。
図3に示すように、周壁部6mは、内側嵌合部6Dの下部から縦壁部6nまで湾曲して延びた後、縦壁部6nから内側嵌合部6Dの上下方向の中央部まで湾曲して延びており、270°程度の範囲で周方向に延びている。つまり、周壁部6mは、スプライン嵌合部17の後下側となる連通部25cから流出口6aの範囲を除き、スプライン嵌合部17の外周部の周囲を取り囲むように配置されている。
そして、図3に示すように、軸室27の後側で軸室27の中心部27aとほぼ同じ高さに位置する周壁部6mの下端と内側嵌合部6Dの間に連通部25cが形成され、流入室25が連通部25cを介して軸室27に連通されている。
流出口6aは、軸室27の最下部に形成されており、連通部25cは、軸室27を通して流出口6aに連通している。つまり、連通部25cを介して流入室25から軸室27に流入する潤滑油は、内側嵌合部6Dの内面に沿って流れ落ちて流出口6aに達して減速機室13に供給される。
流入室25は、その上流部25aが回転軸11、15の軸方向で流入口5aに対向している。流入室25は、その下流部25bが連通部25cを介して軸室27に連通している。ここで、上流、下流とは、流入口5aから流入室25に流入される潤滑油の流れる方向の上流と下流を表す。
軸室27は、流入室25よりも下方に位置しており、連通部25cを介して流入室25の下流部25bに連通している。
すなわち、流入室25は、流入口5aに対向する上流部25aから回転軸11、15の周方向に向かって下流部25bに位置する連通部25cまで延びており、流入口5aから流入室25に流入した潤滑油は、流入室25の上流部25aから下流部25bに流れた後、連通部25cを介して軸室27に流れ込む。
なお、回転軸11、15は、車両の前進走行時に流入室25に対して上流部25aから下流部25b側に向かって回転し(図3にて反時計回り)、車両の後進時に流入室25に対して下流部25bから上流部25a側に向かって回転する(図3にて時計回り)。
図3に示すように、軸室27の中心部27a(区画壁5Dの中心部、区画壁6Eの周壁部6mの中心部)は、内側嵌合部6Dの中心部6c(外側嵌合部5Cの中心部)に対して前側下方に偏心しており、軸室27の上側と前側に空間を確保し、軸室27の上側に流入室25、軸室27の前側に戻り室26をそれぞれ配置することで、限られた嵌合部径の中で比較的大きな空間を確保して配置している。また、流入室25の通路断面積は、上流部25aよりも下流部25bが小さく形成されている。
流入室25の右側壁6Wは、流入室25の下方の右側壁6W(詳細には、連通部25cの下方の右側壁6W)よりも回転軸11、15の軸方向で減速機カバー7の左側壁7W側(減速機室13側)に窪んでいる。つまり、流入室25の内部空間は、軸方向に拡大されている。
換言すれば、連通部25cの下方に位置する右側壁6Wは、流入室25の上流部25a側の右側壁6Wよりも回転軸11、15の軸方向でレフトケース5の左側壁5W側に膨らんでいる。この膨らみは流出口6aまで連続し、流出口6aをスプロケット15Aやチェーン16から遠ざけ、チェーン16等の動きが潤滑油の減速機室13側への流出の支障とならないようにしている。なお、流出口6aに隣接する戻り口6bは、流出口6aよりもスプロケット15Aやチェーン16側に突出しており、チェーン16等の動きによって潤滑油を戻り口6bに送り込むことができる。
次に、作用を説明する。
ディファレンシャル装置のファイナルドリブンギヤによって掻き上げられた潤滑油は、右側オイルガター22の第1のオイルガター部22Aに導入された後、第1のオイルガター部22Aから第2のオイルガター部22Bを通して左側オイルガター23の第1のオイルガター部23Aに導入される。
第1のオイルガター部23Aに導入された潤滑油は、第2のオイルガター部23Bから切り欠き5gを通して流入口5aに導かれる。
第2のオイルガター部23Bから切り欠き5gを通して流入口5aに導かれた潤滑油は、流入口5aから接続室18に流入する。
流入口5aから接続室18に流入した潤滑油は、回転軸15の軸方向に流れる勢いによって、流入室25の上流部25aに流れ込む潤滑油と、軸室27に流下する潤滑油に分配される。軸室27に流下する潤滑油は、回転軸11に衝突するとともに、開口端15cからスプライン嵌合部17(貫通孔15B)に流れ込んでスプラインを潤滑する。また、軸室27に流下した潤滑油は、後述するように、玉軸受14A,14Bを潤滑する。
流入室25の上流部25aに流れ込んだ潤滑油は、区画壁6Eの周壁部6mによって回転軸11、15の回転(スプライン嵌合部17の回転)の影響を受けずに、流入室25に沿って上流部25aから下流部25bに向かって流れた後、連通部25cを通して軸室27に流れ込む。
流入室25から軸室27に流れ込んだ潤滑油は、内側嵌合部6Dの内面に沿って流下し内側嵌合部6Dの下端から上方に突出する突部6dに衝突して流れを変え、流出口6aから減速機室13に押し出されるようにして減速機室13に流れ込む。減速機室13に流れ込んだ潤滑油は、スプロケット15Aとチェーン16等を潤滑する。なお、流入口5aから直接軸室27に流下する潤滑油は、回転軸11、15の回転(スプライン嵌合部17の回転)に連れ回り、流入室25から軸室27に流れ込んだ潤滑油に流れの勢いをつけ、流入室25から軸室27に流れ込んだ潤滑油とともに突部6dに衝突する。
本実施例のレフトケース5の左側壁5Wの開口部5hの内径は、玉軸受14Aの外径よりも小さく形成されている。また、開口部5hと玉軸受14Aは同軸に形成配置されている。これにより、左側壁5Wの開口部5hの下端の高さは、玉軸受14Aの外輪内径の下端の高さよりも高い。
このため、軸室27に流れ込んだ潤滑油は、左側壁5Wの開口部5hに塞き止められ、玉軸受14Aを通過して変速機室9に戻ることが抑制される。そして、潤滑油が左側壁5Wの開口部5hの下端よりも高く溜るまでは、流出口6aを通して減速機室13側に確実に潤滑油を流れ込ませることができる。
したがって、軸室27に流れ込んだ潤滑油は、変速機室9よりも減速機室13側により多く流れ込む。これにより、スプロケット15Aやチェーン16を潤滑するための潤滑油を減速機室13に効率よく導入できる。
また、軸室27に流れ込んだ潤滑油は、多量に溜るとスプライン嵌合部17に連れ回るため、回転軸11、15の攪拌抵抗が増大するおそれがあるが、軸室27に流れ込んだ潤滑油は、内側嵌合部6Dから上方に突出する突部6dに衝突して流れを変えて流出口6aから減速機室13に押し出される。あるいは、突部6dに衝突して流れを変えた潤滑油は軸方向に流れて玉軸受14A,14Bから接続室18の外に排出される。
したがって、突部6dに対してスプライン嵌合部17の回転方向の下流側、すなわち、図3の戻り室26側に潤滑油が連れ回ることが抑制されるので、全体としてスプライン嵌合部17に連れ回る潤滑油量を低減して、回転軸11、15の攪拌抵抗を低減できる。
また、スプライン嵌合部17に連れ回る多量の潤滑油は、周壁部6mと回転軸11、15の隙間を埋める一定量の油膜となる。このため、流入口5aからスプライン嵌合部17に流下する潤滑油を低減させて、流入室25に流入される潤滑油量を多くし、流入室25から軸室27に流入する潤滑油量を多くすることができる。
一方、流入口5aから流下して軸室27に流れ込む潤滑油の一部は、スプライン孔15bの開口端15cを通してスプライン孔15bの内部に供給され、回転軸11の外周スプライン11sと回転軸15の内周スプライン15sを潤滑しながら貫通孔15Bを通して減速機室13に流れ込む。
流入口5aから流下して軸室27に流れ込んだ潤滑油は、軸室27内でスプライン嵌合部17の軸方向に沿って左方に流れる。スプライン嵌合部17の軸方向に沿って左方に流れる潤滑油は、玉軸受14Bを潤滑するとともに、玉軸受14Bを通過して減速機室13に流れ込む。
また、同様に流入口5aから流下して軸室27内でスプライン嵌合部17の軸方向に沿って右方に流れた潤滑油は、玉軸受14Aを通過して変速機室9に流れ込みながら玉軸受14Aを潤滑する。
一方、減速機室13に流れ込んだ潤滑油によって、減速機室13内の潤滑油の油面が上昇して行く。減速機ケース6の右側壁6Wには戻り口6bが形成されており、戻り口6bは、区画壁6Eによって流入室25と分離された戻り室26に形成されている。戻り口6bは、回転軸15の軸方向でチェーン16に対向しており、内側嵌合部6Dの内面に沿って上下方向に延びている。
これにより、チェーン16に連れ回る潤滑油は、チェーン16が周回移動するのに伴って戻り口6bに効率よく流れ混む。戻り口6bに流れ込んだ潤滑油は、戻り室26からレフトケース5の左側壁5Wに形成された戻り口5bを通して変速機室9に戻される。
戻り室26は、区画壁6Eによって軸室27と分離されており、戻り口6bから戻り室26に流れ込んだ潤滑油は、回転軸11、15(スプライン嵌合部17)の回転の影響を受けずに、戻り口5bから変速機室9に戻される。
また、軸室27に流れ込んだ潤滑油が内側嵌合部6Dから上方に突出する突部6dに衝突し、突部6dに対して戻り室26側に連れ回ることが抑制されるので、戻り口6bから戻り室26を通して戻り口5bに流れる潤滑油の流れが、軸室27を流れる潤滑油の流れによって阻害されることを防止できる。このため、減速機室13から変速機室9に潤滑油を円滑に戻すことができる。
変速機室9は、減速機室13に比べて容積が大きく、変速機室9に収容される潤滑油量よりも多量の潤滑油が収容されている。これにより、減速機室13で高温となった潤滑油は、減速機室13から変速機室9に戻され、変速機室9に収容される潤滑油によって冷却される。
次に、本実施例の変速機1の効果を説明する。
本実施例の変速機1は、左側壁5Wを有するレフトケース5と、左側壁5Wに対向する右側壁6Wを有する減速機ケース6と、左端部11fに外周スプライン11sが形成され、外周スプライン11sが左側壁5Wから右側壁6W側に突出するように玉軸受14Aを介して左側壁5Wに支持された回転軸11とを有する。
また、変速機1は、外周スプライン11sに嵌合される内周スプライン15sが形成されたスプライン孔15bを右端部15rに有し、内周スプライン15sが右側壁6Wから左側壁5W側に突出するように玉軸受14Bを介して右側壁6Wに支持された回転軸15を有する。
さらに、変速機1は、外周スプライン11sと内周スプライン15sとを取り囲むように左側壁5Wと右側壁6Wに設けられ、左側壁5Wと右側壁6Wとを接続する外側嵌合部5Cと内側嵌合部6Dを有する。
左側壁5Wと右側壁6Wと外側嵌合部5Cおよび内側嵌合部6Dとによって囲まれる空間は、外周スプライン11sと内周スプライン15sが嵌合されるスプライン嵌合部17が設置される接続室18を構成している。
レフトケース5の左側壁5Wは、レフトケース5の変速機室9から接続室18に潤滑油を流入させる流入口5aを有し、減速機ケース6の右側壁6Wは、接続室18から減速機ケース6に潤滑油を流出させる流出口6aを有する。
これにより、レフトケース5の内部に形成された変速機室9を、流入口5aを通して接続室18に連通できる。これに加えて、減速機ケース6と減速機カバー7の内部に形成された減速機室13を、流出口6aを通して接続室18の下部に連通することができる。このため、変速機室9と減速機室13とを接続室18を介して連通することができる。
したがって、変速機室9と減速機室13との間で接続室18を通して潤滑油を流通でき、変速機室9に収容された玉軸受14Aと減速機室13に収容された玉軸受14B、14C、スプロケット15Aおよびチェーン16を同じ潤滑油で潤滑できる。
この結果、従来のように別々のケースに収容された潤滑油を個別に管理することを不要にできる上に、変速機室9と減速機室13に収容された潤滑油を1回の作業で同時に交換でき、変速機1のメンテナンス作業の作業性を向上できる。
また、本実施例の変速機1によれば、レフトケース5の左側壁5Wは、接続室18とレフトケース5の内部の変速機室9とを連通する戻り口5bを有し、減速機ケース6の右側壁6Wは、接続室18と減速機ケース6および減速機カバー7の内部の減速機室13とを連通する戻り口6bと、右側壁6Wの壁面6wからレフトケース5の左側壁5Wに突出する区画壁6Eとを有する。
接続室18は、区画壁6Eによって流入室25と戻り室26とに区画されており、流入室25は、流入口5aを介して変速機室9に連通され、かつ、流出口6aを介して減速機室13に連通されている。
戻り室26は、戻り口5bを介して変速機室9に連通され、かつ、戻り口6bを介して減速機室13に連通されている。
これにより、流入室25を介して変速機室9と減速機室13を連通できるとともに、流入室25と区画された戻り室26を介して変速機室9と減速機室13を連通できる。
このため、変速機室9と減速機室13との間で潤滑油を循環させることができ、変速機室9と減速機室13との間で潤滑油を入れ替えることができる。
ここで、変速機室9と減速機室13とに潤滑油を独立して封じ込め、変速機室9と減速機室13の間で潤滑油を循環できない場合には、潤滑性能と潤滑油の油温上昇に対する耐久性を考慮し、変速機室9と減速機室13に収容される潤滑油量を設定する必要がある。
具体的には、減速機室13は変速機室9よりも容量が小さく、減速機室13に収容される潤滑油量は、変速機室9に収容される潤滑油量よりも少ない。このため、減速機室13に収容される潤滑油は、変速機室9に収容される潤滑油に対して相対的に温度が上昇し易く、潤滑油が早期に劣化して潤滑油の耐久性が低下する。この結果、潤滑油による潤滑性能が低下する。
減速機室13に収容される潤滑油の温度の上昇を抑制するには減速機室13に収容される潤滑油量を増大させる必要があるが、潤滑油量を増大させると、スプロケット15Aやチェーン16の攪拌抵抗が増大する。
本実施例の変速機1は、変速機室9と減速機室13との間で潤滑油を循環させることができ、変速機室9と減速機室13との間で潤滑油を効率よく入れ替えることができるので、減速機室13から変速機室9に戻される潤滑油を変速機室9に収容される潤滑油によって冷却できる。
このため、潤滑油の温度が上昇することを抑制でき、潤滑油が早期に劣化することを防止して潤滑油の耐久性が低下することを防止できる。この結果、潤滑油による潤滑性能が低下することを防止できる。
これに加えて、減速機室13に収容される潤滑油量を増大させる必要がないので、スプロケット15Aやチェーン16の攪拌抵抗が増大することを防止できる。
このように本実施例の変速機1は、変速機ケース3に収容される潤滑油量を最適な潤滑油量にすることができる。
また、本実施例の変速機1によれば、区画壁5Dと区画壁6Eは、スプライン嵌合部17を取り囲むように回転軸11の周方向に延びており、接続室18は、区画壁6Eの内方とスプライン嵌合部17の間に、連通部25cを介して流入口5aに連通される軸室27を有する。
これに加えて、流入口5aは、回転軸11の軸方向で流入室25の上流部25aに対向しており、流入口5aの下方の区画壁5Dが切り欠かれて、流入口5aよりも下方に位置している軸室27と連通している。
これにより、変速機室9から流入口5aを通して接続室18に流入される潤滑油を流入室25と軸室27に分配できる。
具体的には、流入口5aから接続室18に流入される潤滑油量が少ないときには、潤滑油を流入口5aから流下させて軸室27に導入し、スプライン嵌合部17を潤滑するとともに、潤滑油を軸室27から流出口6aを通して減速機室13に流し込むことができる。
また、流入口5aから接続室18に流入される潤滑油量が多いときには、潤滑油を流入室25に流し込み、流入室25の上流部25aから下流部25bに流すことによって潤滑油を整流し、連通部25cから軸室27および流出口6aを通して減速機室13に流し込むことができる。
また、本実施例の変速機1によれば、流入室25は、流入口5aに対向する上流部25a側から回転軸11の周方向に向かって下流部25b側の連通部25cまで延びており、流入室25の通路断面積は、上流部25a側よりも下流部25b側が小さい。
これにより、流入室25を流れる潤滑油の流速を上流部25aから下流部25bに向かうに従って高めて連通部25cから軸室27に流し込むことができ、潤滑油の流れを円滑にできる。また、連通部25cは回転軸11、15の後側に配置されており、連通部25cから流下する潤滑油が直接回転軸11、15に降り掛かることを抑制することができる。
このため、より多くの潤滑油を流入室25から流出口6aを通して減速機室13に送り込むことができる。
また、流入室25の上流部25a側の右側壁6Wは、流入室25の下流部25b側の右側壁6Wよりも回転軸11、15の軸方向で減速機カバー7の左側壁7W側(減速機室13側)に窪んでいる。
これにより、下流部25b側の容積を流入室25の上流部25a側の容積よりもより一層小さくでき、流入室25を流れる潤滑油の流速を上流部25aから下流部25bに向かうに従ってより一層高くできる。
また、本実施例の変速機1は、スプライン孔15bは、左側壁5Wに対向する開口端15cを有し、開口端15cは、流入口5aの下方に位置している。
これにより、オイルガター21から切り欠き5gを通して流入口5aに案内された潤滑油を流入口5aから接続室18に流入させ、スプライン孔15bの開口端15cを通してスプライン孔15bの内部に供給できる。
このため、回転軸11の外周スプライン11sと回転軸15の内周スプライン15sを潤滑油によって潤滑でき、スプライン嵌合部17の潤滑性能を向上できる。この結果、スプライン嵌合部17が磨耗することを防止でき、スプライン嵌合部17の耐久性を向上できる。
また、本実施例の変速機1によれば、回転軸15の軸長は、回転軸11の軸長よりも短く形成されている。これに加えて、回転軸15は、軸方向に貫通する貫通孔15Bを有し、貫通孔15Bの左側壁5W側が、内周スプライン15sが形成されるスプライン孔15bを構成している。
これにより、回転軸15を軸方向に貫通する貫通孔15Bの一部を、内周スプライン15sが形成されたスプライン孔15bとして構成することができる。このため、回転軸15の開口端15cからスプライン孔15bに導入される潤滑油を貫通孔15Bの開口端15dから排出することができる。
したがって、スプライン孔15bに潤滑油を円滑に流通でき、スプライン嵌合部17の潤滑性能をより効果的に向上できる。
また、本実施例の変速機1によれば、減速機カバー7は、減速機ケース6の右側壁6Wに対して左側壁5Wと反対側に左側壁7Wを有する。
これに加えて、回転軸15は、左側壁7Wに対向する貫通孔15Bの開口端15dに、貫通孔15Bに潤滑油を導くオイルチャネル24を有する。
これにより、減速機カバー7の左側壁7Wに沿って流下する潤滑油をオイルチャネル24によって貫通孔15Bに導入することができる。
具体的には、チェーン16に連れ回って上方に移動した後、減速機カバー7の左側壁7Wに沿って流下した潤滑油を、軸受支持部7Bの上部に形成された切り欠きから左側壁7Wと円板部24Aの間の隙間に導入して筒状部24Bから貫通孔15Bに導入することができる。
このため、貫通孔15Bに導入された潤滑油によって、スプライン孔15bの開口端15cに加えて貫通孔15Bの開口端15dからもスプライン嵌合部17に潤滑油を供給できる。この結果、スプライン嵌合部17の潤滑性能をより効果的に向上できる。
また、本実施例の変速機1は、回転軸11、15の軸方向でレフトケース5の左側壁5Wの区画壁5Dと減速機ケース6の右側壁6Wの区画壁6Eとを微小な隙間を介して対向させている。これにより、ボルト10によって減速機ケース6と減速機カバー7を一体でレフトケース5に締結するときに、取付の支障となることを防止できる
具体的には、区画壁5Dと区画壁6Eとが密着した場合には、ボルト10によって減速機ケース6と減速機カバー7を一体でレフトケース5に締結するときに、減速機ケース6の締結部とレフトケース5の締結部に隙間が発生する等して減速機ケース6あるいは減速機カバー7が変形して不具合が発生するおそれがある。
これに対して、回転軸11、15の軸方向で区画壁5Dと区画壁6Eとを微小な隙間を介して対向させると、減速機ケース6の締結部とレフトケース5の締結部が隙間なく当接した状態で減速機ケース6をレフトケース5に締結できる。これにより、組付け時に余裕を持たせることができ、減速機ケース6とレフトケース5の組み付け精度を向上できる。
また、レフトケース5の左側壁5Wに切削工具によって外側嵌合部5Cを形成する作業において、減速機ケース6側から切削を行って外側嵌合部5Cの内径を加工し、同じ切削工具によって区画壁5Dの頂面(区画壁6Eの対向面)の加工を行う。
すなわち、切削工具によって一度の作業で外側嵌合部5Cの内径を加工と区画壁5Dの頂面の加工を同時に行うことができる。
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。