JP7436944B1 - バーリング構造部材 - Google Patents
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Abstract
Description
<態様1>
バーリング孔、
前記バーリング孔の周囲に設けられ、かつ、縦壁部と、前記縦壁部に接続された曲壁部とを有する、バーリング壁部、及び
前記バーリング壁部の周囲に設けられ、かつ、前記曲壁部に接続された、板状部、
を有する、バーリング構造部材であって、
前記板状部の板厚Tが、2.0mm以上であり、
前記板状部の0℃におけるシャルピー衝撃値vE(0)が、50J/cm2以上であり、
前記シャルピー衝撃値vE(0)と、前記曲壁部の曲げ内側の割れの最大長さLcとに基づいて下記式(1)で計算されるBCI値が、2.5以上であり、
前記曲壁部の曲げ内側の曲率半径Rが、下記式(2)で計算されるR1よりも大きい、
バーリング構造部材。
BCI=vE(0)/Lc …(1)
R1=25/BCI-1.5 …(2)
ここで、vE(0)の単位はJ/cm2であり、Lcの単位はμmであり、R1の単位はmmである。
<態様2>
前記曲壁部の曲率半径Rが、0.5mm以上10.0mm以下である、
態様1のバーリング構造部材。
<態様3>
前記板状部の板厚Tが、2.0mm以上8.0mm以下である、
態様1又は2のバーリング構造部材。
<態様4>
前記板状部の引張強さTSが、780MPa以上である、
態様1~3のいずれかのバーリング構造部材。
<態様5>
前記板状部の引張強さTSが、980MPa以上である、
態様4のバーリング構造部材。
バーリング孔21、
前記バーリング孔21の周囲に設けられ、かつ、縦壁部22aと、前記縦壁部22aに接続された曲壁部22bとを有する、バーリング壁部22、及び
前記バーリング壁部22の周囲に設けられ、かつ、前記曲壁部22bに接続された、板状部10、
を有する。以下、バーリング孔21及びバーリング壁部22をまとめて「バーリング構造部20」という場合がある。
バーリング構造部材100において、前記板状部10の板厚Tは、2.0mm以上である。前記板状部10の0℃におけるシャルピー衝撃値vE(0)は、50J/cm2以上である。前記シャルピー衝撃値vE(0)と、前記曲壁部22bの曲げ内側の割れの最大長さLcとに基づいて下記式(1)で計算されるBCI値は、2.5以上である。前記曲壁部22bの曲げ内側の曲率半径Rは、下記式(2)で計算されるR1よりも大きい。
R1=25/BCI-1.5 …(2)
ここで、vE(0)の単位はJ/cm2であり、Lcの単位はμmであり、R1の単位はmmである。
図1及び2に示されるように、板状部10は、一方側に第1面11を有し、第1面11とは反対側に第2面12を有する。バーリング壁部22は、板状部10の第1面11よりも一方側に突出している。
図1及び2に示されるように、板状部10はバーリング壁部22の周囲に設けられ、後述の曲壁部22bに接続される。バーリング構造部材100においては、板状部10がわずかでも存在していればよい。板状部10の外縁の形状(バーリング構造部材100の全体としての平面形状)は特に限定されるものではなく、バーリング構造部材100の用途に応じて適宜決定されればよい。板状部10は、完全な平板状である必要はなく、例えば、凹凸、曲がり、切り欠き等を一部に有していてもよく、曲壁部の曲率半径より十分大きな曲率半径であれば(例えば、10倍以上、25倍以上、50倍以上又は100倍以上)、全体が緩やかに湾曲した形状であってもよい。
図2に示されるように、板状部10は板厚Tを有する。板厚Tは2.0mm以上である。本発明者が確認した限りでは、従来のバーリング構造部材において、バーリング壁部を曲げ戻し又は圧縮された際の破断の問題は、板状部の板厚が2.0mm以上である場合に起こり易い。この点、本開示のバーリング構造部材100は、板状部10の板厚Tが2.0mm以上である場合において特有の課題を解決するものといえる。一方で、板厚Tが厚過ぎる場合は、バーリング加工を施した場合に曲げ内側に大きな割れが生じ易く、曲壁部22bの曲率半径Rが上記式(2)で計算されるR1以下となる虞があり、また、そもそもバーリング加工が難しくなる虞がある。必要に応じて、板厚Tを2.2mm以上、2.4mm以上、2.8mm以上、3.0mm以上又は3.4mm以上としてもよく、8.0mm以下、7.0mm以下、6.0mm以下、5.0mm以下又は4.0mm以下としてもよい。必要に応じて、板状部10の板厚Tは、2.0mm以上8.0mm以下であってもよい。板厚Tは、板状部10の全体において同一であってもよいし、板状部10の部位ごとに異なっていてもよい。
板状部10の0℃におけるシャルピー衝撃値vE(0)は、50J/cm2以上である。仮に、板状部のvE(0)が小さすぎると、バーリング加工の際、曲壁部22bにおいて加工硬化が顕著となり、加工硬化の影響によってバーリング壁部22の曲げ戻しや圧縮の際に破断が生じ易くなる。vE(0)が50J/cm2以上であれば、このような問題が生じ難い。必要に応じて、vE(0)を60J/cm2以上、70J/cm2以上又は80J/cm2以上としてもよい。vE(0)の上限は特に限定されるものではないが、必要に応じて、300J/cm2以下、250J/cm2以下、200J/cm2以下、160J/cm2以下又は140J/cm2以下としてもよい。必要に応じて、vE(0)をある特定の範囲(下限と上限とがある特定の範囲)に制限してもよい。この場合のその下限と上限は、前記の下限と上限とを任意に組み合わせてもよく、例えば、vE(0)は、50J/cm2以上200J/cm2以下、50J/cm2以上180J/cm2以下、50J/cm2以上160J/cm2以下、又は、50J/cm2以上140J/cm2以下であってもよい。尚、板状部10の0℃におけるシャルピー衝撃値vE(0)は、板状部10から採取した2.5mmサブサイズのVノッチ試験片に対して、JIS Z 2242:2018に準じてシャルピー衝撃試験を行うことにより求められるものである。板厚が2.5mm未満のものについては、全厚で試験を行えばよい.
本発明者の知見によれば、材料の高強度化とともに、曲壁部22bの曲げ内側に割れが生じ易くなる。すなわち、バーリング壁部22が曲げ戻し又は圧縮された際の破断の問題は、特に、高張力鋼板において生じ易い。この点、板状部10の引張強さTSは、780MPa以上、800MPa以上、850MPa以上、900MPa以上、950MPa以上、980MPa以上、1000MPa以上、1050MPa以上、1100MPa以上、1150MPa以上、1180MPa以上、1200MPa以上、1250MPa以上、1300MPa以上、1350MPa以上、1400MPa以上、1450MPa以上、又は、1470MPa以上であってもよい。板状部10の引張強さの上限は特に限定されるものではないが、例えば、2500MPa以下、2200MPa以下、2000MPa以下、1800MPa以下、1500MPa以下、1300MPa以下、又は、1180MPa以下であってもよい。必要に応じて、板状部10の引張強さTSをある特定の範囲(下限と上限とがある特定の範囲)に制限してもよい。この場合のその下限と上限は、前記の下限と上限とを任意に組み合わせてもよい、例えば、板状部10の引張強さTSは、780MPa以上2500MPa以下であってもよく、980MPa以上2500MPa以下であってもよい。尚、本願にいう板状部の「引張強さ」とは、JIS Z 2241:2011にしたがうものである。
図1及び2に示されるように、バーリング構造部20は、バーリング孔21と、バーリング壁部22と、を有する。
図1及び2に示されるように、バーリング孔21はバーリング構造部20の一方側と他方側とを貫通する孔である。図1に示されるように、バーリング孔21の平面形状(開口形状)は、円形である。「円形」とは、完全な円である必要はなく、工業生産上許容し得る程度の誤差を有していてよい。例えば、バーリング孔21の開口形状の外縁の一点から、当該開口形状の図心を通って、外縁の他の一点までを結ぶ直線の長さを、当該バーリング孔21の直径とみなした場合、最小直径に対する最大直径の比が1.00以上1.10以下である場合に「円形」とみなすことができる。
図1及び2に示されるように、バーリング壁部22はバーリング孔21の周囲に設けられる。言い換えれば、バーリング孔21の開口形状は、バーリング壁部22の内壁によって画定される。図1及び2に示されるように、バーリング壁部22は円筒状部分を有していてもよい。また、図2に示されるように、バーリング壁部22は、板状部10の第1面11よりも一方側に突出している。バーリング壁部22の突出方向は、板状部10の面方向と交差する方向であり、例えば、板状部10の面方向と直交する方向であってよい。また、図2に示されるように、バーリング壁部22は、縦壁部22aと、曲壁部22bと、を有する。
図2に示されるように、縦壁部22aは、例えば筒状の形状を有し、一方側においてバーリング端面22axを有し、一方側とは反対側において曲壁部22bに接続される。
縦壁部22aは、バーリング加工時の打ち抜き方向に沿った面を有し得る。例えば、図2に示されるように、バーリング孔21の中心軸に沿った断面形状において、互いに対向する縦壁部22aの内壁面が、互いに平行であってもよい。また、図2に示されるように、縦壁部22aの外壁面の向きと板状部10の第1面11の向きとは、互いに交差しており、例えば、互いに直交していてもよい。
図2に示されるように、バーリング壁部22は、第1面11から縦壁部22aのバーリング端面22axまでにおいて、所定の高さHを有していてよい。高さHは、例えば、5mm以上、10mm以上、20mm以上、30mm以上、40mm以上、又は、50mm以上であってもよく、500mm以下、400mm以下、300mm以下、200mm以下、又は、100mm以下であってもよい。必要に応じて、高さHをある特定の範囲(下限と上限とがある特定の範囲)に制限してもよい。この場合のその下限と上限は、前記の下限と上限とを任意に組み合わせてもよい、例えば、高さHは、5mm以上500mm以下であってもよい。或いは、高さHは、例えば、板状部10の板厚Tの2倍以上、5倍以上、8倍以上、又は、10倍以上であってもよく、200倍以下、150倍以下、100倍以下、又は、50倍以下であってもよい。例えば、高さHは、板状部10の板厚Tの2倍以上200倍以下であってもよい。
図2に示されるように、曲壁部22bは、例えば縦壁部22aの周囲に設けられたリング状の形状を有し、縦壁部22aと板状部10とを接続する。より具体的には、曲壁部22bは、一方側において縦壁部22aに接続され、一方側とは反対側において板状部10に接続される。曲壁部22bは、曲率半径Rを有しつつ、板状部10と縦壁部22aとを接続しており、例えば、板状部10の第1面11と、曲壁部22bの外壁面と、縦壁部22aの外壁面との間に途切れがない。
図3に示されるように、曲壁部22bの曲げ内側には、割れ(き裂)が発生し易い。本発明者の知見によると、曲壁部22bの曲げ内側の割れが長すぎる(深すぎる)と、後述するBCI値が過剰に小さくなり、かつ、R1値が過剰に大きくなる虞がある。この点、本開示のバーリング構造部材100においては、BCI値及びR1値が所定の範囲となるような割れ長さに収めることが好ましい。曲壁部22bの曲げ内割れの最大長さLcは、短いほうがよく、例えば、50μm以下であることが好ましい。最大長さLcは0μm(割れが無い)であってもよいが、割れを完全に0とすることが難しい場合もある。最大長さLcは、0μm以上50μm以下であってもよく、0μm超、1μm以上、3μm以上、5μm以上、7μm以上、又は、10μm以上であってもよく、45μm以下、40μm以下、35μm以下、又は、30μm以下であってもよい。
図2に示されるように、曲壁部22bは、曲げ内側において曲率半径Rを有する。曲壁部22bの曲率半径Rは、後述する式(2)で計算されるR1よりも大きければよい。曲壁部22bの曲率半径Rは、例えば、0.5mm以上10.0mm以下であってもよい。曲率半径Rは、1.0mm以上、2.0mm以上、又は、3.0mm以上であってもよく、8.0mm以下、6.0mm以下、又は、5.0mm以下であってもよい。
図2に示されるように、バーリング壁部22は厚みT2を有していてよい。厚みT2は目的とする強度等に応じて適宜決定されればよい。厚みT2は、1.8mm以上、2.0mm以上、2.2mm以上、2.6mm以上、2.8mm以上又は3.2mm以上としてもよく、10.0mm以下、8.0mm以下、6.0mm以下、5.0mm以下又は4.0mm以下としてもよい。厚みT2は、例えば、1.8mm以上10.0mm以下であってもよい。厚みT2は、バーリング壁部22の全体において略同一であってもよいし、バーリング壁部22の部位ごとに異なっていてもよい。厚みT2は、板状部10の板厚Tよりも厚くても薄くてもよいが、バーリング加工の性質上、板厚Tよりも薄くなり易い。具体的には、厚みT2と板厚Tとの比T2/Tは、0.5以上、0.6以上又は0.7以上であってもよく、1.2以下、1.1以下又は1.0以下であってもよい。厚みT2と板厚Tとの比T2/Tは、例えば、0.5以上1.2以下であってもよい。
本開示のバーリング構造部材100においては、下記式(1)で計算されるBCI値が、2.5以上である。仮に、BCI値が小さ過ぎると、靭性に対する割れ長さの影響が大きくなり、バーリング構造部20の形状等を工夫したとしても、曲げ戻し又は圧縮中に破断が発生し易い。BCI値の上限は特に限定されない。BCI値は、例えば、2.5以上30.0以下であってもよい。BCI値は、3.0以上、4.0以上、又は、5.0以上であってもよく、28.0以下、26.0以下、24.0以下、22.0以下、20.0以下、18.0以下、16.0以下、14.0以下、12.0以下、又は、10.0以下であってもよい。尚、本願において、式(1)は実験式であり、BCI値が計算される際の分母Lcの単位はμmであり、分子vE(0)の単位はJ/cm2であり、下記式(1)により算出されるBCI値の単位はJ/(cm2・μm)である。
本開示のバーリング構造部材100においては、曲壁部22bの曲げ内側の曲率半径Rが、下記式(2)で計算されるR1よりも大きい。尚、式(2)は実験式であり、式(2)において、左辺と右辺とで単位は揃っておらず、左辺のR1の単位はmmであり、右辺に代入されるBCI値の単位は、上述の通り、J/(cm2・μm)である。R1を計算するにあたり特に単位換算はせず、すなわち、上記式(1)により算出されたBCI値を式(2)にそのまま代入して得られる数値がR1(mm)である。本発明者の知見によれば、上記の板厚T、上記のシャルピー衝撃値vE(0)、及び、上記のBCI値に係る要件が満たされ、かつ、曲率半径RがR1よりも大きい場合、バーリング構造部材100の材質や強度等によらず、バーリング構造部20を曲げ戻し又は圧縮を受けた場合に破断が生じ難くなる。
バーリング構造部材100は金属製であることが自明である。バーリング構造部材100は、例えば、鋼材からなっていてもよい。この場合、鋼材における化学組成や金属組織は特に限定されるものではなく、バーリング構造部材100の用途に応じて適宜決定され得る。本開示の技術によれば、種々の化学組成や金属組織を有するバーリング構造部材100において、バーリング構造部20の曲げ戻し又は圧縮時の耐破断性を向上させることができる。化学組成の一例として、バーリング構造部材100を構成する鋼の化学組成は、質量%で、C:0.01~1.0%、Si:0.01~3.50%、Mn:0.10~5.00%、P:0.100%以下、S:0.0300%以下、N:0.0100%以下、O:0~0.020%、Al:0~1.000%以下、Cr:0~2.00%、Cu:0~2.00%、Ni:0~2.00%、Mo:0~3.00%、Co:0~3.00%、Nb:0~0.150%、V:0~1.00%、Ti:0~1.00%、W:0~1.00%、Sn:0~1.00%、Sb:0~0.50%、Ta:0~0.10%、As:0~0.050%、B:0~0.0100%、Ca:0~0.100%、Mg:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、REM:0~0.0050%、残部Fe及び不純物であってもよい。また、上記化学組成において、任意添加元素の含有量の下限は0.0001%又は0.001%であってもよい。
バーリング構造部材100において、バーリング構造部20の数は1つに限定されるものではない。バーリング構造部材100は、バーリング構造部20を複数有していてもよい。また、バーリング構造部材100は、バーリング構造部20に加えて、第1面11よりも一方側に突出する(バーリング壁部22と同じ方向に突出する)その他のバーリング構造部をさらに備えていてもよいし、第2面12よりも他方側に突出する(バーリング壁部22とは反対方向に突出する)その他のバーリング構造部をさらに備えていてもよい。バーリング構造部材100におけるバーリング構造部20の位置についても特に限定されるものではなく、バーリング構造部材100の用途に応じて適宜決定されればよい。
上述したように、本開示のバーリング構造部材100は、バーリング壁部22が曲げ戻された場合又は圧縮された場合にバーリング壁部22が破断し難く、優れた耐久性を有する。この点、本開示のバーリング構造部材100は、大きな外力が印加される過酷な環境に適用することが可能である。例えば、本開示のバーリング構造部材100は、自動車の足回り部品として用いられてもよい。自動車の足回り部品の具体例としては、ロアアームやアッパーアーム、トレールリンクが挙げられる。
本開示のバーリング構造部材100は、被加工材である金属板の一部にバーリング加工を施すことで製造され得る。例えば、図5に示されるように、バーリング構造部材100の製造方法は、下記S1及びS2を備える。また、バーリング構造部材100の製造方法は、下記S1及びS2に加えて、下記S3及びS4のうちの一方又は両方を備えていてもよい。つまり、1)S1、S2およびS3を含む方法、2)S1、S2およびS4を含む方法、3)S1、S2、S3およびS4を含む方法、という3つの方法の中のいずれかの方法により、バーリング構造部材100を製造することができる。
(B)前記曲壁部22bの曲げ内側の曲率半径Rが、下記式(2)で計算されるR1よりも大きいこと。
BCI=vE(0)/Lc …(1)
R1=25/BCI-1.5 …(2)
ここで、vE(0)の単位はJ/cm2であり、Lcの単位はμmであり、R1の単位はmmである。
S5:前記S2よりも前において、前記金属板101の表面のうち、少なくとも前記曲壁部22bとなる部分の表面の表面粗さを低減すること。
以下の実施例においては、板状の試験片に対して曲げ及び曲げ戻しを行うことで各評価を行った。曲げ加工が施された板状の試験片に対して曲げ部分の曲げ戻しを施した場合と、バーリング加工が施された板状の試験片に対して、バーリング壁部の曲げ戻しを施した場合とで、曲げ内側の割れが、曲げ戻しに与える影響に実質的な差異はないことから、以下の実施例は、バーリング構造部材のバーリング壁部に対して曲げ戻しを行った場合において生じる現象を適切に模擬できているといえ、バーリング構造部材のバーリング構造部における性能が適切に評価されたものといえる。
1.1.1 評価1(曲げ評価)
図6Aに示されるように、幅30mm、長さ200mm及び板厚2mmを有する試験片に対して、種々の加工条件により、所定の曲率半径Rにて曲げ加工を施した。試験片は、鋼板A(引張強さTS:1005MPa、シャルピー衝撃値vE(0):53.2J/cm2)、鋼板B(引張強さTS:992MPa、シャルピー衝撃値vE(0):80.1J/cm2)、鋼板C(引張強さTS:983MPa、シャルピー衝撃値vE(0):133.8J/cm2)、鋼板D(引張強さTS:785MPa、シャルピー衝撃値vE(0):152.2J/cm2)、鋼板E(引張強さTS:1188MPa、シャルピー衝撃値vE(0):64.1J/cm2)、及び、鋼板F(引張強さTS:1236MPa、シャルピー衝撃値vE(0):36.7J/cm2)の各々から切り出して用意した。バーリング加工を模擬すべく、曲げ加工における曲げ角度は90°とした。曲げ加工後の試験片の断面を観察し、曲げ内側に生じた割れの最大長さLcと、下記式(1)で計算されるBCI値とを特定した。また、BCI値に基づいて、下記式(2)で計算されるR1を特定し、曲率半径Rが当該R1よりも大きいか否かを判断した。
R1=25/BCI-1.5 …(2)
上記の曲げ加工と同じ条件で、幅30mm、長さ200mm及び板厚2mmを有する試験片に対して、所定の曲率半径Rにて曲げ加工を施した。つまり、上記の曲げ加工後の断面観察用の試験片と同じ曲げ加工条件毎に、もう1つずつ試験片を作成し、後述の曲げ戻し試験に供した。曲げ加工後の試験片は、上記評価1におけるものと同様の最大長さLc及びBCI値を有するものとみなすことができる。曲げ加工後の試験片に対して、試験片の両端を引っ張ることで曲げ戻しを行った。曲げ戻しは、試験片の曲げ角度が180°となるまで(すなわち、曲げのない平らな状態となるまで)行った。図6Bの上側試験片のように、曲げ戻しが完了する前に試験片の破断が生じたものを「不合格」、下側試験片のように破断することなく曲げ戻しが完了したものを「合格」と評価した。
下記表1に評価結果を示す。また、図7に、引張強さが980MPa級の試験片(鋼板A~Cから取得したもの)について、横軸をBCI値、縦軸を曲率半径Rとするグラフに合格及び不合格の結果をプロットしたものを示す。
幅80mm、長さ180mm、厚さ2.3mmの鋼板C~Eの各々に対して、抜き孔を設けた。ここで、鋼板Cの引張強さTSは983MPaであり、シャルピー衝撃値vE(0)は133.8J/cm2であり、鋼板Dの引張強さTSは785MPaであり、シャルピー衝撃値vE(0)は152.2J/cm2であり、鋼板Eの引張強さTSは1188MPaであり、シャルピー衝撃値vE(0)は64.1J/cm2である。抜き孔は、鋼板の幅方向中央の位置、かつ、長さ方向一端から70mmの位置に中心を有するものとした。鋼板を金型に設置したうえで、当該抜き孔をパンチで打ち抜き、抜き孔の周縁部を一方側に立ち上げることで、バーリング孔とバーリング壁部とを有するバーリング構造部材を得た。図8にバーリング構造部材の平面視における形状を示す。図8に示されるように、バーリング孔の直径Dは50mmとした。また、バーリング壁部の高さHは15mm、バーリング壁部の厚みT2は2.0mmとした。さらに、バーリング壁部の曲壁部の曲げ内側の曲率半径Rは、鋼板Dについては1.0mm、鋼板C及びEについては2.0mmとした。
鋼板C~Eの各々に対してバーリング加工を施したうえで、バーリング加工後に特に研磨を行うことなく、そのまま下記評価を行った。尚、比較例2-1と比較例2-2とでは、バーリング加工時の鋼板と金型との接触状態が異なること以外は、同様である。
鋼板C~Eの各々に対してバーリング加工を施すにあたって、鋼板と金型との接触状態を比較例1-1、2-1、2-2及び3-1とは変化させる(具体的には、曲壁部の曲げ内側となる部分が曲げ内側にできるだけ接触しないように制御する)ものとした。バーリング加工後の研磨は行わなかった。
鋼板C~Eの各々に対して比較例1-1、2-1及び3-1と同様にしてバーリング加工を施したうえで、バーリング加工後に曲壁部の曲げ内側表面をサンドペーパーで研磨した。具体的には、事前に同じバーリング加工方法により製造されたバーリング構造部材に対し、曲壁部の曲げ内側の割れの最大長さLcを測定した上で、曲壁部の曲げ内側の目標研磨厚さを決定した。その後、曲壁部の厚さを測定しながら研磨することで、目標の研磨厚さとなるように研磨した。
上記のようにして作製したバーリング構造部材を各2個ずつ作成した。その中の各1個のバーリング構造体に対し、バーリング構造部を平面視において8等分した断面について、曲げ内側全域の断面観察を行い、各々の断面における曲げ内側の割れの最大長さを特定し、このうち最も長いものを上記の最大長さLcとして特定した。残りの各1個のバーリング構造体に対し、以下の圧縮荷重負荷試験に供した。圧縮荷重試験においては、温度を0℃に保ちつつ、バーリングの凸部に対して、板状部の面に垂直な方向に圧縮応力(図2の場合において、図2の上方から下方に、バーリング端面22axに対し荷重を付加)を加えた(ストローク制御:100mm/s以上)。最大荷重到達後、20%荷重が低下した際に、バーリング曲壁部の曲げ内側のき裂が、バーリング壁部の周囲の板状部側へと10mm以上進展していた場合(図8に示されるき裂の長さLdが10mm以上である場合)、バーリング壁部が破断したもの(不合格)と評価した。
下記表2にバーリング構造部材の最大長さLc、作製条件及び評価結果などをまとめた。
(B)板状部の0℃におけるシャルピー衝撃値vE(0)が、50J/cm2以上であること。
(C)シャルピー衝撃値vE(0)と、曲壁部の曲げ内側の割れの最大長さLcとに基づいて下記式(1)で計算されるBCI値が、2.5以上であること。
(D)曲壁部の曲げ内側の曲率半径Rが、下記式(2)で計算されるR1よりも大きいこと。
R1=25/BCI-1.5 …(2)
ここで、vE(0)の単位はJ/cm2であり、Lcの単位はμmであり、R1の単位はmmである。
11 第1面
12 第2面
20 バーリング構造部
21 バーリング孔
22 バーリング壁部
22a 縦壁部
22ax バーリング端面
22b 曲壁部
100 バーリング構造部材
101 金属板
101a 抜き孔
101b 抜き孔の周縁部
Claims (6)
- バーリング孔、
前記バーリング孔の周囲に設けられ、かつ、縦壁部と、前記縦壁部に接続された曲壁部とを有する、バーリング壁部、及び
前記バーリング壁部の周囲に設けられ、かつ、前記曲壁部に接続された、板状部、
を有する、バーリング構造部材であって、
前記板状部の板厚Tが、2.0mm以上であり、
前記板状部の0℃におけるシャルピー衝撃値vE(0)が、50J/cm2以上であり、
前記シャルピー衝撃値vE(0)と、前記曲壁部の曲げ内側の割れの最大長さLcとに基づいて下記式(1)で計算されるBCI値が、2.5以上であり、
前記曲壁部の曲げ内側の曲率半径Rが、下記式(2)で計算されるR1よりも大きい、
バーリング構造部材。
BCI=vE(0)/Lc …(1)
R1=25/BCI-1.5 …(2)
ここで、vE(0)の単位はJ/cm2であり、Lcの単位はμmであり、R1の単位はmmである。 - 前記曲壁部の曲率半径Rが、0.5mm以上10.0mm以下である、
請求項1に記載のバーリング構造部材。 - 前記板状部の板厚Tが、2.0mm以上8.0mm以下である、
請求項1に記載のバーリング構造部材。 - 前記板状部の板厚Tが、2.0mm以上8.0mm以下である、
請求項2に記載のバーリング構造部材。 - 前記板状部の引張強さTSが、780MPa以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のバーリング構造部材。 - 前記板状部の引張強さTSが、980MPa以上である、
請求項5に記載のバーリング構造部材。
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