JP5654376B2 - メタルダイアフラム及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、メタルダイアフラム及びその製造方法に関する。
半導体製造に使用される超高純度特殊ガスを供給するクリーンバルブのダイアフラムは、一般に高い弾性力を必要とする為、冷間加工度の高い金属板材が用いられている。その為に材料は強い圧延異方性を有しており、圧延方向と直角圧延方向では材料強度が異なるため、成形性にも差異が生じていた(例えば、特許文献1参照)。
特開平9‐248631号公報
従来の圧延異方性を有する金属板材を用いて製造するメタルダイアフラムは、断面形状差を有しており、均一な曲率半径を有する部分球形状ではない。特に圧延直角方向の断面形状は圧延方向に対して曲率半径が大きく台形状になり、その為にメタルダイアフラムをたわませて作動させた際にその台形の肩部への局部的な応力集中と摩擦によりメタルダイアフラムの疲労破壊を加速させるという課題を有していた。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、高強度、高耐食性、高耐久性に優れたメタルダイアフラム、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成とした。
請求項1に記載の発明は、合金を真空溶解により高清浄度化する溶解工程と、前記溶解工程で溶解された前記合金を棒状に加工する冷間伸線加工工程と、前記棒状に加工された棒材をその中心線に対し直角に円盤形状に切断する切断工程と、前記円盤形状に切断された円盤材をプレス成形する成形工程と、を有することを特徴とするメタルダイアフラムの製造方法である。
請求項1に記載の発明によれば、第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムを製造することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のメタルダイアフラムの製造方法であって、前記冷間伸線加工工程において、前記棒材は20%〜90%以上の冷間加工が施されていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、加工率が20%未満では、後述する時効効果がえられないため、冷間加工の加工率を20%以上に設定することにより、合金自体の硬度を高めることができ、良好な強度、及び剛性のメタルダイアフラムを製造することができる。
なお、加工率は40%以上に設定することがより好ましい。また、90%超過になると合金自体の硬度が高くなりすぎ脆くなってしまう。そのため、加工率は90%以下にすることが好ましい。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のメタルダイアフラムの製造方法であって、前記切断工程と前記成形工程の間に、前記円盤材を研磨する研磨工程を有することを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、研磨を行うことで、より平滑性が得られ、メタルダイアフラムの接触磨耗によるパーティクルの発生が抑えられる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムの製造方法であって、前記成形工程のあとに、前記円盤材を300℃〜700℃で時効処理を行う工程を有する事を特徴とする。
請求項4に記載の発明によれば、時効処理を行うことで、メタルダイアフラムの機械的強度が増し、さらに、良好な弾性特性を得ることができる。少なくとも20%以上の冷間加工した棒材から成形した円盤材をさらに時効処理することで、合金自体が、静的ひずみ時効により時効硬化して一層高い機械的強度を有する高弾性合金になり、さらに優れたメタルダイアフラムにすることができる。特に、少なくとも300℃以上の温度で時効処理するので合金の時効効果を確実に発現させることができる。一方、上限は700℃以下に設定するので、合金の再結晶による軟化を防止することができる。なお本実施形態の合金における最適組成での十分な時効硬化と靱性が得られるより望ましい時効処理温度は350℃以上650℃以下である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムの製造方法であって、前記成形工程はメカプレス成形による成形であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明によれば、第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムを成形することができる。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムの製造方法であって、前記成形工程は流体プレス成形による成形であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明によれば、第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムを成形することができる。
請求項7に記載の発明は、均一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムであることを特徴とする。
請求項7に記載の発明によれば、均一な曲率半径を有する部分球形状であることにより、メタルダイアフラムにかかる応力を均一にすることができ、耐久性が向上する。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のメタルダイアフラムであって、第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状であることを特徴とする。
請求項8に記載の発明によれば、第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状であることにより、メタルダイアフラムにかかる応力を均一にすることができ、耐久性が向上する。
請求項9に記載の発明は、請求項7または請求項8に記載のメタルダイアフラムであって、前記曲率半径は15mm以上であることを特徴とする。
請求項9に記載の発明によれば、前記曲率半径は15mm以上であることにより、メタルダイアフラムにかかる集中的な応力を軽減することができ、耐久性が向上する。
請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムであって、前記第一の断面と前記第二の断面の空間高さ比率が0.9〜1.1であることを特徴とする。
請求項10に記載の発明によれば、空間高さ比率が0.9〜1.1であることにより、メタルダイアフラムにかかる集中的な応力を軽減することができ、耐久性が向上する。
請求項11に記載の発明は、請求項7〜10のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムであって、前記メタルダイアフラムに用いられる合金の組成は、質量比でCo28〜38%、Ni10〜20%、Cr5〜20%、W3〜5%、Mo3〜15%、Ti0.1〜1%、Fe0.1〜26%、Mn≦1.5%、C≦0.1%及び不可避不純物からなるCo基合金であることを特徴とする。
請求項11に記載の発明によれば、硬度、強度、耐食性、長期使用耐久性を有する、メタルダイアフラムを得ることができる。
以下に、この組成範囲を規定した理由を説明する。
Coは、それ自体加工硬化能が大きく、切り欠け脆さを減じ、疲労強度を高め、高温強度を高める効果があるが、28%未満では疲労強度を高める効果が弱くなり、本組成では38%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に面心立方格子相が最密六方格子相に対して不安定になるため、28〜38%とした。
Niは、ベースメタルとしてCr、Moを十分に固溶し、耐食性を高める効果と当該合金を強化する効果があるが、Niが10%未満では耐食性が低下し、20%を越えると機械的強度が低下することから、10〜20%とした。
Crは、耐食性を確保するのに不可欠な成分であり、またマトリクスを強化する効果があるが、5%未満では優れた耐食性を得る効果が弱く、20%を越えると加工性及び靱性が低下することから、5〜20%とした。
Wは、マトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を著しく増大させる効果があるが、3%未満では加工硬化能を増大させる効果が弱く、5%を越えるとσ相を析出して靭性が低下することから、3〜5%以下とした。
Moは、マトリクスに固溶してこれを強化する効果、加工硬化能を増大させる効果、及びハロゲンイオンを含む腐食環境に対して耐食性を高める効果があるが、3%未満では加工硬化能を増大させ、耐食性を高める効果が得られず、15%を越えるとσ相が析出して、加工性が急激に低下することから、3〜15%とした。
Tiは、強い脱酸、脱窒、脱硫の効果、及び鋳塊組織の微細化の効果があるが、0.1%未満ではその効果が弱く、多過ぎると靭性が低下することから、0.1〜1%とした。
Feは、マトリックスに固溶してこれを強化する効果があり0.1%未満では効果が弱い。Feは、コスト面からも効果がえられるが、多過ぎると耐酸化性が低下するため、0.1〜26%とした。
Mnは、脱酸、脱硫の効果、及び面心立方格子相を安定化する効果があるが、多過ぎると耐食性、耐酸化性を劣化させるので、1.5%以下とした。
Cは、Crと結合してCr炭化物を形成し耐食性を劣化させるので、極力減少させることが好ましく、例えば、0.1%以下とすることができる。
なお、請求項11に記載の発明のメタルダイアフラムを構成する合金は、上記元素の他に、Si、Mn、P、S、Al等、合金の製造工程で混入する微量元素を含んでいても良い。なお、メタルダイアフラムを構成する合金がこれらの微量元素を含有する場合、Feの一部と置き換えることができる。
請求項12に記載の発明は、請求項7〜10のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムであって、前記メタルダイアフラムに用いられる合金の組成は、質量比でCo28〜38%、Ni12〜54.9%、Cr12〜25%、Mo8〜15%、Nb0.1〜3%、Ti0.1〜1%、Fe0.1〜3%、及び不可避不純物からなるNi基合金であることを特徴とする。
請求項12に記載の発明によれば硬度、強度、高耐食性、長期使用耐久性に優れたメタルダイアフラムを得ることができる。
以下に、この組成範囲を規定した理由を説明する。
Coは、それ自体加工硬化能が大きく、切り欠け脆さを減じ、疲労強度を高め、高温強度を高める効果があるが、28%未満では疲労強度を高める効果が弱くなり、本組成では38%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に面心立方格子相が最密六方格子相に対して不安定になるため、28〜38%とした。
Niは、面心立方子格子相を安定化し、加工性を維持し、耐食性を高める効果があるが、Niが12%未満では耐食性が低下し、54.9%を越えると機械的強度が低下する可能性があることから、12〜54.9%とした。
Crは、耐食性を確保するのに不可欠な成分であり、またマトリクスを強化する効果があるが、12%未満では優れた耐食性を得る効果が弱く、25%を越えると加工性及び靱性低下することから、12〜25%とした。
Moは、マトリクスに固溶してこれを強化する効果、加工硬化能を増大させる効果、及びハロゲンイオンを含む腐食環境に対して耐食性を高める効果があるが、8%未満では加工硬化能を増大させ、耐食性を高める効果が得られず、15%を越えるとσ相が析出して、加工性が急激に低下することから、8〜15%とした。
Nbは、マトリックスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を増大させる効果があるが、0.1%未満ではこの効果が弱く、3%を超えると靭性が低下することから0.1〜3%とした。
Tiは、強い脱酸、脱窒、脱硫の効果、及び鋳塊組織の微細化の効果があるが、0.1%未満ではその効果が弱く、1%より多過ぎると靭性が低下することから、0.1〜1%とした。
Feは、マトリックスに固溶してこれを強化する効果があり0.1%未満では効果が弱いが、多過ぎると耐酸化性が低下するため、0.1〜3%とした。
なお、請求項12に記載の発明のメタルダイアフラムを構成する合金は、上記元素の他に、C、Mn、Si、等、合金の製造工程で混入する微量元素を含んでいても良い。なお、メタルダイアフラムを構成する合金がこれらの微量元素を含有する場合、Niの一部と置き換えることができる。
請求項13に記載の発明は、請求項7〜12のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムであって、厚みが0.05〜0.3mmであることを特徴とする。
請求項13に記載の発明によれば、メタルダイアフラムにかかる集中的な応力を軽減することができ、耐久性が向上する。
請求項14に記載の発明は、請求項7〜13のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムであって、空間高さが0超過2.5mm以下であることを特徴とする。
請求項14に記載の発明によれば、メタルダイアフラムにかかる集中的な応力を軽減することができ、耐久性が向上する。
請求項15に記載の発明は、請求項7〜14のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムであって、外径が8〜100mm以下であることを特徴とする。
請求項14に記載の発明によれば、メタルダイアフラムにかかる集中的な応力を軽減することができ、耐久性が向上する。
本発明の製造方法により、均一な曲率半径を有する部分球形状に加工することができ、高強度、高耐食性、高耐久性に優れたメタルダイアフラムを提供することができる。さらに、メタルダイアフラムを作動させた際にメタルダイアフラムに加わる応力を均一にする事ができ、高耐久性に優れたメタルダイアフラムを得ることができる。
さらに、本発明のメタルダイアフラムは、所定の合金組成により形成されることにより、硬度、引張強さが高く、高い圧力下で使用しても、寿命が長く、又、腐食性ガスにも使用できる高耐食性のメタルダイアフラムとすることができる。
本発明のメタルダイアフラムの一例を示す概略断面図である。 本発明のメタルダイアフラムと従来例の輪郭形状を示す断面図である。 本発明のメタルダイアフラムの耐久試験結果を示すグラフである。 本発明のメタルダイアフラムの空間高さHを示す概略断面図である。
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(本発明のメタルダイアフラムの作製)
まず、組成が、質量比でCr:20.11%、Ni:32.07%、Mo:10.02%、Fe:1.9%、Nb:0.91%、Ti:0.49%、残部がCoと不可避不純物よりなる合金を、真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径20mmの棒材を作製した。
以下に、この合金組成に決定した理由を説明する。
Coは、それ自体加工硬化能が大きく、切り欠け脆さを減じ、疲労強度を高め、高温強度を高める効果があるが、28%未満では疲労強度を高める効果が弱くなり、本組成では38%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に面心立方格子相が最密六方格子相に対して不安定になるため、28〜38%が好ましい。
Niは、面心立方子格子相を安定化し、加工性を維持し、耐食性を高める効果があるが、Niが12%未満では耐食性が低下し、54.9%を越えると機械的強度が低下する可能性があることから、12〜54.9%が好ましい。
Crは、耐食性を確保するのに不可欠な成分であり、またマトリクスを強化する効果があるが、12%未満では優れた耐食性を得る効果が弱く、25%を越えると加工性及び靱性低下することから、12〜25%が好ましい。
Moは、マトリクスに固溶してこれを強化する効果、加工硬化能を増大させる効果、及びハロゲンイオンを含む腐食環境に対して耐食性を高める効果があるが、8%未満では加工硬化能を増大させ、耐食性を高める効果が得られず、15%を越えるとσ相が析出して、加工性が急激に低下することから、8〜15%が好ましい。
Nbは、マトリックスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を増大させる効果があるが、0.1%未満ではこの効果が弱く、3%を超えると靭性が低下することから0.1〜3%が好ましい。
Tiは、強い脱酸、脱窒、脱硫の効果、及び鋳塊組織の微細化の効果があるが、0.1%未満ではその効果が弱く、1%より多過ぎると靭性が低下することから、0.1〜1%が好ましい。
Feは、マトリックスに固溶してこれを強化する効果があり0.1%未満では効果が弱いが、多過ぎると耐酸化性が低下するため、0.1〜3%が好ましい。
なお、メタルダイアフラムを構成する合金は、上記元素の他に、C、Mn、Si、等、合金の製造工程で混入する微量元素を含んでいても良い。なお、メタルダイアフラムを構成する合金がこれらの微量元素を含有する場合、Niの一部と置き換えることができる。
また、加工率が20%未満では、後述する時効効果が得られないため、冷間加工の加工率を20%以上にすることにより、合金自体の硬度を高めることができ、良好な強度、及び剛性のメタルダイアフラムを製造することができる。なお、加工率は40%以上に設定することがより好ましい。また、90%以上になると合金自体の硬度が高くなりすぎ脆くなってしまう。そのため、加工率は90%以下にすることが好ましい。
次に、この棒材を切断機により棒材の中心線に対し直角に円盤形状に切断した。さらに、円盤形状に切断された円盤材の表面を研磨機により表面粗さRmax0.6μm以下になるように研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。研磨を行うことで、より平滑性が得られ、メタルダイアフラムの接触磨耗によるパーティクルの発生が抑えられる。この円盤材を、プレス機にて成形することにより、図1に示すような部分球形状で、外径Φ=20mm、厚さ0.1mm、空間高さH=1.00mmのメタルダイアフラムを作製した。外径Φに関しては、棒材のときの外径と比較して若干小さくなる。本明細書ではその外径の変化量は外径寸法に影響しない程度であるため、棒材の時点での外径と部分球形状に成形した後の外径を同一に表記する。プレス成形では、均一な曲率半径を有する型を用いて成形することができる。また、成形はメカプレス成形または流体プレス成形で行うことにより、同一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムを成形することができる。その後、このメタルダイアフラムに対し500℃で真空熱処理を行った。このように時効処理を行うことで、メタルダイアフラムの機械的強度が増し、さらに、良好な弾性特性を得ることができる。すくなくとも20%以上の冷間加工した棒材から成形した円盤材をさらに時効処理することで、合金自体が、静的ひずみ時効により時効硬化して一層高い機械的強度を有する高弾性合金になり、さらに優れたメタルダイアフラムにすることができる。特に、少なくとも300℃以上の温度で時効処理するので合金の時効効果を確実に発現させることができる。一方、上限は700℃以下に設定するので、合金の再結晶による軟化を防止することができる。なお本実施形態の合金における最適組成での十分な時効硬化と靱性が得られるより望ましい時効処理温度は350℃以上650℃以下である。この製造方法によれば、第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムを製造することができる。
(従来のメタルダイアフラムの作製)
組成が質量比で、Cr:20.11%、Ni:32.07%、Mo:10.02%、Fe:1.9%、Nb:0.91%、Ti:0.49%、残部がCoと不可避不純物よりなる合金を、真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間圧延加工を施して、板材を作成し、プレス抜きにより円盤状に型抜きした後、表面を研磨機により表面粗さRmax0.6μm以下になるように研磨加工を施し、ドーム状に成形することにより、外径Φ=20mm、厚さ0.1mm、空間高さH=1.00mmのメタルダイアフラムを作製し、500℃で真空熱処理(時効処理)を行った。
(比較)
図2は、本発明のメタルダイアフラムと従来例の輪郭形状を示す断面図である。作製した各メタルダイアフラムに対して、輪郭形状測定機を使用して、メタルダイアフラムの部分球形状の外側部の輪郭を測定した。この測定は、任意の方向であるX方向(第一の断面)と、X方向に直角なY方向(第二の断面)をトレースする。ここで、従来品では圧延方向をX方向として測定した。また、従来品のこれに垂直なY方向を圧延直角方向と呼ぶ。
このトレース結果を図2(a)から(d)に示す。(a)は本発明品であり、任意の方向(X方向)のトレース図である。(b)も本発明品であり、X方向に対する直角方向(Y方向)のトレース図である。(c)は従来技術品であり、X方向として圧延方向のトレースした図である。(d)も従来技術品であり、X方向に直角である圧延直角方向(Y方向)のトレース図である。
図2の「高さ方向」とは、輪郭形状測定機のZ方向のことであり、被測定物が置かれている台に対して垂直方向をいう。「空間高さ」とは、高さ方向の頂点部とメタルダイアフラムの端部の距離からメタルダイアフラムの厚みを除いたものをいう。具体的には、図4に示すHが「空間高さ」である。成形により、メタルダイアフラムには歪みが生じるため、輪郭の両端部で「空間高さ」が異なる場合がある。このため、この場合は両端部の空間高さを平均した値とする。「空間高さ比率」とはX方向の空間高さとY方向の空間高さの比率である。なお、トレースの際、Z方向からの押し付けはないものとする。
従来技術品は、X方向とY方向の空間高さの比率が1:0.8であり、メタルダイアフラムがX方向(圧延方向)とY方向(圧延直角方向)で断面形状の異なることがわかる。これに対し、本発明品は、1:1の比率が得られた。また、本発明のメタルダイアフラムを100個作製した際に1:0.9の比率のものが得られたが、これは、プレス成形の際に使用した型に歪みがあったためであった。このように、X方向とY方向の空間高さ比率は0.9〜1.1程度であったが、メタルダイアフラムの特性に問題は無かった。この結果と図2から、本発明にかかるメタルダイアフラムは、X方向の断面形状とY方向の断面形状が同一であることがわかる。また、本発明により、均一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムが得られたことがわかる。
上記により作製した各メタルダイアフラムを、所定量たわませて戻す際の破壊に至るまでの繰返し数を測定した結果を図3に示した。図3は、耐久試験結果のグラフである。縦軸はたわみ量、横軸は繰返し数を示す。図3における●が本発明品の繰返し数の測定点であり、▲が従来技術品の繰返し数の測定点である。
本発明品は、すべてのたわみ量で、従来技術品よりも破壊に至るまでの繰返し数が多い。このことからも、本発明は、従来品に比べ、耐久性に優れていることがわかる。
(実施例1)
まず、組成が、質量比でCo:38.0%、Ni:16.7%、Cr:11.8%、W:3.95%、Mo:3.97%、Ti:0.55%、Mn:0.78%、C:0.007%と残部がFeと不可避不純物よりなる合金を、真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径10mmの棒材を作製した。
以下に、この合金組成に決定した理由を説明する。
Coは、それ自体加工硬化能が大きく、切り欠け脆さを減じ、疲労強度を高め、高温強度を高める効果があるが、28%未満では疲労強度を高める効果が弱くなり、本組成では38%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に面心立方格子相が最密六方格子相に対して不安定になるため、28〜38%が好ましい。
Niは、ベースメタルとしてCr、Moを十分に固溶し、耐食性を高める効果と当該合金を強化する効果があるが、Niが10%未満では耐食性が低下し、20%を越えると機械的強度が低下することから、10〜20%が好ましい。
Crは、耐食性を確保するのに不可欠な成分であり、またマトリクスを強化する効果があるが、5%未満では優れた耐食性を得る効果が弱く、20%を越えると加工性及び靱性が低下することから、5〜20%が好ましい。
Wは、マトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を著しく増大させる効果があるが、3%未満では加工硬化能を増大させる効果が弱く、5%を越えるとσ相を析出して靭性が低下することから、3〜5%が好ましい。
Moは、マトリクスに固溶してこれを強化する効果、加工硬化能を増大させる効果、及びハロゲンイオンを含む腐食環境に対して耐食性を高める効果があるが、3%未満では加工硬化能を増大させ、耐食性を高める効果が得られず、15%を越えるとσ相が析出して、加工性が急激に低下することから、3〜15%が好ましい。
Tiは、強い脱酸、脱窒、脱硫の効果、及び鋳塊組織の微細化の効果があるが、0.1%未満ではその効果が弱く、多過ぎると靭性が低下することから、0.1〜1%とした。
Feは、マトリックスに固溶してこれを強化する効果があり0.1%未満では効果が弱い。Feは、コスト面からも効果がえられるが、多過ぎると耐酸化性が低下するため、0.1〜26%が好ましい。
Mnは、脱酸、脱硫の効果、及び面心立方格子相を安定化する効果があるが、多過ぎると耐食性、耐酸化性を劣化させるので、1.5%以下が好ましい。
Cは、Crと結合してCr炭化物を形成し耐食性を劣化させるので、極力減少させることが好ましく、例えば、0.1%以下とすることができる。
なお、メタルダイアフラムを構成する合金は、上記元素の他に、Si、Mn、P、S、Al等、合金の製造工程で混入する微量元素を含んでいても良い。なお、メタルダイアフラムを構成する合金がこれらの微量元素を含有する場合、Feの一部と置き換えることができる。
次に、この棒材を切断機により棒材の中心線に対し直角に円盤形状に切断した。さらに、円盤形状に切断された円盤材の表面を研磨機により表面粗さRmax0.6μm以下になるように研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。この円盤材を、プレス機にて成形することにより、図1に示すような部分球形状で、曲率半径が50mmのメタルダイアフラムを作製した。その後、このメタルダイアフラムに対し500℃で真空熱処理を行った。このような製造方法で、メタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、所定量たわませて戻す際の破壊に至るまでの繰返し数を測定し、耐久試験を行った。
(実施例2)
実施例1と同様な研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、曲率半径が100mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例3)
実施例1と同様な研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、曲率半径が150mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例4)
実施例1と同様な研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、曲率半径が15mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(比較例1)
実施例1と同様な研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、曲率半径が10mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
Figure 0005654376
実施例1〜4及び比較例1の耐久試験結果を表1に示す。
表1より、実施例1から4までは繰返し数が200万回以上と耐久性に優れていることがわかった。一方、比較例1は10万回以下でメタルダイアフラムに割れが発生した。そのためメタルダイアフラムの曲率半径は15mm以上が好ましい。また、曲率半径が限りなく大きい平面状においても、塑性変形しない程度の量をたわませることにより、メタルダイアフラムとして使用することができる。そのため曲率半径が大きく平面に近い状態のものであっても耐久性が優れており、メタルダイヤフラムとして使用可能である。
(実施例5)
実施例1と同様に外径10mmの棒材を作製し、円盤形状に切断した。円盤形状に切断された円盤材に研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を用い、曲率半径が50mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例6)
実施例1と同様に外径10mmの棒材を作製し、円盤形状に切断した。円盤形状に切断された円盤材に研磨加工を施し、厚さ0.3mmの円盤材を用い、曲率半径が50mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例7)
実施例1と同様に外径10mmの棒材を作製し、円盤形状に切断した。円盤形状に切断された円盤材に研磨加工を施し、厚さ0.05mmの円盤材を用い、曲率半径が50mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(比較例2)
実施例1と同様に外径10mmの棒材を作製し、円盤形状に切断した。円盤形状に切断された円盤材に研磨加工を施し、厚さ0.4mmの円盤材を用い、曲率半径が50mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
Figure 0005654376
実施例5〜7及び比較例2の耐久試験結果を表2に示す。
表2より、実施例5から7までは繰返し数が200万回以上と耐久性に優れていることがわかった。一方、比較例2は10万回以下でメタルダイアフラムに割れが発生した。そのためメタルダイアフラムの厚みは0.3mm以下が好ましい。また、厚みが0.05mm未満となると、所定量たわませてからの戻りが弱く、メタルダイアフラムとして機能しなくなる。そのため、厚みは0.05mm以上であることが望ましい。
(実施例8)
実施例1と同様な外径10mmの研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、空間高さが1mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例9)
実施例1と同様な外径10mmの研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、空間高さが2mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例10)
実施例1と同様な外径10mmの研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、空間高さが2.5mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例11)
実施例1と同様な外径10mmの研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、空間高さが0.2mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(比較例12)
実施例1と同様な外径10mmの研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機での成形し円盤材のゆがみを取り除き、空間高さが0mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(比較例3)
実施例1と同様な外径10mmの研磨加工を施した厚さ0.1mmの円盤材を用い、プレス機にて成形し、空間高さが3mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
Figure 0005654376
実施例8〜12及び比較例3の耐久試験結果を表3に示す。
表3より、実施例8から12までは繰返し数が200万回以上と耐久性に優れていることがわかった。一方、比較例3は10万回以下でメタルダイアフラムに割れが発生した。そのためメタルダイアフラムの空間高さは0mm超過2.5mm以下が好ましい。空間高さ0mmにおいても、塑性変形しない程度の量をたわませることにより、メタルダイアフラムとして使用することができた。そのため、少しでも空間高さがあり、均一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラムであれば、優れた耐久性を有することがわかる。
(実施例13)
実施例1と同様な組成の合金を真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径10mmの棒材を作製した。次に、この棒材を切断機により棒材の中心線に対し直角に円盤形状に切断した。さらに、円盤形状に切断された円盤材の表面を研磨機により表面粗さRmax0.6μm以下になるように研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。その後、円盤材をプレス機にて成形し、曲率半径が150mmで外径が10mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例14)
実施例1と同様な組成の合金を真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径20mmの棒材を作製した。次に、この棒材から円盤材を切り出し、研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。その後、円盤材をプレス機にて成形し、曲率半径が150mmで外径が20mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例15)
実施例1と同様な組成の合金を真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径30mmの棒材を作製した。次に、この棒材から円盤材を切り出し、研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。その後、円盤材をプレス機にて成形し、曲率半径が150mmで外径が30mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(実施例16)
実施例1と同様な組成の合金を真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径8mmの棒材を作製した。次に、この棒材から円盤材を切り出し、研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。その後、円盤材をプレス機にて成形し、曲率半径が150mmで外径が8mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
(比較例4)
実施例1と同様な組成の合金を真空溶解により高清浄度化し、加工率60%で冷間伸線加工を施して、外径6mmの棒材を作製した。次に、この棒材から円盤材を切り出し、研磨加工を施し、厚さ0.1mmの円盤材を作製した。その後、円盤材をプレス機にて成形し、曲率半径が150mmで外径が6mmのメタルダイアフラムを作製した。作製したメタルダイアフラムは、実施例1同様の耐久試験を行った。
Figure 0005654376
実施例13〜16及び比較例4の耐久試験結果を表4に示す。
表4より、実施例13から16までは繰返し数が200万回以上と耐久性に優れていることがわかった。一方、比較例4は10万回以下でメタルダイアフラムに割れが発生した。そのためメタルダイアフラムの外径は8mm以上が好ましい。メタルダイアフラムの外径が100mm以上になると耐久性が悪いため、100mm以下が好ましい。

Claims (15)

  1. 合金を真空溶解により高清浄度化する溶解工程と、
    前記溶解工程で溶解された前記合金を棒状に加工する冷間伸線加工工程と、
    前記棒状に加工された棒材をその中心線に対し直角に円盤形状に切断する切断工程と、
    前記円盤形状に切断された円盤材をプレス成形する成形工程と、
    を有することを特徴とするメタルダイアフラムの製造方法。
  2. 前記冷間伸線加工工程において、前記棒材は20〜90%の冷間加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のメタルダイアフラムの製造方法。
  3. 前記切断工程と前記成形工程の間に、前記円盤材を研磨する研磨工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のメタルダイアフラムの製造方法。
  4. 前記成形工程のあとに、前記円盤材を300℃〜700℃で時効処理を行う工程を有する事を特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムの製造方法。
  5. 前記成形工程はメカプレス成形による成形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムの製造方法。
  6. 前記成形工程は流体プレス成形による成形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のメタルダイアフラムの製造方法。
  7. 均一な曲率半径を有する部分球形状のメタルダイアフラム。
  8. 第一の断面と前記第一の断面に直角方向に交差する第二の断面の形状が同一な曲率半径を有する部分球形状であることを特徴とする請求項7に記載のメタルダイアフラム。
  9. 前記曲率半径は15mm以上であることを特徴とする請求項7または8に記載のメタルダイアフラム。
  10. 前記第一の断面と前記第二の断面の空間高さ比率が0.9〜1.1であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のメタルダイアフラム。
  11. 前記メタルダイアフラムに用いられる合金の組成は、質量比でCo28〜38%、Ni10〜20%、Cr5〜20%、W3〜5%、Mo3〜15%、Ti0.1〜1%、Fe0.1〜26%、Mn≦1.5%、C≦0.1%及び不可避不純物からなるCo基合金であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載のメタルダイアフラム。
  12. 前記メタルダイアフラムに用いられる合金の組成は、質量比でCo28〜38%、Ni12〜54.9%、Cr12〜25%、Mo8〜15%、Nb0.1〜3%、Ti0.1〜1%、Fe0.1〜3%、及び不可避不純物からなるNi基合金であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載のメタルダイアフラム。
  13. 厚みが0.05〜0.3mmであることを特徴とする請求項7〜12のいずれか一項に記載のメタルダイアフラム。
  14. 空間高さが0超過2.5mm以下であることを特徴とする請求項7〜13のいずれか一項に記載のメタルダイアフラム。
  15. 外径が8〜100mm以下であることを特徴とする請求項7〜14のいずれか一項に記載のメタルダイアフラム。
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