JP7428501B2 - アルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質の改質方法 - Google Patents

アルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質の改質方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質の改質方法に関する。
現在、リチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。そのため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置や、短絡防止のために構造及び材料面の改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質に変えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
リチウムイオン電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。硫化物固体電解質の結晶構造としては種々のものが知られているが、電池の使用温度領域を拡げるという観点からは、広い温度範囲で構造が変化し辛い安定な結晶構造が適している。このような硫化物固体電解質として、例えば、アルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造を有する硫化物固体電解質(以下、アルジロダイト型固体電解質ということがある。)が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
ところで、アルジロダイト型固体電解質に限らず、硫化物固体電解質は空気中の水分により劣化することが知られている。これに対し、例えば、特許文献2及び3には、高温による脱水処理により固体電解質に付着した水分や揮発成分を除去する方法が記載されている。特許文献2では、さらに、脱水処理した層に防水処理を施すことが記載されている。
特表2010-540396号公報 特開2014-216217号公報 特開2008-103145号公報
アルジロダイト型固体電解質は、水分による劣化に加えて、室温における硫化水素の発生量が比較的多いという課題がある。
本発明の目的の1つは、室温における硫化水素の発生量を低減することのできる、アルジロダイト型固体電解質の改質方法を提供することである。
本発明の一実施形態によれば、アルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質を、露点が-60℃以上-20℃以下の気体に、100℃超200℃以下の温度で曝露することを含む、固体電解質の改質方法が提供される。
本発明の一実施形態によれば、室温における硫化水素の発生量を低減することのできる、アルジロダイト型固体電解質の改質方法を提供できる。
曝露試験装置の概略構成図である。 実施例1の曝露試験による測定結果を示すグラフである。 実施例1~3における硫化水素発生量と曝露時間の関係を示すグラフである。 実施例4における硫化水素発生量と曝露時間の関係を示すグラフである。 曝露をしなかった試料と実施例1にて曝露した試料について、露点-30℃の窒素雰囲気下、室温における硫化水素の発生量を評価したグラフである。 参考例における硫化水素発生量と曝露時間の関係を示すグラフである。
本発明の一実施形態に係る固体電解質の改質方法は、アルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質を、露点が-60℃以上-20℃以下の気体に、100℃超200℃以下の温度で曝露することを含む。本実施形態では、アルジロダイト型固体電解質を、水分を少量含む気体に所定の温度範囲内で曝露することにより、曝露後の固体電解質の室温における硫化水素の発生量を低減できる。
アルジロダイト型結晶構造は、PS 3-構造を骨格の主たる単位構造とし、その周辺にあるサイトを、Liで囲まれた硫黄イオン(S2-)及び任意にハロゲンイオン(Cl、Br等)が占有している構造である。一般的なアルジロダイト型結晶構造は、空間群F-43Mで示される結晶構造である。該結晶構造は、結晶学的には、PS 3-構造の周辺に4aサイトと4dサイトが存在し、イオン半径の大きい元素は4aサイトを占有し易く、イオン半径の小さい元素は4dサイトを占有し易い。
アルジロダイト型結晶構造の単位格子には、4aサイト及び4dサイトが合わせて8個ある。これらサイトの一部に存在するS2-が水分と反応して、硫化水素を発生するため、他の硫化物固体電解質よりも硫化水素の発生量が多いと推定される。そこで、本実施形態では、露点が-60℃以上-20℃以下の雰囲気下、すなわち、少量の水分を含む環境下で、所定の温度で熱処理することにより、固体電解質の表面付近のサイトに存在するS2-を酸素イオン(O2-)に置換する。これにより、固体電解質の室温における硫化水素の発生量を低減できる。
本実施形態において、アルジロダイト型固体電解質は特に限定されない。固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を含むことは、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=25.2±0.5deg及び29.7±0.5degに回折ピークを有することで確認できる。
2θ=25.2±0.5deg及び29.7±0.5degの回折ピークは、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークである。
アルジロダイト型結晶構造の回折ピークは、例えば、2θ=15.3±0.5deg、17.7±0.5deg、31.1.±0.5deg、44.9±0.5deg、47.7±0.5degにも現れることがある。アルジロダイト型固体電解質は、これらのピークを有していてもよい。
アルジロダイト型固体電解質としては、例えば、WO2015/011937、WO2015/012042、JP2016-24874、WO2016/104702、JP2010-540396、JP2011-096630、JP2013-211171に開示されている固体電解質を挙げることができる。
組成式としては、例えば、LiPSX、Li7-xPS6-x(X=Cl,Br,I、x=0.0~1.8)が挙げられる。
アルジロダイト型固体電解質は、上記のようなアルジロダイト型結晶構造のX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶質成分が含まれていてもよい。非晶質成分は、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に原料由来のピーク以外のピークを示さないハローパターンを示す。また、アルジロダイト型結晶構造以外の結晶構造や原料を含んでいてもよい。
本実施形態では、アルジロダイト型固体電解質を、露点が-60℃以上-20℃以下の気体に、100℃超200℃以下の温度で曝露する。
曝露に使用する気体は、窒素、アルゴン等の不活性ガス、又は、実際の製造工程を考慮した気体が好ましい。
気体の露点は-60℃以上-20℃以下である。この範囲であれば、気体内の水分量が適切であるため、固体電解質表面付近にあるサイトのS2-をO2-に置換できる。なお、露点が低すぎると、水分量が不足するため、イオンの置換が生じにくくなる。一方、露点が高すぎると、水分量が多すぎるため、水和物が形成され、固体電解質の劣化が進行する。気体の露点は-50℃以上-30℃以下が好ましい。
露点の制御方法は特に制限はなく、例えば、露点が十分に低い乾燥した気体に、加湿した気体を混合することによって、露点を高くすることができ、加湿した気体の混合量を調整することにより露点を制御できる。
露点を調整した気体を固体電解質に曝露させる。曝露時の温度は100℃超200℃以下である。該温度範囲であれば、固体電解質表面付近にあるサイトのS2-をO2-に置換できる。曝露時の温度は101℃以上でもよく、105℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。また、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。
曝露時の温度は、例えば、固体電解質を充填する容器にヒーター等の加熱装置を設置することにより制御できる。
本発明の一実施形態では、曝露によりイオン伝導度が大きく低下しない程度に固体電解質に吸水させることが好ましい。これにより、S2-をO2-に置換しやすくなる。
固体電解質の吸水は、例えば、カールフィッシャー水分計により曝露前後の水分量を比較することにより確認できる。
また、固体電解質内に水和物が生成しない範囲で吸水させることが好ましい。水和物が形成されると固体電解質が劣化し、イオン伝導率が低下する。
水和物の生成は、X線回折測定により確認できる。具体的に、2θ=14±1deg及び16±1degに回折ピークがある場合、水和物が生成したと判断する。
本発明の一実施形態では、曝露により、固体電解質から硫化水素を発生させることが好ましい。硫化水素の発生により、固体電解質表面付近にあるサイトのS2-がO2-に置換されているものと推定できる。硫化水素の発生は、例えば、曝露後の気体中における硫化水素量を硫化水素計で測定することにより確認できる。
また、曝露の時間を、硫化水素の発生量が最大値を経て減少するまでとすることが好ましい。アルジロダイト型固体電解質を上記の条件で曝露した場合、硫化水素の発生量は、曝露開始直後から急速に増加していき所定時間で最大値(ピーク)を迎え、その後、急速に低下する傾向がある。従って、硫化水素発生量のピークを越える時点まで曝露することにより、固体電解質表面付近にあるサイトのS2-が効率よくO2-に置換できると推定する。
曝露の時間は、硫化水素の発生量が最大値の70%以下になるまでとすることが好ましく、さらに、50%以下になるまでとすることが好ましく、特に、20%以下になるまでとすることが好ましい。
なお、アルジロダイト型固体電解質を上記条件で曝露したときの傾向と、他の硫化物固体電解質を曝露したときの傾向は異なる。例えば、JP2013-201110に開示された硫化物固体電解質の場合、硫化水素は長時間にわたり発生し、発生量の明確な最大ピークを示さない(後述する参考例を参照)。本実施形態は、アルジロダイト型固体電解質の上記傾向を発見し、かつ、上記曝露により室温における硫化水素の発生量を低減できることを見出したものである。
本実施形態の改質方法は、リチウムイオン電池に使用されるアルジロダイト型固体電解質の改質に好適に使用できる。改質後の固体電解質は、リチウムイオン電池の構成材料、例えば、正極、負極、電解質層等に使用できる。
アルジロダイト型固体電解質の製法は、公知の方法を採用すればよく、上述したWO2015/011937等を参照すればよい。
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
なお、評価方法は以下のとおりである。
(1)イオン伝導度測定
試料を錠剤成形機に充填し、22MPaの圧力を加え成形体とした。電極としてカーボンを成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えることで、測定用の成形体(直径約10mm、厚み0.1~0.2cm)を作製した。この成形体について交流インピーダンス測定によりイオン伝導度を測定した。伝導度の値は25℃における数値を採用した。
(2)水分量
カールフィッシャー水分計(三菱化学アナリテック社製、VA230型)を使用して測定した。試料を0.5g秤量し、バイアル瓶に入れ、水分計の加熱炉にセットし、測定を開始することにより自動で水分量が測定される。
製造例1
[硫化リチウム(LiS)の製造]
LiSの製造及び精製は、下記のように行った。
非水溶性媒体としてトルエン(住友商事株式会社製)を脱水処理し、カールフィッシャー水分計にて測定し水分量が100ppmとなったもの303.8kgを窒素気流下で容量が500Lのステンレス製反応釜に加え、続いて無水水酸化リチウム33.8kg(本荘ケミカル株式会社製)を投入し、ツインスター撹拌翼にて131rpmで撹拌しながら、95℃に保持した。
スラリー中に硫化水素(住友精化株式会社製)を100L/minの供給速度で吹き込みながら104℃まで昇温した。反応釜からは、水とトルエンの共沸ガスが連続的に排出された。この共沸ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するトルエンと同量のトルエンを連続的に供給し、反応液レベルを一定に保持した。
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後24時間で水の留出は認められなくなった。なお、反応の間は、トルエン中に固体が分散して撹拌された状態であり、トルエンから分層した水分は無かった。
この後、硫化水素を窒素に切り替え100L/minで1時間流通した。
得られた固形分をろ過及び乾燥して、白色粉末であるLiSを得た。
製造例2
[アルジロダイト型固体電解質の作製]
(A)原料の粉砕工程
製造例1で得たLiSを、窒素雰囲気下にて、定量供給機を有するピンミル(ホソカワミクロン株式会社製 100UPZ)にて粉砕した。投入速度は80g/min、円板の回転速度は18000rpmとした。
同様に、P(サーモフォス製)、LiBr(本荘ケミカル社製)及びLiCl(シグマアルドリッチ社製)を、それぞれ、ピンミルにて粉砕した。Pの投入速度は140g/min、円板の回転速度は18000rpmとした。LiBrの投入速度は230g/min、円板の回転速度は18000rpmとした。LiClの投入速度は250g/min、円板の回転速度は18000rpmとした。
(B)混合工程
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、上記(A)で粉砕した各化合物を、モル比がLiS:P:LiBr:LiCl=1.9:0.5:0.6:1.0であり、合計400gとなるように調製したものを、ガラス容器に投入し、容器を振盪することにより粗混合した。
粗混合物400gを二軸混練機(株式会社栗本鐵工所製、KRC-S1)に10g/minの速度で投入し、スクリュー回転数220rpmで運転した。このときの積算動力は0.10kWh/kgであった。得られた原料混合物のD50は、3.4μmであった。
(C)熱処理工程
上記(B)で得た原料混合物40gを、アルミナ製匣鉢に入れ、電気炉にて460℃で2時間熱処理して、アルジロダイト型固体電解質を得た。操作は全て窒素雰囲気下にて行った。
得られたアルジロダイト型固体電解質のイオン伝導率は10mS/cmであった。比表面積は2m/gであり、水分量は0.009質量%であった。
なお、比表面積は、ガス吸着量測定装置(AUTOSORB6(シスメックス(株)製))を用いて窒素法で測定した。
実施例1~4、比較例1、2
曝露試験装置を使用して、製造例2のアルジロダイト型固体電解質に、表1に示す条件で曝露試験を実施した。
曝露試験装置の概略構成図を図1に示す。
曝露試験装置1は、窒素を加湿するフラスコ10と、加湿した窒素と加湿しない窒素とを混合するスタティックミキサー20と、混合した窒素の水分を測定する露点計30(VAISALA社製M170/DMT152)と、測定試料を設置する二重反応管40と、二重反応管40から排出される窒素の水分を測定する露点計50と、排出された窒素中に含まれる硫化水素濃度を測定する硫化水素計測器60(AMI社製 Model3000RS)とを、主な構成要素とし、これらを管(図示せず)にて接続した構成としてある。フラスコ10の温度は冷却槽11により10℃に設定されている。
なお、各構成要素を接続する菅には直径6mmのテフロンチューブを使用した。本図では管の表記を省略し、代わりに窒素の流れを矢印で示してある。
評価の手順は以下のとおりとした。
露点を-80℃とした窒素グローボックス内で、粉末試料41を約1.5g秤量し、石英ウール42で挟むように反応管40内部に設置し密封した。
次に、ヒーター(図示せず)により反応管40内部を表1に示す温度に保持した。
窒素源(図示せず)から0.02MPaで窒素を装置1内に供給した。供給された窒素は、二又分岐管BPを通過して、一部はフラスコ10に供給され加湿される。その他は加湿しない窒素としてスタティックミキサー20に直接供給される。なお、窒素のフラスコ10への供給量はニードルバルブVで調整される。
加湿しない窒素及び加湿した窒素の流量を、ニードルバルブ付きフローメーターFMで調整することにより露点を制御する。具体的に、加湿しない窒素の流量を800mL/min、加湿した窒素の流量を10~30mL/minで、スタティックミキサー20に供給し、混合して、露点計30にて混合ガス(加湿しない窒素及び加湿した窒素の混合物)の露点を確認した。
露点を表1に示す温度に調整した後、三方コック43を回転して、混合ガスを反応管40内部に表1に示す時間流通させた。試料41を通過した混合ガスに含まれる硫化水素量を、硫化水素計測器60で測定した。なお、硫化水素量は15秒間隔で記録した。また、参考のため曝露後の混合ガスの露点を露点計50で測定した。
所定時間試料を曝露させた後、加湿した窒素の供給を止め、加湿しない窒素で反応管40を密閉した後、試料41を冷却した。
なお、測定後の窒素から硫化水素を除去するため、アルカリトラップ70を通過させた。
曝露条件、試料の曝露前後の水分量、曝露中の硫化水素発生量、曝露後のイオン伝導率、及び曝露後の試料の室温における硫化水素(HS)発生抑制効果を表1に示す。
なお、曝露後の試料の室温におけるHS発生抑制効果の評価は以下の通りとした。
○:HS発生の測定値の最大値が10ppm以下の場合
×:HS発生の測定値の最大値が10ppm超の場合
Figure 0007428501000001
表1から、実施例では試料の曝露後の水分量が増加していることがわかる。
図2は、実施例1の曝露処理による測定結果を示すグラフである。露点及び温度がほぼ一定に制御されていることが確認できる。また、硫化水素の発生が曝露開始後約2分でピークを迎え、以後、急速に減少することが確認できる。
図3は実施例1~3における硫化水素発生量と曝露時間の関係を示すグラフである。また、図4は実施例4における硫化水素発生量と曝露時間の関係を示すグラフである。
いずれも、曝露開始後の数分以内に硫化水素の発生がピークとなり、以後、急速に低下していくことが確認できる。
図5は曝露をしなかった試料(製造例2のアルジロダイト型固体電解質)と実施例1にて曝露した試料について、露点-30℃の窒素雰囲気下、室温(25℃)における硫化水素の発生量を評価したグラフである。図5から、曝露処理を施した試料の硫化水素発生量が約半分以下に低減されていることが確認できる。
実施例及び比較例で曝露した試料について、X線回折測定した結果、比較例1のX線回折パターンのみに、2θ=14±1deg及び16±1degに回折ピークが観測された。本結果から、比較例1の曝露条件では温度が低いため、窒素中の水分が過剰に固体電解質に吸着し、水和物が生成したものと推定できる。
なお、X線回折測定の条件は以下の通りとした。
固体電解質の粉末を、直径10mm、高さ0.1~0.3cmの円形ペレットに成形して測定試料とした。この試料を、XRD用気密ホルダーを用いて空気に触れさせずに測定した。回折ピークの2θ位置は、XRD解析プログラムJADEを用いて重心法にて決定した。
株式会社リガクの粉末X線回折測定装置SmartLabを用いて以下の条件にて実施した。
管電圧:45kV
管電流:200mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:平行ビーム法
スリット構成:ソーラースリット5°、入射スリット1mm、受光スリット1mm
検出器:シンチレーションカウンター
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.02deg、1deg/min
測定結果より結晶構造の存在を確認するためのピーク位置の解析では、XRD解析プログラムJADEを用い、3次式近似によりベースラインを引いて、ピーク位置を求めた。
製造例3
[アルジロダイト型固体電解質の作製]
(A)原料の粉砕工程
製造例2と同様にして、ピンミルにて原料を粉砕した。
(B)原料混合物の調製
窒素雰囲気のグローブボックス内にて、上記(A)で粉砕した各化合物を、モル比がLiS:P:LiBr:LiCl=47.5:12.5:15.0:25.0であり、合計110gとなるように計量したものを、ガラス容器に投入し、容器を振盪することにより粗混合した。
粗混合した原料110gを、窒素雰囲気下で、脱水トルエン(和光純薬製)1140mLと脱水イソブチロニトリル(キシダ化学製)7mLとの混合溶媒中に分散させ、約10質量%のスラリーとした。スラリーを窒素雰囲気に保ったまま、ビーズミル(LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)を用いて混合粉砕した。具体的に、粉砕媒体には直径0.5mmのジルコニアビーズ456gを使用し、周速12m/s、流量500mL/minの条件でビーズミルを稼働させ、スラリーをミル内に投入し、1時間循環運転した。処理後のスラリーを窒素置換したシュレンク瓶に入れた後、減圧乾燥して原料混合物を調製した。
(C)仮焼工程
上記(B)で得た原料混合物30gを、エチルベンゼン(和光純薬社製)300mLに分散させてスラリーとした。このスラリーを、撹拌機及び加熱用オイルバスを具備したオートクレーブ(容量1000mL、SUS316製)に投入し、回転数200rpmで撹拌しながら、200℃で2時間加熱処理した。処理後、減圧乾燥して溶媒を留去して、仮焼物を得た。
(D)焼成工程
上記(C)で得た仮焼物を、窒素雰囲気下のグローブボックス内の電気炉(F-1404-A、東京硝子器械株式会社製)で加熱した。具体的には、電気炉内にAl製の匣鉢(999-60S、東京硝子器械株式会社製)を入れ、室温から380℃まで1時間で昇温し380℃で1時間以上保持した。その後、電気炉の扉を開け、素早く仮焼物を匣鉢に注ぎ入れたのち、扉を直ちに閉じ、1時間加熱した。その後、匣鉢を電気炉より取り出し、徐冷することによりアルジロダイト型固体電解質を得た。
(E)微粒子化工程
得られたアルジロダイト型固体電解質を、窒素雰囲気下で、脱水トルエン(和光純薬製)と脱水イソブチロニトリル(キシダ化学製)との混合溶媒中に分散させ、約8質量%のスラリーとした。スラリーを窒素雰囲気に保ったまま、ビーズミル(LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)を用いて混合粉砕した。処理後のスラリーを窒素置換したシュレンク瓶に入れた後、減圧乾燥して微粒子化アルジロダイト型固体電解質を得た。比表面積は13m/gであり、水分量は0.010質量%であった。また、イオン伝導度は4.6mS/cmであった。
X線回折(XRD)測定の結果、XRDパターンには、2θ=25.5deg及び29.9deg等にアルジロダイト型結晶構造に由来するピークが観測された。
実施例5~7、比較例3
曝露試験装置1を使用して、製造例3のアルジロダイト型固体電解質に、表2に示す条件で曝露を実施した。
曝露条件、試料の曝露前後の水分量、曝露中の硫化水素発生量、曝露後のイオン伝導率、及び曝露後の試料の室温におけるHS発生抑制効果を表2に示す。
なお、曝露後の試料の室温におけるHS発生抑制効果の評価は以下の通りとした。
○:HS発生の測定値の最大値が20ppm以下の場合
×:HS発生の測定値の最大値が20ppm超の場合
Figure 0007428501000002
実施例8~12、比較例4、5
曝露試験装置1を使用して、製造例3の(E)微粒子化工程を実施していないアルジロダイト型固体電解質に、表3に示す条件で曝露を実施した。なお、(E)微粒子化工程を実施する前のアルジロダイト型固体電解質の比表面積は9m/gであり、水分量は0.010質量%であった。また、イオン伝導度は6.9mS/cmであった。
曝露条件、試料の曝露前後の水分量、曝露中の硫化水素発生量、曝露後のイオン伝導率、及び曝露後の試料の室温におけるHS発生抑制効果を表3に示す。
なお、曝露後の試料の室温におけるHS発生抑制効果の評価は以下の通りとした。
○:HS発生の測定値の最大値が20ppm以下の場合
×:HS発生の測定値の最大値が20ppm超の場合
Figure 0007428501000003
参考例
(1)Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio‐LISICON Region II)型と類似の結晶構造(以下、RII型結晶構造と略記することがある。)を有する固体電解質の作製
製造装置として、撹拌機付きの1.5Lガラス製反応器と、ビーズミル装置(アシザワ・ファインテック(株)製、スターミルミニツェア、0.15L、直径0.5mmのジルコニアボール444gを投入)とを接続した、混合物(スラリー)が循環できる製造装置を使用した。
硫化リチウム(LiOH含有量0.1質量%以下)を29.7g、五硫化二リンを47.8g、ヨウ化リチウムを15.4g、及び臭化リチウムを15.0gに、脱水トルエン1200mL及びジブチルエーテル(DBE)7.2mLを加えた混合物を製造装置に充填した。
ポンプにより、製造装置に充填された混合物(スラリー)を480mL/minの流量で上記反応器とビーズミル装置との間を循環させ、上記反応器を80℃になるまで昇温した。ビーズミル装置本体は、液温が70℃に保持できるように外部循環により温水を通水し、周速12m/sの条件で運転した。2時間毎にスラリーを採取し、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線回折を行ない、原料の残量を確認した。XRD分析の結果から、原料のXRDピークが消失し、硫化物ガラスが得られたことを確認し、48時間後に運転を終了した。
得られたスラリーをシュレンク瓶に入れ、60℃で真空乾燥した後、200℃の真空下で3時間熱処理することにより、RII型結晶構造を有する固体電解質を得た。
(2)曝露試験
図1の曝露試験装置を使用して、上記(1)で作製したRII型結晶構造を有する固体電解質の曝露試験を実施した。露点は-30℃とし、曝露温度は160℃とした。その他は実施例1と同様にした。硫化水素発生量と曝露時間の関係を示すグラフを図6に示す。
図6から、RII型結晶構造を有する固体電解質を高温で曝露した場合、長時間にわたり硫化水素が発生することがわかる。本傾向は実施例で評価したアルジロダイト型固体電解質と全く異なる。
1 曝露試験装置
10 フラスコ
11 冷却槽
20 スタティックミキサー
30、50 露点計
40 二重反応管
41 粉末試料
42 石英ウール
43 三方コック
60 硫化水素計測器
70 アルカリトラップ
V ニードルバルブ
FM ニードルバルブ付きフローメーター

Claims (8)

  1. 原料混合物を熱処理して得た、アルジロダイト型結晶構造を含む固体電解質を、露点が-60℃以上-20℃以下の気体に、100℃超200℃以下の温度で曝露することを含む、固体電解質の改質方法。
  2. 100℃超160℃以下の温度で曝露する、請求項1に記載の固体電解質の改質方法。
  3. 前記気体が、加湿しない気体と加湿した気体を混合することで露点を制御した混合気体である、請求項1又は2に記載の固体電解質の改質方法
  4. 前記曝露により、前記固体電解質に吸水させる、請求項1~3のいずれかに記載の固体電解質の改質方法。
  5. 水和物が生成しない範囲で吸水させる、請求項1~のいずれかに記載の固体電解質の改質方法。
  6. 前記曝露により、前記固体電解質から硫化水素を発生させる、請求項1~のいずれかに記載の固体電解質の改質方法。
  7. 前記曝露の時間を、前記硫化水素の発生量が最大値を経て減少するまでとする、請求項に記載の固体電解質の改質方法。
  8. 前記曝露の時間を、前記硫化水素の発生量が最大値の70%以下になるまでとする、請求項又はに記載の固体電解質の改質方法。
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