JP7424912B2 - 電解液およびマグネシウムの製造方法 - Google Patents

電解液およびマグネシウムの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、マグネシウムの電析を発生させる電解液、および電解液を用いたマグネシウムの製造方法に関する。また、電解液を用いたマグネシウムの製造方法により得られるマグネシウムおよびマグネシウム箔に関する。
マグネシウムは産業的に有用な金属であり、各種構造材料や合金への添加元素として利用されている。近年は、その電気容量の高さからマグネシウム二次電池の負極としての用途も注目されている。マグネシウム二次電池は、負極においてマグネシウムが溶解することで放電し、電気化学的に析出することで充電して動作する。そのため、負極に使用するマグネシウム箔を量産する技術が必要とされている。
従来、マグネシウム箔は圧延で製造されている。しかし、マグネシウムは六方最密充填構造の結晶を有しており、圧延による活性なすべり面は1面しかない。そのため、マグネシウムを数十μmの厚みまで圧延するのには膨大な回数の圧延加工が必要である。従って、圧延によるマグネシウム箔の製造にはコストがかかる。また、圧延で製造されたマグネシウム箔は、表面に自然酸化皮膜や水和皮膜が形成されている。このため、圧延で製造されたマグネシウム箔をマグネシウム二次電池の負極として使用する際には、マグネシウムの円滑な溶解および析出が阻害される。
これらの問題を解決するために、圧延によるマグネシウム箔の製造に代えて、非水溶媒中での電解プロセスによるマグネシウム箔の製造が検討されている。
ここで、マグネシウムは、電気化学的にプロトンの還元電位よりも大きく卑な金属である。従って、電解プロセスによりマグネシウム箔を析出させるためには、高温の溶融塩を用いる必要がある。例えば、マグネシウムの電解製錬では、溶融塩の浴温度は、700℃付近とされる。このような電解精錬では、溶融塩の浴温度がマグネシウムの融点(650℃)を超えるので、マグネシウム箔を量産には適用できない。従って、より低温、特には常温付近でマグネシウムが電気化学的に析出する電解液の開発が必要である。また、そのような電解液は、マグネシウム二次電池に充填する電解液としても使用できる。
このような電解液の開発初期においては、グリニャール試薬をエーテル系溶媒に溶解させることで常温でマグネシウムが電析することが見出された。だが、グリニャール試薬は水分、酸素との反応性が高く、場合によっては発火する可能性があるなど安全性に課題がある。従って、この技術は、マグネシウムを常温で電析させる電解液や、マグネシウム二次電池用の電解液として実用化されていない。
次に開発されたものは、Mg(AlR(R2、:アルキルアニオン、アリルアニオンなど、X:ハロゲン化物イオン)に代表される錯体をエーテル系溶媒に溶解した電解液であり、非特許文献1に記載されている。これはMg塩にR2、で記されるアルキルアニオンが含まれているため、グリニャール試薬の場合と同様に水分、酸素との反応性が高い。また、合成の煩雑さなどから製造コストが高くなり、産業利用は難しい。
これら以外のMg塩として、非特許文献2に記載のとおり、Mg(TFSA)が開発されている。しかし、非特許文献2の技術では、製造コストや還元安定性に課題がある。また、特許文献1、非特許文献3、4に記載のとおり、塩化マグネシウムと塩化アルミニ
ウムを1,2-ジメトキシエタンに溶解させた電解液も開発されている。しかし、これらの文献の電解液は、塩化アルミニウムが強いルイス酸なので、水分との反応性が高い。また、これらの文献の電解液は、電析したマグネシウムを腐食させるという問題がある。さらに、これらの文献の電解液は、電析により、電解液自体が劣化するという問題がある。従って、これらの文献の技術は、実用化には至っていない。これらの問題を解決するために、電解液にMg金属粉末を添加することも試みられているが、Mg金属粉末は高価であり、コストに課題がある。
さらに最近では、特許文献2に記載されているように、塩化マグネシウムをテトラヒドロフラン(THF)へ溶解させた電解液、または塩化マグネシウムと塩化リチウムの両方をTHFに溶解させた電解液が開発されている。特許文献2には、電解液に負極集電体を浸漬させて還元電流を流すことにより、負極集電体の表面にマグネシウムを含む負極活物質の析出物が形成されることが記載されている。
特開2014-186940号公報 国際公開2013/157187号公報
Doron Aurbach et al., Journal of The Electrochemical Society, 148, A1004-A1014 (2001) Masatsugu Oishi et al., Journal of The Electrochemical Society, 161, A943-A947 (2014) Shuijian He et al., Journal of Materials Chemistry A, 5, 12718-12722 (2017) Jian Luo et al., ACS Energy Letters, 2, 1197-1202 (2017)
上記の通り、電解プロセスによるマグネシウム箔の量産に用いられる電解液の開発が進められている。しかしながら、特許文献1及び非特許文献1~4の技術では、安全性、腐食性、製造コストなどの課題があり、実用化には至っていない。また、特許文献2の技術では、電解液に含まれる塩化マグネシウムおよび塩化リチウムの濃度が比較的低く、還元電流を流したときの電流密度が極めて小さくなる。従って、析出物は特有の形状を有し、マグネシウムを均一に析出させることができるものではない。よって、特許文献2の技術は、電解プロセスによるマグネシウム箔の量産には適していない。
本発明の課題は、このような問題に鑑みて、常温付近でマグネシウムの電析が可能であり、電流密度を向上させることのできる電解液を提供することにある。また、本発明の課題は、このような電解液を用いたマグネシウムの製造方法、およびマグネシウム箔の製造方法を提案することにある。
本発明者らは、鋭意検討の結果、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが非プロトン性溶媒に特定の濃度で溶解した電解液において、マグネシウムの電析が可能であり、電析時における電流密度が著しく上昇するという新たな知見を得た。本発明は、かかる新たな知見に基づくものである。
本発明の電解液は、塩化マグネシウム、塩化リチウム、及び非プロトン性溶媒を含み、前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムと前記塩化リチウムとが合計で0.11モル以上の濃度で溶解しており、前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムが0.045モル以上の濃度で溶解しており、前記非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフランであることを特徴とする。
本発明において、前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムが0.06モル以上の濃度で溶解していることが望ましく、前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムが0.08モル以上の濃度で溶解していることがさらに望ましい。
本発明において、前記非プロトン性溶媒1モルに対して、前記塩化マグネシウムと前記塩化リチウムとが合計で0.16モル以上の濃度で溶解していることが望ましい。
本発明において、前記塩化マグネシウムと前記塩化リチウムとのモル濃度の比が、1:1~3:1であるものとすることができる。
次に、本発明のマグネシウムの製造方法は、上記の電解液を用いてマグネシウムを電析させることを特徴とする。
本発明において、電流密度が10mA/cm2以上の条件で電析させることが望ましい。
本発明において、前記電解液の溶液温度を常温として電析させるものとすることができる。
さらに、本発明のマグネシウムの製造方法は、上記の電解液にワークを浸漬させて電解メッキを施し、当該ワークの表面にメッキ層を形成することを特徴とする。
本発明において、電流密度が10mA/cm2以上の条件で前記ワークに電解メッキを施すことが望ましい。
本発明において、前記電解液の溶液温度を常温として前記ワークに電解メッキを施すものとすることができる。
本発明の電解液を用いれば、マグネシウムを電析させることができる。また、電析時に、電流密度を向上させることができる。
実施例1~3、比較例1、2の電解液のサイクリックボルタモグラムである。 サイクリックボルタンメトリー測定で得られた各実施例、各比較例の-1Vにおける電流密度を示すグラフである。 実施例3の電解液を用いた定電位電解により析出した電解生成物の走査型電子顕微鏡像の写真である。 電解生成物のエネルギー分散型X線分析スペクトルである。 電解生成物のX線回折スペクトルである。 実施例3、4、比較例2、3の電解液のサイクリックボルタモグラムである。 試験3で測定した、マグネシウム作製時の電流密度と、平均膜厚の理論値に対する割合との関係を示すグラフである。
以下に本発明を適用した電解液、およびマグネシウムの製造方法の実施形態を説明する。ここで、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。なお、本明細書において、記号「~」を用いて下限値と上限値により数値範囲を表記する場合、その下限値及び上限値の両方を包含するものとする。
[1.電解液]
本例の実施の形態にかかる電解液は、塩化マグネシウム、塩化リチウム、及びの非プロトン性溶媒を含んでいる。また、本例の電解液は、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.09モル以上の濃度で溶解している。さらに、本例の電解液は、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムが0.045モル以上の濃度で溶解している。本例の電解液は、電解質として塩化マグネシウム及び塩化リチウムを含み、これらの電解質を溶解させる溶媒としての非プロトン性溶媒を含んでいる。
非プロトン性溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;エチレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、3-メチル-2-オキサゾリドン等のエーテル類;酢酸メチル等のエステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;等が挙げられる。これらの非プロトン性溶媒は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
非プロトン性溶媒は、非共有電子対を有する非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。また、非プロトン性溶媒は、エーテル類が好ましく、エチレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の炭素数2~5の環状エーテルであること
がより好ましい。さらに、非プロトン性溶媒は、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の炭素数3~5の環状エーテルであることがさらに好ましい。中でも、非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)が、特に好ましい。
通常、電解液では、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.09モル以上の濃度で溶解している。電解液では、非プロトン性溶媒1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で、0.11モル以上の濃度で溶解することが好ましく、0.13モル以上の濃度で溶解することがより好ましく、0.15モル以上の濃度で溶解することがさらに好ましく、0.16モル以上の濃度で溶解していることが、特に好ましい。電解液に溶解している塩化マグネシウムと塩化リチウムとの合計の濃度の上限は特に限定されないが、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.3モル以下であれば、これらを非プロトン性溶媒に溶解することが容易である。
また、通常、電解液では、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムが0.045モル以上の濃度で溶解している。ここで、電解液では、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムが0.05モル以上の濃度で溶解していることが好ましく、0.06モル以上の濃度で溶解していることがより好ましく、0.07モル以上の濃度で溶解していることがさらに好ましく、0.08モル以上の濃度で溶解していることが特に好ましい。なお、電解液に溶解している塩化マグネシウムの濃度の上限は特に限定されないが、塩化マグネシウムの濃度の上限を0.2モル以下であれば、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを非プロトン性溶媒に溶解することが容易である。
電解液において、通常、塩化マグネシウムのモル濃度は、塩化リチウムと同程度であるが、塩化マグネシウムのモル濃度は、塩化リチウムのモル濃度以上であってもよい。塩化リチウムに対する塩化マグネシウムのモル濃度の比は、1以上としてもよく、1.1以上としてもよく、1.5以上としてもよい。また、塩化リチウムに対する塩化マグネシウムのモル濃度の比は、3以下としてもよく、2.5以下としてもよい。すなわち、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1~3:1とすることが好ましい。より具体的には、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1~2.5:1としてもよく、1:1~2:1としてもよい。また、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1.1:1~3:1としてもよく、1.5:1~3:1としてもよい。また、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1.1:1~2.5:1としてもよく、1.5:1~2.5:1としてもよい。ここで、塩化マグネシウムのモル濃度が、塩化リチウムとのモル濃度の3倍を超える場合には、著しい電流密度の向上は見られない。従って、塩化マグネシウムのモル濃度は、塩化リチウムとのモル濃度の3倍以下が好ましい。
電解液における塩化リチウムの濃度は、上記の塩化マグネシウムとの関係を満たすものであれば限定されないが、非プロトン性溶媒1モルに対し、塩化マグネシウムが0.04モル以上の濃度で溶解していることが好ましく、0.045モル以上の濃度で溶解していることがより好ましく、0.06モル以上の濃度で溶解していることがさらに好ましく、0.08モル以上の濃度で溶解していることが特に好ましい。なお、電解液に溶解している塩化リチウムの濃度の上限は特に限定されないが、塩化リチウムの濃度の上限を0.2モル以下であれば、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを非プロトン性溶媒に溶解することが容易である。
上記の通り、本例の電解液では、非プロトン性溶媒に対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが、所定の濃度で溶解している。ここで、本明細書において、塩化マグネシウムや塩化リチウム等の電解質が溶解している濃度とは、電解液に実際に溶解している溶質
の濃度を示すものとする。ここで、非プロトン性溶媒に対して塩化マグネシウムや塩化リチウム等の電解質が完全に溶解している場合には、電解質の仕込み量から電解質が算出される濃度を、溶解している濃度とみなすことができる。一方、非プロトン性溶媒に対して塩化マグネシウムや塩化リチウム等の電解質が完全に溶解していない場合には、電解質が溶解している濃度は、電解質の仕込み量から算出される濃度ではなく、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分析などにより測定された値をいうものとする。
なお、電解液には、上記の金属塩の他に、塩化カルシウムなどの他の金属塩、その他の電解メッキ用の光沢剤等の添加剤が含まれていてもよい。また、電解液には、非プロトン性溶媒の他に、水、有機溶媒等の他の溶媒が含まれていてもよい。
[2.電解液の製造方法]
電解液は、非プロトン性溶媒に対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを、それぞれ上記の所定の濃度で溶解させて製造する。塩化マグネシウムと塩化リチウムは、非プロトン性溶媒に投入して、所定時間以上撹拌することにより溶解させることができる。このとき、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを同時に投入して撹拌することにより溶解させることが好ましい。しかし、塩化マグネシウムを先に投入して撹拌してその後に塩化リチウムを投入してさらに撹拌してもよく、塩化リチウムを先に投入して撹拌してその後に塩化マグネシウムを投入してさらに撹拌してもよい。
溶解に際しては、溶液温度を室温としてもよく、溶解速度を上げるために、溶液温度を室温よりも高く、例えば、60℃以上としてもよい。塩化マグネシウムと塩化リチウムとを溶解させるための攪拌時間は、塩化マグネシウムと塩化リチウムとの濃度にもよるが、溶液温度を室温とした場合には、24時間以上とすることが好ましい。また、溶液温度を60℃とした場合には、5時間以上とすることが好ましい。ここで、本明細書において、室温とは、15℃~25℃の範囲の温度をいう。なお、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを投入して攪拌した後に、溶解しなかった塩化マグネシウムと塩化リチウム等の電解質を電解液から濾別して、所望の濃度の電解液を得るようにしてもよい。
[3.電解液の用途]
本例の電解液は、マグネシウム、およびマグネシウム箔の製造に用いることができる。すなわち、本例の電解液を用いてマグネシウムを電析させることにより、マグネシウムを製造できる。また、本例の電解液を用いてマグネシウムを電析させるマグネシウムの製造方法では、電解液の溶液温度を常温として、マグネシウムを析出させることができる。ここで、本明細書において、常温とは、電気化学または溶融塩の分野における常温を指し、0℃~100℃の範囲の温度をいう。
かかる製造方法について、より具体的には、陰極と陽極とを本例の電解液に浸漬させて、電圧を印加する。陰極としては、白金、金、銀、モリブデン、アルミニウム、銅、ニッケル、炭素、などを用いることができる。陽極としては、マグネシウム、或いはマグネシウム合金を用いることができる。電解液の溶液温度は通常、常温とすることができる。
かかる製造方法では、通常、電流密度が1mA/cm2以上の条件で電析させることができる。本例の電解液を用いてマグネシウムを電析させる際の電流密度は、10mA/cm2以上が好ましく、20mA/cm2以上がより好ましく、30mA/cm2以上がさらに好ましく、40mA/cm2以上が特に好ましく、50mA/cm2以上が最も好ましい。電流密度が上記数値範囲の下限値以上であることで、マグネシウムを均一な状態で、緻密な膜状に析出させやすくなる。また、短時間に効率よくマグネシウムを析出させることで、生産性を向上させやすくなる。電流密度の上限値は特に限定されないが、200mA
/cm2以下が好ましく、100mA/cm2以下がより好ましい。電流密度が上記数値範囲の上限値以下であることで、マグネシウムがデンドライト状に析出されることを抑えやすくなる。
また、本例の電解液を用いたマグネシウムの製造方法として、本例の電解液にワークを浸漬させて電解メッキを施し、ワークの表面にメッキ層を形成する態様を採用することもできる。本例の電解液を用いてワークの表面に電解メッキを施すマグネシウムの製造方法では、電解液の溶液温度を常温として、メッキ層を形成できる。このような製造方法によれば、ワークの表面に、メッキ層として、マグネシウムが析出される。従って、マグネシウム箔を製造することが容易となる。
本形態の製造方法では、マグネシウム、或いはマグネシウム合金を陽極とし、ワークを陰極として本例の電解液に浸漬させて、電圧又は電流を印加する。ワークは、導電性を有する材料からなる。ワークは、平滑な表面を備えることが望ましい。ワークとしては、例えば、銅、プラチナ、アルミニウムなどの導電性金属を用いることができる。また、電解液の溶液温度は常温とすることができる。
さらに、本形態の製造方法においては、通常、電流密度が1mA/cm2以上の条件でワークに電解メッキを施すことができる。本例の電解液を用いてマグネシウムを電析させる際の電流密度は、10mA/cm2以上が好ましく、20mA/cm2以上がより好ましく、30mA/cm2以上がさらに好ましく、40mA/cm2以上が特に好ましく、50mA/cm2以上が最も好ましい。電流密度が上記数値範囲の下限値以上であることで、マグネシウムを均一な状態で、緻密な膜状にメッキ層を形成させやすくなる。また、短時間に効率よくマグネシウムを析出させることで、生産性を向上させやすくなる。電流密度の上限値は特に限定されないが、200mA/cm2以下が好ましく、100mA/cm2以下がより好ましい。電流密度が上記数値範囲の上限値以下であることで、マグネシウムがデンドライト状に析出されることを抑えやすくなる。
また、本例の電解液は、マグネシウム二次電池の電解液として用いることができる。マグネシウム二次電池は、電解液が充填されたセルの中に、セパレータを間に挟んで配置された負極と、正極と、を備える。負極には、マグネシウム、或いはマグネシウム合金が用いられる。正極には、遷移金属酸化物や電子受容性物質(酸化剤等)、マグネシウム吸蔵物質などが用いられる。マグネシウム二次電池は、負極においてマグネシウムが溶解し、電解液中を移動するマグネシウムイオンが正極と反応することで放電される。また、マグネシウム二次電池は、電解液中を移動するマグネシウムイオンが負極と反応して電気化学的に析出することで充電する。
ここで、本例の製造方法により製造されたマグネシウムおよびマグネシウム箔は、このようなマグネシウム二次電池の負極として用いることができる。
[4.作用効果]
本例の電解液は、塩化マグネシウム、塩化リチウム、及び非プロトン性溶媒を含む電解液である。従って、安全性、腐食性、コストに優れながら、常温付近でマグネシウム電析可能な電解液を提供することができる。
また、本例の電解液では、塩化マグネシウムと、塩化リチウムとが、所定の濃度で溶解している。これにより、塩化マグネシウム単独の場合よりも塩化マグネシウムの溶解度が上昇するので、本例の電解液を用いて電析を行う場合に、電流密度が向上する。
さらに、本例の電解液を用いて電析を行うことにより、マグネシウムを、均一な状態で
、緻密な膜状に析出させることができる。また、マグネシウムのみを、選択的に析出させることができる。従って、本例の電解液を用いれば、電解プロセスによるマグネシウムの量産が容易となる。また、本例の電解液は、マグネシウム二次電池に充填する電解液として用いることができる。
ここで、一般的に、電解質濃度が上昇するのに伴って電流密度も上昇するが、本例の電解液は、電解質濃度の上昇に伴って、電流密度が著しく上昇するという特異な性質を有する。
すなわち、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを合計で0.09モル以上の濃度に上昇させた電解液では、それらよりも塩化マグネシウムと塩化リチウムとの合計の濃度が低濃度域である電解液と比較して、電流密度が著しく上昇する。
塩化マグネシウムおよび塩化リチウムの電解質濃度の上昇に伴う電流密度の著しい上昇の理由、および、塩化マグネシウムおよび塩化リチウムの溶解比率を変えた際に現れる電流密度の変化の理由は、必ずしも明らかでは無いが、以下のメカニズムが寄与していると推察される。
電解液において、塩化マグネシウムと、非プロトン性溶媒を含む系においては、電解液に含まれるマグネシウムイオンに非プロトン性溶媒が配位することが知られている。より詳しくは、非共有電子対を有し、極性を持つ非プロトン性溶媒(非プロトン性極性溶媒)では、非共有電子対を有する酸素原子、窒素原子、塩素原子等が、マグネシウムイオンに配位する。例として、THFでは、THF中の酸素原子がマグネシウムイオンに配位する。なお、以下では、非プロトン性溶媒としてTHFを例示して説明するが、他の非プロトン性溶媒の場合についても同様に推察できる。
マグネシウムイオンは、電荷密度が高く、硬いルイス酸に分類される。従って、マグネシウムイオンに非プロトン性溶媒が配位するのは、電荷密度の高い酸素原子の非共有電子対とマグネシウムイオンとの親和性が高く、非プロトン性溶媒がマグネシウムイオンと錯体を形成するからであると考えられる。また、常温におけるマグネシウムの電気化学的な析出および溶解は、マグネシウムイオンに非プロトン性溶媒が配位した錯体が活性を持つからであると考えられる。特に、マグネシウムイオンにTHFが配位した錯体は活性を有する場合が多く、THFは電解液の溶媒として好適である。リチウムイオンについても、マグネシウムイオンと同じく、硬いルイス酸に分類されるので、非プロトン性溶媒が同様に配位するものと推測される。
本発明では、塩化マグネシウムと塩化リチウムが、非プロトン性溶媒1モルに対して合計で0.09モル以上の濃度で溶解しており、且つ塩化マグネシウムが、非プロトン性溶媒1モルに対して0.045モル以上の濃度で溶解している。これは、マグネシウムイオンとリチウムイオンとのそれぞれ1モルに対して、THFがおよそ6モル付近かこれを下回る範囲で存在するように、塩化マグネシウムと塩化リチウムとの濃度の合計と、塩化マグネシウムの濃度とを規定したものである。これにより、マグネシウムの電気化学的析出溶解反応の活性種である塩化マグネシウム-THF錯体が溶液中に形成されるとともに、過剰のTHFによって引き起こされる塩化マグネシウム-THF錯体への溶媒和が抑えられることで、マグネシウムの電気化学的析出溶解が盛んになり、電流密度を向上させやすくすることができる。
また、本発明では、塩化マグネシウムが、非プロトン性溶媒1モルに対して、0.08モル以上の濃度で溶解していることが好ましい。これは、塩化マグネシウム1モルに対して、THFがおよそ6モル付近かこれを下回る範囲で存在するように、塩化マグネシウム
の濃度を規定したものである。これにより、上述したように、塩化マグネシウムの溶解量を上げたことによって塩化マグネシウム-THF錯体がさらに形成され、活性種である当該錯体の濃度が上昇する。また、当該錯体量の増加により、溶媒和していない塩化マグネシウム-THF錯体の割合が高くなっている。これらの作用により、電流密度をさらに向上させやすくすることができる。
また、本発明では、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比が1:1~3:1であることが好ましい。これは、塩化マグネシウムのモル濃度が塩化リチウムのモル濃度よりも同程度か高くなるように規定したものである。塩化マグネシウムよりも塩化リチウムが多く含まれる場合には、塩化リチウムの濃度増加に伴って塩化リチウムとTHFのみから成る塩化リチウム-THF錯体がさらに形成されるものの、塩化リチウム-THF錯体はマグネシウムの電気化学的析出溶解反応に関与するものではない。一方、塩化リチウムよりも塩化マグネシウムのモル濃度が同程度か高くなることで、活性種の塩化マグネシウム-THF錯体が増加しやすくなるので、電流密度を向上させやすくすることができる。
また本発明では、塩化マグネシウムと塩化リチウムが、非プロトン性溶媒1モルに対して、合計で0.16モル以上の濃度で溶解していることが好ましい。これは、マグネシウムイオンとリチウムイオンとの合計1モルに対して、THFがおよそ6モル付近かこれを下回る範囲で存在するように、塩化マグネシウムと塩化リチウムとの濃度の合計を規定したものである。これにより、溶液中に存在するTHFの多くがマグネシウムイオン、リチウムイオンに配位して、マグネシウムイオン-THF錯体、リチウムイオン-THF錯体に溶媒和するTHFがほぼ無くなるので、電流密度をさらに向上させやすくすることができる。
[実施例]
以下に、実施例の電解液を説明する。また、実施例の電解液を用いた試験、および試験結果を説明する。各実施例では、THFとして、富士フイルム和光純薬株式会社製のTHF(超脱水)を用いた。塩化マグネシウムとして、アルドリッチ社製の塩化マグネシウム(無水、99.99%)を用いた。塩化リチウムとして、富士フイルム和光純薬株式会社製の塩化リチウム(試薬特級)を用いた。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1~3>
実施例1の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムをそれぞれ0.049モルとなるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.098モル(0.09モル以上)の濃度で溶解している。塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1である。
実施例2の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムをそれぞれ0.065モルとなるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.13モル(0.09モル以上)の濃度で溶解している。塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1である。
実施例3の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムをそれぞれ0.081モルとなるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.162モル(0.09モル以上)の濃度で溶解している。また、本例では、THF1モルに対し、塩化マグネ
シウムと塩化リチウムとが合計で0.16モル以上の濃度で溶解している。塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1である。
実施例1~3において、THFに塩化マグネシウムと塩化リチウムとを溶解する際には、溶解速度を上げるために、溶液温度を60℃に設定した。なお、塩化マグネシウムと塩化リチウムとは、溶液温度が常温のままでも、24時間以上撹拌することによりTHFに溶解する。
<比較例1、2>
実施例の電解液の性質を検証するために、比較例の電解液を調製した。比較例1、2は、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.09モル未満の濃度となるように溶解させたものである。
比較例1の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムをそれぞれ0.020モルとなるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、比較例1では、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.040モルの濃度で溶解している。塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1である。
比較例2の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムをそれぞれ0.041モルとなるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、比較例2では、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.082モルの濃度で溶解している。塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:1である。
比較例1、2では、溶液温度を60℃として、THFに塩化マグネシウムと塩化リチウムとを溶解させた。なお、比較例1、2においても、溶液温度を常温とした状態で、THFに塩化マグネシウムと塩化リチウムとを溶解させることができる。
<試験1>
試験1では、まず、3極式電気化学測定セルに、実施例1~3および比較例1、2の各電解液をそれぞれ充填して、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。電解液の溶液温度は、常温である。
3極式電気化学測定セルでは、作用極に白金板を用い、参照極と対極にマグネシウム線を用いた。作用極では、フッ素ゴム製のOリングにより作用極面積を規定した。電流密度は測定電流値をその作用極面積により除することにより算出した。CV測定は、走査速度25mV/sで行った。なお、1mV/sでも測定を行ったが、電流密度はほぼ同じであった。以下では、実施例1~3の電解液を用いた場合を、それぞれサンプルNo.1~3とする。比較例1、2の電解液を用いた場合を、それぞれサンプルNo.4、5とする。
図1は、サンプルNo.1~5のサイクリックボルタモグラムである。図2は、CV測定で得られたサンプルNo.1~5の-1Vにおける電流密度を示すグラフである。図1から明らかなように、全てのサンプルNo.1~5において、常温で、マグネシウムの電析、溶解に起因する電流が観測された。従って、全てのサンプルNo.1~5において、可逆的に電析と溶解が起こる。
また、図2に示すように、THF1モルに対する塩化マグネシウムと塩化リチウムの溶解量が増えるのに従って、電流密度の上昇が確認された。特に、THF1モルに対する塩化マグネシウムと塩化リチウムとの合計の濃度が0.09モル以上となるサンプルNO.
1~3(実施例1~3)では、THF1モルに対する塩化マグネシウムと塩化リチウムとの合計の濃度が0.09モル未満のサンプルNo.4、5(比較例1、2)と比較して、電流密度上昇の割合が高く、電流密度が著しく上昇することが確認された。
次に、実施例3の電解液(サンプルNo.3)を用いて定電位電解を行い、電解生成物を確認した。定電位電解では、CV測定と同様に3極式電気化学測定セルを組み立て、実施例3の電解液を充填した。電解液の溶液温度は、常温である。定電位電解では、-1Vを印加した。
図3は、定電位電解により析出した電解生成物の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。図4は、電解生成物のエネルギー分散型X線分析スペクトル(EDSスペクトル)である。図5は、電解生成物のX線回折スペクトル(XRDスペクトル)である。
図3に示すように、電解生成物は、緻密で、均一な膜状の形態を有する。図4に示すように、電解生成物では、マグネシウムを主に検出した。さらに、図5に示すように、XRDスペクトルでは、マグネシウムの回折ピークが得られた。従って、定電位電解により得られたカソード電解生成物は、マグネシウムである。
なお、電解生成物について、マグネシウムをICP発光分光分析法、リチウムを原子吸光法により定量をした結果、マグネシウムが99.94質量%、リチウムが0.06質量%であった。これにより、電解生成物(析出物)の殆どがマグネシウムであることが確認された。
ここで、実施例3の電解液(サンプルNo.3)を用いた定電位電解は、本例の電解液を用いてマグネシウムを電析させるマグネシウムの製造方法の一形態である。
<実施例4>
次に、実施例4の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウム0.081モル、塩化リチウム0.041モル、となるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、実施例4では、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.122モル(0.09モル以上)の濃度で溶解している。また、実施例4では、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、2:1である。
実施例4において、THFに塩化マグネシウムと塩化リチウムとを溶解する際には、溶解速度を上げるために溶液温度を60℃に設定した。なお、実施例4においても、溶液温度を常温とし、攪拌により、塩化マグネシウムと塩化リチウムとをTHFに溶解させることができる。
<比較例3>
比較例3の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウム0.041モル、塩化リチウム0.081モル、となるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。従って、比較例3では、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.09モル以上の濃度で溶解している。また、比較例3では、塩化マグネシウムと塩化リチウムとのモル濃度の比は、1:2である。
比較例3において、塩化マグネシウムと塩化リチウムとを溶解する際には、溶液温度を60℃に設定した。なお、比較例3においても、溶液温度を常温とし、攪拌により、塩化マグネシウムと塩化リチウムとをTHFに溶解させることができる。
<試験2>
試験2では、試験1と同様に構成した3極式電気化学測定セルに、実施例4、および比較例3の各電解液をそれぞれ充填して、CV測定を行った。電解液の溶液温度は、常温である。CV測定は、走査速度25mV/sで行った。以下では、実施例4の電解液を用いた場合をサンプルNo.6とし、比較例3の電解液を用いた場合をサンプルNo.7とする。
図6は、各サンプルNo.6.7のサイクリックボルタモグラムである。図6では、サンプルNo.6およびサンプルNo.7のCV測定値と、サンプルNO.3(実施例3)およびサンプルNo.5(比較例2)のCV測定値とを併せて示す。図6から明らかなように、サンプル6、7において、常温で、マグネシウムの電析、溶解に起因する電流が観測された。従って、サンプルNo.6、7のそれぞれにおいて、可逆的に電析と溶解が起こる。
NO.6(実施例4)は、サンプルNO.5(比較例2)と比較して、塩化マグネシウムの溶解量が2倍である。また、サンプルNO.6では、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.09モル以上の濃度で溶解している。図6に示すように、サンプルNO.6では、サンプルNO.5と比べて、電流密度が5倍程度まで上昇した。
一方、サンプルNO.7(比較例3)は、サンプルNO.5(比較例2)と比較して、塩化リチウムの溶解量が2倍である。サンプルNO.7では、THF1モルに対し、塩化マグネシウムと塩化リチウムとが合計で0.09モル以上の濃度で溶解しているが、サンプルNO.5と比べて、電流密度の変化がほとんど見られない。
<試験3>
試験3では、3極式電気化学測定セルに、実施例3の電解液を充填して、5mA/cm、7.5mA/cm、10mA/cm、20mA/cm、30mA/cmの各電流密度においてマグネシウムを作製した。実施例3の電解液は、THF1モルに対して、塩化マグネシウムと塩化リチウムをそれぞれ0.081モルとなるように溶解させて、一様な溶液を得たものである。試験3では、作用極に銅箔を用い、参照極と対極にはマグネシウム線を用いた。電解液の溶液温度は、室温である。
また、試験3では、各電流密度においてそれぞれの印加時間を変化させて、作用極に所定厚みとなる電気量を流して、作用極の表面にマグネシウムを形成させた。さらに、試験3では、電解後の各作用極を、その上に形成されたマグネシウムごとエポキシ樹脂に埋め込み、この樹脂を切断、研磨することでマグネシウムの断面を露出させた。そして、その断面を光学顕微鏡で観察して、断面中の25箇所の膜厚を測定し、その平均値を平均膜厚とした。
図7は、各電流密度における作用極に析出したマグネシウムの平均膜厚を、理論値(電気量より算出した値)に対する割合で示したグラフである。図7から明らかなように、電流密度が上昇するにつれて膜厚が理論値に近づいている。また、電流密度が10mA/cm2以上において理論値に近い膜厚が得られた。
ここで、電流密度が10mA/cm2よりも低い場合には、作用極の表面に形成されるマグネシウムの膜厚が理論値を上回っている。この理由は、作用極の表面でマグネシウムがまばらに析出しているからである。すなわち、マグネシウムがまばらに析出するので、作用極の表面に、マグネシウムが厚く析出している部分と、析出が進んでいない部分とが存在し、凹凸を有する疎な状態でマグネシウムが形成される。この結果、マグネシウムの膜厚が理論値を上回る。
これに対して、電流密度が10mA/cm2以上の場合には、電気量通りの膜厚が得られている。従って、電流密度が10mA/cm2以上の場合には、作用極の表面に析出したマグネシウムの密度が高く、緻密でフラットな状態の膜状のマグネシウムが形成されていることが分かる。
試験1、2、3の試験結果から明らかなように、実施例1~4の電解液を用いて定電位電解を行えば、マグネシウムのみを選択的に析出させることができる。また、マグネシウムを、均一な状態で、緻密な膜状に析出させることができる。なお、試験1、2、3は、本例の電解液を用いてマグネシウムを電析させるマグネシウムの製造方法の一形態である。

Claims (11)

  1. 塩化マグネシウム、塩化リチウム、及び非プロトン性溶媒を含み、
    前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムと前記塩化リチウムとが合計で0.11モル以上の濃度で溶解しており、
    前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムが0.045モル以上の濃度で溶解しており、
    前記非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフランであることを特徴とする電解液。
  2. 前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムが0.06モル以上の濃度で溶解していることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
  3. 前記非プロトン性溶媒1モルに対し、前記塩化マグネシウムが0.08モル以上の濃度で溶解していることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
  4. 前記非プロトン性溶媒1モルに対して、前記塩化マグネシウムと前記塩化リチウムとが合計で0.16モル以上の濃度で溶解していることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の電解液。
  5. 前記塩化マグネシウムと前記塩化リチウムとのモル濃度の比が、1:1~3:1であることを特徴とする請求項1からのうちのいずれか一項に記載の電解液。
  6. 請求項1からのうちのいずれか一項に記載の電解液を用いてマグネシウムを電析させることを特徴とするマグネシウムの製造方法。
  7. 電流密度が10mA/cm2以上の条件で電析させることを特徴とする請求項に記載のマグネシウムの製造方法。
  8. 前記電解液の溶液温度を常温として電析させることを特徴とする請求項に記載のマグ
    ネシウムの製造方法。
  9. 請求項1からのうちのいずれか一項に記載の電解液にワークを浸漬させて電解メッキを施し、前記ワークの表面にメッキ層を形成することを特徴とするマグネシウムの製造方法。
  10. 電流密度が10mA/cm2以上の条件で前記ワークに電解メッキを施すことを特徴とする請求項に記載のマグネシウムの製造方法。
  11. 前記電解液の溶液温度を常温として前記ワークに電解メッキを施すことを特徴とする請求項に記載のマグネシウムの製造方法。
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