JP7416323B2 - 缶用鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、缶用鋼板およびその製造方法に関する。
特許文献1には、「鋼板の表面に、前記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層」を有し、更に、金属クロム層が「粒状突起」を有する缶用鋼板が開示されている。
国際公開第2017/098991号
粒状突起を有する缶用鋼板は、良好な溶接性を示すことが期待される。これは、缶用鋼板どうしを溶接する際に、粒状突起によってクロム水和酸化物層が破壊されて、接触抵抗が低下するためである。
そこで、本発明は、溶接性に優れる缶用鋼板、および、その製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]鋼板の表面に、上記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を有し、上記金属クロム層の付着量が、50~200mg/mであり、上記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、3~50mg/mであり、上記金属クロム層は、平板部と、上記平板部上に設けられた突起部と、を含み、上記突起部の高さHが、25nm以上1000nm以下であり、上記突起部の底部径Dが、50nm以上1000nm以下であり、上記高さHと上記底部径Dとの比H/Dが、0.50以上であり、上記突起部の面積率が、5%以上である、缶用鋼板。
[2]上記[1]に記載の缶用鋼板を製造する方法であって、鋼板に対して、水溶液1を用いて浸漬処理を施し、その後、水溶液2を用いて陰極電解処理を施し、上記水溶液1は、水溶性有機化合物を含有し、上記水溶液2は、六価クロム化合物、フッ素含有化合物および硫酸を含有する、缶用鋼板の製造方法。
[3]上記水溶液1における上記水溶性有機化合物の含有量が、10g/L以上100g/L以下である、上記[2]に記載の缶用鋼板の製造方法。
[4]上記水溶性有機化合物が、重量平均分子量が300~100,000の水溶性ポリマーである、上記[2]または[3]に記載の缶用鋼板の製造方法。
[5]上記水溶性ポリマーが、ポリアクリル酸である、上記[4]に記載の缶用鋼板の製造方法。
[6]上記陰極電解処理の電流密度が、10~200A/dmである、上記[2]~[5]のいずれかに記載の缶用鋼板の製造方法。
本発明によれば、溶接性に優れる缶用鋼板、および、その製造方法を提供できる。
本実施形態の缶用鋼板を模式的に示す断面図である。
[缶用鋼板]
図1は、本実施形態の缶用鋼板1を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、缶用鋼板1は、鋼板2を有する。缶用鋼板1は、更に、鋼板2の表面に、鋼板2側から順に、金属クロム層3およびクロム水和酸化物層4を有する。
金属クロム層3は、鋼板2を覆う平板状の平板部3aと、平板部3a上に設けられた突起部3bとを含む。クロム水和酸化物層4は、突起部3bの形状に追従するように、金属クロム層3上に配置される。
突起部3bの高さHおよび底部径Dについては、後述する。
以下、本実施形態の缶用鋼板の各構成について、より詳細に説明する。
〈鋼板〉
鋼板の種類は特に限定されない。通常、容器材料として使用される鋼板(例えば、低炭素鋼板、極低炭素鋼板)を使用できる。鋼板の製造方法、材質なども特に限定されない。通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。
〈金属クロム層〉
上述した鋼板の表面には、金属クロム層が配置される。金属クロム層は、鋼板の表面露出を抑えて耐食性を向上させる。
《付着量》
缶用鋼板の耐食性が優れるという理由から、金属クロム層の付着量は、50mg/m以上であり、70mg/m以上が好ましく、80mg/m以上がより好ましい。付着量は、鋼板の片面当たりの付着量である(以下、同様)。
一方、金属クロム層の付着量が多すぎる場合、高融点の金属クロムが鋼板の全面を覆い、その結果、溶接時に溶接強度が低下したりチリの発生が著しくなったりして、溶接性が不十分となり得る。
缶用鋼板の溶接性が優れるという理由から、金属クロム層の付着量は、200mg/m以下であり、180mg/m以下が好ましく、160mg/m以下がより好ましい。
(付着量の測定方法)
金属クロム層の付着量、および、後述するクロム水和酸化物層のクロム換算の付着量は、次のようにして測定する。
まず、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を形成させた缶用鋼板について、蛍光X線装置を用いて、クロム量(全クロム量)を測定する。次いで、缶用鋼板を6.5Nの水酸化ナトリウム水溶液(液温度:90℃)中に10分間浸漬させるアルカリ処理を行なってから、再び、蛍光X線装置を用いて、クロム量(アルカリ処理後クロム量)を測定する。アルカリ処理後クロム量を、金属クロム層の付着量とする。
次に、(アルカリ可溶性クロム量)=(全クロム量)-(アルカリ処理後クロム量)を計算し、アルカリ可溶性クロム量を、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量とする。
このような金属クロム層は、平板部と、平板部上に設けられた突起部と、を含む。次に、金属クロム層が含むこれらの各部について、詳細に説明する。
《平板部》
金属クロム層の平板部は、主に、鋼板の表面を被覆し、耐食性を向上させる。
金属クロム層の平板部は、ハンドリング時に不可避的に缶用鋼板どうしが接触した際に、表層に設けられた突起部が平板部を破壊して鋼板が露出しないように、十分な厚みを確保していることが好ましい。
缶用鋼板の耐食性が優れるという理由から、金属クロム層の平板部の付着量は、10mg/m以上が好ましく、30mg/m以上がより好ましく、40mg/m以上が更に好ましい。
《突起部》
金属クロム層の突起部は、上述した平板部の表面に形成されており、缶用鋼板どうしの接触抵抗を低下させて溶接性を向上させる。
接触抵抗が低下する推定のメカニズムを、以下に記述する。
金属クロム層の上に被覆されるクロム水和酸化物層は、不導体皮膜であるため、金属クロムよりも電気抵抗が大きく、溶接の阻害因子になる。金属クロム層の平板部の表面に突起部を形成させると、溶接する際の缶用鋼板どうしの接触時の面圧により、突起部がクロム水和酸化物層を破壊して、溶接電流の通電点になり、接触抵抗が大幅に低下する。
(高さH)
突起部の高さHが大きくなることにより、缶用鋼板どうしの接触時の面圧が増加し、溶接性が良好になる。
このため、突起部の高さHは、25nm以上であり、200nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましい。
一方、突起部の高さHが大きすぎると、溶接の際に、缶用鋼板の平板部どうしの接合が阻害されて、溶接性が劣る場合がある。
このため、缶用鋼板の溶接性が優れるという理由から、突起部の高さHは、1000以下であり、900nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましい。
(底部径D)
突起部の底部径Dが大きくなることにより、缶用鋼板どうしの接触時の面圧が増加し、溶接性が良好になる。
このため、突起部の底部径Dは、50nm以上であり、200nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましい。
一方、突起部の底部径Dが大きすぎると、溶接の際に、缶用鋼板の平板部どうしの接合が阻害されて、溶接性が劣る場合がある。
このため、缶用鋼板の溶接性が優れるという理由から、突起部の底部径Dは、1000nm以下であり、900nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましい。
(H/D)
底部径Dに対して、高さHが著しく小さい場合、溶接性が劣る場合がある。
このため、突起部の高さHと底部径Dとの比(H/D)は、0.50以上であり、0.60以上が好ましく、0.70以上がより好ましい。
一方、比(H/D)の上限は、高さHおよび底部径Dが上述した範囲内である限りは、特に限定されない。
((高さHおよび底部径Dの測定方法))
突起部の高さHおよび底部径Dは、次のようにして求める。
まず、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を形成させた缶用鋼板の断面サンプルを、集束イオンビーム(FIB)を用いて作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて20,000倍の倍率で観察する。金属クロム層の平板部から突起部の頂点までの垂直距離を、観察視野内の全ての突起部について測定する。この測定を、缶用鋼板ごとに5視野で実施し、測定結果中の最大値を、その缶用鋼板の突起部の高さH(図1参照)とする。
同様に、缶用鋼板の断面サンプルをTEMで観察し、金属クロム層の突起部が平板部と接する部分(底部)の距離を、観察視野内の全ての突起部について測定する。この測定を、缶用鋼板ごとに5視野で実施し、測定結果中の最大値を、その缶用鋼板の突起部の底部径D(図1参照)とする。
(面積率)
突起部の面積率が高い場合は、通電点が増加することにより、溶接性が優れる。
このため、突起部の面積率は、5%以上であり、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。突起部の面積率の上限は、特に限定されず、100%であってもよい。
((面積率の測定方法))
突起部の面積率は、次のようにして求める。
まず、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を形成させた缶用鋼板の表面に、カーボン蒸着を施して、観察用サンプルとする。次いで、観察用サンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、20,000倍の倍率でSEM像を得る。
得られたSEM像について、ソフトウェア(商品名:ImageJ)を用いて、突起部を二値化して画像解析することにより、突起部の面積率(単位:%)を求める。面積率は、5視野の平均とする。
〈クロム水和酸化物層〉
クロム水和酸化物は、鋼板の表面に金属クロムと同時に析出し、耐食性を向上させる。クロム水和酸化物は、例えば、クロム酸化物およびクロム水酸化物を含む。
《付着量》
缶用鋼板の耐食性を確保する理由から、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量は、3mg/m以上であり、4mg/m以上が好ましい。
一方、クロム水和酸化物は、金属クロムと比較して導電率が低く、量が多すぎると溶接時に過大な抵抗となり、チリやスプラッシュの発生および過融接に伴うブローホールなどの各種溶接欠陥を引き起こし、缶用鋼板の溶接性が劣る場合がある。
缶用鋼板の溶接性が優れるという理由から、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量は、50mg/m以下であり、40mg/m以下が好ましく、30mg/m以下がより好ましい。
クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量の測定方法は、上述したとおりである。
[缶用鋼板の製造方法]
次に、上述した本実施形態の缶用鋼板を製造する方法(以下、便宜的に、「本製造方法」ともいう)を説明する。
本製造方法は、概略的には、鋼板に対して、水溶性有機化合物を含有する水溶液1を用いて浸漬処理を施し、その後、六価クロム化合物、フッ素含有化合物および硫酸を含有する水溶液2を用いて陰極電解処理を施す。これにより、鋼板の表面に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層が生成し、更に、金属クロム層に突起部が形成される。
この理由は、以下のように推測される。
浸漬処理では、鋼板を水溶液1に浸漬させる。このとき、鋼板の表面に水溶性有機化合物がランダムに吸着する。これにより、続いて実施される陰極電解処理において、金属クロムの析出(電析)が阻害される。そして、水溶性有機化合物が吸着していない部分において、優先的に金属クロムが析出することにより、金属クロム層に突起部が形成される。
こうして、陰極電解処理の途中に陽極電解処理を実施する方法(特許文献1を参照)を採用することなく、浸漬処理および陰極電解処理を実施するだけの簡便な方法によって、突起部を有する缶用鋼板を製造できる。
〈水溶液1〉
浸漬処理に用いる水溶液1は、水溶性有機化合物を含有する。
《水溶性有機化合物》
水溶性有機化合物としては、例えば、サッカリン、2-ブチン-1,4-ジオール、シュウ酸、イミダゾール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオ尿酸、メタンスルホン酸などが挙げられる。
そのほか、水溶性有機化合物としては、鋼板への吸着起点が多く、嵩高いため、金属クロムの析出を効果的に阻害できるという理由から、水溶性ポリマーが好適に挙げられる。水溶性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
これらのうち、水溶液1中での安定性に優れ、かつ、カルボキシ基を有することで鋼板に対する吸着力が高いという理由から、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましく、ポリアクリル酸がより好ましい。
(含有量)
水溶性有機化合物が少なすぎると、鋼板に対する吸着量が足りなくなり、突起部が形成されにくい場合がある。
このため、水溶液1における水溶性有機化合物の含有量は、10g/L以上が好ましく、20g/L以上がより好ましく、30g/L以上が更に好ましい。
一方、水溶性有機化合物が多すぎると、水溶性有機化合物が鋼板の全面に過剰に吸着して、やはり、突起部が形成されにくい場合がある。
このため、水溶液1における水溶性有機化合物の含有量は、100g/L以下が好ましく、90g/L以下がより好ましく、80g/L以下が更に好ましい。
(水溶性ポリマーの重量平均分子量)
水溶性有機化合物が水溶性ポリマーである場合において、水溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)が小さすぎると、水溶性ポリマー1分子あたりが有する吸着起点の数が少なくなる。このため、鋼板に対する吸着が十分に行なわれず、突起部が形成されにくいことがある。
このため、水溶性ポリマーのMwは、300以上が好ましく、500以上がより好ましく、1,000以上が更に好ましい。
一方、水溶性ポリマーのMwが大きすぎると、水溶性ポリマー自身が絡まり合い、鋼板に吸着できる起点が減少する場合がある。この場合も、水溶性ポリマーが鋼板に十分に吸着しないため、突起部が形成されにくいことがある。
このため、水溶性ポリマーのMwは、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、20,000以下が更に好ましい。
重量平均分子量(Mw)は、下記条件で実施するゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
・装置:HLC8020(東ソー社製)
・カラム:TSKgelGMHXLを3本直列に連結
・媒体:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・濃度:4mg/10mL
・注入量:0.1mL
・カラム温度:40℃
水溶液1の液温は、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。
一方、水溶液1の液温は、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
〈浸漬処理〉
浸漬処理では、鋼板を水溶液1に浸漬させる。これにより、鋼板の表面に水溶性有機化合物を吸着させる。
鋼板を水溶液1に浸漬させる時間(浸漬時間)が短すぎると、水溶性有機化合物が十分に鋼板の表面に吸着せず、突起部が形成されにくい場合がある。このため、浸漬時間は、1秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましく、10秒以上が更に好ましい。
浸漬時間の上限は、特に限定されない。もっとも、浸漬時間が長くなりすぎると鋼板の表面状態が変質する場合がある。このため、浸漬時間は、300秒以下が好ましく、180秒以下がより好ましく、60秒以下が更に好ましい。
〈水溶液2〉
陰極電解処理に用いる水溶液2は、六価クロム化合物、フッ素含有化合物および硫酸を含有する。
水溶液2中において、フッ素含有化合物および硫酸は、解離した状態(すなわち、フッ化物イオン、硫酸イオンおよび硫酸水素イオンの状態)で存在する。これらは、陰極電解処理において進行する、水溶液2中に存在する六価クロムイオンの還元反応に関与する触媒として働く。
陰極電解処理に用いる水溶液2が、フッ素含有化合物および硫酸を含有することにより、得られる缶用鋼板のクロム水和酸化物層のクロム換算の付着量を低減できる。この理由は明らかではないが、電解処理中のアニオン量が多くなることにより、クロム水和酸化物の生成量が減少するためと考えられる。
《六価クロム化合物》
六価クロム化合物としては、例えば、三酸化クロム(CrO);二クロム酸カリウム(KCr)などの二クロム酸塩;クロム酸カリウム(KCrO)などのクロム酸塩;等が挙げられる。
水溶液2における六価クロム化合物の含有量は、Cr量として、0.14mol/L以上が好ましく、0.30mol/L以上がより好ましい。
一方、水溶液2における六価クロム化合物の含有量は、Cr量として、3.00mol/L以下が好ましく、2.50mol/L以下がより好ましい。
《フッ素含有化合物》
フッ素含有化合物としては、例えば、フッ化水素酸(HF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、ケイフッ化水素酸(HSiF)、ケイフッ化水素酸の塩などが挙げられる。
ケイフッ化水素酸の塩としては、例えば、ケイフッ化ナトリウム(NaSiF)、ケイフッ化カリウム(KSiF)、ケイフッ化アンモニウム((NHSiF)などが挙げられる。
水溶液2におけるフッ素含有化合物の含有量は、F量として、0.02mol/L以上が好ましく、0.08mol/L以上がより好ましい。
一方、水溶液2におけるフッ素含有化合物の含有量は、F量として、0.48mol/L以下が好ましく、0.40mol/L以下がより好ましい。
《硫酸》
硫酸(HSO)は、その一部または全部が、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウムなどの硫酸塩であってもよい。
水溶液2における硫酸の含有量は、SO 2-量として、0.0001mol/L以上が好ましく、0.0003mol/L以上がより好ましく、0.0010mol/L以上が更に好ましい。
一方、水溶液2における硫酸の含有量は、SO 2-量として、0.1000mol/L以下が好ましく、0.0500mol/L以下がより好ましい。
水溶液2の液温は、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。
一方、水溶液2の液温は、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
〈陰極電解処理〉
陰極電解処理は、金属クロムおよびクロム水和酸化物を析出させる。
陰極電解処理の電流密度が低すぎると、金属クロムの析出効率が低下し、クロム水和酸化物層の割合が高くなりやすい。
このため、陰極電解処理の電流密度は、10A/dm以上が好ましく、15A/dm以上がより好ましく、20A/dm以上が更に好ましい。
一方、陰極電解処理の電流密度が高すぎると、突起部が急激に析出し、突起部の高さHおよび/または底部径Dが過剰に大きくなる場合がある。
このため、陰極電解処理の電流密度は、200A/dm以下が好ましく、150A/dm以下がより好ましい。
陰極電解処理の通電時間および電気量密度(電流密度と通電時間との積)は、目的の付着量を得るために、適宜設定される。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
〈缶用鋼板の作製〉
0.22mmの板厚で製造した鋼板(調質度:T4CA)に対して、通常の脱脂および酸洗を施した。
この鋼板に対して、水溶液1を用いて浸漬処理を実施し、次いで、水溶液2を用いて陰極電解処理を実施した。用いた水溶液1および水溶液2の詳細、ならびに、実施した浸漬処理および陰極電解処理の条件を、下記表1に示す。
ただし、比較例1においては、浸漬処理を実施しなかったことから、下記表1中の「水溶液1」および「浸漬処理」の欄には、「-」を記載した。
水溶液1には、下記表1に示す水溶性有機化合物を含有させた。水溶性有機化合物が水溶性ポリマーでない場合は、下記表1中の「Mw」の欄には「-」を記載した。
水溶液2には、三酸化クロム(CrO)、ケイフッ化ナトリウム(NaSiF)および硫酸(HSO)を含有させた。
水溶液は、流動セルでポンプにより100mpm相当で循環させた。陰極電解処理には、鉛電極を使用した。
こうして、缶用鋼板を作製した。作製後の缶用鋼板は、水洗し、ブロアを用いて室温で乾燥した。
〈付着量など〉
作製した缶用鋼板について、金属クロム層の付着量、および、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量(下記表1では単に「付着量」と表記)を測定した。
更に、作製した缶用鋼板の金属クロム層の突起部について、高さH、底部径D、比(H/D)および面積率を測定した。
測定方法は、いずれも上述したとおりである。結果を下記表1に示す。
〈評価〉
作製した缶用鋼板について、以下の試験を実施し、溶接性(溶接性1および溶接性2)を評価した。結果を下記表1に示す。
《溶接性1:熱処理1回》
作製した缶用鋼板について、210℃×10分間の熱処理(到達板温210℃で10分間保持)を1回行なった後、接触抵抗を測定した。
より詳細には、まず、缶用鋼板から2枚のサンプルを採取し、バッチ炉中で熱処理を施し、熱処理後、重ね合わせた。
次いで、DR型1質量%Cr-Cu電極(先端径6mm、曲率R40mmとして加工した電極)を用いて、重ね合わせた2枚のサンプルを挟み込み、加圧力1kgf/cmとして、15秒保持した。
その後、電流値10Aで通電し、2枚のサンプル間の抵抗値(単位:μΩ)を測定した。10点測定し、平均値を接触抵抗値とし、下記基準に従い溶接性を評価した。「◎◎」、「◎」または「○」であれば、溶接性に優れると評価した。
◎◎:接触抵抗値100μΩ以下
◎:接触抵抗値100μΩ超、300μΩ以下
○:接触抵抗値300μΩ超、500μΩ以下
△:接触抵抗値500μΩ超、1000μΩ以下
×:接触抵抗値1000μΩ超
《溶接性2:熱処理2回》
作製した缶用鋼板について、210℃×10分間の熱処理(到達板温210℃で10分間保持)を2回行なった後、接触抵抗を測定した。
その他の詳細な測定条件および評価基準は、上記「溶接性1」と同じである。
Figure 0007416323000001
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、発明例1~26は、溶接性1および溶接性2が優れることが分かった。これに対して、比較例1~7は、少なくとも溶接性2が不十分であった。
より詳細には、以下のとおりであった。
《比較例1》
浸漬処理を実施しなかった比較例1は、金属クロム層の突起部が形成されず、溶接性1および溶接性2が不十分であった。
《比較例2および発明例1~3》
比較例2および発明例1~3は、それぞれ、水溶液1における水溶性有機化合物(ポリアクリル酸)の含有量のみが異なる。
水溶性有機化合物の含有量が8g/Lである比較例2は、比(H/D)が0.50以上ではなく、溶接性2が不十分であった。
発明例1~3を対比すると、突起部の底部径Dが900nm以下である発明例2~3は、これを満たさない発明例1よりも、溶接性2が良好であった。
《比較例3、発明例4~10および比較例4》
比較例3、発明例4~10および比較例4は、それぞれ、水溶液1における水溶性有機化合物(ポリアクリル酸)の重量平均分子量(Mw)のみが異なる。
Mwが200である比較例3は、突起部の高さHが25nm以上ではなく、かつ、比(H/D)が0.50以上ではないため、溶接性2が不十分であった。
Mwが120,000である比較例4は、突起部の面積率が5%以上ではなく、溶接性2が不十分であった。
発明例4~10を対比すると、突起部の高さHが200nm以上であり、比(H/D)が0.60以上であり、かつ、突起部の面積率が10%以上である発明例5~9は、これらを満たさない発明例4および10よりも、溶接性2が良好であった。
更に、発明例5~9のうち、突起部の高さHが500nm以上800nm以下であり、突起部の底部径Dが500nm以上800nm以下であり、比(H/D)が0.70以上であり、かつ、突起部の面積率が20%以上である発明例7は、これらの少なくともいずれかを満たさない発明例5~6および8~9よりも、溶接性2が良好であった。
《発明例11~12および比較例5》
発明例11~12および比較例5は、上述した比較例2および発明例1~3と同様に、それぞれ、水溶液1における水溶性有機化合物の含有量のみが異なる。
水溶性有機化合物の含有量が120g/Lである比較例5は、突起部の底部径Dが50nm以上ではなく、溶接性2が不十分であった。
発明例11~12を対比すると、突起部の底部径Dが200nm以上である発明例11は、これを満たさない発明例12よりも、溶接性2が良好であった。
《比較例6、発明例13~17および比較例7》
比較例6、発明例13~17および比較例7は、それぞれ、陰極電解処理の条件(電流密度など)のみが異なる。
電流密度が5A/dmである比較例6は、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が50mg/m以下ではなく、溶接性2が不十分であった。
電流密度が220A/dmである比較例7は、突起部の高さHが1000nm以下ではなく、溶接性2が不十分であった。
発明例13~17を対比すると、突起部の高さHが900nm以下であり、かつ、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が40mg/m以下である発明例14~16は、これらのいずれかを満たさない発明例13および17よりも、溶接性2が良好であった。
更に、発明例14~16のうち、突起部の高さHが800nm以下であり、かつ、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が30mg/m以下である発明例15は、これらのいずれかを満たさない発明例14および16よりも、溶接性2が良好であった。
《発明例18~20》
発明例18~20は、水溶性有機化合物としてポリエチレングリコールを使用しており、それぞれ、その含有量のみが異なる。
突起部の高さHが500nm以上であり、比(H/D)が0.70以上であり、かつ、突起部の面積率が20%以上である発明例19は、これらの少なくともいずれかを満たさない発明例18および20よりも、溶接性2が良好であった。
《発明例21~26》
発明例21~26は、その他の水溶性有機化合物を使用している。
突起部の高さHが500nm以上であり、かつ、比(H/D)が0.70以上である発明例21は、これらの少なくともいずれかを満たさない発明例22~26よりも、溶接性2が良好であった。
1:缶用鋼板
2:鋼板
3:金属クロム層
3a:平板部
3b:突起部
4:クロム水和酸化物層
D:突起部の底部径
H:突起部の高さ

Claims (8)

  1. 鋼板の表面に、前記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を有し、
    前記金属クロム層の付着量が、50~200mg/mであり、
    前記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、3~50mg/mであり、
    前記金属クロム層は、平板部と、前記平板部上に設けられた突起部と、を含み、
    前記突起部の高さHが、200nm以上1000nm以下であり、
    前記突起部の底部径Dが、380nm以上1000nm以下であり、
    前記高さHと前記底部径Dとの比H/Dが、0.50以上であり、
    前記突起部の面積率が、5%以上である、缶用鋼板。
    ただし、前記高さHおよび前記底部径Dは、次のようにして求める。まず、前記缶用鋼板の断面サンプルを、透過型電子顕微鏡を用いて20,000倍の倍率で観察する。前記平板部から前記突起部の頂点までの垂直距離を、観察視野内の全ての前記突起部について測定する。この測定を、5視野で実施し、測定結果中の最大値を、前記高さHとする。前記突起部が前記平板部と接する部分の距離を、観察視野内の全ての前記突起部について測定する。この測定を、5視野で実施し、測定結果中の最大値を、前記底部径Dとする。
  2. 請求項1に記載の缶用鋼板を製造する方法であって、
    鋼板に対して、水溶液1を用いて浸漬処理を施し、その後、水溶液2を用いて陰極電解処理を施し、
    前記水溶液1は、水溶性有機化合物を含有し、
    前記水溶液2は、六価クロム化合物、フッ素含有化合物および硫酸を含有する、缶用鋼板の製造方法。
  3. 前記水溶液1における前記水溶性有機化合物の含有量が、10g/L以上100g/L以下である、請求項2に記載の缶用鋼板の製造方法。
  4. 前記水溶性有機化合物が、重量平均分子量が300~100,000の水溶性ポリマーである、請求項2または3に記載の缶用鋼板の製造方法。
  5. 前記水溶性ポリマーが、ポリアクリル酸である、請求項4に記載の缶用鋼板の製造方法。
  6. 前記陰極電解処理の電流密度が、10~200A/dmである、請求項2または3に記載の缶用鋼板の製造方法。
  7. 前記陰極電解処理の電流密度が、10~200A/dmである、請求項4に記載の缶用鋼板の製造方法。
  8. 前記陰極電解処理の電流密度が、10~200A/dmである、請求項5に記載の缶用鋼板の製造方法。
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