JP7416179B1 - 硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置 - Google Patents

硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】電池性能に優れた硫化物系固体電解質を安定的に生産可能な、硫化物系固体電解質の製造方法および製造装置を提供する。【解決手段】熱処理炉に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記熱処理炉は、硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、前記加熱部を貫通する回転部材と、前記回転部材における摺動部に設けられた加圧室と、を有し、前記加圧室の圧力を前記加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法。【選択図】図3

Description

本発明は、硫化物系固体電解質の製造方法および硫化物系固体電解質の製造装置に関する。
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。従来、リチウムイオン二次電池においては液体の電解質が使用されてきた。一方で、安全性の向上や高速充放電、ケースの小型化等が期待できる点から、近年、固体電解質をリチウムイオン二次電池の電解質として用いる全固体型リチウムイオン二次電池が注目されている。
全固体型リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質として、例えば硫化物系固体電解質が挙げられる。
硫化物系固体電解質の合成方法として、硫化物系固体電解質原料をメカニカルミリングする方法や、加熱溶融して融液を調製し、これを冷却固化する方法が挙げられる。しかし、得られる硫化物系固体電解質は結晶構造が安定していなかったり、硫化物系固体電解質表面等に不純物としての硫黄が付着するなどにより、二次電池用の固体電解質としての性能が不十分となる。そこで、固体電解質の電池性能向上のために、さらに熱処理等が行われている。
例えば、特許文献1には、原料組成物をメカニカルミリング等により非晶質化して得られた硫化物ガラスを、大気圧下及び大気圧未満の減圧下で回転流動させながら加熱することによって、硫化物ガラスを結晶化し、且つ、硫化物ガラスに不純物として混入する単体硫黄を除去する、硫化物系固体電解質方法が開示されている。
また、特許文献2には、原料組成物をメカニカルミリング等により非晶質化して得られた硫化物ガラス等の粗粒材料を粉砕処理により微粒材料とし、微粒材料に対して物理的刺激を与えながら熱処理して結晶化させる、硫化物系固体電解質微粒子の製造方法が開示されている。
他方、熱処理装置を用いて加熱処理を行う場合、加熱処理によって生じる副生成物等が熱処理装置内部に固着することを抑制し、熱処理装置の操業を妨げないようにする必要がある。特に、大量生産を目的として連続的な処理を行う場合、熱処理装置は、処理材料を加熱しながら搬送可能な回転部材を含むことが多い。この場合、副生成物の固着により回転部材の駆動が阻害される部分、すなわち、熱処理装置における回転部材と固定部材との境界部に副生成物等が固着することで、回転部材の回転が妨げられるのを抑制する必要がある。
熱処理装置に対する副生成物等の固着抑制方法として、例えば、特許文献3には、リチウム原料と硫化水素ガスとを反応させて硫化リチウムを連続的に製造する製造方法において、リチウム原料の移動方向に沿ってその上流から下流に向かって、且つリチウム原料を反応槽内に供給する位置よりも下流側から、硫化水素ガスを反応槽内に供給することによって、反応副生物である水を吸収したリチウム原料が原料ホッパーや原料供給管等に固着することを抑制する方法が記載されている。
特許第7035772号公報 特許第6946791号公報 特許第6718774号公報
上記特許文献1や2には、メカニカルミリングにより得られた硫化物系固体電解質材料を加熱処理することで結晶化し、不純物である単体硫黄を除去し得る旨は開示されているものの、除去された硫黄の製造装置への固着を抑制する方法については記載されていない。
上記特許文献3には、電解質の熱処理方法や固着防止方法については開示されていない。また、特許文献3に開示されているような反応槽へのガスの吹込み方法では、吹き込まれたガスの直下では固着防止効果を奏するが、その周辺部においては、周囲の雰囲気を巻き込んでしまうため、安定して固着を抑制することが困難である。また、上述した副生成物の固着による回転部材の回転阻害を抑制する点については言及されていない。
したがって本発明の目的は、回転部材を有する熱処理装置を用いて硫化物系固体電解質材料を加熱搬送し硫化物系固体電解質を製造する方法において、熱処理装置、特に回転部材と固定部材との境界部への硫黄の固着を抑制し、電池性能に優れた硫化物系固体電解質を安定的に生産できる、硫化物系固体電解質の製造方法および製造装置を提供することにある。
本発明者は鋭意検討の結果、回転部材を有する熱処理装置を用いて硫化物系固体電解質材料を加熱搬送し硫化物系固体電解質を製造する方法において、回転部材と固定部材との境界部を加圧する加圧室を設け、加圧室の圧力を加熱部や外気の圧力よりも高く制御しつつ硫化物系固体電解質材料を加熱処理することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]~[8]に関する。
[1]熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法であって、
前記熱処理装置は、前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室と、を有し、
前記加圧室の圧力を前記加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法。
[2]前記硫化物系固体電解質材料は、硫化物系固体電解質原料をメカニカルミリング又は加熱溶融して得られる、前記[1]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[3]前記加圧室の酸素ガス濃度は10体積ppm以上である、前記[1]又は[2]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[4]前記加熱部における加熱温度は300℃以上である、前記[1]又は[2]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[5]前記加圧室の圧力と、前記加熱部の圧力及び外気圧との圧力差は、それぞれ0.1kPa以上である、前記[1]又は[2]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[6]前記硫化物系固体電解質材料を連続的に供給し加熱処理する、前記[1]又は[2]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[7]硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、
前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、
前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、
前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室と、
を備える硫化物系固体電解質の製造装置。
[8]さらに、前記加圧室に酸素ガスを供給する酸素ガス供給部を備える、前記[7]に記載の硫化物系固体電解質の製造装置。
本発明によれば、熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法において、熱処理装置が、硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、硫化物系固体電解質材料を加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、回転部材と固定部材との境界部を加圧する加圧室と、を有し、加圧室の圧力を加熱部や外気の圧力よりも高く制御しつつ硫化物系固体電解質材料を加熱処理することにより、加熱部に生産を阻害するガスの流入を防ぎつつ、硫黄の固着により回転部材の回転が阻害される上記境界部への硫黄の固着を抑制できる。よって、電池性能に優れた硫化物系固体電解質を安定的に生産可能な、硫化物系固体電解質の製造方法および製造装置を提供できる。
図1は、本発明の実施形態の硫化物系固体電解質の製造方法のフローチャートの一例である。 図2は、本発明の第一の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置の一例を示す側面断面模式図である。 図3は、本発明の第一の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置における加熱部及びその周辺部の一例を示す上面断面模式図である。 図4は、本発明の第一の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置における加熱部及びその周辺部の他の例を示す上面断面模式図である。 図5は、本発明の第一の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置における加熱部及びその周辺部の他の例を示す上面断面模式図である。 図6は、本発明の第一の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置における、回転部材の摺動部及び加圧室の一例を示す上面断面模式図である。 図7は、本発明の第二の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置の一例を示す側面断面模式図である。 図8は、本発明の第二の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置における、回転部材の摺動部及び加圧室の一例を示す側面断面模式図である。 図9は、本発明の第三の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置の一例を示す側面断面模式図である。 図10は、本発明の第三の実施形態の硫化物系固体電解質の製造装置における、回転部材の摺動部及び加圧室の一例を示す側面断面模式図である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の装置等のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
〔硫化物系固体電解質の製造方法〕
本発明の実施形態の硫化物系固体電解質の製造方法(以下、本製造方法ともいう)は、熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法であって、前記熱処理装置は、前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室と、を有し、前記加圧室の圧力を前記加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理することを特徴とする。
図1に、本製造方法のフローチャートの一例を示す。本製造方法では、まず、硫化物系固体電解質材料を熱処理装置に供給し(ステップS1)、加圧室を加圧しつつ硫化物系固体電解質材料を加熱部により加熱しながら搬送し(ステップS2)、熱処理物を冷却し(ステップS3)、熱処理物を熱処理装置から取り出し(ステップS4)、硫化物系固体電解質を得る(ステップS5)。
ここで、ステップS3はステップS4の後に行ってもよい。すなわち、熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱部において硫化物系固体電解質材料を加熱処理後、熱処理装置から熱処理物を取り出した後に冷却を行い、硫化物系固体電解質を得てもよい。
後述するように、上記ステップS1~ステップS5は、連続的に行われることが好ましく、この連続的製造方法を採用する際に本発明の効果がさらに高まることになる。
<硫化物系固体電解質材料>
本製造方法において、硫化物系固体電解質材料(以下、本材料と呼ぶことがある)とは、所定の温度で加熱処理することで所望の硫化物系固体電解質が得られるものをいい、例えば、表面に不純物としての硫黄を含み、熱処理により当該硫黄がガス等として除去され結晶構造が均質化される、硫化物系固体電解質の粗体等が挙げられる。すなわち、本材料は、最終的に得られる硫化物系固体電解質の加熱処理前の前駆体である。本材料は、後述する硫化物系固体電解質原料とは区別される。本材料が、その表面に不純物としての硫黄が付着した硫化物系固体電解質である場合、加熱処理によって電池性能阻害となる表面の余分な硫黄をガスとして除去することができ、二次電池の固体電解質として用いた場合の電池性能を向上できる。
なお、上記硫化物系固体電解質材料は、非晶質であってもよく、非晶質相を含んでいてもよい。結晶構造が安定していない本材料は、加熱処理によって結晶構造が均質化し、イオン伝導率を高めることができるため、二次電池の固体電解質として用いた場合の電池性能を向上できる。
本製造方法において、硫化物系固体電解質材料は、市販の硫化物系固体電解質材料を用いてもよく、硫化物系固体電解質原料から製造したものを用いてもよい。
硫化物系固体電解質材料は、硫化物系固体電解質原料をメカニカルミリング又は加熱溶融して得られることが好ましい。
(硫化物系固体電解質原料)
硫化物系固体電解質原料(以下、本原料と呼ぶことがある)とは、所望の硫化物系固体電解質を得るための、硫化物系固体電解質の構成原料を意味し、一般的に本原料は複数種類を混合して用いられる。上述した硫化物系固体電解質材料とは区別される。本原料としては種々の原料を使用できる。
本原料としては、市販の硫化物系固体電解質原料を用いてもよく、材料から硫化物系固体電解質原料を製造したものを用いてもよい。また、これらの硫化物系固体電解質原料にさらに公知の前処理を施してもよい。
以下、硫化物系固体電解質原料について具体的に説明する。硫化物系固体電解質原料としては、通常、アルカリ金属元素(R)及び硫黄元素(S)を含む。
アルカリ金属元素(R)としては、リチウム元素(Li)、ナトリウム元素(Na)、及びカリウム元素(K)等が挙げられ、なかでも、リチウム元素(Li)が好ましい。アルカリ金属元素(R)としては、アルカリ金属元素単体やアルカリ金属元素を含む化合物等のアルカリ金属元素を含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。なかでも、リチウム元素としては、Li単体やLiを含む化合物等のLiを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
リチウム元素(Li)を含む物質としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、ヨウ化リチウム(LiI)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)および水酸化リチウム(LiOH)等のリチウム化合物や、金属リチウム等が挙げられる。リチウム元素(Li)を含む物質としては、硫化物材料を得る観点からは、硫化リチウムを用いることが好ましい。
硫黄元素(S)としては、S単体やSを含む化合物等のSを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
硫黄元素(S)を含む物質としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リンを含有するその他の硫黄化合物および単体硫黄、硫黄を含む化合物等が挙げられる。硫黄を含む化合物としては、HS、CS、硫化鉄(FeS、Fe、FeS、Fe1-xSなど)、硫化ビスマス(Bi)、硫化銅(CuS、CuS、Cu1-xSなど)が挙げられる。硫黄元素(S)を含む物質は、硫化物材料を得る観点から、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、硫化リンはSを含む物質と、後述するPを含む物質を兼ねる化合物として考えられる。
本原料は、得られる硫化物系固体電解質のイオン伝導率向上等の観点から、さらにリン元素(P)を含むのが好ましい。リン元素(P)としては、P単体やPを含む化合物等のPを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
リン元素(P)を含む物質としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物および単体リン等が挙げられる。リン元素(P)を含む物質としては、本発明の効果がより発揮されるという観点から、揮散性の高い硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本原料は、例えば上記の物質を、目的とする硫化物系固体電解質の組成に応じて適宜混合することで、混合原料として得てもよい。混合比率は特に限定されないが、例えば、本原料中のアルカリ金属元素(R)に対する硫黄元素(S)のモル比S/Rは、得られる硫化物系固体電解質のイオン伝導率向上等の観点から、0.65/0.35以下が好ましく、0.5/0.5以下がより好ましい。また、当該混合原料は、混合に用いる物質に応じた所定の化学量論比で混合して得るのが好ましい。上記混合の方法としては、例えば、乳鉢での混合、遊星ボールミルのようなメディアを用いた混合、ピンミルや粉体撹拌機、気流混合の様なメディアレス混合等が挙げられる。
本原料に含まれるアルカリ金属元素及び硫黄元素の好ましい組み合わせの一例として、LiSとPの組み合わせが挙げられる。LiSとPを組み合わせる場合は、LiとPのモル比Li/Pは40/60以上が好ましく、50/50以上がより好ましい。また、LiとPのモル比Li/Pは88/12以下が好ましい。また、LiとPのモル比Li/Pは40/60~88/12が好ましく、50/50~88/12がより好ましい。PがLiSに対して比較的少なくなるように混合比を調整することで、LiSの融点に対しPの沸点が小さいことによる、加熱処理時の硫黄成分とリン成分の揮散を抑制しやすくなる。
一方で、硫化リチウムは高価であるため、硫化物系固体電解質の製造コストを抑える観点からは、硫化リチウム以外のリチウム化合物や、金属リチウム等を用いてもよい。具体的にはこの場合、本原料はLiを含む物質として、金属リチウム、ヨウ化リチウム(LiI)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)および水酸化リチウム(LiOH)からなる群から選ばれる1以上を含むことが好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本原料は、目的とする硫化物系固体電解質の組成に応じて、または添加剤等として、上記の物質の他にさらなる物質(化合物等)を含んでもよい。
例えば、F、Cl、BrまたはIなどのハロゲン元素を含む硫化物系固体電解質を製造する場合、本原料はハロゲン元素(Ha)を含むことが好ましい。この場合、本原料はハロゲン元素を含む化合物を含むことが好ましい。ハロゲン元素を含む化合物としてはフッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化ホスホリル、ハロゲン化硫黄、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化ホウ素等が挙げられる。ハロゲン元素を含む化合物としては、原料の反応性の観点からは、ハロゲン化リチウムが好ましく、LiCl、LiBr、LiIがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、ハロゲン化リチウム等のハロゲン化アルカリ金属は、Li等のアルカリ金属元素を含む化合物でもある。本原料がハロゲン化アルカリ金属を含む場合、本原料におけるLi等のアルカリ金属元素の一部または全部がハロゲン化リチウム等のハロゲン化アルカリ金属に由来するものであってもよい。
本原料がハロゲン元素(Ha)およびリン元素(P)を含む場合、本原料中のPに対するHaのモル当量は、得られる硫化物系固体電解質のイオン伝導率向上等の観点からは、0.2モル当量以上が好ましく、0.5モル当量以上がより好ましい。また、得られる硫化物系固体電解質の安定性の観点からは、Haのモル当量は4モル当量以下が好ましく、3モル当量以下がより好ましい。
本原料から得られる硫化物系固体電解質材料が非晶質である場合、非晶質相の生成のしやすさを改善する観点からは、本原料がSiS、B、GeS、Al等の硫化物を含むことも好ましい。非晶質相を形成し易くすることで、急冷により非晶質を得る場合に、冷却速度を低下させても、非晶質の硫化物系固体電解質材料を得ることができ、設備負荷を軽減できる。
また硫化物系固体電解質の耐湿性付与等の観点からは、SiO、B、GeO、Al、P等の酸化物を含むことも好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、上記硫化物や酸化物は本原料に含んでもよいし、加熱溶融によって硫化物系固体電解質材料を調製する場合においては、本原料を加熱溶融する際に別途添加してもよい。また、上記硫化物や酸化物の添加量は、原料全量に対し0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、上記硫化物や酸化物の添加量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
また、本原料から得られる硫化物系固体電解質材料が結晶層を含む場合、本原料は、酸化物、酸窒化物、窒化物、炭化物、他のカルコゲン化合物、ハロゲン化物等の結晶核となる化合物を含んでいてもよい。
(メカニカルミリング)
硫化物系固体電解質材料は、上述の硫化物系固体電解質原料をメカニカルミリングすることにより得られるものであってもよい。
メカニカルミリングは、硫化物系固体電解質原料を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、遊星ミル、ボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができる。
メカニカルミリングによる処理条件は、所望の硫化物系固体電解質材料を得ることができるように設定すればよい。例えば、遊星ボールミルを用いる場合、容器に硫化物系固体電解質原料および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、硫化物系固体電解質材料の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、硫化物系固体電解質原料から硫化物系固体電解質材料への転化率は高くなる。
遊星ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm以上500rpm以下であることが好ましい。また、遊星ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間以上100時間以下であり、中でも1時間以上50時間以下であることが好ましい。
また、ボールミルに用いられる容器および粉砕用ボールの材質やサイズは特に制限されず、従来公知のものを使用できる。材質としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ガラス、窒化ケイ素等が挙げられる。粉砕用ボールの径は、例えば1mm以上20mm以下である。
メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであってもよく、湿式メカニカルミリングであってもよい。湿式メカニカルミリングに用いられる液体は、硫化物系固体電解質原料との反応で硫化水素を発生しない性質を有するものであることが好ましい。メカニカルミリングの後に、硫化物系固体電解質材料を乾燥することが好ましい。乾燥方法としては、例えばホットプレートを用いた乾燥方法が挙げられる。
(加熱溶融)
硫化物系固体電解質材料は、上述の硫化物系固体電解質原料を加熱溶融することにより得られるものであってもよい。
加熱溶融法では、まず、硫化物系固体電解質原料を、硫化物系固体電解質原料が溶融する温度に加熱して融液を得、得られた融液の冷却固化を行い、硫化物系固体電解質材料を得る。
・硫化物系固体電解質原料の加熱溶融
硫化物系固体電解質原料の加熱溶融は、硫黄元素を含むガス雰囲気下で行うのが好ましい。硫黄元素を含むガス雰囲気下で本原料を加熱溶融することで、融液に硫黄が導入される。これにより、加熱中の硫黄の揮発を抑制できるため、得られる硫化物系固体電解質材料の組成を適切に制御できる。硫黄元素を含むガスは、例えば、硫黄ガス、硫化水素ガス、二硫化炭素ガス等、硫黄元素を含む化合物又は硫黄単体を含むガスである。
加熱溶融の温度は、特に限定されないが、短時間で融液を均質化する観点から、600℃以上が好ましく、630℃以上がより好ましく、650℃以上がさらに好ましい。また、加熱溶融の温度は融液中の成分の加熱による劣化や分解抑制等の観点から1000℃以下が好ましく、950℃以下がより好ましく、900℃未満がさらに好ましく、800℃未満が特に好ましい。また、600℃以上900℃未満が好ましい。
融液を得るための加熱溶融の時間は、特に制限されないが、例えば、0.5時間以上であってもよく、1時間以上であってもよく、2時間以上であってもよい。また、加熱溶融の時間は融液中の成分の加熱による劣化や分解が許容できる範囲では加熱溶融の時間は長くてもよい。現実的な範囲としては、100時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましく、25時間以下がさらに好ましい。
加熱溶融時の圧力は特に限定されないが、例えば常圧又は微加圧が好ましく、常圧がより好ましい。
加熱溶融時、水蒸気や酸素等との副反応を防ぐ観点から、炉内の露点は-20℃以下が好ましく、下限は特に制限されないが、通常-80℃以上である。また酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましい。
・融液の冷却
続いて、得られた融液の冷却固化を行い、硫化物系固体電解質材料を得る。
冷却は公知の方法で行えばよく、その方法は特に限定されない。冷却のより具体的な方法として、例えば、融液をカーボン製等の板状体の上に流し出して冷却する方法;双ロール法に代表される、狭い隙間に流し込んで薄く成形する方法;ガスアトマイズ法;等が挙げられる。
融液を板状体の上に流し出して冷却する場合、冷却効率を向上する観点から、流し出した後の融液及び得られる固体の厚みは比較的薄いことが好ましい。具体的には、厚みは10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。厚みの下限は特に限定されないが、0.01mm以上であってもよく、0.02mm以上であってもよい。
狭い隙間に流し込んで薄く成形する場合は、冷却効率が優れており、薄片状のもの、繊維状のもの、粉末状のもの等を得ることができる。得られた固体は、取り扱いやすい大きさに砕く等して、任意の形状で得られる。中でも、ブロック状の固体で得た方が回収がし易く好ましい。ブロック状とは、板状、薄片状、または繊維状である場合も含む。
ガスアトマイズ法の場合は、得られた融液を炉体から排出させながらガスを噴霧することで、融液の冷却固化を行い、硫化物系固体電解質材料を得る。得られた硫化物系固体電解質材料は粉末状となる。ガスアトマイズ法において噴霧するガスとしては、窒素、あるいはアルゴンなどの不活性ガスを使用することが好ましい。
冷却速度は加熱溶融により得られた組成を維持する観点から、0.01℃/秒以上が好ましく、0.05℃/秒以上がより好ましく、0.1℃/秒以上がさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に定めないが、一般的に急冷速度が速いと言われる双ロール法の冷却速度は10℃/秒以下である。
ここで、得られる固体を非晶質の硫化物系固体電解質材料としたい場合には、加熱溶融により得られた融液を急冷して固体を得ることが好ましい。具体的には、急冷する場合の冷却速度は10℃/秒以上が好ましく、100℃/秒以上がより好ましく、500℃/秒以上がさらに好ましく、700℃/秒以上がよりさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に限定されないが、一般的に急冷速度が速いと言われる双ロール法の冷却速度は10℃/秒以下である。
一方で、冷却時に徐冷して、固体の少なくとも一部を結晶化し、特定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質材料や結晶相と非晶質相とから構成される硫化物系固体電解質材料として得ることもできる。徐冷する場合の冷却速度は0.01℃/秒以上が好ましく、0.05℃/秒以上がより好ましい。また、冷却速度は500℃/秒以下が好ましく、450℃/秒以下がより好ましい。冷却速度は10℃/秒未満であってもよく、5℃/秒以下であってもよい。なお、結晶化の条件に応じて適宜冷却速度を調節してもよい。
融液を冷却して得られる硫化物系固体電解質材料に対し、公知の後処理等を行う工程をさらに含んでいてもよい。後処理工程としては、例えば、所望の形状を得る等の観点で粉砕処理を行う工程等が挙げられる。
<硫化物系固体電解質の製造装置>
ここで、本製造方法に使用される硫化物系固体電解質の製造装置(以下、本製造装置、熱処理装置とも言う)について説明する。
本製造装置は熱処理装置であり、硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、硫化物系固体電解質材料を加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、回転部材と固定部材との境界部を加圧する加圧室と、を備える。
本製造装置においては、硫化物系固体電解質材料を加熱部により加熱しながら、回転部材により搬送する態様であれば、加熱部や回転部材の配置態様は特に制限されない。回転部材による硫化物系固体電解質材料の搬送方法も特に制限されず、後述する搬送ローラのように回転部材の上部に硫化物系固体電解質材料を配置して搬送してもよいし、後述する炉心管のように回転部材の内部に硫化物系固体電解質材料を投入して搬送してもよいし、後述する乾燥炉のように回転部材が備える搬送翼により搬送してもよい。回転部材は加熱部を貫通するように設けられていてもよい。
本製造装置においては、回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材を備える。固定部材は、基礎等の安定した場所に位置不動に固定されたものであり、回転部材の片側もしくは両端側またはそれら付近に配設されており、回転部材全体が回転自在な状態に保持している。
本製造装置においては、回転部材の全体を回転自在な状態に保持すべく、回転部材と固定部材との境界部には隙間が存在するか、あるいは当該境界部は回転部材と固定部材とが互いに擦れながら滑って動く摺動部となる。
本製造装置においては、回転部材と固定部材との境界部を加圧する加圧室を備える。従来、不純物としての硫黄を含む硫化物系固体電解質材料を加熱処理すると、硫黄ガスが生じる。生じた硫黄ガスが上記境界部に流入すると、低温である境界部において硫黄が融点以下となり、境界部に硫黄が固着し、回転部材の回転が阻害されてしまうという問題があった。しかしながら、本製造装置においては、回転部材と固定部材との境界部を加圧する加圧室を設け、加圧室の圧力を加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら硫化物系固体電解質材料の加熱処理を行う。これにより、境界部への硫黄固着による回転阻害を抑制し、且つ、外気から生産を阻害するガスの流入を防ぎつつ加熱処理を行うことができる。
当該境界部においては、用いられる封止材の耐熱性等の観点から、加熱部よりも低温とするのが好ましい。この場合、上記境界部は加熱部に含まれない。
以下、加熱処理及び加圧室の加圧について、詳細に説明する。
(加熱処理)
本製造方法では、熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱部にて硫化物系固体電解質材料を加熱処理する。硫化物系固体電解質材料を加熱処理することにより、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄がガスとして除去され、また、硫化物系固体電解質材料の結晶構造が均質化するため、二次電池の固体電解質としての性能が向上する。
なお、「結晶構造が均質化する」とは、更に長時間所定の温度で熱処理しても結晶構造が変わらない、平衡状態に達したものすることを意味する。
硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄を除去する観点、及び、硫化物系固体電解質材料の結晶構造を均質化する観点から、加熱部における加熱温度は、300℃以上が好ましく、325℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。また、硫化物系固体電解質材料中の成分の加熱による劣化や分解抑制等の観点から、500℃以下が好ましく、475℃以下がより好ましく、450℃以下がさらに好ましい。また、300℃以上500℃以下が好ましい。
熱処理装置の加熱部において加熱する手段は、加熱処理装置の種類に応じて、従来公知の方法を適宜利用できる。例えば、カンタルヒーター、SiCヒーター、及びカーボンヒーター等の発熱材に電流を流して対象物を加熱するヒーター、ハロゲンヒーター等の輻射加熱を行うヒーター、高周波誘導加熱装置等を適宜利用できる。
加熱処理時の加熱部の圧力は特に限定されないが、例えば常圧又は微加圧が好ましく、常圧がより好ましい。
加熱処理時、水蒸気や酸素等との副反応を防ぐ観点から、加熱部における雰囲気の露点は-20℃以下が好ましく、下限は特に制限されないが、通常-80℃以上である。また酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましい。
熱処理装置の加熱部は、Nガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
例えば、あらかじめ炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換し、硫化物系固体電解質材料を熱処理装置に投入する際には、投入口付近に設けられたパージ部を不活性ガスに置換すること等により、装置内の不活性ガス雰囲気を保持できる。
(加圧室の加圧)
本製造方法では、加圧室の圧力を加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら硫化物系固体電解質材料の加熱処理を行う。加圧室の圧力を加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御することにより、加圧室に供給されるガスが加圧室から境界部へ局所的に漏れ出るため、加熱部から境界部への硫黄ガスの流入及び硫黄の固着、並びに、加熱部への外気からの生産阻害ガスの流入を防ぐことができる。
加熱部から境界部への硫黄ガスの流入、及び加熱部への外気からの生産阻害ガスの流入を防ぐ観点から、加圧室の圧力としては、加熱部の圧力及び外気圧との圧力差が、それぞれ0.1kPa以上であることが好ましく、0.25kPa以上がより好ましく、0.5kPa以上がさらに好ましい。また、上限は具体的に限定されないが、連続運用安定性と現実的なガス噴霧コストの観点から、100kPa以下が好ましく、75kPa以下がより好ましく、50kPa以下がさらに好ましい。また、0.1kPa以上100kPa以下が好ましい。
上記圧力差は、0.1kPa~100kPaが好ましく、0.25kPa~75kPaがより好ましく、0.5kPa~50kPaがさらに好ましい。
加圧室に供給する加圧ガスとしては、窒素、あるいはアルゴンなどの不活性ガスを使用することが好ましい。
上記加圧ガスは不活性ガスに加え、酸素ガスが含まれることが好ましい。すなわち、本製造装置は、加圧室に酸素ガスを供給する酸素ガス供給部を備えることが好ましい。
酸素ガスは、加圧室の酸素ガス濃度が10体積ppm以上となるように調節することが好ましく、25体積ppm以上がより好ましく、50体積ppm以上がさらに好ましい。酸素ガス濃度を10体積ppm以上とすることによって、加熱部において発生する硫黄ガスが境界部付近に流入した際に、加圧室から境界部に漏れ出した加圧ガス中の酸素ガスと反応させ、融点の低い二酸化硫黄とすることで、境界部への硫黄の固着をさらに抑制できる。
また、酸素と硫化物系固体電解質材料との反応を抑制し、所望の組成の硫化物系固体電解質を得る観点から、1000体積ppm以下が好ましく、750体積ppm以下がより好ましく、500体積ppm以下がさらに好ましい。
加圧室の酸素ガス濃度は、10体積ppm~1000体積ppmが好ましく、25体積ppm~750体積ppmがより好ましく、50体積ppm~500体積ppmがさらに好ましい。
上記加圧ガスの露点は、硫化物系固体電解質材料と水蒸気との副反応を防ぐ観点から、大気圧下露点で-30℃未満が好ましく、-40℃未満がより好ましく、-50℃未満がさらに好ましい。
加圧ガス温度は特に制限されないが、例えば100℃以下であり、好ましくは常温である。
本製造方法では、熱処理装置が硫化物系固体電解質材料を加熱部により加熱しながら搬送する回転部材を備えるため、硫化物系固体電解質材料を連続的に供給し加熱処理することができ、硫化物系固体電解質の大量生産が可能となる。また、本発明の効果がさらに高まる。
(冷却及び取り出し)
加圧室を上記条件にて加圧しつつ加熱部で熱処理を行った熱処理物は、好ましくは冷却された後に熱処理装置から取り出される。すなわち、熱処理装置の原料投入口側を上流、排出口側を下流とした場合に、熱処理装置の加熱部よりも下流側に熱処理物を冷却する冷却部を有し、回転部材によって加熱部より搬送された熱処理物が冷却部において冷却され、熱処理装置から排出されることが好ましい。
このように、硫化物系固体電解質材料の投入、加熱処理、冷却、取り出しを連続的に行うことにより硫化物系固体電解質を得ることが好ましい。
熱処理装置が冷却部を有しない場合は、熱処理装置から排出された後に熱処理物を冷却すればよい。
冷却する手段としては、自然空冷、水冷、ガス噴霧冷却等を適宜利用できる。
冷却速度は、例えば、0.01℃/秒以上が好ましく、0.025℃/秒以上がより好ましく、0.05℃/秒以上がさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に定めないが、例えば、10℃/秒以下である。
本製造装置は、上述の構成を有している限りにおいて特に限定されるものではない。例えば、熱処理装置としては、加熱部を有し、従来固体電解質材料を加熱処理するのに用いられる公知のものを適宜利用でき、材質や大きさも任意に選択できる。
なかでも、硫化物系固体電解質材料の搬送手段を備え、硫化物系固体電解質材料を連続的に加熱処理できる熱処理装置が好ましく、例えば、ローラーハースキルン炉、ロータリーキルン炉、撹拌乾燥炉などが挙げられる。以下、それぞれの形態の炉を有する本製造装置の実施形態について、具体的に説明する。
(第一の実施形態に係る硫化物系固体電解質の製造装置)
本製造装置の第一の実施形態について、図2~図6を参照して説明する。第一の実施形態において、本製造装置はローラーハースキルン炉を有する。
図2は、ローラーハースキルン炉型の本製造装置の一例を示す側面断面模式図である。図3は、ローラーハースキルン炉型の本製造装置における加熱部及びその周辺部の一例を示す上面断面模式図である。図4、図5は、ローラーハースキルン炉型の本製造装置における加熱部及びその周辺部の他の例を示す上面断面模式図である。図6は、ローラーハースキルン炉型の本製造装置における、回転部材の境界部及び加圧室の一例を示す上面断面模式図である。
図2において、ローラーハースキルン炉型の製造装置1は、硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部3及び冷却部4を有する熱処理炉2と、硫化物系固体電解質材料を搬送する搬送ローラ5とを有する。
図3において、搬送ローラ5は、熱処理炉2における加熱部3を貫通するように設けられている。すなわち、製造装置1においては、搬送ローラ5が、加熱部3を貫通するように設けられた回転部材である。
製造装置1は、搬送ローラ5(回転部材側)と、熱処理炉2の炉壁8(固定部材側)との間に境界部9を有する。境界部9においては、搬送ローラ5を回転可能とするための隙間が存在する。加圧室10は、熱処理炉2の外側から境界部9を加圧するように製造装置1に備えられる。上記隙間の幅は、境界部9を加圧可能とする観点から小さい方が望ましく、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは1mm以下である。また、搬送ローラ5が摺動可能である限りには、隙間の幅の下限値に制限はない。上記隙間の幅の長さは一律である必要はなく、部分的に最小隙間があっても問題ない。また、上記境界部9における隙間は、搬送ローラ5が回転可能であり、貫通箇所がある限りにおいては、その機構形態は問わない。部材同士がこすり合うよう貫通箇所の隙間を狭めてもよい。
加圧室10は、熱処理炉2の外側から境界部9を加圧するように設けられている限りにおいて、その設置態様は問わない。図3においては、製造装置1において複数存在する境界部9を個別に加圧するように加圧室が設けられているが、例えば、図4、図5に示すように、複数の境界部9を一括して加圧するように加圧室が設けられていてもよく、図5に示すように、搬送ローラ5を回転可能に支持するロール軸受け11a、11bや搬送ローラ5を回転させるための駆動モータ12を含めた搬送ローラ5周辺部全体を覆うように加圧室が設けられていてもよい。
以下、ローラーハースキルン炉型の製造装置1を用いる場合の硫化物系固体電解質の製造方法の一例を説明する。
容器に入れた硫化物系固体電解質材料を熱処理炉2の投入口6より投入し、搬送ローラ5を用いて加熱部3へと搬送する。事前に熱処理炉2内部の雰囲気を不活性ガスに置換した上、硫化物系固体電解質材料を投入する際には、熱処理炉2の投入口6付近に設けられたパージ部(図示せず)を不活性ガス等で満たしてから硫化物系固体電解質材料を投入することが好ましい。
搬送ローラ5により加熱部3へと搬送された硫化物系固体電解質材料は、加熱部3で加熱処理される。加熱処理の好ましい条件は上述のとおりである。この際、加圧室10の圧力を加熱部3の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら加熱処理する。加圧の好ましい条件は上述のとおりである。
加圧室の加圧は、図6に示すように、加圧室10に設けられた加圧ガス供給口13より加圧ガスを供給することで行えばよく、例えば、ガス供給部(図示せず)から配管(図示せず)を通して加圧ガス供給口13にガスが供給される。
好ましくは、酸素ガスを供給する酸素ガス供給部(図示せず)を備え、加圧室10に酸素ガスを含むガスが供給される。酸素ガスを含むガスは、例えば、酸素ガス供給部から供給される酸素ガスと、不活性ガス供給部(図示せず)から供給される不活性ガスとを各供給部と加圧ガス供給口13とを接続する配管内で混合して混合ガスとし、加圧ガス供給口13から加圧室10に供給される。また、例えば、酸素ガス供給部から供給される酸素ガスと、不活性ガス供給部から供給される不活性ガスとを、複数の加圧ガス供給口13からそれぞれ加圧室10に供給してもよい。
加熱部3で硫化物系固体電解質材料を加熱処理すると、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄がガス化する。ガス化した硫黄は、加熱部3よりも温度が低くなる炉壁8や境界部9において冷やされるため、これらの部分において硫黄が固着し得る。本製造方法では、加圧室10を加圧することにより、境界部9に加圧室に供給されたガスが漏れ出すため、境界部9への硫黄の固着や外気から加熱部への生産阻害ガスの流入を抑制できる。
加熱部3で加熱処理された熱処理物は、図2に示す熱処理炉2の冷却部4において冷却され、排出口7より排出される。なお、熱処理物の冷却は、排出口7から排出した後に行ってもよい。得られる硫化物系固体電解質は、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄が除去され、結晶構造が均質となることで、電池性能に優れた固体電解質となる。
(第二の実施形態に係る硫化物系固体電解質の製造装置)
本製造装置の第二の実施形態について、図7、図8を参照して説明する。第二の実施形態において、本製造装置はロータリーキルン炉を有する。
図7は、ロータリーキルン炉型の本製造装置の一例を示す側面断面模式図である。図8は、ロータリーキルン炉型の本製造装置における、回転部材の摺動部及び加圧室の一例を示す側面断面模式図である。
図7において、ロータリーキルン炉型の製造装置21は、硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部23を含む炉心管22を有する。炉心管22は、投入口24側に設けられた軸受け29bと、排出口26側に設けられた軸受け29aとによって、軸受け29a側が軸受け29b側よりも低くなるように設置される。このように勾配をもって設置された炉心管22が回転駆動部30により回転することによって、硫化物系固体電解質材料が投入口24側から加熱部23を経て排出口26側へと搬送される。すなわち、ロータリーキルン炉型の製造装置において炉心管22は、その内部に硫化物系固体電解質材料を投入して搬送する回転部材である。
図7に示すように、製造装置21においては、炉心管22は加熱部23を貫通するように設けられており、炉心管22はシール部35において、境界部としての摺動部を有する。具体的には、例えば、図8に示すように、炉心管22に設けられたシールリング(回転部材側)32と、炉心管22の投入口24側の末端開口部を覆うように設置された投入部25に設けられたシールリング(固定部材側)31との間に、境界部としての摺動部33を有する。シールリングはシールリングを設置するための設置部材を介して炉心管22や投入部25に設けられてもよい。
加圧室28は、炉心管22の外側から摺動部33を加圧するように製造装置21に備えられる。
なお、図7に示すように、投入部25側と同様に、炉心管22の排出口26側の末端開口部を覆うように設置された排出部27側にも摺動部33(図示せず)があり、摺動部33を覆うように加圧室28を備える。
以下、ロータリーキルン炉型の本製造装置21を用いる場合の硫化物系固体電解質の製造方法について説明する。
硫化物系固体電解質材料を投入口24より投入する。硫化物系固体電解質材料は炉心管22が勾配をもって設置されているため、加熱部23へと搬送される。事前に投入口24から排出口26に至る硫化物系固体電解質材料の通過領域の雰囲気を不活性ガスに置換した上、硫化物系固体電解質材料を投入する際には、投入口24付近に設けられたパージ部(図示せず)を不活性ガス等で満たしてから硫化物系固体電解質材料を投入することが好ましい。
加熱部23へと搬送された硫化物系固体電解質材料は、加熱処理される。加熱処理の好ましい条件は上述のとおりである。この際、加圧室28の圧力を加熱部23の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら加熱処理する。加圧の好ましい条件は上述のとおりである。
加圧室の加圧は、図8に示すように、加圧室28に設けられた加圧ガス供給口34より加圧ガスを供給することで行えばよく、例えば、ガス供給部(図示せず)から配管(図示せず)を通して加圧ガス供給口34にガスが供給される。
好ましくは、酸素ガスを供給する酸素ガス供給部(図示せず)を備え、加圧室28に酸素ガスを含むガスが供給される。酸素ガスを含むガスは、例えば、酸素ガス供給部から供給される酸素ガスと、不活性ガス供給部(図示せず)から供給される不活性ガスとを各供給部と加圧ガス供給口34とを接続する配管内で混合して混合ガスとし、加圧ガス供給口34から加圧室28に供給される。また、例えば、酸素ガス供給部から供給される酸素ガスと、不活性ガス供給部から供給される不活性ガスとを、複数の加圧ガス供給口34からそれぞれ供給してもよい。
加熱部23で硫化物系固体電解質材料を加熱処理すると、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄がガス化する。ガス化した硫黄は、加熱部23よりも温度が低くなる炉心管22の端部の炉壁、炉心管22の末端開口部を覆うように設置された投入部25の壁、排出部27の壁、摺動部33において冷やされるため、これらの部分において硫黄が固着し得る。本製造方法では、加圧室28を加圧することにより、摺動部33に加圧室に供給されたガスが漏れ出すため、摺動部33への硫黄の固着や外気から加熱部への生産阻害ガスの流入を抑制できる。
加熱部23で加熱処理された熱処理物は、図7に示す炉心管22の末端開口部を覆うように設置された排出部27を経由し、排出口26より排出される。排出部27を経た熱処理物は、排出部27と排出口26の間に設けられた冷却部(図示せず)において冷却してもよく、排出口26より熱処理物を排出後に冷却してもよい。得られる硫化物系固体電解質は、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄が除去され、結晶構造が均質となることで、電池性能に優れた固体電解質となる。
(第三の実施形態に係る硫化物系固体電解質の製造装置)
本製造装置の第三の実施形態について、図9、図10を参照して説明する。第三の実施形態において、本製造装置は撹拌乾燥炉を有する。
図9は、撹拌乾燥炉型の本製造装置の一例を示す側面断面模式図である。図10は、撹拌乾燥炉型の本製造装置における、回転部材の摺動部及び加圧室の一例を示す側面断面模式図である。
図9において、撹拌乾燥炉型の製造装置41は、硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部43を有する、乾燥炉42と、硫化物系固体電解質材料の搬送手段として、駆動軸44と搬送翼45とを有するスクリュー搬送部を有する。スクリュー搬送部は、搬送翼45を備える駆動軸44が駆動モータ51により、駆動軸44を中心として回転することにより、硫化物系固体電解質材料を搬送する。
図9に示すように、製造装置41においては、スクリュー搬送部における駆動軸44は加熱部43を貫通するように設けられている。すなわち、撹拌乾燥炉型の製造装置41においては、スクリュー搬送部の駆動軸44が、加熱部43を貫通するように設けられた回転部材である。駆動軸44は軸シール部48において、境界部としての摺動部を有する。具体的には、例えば、図10に示すように、駆動軸44に設けられたシールリング54(回転部材側)と、乾燥炉42の炉壁52に設けられたシールリング53(固定部材側)との間に摺動部49を有する。シールリングはシールリングを設置するための設置部材を介して駆動軸44や炉壁52に設けられていてもよい。
加圧室50は、乾燥炉42および駆動軸44の外側から摺動部49を加圧するように製造装置41に備えられる。
以下、撹拌乾燥炉型の本製造装置41を用いる場合の硫化物系固体電解質の製造方法について説明する。
硫化物系固体電解質材料を投入口46より投入する。硫化物系固体電解質材料はスクリュー搬送部によって加熱部43へと搬送される。事前に乾燥炉42内部の雰囲気を不活性ガスに置換した上、硫化物系固体電解質材料を投入する際には、投入口46付近に設けられたパージ部(図示せず)を不活性ガス等で満たしてから硫化物系固体電解質材料を投入することが好ましい。
加熱部43へと搬送された硫化物系固体電解質材料は、加熱処理される。加熱処理の好ましい条件は上述のとおりである。この際、加圧室50の圧力を加熱部43の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら加熱処理する。加圧の好ましい条件は上述のとおりである。
加圧室の加圧は、図10に示すように、加圧室50に設けられた加圧ガス供給口55より加圧ガスを供給することで行えばよく、例えば、ガス供給部(図示せず)から配管(図示せず)を通して加圧ガス供給口55にガスが供給される。
好ましくは、酸素ガスを供給する酸素ガス供給部(図示せず)を備え、加圧室50に酸素ガスを含むガスが供給される。酸素ガスを含むガスは、例えば、酸素ガス供給部から供給される酸素ガスと、不活性ガス供給部(図示せず)から供給される不活性ガスとを、各供給部と加圧ガス供給口55とを接続する配管内で混合して混合ガスとし、加圧ガス供給口55から加圧室50に供給される。また、例えば、酸素ガス供給部から供給される酸素ガスと、不活性ガス供給部から供給される不活性ガスとを、複数の加圧ガス供給口55からそれぞれ供給してもよい。
加熱部43で硫化物系固体電解質材料を加熱処理すると、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄がガス化する。ガス化した硫黄は、加熱部43よりも温度が低くなる乾燥炉42の端部の炉壁52や摺動部49において冷やされるため、これらの部分において硫黄が固着し得る。本製造方法では、加圧室50を加圧することにより、摺動部49に加圧室に供給されたガスが漏れ出すため、摺動部49への硫黄の固着や外気から加熱部への生産阻害ガスの流入を抑制できる。
加熱部43で加熱処理された熱処理物は、図9に示す排出口47より排出される。加熱部43で加熱処理された熱処理物は、加熱部43と排出口47の間に設けられた冷却部(図示せず)において冷却してもよく、排出口47より熱処理物を排出後に冷却してもよい。得られる硫化物系固体電解質は、硫化物系固体電解質材料の表面に付着した硫黄が除去され、結晶構造が均質となることで、電池性能に優れた固体電解質となる。
(粉砕)
得られた硫化物系固体電解質に対して、さらに粉砕を行い、更なる微粒化を行ってもよい。粉砕の方法としては、例えば湿式粉砕法が挙げられる。湿式粉砕法の場合、使用する溶媒の種類は特に制限されないが、硫化物系固体電解質は水分と反応して劣化しやすい性質を有することから、非水系有機溶媒を用いるのが好ましい。非水系有機溶媒の種類は特に限定されないが、炭化水素系溶媒、ヒドロキシ基を含有した有機溶媒、エーテル基を含有した有機溶媒、カルボニル基を含有した有機溶媒、エステル基を含有した有機溶媒、アミノ基を含有した有機溶媒、ホルミル基を含有した有機溶媒、カルボキシ基を含有した有機溶媒、アミド基を含有した有機溶媒、ベンゼン環を含有した有機溶媒、メルカプト基を含有した有機溶媒、チオエーテル基を含有した有機溶媒、チオエステル基を含有した有機溶媒、ジスルフィド基を含有した有機溶媒、ハロゲン化アルキル等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエンが挙げられ、飽和水分濃度が低い観点から、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンが好ましい。また、水分濃度を調整する観点から、これら炭化水素系溶媒を、トルエンやジブチルエーテル等と混ぜた混合溶媒とすることも好ましい。硫化物系固体電解質の粉砕時に、硫化物系固体電解質が水と反応してリチウムイオン伝導率が低下することを防ぐ観点から、上記非水系有機溶媒の水分濃度は低い方が好ましい。上記非水系有機溶媒の水分濃度は、例えば、170質量ppm以下であってよく、150質量ppm以下であってよく、120質量ppm以下であってよく、100質量ppm以下であってよい。
湿式粉砕法は、例えばボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等の粉砕機を用いて行えばよい。湿式粉砕においては上記溶媒の他、添加剤(分散剤)としてエーテル化合物、エステル化合物又はニトリル化合物を添加してもよい。
湿式粉砕を経て得られた硫化物系固体電解質中に溶媒や添加剤が残存している場合は、乾燥工程を行うとよい。乾燥条件としては、例えば温度100℃以上200℃以下としてもよい。乾燥時間については特に限定されるものではなく、例えば10分以上24時間以下としてもよい。また、乾燥工程は減圧下で実施しても良く、例えば絶対圧で50kPa以下であってよい。乾燥工程はホットプレート、乾燥炉、電気炉等を用いて実施できる。
(硫化物系固体電解質)
本製造方法で得られる硫化物系固体電解質としては、リチウム元素を含む硫化物系固体電解質が挙げられる。本製造方法で得られる硫化物系固体電解質としては、例えばLi10GeP12等のLGPS型結晶構造を有する硫化物系固体電解質、LiPSCl、Li5.4PS4.4Cl1.6およびLi5.4PS4.4Cl0.8Br0.8等のアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質、Li-P-S-Ha系(Haはハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つの元素を表す)の結晶化ガラス、ならびにLi11等のLPS結晶化ガラス等が挙げられる。
硫化物系固体電解質は、その目的に応じて特定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質であってもよく、結晶相と非晶質相とを含む硫化物系固体電解質であってもよい。結晶相は、リチウムイオン伝導率の観点からはアルジロダイト型結晶相であることがより好ましい。
リチウムイオン伝導率に優れる硫化物系固体電解質としては、Li-P-S-Haの元素を有する硫化物系固体電解質が好ましく、結晶相を有することがより好ましい。また、かかるハロゲン元素は、ハロゲン元素が塩化リチウム、臭化リチウムおよびヨウ化リチウムからなる群から選ばれる1以上に由来することが好ましい。
硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導率は、リチウムイオン二次電池に用いた際に電池特性を良好にする観点からは、1.0×10-4S/cm以上が好ましく、5.0×10-4S/cm以上がより好ましく、1.0×10-3S/cm以上がさらに好ましく、5.0×10-3S/cm以上が特に好ましい。上記リチウムイオン伝導率は、交流インピーダンス測定装置(例えば、Bio-Logic Sciences Instruments社製、ポテンショスタット/ガルバノスタット VSP)を用い、測定条件を、測定周波数:100Hz~1MHz、測定電圧:100mV、測定温度:25℃として測定される。
得られた硫化物系固体電解質は、X線回折(XRD)測定による結晶構造の解析や、ICP発光分析測定、原子吸光測定およびイオンクロマトグラフィ測定等種々の方法を用いた元素組成の分析により同定できる。例えば、PとSはICP発光分析測定により、Liは原子吸光測定により、Haはイオンクロマトグラフィ測定により測定できる。
また、ラマンスペクトル測定を行うことにより、硫化物系固体電解質の組成の均質性を評価できる。具体的には、得られた硫化物系固体電解質から得られるサンプルについて、任意の2点以上でラマンスペクトル測定を行う。なお、評価の精度を高める観点から、測定点の数は8以上が好ましく、10以上がより好ましい。硫化物系固体電解質の組成の均質性を評価する際の好ましいラマンスペクトル測定の条件として、例えばスポット径3μm、測定点の数を10とすることが挙げられる。スポット径を3μmとすることで、ラマンスペクトル測定における分析領域が、硫化物系固体電解質の組成の均質性をミクロレベルで評価するのに適した大きさとなる。
各測定結果での、PS 3-等、硫化物系固体電解質の構造に由来するピーク波数(ピーク位置)のばらつきが小さいほど、硫化物系固体電解質の組成は均質であると考えられる。または、硫化物系固体電解質の構造に由来するピークの半値全幅のばらつきが小さいほど、硫化物系固体電解質の組成は均質であると考えられる。
得られる硫化物系固体電解質の組成にもよるが、硫化物系固体電解質の構造に由来するピークとして、P-S結合に由来するピークを確認することが好ましい。P-S結合に由来するピークの位置は組成系によって異なるが、典型的には、350cm-1~500cm-1の間に含まれる。以降、本明細書においてピーク位置のばらつきやピークの半値全幅のばらつきとは、P-S結合に由来するピークのうち、最も強度が強いピークについて確認されるものをいう。
ピーク位置のばらつきは次のように評価できる。すなわち、ラマンスペクトル測定により得られた測定点ごとのピーク位置の標準偏差を求め、(ピーク位置平均値)±(標準偏差)と記載した場合、標準偏差の値は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1cm-1以内であり、さらに好ましくは0.5cm-1以内である。なお、ここでピーク位置とは、ピークトップの位置のことをいう。例えば、本製造方法により得られる硫化物系固体電解質について、スポット径3μm、測定点の数を10としてラマンスペクトル測定をした際に、前記測定点ごとの、350cm-1~500cm-1におけるP-S結合由来のピークのピーク位置の標準偏差は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1cm-1以内であり、さらに好ましくは0.5cm-1以内である。
ピークの半値全幅のばらつきは次のように評価できる。すなわち、ラマンスペクトル測定により得られた測定点ごとのピークの半値全幅の標準偏差は、それぞれのピークの半値全幅をもとめ、その値の標準偏差を求める方法で算出される。これを(ピーク半値全幅平均値)±(標準偏差)と記載した場合、標準偏差の値は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1.5cm-1以内である。なお、ピークの半値全幅とは、ラマンスペクトルを描いた際に、前記P-S結合由来のピークのピーク強度半分の値と、そのP-S結合由来のピークとが交わる幅のことをここでは指す。例えば、本製造方法により得られる硫化物系固体電解質について、スポット径3μm、測定点の数を10としてラマンスペクトル測定をした際に、前記測定点ごとの、350cm-1~500cm-1におけるP-S結合由来のピークの半値全幅の標準偏差は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1.5cm-1以内である。
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、及び改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、及び配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
[1]熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法であって、
前記熱処理装置は、前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室と、を有し、
前記加圧室の圧力を前記加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法。
[2]前記硫化物系固体電解質材料は、硫化物系固体電解質原料をメカニカルミリング又は加熱溶融して得られる、前記[1]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[3]前記加圧室の酸素ガス濃度は10体積ppm以上である、前記[1]又は[2]に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[4]前記加熱部における加熱温度は300℃以上である、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[5]前記加圧室の圧力と、前記加熱部の圧力及び外気圧との圧力差は、それぞれ0.1kPa以上である、前記[1]~[4]のいずれか一に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[6]前記硫化物系固体電解質材料を連続的に供給し加熱処理する、前記[1]~[5]のいずれか一に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
[7]硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、
前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、
前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、
前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室と、
を備える硫化物系固体電解質の製造装置。
[8]さらに、前記加圧室に酸素ガスを供給する酸素ガス供給部を備える、前記[7]に記載の硫化物系固体電解質の製造装置。
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1~3が実施例であり、例4が比較例である。
例1
図2に示す製造装置1の仕様に準じて試験を行う。
硫化物系固体電解質材料は次のようにして得る。すなわち、LiS、P、LiCl及びLiBrのmol比(1.9:0.5:1.0:0.6)となるように各原料を混合し、500gの混合原料を調合し、窒素雰囲気のグローブボックス中でジルコニア製ポットに、φ10mmのジルコニア製ボールとともに混合原料を入れ、完全密閉する。遊星ボールミルで回転数370rpmとして15時間メカニカルミリング処理し硫化物系固体電解質材料を得る。
熱処理炉2内の加熱部3の圧力が0.05kPa、露点が-60℃、酸素濃度50体積ppm未満となるように、窒素パージを行う。
加熱部3における加熱温度を430℃とし、加圧室における圧力が0.55kPa、露点が0℃未満℃、酸素濃度100体積ppmなるように、酸素及び窒素の混合ガスである加圧ガスを供給する。すなわち、加圧室における圧力と加熱部における圧力との差は0.5kPaであり、加圧室における圧力と外気圧との差は0.55kPaである。
続いて、搬送容器内に上記硫化物系固体電解質材料を500g入れ、投入口6付近に設けられたパージ部を窒素パージしながら熱処理炉2内に投入し、搬送ローラ5により加熱部3に搬送し、加熱処理を行う。
加熱処理物を冷却部4で冷却し、硫化物系固体電解質を取り出す。
硫化物系固体電解質材料の加熱部3への供給は、搬送速度11mm/分で容器を連続供給し、加熱時間1.5時間で連続的に熱処理を行う。12時間経過後、硫化物系固体電解質材料の供給を停止し、製造装置1の稼働を停止する。
境界部9において、硫黄の固着は確認できない。
例2
図7に示す製造装置21の仕様に準じて試験を行う。
硫化物系固体電解質材料は例1と同様に調製した硫化物系固体電解質材料を得る。
炉心管22内の加熱部23の圧力が0.05kPa、露点が-60℃、酸素濃度50体積ppm未満となるように、窒素パージを行う。
加熱部23における加熱温度を430℃とし、加圧室における圧力が0.55kPa、露点が0℃未満℃、酸素濃度100体積ppmなるように、加圧ガスを供給する。すなわち、加圧室における圧力と加熱部における圧力との差は0.5kPaであり、加圧室における圧力と外気圧との差は0.55kPaである。
続いて、投入口24付近に設けられたパージ部を窒素パージしながら、投入口24より上記硫化物系固体電解質材料を連続的に投入し、加熱部23に搬送し、加熱処理を行う。
加熱処理物を冷却し、硫化物系固体電解質を取り出す。
硫化物系固体電解質材料の加熱部23への供給は1g/秒の割合で連続供給する。12時間経過後、43kgの硫化物系固体電解質を得た時点で硫化物系固体電解質材料の供給を停止し、製造装置21の稼働を停止する。
摺動部33において、硫黄の固着は確認できない。
例3
図9に示す製造装置41の仕様に準じて試験を行う。
硫化物系固体電解質材料は例1と同様に調製した硫化物系固体電解質材料を得る。
乾燥炉42内の加熱部43の圧力が0.05kPa、露点が-60℃、酸素濃度50体積ppm未満となるように、窒素パージを行う。
加熱部43における加熱温度を300℃とし、加圧室における圧力が0.55kPa、露点が0℃未満℃、酸素濃度100体積ppmなるように、加圧ガスを供給する。すなわち、加圧室における圧力と加熱部における圧力との差は0.5kPaであり、加圧室における圧力と外気圧との差は0.55kPaである。
続いて、投入口46付近に設けられたパージ部を窒素パージしながら、投入口46より上記硫化物系固体電解質材料を連続的に投入し、スクリュー搬送部により加熱部43に搬送し、加熱処理を行う。
加熱処理物を冷却し、硫化物系固体電解質を取り出す。
硫化物系固体電解質材料の加熱部43への供給は1g/秒の割合で連続供給する。12時間経過後、43kgの硫化物系固体電解質を得た時点で硫化物系固体電解質材料の供給を停止し、製造装置41の稼働を停止する。
摺動部49において、硫黄の固着は確認できない。
例4
加圧室10を設けないこと以外は図2に示す製造装置1の仕様に準じて試験を行う。
すなわち、加圧室10を加圧しないこと以外の各条件は例1と同様である。
43kgの硫化物系固体電解質を得た時点で、製造装置の稼働を停止する。
境界部9において、硫黄の固着が確認される。
1、21、41 硫化物系固体電解質の製造装置
2 熱処理炉
3 加熱部
4 冷却部
5 搬送ローラ
6 投入口
7 排出口
8 炉壁
9 境界部
10 加圧室
11a、11b ロール軸受け
12 駆動モータ
13 加圧ガス供給口
22 炉心管
23 加熱部
24 投入口
25 投入部
26 排出口
27 排出部
28 加圧室
29a、29b 軸受
30 回転駆動部
31 シールリング(固定部材側)
32 シールリング(回転部材側)
33 摺動部
34 加圧ガス供給口
35 シール部
42 乾燥炉
43 加熱部
44 駆動軸
45 搬送翼
46 投入口
47 排出口
48 軸シール部
49 摺動部
50 加圧室
51 駆動モータ
52 炉壁
53 シールリング(固定部材側)
54 シールリング(回転部材側)
55 加圧ガス供給口

Claims (8)

  1. 熱処理装置に硫化物系固体電解質材料を供給し、加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法であって、
    前記熱処理装置は、前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室とを有し、
    前記加圧室の圧力を前記加熱部の圧力及び外気圧よりも高い圧力に制御しながら前記硫化物系固体電解質材料を加熱処理する硫化物系固体電解質の製造方法。
  2. 前記硫化物系固体電解質材料は、硫化物系固体電解質原料をメカニカルミリング又は加熱溶融して得られる、請求項1に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
  3. 前記加圧室の酸素ガス濃度は10体積ppm以上である、請求項1又は2に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
  4. 前記加熱部における加熱温度は300℃以上である、請求項1又は2に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
  5. 前記加圧室の圧力と、前記加熱部の圧力及び外気圧との圧力差は、それぞれ0.1kPa以上である、請求項1又は2に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
  6. 前記硫化物系固体電解質材料を連続的に供給し加熱処理する、請求項1又は2に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
  7. 硫化物系固体電解質材料を加熱処理する加熱部と、
    前記硫化物系固体電解質材料を前記加熱部により加熱しながら搬送する回転部材と、
    前記回転部材の軸線方向の端部側に配設された位置不動の固定部材と、
    前記回転部材と前記固定部材との境界部を加圧する加圧室と
    を備える硫化物系固体電解質の製造装置。
  8. さらに、前記加圧室に酸素ガスを供給する酸素ガス供給部を備える、請求項7に記載の硫化物系固体電解質の製造装置。
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