JP7399061B2 - ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びその製造方法並びに加熱溶融押出用組成物に関する。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(以下「HPMCP」とも記載する。)はメトキシ基(-OCH)、ヒドロキシプロポキシ基(-OCOH)及びカルボキシベンゾイル基(-COC6COOH)を有するセルロース誘導体であり、セルロースを化学修飾することにより製造される。
HPMCPは、腸溶性の高分子基材としてコーティング用途に使用されたり、水難溶性薬物と共に用いて固体分散体に使用されたりと、特に医薬の分野において幅広く使用されている。
HPMCPの製造方法としては、例えば、カルボン酸アルカリ金属塩を触媒として酢酸溶媒中でセルロース類と多価カルボン酸無水物とをエステル反応させるに当り、酢酸溶媒の使用量を該セルロース類に対して1~2倍重量とし、双軸撹拌機で撹拌することを特徴とするカルボン酸エステル系セルロース誘導体の製造方法等が挙げられる(特許文献1)。
特開平5-339301号公報
特許文献1等のHPMCPの従来の製造方法においては、反応溶液に対し水を加えることでHPMCPを析出させた懸濁液を得て、前記懸濁液中のHPMCPを水により洗浄して不純物を除去する。懸濁液中には、エステル化反応工程において溶媒として使用した酢酸が多量に含まれている。洗浄に用いた水に含まれる酢酸は、回収が困難であるため水と共に廃棄されるが、排水の化学的酸素要求量(COD)増加の要因となる。また、酢酸は排水のpHを低下させる要因となり、さらには、酢酸は臭気の要因ともなる。
したがって、酢酸を多く含む懸濁液を洗浄回収工程に供すると、洗浄に用いた水は生物処理等の排水処理を行う必要があり、排水処理の負荷低減のためにも、洗浄回収工程に供される混合物中の酢酸は少ないことが望ましい。
洗浄回収工程に供される混合物中の酢酸を低減するため、エステル化反応工程における酢酸の使用量を減らすことが想起できるが、特許文献1に記載されるように、酢酸の使用量を減らした場合、セルロース類を酢酸溶媒中に高濃度で均一に溶解させることは難しくなる場合がある。
以上のように、従来のHPMCPの製造方法においては、改善の余地があった。加えて、従来のHPMCPについては、ホッパーの閉塞等の取扱い上の課題や、ホッパーや配管内部にHPMCPが残留することによる衛生上の課題に関し、流動性に改善の余地があった。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、HPMCPを含有する反応溶液から酢酸を除去することにより、洗浄回収工程に供される混合物中の酢酸を低減でき、更には流動性に優れるHPMCPを効率良く製造できることを見出し、本発明を為すに至った。
本発明の一つの態様では、溶媒として酢酸を用い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、無水フタル酸とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程と、前記反応溶液に、水を加えることにより、水添加反応溶液を得る水添加工程と、前記水添加反応溶液から前記水添加反応溶液に含まれる酢酸の少なくとも一部、又は前記水添加反応溶液に含まれる酢酸と水のそれぞれ少なくとも一部を除去することにより、前記酢酸の含有量が低減された混合物を得る酢酸除去工程と、前記混合物を洗浄して前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを回収する洗浄回収工程とを少なくとも含み、前記酢酸除去工程が、前記水添加反応溶液を撹拌しながら加熱下かつ減圧下に、前記水添加反応溶液に含まれる酢酸の少なくとも一部、又は前記水添加反応溶液に含まれる酢酸と水のそれぞれ少なくとも一部を蒸発させることを含むヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法が提供される
本発明によれば、HPMCPを含有する反応溶液から酢酸の少なくとも一部を除去するため、洗浄回収工程に供される混合物中の酢酸の量を低減することができる。これにより、排水処理における負担軽減が期待でき、除去した酢酸を再利用することにより、コストの削減も可能である。
また、流動性に優れたHPMCPを製造することができる。これにより、加熱溶融押出用組成物におけるHPMCPと薬物との混合均一性や、HPMCPと、薬物の混合粉体のホッパー内でのブリッジの形成を改善することができ、薬物の含量の均一性、薬物に対するHPMCPの質量比の改善や、定量供給及び連続運転が期待できる。
HPMCPの「全粒子」を、「微粒子」、「長繊維状粒子(LF1及びLF2)」、「短繊維状粒子(SF1及びSF2)」及び「球状粒子(S1及びS2)」の4種類の粒子に分類するフローチャートを示す。
まず、HPMCPの製造方法における溶媒として酢酸を用い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、無水フタル酸とのエステル化反応により、HPMCPを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程について説明する。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下「HPMC」とも記載する。)は、非イオン性の水溶性セルロースエーテルである。HPMCは、公知の方法により合成したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。
HPMCにおけるメトキシ基のDSは、低い未溶解繊維数のHPMCを得る観点から、好ましくは1.10~2.20、より好ましくは1.30~2.10、更に好ましくは1.60~2.00、特に好ましくは1.80~2.00である。HPMCにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、低い未溶解繊維数のHPMCを得る観点から、好ましくは0.10~1.00、より好ましくは0.10~0.80、更に好ましくは0.15~0.60、特に好ましくは0.20~0.50である。
HPMCにおけるメトキシ基のDSは、置換度(degree of substitution)を表し、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基の平均個数をいう。また、HPMCにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、置換モル数(molar substitution)を表し、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数をいう。HPMCにおけるメトキシ基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSは、第17改正日本薬局方に基づき測定して得られた値を換算することによって求めることができる。
HPMCの2質量%水溶液の20℃における粘度は、エステル化反応工程における混練性の観点から、好ましくは1.0~30.0mPa・s、より好ましくは2.0~20.0mPa・sである。HPMCの2質量%水溶液の20℃における粘度は、ウベローデ粘度計を用いて、第十七改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロース」に記載の方法により測定することができる。
酢酸の使用量は、HPMCを溶解させ反応速度を高める観点から、HPMC1molに対して、好ましくは3.5~10.0mol、より好ましくは4.5~7.0mol、更に好ましくは5.0~6.5molである。
無水フタル酸の使用量は、所望の置換度のHPMCPが得られれば特に制限されないが、反応効率の観点から、HPMC1molに対して、好ましくは0.2~3.0mol、より好ましくは0.4~1.8molである。
エステル化反応は、触媒存在下で行ってもよい。触媒としては、経済的な観点から、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。触媒は、必要に応じて、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、触媒は、市販のものを用いることができる。
触媒の使用量は、HPMCPの置換度を考慮して任意に選択すればよいが、反応効率の観点から、HPMC1molに対して、好ましくは0.1~3.0mol、より好ましくは0.3~2.0molである。
また、エステル化反応は、解重合剤存在下で行ってもよい。解重合剤としては、経済的な観点から、塩素酸ナトリウム等のアルカリ金属塩素酸塩が好ましい。解重合剤は、必要に応じて、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、解重合剤は、市販のものを用いることができる。
解重合剤の使用量は、目的のHPMCPの重合度を考慮して任意に選択すればよいが、大幅な粘度低下を防ぐ観点から、HPMC1molに対して、好ましくは0.01~0.20mol、より好ましくは0.02~0.10molである。
エステル化反応は、反応の効率性の観点から、ニーダー反応機等を用いて行うことが好ましい。エステル化反応工程における反応温度は、反応速度の観点から、好ましくは60~120℃、より好ましくは60~100℃である。エステル化反応工程における反応時間は、所望の置換度のHPMCPを得る観点から、好ましくは2~8時間、より好ましくは3~6時間である。
次に、前記HPMCPを含有する反応溶液に、水を加えることにより、水添加反応溶液を得る水添加工程について説明する。
水添加工程を行うことによって、未反応の無水フタル酸を処理することができる。
水の添加量は、HPMCPが析出することによる移送性の低下を防ぐ観点から、前記HPMCPを析出しない量が好ましく、具体的には、エステル化反応に用いた出発原料HPMC100質量部に対して、好ましくは250質量部以下、より好ましくは1~200質量部、更に好ましくは3~190質量部である。水が添加されるHPMCPを含有する反応溶液の温度は、水を添加した後、続けて酢酸除去工程を実施する観点から、好ましくは60~100℃である。
次に、前記水添加反応溶液から酢酸の少なくとも一部を除去することにより、酢酸の含有量が低減された混合物を得る酢酸除去工程について説明する。なお、触媒として酢酸ナトリウムを用いる場合、次に示す平衡にあり、酢酸ナトリウム由来の酢酸は考慮しないこととする。
CHCOONa+CHCOOH = CHCOOH+CHCOONa
前記水添加反応溶液から酢酸の少なくとも一部を除去する方法は特に制限されないが、効率良く酢酸を除去して回収する観点から、酢酸除去工程が、前記水添加反応溶液を撹拌しながら加熱下かつ減圧下に前記酢酸を蒸発させて回収することを含むことが好ましい。
酢酸除去工程は、例えば、高粘度の水添加反応溶液を撹拌することが可能であり、加熱かつ減圧、又は減圧を行うことができる密閉状態を確保することができる装置を用いて行うことができる。当該装置としては、自転運動する撹拌羽根を備える加熱及び減圧可能な反応器、自転運動とともに公転運動する撹拌羽根を備える加熱及び減圧可能な反応器等が挙げられ、好ましくは自転運動とともに公転運動する撹拌羽根を備える加熱及び減圧可能な反応器であり、例えば、3本の自転運動しながら公転運動する枠型形状の撹拌羽根を有する5L竪型ニーダー反応器(トリミックスTX-5型、株式会社井上製作所製)等が挙げられる。一つの撹拌羽根の自転運動における周速は、酢酸除去工程における撹拌の均一性の観点から、好ましくは0.01~2.00m/sである。公転運動も利用する場合は、一つの撹拌羽根の公転運動における周速は、好ましくは0.001~2.00m/sである。本明細書において、「自転運動における周速」とは、使用する装置において自転運動する一つの撹拌羽根の最も速い部分(即ち、一つの撹拌羽根の最外周)の速度をいう。「公転運動における周速」とは、使用する装置において公転運動する一つの撹拌羽根の最も速い部分(即ち、一つの撹拌羽根の最外周)の速度をいう。
酢酸除去工程における酢酸除去温度は、酢酸を蒸発させる観点から、好ましくは60~100℃である。酢酸除去工程における減圧度は、酢酸を蒸発させる観点から、好ましくは-0.10~-0.02MPaGである。酢酸除去工程における減圧は、アスピレーター等を用いて行うことができる。
酢酸除去工程における酢酸除去時間は、生産性の観点から、好ましくは0.1~5時間である。
蒸発させた酢酸は、装置に接続した冷却トラップ等により回収することができる。冷却トラップは、氷冷等により、冷却することが好ましい。なお、回収した酢酸に水が含まれうる。
酢酸除去工程において除去された酢酸の、溶媒として加えた酢酸に対する割合を酢酸の除去率と呼ぶ。酢酸の除去率は、HPMCPの流動性の観点から、好ましくは10.0%以上、より好ましくは20.0~95.0%、更に好ましくは40.0~90.0%、特に好ましくは70.0~85.0%である。
なお、酢酸除去工程における酢酸の除去率は、除去された酢酸が水添加工程で添加された水等により希釈された混合物であることを考慮すると、以下の式で定義される。
酢酸の除去率(%)={(C×D/100)/A}×100
式中「A」は溶媒として使用した酢酸の出発原料HPMCに対する質量比を、式中「C」は酢酸を含有する回収物(水添加工程において添加した水も含む)の出発原料HPMCに対する質量比、式中「D」は酢酸を含有する回収物(水添加工程において添加した水も含む)中の酢酸の濃度を表す。
洗浄回収工程に供される酢酸の含有量が低減された混合物は、HPMCPの流動性の観点から、固体状であることが好ましい。酢酸の含有量が低減された混合物が、高粘度の液体状等である場合においては、室温まで冷却することにより、固体状の混合物を得ることができる。
酢酸除去工程と、後述する洗浄回収工程の間においては、固体状の酢酸の含有量が低減された混合物を効率良く洗浄する観点から、同固体状の混合物を粉砕することにより、粉砕された、酢酸の含有量が低減された混合物を得る粉砕工程を行ってもよい。
粉砕は、粉砕機を用いて行うことができる。粉砕機としては、ハンマーミル、ピンミル等の高速回転式粉砕機、ホモミキサー、高せん断ミル等の高せん断装置、ローラーミル等のロール式粉砕機、振動ミル、遊星ミル等の媒体式粉砕機、ジェットミル等の流体式粉砕機等が挙げられる。
粉砕は、酢酸の含有量が低減された混合物が粘着性のない固体である場合においてはそのまま粉砕を行ってもよいし(乾式粉砕)、酢酸の含有量が低減された混合物が粘着性のある固体である場合においては前記混合物に対し水を加えてから粉砕を行ってもよい(湿式粉砕)。一般に酢酸の含有量が低減された混合物が固体状の場合、酢酸の除去率が高く、酢酸の含有量が少ないほど粘着性は弱くなる。添加する水の温度は、HPMCPの粉砕性の観点から、好ましくは5~40℃である。水の添加量は、固体状の酢酸が除去された混合物100質量部に対して、好ましくは100~1000質量部である。
次に、酢酸の含有量が低減された混合物を洗浄してヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを回収する洗浄回収工程について説明する。
洗浄回収の方法は、特に制限されないが、例えば、酢酸の含有量が低減された混合物と水とを混合して水含有混合物を得た後、水含有混合物に遠心分離、濾過、又はデカンテーション等を行うことにより粗HPMCPを得てから、得られた粗HPMCPを水に分散して、撹拌機を用いて撹拌し、遠心分離や濾過等により洗浄に用いた水を分離することにより行う方法や、酢酸の含有量が低減された混合物または前記粗HPMCPに対し水を連続的にかけ流す方法、水含有混合物中の液体の一部を水に置き換えることを繰り返すことにより行う方法等が挙げられる。
酢酸の含有量が低減された混合物と水の水含有混合物は、洗浄性の観点から、懸濁液状であることが好ましい。
洗浄に用いる水の温度としては、HPMCP中に含まれる不純物を効率良く取り除く観点から、好ましくは5~40℃である。洗浄に用いる水の使用量は、洗浄方法により異なるが、例えば、遠心分離や濾過により粗HPMCPを得てから洗浄を行う場合は、不純物の少ないHPMCPを得る観点から、酢酸の含有量が低減された混合物100質量部に対して、好ましくは200~20000質量部である。
なお、洗浄に用いる水の使用量は、水添加工程において添加された水の量と合わせて好ましくは上記範囲となるようにすればよい。
得られたHPMCPは、必要に応じて乾燥しても良い。乾燥温度としては、HPMCPの凝集を防ぐ観点から、好ましくは40~100℃、より好ましくは40~80℃である。乾燥時間としては、HPMCPの凝集を防ぐ観点から、好ましくは1~20時間、より好ましくは3~15時間である。
また、得られたHPMCPは、所望の平均粒子径を得るために、必要に応じて篩過しても良い。
HPMCPを10質量%含むメタノール/塩化メチレン混合液(質量比1:1)の20℃における粘度は、好ましくは10.0~300.0mPa・s、より好ましくは15.0~250.0mPa・s、更に好ましくは15.0~220.0mPa・sである。HPMCPを10質量%含むメタノール/塩化メチレン混合液(質量比1:1)の20℃における粘度は、ウベローデ粘度計を用いて、第十七改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロースフタル酸エステル」に記載の方法により測定することができる。
HPMCPにおけるメトキシ基のDSは、好ましくは1.10~2.20、より好ましくは1.30~2.10、更に好ましくは1.60~2.00、最も好ましくは1.80~2.00である。
HPMCPにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、好ましくは0.10~1.00、より好ましくは0.10~0.80、更に好ましくは0.15~0.60、最も好ましくは0.20~0.50である。
HPMCPにおけるカルボキシベンゾイル基のDSは、好ましくは0.10~2.50、より好ましくは0.10~1.00、更に好ましくは0.40~0.80である。
なお、HPMCPにおけるメトキシ基、カルボキシベンゾイル基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSは、第17改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロース」及び「ヒプロメロースフタル酸エステル」に記載されている方法により得られた値から換算することができる。HPMCPにおけるメトキシ基、カルボキシベンゾイル基のDSは、置換度(degree of substitution)を表し、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基、カルボキシベンゾイル基の平均個数をいう。また、HPMCPにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、置換モル数(molar substitution)を表し、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数をいう。
HPMCPの粒度分布における累積50%の粒子径D50は、用途に応じて適宜決定すれば良いが、HPMCPの流動性の観点から、好ましくは50~700μm、より好ましくは100~600μm、更に好ましくは300~500μmである。
HPMCPの粒度分布における累積90%の粒子径D90と累積10%の粒子径D10との粒子径比(D90/D10)は、HPMCPの流動性の観点から、好ましくは40.0以下、より好ましくは0.5~10.0、更に好ましくは1.0~4.0、特に好ましくは1.0~3.5である。粒子径比(D90/D10)は、粒径分布の広さを表す。
HPMCPの粒度分布におけるD10、D50、D90は、乾式のレーザー回折式粒度分布測定装置(マスターサイザー3000、マルバーン社)を用いて分散圧2barにて測定した。乾式のレーザー回折式粒度分布測定装置は、圧縮空気で粉体サンプルを噴出させ、それにレーザー光を照射し、その回折強度により体積相当球の直径を測定する装置であり、例えば、英国マルバーン社製のマスターサイザーやドイツSympatec社のHELOS装置等が挙げられる。
HPMCPのゆるめ嵩密度は、取扱い上の観点から、好ましくは0.30~0.60g/cm、より好ましくは0.35~0.55g/cm、更に好ましくは0.40~0.53g/cmである。ゆるめ嵩密度とは、疎充填の状態の嵩密度をいい、直径5.03cm、高さ5.03cm(容積100mL)の円筒容器へ23cm上方から試料を均一に供給し、上面をすり切って秤量することによって測定される。
第17改正日本薬局方参考情報に記載されるオリフィスからの流出速度測定法により測定することができる、HPMCPにおける流出速度は、取り扱い上の観点から、好ましくは1.50~3.50g/sec、より好ましくは1.60~3.00g/secである。第17改正日本薬局方参考情報に記載される通り、流出速度は用いた測定法に極めて大きく依存するため、流出速度を比較する際は同一条件で測定された流出速度同士で比較する必要がある。測定条件の詳細については、実施例にて詳述する。
本明細書において、HPMCPは、「長繊維状粒子」、「短繊維状粒子」、「球状粒子」及び「微粒子」の4種類の粒子に分類される。図1は、HPMCPの「全粒子」を、「微粒子」、「長繊維状粒子(LF1及びLF2)」、「短繊維状粒子(SF1及びSF2)」及び「球状粒子(S1及びS2)」の4種類の粒子に分類する方法についてまとめたフローチャートを示す。HPMCP中の前記各粒子の体積分率は、動的画像解析法により、以下の繊維長(LEFI)、繊維径(DIFI)、伸長比、アスペクト比及び円形度等の形状パラメータを測定することにより算出できる。動的画像解析法とは、気体又は溶媒等の流体に分散させた粒子の画像を連続的に撮影し、二直化・解析を行うことにより粒子径や粒子形状を求める方法である。例えば、動的画像解析式粒度分布測定装置QICPIC/R16(シンパテック社製)を用いて測定できる。
全粒子Aは、繊維長(Length of Fiber:LEFI)が40μm以上の粒子Cと、40μm未満の微粒子Bに分けられる。LEFIは、粒子の両端間の長さとして定義され、粒子輪郭の中の片側から別の片側までで最も長い経路である。なお、M7 レンズを搭載した場合のQICPIC/R16の検出限界は4.7μmであるため、4.7μm未満の粒子は検出されないが、4.7μm未満のLEFIを有する粒子の体積がHPMCP全体に占める割合は極僅かであることから、本発明の目的上無視できる。
LEFIが40μm以上の粒子Cは、繊維径(Diameter of Fiber:DIFI)とLEFIの比率(DIFI/LEFI)である伸長比(elongation)が0.5以上の第1球状粒子(S1)と、0.5未満の粒子Dに分けられる。DIFIは、粒子の短径として定義され、粒子の投影面積を繊維の分枝の全ての長さの合計で割ることにより算出される。
LEFIが40μm以上で伸長比(elongation)が0.5未満の粒子Dは、最小フェレー径(Fmin)と最大フェレー径(Fmax)の比率(Fmin/Fmax)であるアスペクト比(aspect ratio)が0.5未満の粒子Eと、0.5以上の粒子Fに分けられる。いずれの粒子も、アスペクト比は0を超えて1以下の値となる。フェレー径は、粒子を挟む2本の平行接線間の距離のことであり、最大フェレー径(Fmax)は、粒子を挟む2接線間の距離で、0から180まで方向を変化させた時の最大径をいい、最小フェレー径(Fmin)は、粒子を挟む2接線間の距離で、0から180まで方向を変化させた時の最小径をいう。
LEFIが40μm以上で伸長比(elongation)が0.5未満であり、かつアスペクト比(aspect ratio)が0.5未満の繊維状粒子Eは、LEFIが200μm以上の第1長繊維状粒子(LF1)と、200μm未満の第1短繊維状粒子(SF1)に分けられる。
LEFIが40μm以上で伸長比(elongation)が0.5未満であり、かつアスペクト比(aspect ratio)が0.5以上の粒子Fは、円形度(circularity)が0.7以上の第2球状粒子(S2)と、0.7未満の繊維状粒子G に分けられる。円形度(Circularity)は、粒子の投影面積(Ap)と同じ面積を有する円における周囲長(PEQPC)と、実際の粒子の周囲長(Preal)の比率で、下記式により定義される。いずれの粒子も、円形度は0を超えて1以下の値となる。円形度が小さいほど、粒子の形はより不規則となる。EQPCは、面積円相当径(Diameter of a ircle of Equal rojection Area)、すなわち、粒子の投影面積と同等の面積を有する円の直径として定義され、Heywood径とも言う。
Figure 0007399061000001
LEFIが40μm以上、伸長比(elongation)が0.5未満でアスペクト比(aspect ratio)が0.5以上であり、かつ円形度(circularity)が0.7未満の繊維状粒子Gは、LEFIが200μm以上の第2長繊維状粒子(LF2)と、200μm未満の第2短繊維状粒子(SF2)に分けられる。
HPMCP中の微粒子の体積(V)は、微粒子を直径がEQPCの球であると仮定することにより、下記式により算出することができる。
=(π/6)×(EQPC)×N
ここで、Nは試料中の微粒子の数であり、EQPCは微粒子の個数基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当するメジアンEQPCである。
本明細書において、全粒子からLEFIが40μm未満の微粒子を除いた、40μm以上のLEFIを有する粒子は、上記の粒子の形状パラメータである、LEFI、伸長比、アスペクト比及び円形度に基づき「長繊維状粒子」、「短繊維状粒子」及び「球状粒子」に分類され、それぞれ区別される。
<長繊維状粒子>
以下の定義LF1又はLF2のいずれかを満たす粒子は、「長繊維状粒子」に分類され
る。
LF1:0.5未満の伸長比、0.5未満のアスペクト比、及び200μm以上のLEFI(繊維長)を有する粒子。
LF2:0.5未満の伸長比、0.5以上のアスペクト比、0.7未満の円形度及び200μm以上のLEFI(繊維長)を有する粒子。
HPMCP中の長繊維状粒子の体積(VLF)は、長繊維状粒子を、底面の直径をDIFI、高さをLEFIとする円柱と仮定することにより、下記式により算出することができる。
LF=(π/4)×(DIFI)×(LEFI)×NLF
ここで、NLFは試料中の長繊維状粒子の数であり、DIFIは長繊維状粒子の個数基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当するメジアンDIFIであり、LEFIは長繊維状粒子の個数基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当するメジアンLEFIである。
なお、上記LF1及びLF2の定義を満たす粒子のそれぞれについて上記式により体積を計算し、それらを合計した値がHPMCP中の長繊維状粒子の体積である。
<短繊維状粒子>
以下の定義SF1又はSF2のいずれかを満たす粒子は、「短繊維状粒子」に分類される。
SF1:0.5未満の伸長比、0.5未満のアスペクト比、及び40μm以上200μm未満のLEFI(繊維長)を有する粒子。
SF2:0.5未満の伸長比、0.5以上のアスペクト比、0.7未満の円形度及び40μm以上200μm未満のLEFI(繊維長)を有する粒子。
HPMCP中の短繊維状粒子の体積(VSF)は、上記の長繊維状粒子と同様に、短繊維状粒子を、底面の直径をDIFI、高さをLEFIとする円柱と仮定することにより、下記式により算出することができる。
SF=(π/4)×(DIFI)×(LEFI)×NSF
ここで、NSFは試料中の短繊維状粒子の数であり、DIFIは短繊維状粒子の個数基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当するメジアンDIFIであり、LEFIは短繊維状粒子の個数基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当するメジアンLEFIである。
なお、上記SF1及びSF2の定義を満たす粒子のそれぞれについて上記式により体積を計算し、それらを合計した値がHPMCP中の短繊維状粒子の体積である。
<球状粒子>
以下の定義S1又はS2のいずれかを満たす粒子は、「球状粒子」に分類される。
S1:0.5以上の伸長比及び40μm以上のLEFI(繊維長)を有する粒子。
S2:0.5未満の伸長比、0.5以上のアスペクト比、0.7以上の円形度及び40
μm以上のLEFI(繊維長)を有する粒子。
HPMCP中の球状粒子の体積(V)は、球状粒子を直径がEQPCの球であると仮定することにより、下記式により算出することができる。
=(π/6)×(EQPC)×N
ここで、NSは試料中の球状粒子の数であり、EQPCは球状粒子の個数基準の累積粒度分布曲線の50%累積値に相当するメジアンEQPCである。
なお、上記S1及びS2の定義を満たす粒子のそれぞれについて上記式により体積を計
算し、それらを合計した値がHPMCP中の球状粒子の体積である。
HPMCP中の各種粒子の体積分率は、上記で定義した体積V、VLF、VSF及びVからそれぞれ下記式により算出できる。
微粒子の体積分率={V/(V+VLF+VSF+V)}×100
長繊維状粒子の体積分率={VLF/(V+VLF+VSF+V)}×100
短繊維状粒子の体積分率={VSF/(V+VLF+VSF+V)}×100
球状粒子の体積分率={V/(V+VLF+VSF+V)}×100
各種粒子(長繊維状粒子、短繊維状粒子、球状粒子及び微粒子)の体積分率は、定量フィーダーVIBRI/L、気流式分散器 RODOS/L及びM7レンズを搭載した動的画像解析式粒度分布測定装置QICPIC/R16(シンパテック社製)を用いて、フレームレート500Hz、インジェクタ4mm、分散圧1barの条件で測定を行い、撮像した粒子の画像を解析ソフトWINDOX5 Version:5.9.1.1により解析して各種粒子の個数基準のメジアンEQPC、個数基準のメジアンLEFI、個数基準のメジアンDIFI、伸長比、アスペクト比及び円形度を求め、その値を基に前述した計算式により算出した。なお、解析時の区分はM7を使用した。
HPMCPにおける球状粒子の体積分率は、流動性に優れるHPMCPを得る観点から、70.0%以上、好ましくは75.0~99.0%、より好ましくは83.0~97.0%である。
HPMCPにおける長繊維状粒子の体積分率は、HPMCPの流動性の観点から、好ましくは30.0%以下、より好ましくは1.0~25.0%、更に好ましくは3.0~20.0%である。
HPMCPにおける短繊維状粒子の体積分率は、HPMCPの流動性の観点から、好ましくは2.5%以下、より好ましくは0.0~1.5%、更に好ましくは0.0~0.5%である。
HPMCPにおける微粒子の体積分率は、HPMCPの流動性の観点から、好ましくは2.5%以下、より好ましくは0.0~1.5%、更に好ましくは0.0~0.5%である。
次に、上述のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートと、薬物とを少なくとも含む加熱溶融押出用組成物について説明する。
上述の流動性が良好なHPMCPを用いることにより、加熱溶融押出用組成物におけるHPMCPと薬物との混合均一性や、HPMCPと、薬物の混合粉体のホッパー内でのブリッジの形成を改善することができ、薬物の含量の均一性、薬物に対するHPMCPの質量比の改善や、定量供給及び連続運転が期待できる。
薬物としては、薬物としては、経口投与可能な薬物であれば特に限定されるものではなく、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質、鎮咳・去たん剤、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛消炎剤、利尿剤、自律神経作用薬、抗マラリア剤、止潟剤、向精神剤、ビタミン類及びその誘導体等が挙げられる。
中枢神経系薬物としては、ジアゼパム、イデベノン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカムインドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド及びクロルジアゼポキシド等が挙げられる。
循環器系薬物としては、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ビンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビト、塩酸デラプリル、塩酸メクロフェノキサート、塩酸ジルチアゼム、塩酸エチレフリン、ジギトキシン及び塩酸アルプレノロール等が挙げられる。
呼吸器系薬物としては、アムレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール及びグアイフェネシン等が挙げられる。
消化器系薬物としては、例えば、2-[〔3-メチル-4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-2-ピリジル〕メチルスルフィニル]ベンゾイミダゾール及び5-メトキシ-2-〔(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンゾイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンゾイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、塩酸ピレンゼピン、パンクレアチン、ビサコジル並びに5-アミノサリチル酸等が挙げられる。
抗生物質としては、塩酸タランピシリン、塩酸バカンピシリン、セファクロル及びエリスロマイシン等が挙げられる。
鎮咳・去たん剤としては、塩酸ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、クエン酸イソアミニル及びリン酸ジメモルファン等が挙げられる。
抗ヒスタミン剤としては、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン及び塩酸プロメタジン等が挙げられる。
解熱鎮痛消炎剤としては、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、スルピリン、アスピリン及びケトプロフェン等が挙げられる。
利尿剤としては、カフェイン等が挙げられる。
自律神経作用薬としては、リン酸ジヒドロコデイン及びdl-塩酸メチルエフェドリン、硫酸アトロピン、塩化アセチルコリン、ネオスチグミン等が挙げられる。
抗マラリア剤としては、塩酸キニーネ等が挙げられる。
止潟剤としては、塩酸ロペラミド等が挙げられる。
向精神剤としては、クロルプロマジン等が挙げられる。
ビタミン類及びその誘導体としては、ビタミンA、ビタミンB1、フルスルチアミン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム及びトラネキサム酸等が挙げられる。
特に、本発明のHPMCPを水難溶性の薬物の固体分散体の担体として用いることにより、水難溶性薬物の溶解性を改善することができる。水難溶性薬物は、水に、第17改正日本薬局方に記載された「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」、「ほとんど溶けない」とされる薬物をいう。「溶けにくい」とは、固形の医薬品1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、100mL以上1000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「極めて溶けにくい」とは、同様に1000mL以上10000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「ほとんど溶けない」とは、同様に30分以内に10000mL以上要するものをいう。
また、上記の医薬品試験において、水難溶性薬物が溶けるということは、薬物が水に溶ける又は混和することを示し、繊維等を認めないか又は認めても極めてわずかであることをいう。
水難溶性薬物としては、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、メトコナゾール等のアゾール系化合物、ニフェジピン、ニトレンジピン、アムロジピン、ニカルジピン、ニルバジピン、フェロジピン、エフォニジピン等のジヒドロピリジン系化合物、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン等のプロピオン酸系化合物、インドメタシン、アセメタシン等のインドール酢酸系化合物のほかに、グリセオフルビン、フェニトイン、カルバマゼピン、ジピリダモール等が挙げられる。
HPMCPと薬物の質量比は、特に限定されないが、非晶化状態の保存安定性の観点から、好ましくは1:0.1~1:10、より好ましくは1:0.2~1:5である。
更に、加熱溶融押出用組成物は、加熱溶融押出の際の成形性の改善等のために、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
可塑剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の好ましくは炭素数10~20の高級アルコール、マンニトール、ソルビトール、グリセリン等の好ましくは2~6価の多価アルコール、ビーズワックス、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール又はプロピレングリコール等のアルキレングリコール、トリアセチン、ジブチルセバセート、グリセリンモノステアレート、モノグリセリンアセテート等の可塑剤が挙げられる。
加熱溶融押出用組成物における可塑剤の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは0.1~30質量%である。
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、ジグリセリド、ポロクサマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ツイン20、60、80)、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、レシチン、タウロコール酸ナトリウム等の天然界面活性剤等が挙げられる。
加熱溶融押出用組成物における界面活性剤の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは0.1~10質量%である。
加熱溶融押出用組成物は、HPMCPと、薬物と、必要に応じて可塑剤、界面活性剤とを混合することにより、加熱溶融押出用組成物を得る工程により調製することができる。調製された加熱溶融押出用組成物を加熱溶融押出機のホッパーから投入し、円形や四角形等の形状の他、柱状やフィルム状の形状等、所望の形状に押出して、成型体を得ることができる。
加熱溶融押出機は、HPMCPと、薬物を系内で加熱をしながら、ピストン又はスクリューで剪断力を加えて溶融して練合後、ダイから押し出す構造の押出機であれば特に制限はないが、より均一な押出成型物を得るためには、二軸型の押出機の方が好ましい。具体的には、東洋精機社製のキャピログラフ(一軸ピストン型押出装置)やライストリッツ(Leistritz)社製のNano-16(二軸スクリュー型押出装置)、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo fisher Scientific)社製のMini Lab(二軸スクリュー型押出装置)及びPharma Lab(二軸スクリュー型押出装置)が挙げられる。
加熱溶融温度は、特に限定されないが、好ましくは、加熱溶融押出用組成物が溶融して押出が無理なくでき、熱により薬物やHPMCPの分解をできるだけ避けることができる温度である。加熱溶融温度は、薬物、HPMCPの融点や加熱溶融押出用組成物の融点を考慮し、好ましくは50~250℃、より好ましくは60~200℃、更に好ましくは90~190℃である。
加熱溶融押出条件は、常法に従い、加熱溶融押出用組成物の性質に応じて適宜定めればよい。
押出後の加熱溶融押出成型物は、ダイ吐出口以降から室温(1~30℃)による自然冷却又は冷送風により冷却されるが、薬物の熱分解を最少にするため及び非晶化薬物の場合は再結晶化を抑制するために、好ましくは50℃以下、より好ましくは室温以下(30℃以下)に冷却することが望ましい。
冷却後の加熱溶融押出成型物は、必要に応じて切断機によって0.1~5mmのペレット化するか、更に粉砕して粒状及び粉状になるまで粒度調整を行ってもよい。粉砕には機器の構造上、品温が高くなりにくいジェットミル、ナイフミル、ピンミル等の衝撃粉砕機が好ましい。なお、切断機および粉砕機内が高温化してしまう場合は、HPMCPが熱により軟化し粒同士が固着してしまうため、冷送風下で粉砕することが好ましい。
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
酢酸除去工程において、除去した酢酸と水とを少なくとも含む混合物における酢酸の濃度は、以下の条件にて液体クロマトグラフィーにより測定した。
装置: 島津製作所製液体クロマトグラフ LC-20AB
カラム: ODS-3(内径4.6mm、長さ15cm、粒子径5μm、GL Science社製)
カラム温度:30℃、一定
検出器:紫外可視吸光光度計(測定波長:215nm、SPD-20AV、島津製作所製)
移動相:0.02mol/Lリン酸二水素カリウム水溶液にリン酸を加えてpH2.8に調整したものを使用した。
流量: 1mL/分
測定試料は、酢酸除去工程において除去した酢酸と水とを少なくとも含む混合物を、水を用いて体積基準で500倍に希釈後、更に希釈物を移動相を用いて体積基準で6.25倍に希釈することにより調製した。
HPMCPにおける流出速度は、以下の条件にて流動性試験器BEP2(Copley Scientific社)により測定し、2測定の平均を算出することにより求めた。
オリフィス径:8mm
HPMCPの仕込み量:30g
静置時間:30秒
容器:円筒状(直径57mm)
実施例1
3本の自転運動しながら公転運動する枠型形状の撹拌羽根を有する5L竪型ニーダー反応器(トリミックスTX-5型、井上製作所製)にメトキシ基のDSが1.88、ヒドロキシプロポキシ基のMSが0.24、2質量%水溶液の20℃における粘度が6.0mPa・sであるHPMC600.0g、氷酢酸960.0g、無水フタル酸498.0g、酢酸ナトリウム253.0g及び塩素酸ナトリウム9.5gを仕込み、85℃で4.5時間撹拌することにより、HPMCPを含有する反応溶液2320.5gを得た。
次に、同一反応器内において、85℃を維持したまま、HPMCPを含有する反応溶液に水27.0gを添加して、撹拌することにより、水添加反応溶液2347.5gを得た。エステル化反応における当量関係を表1に示す。
Figure 0007399061000002
続いて、同一反応器内において、アスピレーター(A-1000S、東京理化器械社製)を用いてニーダー反応器内の内圧を-0.09MPaGに減圧し、85℃で30分間撹拌しながら、氷冷した冷却トラップを用いて酢酸を回収した。回収した酢酸には、水が含まれており、酢酸と水とを少なくとも含む回収物の量は、253.8gであった。そして、ニーダー反応器内温を室温まで冷却することにより、酢酸が低減され、HPMCPを含有する粘着性のある固体状の混合物を得た。
なお、エステル化反応工程、水添加工程及び酢酸除去工程における枠型形状の撹拌羽根の自転運動における周速は0.050m/sであり、公転運動における周速は0.019m/sであり、公転運動における周速に対する自転運動における周速の比は2.6であった。また、3本の自転運動しながら公転運動する枠型形状の撹拌羽根の全てにおいて、自転運動の周速を同じとした。
次に、粘着性のある固体状の混合物100質量部に対し300質量部、20℃の水を加え、8000rpm、周速12.57m/secで回転するホモミキサー(ホモミクサーMARKII2.5型、プライミクス株式会社製、ローター直径30.0mm)に供することで粉砕し、粉砕された混合物の懸濁液を得た。続いて、粉砕された混合物を濾過して粗HPMCPを得た。
その後、粗HPMCPを水に分散、撹拌、濾過を行う操作を10回繰り返して洗浄した。洗浄に用いた水の温度は20℃、洗浄に用いた水の使用量は、酢酸の含有量が低減された固体状の混合物100質量部に対し一回の操作あたり500質量部であった。さらに、温度80℃で2時間乾燥を行った後に、目開き0.5mmの篩にて篩過し、HPMCPを得た。
表2に溶媒として使用した氷酢酸のHPMCに対する質量比(A)、エステル化反応工程終了後の水添加工程で添加された水のHPMCに対する質量比(B)、酢酸除去工程において酢酸と水とを少なくとも含む回収物のHPMCに対する質量比(C)、酢酸と水とを少なくとも含む回収物中の酢酸の濃度(D)、酢酸の除去率、及び洗浄回収工程に供した酢酸の含有量が低減された混合物の状態を示す。また、表3に得られたHPMCPにおける各種物性について示す。
実施例2
酢酸除去工程における撹拌時間が60分間である点、除去した酢酸と水とを少なくとも含む回収物の量が775.0gである点以外は実施例1と同様の方法により、酢酸の含有量が低減され、HPMCPを含有する粘着性のない固体状の混合物を得た。
次に、酢酸の含有量が低減された固体状の混合物をナイフ型粉砕刃と目開き0.8mmのスクリーンを備えたフェザミルFM-1F(ホソカワミクロン株式会社製、ローター直径266.4mm)を用いて4000rpm、周速55.79m/sにて粉砕した。続いて、粉砕された酢酸の含有量が低減された混合物100質量部に対し300質量部、20℃の水を加えて混合し、粉砕され酢酸の含有量が低減された混合物と水との水含有混合物を得た後に、水含有混合物を濾過することにより、粗HPMCPを得た。
その後、粗HPMCPを水に分散、撹拌、濾過を行う操作を10回繰り返して洗浄した。洗浄に用いた水の温度は20℃、洗浄に用いた水の使用量は、酢酸の含有量が低減された固体状の混合物100質量部に対し一回の操作あたり500質量部であった。その後、実施例1と同様の方法により粗HPMCPを洗浄、乾燥、篩過し、HPMCPを得た。結果を表2~3に示す。
実施例3
HPMCPを含有する反応溶液に添加する水の量が1104.0gである点、酢酸除去工程における撹拌時間が60分間である点、酢酸と水とを少なくとも含む回収物の量が1230.2gである点以外は実施例1と同様の操作を行い、HPMCPを得た。なお、酢酸除去工程においては、酢酸の含有量が低減され、HPMCPを含有する粘着性のある固体状の混合物が得られた。結果を表2~3に示す。
実施例4
HPMCPを含有する反応溶液に添加する水の量が1104.0gである点、酢酸除去工程における撹拌時間が120分間である点、酢酸と水とを少なくとも含む回収物の量が1719.5gである点以外は実施例2と同様の操作を行い、HPMCPを得た。なお、酢酸除去工程においては、酢酸の含有量が低減され、HPMCPを含有する粘着性のない固体状の混合物が得られた。結果を表2~3に示す。
比較例1
HPMCPを含有する反応溶液に添加する水の量が1104.0gである点、酢酸除去工程を行うことなく水添加反応溶液をホモミキサーに供した点以外は実施例1と同様の操作を行い、HPMCPを得た。結果を表2~3に示す。
Figure 0007399061000003
Figure 0007399061000004
酢酸除去工程を行うことにより、球状粒子の体積分率が70.0%以上であるHPMCPが得られ、良好な粒子径比(D90/D10)、ゆるめ嵩密度、及び流出速度を示した。また、排水処理における負担軽減や回収した酢酸を再利用することによる、コストの削減が期待できる。そして、加熱溶融押出用組成物におけるHPMCPと薬物との混合均一性や、HPMCPと、薬物の混合粉体のホッパー内でのブリッジの形成を改善することができ、薬物の含量の均一性、薬物に対するHPMCPの質量比の改善や、定量供給及び連続運転が期待できる。
なお、本願の出願当初の特許請求の範囲は、以下の通りである。
[請求項1]溶媒として酢酸を用い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、無水フタル酸とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程と、
前記反応溶液に、水を加えることにより、水添加反応溶液を得る水添加工程と、
前記水添加反応溶液から前記酢酸の少なくとも一部を除去することにより、前記酢酸の含有量が低減された混合物を得る酢酸除去工程と、
前記混合物を洗浄して前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを回収する洗浄回収工程と
を少なくとも含むヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法。
[請求項2]前記酢酸除去工程において除去された酢酸が、前記溶媒としての酢酸に対して10.0%以上である請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法。
[請求項3]前記酢酸除去工程が、前記水添加反応溶液を撹拌しながら加熱下かつ減圧下に前記酢酸を蒸発させることを含む請求項1又は請求項2に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法。
[請求項4]動的画像解析法により全粒子を微粒子と、球状粒子と、繊維状粒子とに分類した場合、前記全粒子に対する前記球状粒子の体積分率が70.0%以上であるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートであって、
前記微粒子が、繊維長が40μm未満の粒子であり、
前記球状粒子は繊維長が40μm以上であり、かつ繊維径と繊維長の比率である伸長比が0.5以上の第1球状粒子と、伸長比が0.5未満であり、最小フェレー径と最大フェレー径の比率であるアスペクト比が0.5以上であり、粒子の投影面積と同じ面積を有する円の周囲長(P EQPC )と実際の粒子の周囲長(P real )の比率である円形度が0.7以上である第2球状粒子とからなり、
前記繊維状粒子は長繊維状粒子及び短繊維状粒子からなり、
前記長繊維状粒子は繊維長が200μm以上、伸長比が0.5未満であり、かつアスペクト比が0.5未満である第1長繊維状粒子と、アスペクト比が0.5以上であり、円形度が0.7未満である第2長繊維状粒子とからなり、
前記短繊維状粒子は繊維長が40μm以上200μm未満、伸長比が0.5未満であり、かつアスペクト比が0.5未満である第1短繊維状粒子と、アスペクト比が0.5以上であり、円形度が0.7未満である第2短繊維状粒子とからなるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート。
[請求項5]前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの粒度分布において、累積50%の粒子径D 50 が50~700μmであり、累積90%の粒子径D 90 と累積10%の粒子径D 10 との粒子径比(D 90 /D 10 )が、40.0以下である請求項4に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート。
[請求項6]請求項4又は請求項5に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートと、薬物とを少なくとも含む加熱溶融押出用組成物。
A:全粒子
B:微粒子
C:LEFI( 繊維長)が40μm以上の粒子
D:LEFIが40μm以上で伸長比(elongation)が0.5未満の粒子
E:LEFIが40μm以上で伸長比が0.5未満でアスペクト比(aspectratio)が0.5未満の粒子
F:LEFIが40μm以上で伸長比が0.5未満でアスペクト比が0.5以上の粒子
G:LEFIが40μm以上で伸長比が0.5未満でアスペクト比が0.5以上で円形度
(circularity)が0.7未満の粒子
S1:第1球状粒子
S2:第2球状粒子
LF1:第1長繊維状粒子
LF2:第2長繊維状粒子
SF1:第1短繊維状粒子
SF2:第2短繊維状粒子
LEFI:繊維長
elongation:伸長比
aspectratio:アスペクト比
circularity:円形度

Claims (2)

  1. 溶媒として酢酸を用い、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、無水フタル酸とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程と、
    前記反応溶液に、水を加えることにより、水添加反応溶液を得る水添加工程と、
    前記水添加反応溶液から前記水添加反応溶液に含まれる酢酸の少なくとも一部、又は前記水添加反応溶液に含まれる酢酸と水のそれぞれ少なくとも一部を除去することにより、前記酢酸の含有量が低減された混合物を得る酢酸除去工程と、
    前記混合物を洗浄して前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを回収する洗浄回収工程と
    を少なくとも含み、
    前記酢酸除去工程が、前記水添加反応溶液を撹拌しながら加熱下かつ減圧下に、前記水添加反応溶液に含まれる酢酸の少なくとも一部、又は前記水添加反応溶液に含まれる酢酸と水のそれぞれ少なくとも一部を蒸発させることを含むヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法。
  2. 前記酢酸除去工程において除去された酢酸の質量が、前記溶媒としての酢酸の質量に対して10.0%以上である請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの製造方法。
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