JP7393268B2 - 絶縁性ペースト - Google Patents

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本発明は、絶縁性ペーストに関する。
近年、透明性や耐熱性に優れる材料として、セルロースナノファイバーが知られている(例えば、特許文献1)。
このようなセルロースナノファイバーを用いた材料として、特許文献1では、微細繊維状セルロースと、ポリエーテルアミンとを含む熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
特開2018-44096号公報
しかしながら、特許文献1の熱硬化性樹脂を絶縁性ペーストに用いた場合、強度と、熱に対する寸法安定性については改善の余地があった。このため、強度に優れるとともに、熱に対する寸法安定性に優れる絶縁性ペーストの開発が望まれていた。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
(1)本発明の一形態によれば、絶縁性ペーストが提供される。この絶縁性ペーストは、
微細繊維状セルロースと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を含有する絶縁性ペーストであって、
前記微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする、絶縁性ペースト。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
(E)前記(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
Figure 0007393268000001
〔前記式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R 、R 、R 、R は、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示し、前記式(1)中、R 、R 、R 、R の少なくとも一つは、炭素数が6以上である。〕
その他、本発明は、以下の形態として実現することができる。
(1)本発明の一形態によれば、微細繊維状セルロースと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を含有する絶縁性ペーストが提供される。この絶縁性ペーストにおいて、前記微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
(E)前記(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
Figure 0007393268000002
〔前記式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R、R、R、Rは、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示す。〕
この形態の絶縁性ペーストによれば、強度に優れるとともに、熱に対する寸法安定性に優れる。
(2)上記形態の絶縁性ペーストにおいて、前記式(1)中、R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数が6以上であってもよい。
この形態の絶縁性ペーストによれば、より強度に優れる。
(3)上記形態の絶縁性ペーストにおいて、前記アニオン性官能基は、カルボキシ基であってもよい。
この形態の絶縁性ペーストによれば、微細繊維状セルロースへのアニオン性官能基の導入が容易である。
(4)上記形態の絶縁性ペーストにおいて、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含んでもよい。
この形態の絶縁性ペーストによれば、微細繊維状セルロースとの分散性が向上する。
(5)上記形態の絶縁性ペーストにおいて、前記微細繊維状セルロースの固形分濃度は、0.05質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
この形態の絶縁性ペーストによれば、ハンドリング性と増粘性に優れる。
(6)本発明の他の形態によれば、上記形態の絶縁性ペーストから調製される樹脂組成物が提供される。
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、絶縁性ペーストの製造方法等の態様で実現することができる。
繊維径の測定方法を説明する図。
A.絶縁性ペースト
本発明の一実施形態である絶縁性ペーストは、微細繊維状セルロースと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を含有する絶縁性ペーストであって、微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
(E)(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
Figure 0007393268000003
〔式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R、R、R、Rは、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示す。〕
本明細書において、上記(1)式に記載の有機オニウムイオンを、単に「有機オニウムイオン」とも呼ぶ。
本実施形態の絶縁性ペーストは、強度に優れるとともに、熱に対する寸法安定性に優れる。このような効果を奏するメカニズムは明らかではないが、以下の推定メカニズムが考えられる。つまり、微細繊維状セルロースを十分に疎水化することが可能であるため、溶剤中において微細繊維状セルロースが凝集することなく分散可能である結果として、分散性に優れると考えられる。また、上記式(1)で示す有機オニウムイオンの分子量が比較的小さいために可塑剤として働くことがないために、強度に優れるとともに、熱に対する寸法安定性に優れると考えられる。
[微細繊維状セルロース]
微細繊維状セルロースは、下記の条件を満たすものである。
<数平均繊維径>
上記微細繊維状セルロースの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であるが、好ましくは2nm以上150nm以下であり、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、特に好ましくは3nm以上80nm以下である。上記数平均繊維径が2nm未満であると、微細繊維状セルロースが溶解することにより、溶剤中で微細繊維状セルロースの3次元的ネットワークが形成されなくなり、高い強度が得られない虞がある。一方、上記数平均繊維径が500nmを超える場合も微細繊維状セルロースが沈降する虞がある。また最大繊維径は、微細繊維状セルロースの分散性の点で、1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは500nm以下である。
上記微細繊維状セルロースの数平均繊維径および数平均繊維長は、例えば、以下の方法により測定することができる。すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%の微細セルロースの水分散体を調製した後、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。
図1は、繊維径の測定方法を説明する図である。繊維径は、1本の繊維Fの長手方向に直交する線と繊維の外周との2つの交点間の距離を測定することで求めることができる。つまり、図1で示す点P1と点P2との間の距離を測定することで求めることができる。繊維長は、繊維の全体が観察画像中に写っている繊維の長さを測定して求める。繊維の長さを測定する際、繊維に折れ曲がりがある場合は、例えば、折れ曲がり点が1点であれば、一端から折れ曲がり点までの長さと、この折れ曲がり点から他端までの長さの合計値を繊維長とする。なお、繊維径及び繊維長は少なくとも25本以上の繊維を観察する。また、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行ってもよい。このようにして得られた繊維径及び繊維長のデータにより、数平均繊維長および数平均繊維径を算出する。
<平均アスペクト比>
上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は10以上1000以下であるが、好ま
しくは100以上、より好ましくは200以上である。平均アスペクト比が10未満であ
ると表面電荷が少なくなり、高い強度が得られないという問題が生じ得る。
上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、先に述べた方法に従って得られた数平均繊維径および数平均繊維長を用いて、下記の式により算出される。
平均アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維径[nm]
<セルロースI型結晶構造>
上記微細繊維状セルロースは、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース原料を微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、まず、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが形成されており、ミクロフィブリルが多束化することによって高次な固体構造を構成する。
上記微細繊維状セルロースを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14~17°付近と、2シータ=22~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
<アニオン性官能基>
上記微細繊維状セルロースはアニオン性官能基を有する。本明細書において、アニオン性官能基とは、pH7の水中において半数以上の水素イオンが乖離する官能基を示す。アニオン性官能基としては、特に制限されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、硫酸基等が挙げられる。アニオン性官能基としては、微細繊維状セルロースへのアニオン性官能基の導入が容易であるため、カルボキシ基が好ましい。
微細繊維状セルロースにカルボキシ基を導入する方法としては、特に制限されないが、例えば、(i)カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物、及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を、微細繊維状セルロースの水酸基に反応させる方法や、(ii)微細繊維状セルロースの水酸基を酸化する事によってカルボキシ基に変換する方法等が挙げられる。
上記カルボキシ基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化酢酸が挙げられる。ハロゲン化酢酸としては、例えば、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等が挙げられる。
上記カルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
上記カルボキシ基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体等が挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、例えば、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等が挙げられる。
微細繊維状セルロースの水酸基を酸化する方法としては、特に限定されないが、例えば、N-オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。
微細繊維状セルロースにカルボキシ基を導入する方法としては、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかであることから、セルロースの水酸基を酸化する方法が好ましい。以下、水酸基の酸化によりカルボキシ基が導入された微細繊維状セルロースを、「酸化セルロース」とも呼ぶ。
また、微細繊維状セルロースにリン酸基を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、(i)乾燥した、あるいは湿潤状態のセルロース繊維原料に、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法、(ii)セルロース繊維原料の分散液に、リン酸またはリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これら方法においては、一般に、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理、加熱処理等を行う。このようにすることにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基を含む化合物またはその塩が脱水反応することによってリン酸エステルが形成されることにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基又はその塩が導入される。ここで、リン酸またはリン酸誘導体としては、特に限定されないが、例えば、リン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸あるいはそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
微細繊維状セルロースの含有量に対するアニオン性官能基の含有量(アニオン性官能基の含有量[mmol]/微細繊維状セルロースの含有量[g])は、特に限定されないが、微細繊維状セルロースの分散性に優れる点から、1.0mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが好ましく、0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1.5mmol/g以上2.0mmol/g以下である。
アニオン性官能基量は、以下のように測定できる。
例えば、アニオン性官能基がカルボキシ基の場合における測定法を以下に示す。すなわち、乾燥質量を精秤した微細繊維状セルロースから0.5~1質量%スラリーを60ml調製した後、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とする。その後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V[ml])から、下記の式に従いカルボキシ基量Cを求めることができる。
C[mmol/g]=V[ml]×(0.05/セルロース質量[g])
アニオン性官能基がカルボキシメチル基の場合における測定法を以下に示す。すなわち、乾燥質量を精秤した微細繊維状セルロースから0.6質量%スラリーに調製した後、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とする。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量から、上記の数式に従いカルボキシ基量Cを求める。その後、下記の式に従い、カルボキシメチル基量Cmを求めることができる。
Cm[mmol/g]=(162×C)/(1-58×C)×1000
[有機オニウムイオン]
本実施形態の有機オニウムイオンは、上述の式(1)に示されるオニウムイオンである。有機オニウムイオンとしては、特に限定されない。
アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、テトラデシルアンモニウムイオン、テトラドデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、トリメチルドデシルアンモニウムイオン、トリメチルテトラデシルアンモニウムイオン、トリメチルオクダデシルアンモニウムイオン、トリブチルドデシルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ドデシルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラオクチルホスホニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、トリブチルメチルホスホニウムイオン、トリブチルドデシルホスホニウムイオン、トリブチルテトラデシルホスホニウムイオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオン等が挙げられる。
アレーン基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリブチルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルドデシルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アレーン基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムイオン、トリエチルフェニルアンモニウムイオン、ジメチルフェニルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アレーン基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオン、メチルトリフェニルホスホニウムイオン、エチルトリフェニルホスホニウムイオン、ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、テトラデシルトリフェニルホスホニウムイオン等が挙げられる。
アリル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムイオン、アリルトリフェニルホスホニウムイオン等が挙げられる。
有機オニウムイオンにおいて、より優れた強度を実現する観点から、R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数が6以上であることが好ましい。また、有機オニウムイオンは、より優れた強度を実現する観点から、R、R、R、Rは、全て、炭素数が6以上であることが好ましく、全て、炭素数が8以上であることがより好ましい。また、有機オニウムイオンは、R、R、R、Rは、全て、炭素数が7以上10以下のアルキル基であることがさらに好ましい。具体的には、有機オニウムイオンは、テトラオクチルアンモニウムイオンと、テトラオクチルホスホニウムイオンとの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、より優れた強度を実現する観点から、R、R、R、Rの炭素数の和は、50以下であることが好ましく、45以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましい。
また、微細繊維状セルロース1gあたりの有機オニウムイオンの配合量については、特に限定されないが、微細繊維状セルロース1gに対して、有機オニウムイオンが、1.0mmol以上が好ましく、1.5mmol以上がより好ましく、1.8mmol以上がさらに好ましい。このようにすることにより、微細繊維状セルロースが溶剤中において凝集することが抑制できるため、保存安定性が向上する。また、微細繊維状セルロース1gに対して、有機オニウムイオンが、3.0mmol以下が好ましく、2.5mmol以下がより好ましく、2.2mmol以下がさらに好ましい。このようにすることにより、有機オニウムイオンが可塑剤として働くことを抑制できるため、高い強度を実現することができる。
[熱硬化性樹脂]
本実施形態の絶縁性ペーストは、熱硬化性樹脂を含む。本明細書において、熱硬化性樹脂とは、熱可塑性樹脂の対概念であり、熱によって不可逆的に硬化する樹脂を意味する。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、オキセタン樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。微細繊維状セルロースとの分散性が向上する観点から、これらの熱硬化性樹脂のうち、ウレタン樹脂とエポキシ樹脂との少なくとも一方を用いることが好ましく、エポキシ樹脂を用いることがより好ましい。
上記ウレタン樹脂は、イソシアネート基を含有するポリイソシアネートと、水酸基を含有するポリオールとの縮合により生成される樹脂である。
ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,2’-ジメチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンダメチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、2-ブテン-1,4-ジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール等のジオール、トリメチロールプロパン等のトリオール、ペンタエリスリトール等のテトラオール、ジペンタエリスリトール等のヘキサオール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートの二量体、2,6-トリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルヒフェニル-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は2,6)ジイソシアネート、1,3-(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート化合物等が挙げられる。これらのポリイソシアネートは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて鎖延長剤等を使用してもよい。
上記エポキシ樹脂としては、特に限定されず、公知のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、以下に示したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらエポキシ樹脂は熱硬化性樹脂プレポリマーのエポキシ化合物であり、硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂の硬化物である硬化エポキシ樹脂が得られる。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ樹脂及びこれらの水添加物や臭素化物等が挙げられる。また、3,4-エポキシシクロへキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-2-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-2-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアジペート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシシクロヘキサノン-メタ-ジオキサン、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル等の脂環族エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂としては、例えば、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-へキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、炭素数が2~9(好ましくは2~4)のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコール等を含む長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。また、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、へキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル-p-オキシ安息香酸、サリチル酸のグリシジルエーテル-グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂及びこれらの水添化物等が挙げられる。また、トリグリシジルイソシアヌレート、環状アルキレン尿素のN,N’-ジグリシジル誘導体、p-アミノフェノールのN,N,O-トリグリシジル誘導体、m-アミノフェノールのN,N,O-トリグリシジル誘導体等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂及びこれらの水添化物等が挙げられる。また、グリシジル(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等のラジカル重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。
[硬化剤]
本実施形態の絶縁性ペーストは、硬化剤を含む。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂の技術分野でこれまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミンなどのアミン類、ポリアミド樹脂、三級および二級アミン、イミダゾール類、ポリメルカプタン、酸無水物類、ジシアンジアミド、ポリイソシアネート等が挙げられる。硬化剤の添加量は、所望の物性に応じて適宜選択できるが、例えば、絶縁性ペーストにおいて、0.1質量%以上50質量%以下の範囲とすることができる。
[絶縁性ペーストの製造方法]
本実施形態の絶縁性ペーストの製造方法は、特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースと、熱硬化性樹脂と、硬化剤とを混合することにより製造することができる。ここで、硬化前の熱硬化性樹脂は、一般に水には不溶であるが有機溶剤には可溶である。したがって、親油化された微細繊維状セルロース分散体は、熱硬化性樹脂との相溶性が良好である。それゆえ、微細繊維状セルロースと熱硬化性樹脂とは、均一混合することが可能である。
有機溶剤とは、水以外の液体であって、25℃1atmにおいて液体である有機化合物を示す。有機溶剤としては、後述する微細繊維状セルロースの製造工程で使用する有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤は、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、1-ペンタノール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、2-メチル-1-プロパノールグリセリン等のアルコール類が挙げられる。また、有機溶剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン、オレイン酸、リノレン酸、乳酸、安息香酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、流動パラフィン等の炭化水素類等が挙げられる。また、有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアニリド等のアミド類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン類等が挙げられる。また、有機溶剤としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸メチル、アジピン酸ジ2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)、リン酸トリクレジル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル類、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリエーテル類、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル類等が挙げられる。また、有機溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、プロピオニトリル、エステル油、軽油、灯油、原油、サラダ油、大豆油、ヒマシ油、トリグリセライド、ポリイソプレン、フッ素変性油等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。また、有機溶剤の代わりに、反応性の官能基を含む有機性媒体でもよい。有機性媒体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸n―へキシル、メタクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、ノナンジオールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、クロロスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の絶縁性ペーストにおける、微細繊維状セルロースの固形分濃度は、ハンドリング性と増粘性に優れる点から、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲がさらに好ましい。
[その他の添加剤]
本実施形態の絶縁性ペーストは、基材との密着性を向上させるため、アミノシランカップリング剤を含有することが好ましい。アミノシランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。アミノシランカップリング剤の含有量は、本実施形態の絶縁性ペースト固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の範囲が好ましい。
本実施形態の絶縁性ペーストには、必要に応じて脱水剤、レベリング剤、増粘剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有することができる。脱水剤としては、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等が挙げられる。レベリング剤としては、各種のポリエーテル変性シリコーンオイルが例示される。
本実施形態の絶縁性ペーストが適用される基材としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、アルマイト、デュラルミン等の金属;酸化鉄、フェライト、アルミナ、酸化亜鉛等の金属酸化物;モルタル、スレート、コンクリート、ガラス、セラミック等の無機基材;木材、合板;熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、FRP等の樹脂が例示される。基材の形状は、例えば、板状、ブロック状、皮膜状、粒子状、粉末状が例示される。
[微細繊維状セルロースの製造方法]
本実施形態の微細繊維状セルロースの製造方法は、特に限定されないが、下記工程(1)~(4)を有する製造方法によれば、より効率的に製造できるため好ましい。
工程(1):セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維を水に分散させた後、そのセルロース繊維の水酸基を、カルボキシ基を有する置換基に変換する工程
工程(2):上記セルロース繊維の分散媒である水を有機溶剤に置換する工程
工程(3):上記置換後のセルロース繊維に有機オニウムイオンを添加する工程
工程(4):上記有機オニウムイオンが結合したセルロース繊維を上記有機溶媒中でナノ解繊する工程
<工程(1)>
工程(1)は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースの水酸基を、酸化等によりカルボキシ基を有する置換基に変換させる工程である。ここで、カルボキシ基を有する置換基としては例えば、カルボキシ基、カルボキシ塩基、カルボキシアルキル基等が挙げられる。
セルロースI型結晶構造を有するセルロースとしては、一般に、天然セルロースが用いられる。ここで、天然セルロースとは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。天然セルロースとしては、より具体的に、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等が挙げられる。天然セルロースのなかでも、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましい。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。
上記セルロース繊維表面の水酸基がカルボキシ基を有する置換基に変換されたセルロースとしては、例えば、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、多価カルボキシメチルセルロース、及び、それら塩等が挙げられる。これらのなかでも、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかである、N-オキシル化合物を酸化剤として用いた酸化セルロースが好ましい。以下において、N-オキシル化合物を酸化剤として用いた酸化セルロースを得る方法について、詳述する。
(酸化処理工程)
上記酸化セルロースは上記天然セルロースと、N-オキシル化合物と、共酸化剤の存在下で酸化処理をすることにより、カルボキシ基を含有するセルロース繊維が得られる。
上記酸化反応におけるセルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中のセルロース濃度は、セルロースの充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。一般に、反応水溶液の約5質量%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
上記N-オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が挙げられる。上記N-オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルがより好ましく、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカルが特に好ましい。上記N-オキシル化合物の添加は、触媒量と同等量を例示でき、好ましくは0.1~4mmol/l、より好ましくは0.2~2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
上記共酸化剤とは、直接的にセルロースの水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN-オキシル化合物を酸化する物質のことである。例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種を併用してもよい。これらのなかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N-オキシル化合物に対して約1~40倍モル量、好ましくは約10~20倍モル量である。
上記反応水溶液のpHは約8~11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4~40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
一般に、目的とするカルボキシ基量等を得るために、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御する。
(還元処理工程)
上記酸化処理後のセルロース繊維は、還元剤により還元させることが好ましい。これにより、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシ基は還元されない。そして、上記還元による、上記酸化セルロースのカルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量は、0.3mmol/g以下とすることが好ましく、特に好ましくは0.1mmol/g以下である。これにより、微細繊維状セルロースの分子量低下が抑制され、溶剤中での増粘効果を長期間維持することができる。ここで、カルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量は、後述するセミカルバジド法によって算出される。なお、カルボニル基を0.5mmol/g以下とすることにより、長期保存による凝集物の発生を抑制でき、粘度が時間経過と共に著しく低下することを抑制できる。なお、上記還元反応に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LiBH、NaBHCN、NaBHが挙げられる。これらのなかでも、NaBHは、コスト及び利用可能性という観点から特に好ましい。
カルボキシ基を有する置換基に変換されたセルロースを還元剤の量は、基準として、0.1~20質量%が好ましく、特に好ましくは3~10質量%である。反応条件は室温(25℃)または室温より若干高い温度で、10分~10時間、好ましくは30分~2時間行なわれる。
セミカルバジド法による、カルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量の測定は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、まず、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加えた後、密栓し、その後、二日間振とうする。ついで、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取した後、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、その後、10分間撹拌する。そして、5質量%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えた後、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定する。その滴定量等から、下記の式に従い、試料中のカルボニル基量を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応してシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシ基とは反応しないことから、上記測定により、カルボニル基量のみを定量できると考えられる。
カルボニル基量[mmol/g]=(D-B)×f×(0.125/w)
D:サンプルの滴定量[ml]
B:空試験の滴定量[ml]
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
w:試料量[g]
<工程(2)>
工程(2)として、まず、上記処理後のセルロース繊維を酸で洗浄することにより、工程(1)で導入したカルボキシ基を酸型にする。その後、適宜、ろ過と水洗とを繰り返すことにより精製した後、遠心分離機等により固液分離を行う。その後、有機溶剤によるセルロースの洗浄を繰り返し行った後、水から有機溶剤へと溶媒置換を行う。
(酸)
上記酸は、セルロース繊維水分散液を酸性に維持するものであり、酸の種類は特に限定されない。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、過酸化水素等の無機酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、セバシン酸ソーダ、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等の有機酸等が挙げられる。酸によるセルロース繊維の変質や損傷を回避でき、かつ、廃液処理が容易であるため、酸としては、塩酸を用いることが好ましい。
<工程(3)>
工程(3)は、上記分散媒置換後の酸化セルロースに対し、上述の式(1)で示す有機オニウムイオンを添加する工程である。これにより、上記酸化セルロースのカルボキシ基に、上記式(1)に示される有機オニウムイオンが結合し、セルロースの親油化が行われる。なお、上記反応は、有機溶媒中で行われる。
<工程(4)>
工程(4)は、上記親油化後のセルロース繊維を有機溶剤中でナノ解繊する工程である。上記ナノ解繊に使用する分散機としては、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等が挙げられる。これらの強力な叩解能力がある装置を使用することにより、より微細化することが可能となるため、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となる。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等を用いてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
まず、実施例および比較例の作製に先立ち、実施例用のセルロース繊維A1~A4および比較例用のセルロース繊維A5,A6を、以下の製造例1~6に従って調製した。
〔製造例1:セルロース繊維A1(実施例用)の調製〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル)0.025gを加えた後、充分撹拌して分散させた。その後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、針葉樹パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加えることにより、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた。この反応時間は120分だった。反応終了後、0.1N塩酸を添加することにより中和した後、遠心分離機で固液分離し、その後、純水を加えることにより、固形分濃度4%に調整した。その後、24%水酸化ナトリウム水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃とした後、水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加えることによって、2時間反応させることにより、還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加することによりpHを2以下に調整した後、ろ過と水洗とを繰り返して精製することにより、セルロース繊維A1を得た。
〔製造例2:セルロース繊維A2(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、針葉樹パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法と同様の方法にて、セルロース繊維A2を得た。
〔製造例3:セルロース繊維A3(実施例用)の調製〕
イソプロパノール(IPA)435gと水65gと水酸化ナトリウム9.9gとの混合液中に、針葉樹パルプ100gを入れた後、30℃で1時間撹拌した。このスラリーに50%モノクロル酢酸のIPA溶液23.0gを加えた後、70℃まで昇温した後、1.5時間反応させた。得られた反応物を80%メタノールで洗浄し、その後、メタノールで置換した後、乾燥させることによって、セルロース繊維A3を得た。
〔製造例4:セルロース繊維A4(実施例用)の調製〕
尿素20g、リン酸二水素ナトリウム二水和物12g、リン酸水素二ナトリウム8gを20gの水に溶解させることにより、リン酸化剤を作製した。その後、家庭用ミキサーで粉砕した針葉樹パルプ(NBKP)20gを、リン酸化剤にニーダーで攪拌しながらスプレー噴霧することにより、リン酸化剤含浸パルプを得た。次いで、リン酸化剤含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機内で60分間、加熱処理することにより、リン酸化パルプを得た。得られたリン酸化パルプに水を加えて固形分濃度2%とした後、攪拌混合して均一に分散させた後、濾過と脱水との操作を2回繰り返した。次いで、得られた回収パルプに水を加えることにより、固形分濃度2%とした。その後、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pH12~13のパルプスラリーを得た。続いて、このパルプスラリーを濾過後、脱水した後、更に水を加えて濾過と脱水との操作を2回繰り返した。その後、メタノールで置換後に乾燥させることにより、セルロース繊維A4を得た。
〔製造例5:セルロース繊維A5(比較例用)の調製〕
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)50gを水4,950gに分散させることにより、パルプ濃度2%の分散液を調製した。この分散液をセレンディピターMKCA6-3(増幸産業社製)で30回処理することにより、セルロース繊維A5を得た。
〔製造例6:セルロース繊維A6(比較例用)の調製〕
原料の針葉樹パルプに代えて再生セルロースを使用するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法と同様の方法にて、セルロース繊維A6を調製した。
上記セルロース繊維を用いて、下記評価方法に従い、各特性の評価を行った。
<結晶構造>
X線回折装置(リガク社製、RINT-Ultima3)を用いて、セルロース繊維の回折プロファイルを測定した。2シータ=14~17°付近と、2シータ=22~23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、これらのピークの少なくとも一方が見られない場合は「なし」と評価した。
<カルボキシ基量の測定>
上記セルロース繊維0.25gを水に分散させたセルロース水分散体60mlを調製した後、0.1Nの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした。その後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、電気伝導度測定を行った。測定は、pHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量(V)を用いて、下記式に基づいてカルボキシ基量を求めた。
カルボキシ基量[mmol/g]=V[ml]×(0.05/セルロース質量[g])
<カルボキシメチル基量の測定>
上記セルロース繊維を0.6質量%スラリーに調製した後、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、電気伝導度測定を行った。測定は、pHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量からカルボキシ基量を測定した後、カルボキシメチル基量は、下記式に基づいて算出することが出来る。
カルボキシメチル基量[mmol/g]=(162×C)/(1-58×C)×1000
C:カルボキシ基量[mmol/g]
<リン酸基量の測定>
上記セルロース繊維をイオン交換水で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定によってリン酸基量を測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2%微細セルロース繊維含有スラリーに体積あたり1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバージェット1024)を加えた後、1時間振とう処理を行った。その後、この懸濁液を目開き90μmのメッシュ上に注ぐことにより、樹脂とスラリーとを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細セルロース繊維水分散体に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、水分散体が示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、電気伝導度の値が最も小さくなるまでに加えたアルカリ量[mmol]を、滴定対象スラリー中の固形分[g]で除した値を、リン酸基量[mmol/g]とした。
<カルボニル基量の測定>
上記セルロース繊維を約0.2g精秤し、これに、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうした。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌した。その後、5質量%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加え、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記式に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めた。
カルボニル基量[mmol/g]=(D-B)×f×(0.125/w)
D:サンプルの滴定量[ml]
B:空試験の滴定量[ml]
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
w:試料量[g]
上記複数のセルロース繊維の評価結果を以下に示す。
Figure 0007393268000004
〔実施例1〕
(修飾剤の調製)
テトラオクチルアンモニウムブロマイド(東京化成社製)を0.1Nになるようにエタノールへ溶解させた後、テトラオクチルアンモニウムブロマイドの5倍量のイオン交換樹脂(東京化成社製、アンバーライトIRN78)を加えた後、一晩振盪機にて攪拌した。その後、ろ過によってイオン交換樹脂を取り除くことにより、0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を得た。
(絶縁性ペーストの調製)
上記セルロース繊維A1にメタノールを加えてろ過するメタノール洗浄を繰り返した後、さらにメチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone:MEK)洗浄を繰り返すことにより、上記セルロース繊維に含まれる水をMEKに置換した。その後、MEKで置換したセルロース繊維A1に、MEKとセルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を加えた後、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。
上記微細繊維状セルロースMEK分散液に、ビスフェノールA(DIC社製、EPICLON 850S)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、分散溶剤をビスフェノールAに置換した。その後、ビスフェノールAと硬化剤としてジシアンジアミド(味の素社製、アミキュア AH-154)とを加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpmで10分間撹拌することにより、セルロース繊維濃度、修飾剤濃度、熱硬化性樹脂濃度、硬化剤濃度を以下の表のように調整した絶縁性ペーストを得た。
〔実施例2、5~11、13、14、比較例4~6〕
下記の表に示すように配合量や組成等を変更した以外は、実施例1と同様の手法で微細繊維状セルロースMEK分散液、絶縁性ペーストを調製した。
〔実施例3〕
セルロース繊維A3に水を加え、固形分1%に希釈した後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌しながら、溶液のpHが2になるまで1N塩酸を加えた。その後、濾過を行い、水で十分洗浄した。次に、メタノールで繰り返して洗浄した後、さらにMEKで洗浄することにより、MEKに溶剤置換した酸型セルロース繊維A3を作製した。この酸型セルロース繊維A3に、MEKと、セルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液とを加え、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。
この微細繊維状セルロースMEK分散液に変性ビスフェノールA(DIC社製、EPICLON 850S)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、分散溶剤を変性ビスフェノールAに置換した。その後、ビスフェノールAと硬化剤としてジシアンジアミド(味の素社製、アミキュア AH-154)とを加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpmで10分間撹拌することにより、セルロース繊維濃度、修飾剤濃度、熱硬化性樹脂濃度、硬化剤濃度を以下の表のように調整した絶縁性ペーストを得た。
〔実施例4〕
セルロース繊維A3の代わりにセルロース繊維A4を用いた以外は実施例3と同様の手法で上記微細繊維状セルロースMEK分散液、絶縁性ペーストを調製した。
〔実施例12〕
上記セルロース繊維A2にメタノールを加えてろ過するメタノール洗浄を繰り返した後、さらにメチルエチルケトン(MEK)洗浄を繰り返すことにより、上記セルロース繊維に含まれる水をMEKに置換した。その後、MEKで置換したセルロース繊維A2に、MEKとセルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を加えた後、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。
上記微細繊維状セルロースMEK分散液に、ポリオール(第一工業製薬社製、エイムフレックス 318A)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、分散溶剤をポリオールに置換した。その後、ポリオールと硬化剤としてポリイソシアネート(第一工業製薬社製、エイムフレックス 318B)とを加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpmで10分間撹拌することにより、セルロース繊維濃度、修飾剤濃度、熱硬化性樹脂濃度、硬化剤濃度を以下の表のように調整した絶縁性ペーストを得た。
〔比較例1〕
セルロース繊維A2に、水と、セルロース繊維のカルボキシ基量と等量になるように24%水酸化ナトリウム水溶液と、を加え、セルロース濃度が1%になるように希釈した後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、微細繊維状セルロース水分散液を得た。この微細繊維状セルロース水分散液を凍結乾燥によって乾燥することにより水を留去した後、MEKで固形分が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理した。しかしながら、MEK中においてセルロース繊維が沈降してしまうため、微細繊維状セルロースMEK分散液の調製には至らなかった。
〔比較例2〕
セルロース繊維A5にメタノールを加えた後、ろ過した。その後、メタノール洗浄を繰り返した後、さらにMEK洗浄を繰り返した後、MEKで固形分が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理した。しかしながら、MEK中においてセルロース繊維が沈降してしまうため、微細繊維状セルロースMEK分散液の調製には至らなかった。
〔比較例3〕
セルロース繊維A6を凍結乾燥によって乾燥することにより水を留去した後、MEKと、セルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液と、を加え、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。
この微細繊維状セルロースMEK分散液に変性ビスフェノールA(DIC社製、EPICLON 850S)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、分散溶剤を変性ビスフェノールAに置換した。その後、ビスフェノールAと硬化剤としてジシアンジアミド(味の素社製、アミキュア AH-154)とを加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpmで10分間撹拌することにより、セルロース繊維濃度、修飾剤濃度、熱硬化性樹脂濃度、硬化剤濃度を以下の表のように調整した絶縁性ペーストを得た。
〔比較例7〕
ポリオール濃度を59%、ポリイソシアネート濃度を41%に調整した絶縁性ペーストを調製した。
上記絶縁性ペースト等を用いて、下記評価方法に従い、各特性の評価を行った。
<数平均繊維径、アスペクト比の測定>
上記微細繊維状セルロースMEK分散液中のセルロース繊維の数平均繊維径、および繊維長を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製JEM-1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)を用いて、上述した方法により、数平均繊維径、および数平均繊維長を算出した。さらに、これらの値を用いてアスペクト比を下記式に従い、算出した。
アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維径[nm]
<分散安定性の評価>
微細繊維状セルロースMEK分散液を試験管に移しとり、一晩(10時間)静置した後、試験管中におけるセルロース繊維の分散状態を目視で観察した後、下記評価基準で評価した。
○:微細繊維状セルロースMEK分散液中にセルロース繊維が均一に分散していた。
×:微細繊維状セルロースMEK分散液中でセルロース繊維が沈降していた。
<強度の評価>
絶縁性ペーストを2枚の鉄板の間に流し込んだ後、150℃で1時間加熱乾燥させることにより、樹脂組成物を得た。JIS K6251に準じて、樹脂組成物をダンベル型に切り抜いた後、万能試験機(インストロンジャパン社製、5581型)を用いて、弾性率(E)[MPa]を測定した。
また、微細繊維状セルロ―スが複合された樹脂組成物の弾性率(E)と、樹脂単体の弾性率(EBlank)と、下記式と、を用いて、強度向上率[%]を算出した。算出された強度向上率から、下記基準に基づき強度を評価した。
強度向上率[%]=(E/EBlank)×100-100
◎:10%以上
○:10%未満5%以上
△:5%未満2.5%以上
×:2.5未満
<寸法安定性の評価>
絶縁性ペーストを2枚の鉄板の間に流し込んだ後、150℃で1時間加熱乾燥させることにより、樹脂組成物を得た。JIS K7197に準じて、樹脂組成物から試験片を切り抜いた後、熱機械分析装置TMA(リガク社製、TMA8311)を用いて、線膨張係数(CTE)を測定した。
また、微細繊維状セルロ―スが複合された樹脂組成物の線膨張係数(CTE)と、樹脂単体の線膨張係数(CTEBlank)と、下記式と、を用いて、寸法安定性[%]を算出した。算出された寸法安定性から、下記基準に基づき寸法安定性を評価した。なお、線熱膨張係数は値が小さいほど熱的に安定であるため、寸法安定性の値は小さいほど安定性が高い。
寸法安定性[%]=CTE/CTEBlank×100
◎:30%未満
○:30%以上40%以上
△:40%以上50%未満
×:50%以上
以下に、試験結果を示す。
Figure 0007393268000005
Figure 0007393268000006
Figure 0007393268000007
※1 HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M-2005、分子量:2000
※2 HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M-2070、分子量:2000
※3 MEK分散物を調製できないので、測定不可
※4 MEKに溶解しているため、測定不可
上述の結果から以下のことが分かった。つまり、実施例1~14は、比較例1~7と比較して、強度向上率及び熱に対する寸法安定性に優れることが分かった。比較例1は、修飾剤の疎水性が足りないために、微細繊維状セルロースが溶剤中において凝集したため、MEK分散液が調製できなかったと考えられる。比較例2は、修飾剤がないために、微細繊維状セルロースが溶剤中において凝集したため、MEK分散液が調製できなかったと考えられる。比較例3については、絶縁性ペーストを得られた。しかし、比較例3は、微細繊維状セルロースが結晶構造を有さないために、強度の向上及び熱に対する寸法安定性の向上には至らなかった。
また、比較例5,6は、絶縁性ペーストを得られたが、修飾剤であるポリエーテルアミンの分子量が非常に大きい。このため、ポリエーテルアミンが可塑剤として働くため、期待するような強度の向上及び熱に対する寸法安定性の向上には至らなかった。
これに対して、実施例に用いた修飾剤には、4級オニウムイオンが含まれているため、セルロース繊維を十分に疎水化することが可能である。このため、実施例は、溶剤中において微細繊維状セルロースが凝集することなく分散する結果として、絶縁性ペーストが調製可能であった。また、実施例に用いた修飾剤には、4級オニウムイオンが含まれているため、修飾剤の分子量が比較的小さいために修飾剤の可塑性が低い。この結果として、実施例は、強度の向上及び熱に対する寸法安定性に優れることが分かった。
ここで、実施例1~4は、互いに異なるセルロース繊維を用いた結果である。実施例2,5~11は、互いに異なる修飾剤を用いた結果である。実施例2,12は、互いに異なる熱硬化性樹脂を用いた結果である。実施例2,13~14は、セルロース繊維濃度が互いに異なる結果である。
本発明の絶縁性ペーストは、強度の向上及び熱に対する寸法安定性に優れるため、例えば、電子材料等の分野に好適に用いることができる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
P1…点
P2…点
F…繊維

Claims (5)

  1. 微細繊維状セルロースと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を含有する絶縁性ペーストであって、
    前記微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする、絶縁性ペースト。
    (A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
    (B)平均アスペクト比が10以上1000以下
    (C)セルロースI型結晶構造を有する
    (D)アニオン性官能基を有する
    (E)前記(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
    Figure 0007393268000008
    〔前記式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R、R、R、Rは、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示し、前記式(1)中、R 、R 、R 、R の少なくとも一つは、炭素数が6以上である。〕
  2. 前記アニオン性官能基は、カルボキシ基であることを特徴とする、請求項1に記載の絶縁性ペースト。
  3. 前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁性ペースト。
  4. 前記微細繊維状セルロースの固形分濃度は、0.05質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁性ペースト。
  5. 請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁性ペーストから調製される樹脂組成物。
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