JP6815691B2 - コーティング剤 - Google Patents

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Description

本発明は、コーティング剤に関する。
ガラス代替の透明プラスチック基板として、柔軟性と透明性をもち、かつ耐熱性、高ガラス転移点、低線熱膨張係数を併せ持つ透明耐熱樹脂が求められている。そのような材料としては、例えば透明ポリイミドやポリエーテルスルホンなどのスーパーエンジニアリングプラスチックが知られている。しかし、それら材料は線熱膨張係数が高く、ガラス代替の材料としては十分とは言えない。また、価格が高く、工業製品として経済的に見合わない。
ところで、天然セルロース繊維をN−オキシル化合物存在下で酸化して得られたセルロースナノファイバーを樹脂に分散させることで、樹脂の特性を高める試みがなされている。例えば特許文献1には、アミド結合、もしくはイオン結合により炭化水素基を導入したセルロースナノファイバーとアクリル酸系モノマー、またはメタクリル酸系モノマーを配合した後、重合したセルロースナノファイバーとアクリル樹脂、またはメタクリル樹脂の複合体は、低線熱膨張係数を有することが記載されている。
特開2015−000935号公報
特許文献1に記載のアミド結合、もしくはイオン結合で炭化水素基を導入したセルロースナノファイバーはモノマーに配合した際に、側鎖のアルキル基の立体安定化効果が十分でないことから、モノマーに均一に分散させることが困難であるため、硬化物は線膨張係数の低下が十分ではなかった。
本発明の課題は、微細繊維状セルロースがモノマー中に均一に分散していることにより、透明性、耐熱性、低線熱膨張係数、寸法安定性および帯電防止性に優れたコーティング層を形成することができるコーティング剤を提供することである。
本発明者らは、微細繊維状セルロースおよびモノマーを含有することを特徴とするコーティング剤により、上記課題を解決したものである。
すなわち本発明は、下記[1]〜[6]を提供することを課題とする。
[1]下記条件(A)〜(E)を満たす微細繊維状セルロースとモノマーを含有することを特徴とするコーティング剤。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
(E)(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに下記式(1)で示すポリエーテルアミンが結合している
Figure 0006815691
〔上記式(1)中、R、R、Rは炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示し、n1、n2、n3はそれぞれ0以上80以下を示し、(n1+n2+n3)は10以上240以下を示し、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示し、xの平均値は0.5以上1以下、y、zの平均値は0以上1以下を示す。〕
[2]上記微細繊維状セルロースがさらに下記条件を満たすことを特徴とする[1]に記載のコーティング剤。
(F)(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに上記一般式(1)で示すポリエーテルアミンと下記一般式(2)で示すアミン化合物が結合している。
Figure 0006815691
〔上記式(2)中、R、R、Rは炭素数1以上20以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示す。〕
[3]上記微細繊維状セルロースのアニオン性官能基がカルボキシル基であることを特徴とする[1]または[2]記載のコーティング剤。
[4]上記モノマーがアクリル酸系モノマーおよび/またはメタクリル酸系モノマーであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[5]上記アクリル酸系モノマーおよび/またはメタクリル酸系モノマーが3官能以上であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれか1項に記載のコーティング剤。
[6]上微細繊維状セルロースの固形分含有量が、コーティング剤の重量全体の0.1質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする[1]から[5]のいずれか一項に記載のコーティング剤。
本発明のコーティング剤は、透明性、耐熱性、低線熱膨張係数、寸法安定性また帯電防止性を有するコーティング層を作製できる。
本発明のコーティング剤は所定の微細繊維状セルロースとモノマーを含有する。
[微細繊維状セルロース]
本発明の微細繊維状セルロースは、以下の条件を満たすものである。
<数平均繊維径>
上記微細繊維状セルロースの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であるが、好ましくは2nm以上150nm以下であり、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、特に好ましくは3nm以上80nm以下である。上記数平均繊維径が2nm未満であると、微細繊維状セルロースが溶解することにより、微細繊維状セルロースの結晶構造が失われ、コーティング層の耐熱性、寸法安定性および低線熱膨張係数が不十分となるおそれがあり、上記数平均繊維径が500nmを超える場合は、コーティング層の透明性が不十分となるおそれがある。また最大繊維径は、コーティング層の透明性の点で、1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは500nm以下である。
上記微細繊維状セルロースの数平均繊維径および最大繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、最大繊維径および数平均繊維径を算出する。
<平均アスペクト比>
上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は10以上1000以下であるが、好ましくは100以上、より好ましくは200以上である。平均アスペクト比が10未満であるとコーティング層の耐熱性、寸法安定性、透明性および低線熱膨張係数が不十分となるおそれがある。
上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、例えば以下の方法で測定することが出来る、すなわち、先に述べた方法に従い、数平均繊維径、および繊維長を算出し、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式(1)に従い算出した。
Figure 0006815691
<セルロースI型結晶構造>
上記セルロースナノファイバーは、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース原料を微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成する。
上記セルロースナノファイバーを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
<アニオン性官能基>
上記セルロースナノファイバーはアニオン性官能基を有する。
本発明のアニオン性官能基としては特に制限されないが具体的には、カルボキシル基、リン酸基、硫酸基が挙げられるが、これらの内、セルロースへのアニオン性官能基の導入の容易さという理由からカルボキシル基が好ましい。
セルロースにカルボキシルを導入する方法としては、セルロースの水酸基にカルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法、セルロースの水酸基を酸化する事によりカルボキシル基に変換する方法が挙げられる。
上記カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、具体的にはハロゲン化酢酸が挙げられ、ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等が挙げられる。
上記カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
上記カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されないが、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
上記セルロースの水酸基を酸化する方法としては特に制限されないが具体的には、N−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。
本発明において、セルロースにカルボキシル基を導入する方法としては、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかであることから、セルロースの水酸基を酸化する方法が好ましい。以下、水酸基の酸化によりカルボキシル基が導入されたセルロースを酸化セルロースという。
また、セルロースにリン酸基を導入する方法としては、以下の方法が挙げられる。すなわち、乾燥した、あるいは湿潤状態のセルロース繊維原料にリン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース繊維原料の分散液にリン酸またはリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これら方法においては、通常、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理、加熱処理等を行う。ここで、リン酸またはリン酸誘導体としては、リン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸あるいはそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。これにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基を含む化合物またはその塩が脱水反応してリン酸エステルが形成され、リン酸基又はその塩が導入される。
本発明の微細繊維状セルロースのアニオン性官能基の含量は微細繊維状セルロースのモノマー中への分散性の点から0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは1.5mmol/g以上2.0mmol/g以下の範囲である。
上記微細繊維状セルロースのアニオン性官能基量は、たとえばアニオン性官能基がカルボキシル基の場合は以下の方法で測定する。すなわち、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(2)に従いカルボキシル基量を求めることができる。
Figure 0006815691
上記微細繊維状セルロースのアニオン性官能基量は、たとえばアニオン性官能基がカルボキシルメチル基の場合は以下の方法で測定する。すなわち、上記微細繊維状セルロースを0.6質量%スラリーに調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量からカルボキシル基量を測定し、下式を用いて算出することが出来る。
Figure 0006815691
<ポリエーテルアミン>
上記微細繊維状セルロースのアニオン性官能基にはポリエーテルアミンが結合してなる。
Figure 0006815691
上記式(1)中、R、R、Rは炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示し、n1、n2、n3はそれぞれ0以上80以下を示し、(n1+n2+n3)は10以上240以下を示し、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示し、xの平均値は0.5以上1以下、y、zの平均値は0以上1以下を示す。そして、上記R、R、Rは炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましい。またAOは炭素数2のオキシアルキレン基が好ましく、n1、n2、n3はそれぞれ20以上80以下が好ましく、(n1+n2+n3)は20以上160以下であることが好ましく、20以上80以下であることがより好ましい。xの平均値は0.8以上1以下、y、zの平均値は0以上0.2以下であることが好ましい。
本発明で好適に使用できるポリエーテルアミンとしては例えば下記式(i):
Figure 0006815691
〔式中、Rは炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示し、EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数、bはPOの平均付加モル数を示す正の数であり、a、bはそれぞれ0以上80以下が好ましく、a+bは10以上80以下であり、好ましくは20以上80以下である〕が挙げられる。
市販品で好適に使用できるポリエーテルアミンとしては、例えば、HUNTSMAN社製のJeffamine M−2070、Jeffamine M−2005、Jeffamine M−1000、Jeffamine M−2095、Jeffamine M−3085、XTJ-436、BASF社製のPolyetheramine D 2000等が挙げられる。
また本発明で好適に使用できるポリエーテルアミンとしては例えば下記式(ii):
Figure 0006815691
〔式中、R、Rは炭素数1以上20以下の直鎖または分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示し、EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、cおよびeはEOの平均付加モル数を示し、dおよびfはPOの平均付加モル数を示し、c、d、e、fはそれぞれ0以上80以下であり、c+dおよびe+fは10以上160以下であり、好ましくは20以上80以下である〕
下記式(iii)
Figure 0006815691
〔式中、R、R、Rは炭素数1以上20以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示し、EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、g、iおよびkはEOの平均付加モル数を示し、h、jおよびlはPOの平均付加モル数を示し、g、h、i、j、k、およびlはそれぞれ0以上80以下であり、g+h、i+j、およびk+lはそれぞれ10以上240以下であり、好ましくは20以上160以下であり、より好ましくは20以上80以下である〕で表される化合物が挙げられる。
本発明の微細繊維状セルロース繊維は、上記ポリエーテルアミンを1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
<アミン化合物>
また微細繊維状セルロースのアニオン性官能基の一部がポリエーテルアミンと結合してなる場合、残りのアニオン性官能基に下記一般式(2)で示されるアミン化合物を結合してもよい。
Figure 0006815691
上記式(2)中、R、R、Rは炭素数1以上20以下の直鎖あるいは分岐のアルキレン基、炭素数1以上20以下のアリーレン基、または水素原子を示す。上記R、R、Rは炭素数2以上18以下のアルキル基が好ましく、炭素数2以上8以下のアルキル基がより好ましい。
上記式(2)で示されるアミン化合物は特に限定するものではないが例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、エタノールアミン、ベンジルアミンなどの第一級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジアリルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、ターシャリーブチルエチルアミン、ジエタノールアミン、ジベンジルアミンなどの第二級アミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、トリベンジルアミンなどの三級アミン等があげられる。これらの内、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、エタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジアリルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、ターシャリーブチルエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミンが好ましく、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジジエチルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミンがより好ましい。
上記ポリエーテルアミンとアミン化合物を併用する場合、微細繊維状セルロースのモノマー中への分散性と作製されるコーティング層の低線熱膨張係数および高弾性率の点から配合比率はモル比でポリエーテルアミン/アミン化合物=99/1〜25/75が好ましく、50/50〜25/75がより好ましい。
[微細繊維状セルロースの製造方法]
本発明の微細繊維状セルロースは、下記工程(1)〜(4)を有する製造方法によれば、より効率的に製造できるため好ましい。
工程(1):セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維を水に分散させた後、そのセルロース繊維の水酸基を、カルボキシル基を有する置換基に変換する工程
工程(2):上記セルロース繊維の分散媒である水をモノマーに置換する工程
工程(3):上記分散媒置換後のセルロース繊維にポリエーテルアミン等を添加する工程
工程(4):上記ポリエーテルアミンが結合したセルロース繊維を上記モノマー中でナノ解繊する工程
<工程(1)>
工程(1)は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースの水酸基を、酸化等によりカルボキシル基を有する置換基(カルボキシル基、カルボキシル塩基、カルボキシルアルキル基等)に変換させる工程である。
セルロースI型結晶構造を有するセルロースとしては、通常、天然セルロースが用いられる。ここで、天然セルロースとは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等があげられる。なかでも、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましい。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。
セルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
上記セルロース繊維表面の水酸基がカルボキシル基を有する置換基に変換されたセルロースとしては、例えば、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、多価カルボキシメチルセルロース、あるいは、その塩、等があげられる。なかでも、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかである、N−オキシル化合物を酸化剤として用いた酸化セルロースが好ましい。
前記の通り、本発明のカルボキシル基を有する微細繊維状セルロースの内、より好適に選択できるN−オキシル化合物を酸化剤として用いて酸化セルロースを得る方法について、以下に詳述する。
(酸化処理工程)
上記酸化セルロースは上記天然セルロースと、N−オキシル化合物と、共酸化剤の存在下で酸化処理をして、カルボキシ基を含有するセルロース繊維を得られる。
上記酸化反応におけるセルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中のセルロース濃度は、セルロースの充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
上記N−オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。上記N−オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル、または4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルが好ましい。上記N−オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
上記共酸化剤とは、直接的にセルロースの水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
上記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。目的とするカルボキシル基量等を得るために、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御する。
(還元処理工程)
上記酸化処理後のセルロース繊維は、還元剤により還元させることが好ましい。これにより、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシル基は還元されない。そして、上記還元による、上記酸化セルロースの、後述するセミカルバジド法によって算出されるカルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量は、0.3mmol/g以下とすることが好ましく、特に好ましくは0.1mmol/g以下である。これにより、微細繊維状セルロースの分子量低下が抑制され、溶剤中での増粘効果を長期間維持することができる。なお、カルボニル基が0.5mmol/gを超えると、長期保存による凝集物の発生や、粘度が時間経過と共に著しく低下するといったおそれがある。なお、上記還元反応に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LiBH、NaBHCN、NaBHがあげられる。なかでも、NaBHは、コスト及び利用可能性という観点から特に好ましい。
カルボキシル基を有する置換基に変換されたセルロースを還元剤の量は、基準として、0.1〜20重量%の範囲が好ましく、特に好ましくは3〜10重量%の範囲内である。反応条件は室温または室温より若干高い温度で、10分〜10時間、好ましくは30分〜2時間行なわれる。
セミカルバジド法による、カルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量の測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、まず、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうする。ついで、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌する。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式に従い、試料中のカルボニル基量を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応してシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシル基とは反応しないことから、上記測定により、カルボニル基量のみを定量できると考えられる。
Figure 0006815691
<工程(2)>
工程(2)は、上記処理後のセルロース繊維を酸で洗浄することで、上記工程(1)で導入したカルボキシル基を酸型にし、適宜、ろ過と水洗とを繰り返して精製し、遠心分離機等により固液分離を行った後、モノマーによるセルロースの洗浄を、繰り返し行い、水からモノマーへと置換を行う工程である。
(酸)
上記酸は、セルロース繊維水分散液を酸性に維持できればよいため、酸の種類は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、過酸化水素などの無機酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、セバシン酸ソーダ、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマール酸、グルコン酸などの有機酸のいずれであっても用いることができる。酸によるセルロース繊維の変質や損傷を回避でき、廃液処理の容易さなどの観点から、塩酸を用いることが好ましい。
<工程(3)>
工程(3)は、上記分散媒置換後の酸化セルロースに対し、上記式(1)に示されるポリエーテルアミンおよび必要に応じて上記式(2)で示されるアミン化合物を添加する工程である。これにより、上記セルロースのカルボキシル基に、上記式(1)に示されるポリエーテルアミン等が結合し、セルロースの親油化が行われる。なお、上記反応は、上記モノマー中で行われる。
<工程(4)>
工程(4)は、上記親油化後のセルロース繊維を有機溶剤中でナノ解繊する工程である。上記ナノ解繊に使用する分散機としては、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することで、より微細化することが可能となり、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となる。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等を用いても差し支えない。なお、本工程においては必要に応じて後述する有機溶媒を配合しても良い。
[モノマー]
本発明に好適に使用できるモノマーとしては、特に限定はされないが、アクリル酸系モノマー、メタクリル酸系モノマー、エポキシ系モノマー等が挙げられ、これらの内、微細繊維状セルロースとモノマーの相溶性の点からアクリル酸系モノマー、メタクリル酸系モノマーが好ましい。
上記アクリル酸系モノマーとしては、例えば、アクリル酸及びその誘導体があげられる。一方、メタクリル酸系モノマーとしては、メタクリル酸及び誘導体があげられる。これらアクリル酸系モノマー及びメタクリル酸系モノマーは、重合可能なものが用いられる。アクリル酸の誘導体としては、例えばCH2-=CHCOORで表されるアクリル酸のアルカリ金属塩やアクリル酸のエステルがあげられる。メタクリル酸の誘導体としては、例えばCH2-=C(CH3)COORで表されるメタクリル酸のアルカリ金属塩やメタクリル酸のエステルがあげられる。これらの式中、Rは、アルカリ金属又はアルコール残基を示す。またアクリル酸系モノマーおよびメタクリル酸系モノマーとしては、1分子中に1個のC=C二重結合を有する単官能性モノマーや、1分子中に2個のC=C二重結合を有する二官能性モノマーや、1分子中に3個以上のC=C二重結合を有する多官能性モノマーが用いられる。
前記の各式中、Rがアルカリ金属である場合、該アルカリ金属としては、例えばナトリウムがあげられる。Rがアルコール残基である場合、アルコールとしては、炭素数1以上50以下の脂肪族アルコールや、炭素数6以上50以下の芳香族アルコールがあげられる。また、R1−(OR2)n−OHで表されるポリアルキレングリコールがあげられる。脂肪族アルコールとしては、飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アルコールがあげられる。これら飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アルコールは、水酸基、エーテル基、エステル基、カルボキシル基等の官能基が修飾されていても良い。ポリアルキレングリコールにおけるR1としては、例えば炭素数1以上50以下のアルキル基があげられる。R2としては、例えば炭素数1以上18以下のアルキレン基があげられる。nは、例えば1以上30以下の整数が好ましい。
上記アクリル酸系モノマー、メタクリル酸系モノマーとしては、特に制限されないが具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸へキシル、フェノキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、1,6―ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸へキシル、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
上記アクリル酸系モノマー、メタクリル酸系モノマーのうち耐熱性の点から3官能以上のアクリル酸系モノマーまたはメタクリル酸系モノマーが好ましい。上記3官能以上のアクリル酸系モノマーまたはメタクリル酸系モノマーとしては特に制限されないが具体的にはトリメチロールプロパントリメタアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
また上記エポキシ系モノマーとしては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1.6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール、1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、ε−カプロラクトン変性3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、リモネンジオキサイド等が挙げられる。
本発明のコーティング剤における、微細繊維状セルロースの固形分濃度は、ハンドリング性と増粘性の点から、モノマーと微細繊維状セルロースの合計量100質量%に対し、0.05質量%以上3.0質量%の範囲が好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲がより好ましい。
本発明のコーティング剤は有機溶剤を含有することが好ましい。有機溶剤としては、モノマーを溶解できるものであれば特に限定されず、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類;およびこれらの混合物が例示される。本発明のコーティング剤の固形分が5質量%以上50質量%以下の範囲になる量が好ましい。モノマーが常温で液状であり、コーティングに適する場合は、有機溶剤は不要である。
本発明のコーティング剤は基材との密着性を向上させるためアミノシランカップリング剤を含有することが好ましい。かかるアミノシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシランが例示される。その含有量は、本発明のコーティング剤固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の範囲が好ましい。
本発明のコーティング剤には、必要に応じて脱水剤、レベリング剤、増粘剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有することができる。脱水剤としては、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等が挙げられる。レベリング剤としては、各種のポリエーテル変性シリコーンオイルが例示される。また本発明組成物に、各種顔料、染料等の着色剤、カーボンブラック、電荷調整剤、アルミニウムペースト、タルク、ガラスフリット、金属粉等を添加することにより、塗料としても使用できる。
本発明のコーティング剤が適用される基材としては、材質上は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、アルマイト、デュラルミン等の金属;酸化鉄、フェライト、アルミナ、酸化亜鉛等の金属酸化物;モルタル、スレート、コンクリート、ガラス、セラミック等の無機基材;木材、合板;熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、FRP等の樹脂が例示される。基材の形状は、板状、ブロック状、皮膜状、粒子状、粉末状が例示される。
実施例について比較例等と併せて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り重量基準を意味する。また、下記実施例1〜15は比較例である。
まず、実施例および比較例に先立ち、実施例用のセルロース繊維A1〜A4および比較例用のセルロース繊維A’1,A’2を、以下の製造例1〜5に従って調製した。
〔製造例1:セルロース繊維A1(実施例用)の調製〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応した(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、遠心分離機で固液分離し、純水を加えて固形分濃度4%に調整した。その後、24%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃として水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、セルロース繊維A1を得た。
〔製造例2:セルロース繊維A2(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A2を得た。
〔製造例3:セルロース繊維A3(実施例用)の調製〕
針葉樹パルプ100gを、イソプロパノール(IPA) 435gと水65gとNaOH9.9gの混合液中にいれ、30℃で1時間撹拌した。このスラリー系に50%モノクロル酢酸のIPA 溶液23.0gを加え、70℃に昇温し1.5時間反応させた。得られた反応物を80%メタノールで洗浄し、その後メタノールで置換し乾燥させ、セルロース繊維A3を得た。
〔製造例4:セルロース繊維A4(実施例用)の調整〕
尿素 20g、リン酸二水素ナトリウム二水和物 12g、リン酸水素二ナトリウム 8gを20gの水に溶解させてリン酸化剤を調整し、家庭用ミキサーで粉砕した針葉樹パルプ(LBKP)20gをニーダーで攪拌しながらスプレー噴霧し、リン酸化剤含浸パルプを得た。次いで、リン酸化剤含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機内で60分間、加熱処理してリン酸化パルプを得た。得られたリン酸化パルプに水を加えて固形分濃度2%とし、攪拌、混合して均一に分散させた後、濾過、脱水の操作を2回繰り返した。次いで、得られた回収パルプに、水を加えて、固形分濃度2%とし、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pH12〜13のパルプスラリーを得た。続いて、このパルプスラリーを濾過、脱水し、更に水を加えて濾過、脱水の操作を2回繰り返し、その後メタノールで置換し乾燥させ、セルロース繊維A4を得た。
〔製造例5:セルロース繊維A’1(比較例用)の調製〕
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)50gを水4950gに分散させ、パルプ濃度2%の分散液を調製した。この分散液をセレンディピターMKCA6−3(増幸産業社製)で30回処理し、セルロース繊維A’1を得た。
〔製造例6:セルロース繊維A’2(比較例用)の調製〕
原料の針葉樹パルプに替えて再生セルロースを使用するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A’2を調製した。
上記セルロース繊維を用いて、下記評価方法に従い、各特性の評価を行った。
<結晶構造>
X線回折装置(リガク社製、RINT−Ultima3)を用いて、セルロース繊維の回折プロファイルを測定し、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
<カルボキシル基量の測定>
上記セルロース繊維0.25gを水に分散させたセルロース水分散体60mlを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従いカルボキシル基量を求めた。
Figure 0006815691
<カルボキシメチル基量の測定>
上記セルロース繊維を0.6質量%スラリーに調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量からカルボキシル基量を測定し、下式を用いて算出することが出来る。
Figure 0006815691
<リン酸基量の測定>
上記セルロース繊維をイオン交換水で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%微細セルロース繊維含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細セルロース繊維水分散体に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、水分散体が示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、電気伝導度の値が最も小さくなるまでに加えたアルカリ量[mmol]mmolを、滴定対象スラリー中の固形分[g]で除して、リン酸基量[mmol/g]とした。
<カルボニル基量の測定>
上記セルロース繊維を約0.2g精秤し、これに、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうした。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌した。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加え、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記式に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めた。
Figure 0006815691
Figure 0006815691
〔実施例1〕
上記セルロース繊維A1にメタノールを加えてろ過し、メタノール洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれる水をメタノールに置換した。その次に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製、以下DPHAと略す)を加えてろ過し、DPHA洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれるメタノールをDPHAに置換した。その後、DPHAと、上記セルロース繊維A1のカルボキシル基量と等量のポリエーテルアミン(JEFFAMINE M−2070、HUNTSMAN社製)とを加えて、セルロース繊維濃度を0.5%になるように希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、コーティング剤を得た。上記コーティング剤に開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを添加(モノマー重量に対して3%重量)し、上記開始剤が溶解したことを確認した後、バーコーターを用いてコロナ処理したPETフィルム上に塗布した。その後、放射照度を約200mW/cmとし、1分間紫外線を照射することで複合フィルムを作製した。
上記コーティング剤と上記複合フィルムを用いて、下記評価方法に従い、各特性の評価を行った。
<数平均繊維径、アスペクト比の測定>
上記コーティング剤のセルロース繊維の数平均繊維径、および繊維長を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径、および繊維長を算出した。さらに、これらの値を用いてアスペクト比を下記式に従い、算出した。
Figure 0006815691
<透明性の評価>
上記複合フィルムを用いて、ヘーズメーター(日本電色工業社製、NDH 4000)でヘーズ値を測定した。ヘーズ値の大きさにより、透明性を以下のように評価した。
◎:ヘーズ値が0以上0.25未満
○:0.25以上0.5未満
△:0.5以上1未満
×:1以上
<線熱膨張係数の測定>
上記複合フィルムの熱膨張係数を熱機械的分析装置(リガク社製、TMA8311)の引張モードを用いて測定した。0℃から300℃まで昇温速度5℃/分、荷重7mN、窒素雰囲気下で昇温し、20℃から200℃までのサンプル伸びから線熱膨張係数[ppm/K]を算出した。
<寸法安定性の測定>
上記複合フィルムを正方形(縦6cm×横6cm)に切り抜き、20℃で24時間保存した後、高さが一番低い1点を押さえ、他3点の高さの平均値ΔH(mm)を算出した。高さの平均値ΔHにより、寸法安定性を以下のように評価した。
◎:ΔHが0以上5未満
○:5以上10未満
△:10以上15未満
×:15以上
<押し込み弾性率の測定>
上記複合フィルムの押し込み弾性率を、超微小押し込み硬さ試験機(エリオ二クス社製、ENT−1100a)を用いて測定した。上記複合フィルムに超微小荷重(試験荷重0.3mN、測定温度26℃)をかけ、押し込み弾性率を算出した。
<帯電防止性の評価>
上記複合フィルムを用いて、デジタル超高抵抗/微小電流計(ADVANTEST社製、R8340)で表面固有抵抗値[Ω]を測定した。表面固有抵抗値の大きさにより、帯電防止性を以下のように評価した。
◎:表面固有抵抗値が1.0×1011未満
○:1.0×1011以上1.0×1013未満
△:1.0×1013以上1.0×1015未満
×:1.0×1015以上
<耐熱性の評価>
粘弾性測定装置(エスアイアイナノテクノロジー社製、EXSTAR TMA6100)の引張モードを用いて、温度範囲:−20〜300℃、昇温速度:2℃/分、窒素雰囲気下で樹脂組成物の粘弾性を測定した。この測定により、各温度における貯蔵弾性率の値が測定される。20℃での貯蔵弾性率をA、200℃での貯蔵弾性率をBとしたとき、耐熱性は以下の式で定義した。
Figure 0006815691
一般に貯蔵弾性率は温度と共に低下していくため、A>Bとなり、耐熱性は1以下の値を示す。AからBの低下が少ないほど、耐熱性は1に近い値を示す。この値が1に近いほど熱に対する強度安定性が高いことを意味する。上記式から算出された値より、耐熱性を以下のように評価した。
○:0.5以上
△:0.2以上0.5未満
×:0.2未満
〔実施例2、5〜15、比較例1〕
セルロース繊維種類と、モノマーであるDPHAと、修飾剤であるポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)と、コーティング剤中のセルロース繊維濃度を、下記の表2のように変更した。それ以外は実施例1と同様の手法でおよびコーティング剤、および複合フィルムを調製し、各特性の評価を行った。
〔実施例3〕
セルロース繊維A3に水を加え、固形分1%に希釈し、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌しながら、溶液のpHが2になるまで1N塩酸を加えた。その後、濾過を行い、水で十分洗浄し、さらにメタノールで繰り返して洗浄することで、メタノールに溶剤置換した。その次に、DPHAを加えてろ過し、DPHA洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれるメタノールをDPHAに置換した酸型セルロース繊維A3を作製した。上記酸型セルロース繊維A3にDPHAと、上記酸型セルロース繊維A3のカルボキシル基量と等量のポリエーテルアミン(JEFFAMINE M−2070、HUNTSMAN社製)とを加えて、セルロース繊維濃度を0.5%になるように希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、コーティング剤を得た。上記コーティング剤に開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを添加(モノマー重量に対して3%重量)し、上記開始剤が溶解したことを確認した後、バーコーターを用いてコロナ処理したPETフィルム上に塗布した。その後、放射照度を約200mW/cmとし、1分間紫外線を照射することで複合フィルムを作製した。上記コーティング剤、および複合フィルムを用いて、実施例1と同様の評価方法で、各特性の評価を行った。
〔実施例4〕
セルロース繊維A4に水を加え、固形分1%に希釈し、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌しながら、溶液のpHが2になるまで1N塩酸を加えた。その後、濾過を行い、水で十分洗浄し、さらにメタノールで繰り返して洗浄することで、メタノールに溶剤置換した。その次に、DPHAを加えてろ過し、DPHA洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれるメタノールをDPHAに置換した酸型セルロース繊維A4を作製した。上記酸型セルロース繊維A4にDPHAと、上記セルロース繊維A4のリン酸基量と等量のポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)とを加えて、2%に希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、コーティング剤を得た。上記コーティング剤に開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを添加(モノマー重量に対して3%重量)し、上記開始剤が溶解したことを確認した後、バーコーターを用いてコロナ処理したPETフィルム上に塗布した。その後、放射照度を約200mW/cmとし、1分間紫外線を照射することで複合フィルムを作製した。上記コーティング剤、および複合フィルムを用いて、実施例1と同様の評価方法で、各特性の評価を行った。
〔実施例16、17〕
セルロース繊維A1をセルロース繊維A2に、修飾剤であるポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)を下記表2記載のポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)/脂肪族アミンの混合溶液(モル比で50/50)に変更した以外は、実施例1と同様の手法でコーティング剤、および複合フィルムを調製し、各特性の評価を行った。
〔実施例18〕
セルロース繊維A1をセルロース繊維A2に、修飾剤であるポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)を下記表2記載のポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)/脂肪族アミンの混合溶液(モル比75/25)に変更した以外は、実施例1と同様の手法でコーティング剤、および複合フィルムを調製し、各特性の評価を行った。
〔実施例19〕
セルロース繊維A1をセルロース繊維A2に、修飾剤であるポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)を下記表2記載のポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)/脂肪族アミンの混合溶液(モル比25/75)に変更した以外は、実施例1と同様の手法でコーティング剤、および複合フィルムを調製し、各特性の評価を行った。
〔比較例2〕
上記セルロース繊維A2に水と水酸化ナトリウムとを加えて、セルロース繊維濃度を0.5%になるように希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理した。その後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌しながら、水溶液のpHが2になるまで1N塩酸を加えた。その後、濾過を行い、水で十分洗浄し、さらにメタノールで繰り返して洗浄することで、メタノールに溶剤置換した。その次に、DPHAを加えてろ過し、DPHA洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれるメタノールをDPHAに置換した酸型セルロース繊維A2を作製した。上記酸型セルロース繊維A2にDPHAと、上記酸型セルロース繊維A2のカルボキシル基量と等量のデシルアミンとを加えて、セルロース繊維報土を0.5%になるように希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、コーティング剤を得た。上記コーティング剤に開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを添加(モノマー重量に対して3%重量)し、上記開始剤がモノマーに溶解したことを確認した後、バーコーターを用いてコロナ処理したPETフィルム上に塗布した。その後、UV硬化することで複合フィルムを作製した。上記コーティング剤、および複合フィルムを用いて、実施例1と同様の評価方法で、各特性の評価を行った。
〔比較例3〕
セルロース繊維A3にメタノールを加え、ろ過し、メタノールで繰り返して洗浄することでセルロース繊維に含まれる水をメタノールに溶剤置換した。その次に、DPHAを加えてろ過し、DPHA洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれるメタノールをDPHAに置換した。その後、さらにDPHAを加えて0.5%に希釈して、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、コーティング剤を得た。
〔比較例4〕
セルロース繊維A′1にメタノールを加え、ろ過し、メタノールで繰り返して洗浄することでセルロース繊維に含まれる水をメタノールに溶剤置換した。その次に、DPHAを加えてろ過し、DPHA洗浄を繰り返して、上記セルロース繊維に含まれるメタノールをDPHAに置換した。その後、さらにDPHAを加えてセルロース繊維濃度が0.5%になるように希釈し、コーティング剤を得た。
〔比較例5〕
セルロース繊維A′2に水を加えて希釈し、凍結乾燥機(東京理化機器社製、FDU−2100)を用いて凍結乾燥を行い、乾燥物を得た。上記乾燥物にDPHAと、上記セルロース繊維A′2のカルボキシル基量と等量のポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070)とを加えて0.5%に希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、コーティング剤を得た。
〔比較例6〜12〕
表2に示すモノマーに開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを添加(モノマー重量に対して3%重量)し、上記開始剤がモノマーに溶解したことを確認した後、バーコーターを用いてコロナ処理したPETフィルム上に塗布した。その後、UV硬化することでフィルムを作製した。上記フィルムを用いて、実施例1と同様の評価方法で、各特性の評価を行った。
Figure 0006815691
※1 HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2005
※2 HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2095
※3 第一工業製薬社製、ニューフロンティア PET−03
※4 第一工業製薬社製、ニューフロンティア TMPT
※5 第一工業製薬社製、ニューフロンティア L−C9A
※6 第一工業製薬社製、ニューフロンティア TMPTM
※7 ダイセル社製、セロキサイド2021P
※8 共栄社化学社製、エポライト1600
※9 数平均繊維径が1nm以下であるため測定不可。
※10 モノマー中で微細繊維状セルロースが凝集し、複合フィルムを作製できなかったため測定不可。
上記表2の結果より、実施例のコーティング剤から得られる複合フィルムは、比較例6〜12のモノマー単体から得られるフィルムよりも透明性、線熱膨張係数、寸法安定性、押し込み弾性率、帯電防止性、および耐熱性の点で良好な結果が得られた。これに対して、比較例1のコーティング剤は修飾剤にポリエーテルアミンが含まれていない、かつ繊維径が太いため、透明性、線熱膨張係数、寸法安定性の点で良好な結果が得られなかった。比較例2のコーティング剤は修飾剤にポリエーテルアミンが含まれていないために、モノマー中に均一に分散せず、線熱膨張係数の点で良好な結果は得られなかった。また比較例3のコーティング剤は修飾剤の疎水性が足りないために、比較例4のコーティング剤は修飾剤が無いために、モノマー中で微細繊維状セルロースが凝集し、複合フィルムを作製することすらできなかった。比較例5のコーティング剤は透明性、帯電防止性の点では良好であったが、セルロース繊維が結晶構造を有さないために、線熱膨張係数、寸法安定性、押し込み弾性率、耐熱性の点で良好な結果は得られなかった
本発明のコーティング剤は、透明性、耐熱性、低線熱膨張係数、寸法安定性および帯電防止性に優れるため、ガラス代替の透明熱可塑性樹脂板、電子装置のタッチパネル面等のコーティング剤として好適に用いることができる。

Claims (5)

  1. 下記条件(A)〜(F)を満たす微細繊維状セルロースとモノマーを含有するコーティング剤。
    (A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
    (B)平均アスペクト比が10以上1000以下
    (C)セルロースI型結晶構造を有する
    (D)アニオン性官能基を有する
    (E)上記(D)に記載のアニオン性官能基の一部に下記式(1)で示すポリエーテルアミンが結合している
    (F)上記(D)に記載のアニオン性官能基の一部、または全てに下記一般式(1)で示すポリエーテルアミンと下記一般式(2)で示すアミン化合物が結合している
    Figure 0006815691
    〔上記式(1)中、R、R、Rは直鎖もしくは分岐の炭素数1以上10以下のアルキル基、または水素原子を示し、n1、n2、n3はそれぞれ0以上80以下を示し、(n1+n2+n3)は10以上240以下を示し、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を示し、xの平均値は0.5以上1以下、y、zの平均値は0以上1以下を示す。〕
    Figure 0006815691
    〔上記式(2)中、R、R、Rは直鎖あるいは分岐の炭素数2以上18以下のアルキル基、または水素原子を示す。〕
  2. 上記微細繊維状セルロースのアニオン性官能基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤。
  3. 上記モノマーがアクリル酸系モノマーおよび/またはメタクリル酸系モノマーであることを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング剤。
  4. 上記アクリル酸系モノマーおよび/またはメタクリル酸系モノマーが3官能以上であることを特徴とする請求項3に記載のコーティング剤。
  5. 上記微細繊維状セルロースの固形分含有量が、コーティング剤の重量全体の0.1質量%以上3質量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコーティング剤。
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