JP7375281B1 - プレート材の固定方法、固定構造および位置調整金具 - Google Patents

プレート材の固定方法、固定構造および位置調整金具 Download PDF

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Abstract

【課題】プレートの下面全体で空気溜りの発生を防止し、グラウト材層との間で全面密着を可能にしたプレート材の固定方法、固定構造及び位置調整金具を提供する。【解決手段】鉄骨柱の下端部に固着したベースプレート2が、基礎コンクリート9の上面に突出するアンカーボルト3で固定される露出型柱脚の施工において、従来のレベルモルタルに代えて位置調整金具20をアンカーボルト3に装着し、突起片22の先端面22aで位置を調整する。板状押圧具80をグラウト材Gの表面に当てて下方に押し込むと、グラウト材Gがその押圧力でベースプレート2の下面側を水平方向に流動し、ベースプレート2下部の残存空気を外部に押し出す。位置調整金具20の突起片22とアンカーボルト3の間には、グラウト材Gの流通を可能にする間隙が存在することにより、グラウト材Gの移動が阻害されることがなく、アンカーボルト3の周囲にも確実にグラウト材Gが充填される。【選択図】図9

Description

本発明は、例えば鉄骨造などで使用される露出型柱脚の施工において、アンカーボルトが挿通するベースプレートの下面と基礎コンクリートの上面との間に形成される空間へのグラウト材の充填技術に係り、プレート材をコンクリート構造物に対してアンカーボルトとグラウト材層により固定する方法と、その方法で構築される固定構造と、この固定構造で使用する位置調整金具に関するものである。
露出型柱脚において、アンカーボルトが上端部を残して基礎コンクリート(以下、他の用途で使用されるコンクリート構造からなる構造物を含めてコンクリート構造物と総称することもある。)の所定位置に埋設され、鉄骨柱の下端に固着されたベースプレート(以下、他の用途で使用されるプレートを含めてプレート材と総称することもある。)は、複数本のアンカーボルトによって基礎コンクリートに定着される。具体的には、周辺部分に複数のボルト挿通孔が形成されているベースプレートを、これらボルト挿通孔に基礎コンクリート上に突出しているアンカーボルトを挿通しながら基礎コンクリート上面に予め設けたレベルモルタル上に載置し、ベースプレートの上面側から座金を介してナットで締め付けてベースプレートを仮固定する。そして、この状態でベースプレート下面にグラウト材を注入し、グラウト材が固化した後にナットを本締めする。
レベルモルタルは、「柱下モルタル」、「柱底均しモルタル」などとも呼ばれ、鉄骨柱の建て方時の必要性から設置されるものである。レベルモルタルの施工は、鉄骨柱の建込みに先立ち、基礎コンクリート上面のアンカーボルト群(ベースプレート設置予定位置)の中央付近に、鉄骨柱の仮支持に必要な硬練りのモルタルを鏝により3~5cm程度の高さに盛り上がるようにして成形される。その役割は、ベースプレート(鉄骨柱)の鉛直方向の位置決め(高さ調整)と、建て方作業時に鉄骨柱の重心位置がその中に納まるようにするためのものであることから、ベースプレートの底面積に対して相応の大きさ(広がり)が必要となる。そして、ベースプレートの下面側において、レベルモルタルの周囲に残る空間にセメント系のグラウト材(無収縮モルタル等)を流し込み、固化したグラウト材層を介して基礎コンクリートに固定されることになる。(特許文献1の図1、特許文献2の図5参照)。
次に、グラウト材の充填に際し求められる条件は、グラウト材の流動性と注入圧力である。流動性に関しては、適切なグラウト材を選定し、必要な強度が得られる範囲で配合を行うことになる。注入圧力は、注入するグラウト材の圧力と充填先の空間との圧力差による。一般的な充填方法としては、図15に示すように、レベルモルタル11に載置したベースプレート2の周囲に間隔を空けて型枠12を設置し、グラウト容器16からグラウト材Gをベースプレート2の上端レベルまで注入する。この場合、充填先との高低差h1が注入圧力となる。
さらに大きな注入圧力を得る方法として、図16に示すように、型枠12をベースプレート2の側面に密着させてベースプレート2の下面側に閉鎖空間Sをつくり、十分な量のグラウト材Gが収容されている先細状のグラウトロート17の先端部分を、ベースプレート2に設けた複数の注入孔2aのいずれかに立設状態で嵌入し、グラウト材Gの高さを利用してグラウト材Gを閉鎖空間Sに流し込む充填方法がある(特許文献1、2参照)。この充填方法は、グラウトロート17に収容するグラウト材Gの高さh2を高くすることで十分な注入圧力が得られるという利点がある。また、同じようなグラウトロートを利用する他の充填方法としては、ベースプレート自体に注入孔を設けることに代えて、ボルト挿通孔の近くにグラウト材の注入孔が設けられた特殊形状の座金を使用する方法も知られている。
特許第4340189号公報(図1、11~15参照) 特開平10-169010号公報(図1、5参照)
ところで、建築物の構造計算における柱脚部においては、躯体にかかるせん断力に対して、(1)ベースプレート下面とグラウト材層との間の摩擦抵抗力に基づくせん断抵抗力によって処理するか、(2)アンカーボルトの許容せん断耐力に期待するかの選択を行っている。(1)の条件を選択した場合、摩擦抵抗力は、N(重さ)×μ(抵抗係数)の積で表されるが、上部の重量Nを基礎コンクリートに伝える場合、設計者は、ベースプレートとそれを下側で受けるグラウト材層との関係に関して、ベースプレート下面(背面)の全体がグラウト材層に対して確実に密着しているものと考えている。
ところが、実際の施工状況において、これらの条件(全面密着)が実現されているかについては、大いに疑問が残るところである。すなわち、上記方法などによってグラウト材を投入しただけでは、図17に示すように、レベルモルタル11の周辺部の窪みに空気溜り18aが生じやすく、特にアンカーボルト3に近い区域では、アンカーボルト3がグラウト材Gの流動を阻害し、アンカーボルト3とレベルモルタル11の間のベースプレート2直下に、より大きな空気溜り18bが発生する。また、ベースプレート2の下面に当接するレベルモルタル11の上面については、現場での鏝成形であるために精度の高い平坦面とはならず、場合によってはその不陸部分に空気溜り18cが残り、グラウト材Gの未充填箇所が何箇所にも発生することになる。このため、ベースプレート2と固化したグラウト材G(グラウト材層)の間では、計算上の摩擦抵抗力が生じていない可能性がある。さらに、ベースプレート2の下面には、その中央部で比較的大きな空間を占有するレベルモルタル11が存在しているため、一方向からグラウト材Gを注入する場合には、流動の妨げになり、その背後側に廻り難く、隅々にまで行き渡らない虞がある。
本出願人は、露出型柱脚の施工において、レベルモルタルの存在がグラウト材の密実充填にとって阻害要因になっていることに着目し、鋭意検討を重ねた結果、本発明に想到したのである。すなわち、本発明は、レベルモルタルに代わるものとして、注入時にグラウト材の流動を阻害しにくい位置調整金具を新たに開発し、これを使用することによりベースプレートの下面全体で空気溜りの発生を防止し、実質的にグラウト材層との間で全面密着が可能であり、さらに柱脚を対象とするベースプレートに限らず、他の用途で使用されるプレート材にも適用可能な固定方法と、その方法で構築される固定構造、さらにそこで用いる位置調整金具の提供を目的とする。
上記課題を解決するための技術手段として、本願の請求項1に係る発明は、複数のアンカーボルトが突出するコンクリート構造物の表面に、それらアンカーボルトが挿通する複数のボルト挿通孔を備えたプレート材を所定の離間距離で平行に配置し、それらコンクリート構造物の表面とプレート材の背面との間にグラウト材層を介在させてプレート材の表面側からナットで締め付けるプレート材の固定方法において、アンカーボルトに螺合するネジ孔を備え、このネジ孔を貫通するアンカーボルトの外周面に対してグラウト材が流通可能な間隙を確保して突起片が立設された位置調整金具を、その突起片の先端面からコンクリート構造物の表面までの距離が、コンクリート構造物とプレート材の離間距離と同じになるように回動して位置調整を行った後、プレート材の背面を位置調整金具の突起片の先端面に当接させた状態でプレート材の表面側からナットで保持し、プレート材の周囲に型枠を設置した後、グラウト材を注入する、という構成を採用した点に特徴がある。
上記構成によれば、アンカーボルトに螺合した位置調整金具を回動し、その突起片の先端面の位置を調整することにより、コンクリート構造物に対して、プレート材を所定の間隔(離間距離)で簡単かつ確実に位置決めすることができる。さらに、位置調整金具の突起片がアンカーボルトから離れた位置に立設していることから、突起片とアンカーボルトとの間隙がグラウト材の流路となり、グラウト材の流通が妨げられない。なお、突起片の横方向(アンカーボルトの軸心に対して直交する方向)の長さと、プレート材のボルト挿通孔の大きさの関係において、突起片の先端面が、必ずしもその全面でプレート材に当接する必要はない。すなわち、先端面の一部がボルト挿通孔に跨るような状況であっても、他の部分がプレート材の背面に当接するので、調整機能は確実に維持される。
さらに、上記請求項1の構成において、コンクリート構造物を基礎コンクリート、プレート材をベースプレートとした場合、すなわち露出型柱脚の施工に適用した場合には、従来の施工方法において、基礎コンクリート上面のレベルモルタルが不要になり、グラウト材の注入時にベースプレートの下面(背面)との間に存在していた大きな障害物がなくなる。そして、ベースプレートの背面に突起片の先端面が当接した仮固定の状態(グラウト材の充填前)では、位置調整金具の突起片とアンカーボルトの周面との間にはグラウト材の流通が可能な間隙が確保されているので、ベースプレートの周辺部などから注入されたグラウト材は、ベースプレートの下面でその移動が阻害されることなく隅々にまで行き渡る。この場合、位置調整金具の突起片先端面とベースプレートの当接部分はベースプレート全体の面積に比べるとごく僅かであるから、実質的にはベースプレートのほぼ全面でグラウト層と接触した状態となり、所要の摩擦抵抗力が得られる(請求項2)。
また、露出型柱脚の施工を対象とする請求項2の構成において、ベースプレートのそれぞれの辺部側面に対して所定の間隔を保持して平行状態に型枠を設置し、グラウト材を上方からベースプレートの上面付近の高さまで注入した状態で、ベースプレートの辺部長に近い長さと、型枠の内面とベースプレートの側面との間隔に近い幅からなる板状押圧具をグラウト材の表面に当てて下方に押し込むようにすると好都合である(請求項3)。
上記構成によれば、ベースプレートの各辺部において、板状押圧具をグラウト材表面に当てて下方に押し込むと、辺部のほぼ全域で板状押圧具直下のグラウト材が下方に向けて押され、その押圧力が下向きからベースプレートの下面側へと伝達し、さらにベースプレートの下面(背面)側にあるグラウト材に対して、反対側の辺部に向けて移動させる力として作用する。この際、ベースプレートの下面では、ベースプレートの周縁部に沿って配置された各アンカーボルトに螺合し、先端面でベースプレートの下面に当接している位置調整金具の突起部とアンカーボルト外周面との間にはグラウト材の流通が可能な間隙が確保され、且つそれらアンカーボルト群に囲まれたベースプレート下面の区域には、グラウト材の流通に悪影響を及ぼすレベルモルタルが存在しないことから、ベースプレート下面の残存空気を外に押し出しながら反対側の辺部に向けて移動する。この押圧操作を順次回転しながら4方向すべてに連続して行うと、ベースプレート下面の全体にグラウト材が確実に充填される。すなわち、簡便な手段でグラウト材の充填性が向上するので、施工方法の向上につながる。
なお、上記構成において、板状押圧具の押込み操作により下方のグラウト材に押圧力を作用させる上で重要な点は、板状押圧具の下方にあるグラウト材の逃げ道(移動方向)がベースプレートの下面方向に向かうことである。板状押圧具の四方の側面から各方向に自由に移動したのでは押圧効果が乏しくなる。そのために、型枠内面とベースプレート辺部側面の間隔(注入幅)と、この間隔に対応する板状押圧具の幅(板状部幅)との関係は特に重要で、板状押圧具における板状部幅に関しては注入幅に対してクリアランスをほぼ無くし、隙間から漏れないようすることが肝要である。
請求項4に係る発明は、複数のアンカーボルトが突出するコンクリート構造物の表面に、それらアンカーボルトが挿通する複数のボルト挿通孔を備えたプレート材を所定の離間距離で平行に配置し、コンクリート構造物の表面とプレート材の背面との間にグラウト材層を介在させてプレート材の表面側からナットで締め付けたプレート材の固定構造において、アンカーボルトに螺合するネジ孔を備え、このネジ孔を貫通するアンカーボルトの外周面に対してグラウト材が流通可能な間隙を確保して突起片を立設した位置調整金具が、プレート材の背面に当接するその突起片の先端面からコンクリート構造物の表面までの距離が離間距離と同じになる位置に装着されていることに特徴がある。
上記構成からなるプレート材の固定構造によれば、アンカーボルトの所定位置に螺合する位置調整金具の回動でプレート材をコンクリート構造物に対して所定の間隔(離間距離)に位置決めする作業が簡単かつ容易である。そして、位置調整金具がグラウト材の流通を阻害しない構造であって、その他の位置調整部材が不要になるので、コンクリート構造物とプレート材の間隙にグラウト材が密実状態に充填されることになる。
さらに、請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載したプレート材の固定構造で使用する位置調整金具である。その構成は、アンカーボルトに螺合するネジ孔を中心位置に備えた台座部と、この台座部のネジ孔を貫通するアンカーボルトに対してグラウト材が流通可能な間隙を確保して対向状態で立設され、プレート材の背面に先端面で当接する2個の突起片からなるものである。
この位置調整金具を使用する場合には、例えば露出型柱脚の基礎コンクリートなどのコンクリート構造部の表面に突出するアンカーボルトに台座部を螺合して回動することにより、任意の位置に設置することができる。そして、ベースプレート等のプレート材の背面側を位置調整金具の突起片に当接した状態で表面側からナットで保持することにより、プレート材とコンクリート構造部とを所定の間隔で確実に保持することができる。
さらに、台座部に立設された2個の突起片は、アンカーボルトの外周面から離れた位置にあり、この間隙がグラウト材の流路となるので、プレート材とコンクリート構造部との間隔をグラウト材層で密実に充填する上で効果的に機能する。特に、露出型柱脚の施工を対象とした請求項2、3の構成において、アンカーボルトの施工誤差(位置ずれ)への対策として、ベースプレートのボルト挿通孔を規定値よりも大きい拡大孔に形成し、拡大孔を貫通するアンカーボルトの外周面と拡大孔の内周面との間隙にグラウト材を充填させる工法に適用する場合に好都合である。
すなわち、アンカーボルトを挟むようにして対向状態で立設される2個の突起片間の距離、突起片の横方向(ネジ孔の軸心に直交する方向)の長さについて、上記拡大孔の内径に応じて選択することにより、アンカーボルトが拡大孔の中心から位置ずれした場合でも突起片の先端面がベースプレートの下面に対して、少なくともその一部で当接して所要の位置(高さ)調整を行うことができる。
本発明では、上記構成を採用したことにより、以下のような効果を得ることができる。
(1)アンカーボルトに螺合した位置調整金具を回動し、その突起片の先端面の位置を調整することにより、コンクリート構造物に対して、所定の間隔(離間距離)でプレート材を簡単かつ容易に位置決めすることができる。
(2)位置調整金具の突起片がアンカーボルトから離れた位置に立設していることから、突起片とアンカーボルトの間隙がグラウト材の流路となる。これにより、特に露出型柱脚に適用した場合には、レベルモルタルのような流通の障害となる部材が不要になるので、コンクリート構造物とプレート材の間隙にグラウト材を密実状態に充填する上で好都合である。
(3)位置調整金具の突起片先端面とプレート材の当接部分はプレート材全体の面積に比べるとごく僅かであるから、実質的にはプレート材のほぼ全面でグラウト材層と接触した状態となり、プレート材とグラウト材層の間で所要の摩擦抵抗力を確保することができる。
(4)露出型柱脚に適用し、ベースプレートの辺部長に近い長さの板状押圧具を使用してグラウト材の充填作業を行う場合には、上記位置調整金具による効果(レベルモルタルの排除)と相俟って、簡便な手段でグラウト材の充填性が向上するので、施工方法の向上につながる。
(a)~(c)は、本発明の第1実施形態で使用する位置調整金具の斜視図、平面図および正面図である。 図1の位置調整金具を露出型柱脚に適用し、基礎コンクリートに下部が埋設されたアンカーボルトに装着して位置調整を行う状態を示した正面図である。 図2の次工程として、鉄骨柱の建て方作業でのアンカーボルトの締付け状態を示した断面図である。 (a)~(d)は、本発明の第1実施形態で使用する型枠設置ガイドの平面図、底面図、右側面図および正面図である。 図4の型枠設置ガイドを使用してベースプレートの周囲に沿って型枠を設置する方法を示した平面図である。 (a)、(b)は、連結する前の板状押圧具の平面図および正面図である。 (a)、(b)は、図6の板状押圧具を長手方向に2個並べて連結するための連結部材と、その使用状態を示す説明図である。 (a)、(b)は、図5の次工程として、型枠内に注入したグラウト材に対して連結した板状押圧具で押圧する状態を示した平面図と、連結した板状押圧具の正面図である。 図8について、連結した板状押圧具で押圧されたときのアンカーボルト付近でのグラウト材の挙動を示した拡大断面図である。 本発明の第2実施形態に係るプレート材の固定方法として、ボルト挿通孔が拡大孔である露出型柱脚のベースプレートに入れ子座金を適用したときのアンカーボルトの締付け状態を示した斜視図である。 図10について、連結した板状押圧具で押圧されたときのアンカーボルト付近でのグラウト材の挙動を示した拡大断面図である。 ボルト挿通孔が拡大孔である場合にアンカーボルトの軸心が一致している場合と位置ずれしている場合の位置調整金具の突起片の当接状態を示した説明図である。 (a)~(c)は、本発明で使用する位置調整金具のそれぞれ他の形態を示した斜視図である。 本発明の第3実施形態に係るプレート材の固定方法として、橋脚等の壁面にブラケット金具を固定するためのベースプレートに適用した場合で、グラウト材充填前の状態を示した一部断面図である。 グラウト材の注入方法の従来例を示す断面図である。 グラウト材の注入方法の従来例を示す断面図である。 ベースモルタルを使用する露出型柱脚において、グラウト材の注入によって空気溜りが生じた状態を示した説明図である。
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。図1~9は本発明の第1実施形態に係り、露出型柱脚のベースプレート(プレート材)を対象とし、位置調整金具を使用してベースプレートを基礎コンクリート(コンクリート構造物)に固定する方法と、その方法で構築される固定構造を示したものである。
図1(a)~(c)は、第1実施形態で使用する位置調整金具の斜視図、平面図および正面図である。図示の位置調整金具20は、従来のレベルモルタルに代わってベースプレートの高さ調整を行うものである。その構成は、六角ナット状の台座部21と、2個の板状の突起片22,22とからなる。2個の突起片22,22は、台座部21の一方の面21aに端面22bを揃えた状態で台座部21に接合され、反対側の端面22aは台座部21の他方の面21bを越える長さになっている。台座部21は、例えば1種ナットを利用し、加工されているほうの端面側を切削して厚さを調整する。その厚さは、ねじピッチの3倍以上が望ましい。突起片22,22は矩形状の鉄板からなり、台座部21の対向する二面において、(b)に明示されるように、それぞれの側面22cが、台座部21の対角の頂部21d,21dにほぼ一致した位置で溶接され、ネジ孔21cの軸心と直交する方向にずれている。なお、台座部21の六角面のうち対向する二面のそれぞれ中央位置にピン孔21eが形成され、装着後に平行ピンを挿入して位置調整金具20の回動を防止し、変位しないようにすることができる。
次に、図2に示すように、アンカーフレームなどの公知の手段により基礎コンクリート9の所定位置に突出している複数本のアンカーボルト3に対して、上記位置調整金具20を台座部21のネジ孔21aを利用して装着する。この際、突起片22が突出している方を上にしてアンカーボルト3に螺合し、次工程でベースプレートの下面に当接することになる突起片22の上端面22aの位置が、基礎コンクリート9の上面から所定の高さH(ベースプレートの高さ位置)となるように回動して調整する。この操作は、ベースプレートの四隅のボルト挿通孔に対応する位置に設置されているアンカーボルト3に対して行う。
これに続く鉄骨建て方作業として、図3に示すように、鉄骨柱1の下端部に固着されているベースプレート2のボルト挿通孔4にアンカーボルト3を挿入しながら、4か所の位置調整金具20上にベースプレート2を載置する。ベースプレート2を載置すると、位置調整金具20の突起片22の上端面22aがベースプレート2の下面(背面)に当接し、4か所に装着された位置調整金具20で鉄骨柱1を仮支持することになる。4か所の位置調整金具20は、既にレベル調整が行われているので、ベースプレート2は載せるだけでよく、載置後のレベル調整作業が不要である。そして、ベースプレート2の上面に平座金6を重ねた後、2個のナット8,8で締め付けて仮固定する。
図4(a)~(d)は、本発明の第1実施形態で使用する型枠設置ガイドのそれぞれ平面図、底面図、右側面図および正面図である。図示の型枠設置ガイド40は、ベースプレート2の辺部側面との間隔を精度よく、かつ効率的に型枠を設置するためのものである。例えば、木製板材41の一方の面に、木製板材41と同じ幅でそれよりも長さの短い木製板材42が、片方の端面を一致させた状態でビス43や接着剤で接合したものである。木製板材42の段差面42aを境にして木製板材42が延在しない木製板材41の一端側の区域は、ベースプレート2の上面に載置される載置部40Aとなり、木製板材41の一方の面の載置部40Aとなる区域には板状磁石44が接合されている。また、木製板材41の他方の面に接合された木製板材42は、使用時にベースプレートの辺部側面に一端側の段差面42aで当接し、この段差面42aから所定の間隔だけ離れる他端側の端面42bが型枠の内面に当接する間隔規制部40Bとなっている。さらに、木製板材41の他方の面には、設置する際に型枠側と鉄骨柱側とを識別するためのラベル45が貼られている。
図5は、図3の鉄骨建て方作業の次工程として、図4に示す型枠設置ガイド40を用いてベースプレート2の周囲に型枠12を設置した状態を示す平面図である。ベースプレート2の辺部に対して、型枠設置ガイド40の載置部40Aを段差面42aが側面に当接するように載せると、下面側の板状磁石44の磁力によってその位置で固定される。型枠設置ガイド40は、ベースプレート2の各辺部に対して、適切な間隔を空けて2個を1組として設置する。次に、ベースプレート2の各辺部に2個ずつ設置されている型枠設置ガイド40の他端側の端面42bに対して、4枚の型枠12を当接した状態で矩形枠状に一体化する。この場合、間隔規制部40Bは、ベースプレート2の辺部側面に当接する段差面42aから型枠12の内面に当接する他端側の端面42bまでの距離であり、型枠12とベースプレート2の辺部側面との間隔に相当する。例えば間隔規制部40Bの長さ(注入幅)を50mmに設定したとき、ベースプレート2の辺部側面に対する型枠12の位置を50mmにすることが簡単かつ容易であり、高い精度をもって型枠12の位置決めを行うことができ、型枠設置作業の効率化に大きく寄与する。
図6(a)、(b)は、本発明において連結状態で使用する単体の板状押圧具の平面図と正面図である。図示の板状押圧具50は、例えば左官職人が使用する長方形の角鏝のような形状であって、平面視長方形状の木製板材からなる本体部51の一方の面に対して、それよりも小さい木製板材52を把手として起立状態で接合一体化したものである。この場合、本体部51の幅は、上記型枠設置ガイド40の間隔規制部40Bの長さが50mmであるので、それよりも2mm狭い48mmとなっている。板状押圧具50の本体部51の幅は、ベースプレート2の辺部側面と型枠12の内面との距離(注入幅)、すなわち間隔規制部40Bの長さに応じて適宜増減することが可能である。後述する板状押圧具50による押圧力の有効活用の点から、注入幅と板状部幅の差は好ましくは2mm以内であり、2mmを超えると隙間からのグラウト材Gの漏出が始まり、その分だけ押圧力が弱まり、グラウト材Gの充填状態に悪影響を及ぼす。なお、上記の制限を除き、これら治具の材質や細部の形状、寸法などについてはこれに限定されない。
図7(a)、(b)は、図6の単体の板状押圧具を長手方向に並べて連結するための連結部材と、その使用状態を示す説明図である。図示の連結部材60は、2個の板状押圧具50,50を本体部51の長手方向に沿って連結するものであって、幅が同じで長さが異なる2枚の木製板材61,62を互いの中心を一致させて重ね合わせた構造である。この場合、2個の板状押圧具50,50は、それぞれ木製板材51の片方の端部を連結部材60の短いほうの木製板材62に両側から突き当てた位置でビス63により接合する。
図8(a)、(b)は、図6に示す単体の板状押圧具50について、図7の連結部材60と木製板材70を用いて3個を長さ方向に並べて連結した板状押圧具80の使用状態を示す平面図と、連結した板状押圧具を示す正面図である。この実施形態は、図7の連結形態にさらに1個の板状押圧具50を追加したもので、本体部51の端面同士を突き合せた状態で1枚の木製板材70を重ね合わせ、同様にビスで固定した構造である。このように長手方向に延長された連結状態の板状押圧具80は、図7(a)、(b)に示す2個の板状押圧具50を連結した連結状態の板状押圧具も含め、ベースプレート2の寸法によっては辺部の全長に近い範囲を覆うことができるので、押込み操作による圧力をより効果的に発揮させることが期待される。これにより、現場単位で押圧部の長さに合わせて個別に板状押圧具を作成する手間が省け、長大な板状押圧具を簡単に得ることができる。
図9は、本発明の第1実施形態であるベースプレート(プレート材)の固定方法の一工程として、連結状態の板状押圧具80で上方から押圧したときのグラウト材Gの挙動を示した拡大断面図である。無収縮モルタル等のセメント系のグラウト材Gは、矩形枠状に立設した型枠12の内部にベースプレート2の上面付近まで流し入れる。なお、グラウト材Gの注入は、ベースプレート2の4側面すべての方向から行い、注入中に型枠12を木槌で叩き、グラウト材Gの流動を促すと良い。
グラウト材Gの注入後、間を置かずに連結した板状押圧具80を水平状態でグラウト材Gの表面に当てて下方に押し押し込む。これにより流動性のあるグラウト材Gは、連結した板状押圧具80の直下に向けて押され、その押圧力でベースプレート2の下面側にあるグラウト材Gが水平方向に反対側の辺部に向けて流動する。なお、連結した板状押圧具80による押込み(押圧)操作は、複数回(垂直方向に2~3回程度)繰り返すことが有効である。ベースプレート2の各辺部において一方向から押圧し、順次回転しながら4方向全てに連続した操作を行うことにより、ベースプレート2下部の残存空気をベースプレート2の外部に押し出すことができる。この場合、アンカーボルト3には位置調整金具20が装着されているが、その突起片22とアンカーボルト3の間には、グラウト材Gの流通を可能にする間隙が存在することにより、グラウト材Gの移動が阻害されることがなく、アンカーボルト3の周囲にも確実にグラウト材Gが充填される。そして、グラウト材Gの固化後において、位置調整金具20の突起片22の上端面22aが当接する部分以外ではグラウト材層とベースプレート2とは良好な密着状態となり、突起片22が当接する上端面22aの面積がベースプレート2の全体からみて僅かであることから所要の摩擦抵抗力が期待できる。
次に、本発明の第2実施形態について、図10~12を用いて説明する。第2実施形態は、第1実施形態と同じ露出型柱脚のベースプレートに適用したものであるが、ベースプレート2のボルト挿通孔4が拡大孔として形成され、これに対応するために入れ子座金を使用する点が異なる。図10は入れ子座金を使用するアンカーボルトの締付け状態を示した斜視図であり、図11は入れ子座金を使用したときのグラウト材の挙動を示した拡大断面図である。
入れ子座金は、本出願人が開発した特許第6805451号公報に記載のものであって、上座金30と下座金31からなり、上座金30の円板状座部の上面に空気流路としての1個以上(本例では3個)の溝部30aが、内周縁と外周縁に跨るようにして形成されたものである。
図11に示すように、連結した板状押圧具80を水平状態でグラウト材Gの表面に当てて下方に押し押し込む。これにより流動性のあるグラウト材Gは、板状押圧具80の直下に向けて押され、その押圧力でベースプレート2の下面側にあるグラウト材Gが、水平方向に反対側の辺部に向けて流動しながら拡大孔4の内部に入り込もうとする。この際、拡大孔4の内面とアンカーボルト3の周面との隙間(空間)S1には空気が残存しているが、当該空間S1は、ベースプレート2の上面側に設置される上座金30の空気流路30aを介して外部とつながっている。これにより、グラウト材Gの圧力によって上方へと押される残存空気は、上座金30の内周面とアンカーボルト3の外周面との隙間を上方に向けて移動し、さらに上座金30の上面に形成された3個の溝部30a(空気流路)を通過して外部に排出されるので、ベースプレート2の下面全体に加え、拡大孔4の内部でもアンカーボルト3の周囲を密実状態に充填することができる。なお、板状押圧具80による押込み(押圧)操作を繰り返すことは同様である。
図12は、上記第2実施形態のようにボルト挿通孔が拡大孔である場合、アンカーボルトの軸心が一致している場合と、位置ずれが生じている場合について、図1の位置調整金具の突起片の当接状態を示した説明図である。図から明らかように、拡大孔4Aの中心とアンカーボルト3の軸心が一致している場合では、2個の突起片22,22の上端面22aにおいて、ベースプレート下面に当接する部分の面積は同じになる。一方、拡大孔4Bに対してアンカーボルト3が偏心している場合では、図面で左側に位置する突起片22が上端面の全面で当接するのに対して、右側に位置する突起片22は、前述した軸心が一致している場合に比べて当接面積は小さいものの、その役割を果たしている。なお、突起片22は位置調整金具に少なくとも1個あればよいが、台座部に対する配置形態や横方向の長さなどによってグラウト材の流通に与える影響が異なる。アンカーボルトの外径等を考慮して最適な形態を選択すればよい。
図13(a)~(c)は、本発明で使用する位置調整金具のそれぞれ他の形態を示した斜視図である。(a)に記載の位置調整金具90Aは、角ナット状の台座部90の一方の面に一対の板状の突起片91a,91aを対角の位置にそれぞれの端面を揃えて立設したものである。(b)に記載の位置調整金具90Bは、角ナット状の台座部90の一方の面の対向辺に沿って、L字状に屈曲した一対の板状の突起片91b,91bがネジ孔を挟んで向かい合う位置に立設されたものである。(c)に記載の位置調整金具90Cは位置調整金具90Bの変形例であって、L字状に屈曲した一対の板状の突起片91c,91cの屈曲部分の内面を台座部90の側面に当接した状態で接合したものである。
図14は、本発明の第3実施形態に係るプレート材の固定方法として、橋脚等の壁面にブラケット金具を固定するためのベースプレートに適用した場合であって、グラウト材を充填する前の状態を示した一部断面図である。この場合には、コンクリート構造物である橋脚100に一端側が埋設され、他端側がその壁面から水平方向に突出する複数のアンカーボルト3に対して、図1に示す位置調整金具20を螺合し、予め設定されている橋脚100の壁面からの距離に合わせて位置調整を行った後、ベースプレート2(プレート材)のボルト挿通孔4を各アンカーボルト3に合わせて装着し、ナットで仮固定する。なお、この実施形態ではボルト挿通孔4が拡大孔に形成され、それに応じて上記第2実施形態と同様な入れ子座金が使用されている。その後、ベースプレート2に対して上面を除く三面に沿って型枠を設置し、グラウト材を上方から注入する。型枠を撤去した後、ナットを締め付けることは前記実施形態と同様である。この実施形態は、水平方向のアンカーボルトに位置調整金具を適用する点で、鉛直方向のアンカーボルトを対象とする前記実施形態と異なる。このように本発明に係る位置調整金具は、アンカーボルトの設置状態が垂直あるいは水平のいずれの場合にも対応可能であることから、前述した露出型柱脚や橋脚、橋台以外の他の分野でも使用が可能であり、汎用性が高いという利点がある。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、位置調整金具の突起片の数や配置形態の変更、グラウト材の注入・充填方法の変更、さらには他の用途のプレート材への適用など本発明の技術思想内でさまざまな変更実施が可能である。
本発明に係るプレート材の固定方法は、特に露出型柱脚のベースプレートの固定手段として適用された場合にその優位性が発揮され、接合強度、施工性、経済性を向上させる手段としてさらなる展開が期待される。
1…鉄骨柱、2…ベースプレート、2a…注入孔、3…アンカーボルト、4,4A,4B…拡大孔、6…平座金、8…ナット、9…基礎コンクリート、11…レベルモルタル、12…型枠、16…グラウト容器、17…グラウトロート、20,90A、90B,90C…位置調整金具、21,90…台座部、22,91a,91b,91c…突起片、30…上座金、30a…溝部(空気流路)31…下座金、40…型枠設置ガイド、40A…載置部、40B…間隔規制部、44…板状磁石、50…板状押圧具、60,70…連結部材、80…連結した板状押圧具、G…グラウト材

Claims (5)

  1. 複数のアンカーボルトが突出するコンクリート構造物の表面に、それらアンカーボルトが挿通する複数のボルト挿通孔を備えたプレート材を所定の離間距離で平行に配置し、それらコンクリート構造物の表面とプレート材の背面との間にグラウト材層を介在させてプレート材の表面側からナットで締め付けるプレート材の固定方法であって、前記アンカーボルトに螺合するネジ孔を備え、このネジ孔を貫通する前記アンカーボルトの外周面に対してグラウト材が流通可能な間隙を確保して突起片が立設された位置調整金具を、その突起片の先端面から前記コンクリート構造物の表面までの距離が前記離間距離と同じになるように回動して位置調整を行った後、前記プレート材の背面を位置調整金具の突起片の先端面に当接させた状態で前記プレート材の表面側から前記ナットで保持し、該プレート材の周囲に型枠を設置した後、グラウト材を注入することを特徴とするプレート材の固定方法。
  2. 前記コンクリート構造物が建物の基礎コンクリートであり、前記プレート材が鉄骨柱の下端部に固着されたベースプレートであることを特徴とする請求項1に記載のプレート材の固定方法。
  3. 前記ベースプレートのそれぞれの辺部側面に対して間隔をおいて平行状態に前記型枠を設置し、前記グラウト材を上方から前記ベースプレートの上面付近の高さまで注入した状態で、前記ベースプレートの辺部長に近い長さと、前記型枠の内面と前記ベースプレートの側面との間隔に近い幅からなる板状押圧具を前記グラウト材の表面に当てて下方に押し込むことを特徴とする請求項2に記載のプレート材の固定方法。
  4. 複数のアンカーボルトが突出するコンクリート構造物の表面に、それらアンカーボルトが挿通する複数のボルト挿通孔を備えたプレート材を所定の離間距離で平行に配置し、コンクリート構造物の表面とプレート材の背面との間にグラウト材層を介在させてプレート材の表面側からナットで締め付けたプレート材の固定構造であって、前記アンカーボルトに螺合するネジ孔を備え、このネジ孔を貫通する前記アンカーボルトの外周面に対してグラウト材が流通可能な間隙を確保して突起片を立設した位置調整金具が、前記プレート材の背面に当接するその突起片の先端面から前記コンクリート構造物の表面までの距離が前記離間距離と同じになる位置に装着されていることを特徴とするプレート材の固定構造。
  5. 請求項4に記載のプレート材の固定構造で使用する位置調整金具であって、前記アンカーボルトに螺合するネジ孔を中心位置に備えた台座部と、この台座部のネジ孔を貫通する前記アンカーボルトに対してグラウト材が流通可能な間隙を確保して対向状態で立設され、前記プレート材の背面に先端面で当接する2個の突起片からなることを特徴とする位置調整金具。
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