JP7364339B2 - 皮膚有効成分の皮膚浸透性を向上した化粧料又は皮膚外用剤 - Google Patents
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さらに、リン脂質の含有量が0.5質量%以上であり、かつ、25℃におけるpHが3~7の化粧料又は皮膚外用剤に関するものである。さらに、本発明の化粧料又は皮膚外用剤は、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れ、さらに、浸透感、肌のハリ・弾力感、べたつき感の無さに優れる。
水溶性の皮膚有効成分は水溶液のpHの影響によりイオン解離の程度が異なり、皮膚有効成分のpKaと同じpHの値にて、分子型とイオン型の存在比率が等しくなることが知られており、イオン解離していない分子ほど、皮膚浸透されやすいことが知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、親水性軟膏製剤に含有されたサリチル酸の経皮吸収性が製剤のpHにより異なることが報告されている。また、浸透促進剤としてDMSOが機能している可能性が記載されている(例えば、非特許文献1参照)。
皮膚有効成分の角層透過経路として、細胞間脂質経路、角層細胞経路、毛包経路が知られている。中でも、細胞間脂質は皮膚バリア機能において重要な役割を果たしており、皮膚有効成分の透過障壁として重要な存在である。角層細胞間脂質は、主にセラミド類、コレステロール、コレステロールエステル、脂肪酸類から構成され、ラメラ構造を形成しており、それら脂質の炭化水素鎖は側方配列として直方晶および六方晶の水和結晶構造を形成しているドメインとさらに無秩序な液晶を形成しているドメインがあることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。従来着目されてきた、細胞間脂質の特徴的な充填構造である直方晶および六方晶は、安息香酸を用いた浸透実験において、充填構造の変化が浸透性に大きな影響を及ぼさず、充填構造よりもラメラ構造がより重要であると報告されており、細胞間脂質の充填構造と皮膚有効成分の経皮吸収性の関係は未だに明らかになっていない(例えば、非特許文献3参照)。
一方、皮膚有効成分の浸透促進において、細胞間脂質が形成している液晶ドメインが重要な役割を果たすと考えられるが、これまでのところ文献ではほとんど注目されておらず、液晶ドメインの細胞間脂質の充填構造における存在率が50~80%と非常に高い可能性が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
角層細胞間脂質の充填構造と作用する薬剤のpHの関係という観点では、洗浄剤(ドデシル硫酸ナトリウム、以下SDS)により細胞間脂質の充填構造が乱れること、さらには、SDSのpHを、中性を中心にアルカリ側あるいは酸性側にすることで、ヒト角層の細胞間脂質の充填構造へ与える影響が大きくなることが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
また、浸透促進剤により皮膚有効成分の経皮吸収性を高めようとした特許文献2の技術では浸透促進剤として、グリセリンおよびエステル油を高含有するため、べたつき感に優れず、使用性が悪い場合があった。非特許文献1の技術ではpHの変化と特定の浸透促進剤の併用による浸透促進技術であり、細胞間脂質の充填構造の液晶化という点では不十分であった。
また、非特許文献2、4では細胞間脂質の液晶化を促進する薬剤が見出されているわけではなかった。
また、非特許文献5は、SDSがヒト角層の細胞間脂質の充填構造へ影響を与えることを示す一方、浸透促進に関する記載は無かった。
よって、本願における重要な課題は、皮膚有効成分の皮膚浸透性を良好とすることである。その上で、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さといった製剤設計上の課題も存在した。
そこで、本発明者は、かかる実情を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、成分(A)25℃におけるpKaが3~4.5、かつ、25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下の皮膚有効成分、成分(B)水、成分(C)リン脂質を含有し、前記成分(C)の含有量が0.5質量%以上であり、かつ、25℃におけるpHを3~7である組成物が、成分(A)のイオン解離状態をコントロールしつつ、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れることを見出し、さらに、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さに優れることを見出した。
本発明で使用される成分(A)は、25℃におけるpKaが3~4.5かつ25℃における分配係数logP値が2以下かつ分子量が1000以下の皮膚有効成分である。本発明における成分(A)の25℃におけるpKaは3~4.5である。25℃における分配係数logP値が2以下、かつ、分子量が1000以下であったとしても、25℃におけるpKaが3未満、もしくは、4.5を超える皮膚有効成分は、成分(C)のもたらす浸透促進効果が十分に発揮されず、浸透感に優れない場合がある。本成分(A)の25℃におけるpKaは、3~4.5であれば特に限定されないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果を向上する点から、3~4が好ましい。
本発明における25℃における分配係数logP値は、オクタノール相と水相の間での物質の分配を表す尺度であって下記(式1)で定義されるものをいい、ケミカルレビューズ,71巻,6号(1971)にその計算値の例が記載されている。なお、本発明では、25℃において、化審法化学物質改訂第4版 「化学物質の分配係数(1-オクタノール/水)測定法について<その1>」(化学工業日報社刊)記載の方法で測定した値をいう。
〔(式1)中、[物質]Octanolは1-オクタノール相中の物質のモル濃度を、[物質]Waterは水相中の物質のモル濃度を示す。〕
本発明に用いる成分(B)水は、特に限定されず、精製水、脱イオン水、蒸留水、温泉水や、ローズ水、ラベンダー水等の植物由来の水蒸気蒸留水等のいわゆる水を用いることができる。本発明において、成分(B)の含有量は、特に限定されないが、ハリ・弾力感、べたつき感の無さに優れる点で、60~95%が好ましい。
本発明に用いる成分(C)リン脂質は、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質を指す。リン脂質は、大きく分けてグリセリンを骨格とするグリセロリン脂質と、スフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質の2つが存在するがいずれのものも好適に使用できる。
本発明に用いる成分(C)のリン脂質は、具体的には大豆や卵黄から抽出した大豆レシチン、卵黄レシチン及び/又はこれらを水素添加した水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチンや合成リン脂質など、一般にリン脂質として知られるものや、アシル化リン脂質、糖やポリエチレングリコールなどで修飾したリン脂質誘導体などが使用できる。グリセリンと結合する脂肪酸が1本であるリゾリン脂質も使用可能である。
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、およびホスファチジルイノシトールなどが好ましく、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。リン脂質を構成する脂肪酸としては、炭素数7~22の飽和あるいは不飽和カルボン酸が挙げられる。
成分(D)は、コレステロールであり、本発明においては必須成分ではない25℃における固形油である。成分(D)は、べたつきの無さに優れる点では、含有されることが好ましい。成分(C)のもたらす浸透促進効果を大きくし、ハリ・弾力感に優れる点で、成分(D)と成分(C)の含有質量割合:(D)/(C)は、0.01~0.15が好ましく、0.01~0.12がより好ましく、0.03~0.1がさらにより好ましい。
一方、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる点においては、成分(D)が実質的に含まれないことが好ましく、成分(D)の含有量は0.3%以下であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらにより好ましい。また、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れる点において、成分(D)と成分(C)の含有質量割合:(D)/(C)は、0.15以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.05未満であることがさらにより好ましく、0.025以下であることがさらに特に好ましい。
成分(E)は、分子量が500以下の25℃における液体油であり、本発明においては必須成分ではないが、成分(C)のもたらす浸透促進効果をさらに良好とし、浸透感に優れる点で、含有させることが好ましい。
成分(E)は、特に限定されないが、具体的には、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソトリデシル、ネオペンタン酸オクチルドデシル、ネオペンタン酸イソステアリル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、エチルヘキサン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオデカン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソセチル、オクチルドデカノール、デシルテトラデカノール、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、アジピン酸ジイソプロピル、ジネオペンタン酸トリプロピレングリコール、イソデシルベンゾエート、ジカプリン酸プロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸エチルヘキシル、セバシン酸ジエチルヘキシル、ネオペンタン酸イソデシル、エチルヘキサン酸エチルヘキシル、エチルヘキサン酸セチル、コハク酸ジエチルヘキシル等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
下記表1、2に示す処方の美容組成物を調製し、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつき感の無さ、について下記の方法により評価した。その結果も併せて表1に示す。
なお、表1、2の成分である、ニコチン酸アミドは、25℃におけるpKaが3.47 、25℃における分配係数logP値が0.45、分子量が122.12であり、ニコチン酸は、25℃におけるpKaが4.85、25℃における分配係数logP値が0.4、分子量が123.11である。
A:成分1~5を70℃で均一に溶解混合する。
B:成分8~11を70℃で均一に溶解混合する。
C:Bに成分7を添加し70℃でゲル乳化する。
D:CにAを添加混合した後、40℃まで冷却して成分6を添加し、美容液を得た。
イ.浸透感
ロ.肌のハリ・弾力
ハ.べたつき感の無さ
ニ.細胞間脂質充填構造の液晶化
[イ、ロ、ハについて(官能評価)]
20代~40代の女性で官能評価の訓練を受け、一定の基準で評価が可能な専門パネルを10名選定した。各試料について専門パネルが皮膚に塗布した時に感じる、浸透感、7週間の連用使用による肌のハリ・弾力、皮膚に塗布した時に感じるべたつき感の無さを下記絶対評価にて5段階に評価し評点を付け、各試料ごとにパネル全員の評点合計から、その平均値を算出し、下記4段階判定基準により判定した。
絶対評価基準
(評点):(評価)
5点:非常に浸透感があると感じる
4点:浸透感があると感じる
3点:やや浸透感があると感じる
2点:あまり浸透感があると感じない
1点:浸透感を感じない
4段階判定基準
(判定):(評点の平均点)
◎ :4点を超える :非常に良好
○ :3点を超える4点以下 :良好
△ :2点を超える3点以下 :やや不良
× :2点以下 :不良
絶対評価基準
(評点):(評価)
5点:非常に肌のハリ・弾力があると感じる
4点:肌のハリ・弾力があると感じる
3点:やや肌のハリ・弾力があると感じる
2点:あまり肌のハリ・弾力があると感じない
1点:肌のハリ・弾力があると感じない
4段階判定基準
(判定):(評点の平均点)
◎ :4点を超える :非常に良好
○ :3点を超える4点以下 :良好
△ :2点を超える3点以下 :やや不良
× :2点以下 :不良
絶対評価基準
(評点):(評価)
5点:べたつきを感じない
4点:ほとんどべたつきを感じない
3点:ややべたつきを感じる
2点:べたつきを感じる
1点:非常にべたつきを感じる
4段階判定基準
◎ :4点を超える :非常に良好
○ :3点を超える4点以下 :良好
△ :2点を超える3点以下 :やや不良
× :2点以下 :不良
角層細胞間脂質の充填構造はフーリエ変換赤外分光法(以下、FT-IR)測定により評価することが可能であり、CH2対称伸縮振動の波数が充填構造を反映するが報告されている。充填構造の液晶比率が高い程、CH2対称伸縮振動由来のピークは2852cm-1付近に観察され、液晶比率が低い程CH2対称伸縮振動由来のピークは2850cm-1付近に観察される。非特許文献6を参考とし、下記測定方法に従い、測定を実施した。
(測定方法)
測定機器:FTIR-6200(日本分光株式会社製)
測定法:全反射測定法
パネルの上腕内側部位に各試料を塗布し、1時間経過後、製剤と皮脂の影響を避けるため、洗顔料にて洗浄後、最上層の角層をテープストリッピングにより1回剥離後、2回目のストリッピングしたテープに付着した角層細胞間脂質をサンプル試料として充填構造をFT-IR測定により評価した。
その実測値に対し、下記6段階判定基準にて6段階に評価し評点を付け、各試料の細胞間脂質充填構造の液晶化の程度を評価した。さらに、FT-IR測定による実測値を表1、2中に、細胞間脂質充填構造の液晶化(実測値)として示した。
(評点):(評価)
A:充填構造の液晶比率が非常に高い(CH2対称伸縮振動の波数が2852.5cm-1以上)
B:充填構造の液晶比率がやや高い(CH2対称伸縮振動の波数が2852cm-1以上2852.5cm-1未満)
C:充填構造の液晶比率が高い(CH2対称伸縮振動の波数が2851.5cm-1以上2852cm-1未満)
D:充填構造の液晶比率が低い(CH2対称伸縮振動の波数が2851cm-1以上2851.5cm-1未満)
E:充填構造の液晶比率がやや低い(CH2対称伸縮振動の波数が2850.5cm-1以上2851cm-1未満)
F:充填構造の液晶比率が非常に低い(CH2対称伸縮振動の波数が2850.5cm-1未満)
これに対して、25℃におけるpHが7を超える比較例1では浸透感、肌のハリ・弾力、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れなかった。
成分(C)の含有量が0.5%未満である比較例2~5は、浸透感、肌のハリ・弾力、細胞間脂質充填構造の液晶化に優れなかった。
成分(A)を含有せず、pKaが4.5を超えるニコチン酸を含有した比較例6は、浸透感、肌のハリ・弾力、べたつきの無さに優れなかった。
成分(A)を含有しない比較例6は、肌のハリ・弾力、べたつきの無さに優れなかった。
(成分) (%)
1.1,3-ブチレングリコール 5.0
2.プロピレングリコール 5.0
3.精製水 残量
4.ニコチン酸アミド 8.0
5.グリセリンモノカプリン酸エステル 0.1
6.リン脂質 2.0
7.カルボマー (注1) 0.15
8.(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
(注2) 0.1
9.水酸化ナトリウム2%溶液 0.2
10.ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
11.加水分解ヒアルロン酸 0.01
12.加水分解コラーゲン 0.01
13.香料 適量
14.コハク酸 適量
15.コハク酸ソーダ 適量
16.クエン酸 適量
注1:CARBOPOL 980(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS 社製)
注2:SIMULGEL EG(SEPIC社製)
A:成分1、2、5、6を70℃で均一に溶解混合する。
B:成分3、4、7~12を80℃で均一に溶解混合する。
C:AにBを添加し70℃で乳化する。
D:Cを40℃まで冷却して、成分13を添加混合し、成分14~16を適量添加混合することで、25℃におけるpHを5.0とし、乳液を得た。
Claims (3)
- 次の成分(A)~(C)、(E):
成分(A)ニコチン酸アミド 2~6質量%
成分(B)水 60~95質量%
成分(C)リン脂質 0.5~6質量%
成分(E)オクチルドデカノール 0.2~1質量%を含有し、
前記成分(E)と前記成分(C)の含有質量割合:(E)/(C)が0.01~0.5であり、かつ、
25℃におけるpHが3~7の化粧料又は皮膚外用剤。 - さらに、成分(D)コレステロールを含有する、請求項1に記載の化粧料又は皮膚外用剤。
- 前記成分(D)と前記成分(C)の含有質量割合:(D)/(C)が0.15以下である、請求項1または2に記載の化粧料又は皮膚外用剤。
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