以下に、本開示の実施の形態に係る電動機駆動装置および冷凍サイクル適用機器を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態.
図1は、本実施の形態に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。冷凍サイクル適用機器900は、電動機駆動装置200を備える。冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。電動機駆動装置200は、圧縮機904に内蔵される電動機7を駆動することによって、冷凍サイクル適用機器900を動作させる。
冷凍サイクル適用機器900は、電動機7を内蔵した圧縮機904と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。圧縮機904の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構924と、圧縮機構924を動作させる電動機7とが設けられている。冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。圧縮機構924は、可変速制御される電動機7によって駆動される。
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構924で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構924に戻る。冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構924で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構924に戻る。
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。圧縮機904は、可変速制御される電動機7によって駆動される。
電動機駆動装置200が駆動する対象の電動機7を内蔵する圧縮機904の構成について説明する。図2は、本実施の形態に係る冷凍サイクル適用機器900が備える圧縮機904の構成の概略を示す断面図である。図3は、本実施の形態に係る冷凍サイクル適用機器900が備える圧縮機904の図2に示す2B-2B線による断面図において圧縮機904で発生する損失を模式的に示す図である。圧縮機904は、密閉式のロータリ圧縮機であり、密閉容器を構成する圧縮機シェル922と、圧縮機シェル922内に配置された圧縮機構924と、を備える。圧縮機904において、冷媒は、吸入配管926から圧縮機構924内に導かれ、吐出配管928から吐出される。圧縮機シェル922は、支持部材930に支持されている。圧縮機構924は、シリンダ932と、シリンダ932内に配置されたロータリピストン934と、を備える。
電動機7は、圧縮機シェル922内に配置されており、回転子7aと、回転子7aを回転可能に保持する固定子7bと、を備える。回転子7aは、シャフト936に結合されている。シャフト936は、図示しない軸受けにより、図示しないフレームに対して回転可能に保持されている。該フレームは、圧縮機シェル922に固定されている。シャフト936は、ロータリピストン934に結合されている。電動機7の回転子7aの回転は、シャフト936を介して、ロータリピストン934に伝達される。本実施の形態において、電動機7は、圧縮機904の負荷による周期的な負荷変動によって速度変化が生じることになる。
シリンダ932には、吸込み口942と、吐出口944と、が形成されている。シリンダ932内には、ベーン946が設けられている。吸込み口942は、吸入配管926に接続されている。吐出口944は、吐出配管928に接続されている。なお、図3において、吸込み口942および吐出口944は概念的に図示されており、各々の位置は必ずしも実際の位置を正確に表すものではない。ベーン946は、シリンダ932の中心に向かって付勢されており、ロータリピストン934の周面上を摺動しつつ、シリンダ932の径方向に移動することができるようになっている。
シャフト936が回転すると、ロータリピストン934が矢印RPで示す方向に回転する。その結果、シリンダ932では、吸込み口942から気化した冷媒が吸い込まれ、冷媒が圧縮され、圧縮により液化された冷媒が吐出口944から吐出される。図3は、冷媒に対する、吸込み、圧縮、および吐出の工程において、メカロスが発生する箇所、およびタイミングを示している。図3に示すように、シリンダ932では、図3に示すδrの隙間部分において、冷媒を圧縮することによって圧縮ガスの漏れによる漏れ損失が発生し、また、シリンダ932では、吐出弁947が開くタイミングでオーバーシュート損失が発生する。シリンダ932では、吸込み、圧縮、および吐出の一連の工程においてロータリピストン934に掛かる圧力が変化する。この圧力の変化が、圧縮機904の電動機7にかかる負荷トルクTloadの変化となる。
図4は、本実施の形態に係る圧縮機904のシリンダ932における冷媒の吸込み、圧縮、および吐出の工程を模式的に示す図である。図5は、本実施の形態に係る圧縮機904の電動機7における負荷トルクTloadおよび圧縮機904で発生する損失のタイミングを示す図である。図4に示す機械角は、図5に示す横軸の機械角に対応している。図5において、横軸は電動機7の1周期の機械角を示し、縦軸は負荷トルク標準波形、すなわち電動機7における負荷トルクTloadを示している。図4(a)において、シリンダ932の吸入室935に冷媒が吸入される。シリンダ932では、図4(a)から、図4(b)、図4(c)、図4(d)の順にロータリピストン934が回転することによって、排除容積で示される部分に冷媒が充填される。次の図4(a)のタイミングにおいて、新たに吸入室935に冷媒が吸入されるとともに、排除容積で示される部分に充填された冷媒が圧縮室945において圧縮される。シリンダ932では、図4(b)、図4(c)の順にロータリピストン934が回転し、吐出弁947が開くことによって、圧縮された冷媒が吐出される。図4(b)の付近の期間が図5に示すAの期間であり、圧縮ガスの漏れによる漏れ損失が発生するタイミングである。また、図4(c)の期間が図5に示すBの期間であり、吐出オーバーシュートが発生するタイミングである。
上記のように、電動機7が圧縮機シェル922内に配置されているので、電動機7は圧縮機904の一部であり、電動機7は、圧縮機904の圧縮機構924を駆動するものであると見ることもできる。以下に詳しく述べるように、本実施の形態において、電動機駆動装置200は、電動機7を駆動するものであり、電動機7を制御することによって、圧縮機904で発生する冷媒漏れ損失、および吐出オーバーシュート損失を低減する。
電動機駆動装置200の構成について説明する。図6は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200の構成例を示す図である。図7は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200が備えるインバータ30の構成例を示す図である。電動機駆動装置200は、交流電源1および電動機7に接続される。電動機駆動装置200は、交流電源1から供給される交流電圧を整流し、再度交流電圧に変換して電動機7に供給して、電動機7を駆動する。電動機駆動装置200は、リアクタ2と、整流回路3と、平滑コンデンサ5と、インバータ30と、母線電圧検出部10と、母線電流検出部40と、制御装置100と、を備える。
整流回路3は、4つのダイオードD1,D2,D3,D4を備える。4つのダイオードD1~D4は、ブリッジ接続され、ダイオードブリッジ回路を構成する。整流回路3は、4つのダイオードD1~D4から構成されるダイオードブリッジ回路によって、交流電源1から供給される交流電圧を整流する。整流回路3において、入力端子の一端はリアクタ2を介して交流電源1に接続され、入力端子の他端は交流電源1に接続されている。また、整流回路3において、出力端子は平滑コンデンサ5に接続されている。
平滑コンデンサ5は、整流回路3の出力電圧を平滑する。平滑コンデンサ5の一方の電極は、整流回路3の第1の出力端子、および高電位側、すなわち正側の直流母線12aに接続されている。平滑コンデンサ5の他方の電極は、整流回路3の第2の出力端子、および低電位側、すなわち負側の直流母線12bに接続されている。平滑コンデンサ5で平滑された電圧を母線電圧Vdcと称する。直流母線12a,12bは、整流回路3の出力端子、平滑コンデンサ5の電極、およびインバータ主回路310の入力端子を結ぶ線である。
インバータ30は、平滑コンデンサ5の両端電圧、すなわち母線電圧Vdcを受けて、周波数および電圧値が可変の3相交流電圧を発生して、出力線331~333を介して電動機7に供給する。インバータ30は、図7に示すように、インバータ主回路310と、駆動回路350と、を備える。インバータ主回路310の入力端子は、直流母線12a,12bに接続されている。インバータ主回路310は、スイッチング素子311~316を備える。スイッチング素子311~316の各々には、還流用の整流素子321~326が逆並列接続されている。
駆動回路350は、制御装置100から出力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号Sm1~Sm6に基づいて、駆動信号Sr1~Sr6を生成する。駆動回路350は、駆動信号Sr1~Sr6によってスイッチング素子311~316のオンオフを制御する。これにより、インバータ30は、周波数可変かつ電圧可変の3相交流電圧を、出力線331~333を介して電動機7に供給することができる。
PWM信号Sm1~Sm6は、論理回路の信号レベル、すなわち0V~5Vの大きさを持つ信号である。PWM信号Sm1~Sm6は、制御装置100の接地電位を基準電位とする信号である。一方、駆動信号Sr1~Sr6は、スイッチング素子311~316を制御するのに必要な電圧レベル、例えば、-15V~+15Vの大きさを持つ信号である。駆動信号Sr1~Sr6は、それぞれ対応するスイッチング素子の負側の端子、すなわちエミッタ端子の電位を基準電位とする信号である。
電動機7は、例えば、3相永久磁石同期電動機である。本実施の形態では、電動機7は、負荷トルクTloadが周期的に変動する負荷要素、具体的には圧縮機904を駆動することを想定している。以降の説明において、電動機7のことをモータと称することがある。
母線電圧検出部10は、直流母線12a,12b間の電圧を母線電圧Vdcとして検出する。母線電圧検出部10は、例えば、直列接続された抵抗で分圧する分圧回路を備える。母線電圧検出部10は、検出した母線電圧Vdcを、分圧回路を用いて制御装置100での処理に適した電圧、例えば、5V以下の電圧に変換し、アナログ信号である電圧検出信号として制御装置100に出力する。母線電圧検出部10から制御装置100に出力される電圧検出信号は、制御装置100内の図示しないAD(Analog to Digital)変換部によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御装置100での内部処理に用いられる。
母線電流検出部40は、直流母線12bに挿入されたシャント抵抗を備える。母線電流検出部40は、シャント抵抗を用いて、インバータ30に入力される電流を直流電流Idcとして検出する。母線電流検出部40は、検出した直流電流Idcを、アナログ信号である電流検出信号として制御装置100に出力する。母線電流検出部40から制御装置100に出力される電流検出信号は、制御装置100内の図示しないAD変換部によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、制御装置100での内部処理に用いられる。
制御装置100は、インバータ30を制御するため、PWM信号Sm1~Sm6を生成する。制御装置100は、PWM信号Sm1~Sm6をインバータ30に出力して、インバータ30を制御する。具体的には、制御装置100は、インバータ30を制御して、インバータ30の出力電圧の角周波数ωおよび電圧値を変化させる。
インバータ30の出力電圧の角周波数ωは、出力電圧の角周波数と同じ符号ωで表されるものであって、電動機7の電気角での回転角速度を定めるものである。電動機7の機械角での回転角速度ωmは、電動機7の電気角での回転角速度ωを極対数Pmで割ったものに等しい。従って、電動機7の機械角での回転角速度ωmと、インバータ30の出力電圧の角周波数ωとの間には、ωm=ω/Pmの関係がある。以降の説明において、回転角速度を単に回転速度と称し、角周波数を単に周波数と称することがある。
制御装置100は、電動機7に流れる相電流iu,iv,iwに基づいて励磁電流指令値iγ
*を生成し、励磁電流指令値iγ
*に基づいてγ軸電圧指令値Vγ
*を生成する。また、制御装置100は、電動機7の周波数推定値ωestを周波数指令値ωe
*に一致させるように第1のトルク電流指令値iδ
*を算出し、第1のトルク電流指令値iδ
*を補正した第2のトルク電流指令値iδ
**を算出し、第2のトルク電流指令値iδ
**に基づいてδ軸電圧指令値Vδ
*を生成する。制御装置100は、γ軸電圧指令値Vγ
*およびδ軸電圧指令値Vδ
*に基づいてインバータ30を制御する。このように、本実施の形態において、制御装置100は、γ軸およびδ軸を有する回転座標系において制御を行う。
制御装置100の構成について説明する。図8は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200が備える制御装置100の構成例を示す図である。制御装置100は、運転制御部102と、インバータ制御部110と、を備える。
運転制御部102は、外部から指令情報Qeを受け、指令情報Qeに基づいて、周波数指令値ωe
*を生成する。周波数指令値ωe
*は、電動機7の回転速度の指令値である回転角速度指令値ωm
*に極対数Pmを乗算する、すなわちωe
*=ωm
*×Pmによって求めることができる。
制御装置100は、冷凍サイクル適用機器900として空気調和機を制御する場合、指令情報Qeに基づいて空気調和機の各部の動作を制御する。指令情報Qeは、例えば、図示しない温度センサで検出された温度、図示しない操作部であるリモコンから指示される設定温度を示す情報、運転モードの選択情報、運転開始及び運転終了の指示情報などである。運転モードとは、例えば、暖房、冷房、除湿などである。なお、運転制御部102については、制御装置100の外部にあってもよい。すなわち、制御装置100は、外部から周波数指令値ωe
*を取得する構成であってもよい。
インバータ制御部110は、電流復元部111と、3相2相変換部112と、電圧指令値演算部115と、2相3相変換部116と、PWM信号生成部117と、電気位相演算部118と、励磁電流指令値生成部119と、を備える。
電流復元部111は、母線電流検出部40で検出された直流電流Idcに基づいて電動機7に流れる相電流iu,iv,iwを復元する。電流復元部111は、母線電流検出部40で検出された直流電流Idcを、PWM信号生成部117で生成されたPWM信号Sm1~Sm6に基づいて定められるタイミングでサンプリングすることによって、相電流iu,iv,iwを復元することができる。
3相2相変換部112は、電流復元部111で復元された相電流iu,iv,iwを、後述する電気位相演算部118で生成された電気位相θeを用いて、γ軸電流である励磁電流iγ、およびδ軸電流であるトルク電流iδ、すなわちγ-δ軸の電流値に変換する。
励磁電流指令値生成部119は、前述の回転座標系における励磁電流指令値iγ
*を生成する。具体的には、励磁電流指令値生成部119は、トルク電流iδに基づいて、電動機7を駆動するために最も効率が良くなる最適な励磁電流指令値iγ
*を求める。励磁電流指令値生成部119は、トルク電流iδに基づいて、出力トルクTmが規定された値以上または最大になる、すなわち電流値が規定された値以下または最小になる電流位相βmとなる励磁電流指令値iγ
*を出力する。なお、ここでは、励磁電流指令値生成部119が、トルク電流iδに基づいて励磁電流指令値iγ
*を求めているが、一例であり、これに限定されない。励磁電流指令値生成部119は、励磁電流iγ、周波数指令値ωe
*などに基づいて励磁電流指令値iγ
*を求めても、同様の効果を得ることができる。
電圧指令値演算部115は、運転制御部102から取得した周波数指令値ωe
*と、3相2相変換部112から取得した励磁電流iγおよびトルク電流iδと、励磁電流指令値生成部119から取得した励磁電流指令値iγ
*とに基づいて、γ軸電圧指令値Vγ
*およびδ軸電圧指令値Vδ
*を生成する。さらに、電圧指令値演算部115は、γ軸電圧指令値Vγ
*と、δ軸電圧指令値Vδ
*と、励磁電流iγと、トルク電流iδとに基づいて、周波数推定値ωestを推定する。電圧指令値演算部115の詳細な動作については後述する。
電気位相演算部118は、電圧指令値演算部115から取得した周波数推定値ωestを積分することで、電気位相θeを演算する。
2相3相変換部116は、電圧指令値演算部115から取得したγ軸電圧指令値Vγ
*およびδ軸電圧指令値Vδ
*、すなわち2相座標系の電圧指令値を、電気位相演算部118から取得した電気位相θeを用いて、3相座標系の出力電圧指令値である3相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*に変換する。
PWM信号生成部117は、2相3相変換部116から取得した3相電圧指令値Vu
*,Vv
*,Vw
*と、母線電圧検出部10で検出された母線電圧Vdcとを比較することによって、PWM信号Sm1~Sm6を生成する。なお、PWM信号生成部117は、PWM信号Sm1~Sm6を出力しないようにすることによって、電動機7を停止することも可能である。
電圧指令値演算部115の構成および動作について詳細に説明する。図9は、本実施の形態に係る制御装置100が備える電圧指令値演算部115の構成例を示す図である。電圧指令値演算部115は、周波数推定部501と、速度制御部502と、負荷トルク推定部503と、補償値演算部504と、加算部505と、減算部506,507と、励磁電流制御部508と、トルク電流制御部509と、を備える。
周波数推定部501は、電動機7の回転状態を示す周波数推定値ωestを推定する。具体的には、周波数推定部501は、励磁電流iγと、トルク電流iδと、γ軸電圧指令値Vγ
*と、δ軸電圧指令値Vδ
*とに基づいて、電動機7に供給される電圧の周波数を推定し、周波数推定値ωestとして出力する。
速度制御部502は、運転制御部102から取得した周波数指令値ωe
*と、周波数推定部501から取得した周波数推定値ωestとに基づいて、第1のトルク電流指令値iδ
*を生成する。速度制御部502は、例えば、周波数指令値ωe
*と周波数推定値ωestとの差分に基づいて、比例積分(PI:Proportional Integral)制御器などの制御器を用いて、周波数推定値ωestが周波数指令値ωe
*に一致するような第1のトルク電流指令値iδ
*を生成する。
負荷トルク推定部503は、励磁電流iγと、トルク電流iδと、周波数推定部501から取得した周波数推定値ωestとに基づいて、電動機7にかかる負荷トルクTloadを推定する。
補償値演算部504は、負荷トルク推定部503で推定された負荷トルクTloadに対して電動機7で発生する損失を低減するようなトルク電流補償値iδ_trq
*を演算する。補償値演算部504における詳細なトルク電流補償値iδ_trq
*の生成方法については後述する。
加算部505は、第1のトルク電流指令値iδ
*にトルク電流補償値iδ_trq
*を加算する。加算部505は、第1のトルク電流指令値iδ
*にトルク電流補償値iδ_trq
*を加算した(iδ
*+iδ_trq
*)を第2のトルク電流指令値iδ
**として出力する。
減算部506は、励磁電流指令値iγ
*に対する励磁電流iγの差分(iγ
*-iγ)を算出する。減算部507は、第2のトルク電流指令値iδ
**に対するトルク電流iδの差分(iδ
**-iδ)を算出する。
励磁電流制御部508は、減算部506で算出された差分(iγ
*-iγ)に対して比例積分演算を行って、差分(iγ
*-iγ)をゼロに近付けるγ軸電圧指令値Vγ
*を生成する。励磁電流制御部508は、このようにしてγ軸電圧指令値Vγ
*を生成することで、励磁電流iγを励磁電流指令値iγ
*に一致させるための制御を行う。
トルク電流制御部509は、減算部507で算出された差分(iδ
**-iδ)に対して比例積分演算を行って、差分(iδ
**-iδ)をゼロに近付けるδ軸電圧指令値Vδ
*を生成する。トルク電流制御部509は、このようにしてδ軸電圧指令値Vδ
*を生成することで、トルク電流iδを第2のトルク電流指令値iδ
**に一致させるための制御を行う。
電圧指令値演算部115において電流制御応答をωccとすると、励磁電流制御部508の比例ゲインKp_γは、ωcc・Lγで表され、積分ゲインKi_γは電動機7の相抵抗Rを用いて(R/Lγ)・Kp_γで表される。また、トルク電流制御部509の比例ゲインKp_δは、ωcc・Lδで表され、積分ゲインKi_δは電動機7の相抵抗Rを用いて(R/Lδ)・Kp_δで表される。電圧指令値演算部115は、電流制御応答ωccの値を大きくすることによって、励磁電流指令値iγ
*に励磁電流iγが追従する時間を短くすることができ、第1のトルク電流指令値iδ
*にトルク電流iδが追従する時間を短くすることができる。ただし、電流制御応答ωccは無限大に大きくすることができるわけではなく、制御周期に対してある程度小さい値を設定する必要がある。
なお、本実施の形態では、電動機駆動装置200は、インバータ30の入力側の直流電流Idcから相電流iu,iv,iwを復元する構成としているが、これに限定されない。電動機駆動装置200は、インバータ30の出力線331,332,333に電流検知器を設けて相電流iu,iv,iwを検出してもよい。この場合、電動機駆動装置200は、電流検知器で検出された電流値を、電流復元部111で復元された電流の代わりに用いればよい。
電動機駆動装置200において、インバータ主回路310のスイッチング素子311~316としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などを想定しているが、スイッチングを行うことが可能な素子であれば、どのようなものを用いてもよい。なお、電動機駆動装置200では、スイッチング素子311~316がMOSFETの場合、MOSFETは構造上寄生ダイオードを有するため、環流用の整流素子321~326を逆並列接続しなくても同様の効果を得ることができる。
スイッチング素子311~316を構成する材料については、ケイ素(Si)だけでなく、ワイドバンドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド等を用いたもので構成することにより、損失をより少なくすることが可能となる。
つづいて、電動機駆動装置200が、圧縮機904で発生する損失を低減させる冷凍サイクル適用機器900の高効率な運転方法について説明する。図4および図5に示すように、圧縮機904の電動機7では、機械角位相190度付近で最も負荷トルクTloadが大きくなっており、このタイミングで圧縮機904の吐出弁947が開くことが分かる。電動機7の機械角位相が約90度から190度付近までの圧縮機904の圧縮室945の圧力が大きくなるときに、圧縮機904において、圧縮ガスの漏れ損失が大きく発生してしまう。また、吐出弁947が開くタイミングで電動機7を加速させようと制御、すなわち、負荷トルクTloadに対して出力トルクTmが大きい状態にしてしまうと、圧縮機904において、吐出オーバーシュート損失が大きく発生してしまう。
上記の内容から、電動機駆動装置200は、圧縮ガスの漏れ損失を低減するためには負荷トルクTloadが正に大きくなる機械角位相では電動機7を加速させるように制御し、吐出オーバーシュート損失が発生するタイミングでは電動機7を減速させるように制御する。これにより、電動機駆動装置200は、圧縮機904の損失を低減しつつ、圧縮機904を高効率に運転することが可能であると考えられる。以降では、電動機駆動装置200における具体的な制御方法について説明するが、電動機駆動装置200が圧縮機904の損失を低減しつつ、圧縮機904を高効率に運転する制御方法は、これに限定されるものではない。
まず、電動機駆動装置200の制御装置100において、負荷トルク推定部503が負荷トルクTloadを推定する方法について説明する。負荷トルク推定部503は、負荷トルクTloadの推定のため、外乱オブザーバを利用する。負荷トルクTloadは、出力トルクTm、回転角速度ωm、負荷のイナーシャJmを用いると、運動方程式により以下の式(1)として導出できる。
よって、外乱オブザーバの極をk[rad/s]とおくと、式(1)は式(2)のような外乱オブザーバの演算式として表現できる。なお、負荷トルクTloadの推定値をTload^とし、ラプラス演算子をsとする。
したがって、式(2)の微分項sを消去するため、式(3)のように展開することによって、図10に示す負荷トルクTload推定のための外乱オブザーバを構成できる。図10は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200の負荷トルク推定部503で構成される外乱オブザーバの例を示す図である。負荷トルク推定部503は、図10に示す外乱オブザーバを用いることで、負荷トルクTloadの推定値である負荷トルク推定値Tload^を求めることができる。
なお、出力トルクTmは、式(4)で表される。式(4)において、Pmは電動機7の極対数であり、φfは電動機7の磁束であり、Ldはd軸インダクタンスであり、Lqはq軸インダクタンスである。負荷トルク推定部503は、例えば、これらのパラメータを予め保持しておくことで、出力トルクTmを算出することができる。負荷トルク推定部503は、負荷トルク推定値Tload^を、推定した負荷トルクTloadとして補償値演算部504に出力する。
図11は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200の負荷トルク推定部503で推定された負荷トルクTloadおよび補償値演算部504が生成するトルク電流補償値iδ_trq
*の例を示す図である。負荷トルク推定部503が図11に記載のような負荷トルクTloadの波形を推定した場合、補償値演算部504は、下段の(a)または(b)に示すトルク電流補償値iδ_trq
*を生成して出力する。制御装置100において、加算部505は、第1のトルク電流指令値iδ
*にトルク電流補償値iδ_trq
*を加算し、第2のトルク電流指令値iδ
**を生成する。
制御装置100は、図11に示すように、負荷トルクTloadが正に大きくなるタイミング、すなわちAの期間において、第1のトルク電流指令値iδ
*にトルク電流補償値iδ_trq
*を足し合わせて加速させるように電動機7を動かす。制御装置100は、負荷トルクTloadが正に大きくなるタイミング、すなわちAの期間で第1のトルク電流指令値iδ
*にトルク電流補償値iδ_trq
*を足し合わせることで、負荷トルクTloadがピークに達するまでの時間を短くすることができる。制御装置100は、負荷トルクTloadがピークに達するまでの時間を短くし、圧縮ガスの漏れによる漏れ損失が発生する期間を短くすることで、圧縮機904での損失を低減することができる。
なお、補償値演算部504が生成するトルク電流補償値iδ_trq
*のリミット値は、式(5)で表される。すなわち、トルク電流補償値iδ_trq
*のリミット値iδ_trq
*_limは、トルク電流の全体のリミット値iδ_lim*から第1のトルク電流指令値iδ
*を減算した値である。
iδ_trq
*_lim=iδ_lim*-iδ
* …(5)
トルク電流補償値iδ_trq
*は、図11に示す(a)のようにリミットぎりぎりであってもよいし、(b)のようにある程度余裕を持たせてもよい。また、トルク電流補償値iδ_trq
*を増加させる傾きについても特に制限はない。これにより、制御装置100は、圧縮ガスの漏れによる漏れ損失が発生する時間を短くすることが可能となり、漏れ損失を低減することが可能となる。
また、制御装置100は、負荷トルクTloadがピークとなり、吐出弁947が開くタイミングを含むBの期間ではトルク電流補償値iδ_trq
*を足し合わせることで、急減速させるように電動機7、すなわち圧縮機904を駆動する。図11に示すように、トルク電流補償値iδ_trq
*は、Bの期間では減少している。トルク電流補償値iδ_trq
*を減少させる傾きについても特に制限はない。制御装置100は、電動機7が停止してしまうようなトルク電流補償値iδ_trq
*を生成することは適切ではないが、図11のCの期間外で速度が平均的に速度指令値に追従するように第1のトルク電流指令値iδ
*を調整しても何ら問題ない。
制御装置100は、図11に示すAの期間からBの期間においてトルク電流補償値iδ_trq
*を切り替えるタイミングについて、図示しない制御器の制御遅れなどを考慮してタイミングを設定するべきものであり、図11に示したタイミングに限定されない。
なお、電動機駆動装置200では、圧縮機904を備える冷凍サイクル適用機器900で使用され、圧縮機904が圧縮する冷媒の種類などによっては、トルク電流補償値iδ_trq
*の値、トルク電流補償値iδ_trq
*において値を増減する期間などに応じてメカロスが変化するため、各条件において最適なトルク電流補償値iδ_trq
*の値は異なる。
図12は、本実施の形態に係る冷凍サイクル適用機器900で使用される冷媒の種類による負荷トルクTloadの変化の特性の例を示す図である。図12において、実線は図5および図11で示した旧冷媒のときの負荷トルクTloadの変化を示し、破線は新冷媒のときの負荷トルクTloadの変化を示している。旧冷媒とは、例えば、R410、R32などの冷媒である。新冷媒とは、例えば、トリフルオロエチレン(HFO1123)、トリフルオロメタン(CF31)、プロパン(R290)などの冷媒である。図12に示すように、新冷媒のような負荷トルクTloadの波形の場合、機械角1周期の中で負荷トルクTloadが正となる位相は旧冷媒の負荷トルク標準波形と比較して長いことが分かる。冷凍サイクル適用機器900で新冷媒が使用されている場合、制御装置100は、加速させるようなトルク電流補償値iδ_trq
*を与えるA1の期間がAの期間よりも長くなるため、本実施の形態による制御を行うことで、漏れ損失を低減させやすい。
電動機駆動装置200が備える制御装置100の動作を、フローチャートを用いて説明する。図13は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200が備える制御装置100の動作を示すフローチャートである。図13に示すフローチャートは、具体的には、電圧指令値演算部115の動作を示すものである。
制御装置100において、周波数推定部501は、電動機7の現在速度であって、回転状態を示す周波数推定値ωestを推定する(ステップS1)。速度制御部502は、電動機7の周波数推定値ωestと周波数指令値ωe
*との偏差に基づいて、第1のトルク電流指令値iδ
*を生成する(ステップS2)。負荷トルク推定部503は、電動機7にかかる負荷トルクTloadを推定する(ステップS3)。補償値演算部504は、負荷トルクTloadに基づいて、電動機7の機械角1周期中において電動機7を1回以上加速させた後に減速させるトルク電流補償値iδ_trq
*を演算する(ステップS4)。加算部505は、第1のトルク電流指令値iδ
*とトルク電流補償値iδ_trq
*とに基づいて、第2のトルク電流指令値iδ
**を生成する(ステップS5)。減算部506は、励磁電流指令値iγ
*と励磁電流iγとの差分(iγ
*-iγ)を算出する(ステップS6)。減算部507は、第2のトルク電流指令値iδ
**とトルク電流iδとの差分(iδ
**-iδ)を算出する(ステップS7)。励磁電流制御部508は、減算部506で算出された差分(iγ
*-iγ)に基づいて、γ軸電圧指令値Vγ
*を生成する(ステップS8)。トルク電流制御部509は、減算部507で算出された差分(iδ
**-iδ)に基づいて、δ軸電圧指令値Vδ
*を生成する(ステップS9)。
また、補償値演算部504は、負荷トルクTloadに基づいて、負荷トルクTloadが正の場合に電動機7を加速運転させ、負荷トルクTloadが最大となるタイミングを含む期間において電動機7を減速運転させるトルク電流補償値iδ_trq
*を演算する。具体的には、上記の負荷トルクTloadが正の場合とは図11に示すAの期間であり、負荷トルクTloadが最大となるタイミングを含む期間とは図11に示すBの期間である。
例えば、補償値演算部504は、負荷トルクTloadが第1の閾値を超えた場合に電動機7を加速運転させ、負荷トルクTloadが第2の閾値を超えた場合に電動機7を減速運転させるようにトルク電流補償値iδ_trq
*を演算する。このとき、補償値演算部504は、前回までの制御において推定された負荷トルクTloadに基づいて、第1の閾値および第2の閾値を算出する。補償値演算部504は、前回までの制御において推定された負荷トルクTloadとして、直近の負荷トルクTloadを用いてもよいし、直近を含む複数回分の負荷トルクTloadの平均値を用いてもよい。
なお、補償値演算部504は、推定された負荷トルクTloadに対応する機械角に基づいて、電動機7を加速運転させ、電動機7を減速運転させるようにトルク電流補償値iδ_trq
*を演算してもよい。また、補償値演算部504は、前述の第1の閾値および第2の閾値と、推定された負荷トルクTloadに対応する機械角とに基づいて、電動機7を加速運転させ、電動機7を減速運転させるようにトルク電流補償値iδ_trq
*を演算してもよい。
つづいて、電動機駆動装置200が備える制御装置100のハードウェア構成について説明する。図14は、本実施の形態に係る電動機駆動装置200が備える制御装置100を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御装置100は、プロセッサ91およびメモリ92により実現される。
プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ92は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性または揮発性の半導体メモリを例示できる。またメモリ92は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
以上説明したように、本実施の形態によれば、冷凍サイクル適用機器900に搭載される電動機駆動装置200において、制御装置100は、電動機7の負荷トルクTloadを推定し、負荷トルクTloadが正の値で大きくなる位相のときには加速させるようにトルク電流指令値を制御して、冷媒を圧縮することによる圧縮ガスの漏れによる漏れ損失を低減させる。また、制御装置100は、負荷トルクTloadが最も大きくなる位相を含む期間において減速させるようにトルク電流指令値を制御し、吐出オーバーシュート損失を低減させる。これにより、電動機駆動装置200は、電動機7を含む圧縮機904で発生する損失を低減し、圧縮機904を備える冷凍サイクル適用機器900において消費電力を低減させることができる。電動機駆動装置200は、冷凍サイクル適用機器900が備える圧縮機904がロータリ圧縮機の場合において、冷媒を圧縮することによる圧縮ガスの漏れによる漏れ損失、および吐出弁947が開くタイミングで発生するオーバーシュート損失によるメカロスを低減させ、冷凍サイクル適用機器900の高効率な運転を実現することができる。
なお、本実施の形態では、圧縮機904がシングルロータリ圧縮機の場合を例にして高効率な運転を行う場合について説明したが、これに限定されない。電動機駆動装置200は、冷凍サイクル適用機器900で使用される圧縮機904がツインロータリ圧縮機、スクロール圧縮機などの場合においても、上記で説明した本実施の形態による制御を適用することができる。この場合、補償値演算部504は、電動機7の1回転中に生じる負荷変動の数に応じた電動機7の加速運転および減速運転を伴うトルク電流補償値iδ_trq
*を演算する。電動機駆動装置200は、電動機7を駆動する制御手段において、速度制御器および電流制御器を持つ制御系であれば適用が可能である。
以上のように、本実施の形態の電動機駆動装置200は、電動機7の巻線を切り替えて使用するような、冷凍サイクル適用機器900に適している。冷凍サイクル適用機器900の一例として空気調和機を挙げたが、本実施の形態はこれに限定されず、例えば、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器などにも適用できる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。