以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
本開示において「フィルム」には「シート」と呼ばれる物品も包含される。
本開示において「感圧接着」とは、使用温度範囲で、例えば0℃以上、50℃以下の範囲で初期粘着性(タック)を有し、軽い圧力で様々な表面に接着し、相変化(液体から固体へ)を呈さない材料又は組成物の特性を意味する。
一実施態様の装飾積層フィルムは、第1面及び第1面の反対側の第2面を有する透明レセプター層と、透明レセプター層の第1面の上に直接印刷された透明グレー層と、透明レセプター層の第2面の上に直接印刷された基材ベタ色層と、基材ベタ色層の上に直接配置された白色不透明感圧接着層とを含む。透明レセプター層の厚さは約50μm以下である。装飾積層フィルムの透明グレー層は柄をさらに含んでもよい。
一般に、印刷層は、デジタルカメラなどで対象物表面を撮影して得られるRGB画像データをCMYK画像データに変換した後、プロセスインク(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及びブラック(K)、並びに任意にライトインク)をインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などの印刷技術を用いてインクドット又はアミ点として基材上に印刷することにより形成される。印刷層では、これらのプロセスインクの減法混色によりプロセスインク以外の色が表現される。インクドット又はアミ点の間では通常は白色の下地が露出しており、この白色の下地からの反射光と、インクドット又はアミ点からの反射光との並置(加法)混色によって、様々な色相、明度及び彩度の色を観察者は知覚する。
ブラック(K)インクも含めたプロセスインクの混色では、明度を合わせようとすると彩度が合わなくなる場合がある。例えば、明度の調節には無彩色であるブラック(K)インクを用いることが一般的であるが、そのことで彩度が同時に許容できない程度まで低下してしまうことがある。ブラック(K)インクを用いずにシアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)インクの混色により明度を調節しようとした場合も同様であり、この場合はさらに色相のシフトが生じることもある。これらの現象は、白色の下地とインクドット又はアミ点の組み合わせによって階調を表現するインクジェット印刷及びオフセット印刷、並びに一部のグラビア印刷ではより顕著であり、画像データ変換時の画像処理アルゴリズムだけでは解決できない場合がある。
いくつかの用途、例えば建築物用のタイルなどでは比較的彩度の低い顔料が使用されるのに対して、限られた色数のインクを組み合わせて幅広い色を表現することが求められるプロセスインクでは、彩度の高い顔料が使用されることが一般的である。このように顔料種類が異なることも色の再現には不利に影響する場合がある。
本開示の装飾積層フィルムにおいて、観察者は、柄を含む又は含まない透明グレー層を通して基材ベタ色層を視認する。基材ベタ色層の上に直接配置された白色不透明感圧接着層は、壁面などの対象物表面に装飾積層フィルムを接着するだけではなく、装飾積層フィルムに入射してインクドット又はアミ点の間を通過した光を反射させる白色の下地としても機能する。如何なる理論に拘束される訳ではないが、透明グレー層及び基材ベタ色層が印刷層として透明レセプター層の第1面及び第2面の上にそれぞれ直接配置された積層構造において、別個に設けられた透明グレー層を通して明度が調節された基材ベタ色層を観察者に視認させることで、対象物表面の外観がより再現された印象を観察者に与えることができると考えられる。
本開示の装飾積層フィルムは、薄い透明レセプター層の第1面及び第2面にそれぞれ直接印刷された透明グレー層及び基材ベタ色層を有し、かつ基材ベタ色層の上に直接配置された白色不透明感圧接着層を有する簡素な積層構造を有するため、装飾積層フィルムの製造工程を簡易化することができるとともに、透明レセプター層の厚さが約50μm以下であることとも相まって、装飾積層フィルムを薄型化して凹凸を有する表面への追従性をより高めることができる。装飾積層フィルムの薄型化は、可燃性有機成分を低減することができるため、不燃性の点でも有利である。また、透明レセプター層の厚さが約50μm以下であることは、透明レセプター層に起因する光学的影響を低減して、透明グレー層と基材ベタ色層との組み合わせによる色の再現性、特に透明グレー層が柄を有する場合の色及び模様の再現性を高めることができる。
図1に、一実施態様の装飾積層フィルム10の概略断面図を示す。装飾積層フィルム10は、透明レセプター層12と、透明レセプター層12の第1面(上面)に直接印刷された透明グレー層14と、透明レセプター層12の第2面(下面)に直接印刷された基材ベタ色層16とを含む。基材ベタ色層16の上には白色不透明感圧接着層18が直接配置されている。図1の積層装飾フィルム10は、さらに、任意の構成要素として、最外層として表面保護層20、及び白色不透明感圧接着層18を保護するライナー30を有する。ライナー30は対象物表面への装飾積層フィルム10の貼り付け前に剥離される。表面保護層20は接合層22を介して積層されてもよい。表面保護層22はオーバーラミネートフィルムであってもよく、クリアコーティングであってもよく、クリアコーティングを有するオーバーラミネートフィルムであってもよい。図1では、基材ベタ色層16は透明グレー層14を通して上方から観察者により視認される。
図2に別の実施態様の装飾積層フィルム10の概略断面図を示す。装飾積層フィルム10の透明グレー層14は、柄15をさらに含む。図2では、基材ベタ色層16は柄15を含む透明グレー層14を通して上方から観察者により視認され、全体として柄を有する画像として観察者により視認される。
透明レセプター層は、柄を含む又は含まない透明グレー層、及び基材ベタ色層を形成するインク組成物を受容し、透明レセプター層を通して基材ベタ色層が視認できる程度の透明性を有する。透明レセプター層の透明性により、インク組成物の一部が透明レセプター層に浸透した場合でもその浸透した部分を視認することができる。そのため、透明グレー層、特に柄を含む透明グレー層を薄くしたときでも高い鮮明度を示す画像を有する装飾積層フィルムを提供することができる。
透明レセプター層として、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)などの共重合体又はこれらの混合物を含むフィルムを使用することができる。これらのフィルムは他の層との結合面にプライマー処理、コロナ処理などの表面処理を有してもよい。強度、印刷適性、耐溶剤性(例えば耐アルコール性)などの観点から、透明レセプター層として、ポリ塩化ビニル、又はアクリル樹脂を含むフィルムを有利に使用することができ、アクリル樹脂フィルムを使用することが好ましい。
一実施態様では、透明レセプター層は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのポリマーブレンドを含むアクリル樹脂フィルムである。このようなポリマーブレンドを含むアクリル樹脂フィルムは、第1面及び第2面の両方に印刷層を形成することができる優れた印刷適性を有している。また、このようなポリマーブレンドを含むアクリル樹脂フィルムは、比較的薄くても高い強度を有することができ、凹凸を有する対象物表面への装飾積層フィルムの追従性を効果的に高める、又は装飾積層フィルムに不燃性を付与することができる。
透明レセプター層として、押出フィルム、押出延伸フィルム、カレンダーフィルム、キャストフィルムなど、様々な成形方法で形成されたフィルム又はこれらの積層体を使用することができる。一実施態様では、フィルム層はキャストフィルムである。この実施態様によれば、薄いフィルム層を得ることが容易であり、残留内部応力が比較的低いことから、装飾積層フィルムの対象物表面への追従性を有利に高めることができる。
一実施態様では、透明レセプター層は無色である。この実施態様では、基材ベタ色は基材ベタ色層のみにより表現される。無色の透明レセプター層では、顔料などの着色剤を含むことによる伸び特性の低下が生じない。そのため、無色の透明レセプター層を含む装飾積層フィルムは、凹凸を有する対象物表面への追従性に特に優れている。
透明レセプター層は必要に応じて着色されていてもよい。この実施態様では、基材ベタ色は、基材ベタ色層と透明レセプター層の組み合わせにより表現される。着色剤として、酸化チタン、カーボンブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、赤色酸化鉄などの無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アゾレーキ系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドンレッドなどのキナクリドン系顔料などの有機顔料などの顔料が挙げられる。この実施態様における着色剤の含有量は、透明レセプター層の厚さ、透明レセプター層に要求される伸び特性などによって変化するが、一般に、透明レセプター層の約1質量%以上、約2質量%以上、又は約3質量%以上、約30質量%以下、約25質量%以下、又は約20質量%以下である。
透明レセプター層の厚さは約50μm以下である。透明レセプター層の厚さは、例えば、約5μm以上、約10μm以上、又は約15μm以上、約44μm以下、約40μm以下、又は約36μm以下とすることができる。このように薄い透明レセプター層を用いることで、装飾積層フィルムの対象物表面への追従性を有利に高めることができ、また、不燃性を得る上でも有利である。
透明レセプター層の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、波長380nm~780nmにおける平均可視光線透過率として得られる値が、約70%以上、約80%以上、又は約90%以上、100%以下、約98%以下、又は約95%以下である。透明レセプター層の全面が上記平均可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記平均可視光線透過率を有してもよい。
装飾積層フィルムの用途に応じて、透明レセプター層に、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、充填材などの添加剤を添加してもよい。
一実施態様では、透明レセプター層は難燃剤を含まない。この実施態様では、装飾積層フィルムの総厚を薄く(例えば約100μm以下)することにより、難燃剤を使用せずに装飾積層フィルムを不燃性とすることができる。
透明グレー層は、透明レセプター層の第1面の上に直接、トナー、溶剤型インク、紫外線硬化型インク、水性インク、ラテックスインクなどを用いたインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、静電印刷などの印刷により形成される。一実施態様では透明グレー層はインクジェット印刷層である。
透明グレー層は一般に無彩色であるが、有彩色であってもよい。一実施態様では、透明グレー層は黒色顔料又は黒色染料のみを含む。別の実施態様では透明グレー層は黒色顔料又は黒色染料と白色顔料又は白色染料との組み合わせを含む。別の実施態様では、透明グレー層は黒色顔料又は黒色染料に加えて、赤、青、黄などの有彩色の顔料又は染料を含む。この実施態様では、透明グレー層の色を基材ベタ色層の色相及び彩度に合わせて適宜シフトさせることができる。
透明グレー層は柄をさらに含んでもよい。柄を含む透明グレー層は、インクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、静電印刷などの印刷における多色印刷技術によって形成することができる。柄は単色であってもよく多色であってもよい。装飾積層フィルムが適用される対象物表面の柄を近似した画像を用いて、無彩色で柄が形成されてもよい。
透明グレー層の柄のない部分の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、波長380nm~780nmにおける平均可視光線透過率として得られる値が、約40%以上、約50%以上、又は約60%以上、約95%以下、約90%以下、又は約85%以下である。透明グレー層の柄のない部分の平均可視光線透過率を上記範囲とすることで、基材ベタ色層の明度を効果的に調節することができる。
透明グレー層の厚さは様々であってよく、一般に溶剤系インクを用いた場合は、約0.1μm以上、又は約0.5μm以上、約10μm以下、又は約5μm以下とすることができる。UV硬化型インクを用いた場合は、約0.5μm以上、又は約1μm以上、約30μm以下、又は約20μm以下とすることができる。
基材ベタ色層は、透明レセプター層の第2面の上に直接、トナー、溶剤型インク、紫外線硬化型インク、水性インク、ラテックスインクなどを用いたインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、静電印刷などの印刷により形成される。一実施態様では基材ベタ色層はインクジェット印刷層である。
基材ベタ色層は有彩色であり、その色相、明度及び彩度は様々であってよい。一実施態様では、L*a*b*表色系に基づいて、基材ベタ色層のL*値は約30以上、約99以下の範囲であり、a*は約-10以上、約20以下の範囲であり、b*は約-10以上、約30以下の範囲である。基材ベタ色層のL*、a*、及びb*が上記範囲であるときに、透明グレー層による明度調節の効果がより大きくなる。
基材ベタ色層の厚さは様々であってよく、一般に溶剤系インクを用いた場合は、約0.1μm以上、又は約0.5μm以上、約10μm以下、又は約5μm以下とすることができる。UV硬化型インクを用いた場合は、約0.5μm以上、又は約1μm以上、約30μm以下、又は約20μm以下とすることができる。
一実施態様では、透明グレー層及び基材ベタ色層の両方がインクジェット印刷層である。
基材ベタ色層の上に直接配置される白色不透明感圧接着層は、装飾積層フィルムを対象物表面に接着し、対象物表面(下地)を隠蔽する隠蔽層としても機能する。白色不透明感圧接着層は、着色剤として、酸化チタン(二酸化チタン)、硫酸バリウム、酸化亜鉛などの白色顔料を含む。白色度が高いことから白色顔料として酸化チタンを用いることが有利である。白色不透明感圧接着層の隠蔽性を高めるために、白色不透明感圧接着層にアルミペーストを入れてもよい。アルミペーストは明度への影響が少なく有利に使用することができる。
白色不透明感圧接着層の着色剤の含有量は、白色不透明感圧接着層の厚さ、白色不透明感圧接着層に要求される接着特性、着色の種類、使用する着色剤などによって変化するが、一般に、白色不透明感圧接着層の約1質量%以上、約3質量%以上、又は約5質量%以上、約50質量%以下、約40質量%以下、又は約30質量%以下である。
白色不透明感圧接着層は、様々な種類の接着剤、例えばアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤に着色剤を混合した組成物を用いて形成することができる。一実施態様では、白色不透明感圧接着層は、アクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、又はゴム系接着剤を含む。
一実施態様では、白色不透明感圧接着層は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのポリマーブレンドを含むアクリル系接着剤から形成される。このようなポリマーブレンドを含むアクリル系接着剤は、着色剤とカルボキシ基又はアミノ基との相互作用を利用して、着色剤、例えば酸化チタンを高濃度かつ均一に分散した状態で含有することができる。そのため、この実施態様では比較的薄い厚さで高い隠蔽性を有する白色不透明感圧接着層を形成することができる。
白色不透明感圧接着層の厚さは様々であってよく、一般に約5μm以上、約10μm以上、又は約20μm以上、約100μm以下、約80μm以下、又は約50μm以下である。装飾積層フィルムに不燃性が要求される用途では、白色不透明感圧接着層の厚さは、約70μm以下、約50μm以下、又は約30μm以下であることが望ましい。
白色不透明感圧接着層の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、波長380nm~780nmにおける平均可視光線透過率として得られる値が、約30%以下、約20%以下、又は約10%以下である。
装飾積層フィルムの用途に応じて、白色不透明感圧接着層に、例えば粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、充填材などの添加剤を添加してもよい。
一実施態様では、白色不透明感圧接着層は難燃剤を含まない。この実施態様では、装飾積層フィルムの総厚を薄く(例えば約100μm以下)することにより、難燃剤を使用せずに装飾積層フィルムを不燃性とすることができる。
白色不透明感圧接着層は、公知の方法によって基材ベタ色層の上に直接形成することができる。例えば、白色不透明感圧接着層の成分、及び必要に応じて有機溶剤を含有する感圧接着剤組成物を、ナイフコート、バーコートなどによりライナー上に塗布し乾燥して、白色不透明感圧接着層を形成する。得られた白色不透明感圧接着層の上に基材ベタ色層をドライラミネートなどにより積層して、白色不透明感圧接着層を基材ベタ色層の上に直接配置することができる。
装飾積層フィルムは白色不透明感圧接着層を保護するライナーを有してもよい。ライナーとして、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、酢酸セルロースなどのプラスチック材料、このようなプラスチック材料で被覆された紙などを挙げることができる。これらのライナーは、シリコーンなどにより剥離処理した表面を有してもよい。ライナーの厚さは、一般に約5μm以上、約15μm以上又は約25μm以上、約300μm以下、約200μm以下又は約150μm以下である。
白色不透明感圧接着層は、一般に平坦な接着面を形成するが、凹凸接着面を形成してもよい。この凹凸接着面には、白色不透明感圧接着層の接着面に、接着剤を含む凸部と、その凸部の周りを取り囲んだ凹部とが形成され、対象物に接着された状態で対象物表面と接着面との間に凹部が画する外部と連通した連通路が形成される接着面を含む。凹凸接着面を形成する方法の一例を以下説明する。
所定の凹凸構造を有する剥離面を持つライナーを用意する。このライナーの剥離面に、白色不透明感圧接着剤組成物を塗布し、必要に応じて加熱して、白色不透明感圧接着層を形成する。これにより、白色不透明感圧接着層のライナーと接する面(これが装飾積層フィルムにおける接着面となる。)に、ライナーの凹凸構造(ネガ構造)を転写し、接着面に所定の構造(ポジ構造)を有する凹凸接着面を形成する。接着面の凹凸は、前述したように、対象物に凸部が接着した際に連通路が形成可能な溝を含むように予め設計される。
白色不透明感圧接着層の溝は、装飾積層フィルムを施工する際に気泡残りを防止できる限り、一定形状の溝を規則的パターンに沿って接着面に配置して規則的パターンの溝を形成してもよく、不定形の溝を配置し不規則なパターンの溝を形成してもよい。複数の溝が互いに略平行に配置されるように形成される場合、溝の配置間隔は10~2000μmであることが好ましい。溝の深さ(接着面からフィルム層の方向に向かって測定した溝の底までの距離)は、通常約10μm以上、約100μm以下である。溝の形状も、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、溝の形状を、接着面に垂直な方向の溝の断面において、略矩形(台形を含む)、略半円形、又は略半楕円形とすることができる。
装飾積層フィルムは、透明グレー層の上に表面保護層をさらに含んでもよい。表面保護層はオーバーラミネートフィルムであってもよく、クリアコーティングであってもよく、クリアコーティングを有するオーバーラミネートフィルムであってもよい。表面保護層により装飾積層フィルムの表面を保護することができる。表面保護層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂のフィルムを、透明グレー層の上に直接又は接合層を介して積層することによって、あるいは樹脂組成物を透明グレー層表面に塗布して乾燥することによって形成することができる。クリアコーティングを有するオーバーラミネートフィルムは、樹脂組成物を上記樹脂フィルム表面に塗布して乾燥して得られたコーティングフィルムを透明グレー層の上に直接又は接合層を介して積層することができる。
表面保護層は一般に可視光領域で透明である。表面保護層の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、波長380nm~780nmにおける平均可視光線透過率として得られる値が、約80%以上、約85%以上、又は約90%以上、100%以下、約98%以下、又は約95%以下である。表面保護層の全面が上記平均可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記平均可視光線透過率を有してもよい。
表面保護層の露出表面が凹凸を有してもいてもよい。一実施態様では表面保護層としてオーバーラミネートフィルムが使用され、オーバーラミネートフィルムの露出表面にエンボス加工が施されている。別の実施態様では表面保護層として樹脂ビーズ、無機粒子などのフィラーを含有するコーティングが使用され、フィラーがコーティングから突出することにより、表面保護層の露出表面に凹凸が形成される。表面保護層の露出表面にエンボス加工などによる凹凸を付与することで、様々な角度から観察したときに反射光によるぎらつきを抑えて、対象物表面の外観の再現性を高めることができる。一実施態様では、オーバーラミネート層の光沢度(グロス)は、JIS Z 8741:1997に準拠して測定したときに、Gs(60°)の値が、約1以上、約2以上、又は約3以上、約40以下、約30以下、又は約20以下である。
表面保護層の厚さは、一般に約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約100μm以下、約50μm以下、又は約30μm以下である。
オーバーラミネートフィルムを装飾積層フィルムに結合する接合層として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。
接合層は一般に透明であり、その可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、380nm~780nmにおける平均可視光線透過率として得られる値が、約80%以上、約85%以上、又は約90%以上、100%以下、約98%以下、又は約95%以下である。接合層の全面が上記平均可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記平均可視光線透過率を有してもよい。
接合層の厚さは、一般に、約1μm以上、約2μm以上、又は約5μm以上、約50μm以下、約40μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
装飾積層フィルムの用途に応じて、表面保護層又は接合層に、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、充填材等の添加剤を添加してもよい。
ライナーを除く装飾積層フィルムの総厚は、一般に約30μm以上、約40μm以上、又は約50μm以上、約200μm以下、約150μm以下、又は約100μm以下である。装飾積層フィルムに不燃性が要求される用途では、装飾積層フィルムの総厚は約105μm以下、約100μm以下、又は約95μm以下であることが望ましい。
一実施態様では、ライナーを除く装飾積層フィルムは、透明レセプター層、柄を含む又は含まない透明グレー層、白色不透明感圧接着層、表面保護層、及び表面保護層の接合層以外を含まない、すなわち、透明レセプター層と、柄を含む又は含まない透明グレー層と、白色不透明感圧接着層と、表面保護層と、必要に応じて表面保護層の接合層とからなる。
一実施態様の装飾積層フィルムは、ISO5660-1コーンカロリーメーター試験で不燃性である。例えば、コーンカロリーメーターを用いて装飾積層フィルムの発熱速度(kW/m2)及び総発熱量(MJ/m2)を測定したときに、加熱開始後20分間の総発熱量は8MJ/m2以下でありかつ200kW/m2を超える発熱速度を示す時間は合計で10秒以下である。一実施態様では、装飾積層フィルムは難燃剤を含まずに上記不燃性を達成する。
透明グレー層が柄を含む装飾積層フィルムは、例えば、
(1)第1面及び第1面の反対側の第2面を有する透明レセプター層を用意する工程、
(2)複製の対象である、柄を有する表面を撮影して画像データを得る工程、
(3)画像データを2値化することにより柄データを作成する工程、
(4)画像データから柄データを差し引くことにより基材ベタ色データを作成する工程、
(5)透明グレー色データを作成する工程、
(6)透明グレー色データと柄データを合成して透明グレー層データを作成する工程、
(7)基材ベタ色データに基づいて、透明レセプター層の第2面に基材ベタ色層を印刷する工程、
(8)透明グレー層データに基づいて、透明レセプター層の第1面に透明グレー層を印刷する工程、及び
(9)基材ベタ色層の上に白色不透明感圧接着層を形成する工程、を含む方法により製造することができる。
図3を参照しながら上記方法の一例を説明するが、以下に限られない。
工程(1)の透明レセプター層として上記のものを使用することができる。
工程(2)では、デジタルカメラなどを用いて、対象物、例えば建築物の壁面、タイルなどの写真を撮影する。撮影画像は、JPEGなどのフォーマットのRGB画像データとして得る。
工程(3)では、得られたRGB画像データ(図3ではJPEGフォーマット)を画像処理ソフトウェア上で所定の閾値で2値化して柄データを作成する。柄データはRGB画像データからCMYK画像データへ画像変換することにより得られる。柄データはグレースケールであってもよく、2値化した後に柄部分のみがフルカラーのデータに復元されたものであってもよい。
工程(4)では、撮影画像のRGB画像データから、2値化により得られた柄データを差し引いて基材ベタ色データを作成する。基材ベタ色データはRGB画像データからCMYK画像データへ画像変換することにより得られる。
工程(5)では、透明グレー色データをCMYK画像データとして作成する。階調の異なる複数の透明グレー色データを用意しておき、装飾積層フィルムの外観を確認しながらこれらの複数の透明グレー色データを用いて明度調節を行ってもよい。
工程(6)では、透明グレー色データと柄データを合成して透明グレー層データを作成する。例えば、工程(3)で得られた柄データの柄部分のみ選択して切り取りコピーし、コピーしたデータを工程(5)で得られた透明グレー色データにペーストし、その後画像を統合することにより、透明グレー層データを作成することができる。
工程(7)及び(8)では、基材ベタ色データに基づいて、透明レセプター層の第2面に基材ベタ色層を印刷し、透明グレー層データに基づいて、透明レセプター層の第1面に透明グレー層を印刷する。一実施態様では、図3に示すように、基材ベタ色層及び透明グレー層のいずれもインクジェット印刷により形成する。
工程(9)では、基材ベタ色層の上に白色不透明感圧接着層を形成する。白色不透明感圧接着層を形成するための感圧接着剤組成物は、上記のとおり調製することができる。
工程(8)は、工程(7)の前又は後に行ってもよい。工程(8)は、工程(7)及び(9)の後に行ってもよい。
図3に示すように、必要に応じて表面保護層を透明グレー層の上に積層してもよい。
なお、対象物表面に柄がない場合は、工程(3)を省略することができ、工程(4)では画像データから直接基材ベタ色データを作成し、工程(6)では透明グレー色データを透明グレー層データとしてそのまま使用することができる。
本開示の装飾積層フィルムは、様々な対象物の表面、例えば建築物の内壁及び外壁、家具、オフィス用品等の表面の装飾及び補修用途に用いることができる。一実施態様では、装飾積層フィルムは壁面に適用される。透明グレー層及び基材ベタ色層をインクジェット印刷層とする場合、オンデマンド印刷及びカスタム印刷が可能となるため、特に壁面、タイルなどの小部分又は小部品の補修に好適に使用することができる。
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
<例1>
1.データ作成
ステップ1:対象物である壁面用タイル(大きさ及び色が不規則な点の柄を有する濃い茶色)の写真をデジタルカメラで撮影した。
ステップ2:壁面用タイルのJPEGデータを2値化することによって柄データを作成した。
ステップ3:壁面用タイルのJPEGデータから柄データを差し引くことによって基材ベタ色データを作成した。
ステップ4:透過率調整用の透明グレー色データを作成した。
ステップ5:透明グレー色データと柄データを合成して透明グレー層データを作成した。
2.前駆体1
50μm厚のポリエステルフィルムの上に支持された36μm厚の透明アクリル樹脂フィルムを透明レセプター層として用意した。ステップ3で作成した基材ベタ色データに基づき、透明アクリル樹脂フィルムの露出面(第2面)の上にJV5プリンター(株式会社ミマキエンジニアリング、日本国長野県東御市)を用いてSS21インク(株式会社ミマキエンジニアリング、日本国長野県東御市)で厚さ6μmの基材ベタ色層を印刷した。インク濃度はシアン10、マゼンタ19、イエロー22、ブラック10であった。
ポリエチレンラミネート剥離紙の上に支持された30μm厚の白色不透明アクリル感圧接着層を用意した。白色不透明アクリル感圧接着層に基材ベタ色層が接触するように、基材ベタ色層を有する透明アクリル樹脂フィルムを白色不透明アクリル感圧接着層と積層し、50μm厚のポリエステル支持フィルムを除去して、前駆体1を作製した。
3.前駆体2
ステップ5で作成した透明グレー層データに基づき、前駆体1の透明アクリル樹脂フィルムの露出面(第1面)の上にJV5プリンター(株式会社ミマキエンジニアリング、日本国長野県東御市)を用いてSS21インク(株式会社ミマキエンジニアリング、日本国長野県東御市)で厚さ6μmの透明グレー層を印刷した。サイズはフルスケールであった。2値化の閾値は105/255であった。インク濃度はブラック11、すなわち純粋な黒色であった。透明グレー層の柄のない部分の波長380nm~780nmにおける平均可視光線透過率は、約76%であった。平均可視光線透過率は、前駆体1に印刷したものと同じ透明グレー層を、ブランクフィルムとして前駆体1と同じ50μm厚のポリエステルフィルムの上に支持された50μm厚の透明アクリル樹脂フィルムの上に印刷し、50μm厚のポリエステル支持フィルムを除去して、ヘーズメーターHM-150(株式会社村上色彩技術研究所、日本国東京都中央区)を用いて測定した。
透明グレー層の上に23μm厚のスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))を積層して例1の装飾積層フィルムを得た。装飾積層フィルムの総厚は101μmであった。
例1の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。例1の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
<比較例1>
前駆体1の透明レセプター層の厚さを60μmに変更した以外は例1と同様にして比較例1の装飾積層フィルムを得た。装飾積層フィルムの総厚は125μmであった。
(不燃性)
装飾積層フィルムの接着性を高める目的で、プライマー溶液DP900N3(スリーエムジャパン株式会社、日本国東京都品川区)をカルシウムシリケート板(厚さ6mm)にコーティングし、その上に装飾積層フィルムを貼り付けた。ISO5660-1コーンカロリーメーター試験に準拠してコーンカロリーメーター(株式会社東洋精機製作所、日本国東京都北区)を用いて試験を行った。例1の装飾積層フィルムの不燃性は合格であった。比較例1の装飾積層フィルムの不燃性は不合格であった。
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることも当業者には明らかである。