JP7357051B2 - 偏光レンズの製造方法、偏光フィルム及び偏光レンズ - Google Patents
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Description
偏光レンズに用いられる偏光フィルムは、曲面加工して用いられることがあるが、曲面加工は、歪を軽減するため偏光フィルムを湿潤させて収縮させてから行われる。当該収縮によって、偏光フィルム内の色素の濃度が高まり、視感透過率が低下するという課題がある。
偏光フィルムを湿潤下で最大収縮率5%以上30%以下収縮させること、
当該偏光フィルムを曲面に加工すること、
当該偏光フィルムを温度T1で乾燥すること、
当該偏光フィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意すること、
当該キャビティに硬化性組成物を注入すること、
当該硬化性組成物を硬化させることにより内部に偏光フィルムが配置された偏光レンズを得ること、及び
当該偏光レンズを温度T2でアニーリングすること、
を含み、
当該温度T1と当該温度T2の関係が以下の式(1)を満たす、偏光レンズの製造方法である。
T1>T2・・・(1)
偏光フィルムを湿潤下で最大収縮率5%以上30%以下収縮させること、
当該偏光フィルムを曲面に加工すること、
当該偏光フィルムを温度T1で乾燥すること、
を含み、
当該温度T1が、130℃以上150℃以下である、曲面加工された偏光フィルムの製造方法である。
物体側表面を形成する第1のレンズ要素部と、
眼球側表面を形成する第2のレンズ要素部と、
当該第1のレンズ要素部と当該第2のレンズ要素部との間に設けられた上述の偏光フィルムとを備える、偏光レンズである。
温度T1は、好ましくは120℃以上160℃以下である。
温度T2が、好ましくは100℃以上130℃以下である。
偏光レンズは、好ましくは80℃以上150℃以下のガラス転移温度を有する。
上述の成形型を用意することが、好ましくは上型モールド、乾燥後の偏光フィルム、及び下型モールドをこの順にそれぞれ間隔をもって配置して、上型モールドと下型モールドとの間隔をシール部材により閉塞することを含む。
上型モールドのキャビティ側面と偏光フィルムとの距離の最小値が好ましくは0.05mm以上2.0mm以下である。当該偏光レンズが好ましくはマイナス度数を有する。
偏光フィルムを湿潤下で最大収縮率5%以上30%以下収縮させること、
当該偏光フィルムを曲面に加工すること、
当該偏光フィルムを温度T1で乾燥すること、
当該偏光フィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意すること、
当該キャビティに硬化性組成物を注入すること、
当該硬化性組成物を硬化させることにより内部に偏光フィルムが配置された偏光レンズを得ること、及び
当該偏光レンズを温度T2でアニーリングすること、
を含む。
本実施形態の偏光レンズの製造方法では、当該温度T1と当該温度T2の関係が以下の式(1)を満たす。
T1>T2・・・(1)
以上の構成を有することで、本実施形態の製造方法によれば、視感透過率及び偏光度が高く、非点収差が低く抑えられた偏光レンズが得られる。
「物体側表面」とは、偏光レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に物体側に位置する表面であり、「眼球側表面」とは、その反対、即ち偏光レンズを備えた眼鏡が装用者に装用された際に眼球側に位置する表面である。面形状に関して、一態様では、物体側表面は凸面であり、眼球側表面は凹面である。ただし、この態様に限定されるものではない。
収縮率(%)=(〔収縮前の偏光フィルムの幅〕-〔収縮後の偏光フィルムの幅〕)/〔収縮前の偏光フィルムの幅〕×100
偏光フィルムは、一態様では、二色性色素を含むフィルムを延伸したものが用いられるため、最大収縮率は、当該延伸方向における収縮率となる。ただし、この態様に限定されるものではない。
図1は、本実施形態の偏光レンズ100の断面図である。図1に示すように、本実施形態の偏光レンズ100は、メニスカス形状を有するプラスチックレンズであり、第1のレンズ要素部110と、第2のレンズ要素部120と、その両レンズ要素部の間に、曲面加工された偏光フィルム14とを有するレンズ基材(積層構造)を備える。第1のレンズ要素部110は、偏光フィルム14に対して偏光レンズ100の物体側表面111(凸面側)に設けられ、第2のレンズ要素部120は、偏光レンズ100の眼球側表面121(凹面側)に設けられている。また、偏光レンズ100の樹脂基材(基材)を構成している第1のレンズ要素部110及び第2のレンズ要素部120は、ともにメニスカス形状を有しており、第1のレンズ要素部110において、物体側が偏光レンズ100の物体側表面111であり、眼球側が偏光フィルム14に当接する面である。同様に、第2のレンズ要素部120において、眼球側が偏光レンズ100の眼球側表面121であり、物体側が偏光フィルム14に当接する面である。
偏光レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。例えば、一例として、累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
偏光レンズとしては、通常無色のものが使用されるが、透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することもできる。
偏光レンズの基材の屈折率neは、好ましくは1.50以上であり、より好ましくは1.53以上であり、更に好ましくは1.55以上であり、より更に好ましくは1.60以上である。偏光レンズの基材の屈折率neは、その上限は特に限定されないが、好ましくは1.80以下である。
なお、ここで偏光レンズのガラス転移温度とは、偏光レンズの基材のガラス転移温度を意味する。
(熱機械分析法)
針入プローブ(先端径0.5~1.0mm)に、98mNの荷重を加えて試料の変位を測定することでガラス転移温度を測定する。測定はφ5mm×3mmの試料を室温から10℃/分の割合で昇温させて、熱機械分析装置で試料の変位を測定することで行う。通常試料は昇温に伴う熱膨張により大きくなる。ところがガラス転移温度付近では測定値は試料が膨張から収縮に転じることを示すことがある。これは試料が荷重に耐え切れなくなり針入プローブが試料にめり込んだ時に起こる現象であり、このピークトップ温度をガラス転移温度Tgとする。ピークトップが明確でない場合はピークトップ付近の測定値前後の接線が交差する点の温度をガラス転移温度とする。
偏光レンズの非点収差は、好ましくは0.09以下であり、より好ましくは0.07以下であり、更に好ましくは0.05以下であり、より更に好ましくは0.04以下であり、更により好ましくは0.03以下である。偏光レンズの非点収差は、その下限は特に限定されないが、製造のしやすさの観点から、0.01以上であってもよく、0.02以上であってもよい。非点収差は、物体側表面の非点収差を意味する。また、非点収差は、実施例に記載の方法により測定することができる。
偏光レンズは、機能層を有していてもよい。上述の機能層としては、例えば、ハードコート層、下地層、反射防止層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、フォトクロミック層、帯電防止層、防曇層が挙げられる。これらの機能層は、1種を単独又は2種以上を組合せて用いてもよい。これらの機能層については、眼鏡レンズに関する公知技術を適用することができる。これらの中でも、ハードコート層、下地層、及び反射防止層を有することが好ましい。
ハードコート層は、例えば、無機酸化物とケイ素化合物とを含むハードコート組成物による硬化膜である。ハードコート組成物は、好ましくは多官能エポキシ化合物を更に含む。
上述のハードコート層は、硬化性組成物を基材上に塗布し、硬化処理(熱硬化、光硬化等)を施すことにより形成することができる。硬化性組成物の塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができる。硬化処理は、多官能エポキシ化合物を含む硬化性組成物については、通常、加熱により行われる。加熱硬化処理は、例えば上述の硬化性組成物を塗布したレンズを50~150℃の雰囲気温度の環境下に30分~3時間程度配置することで行うことができる。
上述の下地層としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びエポキシ樹脂等からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子を含む水系樹脂組成物により形成することができる。
反射防止層は、例えば、交互に配置された低屈折率層及び高屈折率層を有する。反射防止層が有する層数は、好ましくは4~11層であり、より好ましくは5~8層である。
次に、本実施形態の偏光レンズの製造方法について、図面を参照し、説明する。
本実施形態の偏光レンズ100の製造方法は、偏光フィルム14を湿潤下で最大収縮率5%以上30%以下収縮させる工程、偏光フィルム14を曲面に加工する工程、偏光フィルム14を温度T1で乾燥する工程、偏光フィルム14が内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意する工程、キャビティに硬化性組成物を注入する工程、硬化性組成物を硬化させることにより内部に偏光フィルム14が配置された偏光レンズ100を得る工程、及び、偏光レンズ100を温度T2でアニーリングする工程を含む。本実施形態の偏光レンズ100の製造方法は、上記の順に上述の工程を含むことが好ましい。
なお、図示しないが、セミレンズを製造する場合には、アニーリング後の偏光レンズ100の眼球側表面121を、処方にあわせて研削及び研磨してもよい。その後、偏光レンズ100の表面に機能層を形成する工程を有していてもよい。また、偏光レンズは、所望のフレーム形状に縁摺りし、枠入れされる。
偏光フィルムは、好ましくは、二色性色素と、ポリビニルアルコール(以下、単に「PVA」ともいう)、ポリエチレンテレフタレート(以下、単に「PET」ともいう)等の樹脂とを含む延伸フィルムである。これらの樹脂の中でもPVAが好ましい。PVAは、透明性、耐熱性、ヨウ素等の二色性染料との親和性、及び延伸時の配向性に優れるため、偏光フィルムの材料として好ましい。偏光フィルムの偏光層は、樹脂中にヨウ素を含浸させた樹脂フィルムを一軸方向に延伸することで得られる。
はじめに、偏光フィルムを湿潤下で収縮させる。当該工程により偏光フィルムの曲面加工が容易になるためである。
偏光フィルムの曲面加工は、フィルム形状を、所望の曲面形状にすることができる方法であれば、いずれの方法を採用することもできる。好ましい方法としては、プレス成形法が挙げられる。例えば、凸面型の上に偏光フィルムを配置した状態で押圧することにより、凸面形状を偏光フィルムに転写し、曲面形状を有する偏光フィルム14が得られる。
偏光フィルム14のベースカーブと、偏光レンズ100の物体側表面111のベースカーブとの差の絶対値は、好ましくは2.0ベース以下であり、より好ましくは1.5ベース以下であり、更に好ましくは1.0ベース以下である。
本実施形態の製造方法では、曲面加工後の偏光フィルム100を温度T1で乾燥する。なお、本実施形態において、温度T1とは、乾燥のための加熱処理を行う雰囲気の温度をいうものとする。本実施形態においては、偏光フィルムの視感透過率を高く維持するため、偏光フィルムの収縮率を低くするので、偏光フィルムの変形が顕著になるが、温度T1を後述の式(1)の条件を満たすように設定することで、偏光フィルムの変形を防ぐことができる。上記の乾燥は、大気中で行うことができる。
本実施形態の製造方法は、偏光フィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意することを含む。本実施形態の製造方法は、偏光レンズを、例えば、注型重合法(キャスティング法)を用いて製造する。キャスティング法は、上型モールドと、下型モールドと、上型モールド及び下型モールド間の距離を調整し、レンズ厚を決定するシール部材とにより形成されるキャビティ内で、硬化性組成物を硬化させることで、偏光レンズを得る方法である。
成形型に、硬化性組成物を注入する。硬化性組成物は、注入孔より注入器を用いて、上型モールド16と下型モールド18と粘着テープとで形成されたキャビティ内に、気泡が残らないように充填することが好ましい。注入孔は、上型モールド16と偏光フィルム14との間、及び下型モールド18と偏光フィルム14との間のいずれに形成されていてもよい。
硬化性組成物は、重合などにより硬化する反応型硬化性組成物であっても、溶融状態の熱可塑性樹脂を含む組成物であって冷却することで相転移型硬化性組成物であってもよい。
ポリチオウレタン樹脂のモノマーは、ポリイソシアナート成分と、ポリチオール成分である。
ポリイソシアナート成分としては、例えば、芳香族ポリイソシアナート化合物、脂環式ポリイソシアナート化合物、直鎖又は分岐鎖の脂肪族ポリイソシアナート化合物が挙げられる。
これらのポリイソシアナート化合物は、1種又は2種以上を使用してもよい。
ポリチオール成分としては、例えば、ポリオール化合物とメルカプト基含有カルボン酸化合物とのエステル化合物、直鎖又は分岐の脂肪族ポリチオール化合物、脂環構造を有するポリチオール化合物、芳香族ポリチオール化合物が挙げられる。
これらのポリチオール化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用しても
よい。
なお、ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカンジチオールは、好ましくは、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール、4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール、5,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオールの混合物である。
(1)キシリレンジイソシアナートを含むポリイソシアナート成分と、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール、4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール、5,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオールの混合物を含むポリチオール成分、
(2)ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンを含むポリイソシアナート成分と、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、及び、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパンを含むポリチオール成分、
(3)ジシクロヘキシルメタンジイソシアナートを含むポリイソシアナート成分と、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール、4,8-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオール、5,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン-1,11-ジチオールの混合物を含むポリチオール成分、
が挙げられる。
つまり、第1のレンズ要素部110及び前記第2のレンズ要素部120が、上述のイソシアナート成分と、上述のポリチオール成分により得られるポリチオウレタン樹脂を含有することが好ましい。
紫外線吸収剤は、好ましくは、クロロホルム溶液中において、345nm以上の極大吸収波長を有する。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジベンゾイルメタン、4-tert-ブチル-4'-メトキシベンゾイルメタン等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール及び2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
重合触媒は、好ましくは有機スズ化合物であり、より好ましくはアルキルスズハライド化合物又アルキルスズ化合物である。
硬化性組成物は、離型剤を含有することが好ましく、離型剤としてリン酸エステル化合物を含有することが好ましい。リン酸化合物を含有することで、成形型からの離形性を高めるのみならず、偏光フィルムと基材の接着性を向上させることができる。
付加重合樹脂のモノマーとしては、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを含む。付加重合樹脂は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートを含む付加重合性組成物の硬化物である。第1のレンズ要素部110及び前記第2のレンズ要素部120が、上述の付加重合性組成物の硬化物を含有することが好ましい。
単量体は、三次元架橋された光学用樹脂を得るために、好ましくは重合性不飽和結合を分子内に2以上有する単量体を含む。
重合性不飽和結合としては、例えば、(メタ)アクリレート基、アリル基、ビニル基等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレート基とは、メタクリレート基、及びアクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
これらの中でも、好ましくは、メタアクリレート基及びアリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
硬化性組成物を注入した成形型を加熱炉に入れて加熱することにより、硬化性組成物を硬化させることができる。ここで、加熱条件は、硬化性組成物の種類により決定することができ、好ましくは0℃以上150℃以下、より好ましくは10℃以上130℃以下、好ましくは5時間以上50時間以下、より好ましくは10時間以上25時間以下かけて昇温し、硬化を行う。硬化後、基材の内部に偏光フィルム14が配置された偏光レンズ100が得られる。
得られた偏光レンズ100は、温度T2でアニーリングされる。なお、本実施形態において、温度T2とは、偏光レンズのアニーリングのための加熱処理を行う雰囲気の温度をいうものとする。偏光レンズのアニーリングにおいては、通常、硬化性組成物に硬化によって生じた内部ひずみが取り除かれる。偏光レンズが高温条件に曝されることで、高い視感透過率を有し、収縮率を低くした偏光フィルムは、特に変形が生じやすくなるが、本実施形態の製造方法においては、偏光フィルムの乾燥時に温度T1をT2よりも高く設定することで、偏光レンズのアニーリングにおける偏光フィルムの変形を防ぐことができる。そのため、非点収差が低く抑えられた偏光レンズが得られる。なお、上記のアニーリングは、大気中で行うことができる。
偏光レンズは、上述の機能層が形成されていてもよい。各層の形成方法は、上述の方法等の公知の方法が用いられる。
<視感透過率>
視感透過率は、JIS T7333:2005に従って測定した。
偏光度(Peff)は、ISO8980-3に従って、紫外可視近赤外分光光度計「V-660」(日本分光株式会社製)を使用し、直線偏光光に対して偏光素子の透過軸が平行方向のときの視感透過率(T//)及び偏光素子の透過軸が直行方向のときの視感透過率(T⊥)を求め、次式により算出した。視感透過率(T//)及び視感透過率(T⊥)は、可視分光光度計と偏光子(グラントムソンプリズム)を用いて測定した。測定光は、偏光レンズの物体側表面から入射させた。
Peff(%)=〔(T//-T⊥)/(T//+T⊥)〕×100
偏光レンズの物体側表面幾何学中心での最大曲率半径(mm)(Rmax)と最小曲率半径(mm)(Rmin)を曲率半径測定装置「FOCOVISON」(Automation&Robotics社製)で測定した。最大曲率半径(mm)と最小曲率半径(mm)との曲率差(Rmax-Rmin)を非点収差とし、偏光レンズの変形の指標とした。
1.偏光フィルムの収縮、曲面加工、及び乾燥
偏光フィルムとして、二色性色素及びポリビニルアルコールを含む延伸フィルム(厚さ35μm)を、恒湿恒温装置内に配置し湿潤処理し、曲面加工開始時の含水率が約4%となるよう湿潤させた。湿潤させた偏光フィルムを、室温(20~25℃)に2分程度放置し、最大収縮率11%まで収縮させた。その後、図5に基づき説明した前述の方法により曲面加工した。曲面加工も、同様に室温で行った。
次いで、型から外した曲面加工した偏光フィルムを、市販の熱風循環式オーブンを用い、140℃で65分間加熱した。加熱後、上型モールドのキャビティ側面の周縁部の4ヶ所に接着剤柱を設けた。その後、接着剤柱上に偏光フィルムを介在させて、上型モールド及び下型モールドを、これらの間隔をシール部材として粘着テープを用いて、閉塞し成形型を組み立てた。上型モールド及び下型モールドの表面形状は球面とし、内径は80mm、曲率半径は130.4mmとした。
眼鏡レンズ用基材の原料として、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンを50.6質量部、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を23.90質量部、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパンを25.48質量部、紫外線吸収剤として2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールを2.8質量部、内部離型剤として、リン酸エステル化合物「ゼレックUN」(製品名、Stepan社製)を0.050質量部、ブルーイング剤を0.0250質量部添加し、混合した後、十分に撹拌して、完全に分散又は溶解させた眼鏡レンズ用基材の原料中に、触媒としてジブチルスズジクロライドを0.05質量部添加し、室温で十分に撹拌して均一液とし、その組成物を5mmHgに減圧して攪拌しながら30分間脱気を行い、硬化性組成物を調製した。
調製した硬化性組成物を、上述の曲面加工した偏光フィルムが内部に配置された成形型(ベースカーブ2.50ベース)に注入した。
その後、成形型を加熱炉に配置し、30℃で7時間保持し、その後30℃から120℃まで10時間かけて昇温し、加熱硬化を行った。
加熱硬化後、成形型を加熱炉より取り出し、粘着テープを剥離し、上型モールド及び下型モールドから偏光レンズを離型させて、偏光レンズA1を得た。得られた偏光レンズA1を加熱炉に配置し、120℃で2時間アニーリングした。得られた偏光レンズA1の屈折率neは、1.60、ガラス転移温度は118℃であった。
得られた偏光レンズA1について、上述の測定方法により、各種物性を測定した。なお、偏光レンズの物体側表面は球面設計であり、物体側表面幾何学中心とは、偏光レンズを平面視でみた円の中心を通る垂線と眼球側表面との交点である。
偏光フィルムの最大収縮率及び乾燥温度を表1に示すとおりとした以外は、実施例A1と同様の方法で偏光レンズA2~A8、A51~A52を得た。
実施例A1~A6の結果から、広い範囲の最大収縮率で、式(1)の条件を満たすことで、高い視感透過率が得られ、非点収差を低く抑えることができることがわかる。
実施例A1,A7,A8の結果から、広い範囲の乾燥温度T1で、式(1)の条件を満たすことで、高い視感透過率が得られ、非点収差を低く抑えることができることがわかる。
実施例A1で得られた偏光レンズA1を、赤色系染料を含む染色液中に浸漬して染色した。染色された偏光レンズについて、上述の方法で視感透過率を測定しその結果は32.8%であった。
実施例A1で得られた偏光レンズA1を、黄色系染料を含む染色液中で処理して染色した。染色された偏光レンズについて、上述の方法で視感透過率を測定しその結果は、31.7%であった。
実施例A1で得られた偏光レンズA1を、青色系染料を含む染色液中で処理して染色した。染色された偏光レンズについて目視で観察すると、発色性の低い濃色系の染料である青色系染料を用いたにもかかわらず、青色の発色が良好であった。
実施例A1で得られた偏光レンズA1を、緑色系染料を含む染色液中で処理して染色した。染色された偏光レンズについて、目視で観察すると、発色性の低い濃色系の染料である緑色系染料を用いたにもかかわらず、緑色の発色が良好であった。
Claims (7)
- 偏光フィルムを湿潤下で最大収縮率5%以上30%以下収縮させること、
前記偏光フィルムを曲面に加工すること、
前記偏光フィルムを温度T1で乾燥すること、
前記偏光フィルムが内部に配置されたキャビティを有する成形型を用意すること、
前記キャビティに硬化性組成物を注入すること、
前記硬化性組成物を硬化させることにより内部に偏光フィルムが配置された偏光レンズを得ること、及び
前記偏光レンズを温度T2でアニーリングすること、
を含み、
前記温度T1と前記温度T2の関係が以下の式(1)を満たし、
T1>T2・・・(1)
前記温度T 1 と前記温度T 2 の差(T 1 -T 2 )が、5℃以上40℃以下である、偏光レンズの製造方法。 - 前記温度T1が、120℃超え160℃以下である、請求項1に記載の偏光レンズの製造方法。
- 前記温度T2が、100℃以上130℃以下である、請求項1又は2に記載の偏光レンズの製造方法。
- 前記偏光レンズが、80℃以上150℃以下のガラス転移温度を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の偏光レンズの製造方法。
- 前記成形型を調製することが、上型モールド、乾燥後の前記偏光フィルム、及び下型モールドをこの順にそれぞれ間隔をもって配置して、前記上型モールドと前記下型モールドとの間隔をシール部材により閉塞することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の偏光レンズの製造方法。
- 前記上型モールドのキャビティ側面と前記偏光フィルムとの距離の最小値が0.05mm以上2.0mm以下である、請求項5に記載の偏光レンズの製造方法。
- 前記偏光レンズがマイナス度数を有する、請求項6に記載の偏光レンズの製造方法。
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