JP7355280B1 - 抵抗スポット溶接継手およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
[1] 2枚以上の鋼板が抵抗スポット溶接された抵抗スポット溶接部を有する抵抗スポット溶接継手であって、
前記鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板の引張強度が980MPa以上であり、
前記鋼板のうち、鋼板組織における焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトの面積分率の合計値X(%)が最も高い値となる鋼板の該合計値X(%)をXmax(%)とし、
前記Xmaxとなる鋼板側に形成された前記抵抗スポット溶接部における熱影響部の最軟化部から母材までの領域を第1領域としたとき、
前記第1領域の熱影響部組織が、面積分率で40%以下のフェライトと、焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトのうちから選択された1種または2種以上の残部組織とからなり、
かつ、前記第1領域の幅D(mm)が、(1)式を満たす、抵抗スポット溶接継手。
D≧2.40×exp(-0.025×Xmax) …(1)
[2] 前記鋼板は、(4)式で表されるCeqが0.25%以上である、上記[1]に記載の抵抗スポット溶接継手。
Ceq=C+Si/30+Mn/20+2P+4S …(4)
ここで、(4)式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。
[3] 上記[1]または上記[2]に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法であって、
2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする準備工程と、前記板組を1対の溶接電極で挟持し、加圧しながら通電して抵抗スポット溶接部を形成する抵抗スポット溶接工程と、を備え、
前記抵抗スポット溶接工程は、本通電工程と後通電工程を有し、
前記後通電工程では、電流値Ip(kA)および通電時間tp(ms)が(2)式および(3)式を満たす条件で通電する、抵抗スポット溶接継手の製造方法。
0.4×Im≦Ip≦1.1×Im …(2)
1000-(8×Xmax)≦tp …(3)
ここで、(2)式におけるImは、本通電工程における電流値(kA)であり、(3)式におけるXmaxは、前記鋼板のうち、鋼板組織における焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトの面積分率の合計値X(%)が最も高い値となる鋼板の該合計値Xの値である。
[4] 前記本通電工程の後に、さらに冷却工程を有し、
前記冷却工程では、20ms以上1000ms以下の間、無通電状態を保持する、上記[3]に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
図1は、本発明の一実施形態における抵抗スポット溶接継手の板厚方向断面図と、その抵抗スポット溶接継手の抵抗スポット溶接部の特定領域における、ナゲット端部からの距離とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。なお、図1には、1例として2枚の鋼板を抵抗スポット溶接した抵抗スポット溶接継手を示す。
<引張強度>
上記の「2枚以上の鋼板」には、少なくとも1枚の鋼板の引張強度が980MPa以上である鋼板(以下、「高強度鋼板」と称する場合もある。)を含む。上述のように、引張強度が980MPa以上の鋼板を用いると、抵抗スポット溶接部(以下、「溶接部」と称する場合もある。)の遅れ破壊が問題になりやすい。引張強度が980MPa以上の鋼板の使用量が多いほど、遅れ破壊時間の問題が生じやすくなるため、本発明の効果は、2枚以上の鋼板のうち半数以上の鋼板の引張強度が980MPa以上の場合に、より顕著に現れる。
上記の「2枚以上の鋼板」に用いる鋼板の成分組成は、特に限定されない。しかし、上述のように、高強度鋼板は一般的に多量のCのみならず種々の合金元素を添加して強度を高めたものであり、水素脆化感受性が大きくなることから、遅れ破壊の発生が問題になりやすい。
Ceq=C+Si/30+Mn/20+2P+4S …(4)
ここで、(4)式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。
上記の「2枚以上の鋼板」に用いる鋼板の全て又は一部が、めっき処理されて母材表面にめっき層を有するめっき鋼板であってもよい。めっき鋼板のめっき種としては、例えば、Zn系めっきやAl系めっき系が挙げられる。Zn系めっきとしては、溶融亜鉛めっき(GI)、Zn-Ni系めっき、Zn-Al系めっきなどのめっき層が挙げられる。また、Al系めっきとしては、Al-Si系めっき(例えば、10~20質量%のSiを含むAl-Si系めっき)などのめっき層が例示できる。溶融めっき層は、合金化された合金化溶融めっき層であってもよい。合金化溶融めっき層としては、例えば、合金化溶融亜鉛めっき(GA)層が挙げられる。
図1に示すように、溶接部3はナゲット1と、ナゲット1の外側に熱影響部2を有する。熱影響部組織には、軟化部と呼ばれる母材以下の硬さとなる領域が存在し、本発明の溶接継手では、この軟化部の組織を、以下に説明するように、適切に制御することが重要である。
D≧2.40×exp(-0.025×Xmax) …(1)
ここで、図1を用いて、上記の「熱影響部の最軟化部」および「最軟化部から母材までの領域」を説明する。
図1に示すように、溶接部3の熱影響部2の最軟化部とは、次の条件で硬さを測定した場合に、熱影響部2内で最も軟らかい部分の硬さとなる位置を指す。
フェライト:面積率で40%以下(0%を含む)
本発明の溶接継手では、第1領域のフェライトの面積分率は40%以下とする。第1領域のフェライトの面積分率が40%を超える場合、第1領域の幅Dを大きくしても水素吸蔵量を大きくすることが難しく、遅れ破壊を抑制する効果が得られない。第1領域のフェライトの面積分率は、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。
上述のように、水素吸蔵量の多い焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトの面積分率の合計を大きくすると、溶接部の遅れ破壊の抑止効果が高まる。このような理由から、残部組織である焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトのうちから選択された1種または2種以上は、面積分率の合計で、60%以上とすることが好ましい。残部組織の面積分率の合計は、より好ましくは70%以上とする。残部組織の面積分率の合計は、100%であってもよい。
上述のように、本発明の溶接継手は、熱影響部での水素吸蔵量が大きいため、遅れ破壊の防止に効果を発揮することができる。
この工程では、2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする。例えば、図1に示すように、2枚の鋼板5、6を重ね合わせて板組とする。なお、鋼板については、上述しているため説明は省略する。
次いで、抵抗スポット溶接工程を行う。この工程では、板組の下側および上側に配置される1対の溶接電極で上記の板組を挟持し、加圧しながら所定の溶接条件となるように制御して通電を行う。これにより、鋼板5、6の鋼板合わせ面7となる板間に上述の本発明の溶接部3を形成し、鋼板同士を接合することができる(図1を参照)。
0.4×Im≦Ip≦1.1×Im …(2)
1000-(8×Xmax)≦tp …(3)
ここで、(2)式におけるImは、本通電工程における電流値(kA)であり、(3)式におけるXmaxは、上記鋼板のうち、鋼板組織における焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトの面積分率の合計値X(%)が最も高い値となる鋼板の該Xの値である。
本通電工程では、上記の板組を1対の溶接電極で挟持し加圧しながら、電流値Imで通電してナゲットを形成する。図1に示す例では、重ね合わせた鋼板5、6(すなわち、板組)を1対の溶接電極(図示せず)で挟持した状態で加圧しながら通電して、抵抗発熱によって板間に必要なサイズのナゲット1を形成する。
冷却工程を設ける場合には、上述の本通電工程後で、かつ後通電工程の前に、冷却工程を行う。冷却工程によって、本通電工程後の鋼板合わせ面の接触状態および温度分布が安定化し、後通電工程における入熱を安定制御できる。このような作用効果を得るためには、冷却工程では、20ms以上1000ms以下の冷却時間tcの間、無通電状態を保持することが好ましい。冷却時間tcは、より好ましくは40ms以上とする。冷却時間tcは、より好ましくは600ms以下とし、さらに好ましくは400ms以下とし、さらに一層好ましくは100ms以下とする。
上述の本通電工程後、後通電工程を行う。冷却工程を設ける場合には、冷却工程後、後通電工程を行う。後通電工程では、第1の領域の幅Dの制御を目的として通電を行う。後通電工程を行わない場合、第1領域の幅Dを確保できない場合がある。そのため、電流値Ip(kA)および通電時間tp(ms)を適切に制御することが重要である。
ここでは、上述した第1領域の幅Dおよび第1領域の熱影響部組織を評価した。
作製した4体の溶接試験体のうち1体は、溶接部の中心をとおるように切断した。図3には、溶接試験体の板厚方向断面図を示した。図3に示すように、ナゲット端部Eとナゲット中央とを通る直線を鋼板の板厚方向に200μm移動させた直線A上で、かつ、ナゲット端部Eからナゲット1の外側3mmの長さの領域(すなわち、図3中の太矢印の領域)を、硬さ測定領域11、12とした。硬さの測定条件は測定荷重:300g、測定間隔:150μmとし、かつ、JIS Z 2244に記載のビッカース硬さ試験によって硬さを測定した。そして、上述のように、最軟化部の打点位置と、母材の95%以上の硬さとなる打点位置とを求め、これら2つの打点位置間の熱影響部内の領域を第1領域とした。また、第1の領域の幅Dを算出した(図1を参照)。得られた値を表2に示した。
残り3体の溶接試験体は、濃度1.5%のチオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬し、溶接部に水素を侵入させた後に、遅れ破壊の発生有無を観察した。遅れ破壊の判定については、溶接後にナゲットの剥離(すなわち、接合界面でナゲットが二つに剥離する現象)が目視で観察されたものを、遅れ破壊が発生したものと評価した。一方、このナゲットの剥離が観察されなかったものを、遅れ破壊が発生しなかったと評価した。各条件でn3の試験を行い、観察結果として、表2中の「遅れ破壊の評価」欄に次のように記載した。
n3すべての試験片で遅れ破壊が発生しなかった条件には、記号「〇」を記載した。n2の試験片で遅れ破壊が発生せず、かつn1の試験片で遅れ破壊が発生した条件には、記号「△」を記載した。遅れ破壊が発生しなかった試験片がn1以下であった条件には、記号「×」を記載した。ここでは、記号「〇」および「△」を良好な溶接継手である、と評価した。
2 熱影響部
3 抵抗スポット溶接部
4 第1領域
5 上鋼板
6 下鋼板
7 鋼板合わせ面
8 硬さ測定領域
9 溶接部
10 スペーサ
11、12 硬さ測定領域
Claims (4)
- 2枚以上の鋼板が抵抗スポット溶接された抵抗スポット溶接部を有する抵抗スポット溶接継手であって、
前記鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板の引張強度が980MPa以上であり、
前記鋼板のうち、鋼板組織における焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトの面積分率の合計値X(%)が最も高い値となる鋼板の該合計値X(%)をXmax(%)とし、
前記Xmaxとなる鋼板側に形成された前記抵抗スポット溶接部における熱影響部の最軟化部から母材までの領域を第1領域としたとき、
前記第1領域の熱影響部組織が、面積分率で40%以下のフェライトと、焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトのうちから選択された1種または2種以上の残部組織とからなり、
かつ、前記第1領域の幅D(mm)が、(1)式を満たす、抵抗スポット溶接継手。
D≧2.40×exp(-0.025×Xmax) …(1) - 前記鋼板は、(4)式で表されるCeqが0.25%以上である、請求項1に記載の抵抗スポット溶接継手。
Ceq=C+Si/30+Mn/20+2P+4S …(4)
ここで、(4)式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を示す。 - 請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法であって、
2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする準備工程と、前記板組を1対の溶接電極で挟持し、加圧しながら通電して抵抗スポット溶接部を形成する抵抗スポット溶接工程と、を備え、
前記抵抗スポット溶接工程は、本通電工程と後通電工程を有し、
前記後通電工程では、電流値Ip(kA)および通電時間tp(ms)が(2)式および(3)式を満たす条件で通電する、抵抗スポット溶接継手の製造方法。
0.4×Im≦Ip≦1.1×Im …(2)
1000-(8×Xmax)≦tp …(3)
ここで、(2)式におけるImは、本通電工程における電流値(kA)であり、(3)式におけるXmaxは、前記鋼板のうち、鋼板組織における焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイトおよび残留オーステナイトの面積分率の合計値X(%)が最も高い値となる鋼板の該合計値Xの値である。 - 前記本通電工程の後に、さらに冷却工程を有し、
前記冷却工程では、20ms以上1000ms以下の間、無通電状態を保持する、請求項3に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
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