JP7468825B1 - 抵抗スポット溶接継手の製造方法 - Google Patents

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Abstract

抵抗スポット溶接継手の製造方法の提供を目的とする。本発明は、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする準備工程と、板組を抵抗スポット溶接する溶接工程と、抵抗スポット溶接部に熱処理を施す熱処理工程と、を有し、溶接工程では、抵抗スポット溶接部を形成する主通電工程の後に、20~800msの冷却時間tc1の間、抵抗スポット溶接部を冷却する冷却過程と、次いで所定の電流値I2で10~200msの通電時間t2の間、抵抗スポット溶接部の通電を行う昇温過程と、次いで所定の電流値I3で0ms超え600ms未満の通電時間t3の間、抵抗スポット溶接部の通電を行う保持過程と、を有する後熱処理工程を行い、熱処理工程では、70~300℃の温度Tで5~30minを満たす時間t4の間、抵抗スポット溶接部に熱処理を施す。

Description

本発明は、抵抗スポット溶接継手の製造方法に関する。
近年、自動車車体には、燃費改善のための軽量化および衝突安全性の確保の観点から、種々の高強度鋼板(ハイテンとも称する)の適用が進められている。また、自動車の組み立てラインにおいては、部材の接合として主に抵抗スポット溶接が用いられている。
抵抗スポット溶接で接合された抵抗スポット溶接部の継手強度は、せん断方向への引張強度であるせん断引張強度(TSS:Tensile shear strength)と剥離方向への引張強度である十字引張強度(CTS:Cross tension strength)で評価される。
抵抗スポット溶接部におけるTSSは母材の引張強度と共に増加する傾向にあるが、CTSは母材の引張強度が980N/mm2以上(すなわち980MPa以上)では低下する場合がある。CTSが低下する場合、抵抗スポット溶接部(以下、「溶接部」と称する場合もある)の破断形態は、溶接部の周囲の母材または熱影響部(HAZ)で延性的に破断するプラグ破断から、ナゲット内で脆性的に破断する界面破断もしくは部分プラグ破断へ、遷移する。CTSが低下する主な原因は、急冷後のナゲット端部の硬化によって脆性的な破壊が起こることにあるとされている。さらには、鋼板の高強度化に伴い、水素脆化感受性が高くなることにあるとされている。
そして、抵抗スポット溶接では、鋼板表面の防錆油や鋼板表面上のめっき層などの影響により、溶接部に水素が取り込まれ、その結果、遅れ破壊が生じやすくなる。
このような問題を解決する技術として、例えば特許文献1、2が挙げられる。
特許文献1には、引張強度が440MPa以上の鋼板を抵抗スポット溶接した後に、溶接部に下記式(A)を充足する熱処理を施すことが開示されている。
300≦T・(log10(t)+1)≦1000 …(A)
特許文献2には、炭素当量(Ceq)が0.22~0.55質量%の範囲である高強度鋼板に溶接通電を実施してナゲットを形成した後、偏析緩和のための高い電流値で後通電を行うことで、溶接継手の十字引張強度、疲労強度、および耐遅れ破壊性などを改善できることが開示されている。
特開2010-59451号公報 特許第6194765号公報
しかしながら、特許文献1の技術では、この熱処理の数式範囲が極めて広範囲であり、熱処理を数十年単位で与える場合も含まれることになっており、現実的ではない。
また特許文献1の技術では、ナゲット端部の靭性を向上させるために鋼板成分としてC、PおよびSを規定しているが、偏析元素の含有量が低い。また、特許文献1の実施例の表4に記載されているC量およびP量は広範囲な記載であり、具体的でない。このことから、熱処理による効果によってL字強度(すなわち、L字継手の引張強度)が向上するものであるのか、あるいは鋼板成分によってL字強度が向上するものであるのかが、不明である。
特許文献2の技術を本発明に適用する場合、後述する本発明例の高強度鋼板は、高C含有鋼板を対象としていることから、特許文献2に開示される後通電のみで高い十字引張強度を得るのは困難である。そのため、後述するように、本発明では溶接後に熱処理を行うことで、ナゲット端部の焼戻しを促進するものである。すなわち、両者の技術思想が異なっている。
そして、上述のとおり、引張強度が980MPa以上の鋼板、特に引張強度が980MPa以上かつC含有量が0.10~0.40質量%の高強度鋼板を、単通電のみで溶接するスポット溶接方法では、CTSが低下する問題があり、改善することが求められている。さらに、遅れ破壊が生じる問題もある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、継手強度特性(具体的には、CTSおよび耐遅れ破壊特性)を向上させることが可能な、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む複数の鋼板を接合する抵抗スポット溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
本発明では、上記課題を解決するために、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む板組を用いて、抵抗スポット溶接におけるCTSの向上方法および遅れ破壊の低下メカニズムについて、鋭意検討した。
上述のように、鋼板の高強度化が進むにつれ、CTSは低下する。CTSが低い場合の破断形態は、抵抗スポット溶接部の周囲の母材またはHAZで延性的に破断するプラグ破断から、ナゲット内で脆性的に破断する界面破断もしくは部分プラグ破断へ、遷移する。これにより、高強度鋼板ではCTSの確保が困難となる。
界面破断となる原因は、(a)ナゲット端部における凝固時のセルもしくはデンドライト間に生じる偏析による脆化、(b)ナゲット形成後の急冷により硬化組織が形成されることによるナゲット端部の脆化、(c)硬化によるナゲット端部への応力集中、が挙げられる。これらの原因を回避するためには、プラグ破断させることが重要である。また、この脆性破壊を起こさないためには、ナゲット端部の組織が十分な靱性を有すること、かつ、ナゲット端部への応力集中を緩和するためにき裂の進展経路を変えることが必要である。
そこで、溶接プロセス中の後通電によるナゲット端部の再熱および溶接後の熱処理を行うことによりナゲット端部近傍が効果的に焼戻され、これによりき裂の進展経路がナゲット内部へ進まず、鋼板表面方向へ進展する。その結果、プラグ破断化することが可能となる。
また、遅れ破壊が生じる原因として、破壊起点となるナゲット端部の硬さ、更にはナゲット端部に存在する偏析や介在物の影響が考えられる。これらの原因を回避するためには、ナゲット端部の硬化を防ぐこと、および残留応力を減らすことが有効である。本発明によれば、ナゲット端部近傍を焼戻すことができることから、ナゲット端部近傍の残留応力を低減することが可能であり、これにより遅れ破壊が生じにくくなることを見出した。
すなわち、本発明では、溶接時の通電方法を適正に制御することによってナゲット端部近傍の焼戻しを行い、更に、後続の熱処理によってもナゲット端部近傍を焼戻すことで、ナゲット端部の靭性向上およびナゲット端部近傍の残留応力の低減を実現する。これにより、得られる溶接継手のCTSが向上し、さらに耐遅れ破壊特性が向上する。
本発明は、上記の知見に立脚するものであり、以下を要旨とするものである。
[1] 少なくとも1枚の高強度鋼板を含む2枚以上の鋼板が抵抗スポット溶接された抵抗スポット溶接継手の製造方法であって、
前記2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする準備工程と、前記板組を抵抗スポット溶接して抵抗スポット溶接部を形成する溶接工程と、前記溶接工程で形成した抵抗スポット溶接部に熱処理を施す熱処理工程と、を有し、
前記高強度鋼板として、質量%で、
C:0.10~0.40%、
Si:0.1~2.0%、
Mn:1.5~5.5%、
P:0.10%以下、
S:0.005%以下、
N:0.001~0.010%、および
O:0.03%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成の鋼板を用い、
前記溶接工程では、
前記板組を電流値I1(kA)で通電することにより抵抗スポット溶接部を形成する主通電工程を行い、
前記主通電工程の後に、式(1)に示す冷却時間tc1(ms)の間、前記抵抗スポット溶接部を冷却する冷却過程と、
次いで、式(2)に示す電流値I2(kA)で、式(3)に示す通電時間t2(ms)の間、前記抵抗スポット溶接部の通電を行う昇温過程と、
次いで、式(4)に示す電流値I3(kA)で、式(5)に示す通電時間t3(ms)の間、前記抵抗スポット溶接部の通電を行う保持過程と、を有する後熱処理工程を行い、
前記熱処理工程では、
前記後熱処理工程後の抵抗スポット溶接部に、式(6)を満たす温度T(℃)の範囲で、式(7)を満たす時間t4(min)の間、熱処理を施す、
抵抗スポット溶接継手の製造方法。
20≦tc1≦800 …式(1)
1≦I2≦2.0×I1 …式(2)
10≦t2≦200 …式(3)
0.10×I2<I3≦0.95×I2 …式(4)
0<t3<600 …式(5)
70 ≦ T ≦ 300 …式(6)
5 ≦ t4 ≦ 30 …式(7)
[2] 前記高強度鋼板の前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.8%以下、
Ni:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Nb:0.080%以下、
V:0.50%以下、
Ti:0.20%以下、
B:0.005%以下、
Al:2.0%以下、および
Ca:0.005%以下
から選択される1種または2種以上を含有する、[1]に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
[3] 前記高強度鋼板は鋼板表面に亜鉛めっき層を有する、[1]または[2]に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
本発明によれば、高強度鋼板を含む複数の鋼板が溶接された抵抗スポット溶接継手の抵抗スポット溶接部における、ナゲット端部の靭性を向上すること、およびナゲット端部近傍の残留応力を減らすことができる。これにより、抵抗スポット溶接継手のCTSおよび耐遅れ破壊特性を向上することができるため、産業上格段の効果を奏する。
図1は、本発明の製造方法のおける抵抗スポット溶接方法の一例を説明する断面図である。 図2は本発明の製造方法における溶接工程の通電パターンの一例を説明する図である。 図3は抵抗スポット溶接部を模式的に示す板厚方向断面図である。
以下、各図を参照して、本発明の抵抗スポット溶接継手の製造方法について説明する。なお、本発明は、この実施形態に限定されない。
本発明は、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む、合計枚数が2枚以上となる鋼板を重ね合わせて板組とし、次いで、この板組を一対の溶接電極で挟持し、該溶接電極で加圧しながら後述する通電パターンで抵抗スポット溶接して鋼板同士を接合し、次いで、形成した抵抗スポット溶接部に熱処理を施すことで溶接継手を製造する、抵抗スポット溶接継手の製造方法である。
具体的には、本発明の抵抗スポット溶接継手の製造方法は、製造工程として、2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする準備工程と、当該板組を抵抗スポット溶接して抵抗スポット溶接部を形成する溶接工程と、溶接工程で形成した抵抗スポット溶接部に熱処理を施す熱処理工程と、を有する。
<準備工程>
この工程では、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む、2枚以上の鋼板を準備し、当該2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする。例えば、後述の図1に示すように、下側に配置される鋼板1(すなわち下鋼板)と上側に配置される鋼板2(すなわち上鋼板)とを重ね合わせて、板組とする。鋼板1および鋼板2の少なくとも1枚の鋼板が高強度鋼板である。本発明における高強度鋼板とは、後述する成分組成を有する鋼板である。また、重ね合わせる鋼板の枚数の上限は特に規定しないが、4枚以下とすることが好ましい。
次いで、溶接工程が行われる。
<溶接工程>
溶接工程は、後述する主通電工程と後熱処理工程とを有する。この溶接工程では、準備工程で準備した板組の接合を行う。
図1には、一例として、2枚の鋼板を抵抗スポット溶接する溶接工程を説明する板厚方向断面図を示す。以降の説明では、図1を参照し、重ね合わせた2枚の鋼板を本発明の製造方法によって接合する場合について説明する。
図1に示すように、この溶接工程では、まず、板組に対して下側および上側に配置される一対の溶接電極4、5(すなわち下電極、上電極)を用いて、当該板組を挟持した状態で加圧しながら、図2に示すような所定の溶接条件となるように制御して通電する。これにより、抵抗発熱により鋼板重ね面7となる鋼板間に必要サイズのナゲット3を形成することによって、鋼板同士が接合される。
例えば、高強度冷延鋼板と高強度めっき鋼板とを重ね合わせて板組とする場合には、当該高強度めっき鋼板のめっき層を有する面が高強度冷延鋼板と対向するように、2枚の鋼板を重ね合わせればよい。
なお、図示は省略するが、3枚以上の鋼板を重ね合わせて板組としてもよく、この板組を抵抗スポット溶接する場合には、各鋼板間の鋼板重ね面を含むようにナゲットが形成される。
次いで、熱処理工程が行われる。
<熱処理工程>
熱処理工程では、溶接工程で形成した抵抗スポット溶接部に、後述する条件で熱処理を施す。この工程は、上述のように、ナゲット端部を再熱し、ナゲット端部近傍が効果的に焼戻されることを目的として行う。この熱処理工程によって、上記特性(具体的にはCTSおよび耐遅れ破壊特性)を向上させた抵抗スポット溶接継手(以下、「溶接継手」と称する場合もある)を製造できる。
なお、本発明の溶接工程における抵抗スポット溶接方法を実施する溶接装置は、一対の溶接電極(すなわち下電極と上電極)を備え、下電極と上電極によって溶接する部分(領域)を挟み、下電極と上電極によって加圧および通電ができ、且つ、溶接中の加圧力および溶接電流をそれぞれ任意に制御可能な構成を有していればよい。その構成は特に限定されない。
例えば、加圧機構として、エアシリンダやサーボモータ等の機器が使用できる。また例えば、電流制御機構として、交流や直流のいずれにも本発明を適用でき、定置式やロボットガン等の形式も特に限定されない。また例えば、電源の種類として、単相交流や交流インバータや直流インバータ等も特に限定されない。交流の場合は、「電流」は「実効電流」を意味する。
また、下電極や上電極の先端の形式も特に限定されない。例えば、JIS C 9304:1999に記載されるDR形(ドームラジアス形)、R形(ラジアス形)、D形(ドーム形)等が挙げられる。各電極の先端径は、例えば4mm~16mmである。曲率半径は例えば10mm~400mmであり、先端が平坦なFlat型電極とすることもできる。
[高強度鋼板]
本発明で用いる高強度鋼板の母材の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の説明において、成分組成の「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を指すものとする。
C:0.10~0.40%
Cは鋼の強化に寄与する元素である。C含有量が0.10%未満では、鋼の強度が低くなり、引張強度が980MPa以上の鋼板を製作することは極めて困難である。一方、C含有量が0.40%を超えると、鋼板の強度は高くなるものの、溶接継手における硬質なマルテンサイト量が過大となり、マイクロボイドが増加する。更にナゲットとその周辺のHAZが過度に硬化し、脆化も進むため、CTSを向上させることは困難である。そのため、C含有量は0.10~0.40%とする。C含有量は、好ましくは0.12%以上とする。C含有量は、好ましくは0.38%以下とする。
Si:0.1~2.0%
Si含有量が0.1%以上であると、鋼の強化に有効に作用する。また、Siはフェライトフォーマー元素であることからナゲット端部のフェライトの生成に優位に働く。一方、Si含有量が2.0%を超えると、鋼は強化されるものの、靱性に悪影響を与えることがある。そのため、Si含有量は0.1~2.0%とする。Si含有量は、好ましくは0.2%以上とする。Si含有量は、好ましくは1.8%以下とする。
Mn:1.5~5.5%
Mn含有量が1.5%未満であると、本発明のような必要な強度をもつ高強度鋼板を製造することが難しい。一方、Mn含有量が5.5%を超えると、抵抗スポット溶接部の脆化あるいは脆化に伴う割れが顕著に現れるため、継手強度を向上させることは困難である。そのため、Mn含有量は1.5~5.5%とする。Mn含有量は、好ましくは2.0%以上とする。Mn含有量は、好ましくは5.0%以下とする。
P:0.10%以下
Pは不可避的不純物であるが、P含有量が0.10%を超えると、抵抗スポット溶接部のナゲット端部に強偏析が現れるため、継手強度を向上させることは困難である。そのため、P含有量は0.10%以下とする。P含有量は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.02%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の低減はコストの増加を招くので、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
S:0.005%以下
Sは、粒界に偏析して鋼を脆化させる元素である。さらに、Sは、硫化物と鋼板の局部変形能を低下させる。そのため、S含有量は0.005%以下とする。S含有量は、好ましくは0.004%以下とし、より好ましくは0.003%以下とする。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の低減はコストの増加を招くので、S含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
N:0.001~0.010%
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。そのため、N含有量は0.001~0.010%とする。N含有量は、好ましくは0.008%以下とする。
O:0.03%以下
O(酸素)は非金属介在物を生成することにより、鋼の清浄度、靭性を劣化させる元素である。そのため、O含有量は0.03%以下とする。O含有量は、0.02%以下とすることが好ましい。また、O含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
本発明に用いる高強度鋼板は、上記各元素を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物である。
本発明では、上記成分組成が高強度鋼板の基本の成分組成である。本発明では、上記成分組成に加え、必要に応じて、Cu、Ni、Mo、Cr、Nb、V、Ti、B、AlおよびCaのうちから選択される1種または2種以上の元素を加えることができる。なお、必要に応じて含有できるので、これらの元素は0%であってもよい。
Cu:0.8%以下、Ni:1.0%以下、Mo:1.0%以下
Cu、Ni、Moは、鋼の強度向上に寄与することができる元素である。しかし、多量に添加すると靭性が劣化する。このため、これらの元素を含有する場合、それぞれ、Cu含有量は0.8%以下とし、Ni:1.0%以下とし、Mo:1.0%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.6%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.005%以上とし、より好ましくは0.006%以上とする。Ni含有量は、より好ましくは0.8%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.01%以上とする。Mo含有量は、より好ましくは0.8%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.005%以上とし、より好ましくは0.006%以上とする。
Cr:1.0%以下
Crは、焼入れ性の向上により強度を向上させることができる元素である。しかし、Crは1.0%を超えて過剰に含有すると、HAZの靱性が劣化する恐れがある。このため、Crを含有する場合、Cr含有量は1.0%以下とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.8%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.01%以上とする。
Nb:0.080%以下
Nbは、微細な炭窒化物を形成することで抵抗スポット溶接後のCTSおよび耐遅れ破壊特性を向上させる。その効果を得るためには、Nbを0.005%以上含有させる。一方、多量にNbを添加すると、伸びが著しく低下するだけでなく、靭性を著しく損ねることから、Nb含有量は0.080%以下とする。このため、Nbを含有する場合、Nb含有量は0.080%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.070%以下とし、さらに好ましくは0.060%以下とする。Nb含有量は、好ましくは0.005%以上とし、より好ましくは0.006%以上とする。
V:0.50%以下
Vは、析出硬化により組織制御をして鋼を強化することができる元素である。しかし、多量に添加するとHAZ靱性の劣化につながる。このため、Vを含有する場合、V含有量は0.50%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.3%以下とする。V含有量は、好ましくは0.005%以上とし、より好ましくは0.02%以上とする。
Ti:0.20%以下
Tiは、焼入れ性を改善して鋼を強化することができる元素である。しかし、多量に添加すると炭化物を形成し、その析出硬化によって靭性が著しく劣化する。このため、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.20%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.15%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.003%以上とし、より好ましくは0.004%以上とする。
B:0.005%以下
Bは、焼入れ性を改善して鋼を強化することができる元素である。このため、Bを含有する場合、B含有量は0.0005%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0007%以上とする。しかし、Bを多量に添加しても、上記効果は飽和することから、B含有量は0.005%以下とする。B含有量は、より好ましくは0.0010%以下とする。
Al:2.0%以下
Alは、オーステナイト細粒化のため組織制御をすることができる元素であるが、多量に添加すると靭性が劣化する。このため、Alを含有する場合、Al含有量は2.0%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは1.5%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.02%以上とし、より好ましくは1.2%以上とする。
Ca:0.005%以下
Caは、鋼の加工性向上に寄与することができる元素である。しかし、多量に添加すると靭性が劣化する。このため、Caを含有する場合、Ca含有量は0.005%以下とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.004%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
上記した成分組成を有する高強度鋼板は、引張強度を980MPa以上とすることができる。高強度鋼板の引張強度は、好ましくは1180MPa以上とする。上述のように、特に母材の引張強度が980MPa以上の場合、CTSの低下および耐遅れ破壊特性が悪化する恐れがある。本発明によれば、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板であっても、偏析緩和と焼戻しにより、ナゲット端部近傍が靱性を有する組織となる。このことから、ナゲット端部の脆性的な破壊を防止できる。これにより、抵抗スポット溶接部はCTSの低下の抑制および耐遅れ破壊特性の向上が可能となる。なお、引張強度が980MPa未満の高強度鋼板でも、当然に上記の効果は得られる。
[高強度鋼板のめっき種]
本発明の高強度鋼板は、亜鉛めっき処理を施して、鋼板表面に亜鉛めっき層を有する鋼板(すなわち亜鉛めっき鋼板)であっても、上記の効果を得ることができる。亜鉛めっき層とは、亜鉛を主成分とするめっき層を指す。亜鉛を主成分とするめっき層には、例えば、溶融亜鉛めっき層、電気亜鉛めっき層、Zn-Alめっき層およびZn-Ni層等が含まれる。また、本発明の高強度鋼板は、上記の亜鉛めっき処理を施した後に合金化処理を施して、母材表面に合金化亜鉛めっき層を有する合金化亜鉛めっき鋼板であってもよい。
なお、本発明において重ね合わせる鋼板は、同種の鋼板を2枚以上重ねてもよく、あるいは異種の鋼板を2枚以上重ねてもよい。鋼板表面に亜鉛めっき層を有する鋼板(ここでは亜鉛めっき鋼板)と鋼板表面に亜鉛めっき層を有さない鋼板(ここでは冷延鋼板)とを重ね合わせてもよい。各鋼板の板厚は同じでも異なっていても何ら問題はない。一般的な自動車用鋼板を対象とする観点から、例えば鋼板の板厚は0.4mm~2.2mmとすることが好ましい。
次に、本発明の製造方法における溶接工程の通電パターンについて説明する。
本発明の溶接工程では、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む2枚以上の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の溶接電極で狭持し、加圧しながら通電して接合する。この通電として、主通電工程と後熱処理工程とを有する。以下に、各工程について詳細に説明する。
<主通電工程>
主通電工程とは、板組を構成する鋼板1、2の鋼板重ね面7を溶融して必要サイズのナゲット3を形成する工程である(図1を参照)。主通電工程では、板組を電流値I(kA)で通電することにより抵抗スポット溶接部としてナゲットを形成する。
自動車鋼板の抵抗スポット溶接部に採用されるナゲット径は、3.0√t(mm)~6.0√t(mm)(ここで、t(mm)は板厚である)が一般的である。本発明では、この数値範囲を「目標のナゲット径」とする。本発明の主通電工程では、目標のナゲット径となるナゲット3を得られればよく、このナゲット3を形成するための通電条件および加圧条件は特に限定しない。
重ね合わせる鋼板に本発明の高強度鋼板を用い、鋼板重ね面に目標のナゲット径となるナゲット3を安定して形成する観点からは、主通電工程の通電条件および加圧条件を次のように制御することが好ましい。
主通電工程の電流値I(kA)は、好ましくは4.0kA~8.0kAとする。電流値Iが小さすぎると目標のナゲット径を安定的に得られない。一方、電流値Iが大きすぎると、ナゲット径が大きくなりすぎる可能性、あるいは、鋼板の溶融度合いが大きくなり、散りとして溶けた抵抗スポット溶接部が板間より外に出てしまい、ナゲット径が小さくなる可能性がある。このような理由から電流値Iは4.0kA~8.0kAとする。電流値Iは、より好ましくは4.5kA以上とし、より好ましくは7.5kA以下とする。しかしながら、必要とするナゲット径が得られれば、電流値Iは上記数値範囲に対して短く設定しても、あるいは長く設定してもよい。
なお、実施工上、ナゲットを形成する通電が多段に制御される場合もある。この場合には、ナゲット形成に対して中心的な役割を担う通電を主通電工程として扱うものとし、このときの電流値をIとする。
主通電工程の通電時間t(ms)は、好ましくは120ms~400msとする。これは、電流値Iと同様に、安定的に目標のナゲット径となるナゲット3を形成するための時間である。通電時間tが120ms未満では、ナゲットが生成しにくくなることが懸念される。一方、通電時間tが400msを超えると、形成されるナゲット径が目標のナゲット径に比べて大きくなる可能性と、施工性の低下とが懸念される。しかしながら、必要とするナゲット径が得られれば、通電時間tは上記数値範囲に対して短く設定しても、あるいは長く設定してもよい。
主通電工程での加圧条件は、好ましくは加圧力を2.0kN~7.0kNとする。加圧力が大き過ぎると通電径が拡大するため、ナゲット径の確保が難しくなりやすい。一方、加圧力が小さ過ぎると、通電径が小さくなり、散りが発生しやすくなる。このような理由から加圧力は2.0kN~7.0kNとする。加圧力は、より好ましくは3.0kN以上とし、より好ましくは6.5kN以下とする。加圧力は、使用する装置能力によって制限される場合がある。必要とするナゲット径が得られる加圧力であれば、加圧力は上記数値範囲に対して低く設定し、あるいは高く設定してもよい。
<後熱処理工程>
後熱処理工程とは、主通電工程で形成された抵抗スポット溶接部における、ナゲット端部の外側(図3を参照)を焼戻すための後熱処理の工程である。主通電工程の後に行う後熱処理工程では、ナゲット端部に対して冷却過程、昇温過程および保持過程をこの順に施す。溶接プロセス中の後通電によるナゲット端部の再熱によってナゲット端部近傍を効果的に焼き戻すためには、後熱処理工程における各過程の溶接条件を次のように制御することが重要である。
[冷却過程]
まず、後続の昇温過程でナゲット端部を再発熱させるために、ナゲット端部の冷却を行う。具体的には、冷却過程では、式(1)に示す冷却時間tc1(ms)の間、無通電状態を保持することで、抵抗スポット溶接部を冷却する。
20≦tc1≦800…(1)
冷却過程の冷却時間tc1(ms)が20ms未満の場合、温度が下がらないまま後続の昇温過程および保持過程での通電が行われるため、ナゲット端部の温度が過度に上昇してしまい、ナゲット径が大きくなってしまう。その結果、溶融し、散りとして溶融金属が外へ出てしまう場合がある。これにより必要なナゲット径を確保できない。したがって、昇温過程において後通電を行っても、ナゲット径の大きさを維持しながら、ナゲット端部のみを発熱させるためには、冷却時間tc1(ms)は20ms以上とする。
また、冷却時間は長くてもマルテンサイト変態を進めることができるため、抵抗スポット溶接部の品質として悪化することはない。溶接時間が長くなると施工効率が低下するため、施工性の観点から冷却時間tc1の上限は800ms以下とする。冷却時間tc1(ms)は、好ましくは60ms以上とし、好ましくは700ms以下とする。
後熱処理工程の冷却過程での加圧条件は、加圧力を2.5kN~7.0kNとすることが好ましい。加圧力が小さ過ぎると電極の接触面積が小さいために冷却が進行せず、マルテンサイト変態を進めることができない。一方、加圧力が大き過ぎると、板が変形してしまう可能性がある。このような理由から加圧力は2.5kN~7.0kNとする。加圧力は、より好ましくは3.0kN以上とする。加圧力は、より好ましくは6.5kN以下とする。加圧力は、使用する装置能力によって制限される場合がある。必要とするナゲット径が得られる加圧力であれば、加圧力は上記数値範囲に対して低く設定し、あるいは高く設定することができる。
[昇温過程]
冷却過程に続いて、昇温過程を行う。昇温過程では、ナゲット端部を再発熱させることで、ナゲット端部の偏析の緩和およびナゲット端部近傍の硬化組織の焼戻しの効果を得るために、適切な温度域に昇温する通電(すなわち後通電)を行う。この「適切な温度域」とは、散りが発生せずにナゲット端部のみを再発熱させるための温度域を指す。
具体的には、昇温過程では、式(2)に示す電流値I2(kA)で、式(3)に示す通電時間t2(ms)の間、抵抗スポット溶接部を通電する。
1≦I2≦2.0×I1 …(2)
10≦t2≦200 …(3)
通常、テンパー通電はナゲット中心の発熱とすることから、ナゲット全体を焼戻すために主通電工程の電流値よりも低い電流値で焼戻しを行う。しかしながら、本発明では、ナゲット中心から離れたナゲット端部のみを発熱させるための後通電を行うものである。
ここで、本発明における「ナゲット端部近傍」とは、図3に示すように、ナゲット端部と、該ナゲット端部の外側に位置するHAZ内の一部領域とを指す。また「ナゲット端部」とは、ナゲット外周縁(すなわち、ナゲットとHAZの境界)側のナゲット内の両端部を指す。
したがって、昇温過程の電流値I2(kA)は、上記式(2)の関係を満たすものとする。昇温過程の電流値I2がI1(kA)未満の場合、十分な入熱とならず、その結果、ナゲット端部を発熱させることができない。電流値I2は、好ましくは(1.12×I1)(kA)以上とする。
一方、昇温過程の電流値I2が、(2.0×I1)(kA)を超える場合、ナゲット端部が融点を超えてしまう可能性が高い。その結果、ナゲット内部の溶融金属が散りとして外へ出てしまい、必要なナゲット径を得られない可能性も高くなる。電流値I2は、好ましくは(1.8×I1)(kA)以下とする。
上述のように、昇温過程は、短時間で急速に温度を上げるため、通電時間t2(ms)は、上記式(3)の数値範囲内とする。通電時間t2が200msを超える場合、温度が高くなりすぎてしまい、オーステナイト単相域まで上昇してしまう可能性が高くなる。その結果、最終的に脆化した組織であるマルテンサイト組織となってしまい、継手強度および耐遅れ破壊特性を向上させることができない。通電時間t2は、好ましくは60ms以上とし、好ましくは180ms以下とする。
後熱処理工程の昇温過程での加圧条件は、加圧力を2.5kN~7.0kNとすることが好ましい。加圧力が大き過ぎると接触面積が広がるために、ナゲット径が大きくなってしまう可能性がある。一方、加圧力が小さ過ぎると、十分な電流密度を確保することができず、後通電の効果が得られなくなる可能性がある。このような理由から加圧力は2.5kN~7.0kNとする。加圧力は、より好ましくは3.0kN以上とし、より好ましくは6.5kN以下とする。
[保持過程]
昇温過程に続いて、保持過程を行う。保持過程では、昇温過程で急速に上げた温度を維持し、ナゲット端部の焼戻しの効果をより促進するための通電を行う。
具体的には、保持過程では、式(4)に示す電流値I3(kA)で、式(5)に示す通電時間t3(ms)の間、抵抗スポット溶接部の通電を行う。
0.10×I2<I3≦0.95×I2 …式(4)
0<t3<600 …式(5)
保持過程は、昇温過程より低温で温度保持することを目的とする。そのため、保持過程の電流値I3が高過ぎる場合、ナゲット端部の温度が高温となり、その結果、散りが発生してしまう可能性が高くなる。したがって、電流値I3(kA)は、(0.95×I2)(kA)以下とする。電流値I3は、好ましくは(0.85×I2)(kA)以下とする。
保持過程の電流値I3が昇温過程の電流値I2(kA)より低ければ、偏析の緩和およびナゲット端部の硬化組織の焼戻しを行うことができる。しかし、電流値I3が(0.10×I2)(kA)未満であれば、昇温過程で与えた温度に一時的に温度が上昇するのみとなり、ナゲット端部を焼戻す効果の程度が低くなってしまう可能性がある。したがって、電流値I3(kA)は、(0.10×I2)(kA)超えとする。電流値I3は、好ましくは(0.20×I2)(kA)以上とする。
また、保持過程での通電時間(すなわち保持時間)t3が0msの場合、ナゲット端部を焼戻すことが困難である。したがって、通電時間t3は0ms超えとする。通電時間t3は、好ましくは20ms以上とする。
一方、保持過程での通電時間t3が600ms以上の場合、温度が上昇してしまい、ナゲット端部を効果的に焼戻すことが困難となる。また、温度が上昇することで、ナゲット端部が再度オーステナイト領域まで上昇し、結果的に脆化したマルテンサイト組織となる可能性がある。したがって、通電時間t3は600ms未満とする。通電時間t3は、好ましくは400ms以下とする。
後熱処理工程の保持過程での加圧条件は、加圧力を2.0kN~7.0kNとする。加圧力が大き過ぎると接触面積が広がるために、ナゲット径が大きくなってしまう可能性がある。一方、加圧力が小さ過ぎると、十分な電流密度を確保することができず、後通電の効果が得られなくなる可能性がある。このような理由から加圧力は2.0kN~7.0kNとする。加圧力は、より好ましくは3.0kN以上とし、より好ましくは6.5kN以下とする。加圧力は、使用する装置能力によって制限される場合がある。必要とするナゲット径が得られる加圧力であれば、加圧力は上記数値範囲に対して低く設定し、あるいは高く設定することができる。
なお、本発明では、十分な継手強度(CTS)および耐遅れ破壊特性を確保するために、後熱処理工程後に得られる抵抗スポット溶接部のナゲット径は、3.0√t(mm)~6.0√t(mm)の範囲とすることが好ましい。なお、異なる板厚の板組の場合、上記の板厚を示す「t」は最も薄い鋼板側の板厚とする。
以上に説明したように後熱処理工程を適切に制御することによって、後述する熱処理過程の効果を有効に得ることが可能となり、CTSおよび耐遅れ破壊特性が向上する。
次に、本発明の製造方法における熱処理工程について詳細に説明する。
<熱処理工程>
熱処理工程は、溶接工程終了後の継手に実施する。溶接工程後の熱処理により、継手の抵抗スポット溶接部を焼戻すことが可能となる。これにより、抵抗スポット溶接部の靭性が向上し、継手強度が向上する。
具体的には、熱処理工程では、熱処理温度が式(6)を満たす温度T(℃)の範囲で、かつ、熱処理時間が式(7)を満たす時間t4(min)の間、抵抗スポット溶接部に熱処理を施す。
70≦T≦300 …式(6)
5≦t4≦30 …式(7)
温度T(℃)が低すぎる場合は、抵抗スポット溶接部を焼戻すことが可能となる温度とならない。その結果、焼戻しの効果が得られない。一方で、温度T(℃)が高すぎる場合は、溶接部が脆化してしまい、その結果、抵抗スポット溶接部が粒界破面となってしまう。したがって、温度T(℃)は70℃以上300℃以下とする。温度Tは、好ましくは100℃以上とし、好ましくは280℃以下とする。
また、時間t4(min)も短すぎると、抵抗スポット溶接部を焼戻すことができないため、その結果、焼戻しの効果が得られない。一方で、時間t4が長すぎると、抵抗スポット溶接部が脆化してしまう恐れがある。さらには、時間t4が長すぎると施工性が悪くなる。したがって、時間t4(min)は5min以上30min以下とする。より焼戻しの効果を得るためには、時間t4は好ましくは10min以上25min以下とする。
以下、本発明の作用および効果について、実施例を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
試験片には、表1および表2に示した、引張強度が980MPa~1800MPaの鋼板(ここでは、鋼板A~鋼板J)を使用した。試験片のサイズは、長辺:100mm、短辺:30mmとした。表1には鋼板A~鋼板Jの成分組成を示した。
なお、表1の「-」は、意図的に元素を添加しないことを表しており、元素を含有しない(すなわち0%)場合だけでなく、不可避的に含有する場合も含む。表2に示した「GA鋼板」とは、上記合金化亜鉛めっき鋼板を表すものとした。
本実施例では、図1に示したように、2枚以上の鋼板(図1に示す例では、下鋼板1と上鋼板2)を重ね合わせた板組について、Cガンに取付けられたサーボモータ加圧式で直流電源を有する抵抗溶接機を用いて抵抗スポット溶接を行った。
まず、得られた試験片を用いて表2に示すように重ねて配置し、板組とした。なお、表2中の「鋼板の重ね位置」は、下側の鋼板から順に「一枚目」、「二枚目」と数えるものとする。一部の板組は、3枚の鋼板を重ね合わせた。
次に、各板組を用いて、表3に示す溶接工程の溶接条件で抵抗スポット溶接を行い、板間に必要サイズのナゲット3を形成し、次いで抵抗スポット溶接部に表3に示す熱処理工程の条件で熱処理を施して、抵抗スポット溶接継手を作製した。表3中の「-」は、その過程及び工程を実施していないことを表すものとした。
なお、その他の溶接条件は、以下に示す条件で行った。通電中の加圧力は一定とし、ここでは3.5kNで行った。板組に対して下電極4および上電極5は、いずれも先端の直径:6mm、先端の曲率半径:40mmとし、クロム銅製のDR型電極を用いた。下電極4および上電極5で加圧力を制御し、直流電源を用いて溶接を行った。溶接終了後の抵抗スポット溶接部のナゲット径は、板厚:t(mm)とするとき5.5√t(mm)以下となるように形成した。
得られた抵抗スポット溶接継手を用いて、以下に記載の方法で十字引張試験(CTS試験)を行い、CTSの評価を行った。また、以下に記載の方法で遅れ破壊試験を行い、耐遅れ破壊特性の評価を行った。
[CTSの評価]
CTSの評価は、十字引張試験に基づき行った。作製した抵抗スポット溶接継手を用いて、JISZ3137に規定の方法で十字引張試験を行い、CTS(十字引張強度)を測定した。測定値がJIS A級(すなわち3.4kN)以上であったものに対して記号「○」を付し、JIS A級未満であったものに対して記号「×」を付した。なお、本実施例では、記号「○」の場合を良好と評価し、記号「×」の場合を劣ると評価する。評価結果は表3に示した。
[耐遅れ破壊特性の評価]
遅れ破壊試験は、次のように行った。作製した抵抗スポット溶接継手を、常温(20℃)の大気中の条件下で、24時間静置した。その後、溶接継手におけるナゲットが剥離した現象が目視で観察されたものを遅れ破壊が発生したとした。遅れ破壊が発生したものに対して記号「×」を付し、遅れ破壊が発生しなかったものに対して記号「〇」を付した。なお、本実施例では、記号「○」の場合を良好と評価し、記号「×」の場合を劣ると評価する。評価結果は表3に示した。
[継手評価]
本実施例では、上述のCTSおよび耐遅れ破壊特性の評価を用いて、継手の評価を行った。表3中、CTSおよび耐遅れ破壊特性の各評価がいずれも「〇」の場合に、継手評価を「〇(合格)」とした。一方、CTSおよび耐遅れ破壊特性の各評価のうちいずれか1つが「×」の場合、あるいはCTSおよび耐遅れ破壊特性の両方の評価が「×」の場合に、継手評価を「×(不合格)」とした。
Figure 0007468825000001
Figure 0007468825000002
Figure 0007468825000003
表3から明らかなように、本発明例では、少なくとも1枚の高強度鋼板を含む2枚以上の鋼板が抵抗スポット溶接されて製造された抵抗スポット溶接継手は、優れたCTSおよび優れた耐遅れ破壊特性を兼ね備えた良好な溶接継手であった。これに対し、比較例では良好な溶接継手を得られなかった。
1、2 鋼板
3 ナゲット
4、5 溶接電極
7 鋼板重ね面

Claims (3)

  1. 少なくとも1枚の高強度鋼板を含む2枚以上の鋼板が抵抗スポット溶接された抵抗スポット溶接継手の製造方法であって、
    前記2枚以上の鋼板を重ね合わせて板組とする準備工程と、前記板組を抵抗スポット溶接して抵抗スポット溶接部を形成する溶接工程と、前記溶接工程で形成した抵抗スポット溶接部に熱処理を施す熱処理工程と、を有し、
    前記高強度鋼板として、質量%で、
    C:0.10~0.40%、
    Si:0.1~2.0%、
    Mn:1.5~5.5%、
    P:0.10%以下、
    S:0.005%以下、
    N:0.001~0.010%、および
    O:0.03%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成の鋼板を用い、
    前記溶接工程では、
    前記板組を電流値I1(kA)で通電することにより抵抗スポット溶接部を形成する主通電工程を行い、
    前記主通電工程の後に、式(1)に示す冷却時間tc1(ms)の間、前記抵抗スポット溶接部を冷却する冷却過程と、
    次いで、式(2)に示す電流値I2(kA)で、式(3)に示す通電時間t2(ms)の間、前記抵抗スポット溶接部の通電を行う昇温過程と、
    次いで、式(4)に示す電流値I3(kA)で、式(5)に示す通電時間t3(ms)の間、前記抵抗スポット溶接部の通電を行う保持過程と、を有する後熱処理工程を行い、
    前記熱処理工程では、
    前記後熱処理工程後の抵抗スポット溶接部に、式(6)を満たす温度T(℃)の範囲で、式(7)を満たす時間t4(min)の間、熱処理を施す、
    抵抗スポット溶接継手の製造方法。
    20≦tc1≦800 …式(1)
    1≦I2≦2.0×I1 …式(2)
    10≦t2≦200 …式(3)
    0.10×I2<I3≦0.95×I2 …式(4)
    0<t3<600 …式(5)
    70 ≦ T ≦ 300 …式(6)
    5 ≦ t4 ≦ 30 …式(7)
  2. 前記高強度鋼板の前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cu:0.8%以下、
    Ni:1.0%以下、
    Mo:1.0%以下、
    Cr:1.0%以下、
    Nb:0.080%以下、
    V:0.50%以下、
    Ti:0.20%以下、
    B:0.005%以下、
    Al:2.0%以下、および
    Ca:0.005%以下
    から選択される1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
  3. 前記高強度鋼板は鋼板表面に亜鉛めっき層を有する、請求項1または2に記載の抵抗スポット溶接継手の製造方法。
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