JP7351133B2 - ポリビニルエステル系重合体の製造方法 - Google Patents

ポリビニルエステル系重合体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリビニルエステル系重合体の製造方法に関し、更に詳しくは、ラジカル重合開始剤の存在下でビニルエステル系単量体を重合するポリビニルエステル系重合体の製造方法に関する。
ポリビニルエステル系重合体は、従来、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ということもある。)の原料等として広く使用されている。PVAはポリビニルエステル系重合体をケン化することで得られる結晶性の水溶性高分子材料であり、その優れた水溶性や皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)を利用して、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルム等に使用されている。
ポリビニルエステル系重合体はビニルエステル系単量体を重合することにより得られるが、その重合方法としては、多様なビニル化合物の重合に適用でき、反応系の取り扱いが容易であるラジカル重合が工業的にも広く利用されている。ラジカル重合の反応機構は、開始反応、生長反応及び停止反応を含み、副反応として連鎖移動反応が起こることがある。ラジカル重合では、開始ラジカルが生成すると、それが単量体に次々と反応し、生長ラジカルが不活性化することにより反応が停止する。生長ラジカルの不活性化は、再結合停止反応や不均化停止反応、副反応である連鎖移動反応等により起こるため、分子の長さの揃わない重合体が生成されてしまう。
そこで、得られる重合体の分子量を制御する方法として、リビングラジカル重合により重合体を合成することが行われている。リビングラジカル重合とは、重合過程において開始反応と生長反応のみからなる重合方法であり、停止反応や連鎖移動反応といった生長ラジカルを不活性化させる反応を伴わないため、分子の長さの揃った重合体が得られる。
リビングラジカル重合法を用いてポリビニルエステル系(共)重合体を合成する技術が種々検討されており、例えば、特許文献1には、ビニルエステル系単量体とビニルエーテル系単量体を共重合させた共重合体の製造方法として、ビニルエステル系単量体とビニルエーテル系単量体とを、特定構造を有する連鎖移動剤とラジカル重合開始剤とルイス酸の存在下で共重合を行う方法が提案されている。
特開2013-237748号公報
しかしながら、従来のリビングラジカル重合法を用いた製造方法においてもポリビニルエステル系重合体の分子量分布の制御はまだまだ不十分で、より分子量(分子の長さ)の均質なポリビニルエステル系重合体を得ることが求められている。特に、低分子量(例えば、目的の分子の長さに対して20%以下の長さ)の重合体の含有量が多くなると、そのポリビニルエステル系重合体から得られたPVAをフィルム等に加工した際に低分子量成分が不純物として成形品に混入してしまうことがあった。
そこで、本発明は分子量分布の狭いポリビニルエステル系重合体を得ることのできる新たな製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、反応系に用いる溶媒によって重合反応の制御性が異なることを見出し、特に本願特定の連鎖移動剤の存在下でビニルエステル系単量体を重合する際には、炭素数1~3のアルコール系溶媒中で合成することで、得られる重合体の分子量分布の広がりを高度に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)~(5)を特徴とする。
(1)炭素数1~3のアルコール系溶媒中で、下記一般式(A)で表わされる化合物の存在下で、ビニルエステル系単量体を重合することを含むことを特徴とするポリビニルエステル系重合体の製造方法。
Figure 0007351133000001
(上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
(2)前記一般式(A)で表わされる化合物の添加量が、前記ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.0001~10mol%の範囲であることを特徴とする前記(1)に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
(3)前記アルコール系溶媒の添加量が、質量比において、前記ビニルエステル系単量体1に対し、0超過10以下の範囲であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
(4)前記アルコール系溶媒がメタノールであることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか1つに記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
(5)前記ビニルエステル系単量体が酢酸ビニルであることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれか1つに記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
本発明の製造方法によれば、分子量分布の狭いポリビニルエステル系重合体を製造することができる。また、本発明の製造方法は重合時に安定して反応させることができるので、反応制御がしやすく、ポリビニルエステル系重合体を安定的に製造することができる。
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施形態の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
また、本明細書において、(メタ)アリルとはアリル又はメタリル、(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートをそれぞれ意味する。
本発明のポリビニルエステル系重合体の製造方法は、炭素数1~3のアルコール系溶媒中で、下記一般式(A)で表わされる化合物の存在下で、ビニルエステル系単量体を重合することを含む。
Figure 0007351133000002
(上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
本発明で用いる特定の連鎖移動剤を用いたリビングラジカル重合(具体的に、RAFT(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer)重合)において、炭素数1~3のアルコール系溶媒中でビニルエステル系単量体の重合を行うと、その作用は明らかではないが、重合反応時の急激な温度上昇等が起こりにくく反応制御がしやすくなるため、ポリビニルエステル系重合体の分子量が均質となるように容易に製造コントロールできると推測される。
炭素数1~3のアルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、メタノールを用いることが好ましい。
本発明の製造方法で用いられるビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、価格や入手の容易さの観点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
本発明で製造されるポリビニルエステル系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の単量体が共重合されたものでもよい。他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、そのモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド;アリルトリメチルアンモニウムクロライド;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン[1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル]エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類あるいはそのアシル化物等の誘導体を挙げることができる。
また、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物などが挙げられる。
上記一般式(A)で表わされる化合物は、ラジカル重合を制御するための化合物であり、生長ポリマー鎖の末端に反応してポリマーの生長を停止させると同時に新たな重合開始ラジカルを発生させる、所謂、連鎖移動剤である。
リビングラジカル重合の重合機構を、ビニルエステル系単量体として酢酸ビニルを用いたポリ酢酸ビニルの製造を例に、下記スキームIにより説明する。重合途中の重合物がラジカルとなって付加されたジチオカルボニル化合物1(休止種)に対して、ポリ酢酸ビニルのラジカルY・が付加し、中間体ラジカル2が生成する。さらに、中間体ラジカル2から別のポリ酢酸ビニルのラジカルY’・が脱離することにより、新たな休止種(ジチオカルボニル化合物1’)と別のポリ酢酸ビニルのラジカルY’・が生成する。このように付加及び脱離を繰り返すことで重合が進行する。なお、下記スキームI中、XはOR(Rは、炭素数1~5のアルキル基)である。
Figure 0007351133000003
一般式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
一般式(A)で表わされる化合物は、製造のし易さという観点から、Rが炭素数1~4のアルキル基である化合物が好ましく、Rが炭素数2~4のアルキル基である化合物がより好ましい。式(A)で表わされる化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一般式(A)で表わされる化合物の具体例としては、例えば、S-1-isobutoxyethyl O-isopropyl xanthate(Rがイソプロピル基である化合物)、S-1-isobutoxyethyl O-ethyl xanthate(Rがエチル基である化合物)等が挙げられる。
本発明のポリビニルエステル系重合体の製造方法は、重合開始剤の存在下で行う。重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス-(2,4,4-トリメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ化合物類、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーピバレ-ト等のアルキルパーエステル類、ビス-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシ-ジ-カーボネート、ジ-シクロヘキシルパーオキシ-ジ-カーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)ジ-sec-ブチルパーオキシ-ジ-カーボネート、ジ-イソプロピルパーオキシ-ジ-カーボネート等のパーオキシ-ジ-カーボネート類、アセチルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、ジ-ラウロイルパーオキシド、ジ-デカノイルパーオキシド、ジ-オクタノイルパーオキシド、ジ-プロピルパーオキシド、ジ-ベンゾイルパーオキシド等のパーオキシド類等の、公知のラジカル重合触媒が挙げられる。また、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等の低温活性ラジカル重合触媒等のラジカル開始剤を挙げることができる。これら重合触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を同時に用いてもよい。
重合反応液には、本発明の効果を損なわない範囲においてその他の成分を添加することができる。他の添加剤としては、例えば、着色剤、染料、消泡剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等が挙げられ、また、ステアリン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド、低分子量ポリオレフィン等の公知の滑剤、離型剤、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の多価アルコール、特には脂肪族多価アルコール等の公知の可塑剤、酢酸、リン酸等の酸類およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属塩、また、金属酸化物および水酸化物等の金属化合物、ホウ酸またはその金属塩等のホウ素化合物など、公知の熱安定剤を含有させてもよい。
次に、本発明のポリビニルエステル系重合体の具体的な製造方法について説明する。
本発明の製造方法では、反応器に、ビニルエステル系単量体、炭素数1~3のアルコール系溶媒、一般式(A)で表わされる化合物及び重合開始剤を添加し、重合反応を開始させる。各原料は一度に添加してもよいし、任意の順番で添加してもよい。また、各原料の添加は、それぞれ一度にすべて添加してもよく、重合中の任意のタイミングで任意の回数に分割して添加してもよい。特に、重合開始剤は重合速度の維持を目的として、2回以上に分割して添加することがより好ましい。
重合工程において、反応は、ビニルエステル系単量体に対して不活性な不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。
炭素数1~3のアルコール系溶媒の添加量は、質量比において、ビニルエステル系単量体1に対し、0超過10以下の範囲であることが好ましい。炭素数1~3のアルコール系溶媒が多すぎると得られる重合体の分子量が小さくなる場合があるので、質量比で、ビニルエステル系単量体1に対し、炭素数1~3のアルコール系溶媒を10以下とすることが好ましい。炭素数1~3のアルコール系溶媒は、ビニルエステル系単量体1に対し、0超過8以下の範囲で添加することがより好ましく、0超過6以下がさらに好ましい。
一般式(A)で表わされる化合物の添加量は、ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.0001~10mol%であることが好ましい。式(A)で表わされる化合物が多すぎると、フリーの重合末端ラジカルが少なくなりすぎるため、重合が進行しなくなる場合があり、また少なすぎると重合制御が行われず、分子量の均質なポリビニルエステル系重合体が得られ難い。式(A)で表わされる化合物の添加量は、0.0003~8mol%であることがより好ましく、0.0005~6mol%がさらに好ましい。
重合開始剤の添加量は、ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.00001~10mol%であることが好ましい。重合開始剤が多すぎると重合制御が困難となる場合があり、また少なすぎると生産性に問題が生じる場合がある。重合開始剤の添加量は、ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.00003~8mol%であることがより好ましく、0.00005~6mol%がさらに好ましい。
重合工程における反応液の温度は、生産性を考慮して適宜設定すればよく、0~150℃の範囲で行うことが好ましく、5~140℃がより好ましく、10~130℃がさらに好ましい。反応液の温度が高すぎると、分子量の制御が困難になったり、重合制御が困難になったりする場合があり、また低すぎると重合速度が遅くなるので生産性に問題が生じる場合がある。本発明では、溶媒として炭素数1~3のアルコール系溶媒を用いるので、設定温度を一定に保ちやすく、安定した重合反応を行うことができる。
反応時間は、目的とする分子量の重合体が得られるよう適宜設定すればよいが、生産性を考慮して0.1~48時間の範囲で行うことが好ましく、0.3~36時間がより好ましく、0.5~24時間がさらに好ましい。反応時間が長すぎると、生産性に問題が生じる場合があり、また短すぎると分子量が整わず、分子量の均質なポリビニルエステル系重合体が得られない場合がある。
本発明において、目的とする重合率となった時点で重合停止剤を添加することにより停止工程を行う。
重合停止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、パラベンゾキノン等のキノン化合物類、o-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、p-ジニトロベンゼン等のニトロベンゼン化合物類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、着色や毒性の観点から、ハイドロキノンモノメチルエーテルを用いることが好ましい。
重合停止剤の添加量は、重合を停止し得る量を用いればよく特に限定されないが、ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.0001~10000ppmであることが好ましい。重合停止剤が少なすぎるとポリマー末端のラジカルを十分に捕捉できず、重合停止が十分になされないので、分子量分布が広くなってしまう場合があり、また多すぎると得られたポリビニルエステル系重合体を用いて作製したPVAが着色しやすくなる場合がある。重合停止剤の添加量は、ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.0003~9000ppmであることがより好ましく、0.0005~8000ppmがさらに好ましい。
停止工程において、反応液の温度は、重合停止剤がポリマー末端のラジカルを捕捉できる温度とすればよく、0~100℃の範囲が好ましく、3~60℃がより好ましく、5~50℃がさらに好ましい。反応液の温度が高すぎると停止反応の一方で重合も進んでしまうので分子量分布が広くなってしまう場合があり、また低すぎると重合溶液中の粘度が上がってしまい重合停止剤が重合溶液中に均一に混ざり難くなる。
停止工程における反応時間は、生産性を考慮して0.01~48時間の範囲で行うことが好ましく、0.03~36時間がより好ましく、0.05~24時間がさらに好ましい。
停止工程の後、ポリビニルエステル系重合体を含有する溶液を、加熱、真空乾燥等することにより、溶媒及び未反応のモノマーを留去して、ポリビニルエステル系重合体を得る。
本発明のポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)は、4000~1000000であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が前記範囲であると、ポリビニルエステル系重合体をPVAの製造に用いた場合に安定的に製造できる。ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)が高すぎると溶液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になる場合や、溶解速度が低下する場合があり、また低すぎると粒子形成が困難となる場合がある。数平均分子量(Mn)は、5000~900000であることがより好ましく、6000~800000がさらに好ましい。
なお、本発明において、ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレンを標準として求めることができる。
本発明の製造方法によって得られるポリビニルエステル系重合体の分子量分布(分散度、Mw/Mn)は、1~2.5であることが好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表わされる値であり、分子量分布(Mw/Mn)が前記範囲であると、ポリビニルエステル系重合体の分子量の広がりが狭く、低分子量の重合体の発生が少ないといえる。本発明の製造方法によれば、このように分子量分布の狭いポリビニルエステル系重合体を安定して製造することができる。分子量分布(Mw/Mn)は、1超過2.3以下であることがより好ましく、1超過2以下がさらに好ましい。
本発明の製造方法によって得られたポリビニルエステル系重合体は、これをケン化することによりポリビニルアルコール(PVA)を得ることができる。
得られたポリビニルエステル系重合体のケン化は、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、ポリビニルエステル系重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
ケン化反応の反応温度は、通常20~60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
なお、本発明で得られるポリビニルエステル系重合体は、溶媒や未反応モノマーを除去することなく停止工程の後にそのままケン化工程を行い、PVAを得てもよい。
本発明の製造方法により得られるポリビニルエステル系重合体は分子量分布が狭いので、当該ポリビニルエステル系重合体を用いて得られるPVAの結晶性が高まり、その成形品はガスバリア性に優れる。また、低分子量の含有割合が小さいので、成形品としてフィルムを作製した際にもフィルムに不純物が混入するのを抑制し、品質の高いフィルムを形成することができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量を基準とする。
(重合率の測定)
アルミカップにサンプルを約1~2g量り取り、140℃の乾燥機にて30分間乾燥した後、アルミカップに残ったサンプル量から、樹脂分を算出した。
(数平均分子量、重量平均分子量、分散度(分子量分布)の測定)
ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ「Prominence」(商品名)を用いた。
ポリビニルエステル系重合体をテトラヒドロフランに溶解して、重合体濃度0.25質量%の重合体試料液を得て、テトラヒドロフランを展開溶剤として流速を1.0ml/min、カラム温度を35℃の条件にて、測定した。標準物質としての単分散分子量のポリスチレンを使用した検量線を作成し、ポリビニルエステル系重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を測定した。
得られた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の値から、分散度(Mw/Mn)を算出した。
(合成例1:S-1-isobutoxyethyl O-isopropyl xanthate(iPrBEX)の製造)
1.0M HCl・EtO(塩化水素・ジエチルエーテル) 100mL(0.1mol in EtO)を0℃に冷やした200mLナスフラスコに入れた。イソブチルビニルエーテル(IBVE)13mL(0.1mol)を撹拌しながらHCl・EtOの入ったフラスコに滴下し、約1時間、0℃下でそのまま撹拌し続けIBVE-HCl付加体を得た。不用なHClはガスとして放出して精製した。キサントゲン酸イソプロピルカリウム11.6g(0.067mol)を0℃に冷やしたナスフラスコに入れ、上記で合成したIBVE-HCl付加体溶液76mL(0.076mol)を加えた。そこから24時間、0℃~室温下でスターラーを用いて撹拌した。その後、ガラスロートを用いてろ過し、ろ液を分液ロートに移し、0.2M NaHCOで3回、純水で2回洗浄した。これを乾燥させた三角フラスコに移し、無水硫酸ナトリウムで一晩予備乾燥した。無水硫酸ナトリウムを取り除き、乾燥させたナスフラスコにデカンテーションした。溶媒を留去した後、乾燥窒素下、CaH上で減圧蒸留(b.p.78℃/0.6kPa)を2回行い、精製した。黄色液体として下記式(1)で表わされるS-1-isobutoxyethyl O-isopropyl xanthateを得、合成収率は51%であった。
Figure 0007351133000004
(合成例2:S-1-isobutoxyethyl O-ethyl xanthate(IBEX)の製造)
1.0M HCl・EtO(塩化水素・ジエチルエーテル) 100mL(0.1mol in EtO)を0℃に冷やした200mLナスフラスコに入れた。イソブチルビニルエーテル(IBVE)13.1mL(0.1mol)を撹拌しながらHCl・EtOの入ったフラスコに滴下し、約1時間、0℃下でそのまま撹拌し続けIBVE-HCl付加体を得た。不用なHClはガスとして放出して精製した。エチルキサントゲン酸カリウム16.0g(0.1mol)を0℃に冷やしたナスフラスコに入れ、上記で合成したIBVE-HCl付加体溶液をすべてゆっくりと加えた。そこから12時間、0℃~室温下でスターラーを用いて撹拌した。その後、ガラスロートを用いてろ過し、ろ液を分液ロートに移し、0.2M NaHCOで3回、純水で2回洗浄した。これを乾燥させた三角フラスコに移し、無水硫酸ナトリウムで一晩予備乾燥した。無水硫酸ナトリウムを取り除き、乾燥させたナスフラスコにデカンテーションした。溶媒を留去した後、乾燥窒素下、CaH上で減圧蒸留(b.p.68℃/0.7kPa)を2回行い、精製した。薄黄色液体として下記式(2)で表されるS-1-isobutoxyethyl O-ethyl xanthateを得、合成収率は62%であった。
Figure 0007351133000005
(実施例1)
所定量の酢酸ビニル(100g,1.16mol)、メタノール(20g,6.87×10-1mol)、合成例1で作製したiPrBEX(129mg,5.5×10-4mol、メタノール1g中に溶解、対酢酸ビニル0.047mol%)をセパラブルフラスコに加えた。これに窒素を20分間、撹拌しながら吹き込んだ後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(9mg,5.48×10-5mol、メタノール1g中に溶解)を加えた。その後7時間沸点重合を行った。また3時間後と5時間後に、AIBN(仕込み時と同量)の追添加を行った。
得られた重合反応液中に存在する酢酸ビニルの重合率は48.4%であった。重合反応液に重合停止剤(m-ジニトロベンゼン)を30ppm添加して重合反応を停止した。重合停止後の重合反応液を真空乾燥することにより、溶媒と未反応モノマーを留去して、ポリ酢酸ビニルを得た。
得られたポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)は77000、重量平均分子量(Mw)は102000、分散度(Mw/Mn)は1.32であった。
(比較例1)
実施例1において、メタノールに代えて酢酸エチルを用いてポリ酢酸ビニルを製造した。
所定量の酢酸ビニル(100g,1.16mol)、酢酸エチル(20g,2.27×10-1mol)、合成例1で作製したiPrBEX(129mg,5.5×10-4mol、酢酸エチル1g中に溶解、対酢酸ビニル0.047mol%)をセパラブルフラスコに加えた。これに窒素を20分間、撹拌しながら吹き込んだ後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(9mg,5.48×10-5mol、酢酸エチル1g中に溶解)を加えた。その後沸点重合を行ったが、重合時に反応が安定せず、反応温度の急上昇があった。反応は1.5時間で停止した。
重合反応液中に存在する酢酸ビニルの重合率は44.9%であり、得られたポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)は72000、重量平均分子量(Mw)は108000、分散度(Mw/Mn)は1.50であった。
(実施例2)
iPrBEXに代えて合成例2で作製したIBEX(121mg,5.5×10-4mol、メタノール1g中に溶解、対酢酸ビニル0.047mol%)を用い、重合反応液中のポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)が72000を超えた時点で反応を止めた以外は実施例1と同様にしてポリ酢酸ビニルを製造した。
重合反応液中に存在する酢酸ビニルの重合率は46.4%であり、得られたポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)は72000、重量平均分子量(Mw)は109000、分散度(Mw/Mn)は1.53であった。
(比較例2)
実施例2において、メタノールに代えて酢酸エチルを用いてポリ酢酸ビニルを製造したものの重合中の温度制御ができず、急激な温度上昇があり重合を停止した。
上記実施例、比較例について、表1に纏めて示す。
Figure 0007351133000006
実施例1と比較例1の結果より、反応系に用いる溶媒としてアルコール系溶媒を用いた実施例1は、比較例1に比べて分散度が小さく(つまり、分子量分布が狭い)、均質なものであることがわかった。また、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2の結果より、本発明の製造方法は反応温度の制御が容易であり、安定して製造できるものであることがわかった。

Claims (6)

  1. 炭素数1~3のアルコール系溶媒中で、下記一般式(A)で表わされる化合物の存在下で、ビニルエステル系単量体を重合することを含むことを特徴とするポリビニルエステル系重合体の製造方法。
    Figure 0007351133000007

    (上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
  2. 前記一般式(A)で表わされる化合物の添加量が、前記ビニルエステル系単量体の添加量に対して0.0001~10mol%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
  3. 前記アルコール系溶媒の添加量が、質量比において、前記ビニルエステル系単量体1に対し、0超過10以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
  4. 前記アルコール系溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
  5. 前記ビニルエステル系単量体が酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
  6. 重合停止後、ポリビニルエステル系重合体を含有する溶液を真空乾燥することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
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