JP7350965B1 - クロムめっき部品及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】上層が3価クロムめっき層であっても優れた耐食性を示し、特に銅又は銅合金の腐食が抑制され、しかも外観が良好なクロムめっき部品、及びそうしたクロムめっき部品を煩雑な工程管理を要さずに簡便に作製し得る製造方法を提供すること。【解決手段】銅又は銅合金からなる表面層を有する素地と、素地の前記表面層に接して形成された第1ニッケルめっき層と、第1ニッケルめっき層上に接して形成された第2ニッケルめっき層と、第2ニッケルめっき層上に接して形成された3価クロムめっき層と、を備えるクロムめっき部品であって、第2ニッケルめっき層は電流密度0.1mA/cm2で-215~-290mVのアノード電位を有し、第1ニッケルめっき層は第2ニッケルめっき層に対し15~150mV卑である電位を有することを特徴とするクロムめっき部品。【選択図】図1

Description

本発明は、クロムめっき部品、特にニッケル-クロムめっき部品と、その製造方法に関する。
従来より、基材の装飾、防食、導電性付与等の目的から、クロムめっきが行われている。クロムめっきは通常、銀白色の外観を有するため、美的装飾性に優れ、装飾用のコーティング膜として有用である。クロムめっき層はまた、自己不動態化能力によって表面に不動態皮膜を形成することができるため、耐食性の点でも優れている。特に、樹脂基材の表面にクロムめっき膜が形成された製品は、金属素材の製品に比べて軽量かつ低コストであるため、自動車部品を始めとする様々な部品として用いられている。
クロムめっき部品(製品)の内でも、下地としてニッケルめっき層を備える製品(ニッケル-クロムめっき製品)は、装飾性や耐食性が特に優れており、樹脂を始めとする様々な基材に用いられている。ニッケル-クロムめっきの高い耐食性は、下地のニッケル層が犠牲的に腐食を受け、クロムめっき層の腐食を防ぐことに起因すると考えられる。
ニッケル-クロムめっき製品におけるニッケル層自体の耐食性は、硫黄分を殆ど含まない半光沢ニッケルめっき層と、硫黄分を含有する光沢ニッケルめっき層、さらには他の組成のニッケルめっき層とを組み合わせた二層又は三層の構造とすることによって改善できる(例えば、特許文献1~4参照)。これは、電位が卑な光沢ニッケルめっき層が犠牲腐食されるためであり、こうしたニッケルめっき層を有するクロムめっき部品では、耐食性がより高いものとなっている。昨今はクロムめっき部品の耐食性に対する要求がますます高くなり、下地となるニッケルめっき層の構造を始めとする、さらなる耐食性改善検討が続けられている。
例えば特許文献1及び2には、素地上に半光沢ニッケルめっき層、光沢ニッケルめっき層、及び共析ニッケルめっき層をこの順で付与し、その上にクロムめっき層を付したニッケル-クロムめっき製品が開示されている。ここで、共析ニッケルめっき層とは、シリカ等の微粒子が共析し、マイクロポーラス構造が形成された層である。多数のポアによって腐食電流が分散されるため、光沢ニッケルめっき層の腐食が抑制される。特許文献1記載の発明では、さらに各ニッケルめっき層間の電位差を調整することによって、また特許文献2記載の発明では、高電極電位の金属イオンの濃度を各ニッケルめっき層間で相違させることによって、耐食性の改善を図っている。
特許文献3では、特許文献1及び2と同様の構造のクロムめっき部品の表面を酸化し、クロムめっき膜の表面にクロムの酸化皮膜を形成させる表面改質方法が開示されている。また、特許文献4では、樹脂基材上に銅めっき、硫黄なしニッケルめっき(半光沢ニッケルめっき)、光沢ニッケルめっき、貴電位ニッケルめっき、及びマイクロポーラス構造又はマイクロクラック構造の3価クロムめっきをこの順で備えるクロムめっき部品が開示されている。特許文献4では、貴電位ニッケルめっきとして、マイクロポーラス構造を備える共析ニッケルめっき(MPニッケルめっき)も開示されている。特許文献3及び4記載の発明は、クロムめっき層の改質によってめっき部品の耐食性を改善する技術であるが、いずれにおいてもニッケルめっき層は、半光沢ニッケルめっき層を最下層とする三層構造となっている。
特開平5-171468号公報 特開平6-146069号公報 特開2007-275750号公報 特開2010-185116号公報
しかしながら、ニッケル下地層を有するクロムめっき部品は、耐食性の点でなおも改善の余地がある。近年では環境面への配慮から、クロムめっきにおいて6価クロムの代わりに3価クロムを用いる場合も多いが、こうした3価クロムめっきをニッケルめっき層上に行うと、6価クロムめっきほどの耐食性が必ずしも得られない。特許文献1及び2に記載のめっき製品は、いずれも6価クロムめっきによって製造されており、クロムめっき層が3価クロムめっきにより形成された場合には耐食性が不十分となるおそれがある。また、特許文献3記載の発明のようにクロムめっき層の表面を不動態化する方法では、表面酸化のための工程や設備が必要となり、製造コストの上昇をもたらす。
特許文献4記載の発明では概して、3価クロムめっき層をマイクロポーラス構造又はマイクロクラック構造とする上で、微孔を形成するために、その直下の貴電位ニッケルめっき層にアルミナやシリカ等の非導電性微粒子を含有させている。特許文献1~3記載の発明においても、クロムめっき層直下の層は非導電性微粒子を含有している。しかしながら非導電性微粒子を含有する場合、それら微粒子の析出によるめっき製品の外観悪化を来す場合がある。また、めっき製品の製造において、微孔を安定的に発現させるための管理が煩雑となる。一方で、非導電性微粒子を含有しない場合は、十分な耐食性が得難いという難点がある。
また、多くのニッケル-クロムめっき製品においては、ニッケルめっき層が三層構造を有し(ニッケルめっき層として2種の層を必須とする特許文献2及び4に記載のめっき製品においても)、素地側に半光沢ニッケルめっき層(硫黄なしニッケルめっき層)が、その上層に光沢ニッケルめっき層が形成されている。このように、光沢ニッケルめっき層より貴電位の半光沢ニッケルめっき層によって直下の銅又は銅合金を被覆するのは腐食を防止する観点からである。しかし、本発明者らが今回見出したところによると、素地に接するニッケルめっき層の電位が貴であると、素地側ニッケルめっき層の腐食が素地に到達した場合に、腐食が一気に進行する傾向がある。これに対しては、素地側のニッケルめっき層を半光沢ニッケルめっき層と比較すると電位が卑である光沢ニッケルめっき層とすることで、腐食を防ぎ得ることが、本件発明者らによる検討で分かっている。
ところが、素地側のニッケルめっき層を光沢ニッケルめっき層としても、銅又は銅合金の腐食によって膨れ等が発生する可能性があることが分かった。
本発明は、上記のような課題を解決すべく、上層が3価クロムめっき層であっても優れた耐食性を示し、銅又は銅合金の腐食が抑制され、かつ外観が良好なクロムめっき部品、及びそうしたクロムめっき部品を煩雑な工程管理を要さずに簡便に作製し得る製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、クロムめっき部品において、慣用のニッケル-クロムめっきとは異なり、卑電位のニッケルめっき層を素地上に二層形成し、かつ各ニッケルめっき層の電位を特定の範囲に規定することによって、優れた耐食性が発現し、銅又は銅合金の腐食が抑制され、かつ外観も良好となること、しかも製造の際に、めっき工程の管理が容易となって製造工程も簡略化されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)~(10)を提供する。
(1)銅又は銅合金からなる表面層を有する素地と、前記素地の前記表面層に接して形成された第1ニッケルめっき層と、前記第1ニッケルめっき層上に接して形成された第2ニッケルめっき層と、前記第2ニッケルめっき層上に接して形成された3価クロムめっき層と、を備えるクロムめっき部品であって、前記第2ニッケルめっき層は、電流密度0.1mA/cmで-215~-290mVのアノード電位を有し、前記第1ニッケルめっき層は前記第2ニッケルめっき層に対し、15~150mV卑である電位を有することを特徴とするクロムめっき部品。
(2)前記第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との膜厚比率が1:10~30:1である、上記(1)のクロムめっき部品。
(3)前記第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との膜厚比率が1:4~14:1である、上記(1)のクロムめっき部品。
(4)前記第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との合計膜厚が1~30μmである、上記(1)~(3)のいずれかのクロムめっき部品。
(5)前記3価クロムめっき層上に、電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜をさらに備える、上記(1)~(4)のいずれかのクロムめっき部品。
(6)前記第2ニッケルめっき層が、非導電性微粒子不含の層である、上記(1)~(5)のいずれかのクロムめっき部品。
(7)前記素地が、樹脂、セラミックス、及び金属からなる群より選択される1種以上の材料からなり、かつ銅もしくは銅合金からなる前記表面層が付された基材であるか、又は銅もしくは銅合金からなる基材である、上記(1)~(6)のいずれかのクロムめっき部品。
(8)銅又は銅合金から主としてなる表面層を有する素地上に、前記表面層に接して第1ニッケルめっき層を形成する工程と、前記第1ニッケルめっき層上に接して第2ニッケルめっき層を形成する工程と、前記第2ニッケルめっき層上に接して3価クロムめっき層を形成する工程と、を備えるクロムめっき部品の製造方法であって、前記第2ニッケルめっき層は、電流密度0.1mA/cmで-215~-290mVのアノード電位を有し、前記第1ニッケルめっき層は前記第2ニッケルめっき層に対し、15~150mV卑である電位を有することを特徴とするクロムめっき部品の製造方法。
(9)前記3価クロムめっき層の表面に、電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜を形成する工程をさらに含む、上記(8)のクロムめっき部品の製造方法。
本発明のクロムめっき部品は、上層が3価クロムめっき層であっても優れた耐食性を示し、特に銅又は銅合金の腐食が抑制され、しかも外観が良好である。また、本発明のクロムめっき部品の製造方法によれば、耐食性と外観に優れるクロムめっき部品を、煩雑な工程管理を伴うことなく、より簡略化された工程で製造することができる。
本発明のクロムめっき部品の一実施形態を示す、断面模式図である。
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
≪クロムめっき部品≫
本発明のクロムめっき部品は、銅又は銅合金からなる表面層を有する素地と、素地の表面層に接して形成された第1ニッケルめっき層と、第1ニッケルめっき層上に接して形成された第2ニッケルめっき層と、第2ニッケルめっき層上に接して形成された3価クロムめっき層と、を備えるクロムめっき部品であって、第2ニッケルめっき層は、電流密度0.1mA/cmで-215~-290mVのアノード電位を有し、第1ニッケルめっき層は第2ニッケルめっき層に対し、15~150mV卑である電位を有することを特徴とする。
図1は、本発明に係る一の実施形態のクロムめっき部品の断面を、模式的に示した概略図である。図1に示されるように、本実施形態のクロムめっき部品1においては、素地2の表面2A上に第1ニッケルめっき層3が、その上に第2ニッケルめっき層4が、さらにその上層に3価クロムめっき層5が、この順で、それぞれ直下の素地表面又はめっき層に接して形成されている。以下、これら各要素について説明する。
[素地]
クロムめっき部品1において、素地2は、後述するめっき層がその表面2Aに形成されるめっき対象である。素地2は、銅又は銅合金からなる表面層22を、少なくともめっき層が形成される表面2A側に有するものである。
具体的に、素地2は、基材21と、銅又は銅合金からなる表面層22とを有する。尚、本実施形態では、図1にあるように、基材21と、表面層22とが別々の要素により構成された素地2の例を示しているが、これに限られず、基材21を銅又は銅合金により構成して、基材21と表面層22とが連続した一体のものであってもよい。
(基材)
基材21は、めっき対象である素地2の本体部に相当し、その形状及び材質については、特に制限はない。図1に示す実施形態では、基材21に表面層22が付された平板状の素地2の片面側に、各めっき層3~5が形成されているが、本発明のクロムめっき部品はこうした形態に限定されない。基材21は例えば、各種形状のハンドル、グリル、モール、エンブレム等の自動車部品、船外機部品、水栓金具、ドアノブや窓枠を始めとする建材部品、家電部品等、どのような形状及び用途のものであっても良い。
基材21は、樹脂、セラミックス、及び金属からなる群より選択される1種以上の材料からなり、銅もしくは銅合金からなる表面層22が付されて素地2を構成していることが好ましいが、こうした材質に限定されない。基材21は、各種の樹脂、エラストマー、セラミックス、金属、炭素材料等の複合材であってもよい。基材21はまた、自身が銅もしくは銅合金からなり、別要素の表面層が付されることなく素地2を構成していてもよい。この場合、素地2の表面層は、当然に銅もしくは銅合金からなる。尚、本文において「銅もしくは銅合金からなる」とは、上記表面層が主として銅もしくは銅合金によって構成されていることを意味し、微量の添加物や不可避的不純物の含有を排除するものではない。
基材21が金属材料からなる場合、金属材料の組成に特に制限はない。金属としては、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、ステンレス、亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの金属には、適宜、密着性を得るために活性化処理やストライクめっきを施してもよい。ストライクめっき等の処理を銅又は銅合金を用いて行えば、得られた基材21を、クロムめっき部品1における素地2としてそのまま使用することができる。
基材21を構成する樹脂等の種類にも、特に制限はない。例として、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PC含有ABS、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、アクリル系樹脂、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、さらにはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、CNF(セルロースナノファイバー)含有樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの内でもABS樹脂をベースとする基材は、めっきが容易で銅又は銅合金の表面層を形成し易いために、クロムめっき部品1の基材として好適である。
(基材のめっき処理)
上記のようなセラミックスや樹脂製の基材21には、めっきをし易いように金属によって導電化処理をすることが好ましい。金属による導電化処理方法に特に制限はなく、無電解めっき、電解めっき、金属のスパッタリングや、金属蒸着等の種々の方法を用いることができる。特に、銅、銅合金、ニッケル、又はニッケル合金による無電解めっきが好ましい。無電解めっきの方法及び条件にも特に制限はなく、慣用の方法及び条件で行うことができる。
無電解めっきを施した基材21には、さらに電解銅めっき又は電解銅合金めっき(電解銅系めっき)を行うことが好ましい。電解銅系めっきによれば密着性等に特に優れた表面層22を形成することができる。無電解めっきを銅又は銅合金により行い、銅系の層が形成された場合にも、電解銅系めっきを重ねて行うことが好ましい。電解銅系めっきの方法及び条件にも特に制限はなく、慣用の方法及び条件で行うことができる。このようにして、素地2における表面層22を調製することができる。
(表面層)
表面層22は、素地2において、基材21の表面又はその上層であって、後述するめっき層が形成される側の表面を構成し、銅又は銅合金からなる。このように、銅又は銅合金からなる表面層22には、後述するめっき層、具体的には第1ニッケルめっき層3が、表面2A側に接して形成される。
[ニッケルめっき層]
クロムめっき部品1においては、上記のように素地2の表面2A上に第1ニッケルめっき層3が、その上に第2ニッケルめっき層4が、さらにその上層に3価クロムめっき層5が形成されている。ここでは、第1ニッケルめっき層3と第2ニッケルめっき層4とを併せて「ニッケルめっき層」と称する。
ニッケルめっき層において、3価クロムめっき層5側の第2ニッケルめっき層4は、電流密度0.1mA/cmでのアノード電位が-215~-290mVである。素地2上に接する第1ニッケルめっき層3は、第2ニッケルめっき層4よりもさらに卑側の電位を有する。すなわち、クロムめっき部品1では、電位が卑である第1ニッケルめっき層3が、電位が貴である半光沢ニッケル層のような他の層を介することなく、素地2の直上に表面層22に接した状態で形成されている。
以下ではこれらニッケルめっき層について詳記するが、先ずは電位の数値範囲が規定されている第2ニッケルめっき層4、及びその電位について説明する。
〔第2ニッケルめっき層〕
第2ニッケルめっき層4は、電流密度0.1mA/cmで-215~-290mVのアノード電位を有するニッケルめっき層である。また、そのアノード電位は、クロムめっき部品1の耐食性をさらに高める観点から、好ましくは-220~-285mVであり、より好ましくは-220~-280mVである。
アノード電位は、平衡電位の目安となる電位であり、電位の貴卑関係を明確に示す。アノード電位は、例えばクロムめっき部品1からクロムめっき層5を除去した試料(電位測定用試料)を作用極として、クロノポテンショメトリ法によって測定することができる。具体的には、白金を対極、銀-塩化銀(飽和KCl)電極を参照極、塩化ニッケル六水和物を300g/L、塩化ナトリウムを50g/L、ホウ酸を25g/Lを電解液とし、クロノポテンショメトリにより電圧を測定する。測定の際の、電流密度0.1mA/cmにおける作用極の電圧値を、第2ニッケルめっき層4の「アノード電位」とする。
電位の貴卑関係は、後記する平衡電位によって評価するのが一般的であるが、本発明者らは今回、アノード電位が平衡電位に比べ、電位の貴卑関係を数倍鋭敏に反映することを見出した。アノード電位はまた、平衡電位よりも簡便な方法で測定し得る利点も有するので、上記のようにアノード電位によって第2ニッケルめっき層4の電位を規定し、クロムめっき部品1の物性を管理することとしたものである。
尚、ニッケルめっき層の上記アノード電位は、めっき種等の条件によっても異なるが、一般に平均的な光沢ニッケルめっき層で-250mV前後、汎用のニッケル-クロムめっきにおける三層ニッケルめっきの最上層(例えば共析ニッケルめっき層)ではより貴電位側の値、平均的な半光沢ニッケルめっき層ではさらに貴電位側の-150mV前後の値となる。そのため、第2ニッケルめっき層4は、例えば汎用の光沢ニッケルめっき層や、あるいは同等の電位を有するサテンニッケルめっき層、さらにはそれらの電位を電位調整剤等で卑電位側又は貴電位側に調整したニッケルめっき層で構成することができる。
(平衡電位)
上記のようなアノード電位を有する第2ニッケルめっき層4の平衡電位は、概して-402~-414mV程度となる。平衡電位は例えば、白金を対極、銀-塩化銀(飽和KCl)電極を参照極、塩化ニッケル六水和物を300g/L、塩化ナトリウムを50g/L、ホウ酸を25g/Lを含む液を電解液として測定することができる。例えばクロムめっき部品1からクロムめっき層5を除去した試料(電位測定用試料)を作用極とし、クロノポテンショメトリで電流密度を0.01、0.1、1、-0.01、-0.1、及び-1mA/cmとした際の電圧値からTafelプロットを作成することにより、平衡電位を求めればよい。
(光沢ニッケルめっき層)
第2ニッケルめっき層4の代表例の一つである光沢ニッケルめっき層は、ニッケルめっき皮膜に硫黄を含んだものである。光沢ニッケルめっき層の種類は、特に限定されない。
光沢ニッケルめっき層は、硫黄化合物等からなる一次光沢剤等を含有させた公知のニッケルめっき液を用い、電気めっき処理することにより形成することができる。具体的に、そのニッケルめっき液としては、特に限定されないが、例えば、ワット浴、スルファミン酸浴、クエン酸浴、ワイズベルグ浴等を用いることができる。
また、光沢ニッケルめっき層を形成するためのニッケルめっき液に含まれる一次光沢剤としては、例えば、1,5-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、1,6-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、2,5-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、o-スルホベンズイミド(サッカリン)ナトリウム等の芳香族スルホンイミド類やスルフィン酸類、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等のエチレン系不飽和スルホン酸塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用される。
また、一次光沢剤と共にあるいはそれに代えて、光沢・レベリングを付与する目的の光沢・レベリング付与剤(二次光沢剤)を用いることができる。光沢・レベリング付与剤としては、例えば、1,4-ブチンジオール、ヘキシンジオール、プロパギルアルコール等のアセチレン系不飽和アルコール及びその誘導体、ピリジン系スルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。これらも1種又は2種以上組み合わせて使用される。
尚、一次光沢剤及び光沢・レベリング付与剤(二次光沢剤)としては、例えば、HI-
BRITE #88プロセス((株)JCU製)に使用される#81、#83、#810等の市販品を使用することもできる。
ニッケルめっき液においては、上述した一次光沢剤を、例えば、0.1~10g/L、好ましくは1~5g/L、より好ましくは1.5~4g/L程度の濃度で含有する。また、ニッケルめっき液においては、光沢・レベリング付与剤を、例えば、0.5~300ppm、好ましくは10~200ppm、より好ましくは20~200ppm程度の濃度で含有する。
光沢ニッケルめっき用のめっき液には、湿潤剤を含有させることが好ましい。湿潤剤としては、例えば界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール等のノニオン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のアニオン系の界面活性剤等が挙げられる。これら界面活性剤は1種又は2種以上を用いることができる。尚、湿潤剤として、例えばHI-BRITE #88プロセス((株)JCU製)に使用される#82、#82-A、#82-K等の市販品を利用してもよい。上記湿潤剤は、ニッケルめっき液に、例えば、10~1000ppm、より好ましくは100~500ppm程度の濃度で含有させる。
光沢ニッケルめっき層を形成するための電気めっきの条件についても、特に限定されず、慣用の条件を採用することができる。例えば、浴温を40~60℃、より好ましくは45~55℃、電流密度を1~10A/dm、より好ましくは2~5A/dmとした条件で行うことができる。
このようにして調製された光沢ニッケルめっき層を、第2ニッケルめっき層4として第1ニッケルめっき層上に形成してもよい。光沢ニッケルめっき層のアノード電位は、めっき液における一次光沢剤や光沢・レベリング付与剤(二次光沢剤)の量や温度を調整することにより、-215~-290mVの範囲内で卑電位側又は貴電位側にシフトさせることができる。光沢ニッケルめっき層の電位調整はまた、電位調整剤の配合によって行うことも可能である。
(電位調整剤)
ニッケルめっき液に含まれる電位調整剤としても、公知のものを使用することができる。例えば、サッカリンナトリウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、S-エチルイソチオ尿素臭化水素酸塩、3-[[アミノ(イミノ)メチル]チオ]プロパン酸、2,4-チアゾリジンジオン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等の卑電位側電位調整剤;ブチンジオール、ヘキシンジオール、プロパギルアルコール、アリル硫酸ナトリウム、ホルマリン、抱水クロラール(2,2,2-トリクロロ-1,1-エタンジオール)、抱水ブロマール(2,2,2-トリブロモ-1,1-エタンジオール)等の貴電位側電位調整剤が挙げられるが、これらに限定されない。
尚、電位調整剤としては、例えば、卑電位側電位調整剤としてTRI-STRIKE、貴電位側電位調整剤としてADDITIVE-E(いずれも(株)JCU製)等の市販品を使用することもできる。
このような、一次光沢剤、二次光沢剤、及び電位調整剤等の濃度を適宜調整したニッケルめっき液を用いてめっき処理することにより、上記のような電位を有する第2ニッケルめっき層4を形成することができる。勿論、光沢ニッケルめっき液以外のめっき液を用いて、アノード電位が-215~-290mVの第2ニッケルめっき層4を形成することも可能である。例えば以下に述べるサテンニッケルめっきにより、第2ニッケルめっき層4を形成してもよい。その際のめっきは、上記した光沢ニッケルめっきと同様の条件で行うことができる。
(サテンニッケルめっき層)
サテンニッケルめっきとは、めっき皮膜表面に微細な凹凸形状を形成し、これにより半光沢や無光沢の梨地状外観を得るめっき手法である。ニッケルめっき浴中に界面活性剤を複数添加することでエマルションが形成され、皮膜表面への吸着・脱離を繰り返す。エマルションが吸着した部位では皮膜析出が阻害され、脱離後に皮膜表層に凹形状が形成されることで、梨地状外観を得ることができる。界面活性剤としては、例えばカチオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。これら界面活性剤を分散させたニッケルめっき液を用いることによって製造することができる。こうしたサテンニッケルめっきは、梨地状外観を有するクロムめっき部品1を製造する際に有用である。
サテンニッケルめっき層はまた、DOUBLET SATINプロセス((株)JCU製)等の市販品を用いて形成することもできる。
尚、ニッケルめっき液としては、シリカ等の非導電性微粒子を含有しないものを用い、非導電性微粒子不含の第2ニッケルめっき層4とすることが好ましい。非導電性微粒子を含まない第2ニッケルめっき層4とすることにより、当該微粒子の析出等が防止され、クロムめっき部品1の外観をより良好なものとすることができる。また、めっき処理において非導電性微粒子を用いないニッケルめっき液を用いることで、めっき液の管理が容易になり、めっき工程を簡略化できる利点も生じる。
以上のようにして、ニッケルめっき層を三層有する慣用のニッケル-クロムめっき部品における最上層のニッケルめっき層に比べ、電位が卑である第2ニッケルめっき層が、第1ニッケルめっき層3上に形成される。
〔第1ニッケルめっき層〕
第1ニッケルめっき層3は、第2ニッケルめっき層4に対し、15~150mV卑である電位を有するニッケルめっき層である。慣用のニッケル-クロムめっき部品において素地直上のめっき層として多用される半光沢ニッケルめっき層に比べ、かなり卑な電位を有する。
第1ニッケルめっき層3は例えば、上記した光沢ニッケルめっき液中の一次光沢剤、光沢・レベリング付与剤(二次光沢剤)、及び電位調整剤等の種類や含有量を変えためっき液を用いて調製することができる。また、TRI-STRIKEプロセス((株)JCU製)のような、市販の卑電位ニッケルめっき液を用いて調製することも可能である。
また、第1ニッケルめっき層3を形成するための電気めっきの条件についても、特に限定されず、慣用の条件を採用することができる。例えば、浴温を40~60℃、より好ましくは45~55℃、電流密度を1~10A/dm、より好ましくは2~5A/dmとした条件で行うことができる。
(電位差、電位の測定)
上述したように、第1ニッケルめっき層3は第2ニッケルめっき層4に対し、15~150mV卑である電位を有する。クロムめっき部品1の耐食性をさらに高める観点からは、第2ニッケルめっき層4に対して、好ましくは30~150mV、より好ましくは40~140mV、さらに好ましくは50~120mV、特に好ましくは70~100mV卑である電位を有する。
このような電位差は、例えばASTM B764:「多層ニッケル析出物中の個々の層の厚さと電位の同時決定」に従うSTEP試験により、測定することができる。より具体的には、NiCl・6HOを300g/L、NaClを50g/L、HBOを25g/L含有する電解液(20℃)中に、銀-塩化銀参照電極(基準電極)と、クロムめっき部品1から3価クロムめっき層5を除去した試料(電位測定用試料)とを配置し、例えば多層ニッケルめっき耐食性測定装置等の市販の装置によって測定することができる。尚、ここでの電位差は上記したアノード電位や平衡電位とは測定条件が異なるため、例えば当該電位差を第2ニッケルめっき層4のアノード電位又は平衡電位から差し引いて、第1ニッケルめっき層3のアノード電位又は平衡電位とすることはできない。
クロムめっき部品1では、上記のように素地2における表面層22の直上に第1ニッケルめっき層3が、その直上かつクロムめっき層5側に第2ニッケルめっき層4が形成され、そして、第2ニッケルめっき層4は電流密度0.1mA/cmで-215~-290mVのアノード電位を有し、第1ニッケルめっき層3は第2ニッケルめっき層4に対し15~150mV卑である電位を有する。このようなクロムめっき部品1によれば、優れた耐食性と良好な外観が発現する。
クロムめっき部品1において、上述した効果を奏する理由は定かではなく特定の理論により限定されるものではないが、理由の一つとして、第1ニッケルめっき層3の電位が卑であるため、隣接する銅又は銅合金からなる表面層22の腐食が効果的に抑制されて空孔等を生じ難くなり、結果としてめっき層付近での膨れの発生も抑えられている可能性がある。同時に、第2ニッケルめっき層4が、より卑電位の第1ニッケルめっき層3の犠牲腐食によって抑制されるために、クロムめっき部品1全体の耐食性が改善されていると考えられる。
〔ニッケルめっき層の膜厚、膜厚比率〕
クロムめっき部品1において、ニッケルめっき層を構成する第1ニッケルめっき層3及び第2ニッケルめっき層4の膜厚は、特に限定されず、目的に応じて、例えば100μm以下や、1~50μm程度とすることができる。また、耐食性をより優れたものとし、かつニッケルめっきのコストを低減する観点からは、第1ニッケルめっき層3と第2ニッケルめっき層4との合計膜厚(ニッケル膜厚)が、1~30μm程度であることが好ましく、2~20μm程度であることがより好ましく、5~15μm程度であることが特に好ましい。
また、第1ニッケルめっき層3:第2ニッケルめっき層4の膜厚比率は、1:10~30:1であることが好ましく、1:4~14:1の範囲内であることがより好ましい。これによって、より一層優れた耐食性が発現する傾向がある。また、この膜厚比率は、1:4~4:1、特に1:2~4:1の範囲内であることにより、クロムめっき部品1の耐食性が、さらに顕著なものとなり得る。
[3価クロムめっき層]
クロムめっき部品1においては、第2ニッケルめっき層4上に接して、3価クロムめっき層5が形成されている。この3価クロムめっき層5により、耐食性及び美的装飾性に優れ、装飾用等として有用なめっき部品が提供される。
3価クロムめっき層5の形成方法についても、特に限定されず、慣用のめっき方法により所望の条件で処理を行えばよい。例えば、3価クロム化合物、錯化剤、導電性塩、及びpH緩衝剤等を含有させた公知の3価クロムめっき液を用い、電気めっき処理することにより形成することができる。
3価クロムめっき層5を形成するための3価クロムめっき液において、3価クロム化合物は、特に限定されない。例えば、塩基性硫酸クロム(III)(Cr(OH)SO)、硫酸クロム(III)、塩化クロム(III)、スルファミン酸クロム(III)、酢酸クロム(III)等が挙げられる。その中でも、塩基性硫酸クロム及び/又は硫酸クロムを使用することが好ましい。これら3価クロム化合物は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。また、3価クロムめっき液における3価クロム化合物の含有量は、例えば金属クロムとして1~25g/L程度とすることができる。
また、錯化剤についても、特に限定されない。例えば、ギ酸、ギ酸アンモニウム、ギ酸カリウム等の脂肪族モノカルボン酸(塩);コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその塩;クエン酸、クエン酸三アンモニウム等の脂肪族トリカルボン酸(塩);酒石酸、酒石酸ジアンモニウム、酒石酸ナトリウム等のヒドロキシ基を2つ以上、カルボキシ基を2つ以上有するカルボン酸(塩);グリシン等のアミノカルボン酸等が挙げられる。これら錯化剤は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。3価クロムめっき液における錯化剤の含有量は、例えば0.1~50g/L程度とすることができる。
また、導電性塩についても、特に限定されない。例えば、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の硫酸塩;塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム等の塩化物;スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸ナトリウム等のスルファミン酸塩等が挙げられる。これら導電性塩は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。3価クロムめっき液における導電性塩の含有量は、例えば100~500g/L程度とすることができる。
また、pH緩衝剤についても、特に限定されない。例えば、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、リン酸、リン酸水素2カリウム等が挙げられる。これらpH緩衝剤は、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。3価クロムめっき液におけるpH緩衝剤の含有量は、例えば25~200g/L程度とすることができる。
3価クロムめっき液には、さらに、チオシアン酸ナトリウム、メチオニン、システイン等の黒色化剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、過酸化水素、ポリエチレングリコール、硫酸スズ、塩化スズ等のスズ塩、塩化鉄、サッカリンナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム等を含有させてもよい。
上記した錯化剤、導電性塩、pH緩衝剤を含有する3価クロムめっき液として、例えば、JCU TRICHROM JTCシリーズ((株)JCU製)、トップファインクロムシリーズ(奥野製薬工業(株)製)、アーサスクロムシリーズ(SurTec製)、トライクロムシリーズ(Atotech製)、エンバイロクロムプロセス、トワイライトプロセス(いずれもMacdermid製)等の市販品を使用してもよい。クロムめっき層は一般に銀白色の外観を有するが、めっき液に例えば上記の黒色化剤を配合して、黒色のめっき層を形成することもできる。
3価クロムめっき層5を形成するための電気めっきの条件についても、特に限定されず、慣用の条件を採用することができる。例えば、浴温を30~60℃、アノードとしてカーボン又は酸化イリジウムを用い、陰極電流密度を5~20A/dmとした条件で行うことができる。
クロムめっき部品1では、後記する実施例でも示されるように、3価クロムめっき層5がどのような種類及び膜厚であっても、優れた耐食性と良好な外観を示す。そのため、3価クロムめっき層5の膜厚は、特に限定されず、例えばクロムめっき製品で一般的なめっき層厚である0.05μm以上、具体的には0.1~1.0μm、特に0.15~0.50μm程度としてもよい。
[電解化成処理・浸漬化成処理]
クロムめっき部品1は、好ましくは上記の3価クロムめっき層5上に、電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜をさらに備える。このことによって、クロムめっき部品1の耐食性がさらに高まる場合がある。3価クロムめっき層5の表面に行う電解化成処理及び浸漬化成処理に特に制限はなく、慣用の処理方法を所望に応じて適用することができる。例としてクロメート処理、ワックス処理、ベンゾトリアゾールやトリアジンチオール等の溶液による処理、アミノ基やイミノ基を有する化合物の溶液による処理、さらには熱処理等が挙げられるが、これらに限定されない。こうした後処理によって、クロムめっき部品の耐食性をさらに改善し、あるいは変色や水素脆化等をより有効に防止し得る。
(クロメート処理)
電解化成処理又は浸漬化成処理の内でも、6価クロムイオンを含む処理、いわゆるクロメート処理を行うことがより好ましい。クロメート皮膜は自己修復性を有するので、クロムめっき部品1の耐食性をさらに向上させ得る。
クロメート処理としては、例えば、無水クロム酸、重クロム酸塩等の6価クロムイオンを利用した公知の電解化成処理又は浸漬化成処理が挙げられる。電解化成処理は慣用の方法で行うことができ、例えばEBACHRO-500プロセス、EBACHRO-900プロセス((株)JCU製)等の市販のプロセスやこれに用いる処理剤を利用してもよい。また、クロメート処理に代えて、3価クロムイオンを含む化成処理や、モリブデン、バナジウム、リン酸、過マンガン酸、鉄等の金属を用いた、クロムフリー化成皮膜処理を活用することもできる。
[クロムめっき部品及びその用途]
クロムめっき部品1は、上層が3価クロムめっき層5であっても優れた耐食性を示し、しかも外観が良好である。クロムめっき部品1は、例えばJIS H8502に準じた耐食性評価法であるCASS試験で、レイティングナンバー(R.N.)が概ね9以上、例えば9.3以上という高い評価結果を示す。そのため、クロムめっき部品1は、例えば、自動車部品、船外機部品、水栓金具、建材部品、家電部品等、様々な部品として利用することができる。
≪クロムめっき部品の製造方法≫
クロムめっき部品1は、以上でも説明したように、銅又は銅合金からなる表面層22を有する素地2上に、表面層に接して第1ニッケルめっき層3を形成する工程と、第1ニッケルめっき層3上に接して第2ニッケルめっき層4を形成する工程と、第2ニッケルめっき層4上に接して3価クロムめっき層5を形成する工程と、を備えるクロムめっき部品の製造方法であって、第2ニッケルめっき層4は電流密度0.1mA/cmで-215~-290mVのアノード電位を有し、第1ニッケルめっき層3は第2ニッケルめっき層4に対し15~150mV卑である電位を有することを特徴とする製造方法によって、作製することができる。
第1ニッケルめっき層3、第2ニッケルめっき層4、及び3価クロムめっき層5を形成する各工程は、各々のめっき層についての説明で記載した方法及び条件を用いて行うことができる。3価クロムめっき層5の表面に、上記したような電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜をさらに形成してもよい。クロムめっき部品1の製造方法においては、ニッケルめっき層を二層形成すればよいため、煩雑な工程管理を伴うことなく、より少ない工程で製造することができる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
≪実施例1≫
本発明に従うクロムめっき部品を、以下のようにして作製した。
(素地の調製)
ABS樹脂成形品(形状:平板)の全面をクロム酸でエッチングした後、常法に従って還元処理、触媒化、及び活性化を行い、次いで無電解ニッケルめっきに付した。クロム酸エッチングには、無水クロム酸:400g/L、硫酸:400g/L、3価クロム:10g/Lを含有する処理液を使用した。無電解ニッケルめっきは、ENILEX NI-5プロセス((株)JCU製)を用いて40℃で行った。その後、CU-BRITE EP-30プロセス((株)JCU製)を用いて、室温、3A/dmの条件で電解銅めっきを行い、素地を調製した。
(第1ニッケルめっき)
上記で得られた素地を第1ニッケルめっき液に浸漬し、50℃、3A/dmにて15分間の条件で厚さ6μmの第1ニッケルめっき層を形成した。第1ニッケルめっき液としては、下記の卑電位ニッケルめっきベース液をそのまま使用した。
<卑電位ニッケルめっきベース液>
・ワット浴
硫酸ニッケル 260g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 40g/L
・TRI-STRIKEプロセス((株)JCU製)
TRI-STRIKE 3ml/L
#82(湿潤剤) 2ml/L
(第2ニッケルめっき)
次に、下記の第2ニッケルめっき液に浸漬し、50℃、3A/dmにて15分間の条件で厚さ6μmの第2ニッケルめっき層を形成した(第1ニッケルめっき層と第2ニッケルめっき層との合計膜厚=12μm、第1ニッケルめっき層厚:第2ニッケルめっき層厚=1:1)。第2ニッケルめっき液としては、下記のような光沢ニッケルめっきベース液に、電位調整剤としてTRI-STRIKE((株)JCU製)を1ml/Lとなる量にて配合した液を使用した。これにより調製される第2ニッケルめっき層は、平均的な光沢ニッケルめっき層に比べて卑な電位を有し、第1ニッケルめっき層に対する電位差が+60mV(第1ニッケルめっき層の電位は第2ニッケルめっき層に対して60mV卑)となるように調整されている。
<光沢ニッケルめっきベース液>
・ワット浴
硫酸ニッケル 260g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 40g/L
・HI-BRITE#88プロセス((株)JCU製)
#810(二次光沢剤) 3ml/L
#82(湿潤剤) 2ml/L
#83(一次光沢剤) 10ml/L
(3価クロムめっき)
次いで、下記の3価クロムめっき液に浸漬し、55℃、10A/dmにて4分間の条件で、白色3価クロムめっき層を上記第2ニッケルめっき層に接するように形成した。得られたクロムめっき部品試料は、良好な外観を呈していた。
<3価クロムめっき液>
・塩基性硫酸クロム 19.5g/L (クロム濃度3g/L)
・リンゴ酸 3g/L
・硫酸カリウム 150g/L
・ホウ酸 70g/L
・サッカリン 3g/L
・3-アミノロダニン 20mg/L
上記のようにして得られたクロムめっき部品試料について、外観を評価すると共に、膜厚等を測定し、耐食性評価試験を行った。試験方法は以下のとおりである。試験結果は、後記する表1に示す。
(膜厚測定)
・各ニッケルめっき層の膜厚は、断面顕微鏡写真から測定した。
・クロムめっき層の膜厚(Cr膜厚)は、(株)日立テクノサイエンス製蛍光X線分析器「FT-150H」で測定した。
(アノード電位測定)
クロムめっき部品試料を1:1塩酸中に浸漬してクロムめっき層を除去し、次いでマスキングして、第2ニッケルめっき層が表面に直径6mmの円形状に露出した試料(電位測定用試料)を作製した。この電位測定用試料を作用極とし、白金を対極、銀-塩化銀(飽和KCl)電極を参照極として、クロノポテンショメトリにより電圧を測定した。電解液としては、塩化ニッケル六水和物を300g/L、塩化ナトリウムを50g/L、ホウ酸を25g/L含有するpH2.75の水溶液を使用した。装置としては北斗電工株式会社製のHZ-7000を用い、25℃、600秒間、攪拌なしの条件で測定した。測定はn=3にて行い、平均値を採用した。
・電流密度を0.1mA/cmとし、電圧が安定した際の作用極の電圧値を、第2ニッケルめっき層の「アノード電位」とした。
尚、同様に、電流密度を0.01、0.1、1、-0.01、-0.1、及び-1mA/cmとし、電圧が安定した際の作用極の電圧値からTafelプロットを作成して、平衡電位を求めた。その結果、第2ニッケルめっき層のアノード電位が-215~-290mVのとき、平衡電位は-402~-414mVであった。
(電位差測定)
ASTM B764:「多層ニッケル析出物中の個々の層の厚さと電位の同時決定」に従うSTEP試験により、第2ニッケルめっき層に対する第1ニッケルめっき層の電位差を測定した。測定に先立ち、NiCl・6HOを300g/L、NaClを50g/L、HBOを25g/L含有する電解液(20℃)を用意した。該電解液中に上記電位測定用試料を配置し、参照電極として銀-塩化銀電極を備える(株)中央製作所製の多層ニッケルめっき耐食性測定装置「ED-3」を用いて測定した。
(耐食性評価)
耐食性は、JIS H8502に準じたCASS試験により評価した。塩化ナトリウムを50±5g/L及び塩化第二銅(CuCl2・2HO)を0.26±0.02g/L含有し、酢酸でpHを3.0~3.2に調整した水溶液を、下記条件で65×50mmの試料に噴霧して、80時間後のレイティングナンバー(R.N.)を測定した。
・噴霧量:1.5±0.5ml/80cm/h
・試験層内温度:50±2℃
・塩水タンク温度:50±2℃
・空気飽和器温度:63±2℃
・圧縮空気圧力:70~167kPa
上記CASS試験後試料の外観を目視観察し、膨れ(めっき内層部の空孔)の個数・比率から、以下の基準に従い評価した。
5:膨れなし
4:膨れが5個以下
3:膨れが発生した領域は試料表面の半分以下であるが、6個以上の膨れが発生
2:膨れが発生していない部分もあるものの、試料表面の半分以上の領域で膨れが発生
1:試料全面で膨れが発生
≪実施例2≫
実施例1と同一の操作で得られたクロムめっき部品試料の表面層に、さらに電解クロメート処理を行った。電解クロメート処理は、EBACHRO-500プロセス((株)JCU製ECR-500を100ml/L含有する6価クロム系処理液)を用い、40℃、0.1A/dmにて1分間の条件で行った。得られたクロムめっき部品試料は、良好な外観を呈していた。この試料について、実施例1と同様に試験した結果を、後記する表1に示す。
≪実施例3~8、比較例1~4≫
第1ニッケルめっき液及び第2ニッケルめっき液の配合を変化させた以外は、実施例1又は2と同様の操作を行った。第1ニッケルめっき液としては、上記光沢ニッケルめっきベース液に電位調整剤としてTRI-STRIKE((株)JCU製)を1~5ml/Lとなる量で配合して電位を卑にした液(実施例3~8)、及びADDITIVE-E((株)JCU製)を0~0.1ml/Lとなる量で配合して電位を貴にした液(比較例1~4)を使用した。第2ニッケルめっき液としては、上記光沢ニッケルめっきベース液(実施例3~6)、及びそれにADDITIVE-E((株)JCU製)を0.1~1ml/Lとなる量で配合して電位を貴にした液(実施例7~8、比較例1~4)を使用した。
これら実施例及び比較例において調製される第2ニッケルめっき層は、第1ニッケルめっき層に対する電位差が+60mV(第1ニッケルめっき層の電位は第2ニッケルめっき層に対して60mV卑)となり、かつ実施例1~2の第2ニッケルめっき層に比べて貴な電位を有するように調整されている。得られたクロムめっき部品試料はいずれも、作製直後の外観は良好であった。これら試料についての試験結果を、後記する表1に示す。
≪比較例5≫
特許文献4記載のクロムめっき部品と同様にニッケルめっき層が三層構造を有する試料を、以下の条件で製造し、実施例1と同様にして評価した。
(半光沢ニッケルめっき)
実施例1と同様にして調製した素地を、下記の半光沢ニッケルめっき液に浸漬し、55℃、3A/dmにて15分間の条件で半光沢ニッケルめっき層を形成した。
<半光沢ニッケルめっき液>
・ワット浴
硫酸ニッケル 260g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 40g/L
・CF-24Tプロセス((株)JCU製)
CF-24T 1ml/L
#82-K(湿潤剤) 1ml/L
(光沢ニッケルめっき)
次に、上記した光沢ニッケルめっきベース液に浸漬し、50℃、3A/dmにて12分間の条件で光沢ニッケルめっき層を形成した。この光沢ニッケルめっき層は、下層の半光沢ニッケルめっき層に対して、145mV卑である電位を有していた。
(MPニッケルめっき)
さらに、下記のMPニッケルめっき液に浸漬し、55℃、3A/dmにて3分間の条件でMPニッケルめっき層を形成した。このMPニッケルめっき層は、下層の光沢ニッケルめっき層に対して、55mV貴である電位を有していた。また、半光沢ニッケルめっき層:光沢ニッケルめっき層:MPニッケルめっき層の膜厚比率は、5:4:1であった。
<MPニッケルめっき液>
・ワット浴
硫酸ニッケル 260g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 40g/L
・MP-NI308プロセス((株)JCU製)
MP-303 10ml/L
MP-311 3ml/L
MP POWDER 308 3g/L
MP-308B 2ml/L
ADDITIVE-E 0.15ml/L
(クロムめっき部品試料の調製)
次いで、実施例1と同様の条件で3価クロムめっきを行ってクロムめっき部品試料を調製し、物性を評価した。評価結果を、後記する表1に示す。
≪比較例6≫
二層のニッケルめっき層の内、素地側のニッケルめっき層(下層)が貴電位である試料を作製した。実施例1と同様にして調製した素地に、半光沢ニッケルめっき、光沢ニッケルめっき、3価クロムめっきをこの順で行ってクロムめっき部品試料を調製し、物性試験を行った。尚、各めっき処理は、比較例1及び5等と同様の条件で、但し光沢ニッケルめっきのめっき時間を15分間として行った。また、本比較例のクロムめっき部品試料においては、下層の半光沢ニッケルめっき層は、上層の光沢ニッケルめっき層に対して、145mV貴である電位を有していた。得られたクロムめっき部品試料の試験結果を、表1に示す。
Figure 0007350965000002
第2ニッケルめっき層に対して60mV卑である電位を有する第1ニッケルめっき層を素地側に備えた実施例1~8及び比較例1~4のクロムめっき部品試料は、いずれもCASS試験におけるレイティングナンバー(R.N.)が9.0以上と、三層構造のニッケルめっき層を備えた比較例5の試料に比べて優れていた。素地側のニッケルめっき層を卑電位とすることの重要性が、示唆される。中でも、本発明に従い、第2ニッケルめっき層の電流密度0.1mA/cmでのアノード電位が-215~-290mVの範囲内である実施例1~8のクロムめっき部品試料は、膨れ評価結果に関してもいずれも最高値を示し、トータルでの耐食性に優れることが判明した。また、本発明によれば、ニッケルめっき工程が通常のニッケル-クロムめっきよりも一工程少ないにも拘らず、耐食性の点で極めて優れたクロムめっき部品を製造し得ることが明らかとなった。
一方で、第2ニッケルめっき層のアノード電位が本発明で規定する範囲外の比較例1~4においては、CASS試験後に試料全面に膨れが発生してしまった。膨れを抑制するためには、第2ニッケルめっき層(上層ニッケルめっき層)の電位を特定範囲内に収める必要のあることが、明らかとなった。また、下層側のニッケルめっき層が上層側よりも貴電位である比較例6の試料では、R.N.が低くなっていた。クロムめっき部品の耐食性を高める上で、素地側のニッケルめっき層をより卑な電位とすることの重要性が、再度示された。
尚、実施例5~6の試料においては、同一条件の実施例3~4の試料に比べて、クロムめっき層の膜厚が3倍以上の値となっているが、CASS試験結果は同等であった。本発明のクロムめっき部品は、3価クロムめっき層がどのような膜厚であっても優れた耐食性を発現することが示唆される。また、実施例1~8のクロムめっき部品試料では、ニッケル膜厚が12μmであってもR.N.値が9.0以上と、後記するニッケル膜厚が25μmのクロムめっき部品と同等又はそれ以上の値であった。ニッケル膜厚が半分以下であるにも拘らず同等の耐食性が発現していることから、本発明によってニッケルを多用することなく耐食性を改善し得ることが示された。すなわち、本発明の製造方法によれば、ニッケルの使用量を低減でき、それ故にニッケルめっき工程をより短時間かつ低コストで行うことも可能となる。
≪実施例9~18≫
第1ニッケルめっき液の配合を変化させた以外は、実施例7又は8と同様の操作を行った。第1ニッケルめっき液としては、上記の光沢ニッケルめっきベース液(実施例9~14)又は卑電位ニッケルめっきベース液(実施例15~18)にTRI-STRIKE((株)JCU製)を0~5ml/Lとなる量で配合した液を使用し、実施例9及び10では浴温を60℃として、第2ニッケルめっき層に対する第1ニッケルめっき層の電位差を調整した。得られたクロムめっき部品試料はいずれも、良好な外観を呈した。これら試料についての試験結果を、後記する表2に示す。
≪比較例7≫
第1ニッケルめっき液として上記光沢ニッケルめっきベース液を、第2ニッケルめっき液として上記卑電位ニッケルめっきベース液を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたクロムめっき部品試料の試験結果を、後記する表2に示す。
≪比較例8≫
第1ニッケルめっき液の浴温を52℃に上げた以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたクロムめっき部品試料の試験結果を、後記する表2に示す。
≪比較例9≫
参考のため、6価クロムめっき部品も調製した。3価クロムめっきの代わりに下記のめっき液を使用して、42℃、10A/dmにて3分間の条件で6価クロムめっきを行った以外は、比較例7と同様の操作を行った。得られたクロムめっき部品試料の試験結果を、後記する表2に示す。
<6価クロムめっき液>
・EBACHROM E-300LNプロセス((株)JCU製)
クロム酸 240g/L
硫酸 1g/L
ECR-300LN 10ml/L
MISTSHUT NP 0.1ml/L
≪比較例10≫
3価クロムめっきの代わりに比較例9と同様の6価クロムめっきを行った以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたクロムめっき部品試料は、外観が極めて悪いものであった。そのため、CASS試験でのR.N.評価は実施していない。膨れ評価等の結果を、表2に示す。
Figure 0007350965000003
本発明に従い、第2ニッケルめっき層の電流密度0.1mA/cmでのアノード電位が-215~-290mVの範囲内で、かつ第1ニッケルめっき層が第2ニッケルめっき層に対して15~150mV卑である電位を有する実施例3、4、及び7~18のクロムめっき部品試料は、いずれもR.N.が9.0以上で、膨れ評価結果が4以上と、優れた耐食性を示した。中でも、第1ニッケルめっき層が第2ニッケルめっき層に対して70mV以上卑である電位を有する実施例13~18のクロムめっき部品試料は、R.N.が9.5以上で、膨れ評価結果が5と、特に優れた耐食性を示した。
一方で、第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との電位差が上記範囲外の比較例7及び8においては、膨れ試験結果は良好であったものの、R.N.が劣っていた。6価クロムめっきを行った比較例9及び10の試料も、同様であった。第2ニッケルめっき層の電位と共に、両ニッケルめっき層間の電位差も規定の範囲内とする必要があること、並びに、本発明に従うクロムめっき部品試料は6価クロムめっき部品を凌駕する耐食性を示すことが明らかとなった。
≪実施例19~70、比較例11~34≫
第2ニッケルめっき層に対する第1ニッケルめっき層の電位差を-60mVに、ニッケル膜厚を12μmに、それぞれ固定して、膜厚比が耐食性に及ぼす影響について検討した。第1ニッケルめっき及び第2ニッケルめっきの処理時間を、それぞれ1~29分間及び1~29分間として両ニッケルめっき層の膜厚比を種々に変化させた以外は、実施例1~8及び比較例1~4と同様の操作を行った。尚、めっき時間と各ニッケルめっき層の膜厚との相関が取れていることは、上記した断面顕微鏡写真に基づく測定により確認した。得られたクロムめっき部品試料はいずれも、作製直後の外観は良好であった。これら試料についての試験結果を、実施例1~4及び比較例1~4等の結果と共に、表3及び4に示す。
Figure 0007350965000004
Figure 0007350965000005
本発明に従い、第2ニッケルめっき層の電流密度0.1mA/cmでのアノード電位が-215mV以下の値である実施例19~70等のクロムめっき部品試料は、いずれもR.N.が8.0以上で、膨れ評価結果が4以上と、優れた耐食性を示した。中でも、第2ニッケルめっき層のアノード電位が卑であるクロムめっき部品試料、特に、同電位が-273mVと低い実施例1、2、及び19~30のクロムめっき部品試料は、極めて優れた耐食性を示した。
一方で第2ニッケルめっき層のアノード電位が-215mVより貴である比較例11~34等のクロムめっき部品試料は、R.N.は良好な値であったものの、膨れ評価結果はいずれも3以下であった。特に、アノード電位が-194mVと貴である比較例3、4、及び23~34のクロムめっき部品試料は、いずれも膨れ評価結果が1と、極めて耐食性の悪いものであった。ニッケルめっき層の電位を卑とすることの重要性が示された。
また、R.N.については、両ニッケルめっき層の電位がより卑である試料で、また、第1ニッケルめっき層:第2ニッケルめっき層の膜厚比率が1:9~29:1、中でも1:4~14:1、特に1:4~4:1の試料で、特に良好な結果が得られた。
≪実施例71~72≫
第1ニッケルめっき層と第2ニッケルめっき層との合計膜厚を25μmとした以外は、実施例3又は4と同様の操作を行った(両ニッケルめっき層間の電位差は60mV、膜厚比率は1:1)。得られたクロムめっき部品試料は、いずれも良好な外観を呈していた。これら試料についての試験結果を、後記する表5に示す。
≪比較例35~38≫
また、半光沢ニッケルめっき層:光沢ニッケルめっき層:MPニッケルめっき層の膜厚比率を9:6:1、ニッケル膜厚を25μmとし、かつ光沢ニッケルめっき層に対するMPニッケルめっき層の電位差を+30mV又は+70mVとした以外は、比較例5と同様の操作を行った。比較例36及び38においては、実施例4と同様のクロメート処理も行った。得られた試料についての試験結果を、後記する表5に示す。
≪比較例39≫
3価クロムめっきの代わりに6価クロムめっきを行った以外は、比較例35と同様の操作を行った。6価クロムめっきは、比較例9と同様にして行った。得られた試料についての試験結果を、表5に示す。
Figure 0007350965000006
本発明に従う実施例71及び72のクロムめっき部品試料は、ニッケルめっき層が二層であるにも拘らず、三層ニッケルめっき構造を有する比較例35~39と同等の耐食性を示した。
≪実施例73~74≫
クロムめっきとして白色3価クロムめっきの代わりに黒色3価クロムめっきを行った以外は、実施例5~6と同様の操作を行った。黒色3価クロムめっきは、試料を下記の黒色3価クロムめっき液に浸漬し、40℃、10A/dmにて3分間の条件で行った。得られたクロムめっき部品試料は、良好な外観を呈していた。得られた試料についての試験結果を、後記する表6に示す。
<黒色3価クロムめっき液>
・JTC-BKプロセス((株)JCU製)
JTC-CR2 130g/L
JTC-BK-S 300g/L
JTC-A 90mL/L
JTC-BK-B 20mL/L
JTC-BK-C 20mL/L
JTC-WA 2mL/L
≪比較例40~41≫
クロムめっきとして黒色3価クロムめっきを行い、かつ光沢ニッケルめっき層に対するMPニッケルめっき層の電位差を+35mVとした以外は、比較例35又は36と同様の操作を行った。黒色3価クロムめっきは、実施例73~74と同様にして行った。得られた試料についての試験結果を、表6に示す。
Figure 0007350965000007
本発明に従う実施例73及び74のクロムめっき部品試料は、三層のニッケルめっき層を備えた比較例40及び41の試料と同等以上の、優れた耐食性を示した。本発明の効果は、3価クロムめっき層が白色3価クロムめっき層や黒色3価クロムめっき層等のどのようなものであっても発現することが、明らかとなった。
≪実施例75~76≫
第2ニッケルめっき液として以下のサテンニッケルめっき液(pH4.2)を用い、52℃、3A/dmにて15分間の条件で第2ニッケルめっき層を形成した以外は、実施例3又は4と同様の操作を行った。得られたクロムめっき部品試料はいずれも、外観が良好であった。これら試料についての試験結果を、表7に示す。
<サテンニッケルめっき液>
・ワット浴
硫酸ニッケル 470g/L
塩化ニッケル 40g/L
ホウ酸 40g/L
・DOUBLET SATINプロセス((株)JCU製)
SATIN NICKEL EM1 10mL/L
SATIN NICKEL EM2 5mL/L
SATIN NICKEL DS-A 0.1mL/L
SATIN NICKEL DS-B 0.1mL/L
Figure 0007350965000008
本発明のクロムめっき部品は、第2ニッケルめっき層がサテンニッケルめっき層であっても、優れた耐食性を発現することが示された。
以上の実施例からも明らかなように、本発明によれば、上層が3価クロムめっき層であっても優れた耐食性を示し、外観が良好なクロムめっき部品を、煩雑な工程管理を伴うことなく、より簡略化された工程で製造することができる。
1 クロムめっき部品
2 素地
2A 素地の表面
3 第1ニッケルめっき層
4 第2ニッケルめっき層
5 3価クロムめっき層
21 基材
22 表面層

Claims (9)

  1. 銅又は銅合金からなる表面層を有する素地と、
    前記素地の前記表面層に接して形成された第1ニッケルめっき層と、
    前記第1ニッケルめっき層上に接して形成された第2ニッケルめっき層と、
    前記第2ニッケルめっき層上に接して形成された3価クロムめっき層と、
    を備えるクロムめっき部品であって、
    前記第2ニッケルめっき層は、電流密度0.1mA/cm-230~-290mVのアノード電位を有し、
    前記第1ニッケルめっき層は前記第2ニッケルめっき層に対し、15~150mV卑である電位を有する
    ことを特徴とするクロムめっき部品。
  2. 前記第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との膜厚比率が1:10~30:1である、請求項1記載のクロムめっき部品。
  3. 前記第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との膜厚比率が1:4~14:1である、請求項1記載のクロムめっき部品。
  4. 前記第1ニッケルめっき層と前記第2ニッケルめっき層との合計膜厚が1~30μmである、請求項1記載のクロムめっき部品。
  5. 前記3価クロムめっき層上に、電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜をさらに備える、請求項1記載のクロムめっき部品。
  6. 前記第2ニッケルめっき層が、非導電性微粒子不含の層である、請求項1記載のクロムめっき部品。
  7. 前記素地が、樹脂、セラミックス、及び金属からなる群より選択される1種以上の材料からなり、かつ銅もしくは銅合金から主としてなる前記表面層が付された基材であるか、又は銅もしくは銅合金から主としてなる基材である、請求項1記載のクロムめっき部品。
  8. 銅又は銅合金から主としてなる表面層を有する素地上に、前記表面層に接して第1ニッケルめっき層を形成する工程と、
    前記第1ニッケルめっき層上に接して第2ニッケルめっき層を形成する工程と、
    前記第2ニッケルめっき層上に接して3価クロムめっき層を形成する工程と、
    を備えるクロムめっき部品の製造方法であって、
    前記第2ニッケルめっき層は、電流密度0.1mA/cm-230~-290mVのアノード電位を有する、非導電性微粒子不含の層であり、
    前記第1ニッケルめっき層は前記第2ニッケルめっき層に対し、15~150mV卑である電位を有する
    ことを特徴とするクロムめっき部品の製造方法。
  9. 前記3価クロムめっき層の表面に、電解化成処理膜及び/又は浸漬化成処理膜を形成する工程をさらに含む、請求項8記載のクロムめっき部品の製造方法。
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