以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
すなわち、本明細書では、インクジェット記録装置の一例として、産業用インクジェットプリンタについて説明するが、ここに開示する技術は、インクジェット記録装置および産業用インクジェットプリンタという名称に関わらず、インクジェットを用いた一般の機器に適用することができる。
また、本明細書においては、インクジェット記録装置による印字加工について説明するが、ここでいう「印字加工」には、文字の印刷、図形のマーキング等、インクジェットを応用したあらゆる加工処理が含まれる。
<全体構成>
図1は自動印字システムSの全体構成を例示する図である。また、図2Aはインクジェット記録装置Iの概略構成を例示する図であり、図2Bはインクジェット記録装置Iにおける印字ヘッド1の概略構成を例示する図である。そして、図3は、インクジェット記録装置Iにおけるインクおよび溶剤の経路を例示する図である。図1に例示する自動印字システムSは、工場等の搬送ラインLに設置されており、その搬送ラインLを流れる各ワークWに対し、順番に印字加工を施すように構成されている。なお、本開示の適用対象は、自動印字システムSには限定されない。自動以外の方法を用いた印字システムに適用することもできる。
具体的に、自動印字システムSは、粒子状のインク(インク粒)をワークWに着弾させることで印字を行うインクジェット記録装置Iと、これに接続される操作用端末800および外部機器900と、を備えている。なお、操作用端末800および外部機器900は、必須ではない。
詳しくは、図1~図3に例示するインクジェット記録装置Iは、インク粒をノズル12から吐出するとともに、そのインク粒をワークWに着弾させる印字ヘッド1と、この印字ヘッド1に対し制御信号、インクおよび溶剤を供給するコントローラ100と、を備えている。コントローラ100が印字ヘッド1に制御信号を供給することで、インク粒の軌跡を制御する。これにより、ワークW上でのインク粒の着弾位置が調整されて、所望の印字加工が実現されるようになっている。
特に、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、いわゆるコンティニュアス方式のインクジェットプリンタ(Continuous Ink Jet printer:CIJ)として構成されている。すなわち、インクジェット記録装置Iは、インクの揮発に起因した目詰まり(特に、ノズル12の目詰まり)等を防止するために、印字加工を実行していないときであっても、その内部を常にインクが循環している。コンティニュアス方式を採用することで、目詰まりを招くことなく、速乾性のインクを用いることができるようになる。
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、溶剤を印字ヘッド1へ送り出すことで、ノズル12等、印字ヘッド1の各部を洗浄することができるようになっている。洗浄に用いられた溶剤は、必要に応じて回収されて、インクの濃度(粘度)を調整するために再利用することができる。
インクおよび溶剤の循環を実現するために、印字ヘッド1は、インクまたは溶剤を吐出するノズル12に加えて、そのノズル12から吐出されたインクまたは溶剤を回収するガター16を備えている。コントローラ100から印字ヘッド1へ送り込まれたインクまたは溶剤は、ノズル12から吐出されてガター16によって回収される。そうして回収されたインクまたは溶剤は、コントローラ100へ送り戻されて再利用される。こうした工程を繰り返し行うことで、インクおよび溶剤を循環させることができる。
操作用端末800は、例えば中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)および記憶装置を有しており、コントローラ100に接続されている。この操作用端末800は、印字加工における印字条件を設定するとともに、印字加工に関連した情報をユーザに示すための端末として機能する。
操作用端末800により設定される印字条件は、コントローラ100に出力されて、その記憶部102に記憶される。コントローラ100の記憶部102に加えて、または、この記憶部102に代えて、操作用端末800が印字条件を記憶してもよい。
なお、操作用端末800は、例えばコントローラ100に組み込んで一体化することができる。この場合は「操作用端末」という呼称ではなく、コントロールユニット等の呼称が用いられることになるが、少なくともこの実施形態においては、操作用端末800とコントローラ100は別体とされている。
外部機器900は、必要に応じてコントローラ100に接続される。図1および図2Aに示す例では、外部機器900として、ワーク検出センサ901、搬送速度センサ902およびプログラマブルロジックコントローラ(Programmable Logic Controller:PLC)903が設けられている。
具体的に、ワーク検出センサ901は、搬送ラインLにおけるワークWの有無を検出し、その検出結果を示す信号(検出信号)をコントローラ100へ出力する。ワーク検出センサ901から出力される検出信号は、印字加工を開始するためのトリガー(印字トリガ)として機能する。
搬送速度センサ902は、例えばロータリエンコーダから構成されており、ワークWの搬送速度を検出することができる。搬送速度センサ902は、その検出結果を示す信号(検出信号)をコントローラ100へ出力する。コントローラ100は、搬送速度センサ902から入力された検出信号に基づいて、印字ヘッド1からインク粒を吐出するタイミング等を制御する。
またPLC903は、図2Aに例示するように、コントローラ100と電気的に接続されている。PLC903は、予め定めたシーケンスに従って自動印字システムSを制御するために用いられる。
インクジェット記録装置Iには、上述した機器や装置以外にも、操作および制御を行うための装置、その他の各種処理を行うためのコンピュータ、記憶装置、周辺機器等を接続することもできる。この場合の接続は、例えば、IEEE1394、RS-232、RS-422およびUSB等のシリアル接続、またはパラレル接続としてもよい。あるいは、10BASE-T、100BASE-TX、1000BASE-T等のネットワークを介して電気的、磁気的または光学的な接続を採用することもできる。また、有線接続以外にも、IEEE802等の無線LAN、または、Bluetooth(登録商標)等の電波、赤外線、光通信等を利用した無線接続でもよい。さらに、データの交換や各種設定の保存等を行うための記憶装置に用いる記憶媒体としては、例えば、各種メモリカード、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等を利用することができる。
以下、コントローラ100および印字ヘッド1それぞれのハード構成と、コントローラ100による印字ヘッド1の制御に係る構成と、について順番に説明をする。
<コントローラ100>
コントローラ100は、印字ヘッド1を電気的に制御するとともに、印字用のインク、および、インクを希釈するための溶剤を印字ヘッド1へ供給することができる。
具体的に、本実施形態に係るコントローラ100は、電気的な制御に関連した構成要素として、前述の印字条件を記憶する記憶部102と、コントローラ100および印字ヘッド1の各部を制御する制御部101と、ユーザによる操作を受け付けるとともに、ユーザへ情報を表示する操作表示部103と、を備えている。
コントローラ100はまた、インク等の供給に関連した構成要素として、印字ヘッド1のノズル12にインクを供給するインク供給部104と、このノズル12およびインク供給部104に溶剤を供給する溶剤供給部105と、を備えている。
(記憶部102)
記憶部102は、後述の操作表示部103、または、操作用端末800を介して設定された印字条件を記憶するとともに、外部からの制御信号に基づいて、記憶された印字条件を制御部101へと出力するように構成されている。
具体的に、記憶部102は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等を用いて構成されており、印字条件を示す情報を一時的または継続的に記憶することができる。なお、操作用端末800をコントローラ100に組み込んだ場合には、操作用端末800が記憶部102を兼用してもよい。
(制御部101)
制御部101は、記憶部102に記憶された印字条件に基づいて、少なくとも、コントローラ100におけるインク供給部104および溶剤供給部105と、印字ヘッド1におけるノズル12、帯電電極13および偏向電極15と、を制御する。制御部101が各部を制御することにより、ワークWの印字加工が実施される。
具体的に、制御部101は、CPU、メモリ、入出力バスを有しており、操作表示部103または操作用端末800を介して入力された情報を示す信号と、記憶部102から読み込んだ印字条件を示す信号と、に基づいて制御信号を生成する。制御部101は、そうして生成した制御信号をコントローラ100およびインクジェット記録装置Iの各部へと出力することにより、ワークWに対する印字加工を制御する。
例えば制御部101は、ワークWを加工するときには、記憶部102に記憶された印字内容を読み込んで、その印字内容に基づいた制御信号を生成する。そして、制御部101は、その制御信号を帯電電極13へと出力することで、印字内容に対応した着弾位置を実現するようにインク粒を飛翔させる。
(操作表示部103)
操作表示部103は、例えばコントローラ100を構成する筐体に設けられる(図1を参照)。この操作表示部103は、インクジェット記録装置Iに関連した種々の情報を表示するディスプレイと、例えば、複数の押し釦からなるスイッチと、からなる。操作表示部103を操作することで、インクジェット記録装置Iの電源ON/OFF等を切り替えることができる。なお、操作用端末800をコントローラ100に組み込んだ場合には、操作用端末800が操作表示部103を兼用してもよい。
この操作表示部103は、前述の操作用端末800と同様に、印字における印字条件を設定することができる。操作表示部103により設定される印字条件は、コントローラ100に出力されて、その記憶部102に記憶される。以下の記載では、ユーザが操作表示部103を操作するケースを前提に説明するが、操作表示部103の代わりに操作用端末800を用いることもできる。
(インク供給部104)
インク供給部104は、主たる構成要素として、補充用のインクを収容したインクカートリッジ104aと、このインクカートリッジ104aからインクが供給されるメインタンク104bと、を有している。インクカートリッジ104a、メインタンク104bおよび印字ヘッド1は、インク流通経路104cを介して流体的に接続されている。
このうち、インクカートリッジ104aは、コントローラ100に対して着脱自在に構成されており、これを付け替えることで、メインタンク104bにインクを補充することができる。
このように、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、いわゆる“カートリッジ式”のインクジェットプリンタとして構成されているが、この構成には限定されない。例えば、手動で開閉可能なタンクを設けるとともに、そのタンクに対してインクを補充するように構成してもよい。
メインタンク104bは、溶剤によって濃度(粘度)調整されたインクを収容するように構成されている。こうした構成を実現するために、インクカートリッジ104aからメインタンク104bへ至る経路には、溶剤用の経路が接続されている。本実施形態に係るメインタンク104bは、ノズル12へ供給されるインク液を蓄える容器であり、「インクタンク」の例示である。
また、インク流通経路104cは、印字ヘッド1にインクを供給するための経路であり、例えば、ノズル12にインクを送り込むための経路と、ガター16からインクを送り戻すための経路と、を有している。前者の経路は、インクカートリッジ104aと、メインタンク104bと、ノズル12とを接続している。後者の経路は、ガター16と、メインタンク104bとを接続している。これらの経路によって、印字ヘッド1とコントローラ100との間でインクを循環させることができる。
後述の如く、インク流通経路104cには、第1バルブV1をはじめとする複数の電磁弁と、インクポンプP1をはじめとする複数のポンプと、が設けられている。このうち、各電磁弁は、制御部101から出力された制御信号を受けて開閉し、インクの流れを制御することができる。一方、各ポンプは、制御部101から出力された制御信号を受けてインクを圧送し、電磁弁と同様に、インクの流れを制御することができる。
(溶剤供給部105)
溶剤供給部105は、主たる構成要素として、補充用の溶剤を収容した溶剤カートリッジ105aと、洗浄に用いられた溶剤を蓄えるコンディショニングタンク105bと、を有している。溶剤カートリッジ105a、コンディショニングタンク105bおよび印字ヘッド1は、溶剤流通経路105cを介して流体的に接続されている。
このうち、溶剤カートリッジ105aは、コントローラ100に対して着脱自在に構成されている。この溶剤カートリッジ105aを付け替えることで、コントローラ100に溶剤を補充することができる。溶剤カートリッジ105aの代わりに溶剤タンクを設けてもよい。
コンディショニングタンク105bは、洗浄に用いられた溶剤を収容するように構成されている。前述のように、ノズル12から吐出された溶剤は、インクと同様にガター16によって回収される。そのため、ガター16からインクを送り戻すための経路は、溶剤を送り戻すための経路を兼用している。
また、溶剤流通経路105cは、印字ヘッド1およびメインタンク104b等に溶剤を供給するための経路であり、例えば、ノズル12に溶剤を送り込むための経路と、ガター16から溶剤を送り戻すための経路と、を有している。前者の経路は、溶剤カートリッジ105aとノズル12とを接続している。後者の経路は、前述のように、インクを送り戻すための経路を兼ねている。これらの経路によって、印字ヘッド1とコントローラ100との間で溶剤を循環させることができる。
後述の如く、溶剤流通経路105cには、第16バルブV16をはじめとする複数の電磁弁と、溶剤ポンプP2をはじめとする複数のポンプと、が設けられている。このうち、各電磁弁は、制御部101から出力された制御信号を受けて開閉し、溶剤の流れを制御することができる。一方、各ポンプは、制御部101から出力された制御信号を受けて溶剤を圧送し、電磁弁と同様に、溶剤の流れを制御することができる。
なお、溶剤流通経路105c、および、前述のインク流通経路104cという分類は、説明を簡潔にするためになされた便宜上の分類に過ぎない。溶剤流通経路105cおよびインク流通経路104cは、相互に接続されていたり、一方が他方を兼ねていたりするため、実質的に不可分となっている。
(他の構成要素)
コントローラ100には、制御信号を送受するための電気配線と、インクを送受するためのチューブ(具体的には、インク流通経路104cを区画するチューブ)と、溶剤を送受するためのチューブ(具体的には、溶剤流通経路105cを区画するチューブ)と、が束になって被覆された接続ケーブル107が設けられている。この接続ケーブル107は可撓性を有しており、印字ヘッド1の上端部に接続されている(図1を参照)。コントローラ100と印字ヘッド1は、この接続ケーブル107を介して電気的にかつ流体的に接続されている。
<印字ヘッド1>
印字ヘッド1は、コントローラ100から供給される制御信号、インクおよび溶剤に基づいて、濃度調整されたインクを粒子状のインク粒として吐出する。印字ヘッド1は、そうして吐出されたインク粒の飛翔方向を偏向せしめるとともに、偏向されたインク粒をワークWの表面に着弾させることで、そのワークWに対して印字加工を実行することができる。
具体的に、本実施形態に係る印字ヘッド1は、インクを加振する加振器11と、加振器11により加振されたインクまたは溶剤を吐出するノズル12と、ノズル12から吐出された粒子状のインクを帯電させる帯電電極13と、インクの帯電状態を監視する帯電検出センサ14と、帯電電極13により帯電されたインクの飛翔方向を偏向させる偏向電極15と、偏向電極15により非偏向とされたインク、または、ノズル12を通過した溶剤(具体的には、ノズル12から吐出された溶剤)を回収するガター16と、を備えている。
図2Bに例示するように、印字ヘッド1は、加振器11、ノズル12、帯電電極13、帯電検出センサ14、偏向電極15およびガター16を内部に収容し、かつ、インク粒の飛翔空間S1を区画する筐体10を備えている。この印字ヘッド1は、偏向電極15によって偏向されたインク粒を、飛翔空間S1を介して筐体10の外部に吐出することができる。
詳しくは、図2Bに例示するように、印字ヘッド1をなす筐体10の下面には、偏向電極15により偏向されたインク、または、ノズル12から吐出された溶剤を外部に吐出するための吐出口10bが開口している。インクは、この吐出口10bから吐出されるようになっている。
以下、印字ヘッド1をなす各部について、順番に説明をする。なお、以下の記載において「上下方向」とは、鉛直方向に沿った方向を指す。例えば、図2Bの紙面上方が「上方向」に相当し、同図の紙面下方が「下方向」に相当する。他の図においても、これに対応する方向を「上下方向」という。
(加振器11)
図2Bに例示するように、加振器11は、筐体10の飛翔空間S1における上端付近に配置されている。本実施形態に係る加振器11には、インクに上下振動を付与(加振)するためのデバイス(例えばピエゾ素子)が内蔵されている。この加振器11は、接続ケーブル107を介してインクが供給されるように構成されており、そうして供給されたインクを加振することができる。加振器11によって加振されたインクは、ノズル12へと供給される。
なお、図示は省略したが、本実施形態に係る加振器11は接地されている。
(ノズル12)
図2Bに例示するように、ノズル12は、加振器11の下端部に接続されており、その開口端(インクまたは溶剤の噴射口)を下方に向けた姿勢で配置されている。ノズル12の開口端から、加振器11によって加振されたインクを吐出することができる。このノズル12には、例えば立下時に印字ヘッド1内部の圧力を抜くためのリターン経路として機能する吸引経路27が接続されている(図3を参照)。また、後述の吸引経路27を通じて、ノズル12から溶剤を出すこともできる。
ここで、加振器11によって加振されずにノズル12から吐出されたインクは、軸状のいわゆる“インク軸”となって流れる。一方、加振されたインクは、ノズル12から吐出された直後に粒子化されて、いわゆる“インク粒”となる。ノズル12から吐出されたインクは、帯電電極13を通過する。
なお、印字ヘッド1を洗浄すべく供給された溶剤は、加振器11とノズル12を順番に通過して、ノズル12から吐出される。そうして吐出される溶剤は、軸状に流れて帯電電極13を通過する。
(帯電電極13)
図2Bに例示するように、帯電電極13は、左右一対の板状部材によって構成されており、ノズル12の下方に配置されている。ここで、一対の板状部材は、それぞれの長手方向を上下方向に沿わせた姿勢で、かつ互いに向い合うような姿勢で固定されている。ノズル12から吐出されたインクは、一対の板状部材の間を通過することになる。本実施形態に係る板状部材は、金属製のいわゆる金属板とされているが、これに限定されない。板状部材は、金属製に限らず、導電性材料から構成すればよい。
本実施形態に係る帯電電極13には、少なくとも印字動作を実行するときに電位(正電位)が印加される。これにより、加振器11と帯電電極13との間に電位差を生じさせ、帯電電極13を通過するインク粒を帯電させることが可能となる。各インク粒を帯電させるために、本実施形態に係る帯電電極13は、ノズル12から吐出されたインクが粒子化するブレークポイント付近に配置される。
詳しくは、帯電電極13には、コントローラ100によって制御可能なパルス電位が印加される。ここで、帯電電極13に対して相対的に高い電圧を印加した場合は、それよりも低い電圧を印加した場合に比して、各インク粒の帯電量(負の電荷の大きさ)が大きくなる。各インク粒は、その帯電量が大きい場合には、それが小さい場合に比して、偏向電極15によって大きく偏向される。コントローラ100がパルス電位の大きさを調整することで、インク粒の偏向量を制御することができる。帯電電極13によって帯電されたインク粒は、帯電検出センサ14の側方を通過して偏向電極15へ至る。
また、ノズル12から吐出される溶剤は、帯電されることなく、帯電検出センサ14の側方を通過して偏向電極15へ至る。
(帯電検出センサ14)
図2Bに例示するように、帯電検出センサ14は、帯電電極13の下方に配置されている。詳しくは、帯電検出センサ14は、帯電電極13を構成する金属板(図2Bに示す例では、紙面右側の金属板)の直下方にレイアウトされており、インク粒が飛翔する際の軌跡と交わらないように配置されている。このような配置を採ることで、インク粒と帯電検出センサ14との衝突を避けることが可能となる。
また、本実施形態に係る帯電検出センサ14は、筐体10の内部に設けた回路基板に接続されている。帯電検出センサ14は、その側方を通過するインク粒の帯電状態を検出することができる。帯電検出センサ14による検出結果は、検出信号として制御部101に出力される。この検出信号に基づいて、制御部101は、各インク粒が適切に帯電しているか否かを判定することができる。
(偏向電極15)
図2Bに例示するように、偏向電極15は、左右一対の金属板(いわゆる「対向電極」)によって構成されており、帯電電極13および帯電検出センサ14の下方に配置されている。ここで、一対の金属板は、それぞれインクの飛翔方向(略上下方向)に沿って延び、かつ互いに間隔を空けて配置されている。帯電電極13を通過したインク粒は、偏向電極15をなす一対の金属板の間を通過することになる。
偏向電極15には、コントローラ100によって制御可能な電圧が印加される。これにより、偏向電極15をなす金属板の間には電位差が生じることになる。この電位差によってインク粒の飛翔方向を偏向させることができる。インク粒の飛翔方向は、一対の金属板の並び方向に沿って偏向され得る。
すなわち、帯電電極13および偏向電極15それぞれに印加される電圧を介して、インク粒の軌跡を制御することができる。そうして制御されるインク粒には、偏向電極15により偏向されたものと、非偏向とされたものと、が含まれる。このうち、前者のインク粒がワークWの印字に関与する。このインク粒は、筐体10の下面に設けた吐出口10bから吐出されて、ワークWに着弾する。
一方、偏向電極15により非偏向とされたインク粒は、ワークWの印字に関与しない。こうしたインク粒、または、そもそも粒子化されていない軸状のインクは、図2Bにおいて鎖線で例示したように、ガター16の中に到達する。同様に、印字ヘッド1におけるノズル12等の洗浄に用いられて偏向電極15を通過した溶剤もまた、ガター16の中に至る。
なお、図2Bに示す例では、偏向電極15は、接地電極として機能する右電極15bと、接地されていない左電極15aと、有している。右電極15bおよび左電極15aは、それぞれ、前述した金属板に相当する。このように構成した場合、左電極15a側が高電位となるから、負の電荷を有するインク粒は、左電極15aに引きつけられるように偏向される。
(ガター16)
図2Bに例示するように、ガター16は、その開口端を上方に向けた曲管によって構成されており、偏向電極15の下方に配置されている。本実施形態に係るガター16は、ワークWの印字に関与しないインクと、ノズル12を通過した溶剤(具体的には、ノズル12から吐出された溶剤)と、を回収することができる。
詳しくは、本実施形態においては、ガター16の開口端と、ノズル12の開口端と、が互いに向い合うように配置されている。このように配置することで、ノズル12の開口端から鉛直方向に沿って流れた液体を、ガター16の開口端から受け入れることが可能になる。
ガター16によって回収されたインクまたは溶剤は、インク流通経路104c、溶剤流通経路105c等を通じてコントローラ100に送り戻されて、メインタンク104bまたはコンディショニングタンク105bに蓄えられるようになっている。
(他の構成要素)
図2Bに例示するように、印字ヘッド1には、吐出口10bを遮蔽する遮蔽機構60が設けられている。この遮蔽機構60は、インクまたは溶剤の吐出と停止、ひいては、ガター16によるインクまたは溶剤の回収と関連して動作するように構成されている。
そこで、遮蔽機構60について詳細に説明する前に、ガター16によるインクまたは溶剤の回収に係る構成、特にインク流通経路104cおよび溶剤流通経路105cに係る構成について、図3を用いて説明をする。なお、図3において符号Fが付された構成要素は、フィルタを例示している。以下の記載では、フィルタFの配置、構成等の説明を省略する。
<インクおよび溶剤の経路について>
前述のように、本実施形態に係るコントローラ100は、印字ヘッド1にインクを供給するためのインク流通経路104cと、印字ヘッド1およびメインタンク104b等に溶剤を供給するための溶剤流通経路105cと、を備えている。
具体的に、インク流通経路104cは、ノズル12へのインクの供給に関連した経路として、インクカートリッジ104aおよび第1分岐部51を接続する第1インク経路21と、第1分岐部51(詳細には、第2インク経路22における中途の部位)、および、第2分岐部52を接続する第6インク経路26と、第2分岐部52およびメインタンク104bを接続する第8インク経路28と、メインタンク104bおよびノズル12を接続する第4インク経路24と、を有している。ここで、本実施形態に係る第6インク経路26は、後述の第5インク経路25を介して第2分岐部52と接続されるようになっている。
また、インク流通経路104cは、粘度計53による粘度測定に関連した経路として、第1分岐部51およびメインタンク104bを接続し、かつ粘度計53が介設された第2インク経路22と、この第2インク経路22とは独立して設けられ、メインタンク104bおよび第1分岐部51を接続する第3インク経路23と、を有している。
また、インク流通経路104cは、ガター16によるインクの回収に関連した経路として、ガター16およびメインタンク104bを接続する第5インク経路25を有している。
ここで、第2インク経路22には、循環ポンプP4と、第11バルブV11と、粘度計53と、が順番に設けられている。第4インク経路24には、インクポンプP1と、減圧弁と、圧力計と、第14バルブV14と、が順番に設けられている。第5インク経路25には、第10バルブV10と、ガターポンプP3と、第2分岐部52と、が順番に設けられている。
一方、溶剤流通経路105cは、ノズル12への溶剤の供給に関連した経路として、溶剤カートリッジ105aおよびノズル12を接続する第1溶剤経路31を有している。
また、溶剤流通経路105cは、溶剤カートリッジ105aに収容された溶剤によるインクの濃度(粘度)調整に関連した経路として、第1溶剤経路31における中途の部位、および、第1分岐部51を接続する第2溶剤経路32と、ガター16によって回収された溶剤による濃度調整に関連した経路として、第1分岐部51およびコンディショニングタンク105bを接続する第3溶剤経路33と、を有している。
なお、インク流通経路104cとして例示された第5インク経路25は、ガター16による溶剤の回収にも関連している。前述のように、「インク流通経路104c」および「溶剤流通経路105c」という分類は、便宜上の分類に過ぎない。
ここで、第1溶剤経路31には、光学式空検知機構44と、溶剤ポンプP2と、第16バルブV16と、第12バルブV12と、が順番に設けられている。第1溶剤経路31には、洗浄用ノズル19が接続されている。洗浄用ノズル19は、印字ヘッド1における加振器11、偏向電極15等を洗浄するためのノズルであって、洗浄液を噴出することができる。洗浄用ノズル19から第1溶剤経路31に至る途中には、第15バルブV15が設けられている。
ここで、第1分岐部51は、第3インク経路23および第2インク経路22の間を開閉する第5バルブV5と、第1インク経路21および第2インク経路22の間を開閉する第8バルブV8と、第3溶剤経路33および第2インク経路22の間を開閉する第9バルブV9と、第2溶剤経路32および第2インク経路の間を開閉する第13バルブV13と、を有している。
また、第2分岐部52は、第6インク経路26および第8インク経路28の間を開閉する第1バルブV1と、第6インク経路26およびコンディショニングタンク105bの間を開閉する第3バルブV3と、第6インク経路26および廃液タンク(図3において、「廃液」と図示)の間を開閉する第4バルブV4と、を有している。
制御部101は、第11バルブV11など、各経路に設けられたバルブに制御信号を出力したり、第1分岐部51および第2分岐部52をなす各バルブに制御信号を出力したりすることで、コントローラ100内に所望の流路を構成することができる。
例えば、第8バルブV8と第1バルブV1を開くことで、インクカートリッジ104aからメインタンク104bにインクを補充することが可能になる。また、本来の循環動作ではないが、第5バルブV5と第11バルブV11を開くことで、第2インク経路22と、メインタンクと、第3インク経路23と、の間でインクを循環させて、粘度計53によってインクの粘度を測定することが可能になる。
溶剤に関連した経路についても同様である。例えば、第13バルブV13と、第1バルブV1と、を開くことで、溶剤カートリッジ105aに収容された溶剤をメインタンク104bに供給し、同タンクに蓄えられたインクの濃度を調整することができるようになる。また、第9バルブV9と、第1バルブV1と、を開くことで、コンディショニングタンク105bに貯蔵されたインク混じりの溶剤が、第3溶剤経路33、第1分岐部51、第6インク経路26、第2分岐部52および第8インク経路28を通過して、メインタンク104bに供給される。
コントローラ100は、空気の流通に関連した経路も有している。例えば、メインタンク104bには、不図示の排気口に通じる第1排気管41が接続されている。同様に、コンディショニングタンク105bには、前記排気口に通じる第2排気管42が接続されている。
空気の流通に関連した経路の別例として、コントローラ100は、ノズル12および第1分岐部51を接続する吸引経路27を有している。吸引経路27には第6バルブV6が設けられていて、この第6バルブV6と、前述の第5バルブV5を開くことで、吸引経路27、第1分岐部51、第6インク経路26、第2分岐部52、第8インク経路28、メインタンク104bおよび第1排気管41を介してノズル12を大気と連通させることができる。これにより、ノズル12から吐出されるインク粒の噴射圧を調整することができるようになる。
また、印字加工を実施する際には、第14バルブV14を開くことで、メインタンク104bから第4インク経路24を介してインクが供給される。そうして供給されたインクは、加振器11の作動に伴い粒子状のインク粒となってノズル12から吐出される。
ここで、ノズル12から吐出されたインク(インク粒)のうち、印字加工に関与するインクは、図2Bを用いて説明したように印字ヘッド1から吐出される。一方、印字加工に関与しないインク、および、ノズル12等の洗浄に用いられた溶剤は、ガター16に回収されて、第5インク経路25を通じてコントローラ100に送り戻される。
その場合、メインタンク104bに送り戻されるべきインクは、第1分岐部51から、第6インク経路26、第2分岐部52における第1バルブV1、および、第8インク経路28を介してメインタンク104bに供給される。一方、コンディショニングタンク105bに送り戻されるべき溶剤は、第5インク経路25から、第2分岐部52における第3バルブV3を介してコンディショニングタンク105bに供給される。
続いて、本実施形態に係る遮蔽機構60の構成について、詳細に説明をする。
<遮蔽機構60>
図4は、印字ヘッド1の内部構成を例示する斜視図である。
また、図5Aおよび図5Bは遮蔽機構の構成を例示する斜視図であり、図6Aおよび図6Bは遮蔽機構60の構成を一側面から見て例示する図であり、図7Aおよび図7Bは遮蔽機構60の構成を他側面から見て例示する図であり、図8は遮蔽機構60の構成を例示する横断面図である。さらに、図9は遮蔽機構60をモデル化して示す図である。
図4に例示するように、筐体10は、紙面上下方向に延びる略直方状の外形を有している。以下の記載では、筐体10の長手方向を単に「上下方向」と呼称する一方、この上下方向に直交する2方向を、それぞれ「前後方向」および「左右方向」と呼称する。他の図においても、これらに対応する方向を、それぞれ、「上下方向」、「前後方向」、および「左右方向」と呼称する。
ここで、「上」とは図3の紙面上側を指し、「下」とは紙面下側を指す。同様に、「前」とは図3の紙面手前側(具体的には、左手前側)を指し、「後」とは紙面奥側(具体的には、右奥側)を指し、「左」とは紙面左側(具体的には、左上側)を指し、「右」とは紙面右側「具体的には、右下側」を指す。他の図においても、これらに対応するものを、それぞれ、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」および「右」という。
なお、図6Aおよび図6Bにおける「一側面」とは、遮蔽機構60を左方から見て示す図を指す。また、図7Aおよび図7Bにおける「他側面」とは、遮蔽機構60を右方から見て示す図を指す。また図8に示す横断面は、水平方向(前後左右方向)に沿って延びる断面に相当する。
また、図4、図5A、図6Aおよび図7Aは、それぞれ、遮蔽機構60をなす遮蔽部材61を、所定の遮蔽位置に移動させた状態を例示している。一方、図5B、図6Bおよび図7Bは、その遮蔽部材61を、所定の退避位置に移動させた状態を例示している。
なお、遮蔽機構60を概略的に示した図面として、図15Aおよび図15Bも参照されたい。このうち、図15Aは本実施形態に係る遮蔽機構60を概略的に示す側面図であり、図15Bは本実施形態に係る遮蔽機構60を概略的に示す平面図である。
図4に例示するように、筐体10の内部空間は、左右方向および上下方向に沿って延びる仕切板10dによって仕切られている。図2Bを用いて例示した加振器11、ノズル12、帯電電極13、帯電検出センサ14、偏向電極15およびガター16は、仕切板10dよりも前側の空間に収容されている。すなわち、この前側の空間は、インク粒の飛翔空間S1として機能する。
したがって、インク粒を吐出させるための吐出口10bは、この飛翔空間S1に配置されることになる。詳しくは、図4に例示するように、吐出口10bは、筐体10の前側に配置されており、左電極15aおよび右電極15bの並び方向(左右方向)、すなわちインク粒が偏向され得る方向に沿って延びる長円状に形成されている。
本実施形態に係る遮蔽機構60は、ノズル12等と同様に、インク粒の飛翔空間S1に配置されている。遮蔽機構60をなす部品のうち、後述の遮蔽部材61を除いた各部品は、偏向電極15と筐体10の右側面との間のスペース、具体的には、右電極15bの右側のスペースに配置されている。
遮蔽機構60は、主たる構成要素として、吐出口10bを遮蔽するように移動する遮蔽部材61と、この遮蔽部材61を支持するアーム部62と、アーム部62を介して遮蔽部材61を移動させる回動部材63と、遮蔽を解除する方向に遮蔽部材61を付勢する第1付勢部材64と、回動部材63の一端部(左端部63d)を回転可能に支持する第1支持部65と、回動部材63を介して遮蔽部材61を移動させるワイヤー66と、ワイヤー66および回動部材63を介して遮蔽部材61を付勢する第2付勢部材67と、遮蔽機構60の収容スペースを区画する第2支持部68と、回動部材63の他端部(右端部63e)を回転可能に支持する第3支持部69と、を備えている。
このうち、アーム部62、回動部材63、第1付勢部材64、ワイヤー66および第2付勢部材67は、ベルクランク状の移動機構をなす。移動機構をなす各部は、偏向電極15をなす一対の金属板の双方に対して外方(具体的には、右方)に配置されている。
以下、遮蔽機構60をなす各部について、順番に説明をする。
(遮蔽部材61)
図4等に例示するように、遮蔽部材61は、矩形板状の部材として形成されている。本実施形態に係る遮蔽部材61は、金属繊維をベルト状に潰した材料からなり、吸水性を有している。よって、この遮蔽部材61は、インク、溶剤等の液体を吸い込んで保持することができる。
具体的に、遮蔽部材61は、該遮蔽部材61の長手方向を、左電極15aおよび右電極15bの並び方向、すなわち吐出口10bの長手方向(この例では、「左右方向」)に沿わせるような姿勢で配置されている。
ここで、本実施形態に係る遮蔽部材61は、吐出口10bを遮蔽する遮蔽位置(図4、図5A、図6Aおよび図7Aを参照)と、吐出口10bから退避した退避位置(図5B、図6Bおよび図7Bを参照)と、の間で移動可能である。遮蔽部材61の長手方向に対して直交する方向(本実施形態では前後方向)に沿って遮蔽部材61を移動させることで、この遮蔽部材61を遮蔽位置と退避位置との間で移動させることができる。
本実施形態に係る遮蔽部材61は、遮蔽位置に移動した状態にあっては、印字ヘッド1の内部空間において、ガター16と吐出口10bの間に介在することになる。一方、遮蔽部材61は、退避位置に移動した状態にあっては、印字ヘッド1の内部空間において、ガター16と吐出口10bの間に介在しない。
具体的に、遮蔽位置および退避位置の双方において、遮蔽部材61は、左右方向においては吐出口10bと略同じ位置に配置される。また、遮蔽位置および退避位置の双方において、遮蔽部材61は、上下方向においてはガター16の開口(ガター16の上端部)と、吐出口10bと、の間に配置される(図6Aおよび図6Bを参照)。
ここで、遮蔽位置にあっては、遮蔽部材61は、前後方向においてノズル12、ガター16および吐出口10bと略同じ位置に配置される。左右方向、上下方向および前後方向のレイアウトに鑑みると、遮蔽部材61を遮蔽位置に移動させることで、ノズル12から吐出されたものの、ガター16によって回収されなかったインクまたは溶剤を吸収することができるようになる。
一方、退避位置にあっては、遮蔽部材61は、前後方向においてノズル12、ガター16および吐出口10bの前方に配置される。左右方向、上下方向および前後方向のレイアウトに鑑みると、遮蔽部材61を退避位置に移動させることで、ノズル12から吐出されたインクまたは溶剤を吸収せずに、吐出口10bまで導くことができるようになる。
また、遮蔽部材61の長手方向における一端部(本実施形態では右端部)には、遮蔽部材61を支持するためのアーム部62が取り付けられている。
(アーム部62)
図4等に例示するように、アーム部62は、矩形板状の部材を折り曲げてなり、遮蔽部材61の右端部を支持している。アーム部62は、例えば金属板から構成してもよい。
具体的に、アーム部62は、該アーム部62の左端部から右方に向かって延びた後に、上方に向かって延びるように折り曲げられている。アーム部62の左端部には、遮蔽部材61の右端部が取り付けられている一方、アーム部62の上端部62aは、遮蔽部材61を回動させるための回動部材63に締結されている(図8を参照)。
(回動部材63)
図7A、図7Bおよび図8に例示するように、回動部材63は、略円柱状に形成されている。この回動部材63は、ノズル12から吐出されるインクまたは溶剤の進行方向と直交する中心軸63cを有しており、この中心軸63cまわりに回転するように形成されている。回動部材63は、遮蔽部材61を動作させること、特に、これを中心軸63cまわりに回動させることができる。
具体的に、中心軸63cは、インクまたは溶剤の進行方向(上下方向)に直交し、かつ、インクの偏向方向および吐出口10bの長手方向に平行な方向(左右方向)に沿って延びている。すなわち、図8等に示す例では、回動部材63は、その中心軸63cを左右方向に沿わせた姿勢で配置されるようになっている。
回動部材63を円柱とみなしたときの頂面および底面には、それぞれ、軸状に延びる左端部63dおよび右端部63eが設けられている。左端部63dおよび右端部63eは、互いに略同径であり、双方とも中心軸63cと同軸とされている。
図8に示すように、回動部材63の左端部63dは、先細りとされた円錐状に形成されており、第1支持部65に設けた凹部に挿入されている。同様に、回動部材63の右端部は、先細りとされた円錐状に形成されており、第3支持部69に設けた凹部に挿入されている。
したがって、本実施形態に係る回動部材63は、左端部63dおよび右端部63eを、それぞれ、第1支持部65および第3支持部69に対して摺動させることで、中心軸63cまわりに回転することができる。
ここで、左端部63dを円錐状に形成することで、第1支持部65との摺動面を縮小させることができる。これにより、左端部63d付近にインクが付着したとしても、それに起因した動作不良を抑制することができる。
同様に、右端部63eを円錐状に形成することで、第3支持部69との摺動面を縮小させることができ、インクの付着に起因した動作不良を抑制することができる。
また、左端部63dおよび右端部63eそれぞれの摺動面を縮小させることで、回動部材63と、第1支持部65および第3支持部69と、の間で生じる摩擦力F(図9を参照)を抑制することもできる。このことは、遮蔽機構60をスムースに動作させる上で有効である。
本実施形態に係る回動部材63は、中心軸63cまわりに遮蔽部材61を回動させることで、この遮蔽部材61を遮蔽位置と退避位置との間で移動させることができる。
詳しくは、回動部材63が回転することで、その中心軸63cまわりにアーム部62、ひいては遮蔽部材61を回動させることができる。図7Aに示すように、遮蔽位置にあっては、アーム部62は、回動部材63の下方に配置されている。その状態から回動部材63が時計まわり方向に回転することで、アーム部62および遮蔽部材61を斜め前方に移動させて、これを開放位置とすることができる。
なお、ここでいう「時計回り方向」とは、図7Aおよび図7Bの紙面上で、中心軸63cまわりに回転する際の時計回り方向に等しい。他の図においても、これに対応する方向を「時計回り方向」と呼称する。
図7Aに示すように、回動部材63の頂面には、遮蔽位置において中心軸63cの前方かつ下方に位置する第1締結部63aと、遮蔽位置において中心軸63cの後方かつ上方に位置する第2締結部63bと、が設けられている。このように配置すると、遮蔽部材61を遮蔽位置とした状態から回動部材63が時計回り方向に回転することで、第1締結部63aが斜め上方に移動するとともに、第2締結部63bが斜め下方に移動するようになる。
第1締結部63aには、回動部材63を時計回り方向に付勢する第1付勢部材64が取り付けられている一方、第2締結部63bには、回動部材63を、時計回り方向および反時計回り方向に回転させるワイヤー66が取り付けられている。
(第1付勢部材64)
第1付勢部材64は、例えば引っ張りバネからなり、略上下方向に沿わせた姿勢で配置されている。具体的に、第1付勢部材64の上端部は、第1支持部65に固定されており、第1付勢部材64の下端部は、第1締結部63aに締結されている。
ここで、第1支持部65は、筐体10の前面を区画するカバー(図4等では省略)に対して固定されている。よって、第1付勢部材64は、その上端部が固定された状態で、その下端部を上方に引き込むような付勢力Faを発揮する(図9を参照)。この付勢力Faは、回動部材63を時計回り方向に回転させるように、すなわち遮蔽部材61を遮蔽位置から退避位置に移動させるように作用する。
(第1支持部65)
図5A等に例示するように、第1支持部65は、偏向電極15(特に右電極15b)と、回動部材63と、の間に配置されており、前述したカバーに対して固定されている。
本実施形態に係る第1支持部65は、回動部材63のための軸受として機能するとともに、偏向電極15から回動部材63を遮るための隔壁として機能する。このように構成することで、回動部材63、第1付勢部材64等の部材にインクが付着するのを抑制することができる。
(ワイヤー66)
ワイヤー66は、例えば形状記憶合金製のワイヤーからなる。このワイヤー66は、チューブ状の部材(図4を参照)で覆われた状態で、略上下方向に沿わせた姿勢で配置されている。具体的に、ワイヤー66の上端部は、第2付勢部材67を介して、接地板としての第2支持部68に支持されている。一方、ワイヤー66の下端部は、第2締結部63bに締結されている。詳しくは、ワイヤー66の上端部(さらに詳しくは、第2付勢部材67)は、絶縁性のネジ(例えば、樹脂製のネジ)を介して第2支持部68に固定されている。ワイヤー66の上端部には、所定の電圧を印加することができる。
ここで、ワイヤー66は、外部から通電可能に構成されている。本実施形態に係るワイヤー66は、通電に起因した加熱によって縮む。ワイヤー66が縮むことで、回動部材63が反時計まわり方向に回転し、遮蔽部材61を反時計回り方向に回動させることができる。この回動を利用して、遮蔽部材61を遮蔽位置へと移動させることができる。このように、ワイヤー66は、遮蔽部材61を遮蔽位置へと移動させるとともに、遮蔽部材61を遮蔽位置に保持するための張力Tを発揮する(図9を参照)。
また、ワイヤー66への通電を停止すると、このワイヤー66は、自然冷却によって延びる。ワイヤー66が延びると、回動部材63は、第1付勢部材64の付勢力Faによって回転し、遮蔽部材61を遮蔽位置から退避位置へ移動させる。
なお、ワイヤー66への通電は、コントローラ100の制御部101によって制御される。よって、本実施形態に係る制御部101は、ワイヤー66への通電を通じて、遮蔽機構60の動作を制御することができる。
また本実施形態では、ワイヤー66の上端部が、第2付勢部材67を介して電気的に接続されており、この上端部を介して通電されるようになっている。一方、ワイヤー66の下端部は、回動部材63を介して、第1支持部65または第3支持部69と電気的に接続されており、この第3支持部69を介して接地されるように構成されている。
(第2付勢部材67)
第2付勢部材67は、例えば引っ張りバネからなり、略上下方向に沿わせた姿勢で配置されている。具体的に、第2付勢部材67の上端部は、第2支持部68に固定されており、第2付勢部材67の下端部は、ワイヤー66の上端部と接続されている。
ここで、第2支持部68は、少なくとも筐体10に対して固定されている。よって、第2付勢部材67は、その上端部が固定された状態で、その下端部を上方に引き込むような付勢力Fbを発揮する(図9を参照)。この付勢力Fbは、ワイヤー66を介して回動部材63を反時計回り方向に回転させるように、すなわち遮蔽部材61を退避位置から遮蔽位置に移動させるように作用する。
一般に、バネの付勢力は、バネの変位量(のび量)に比例する。すなわち、第2付勢部材67が相対的に小さく変位している場合(例えば、遮蔽部材61が遮蔽位置にある場合)には、第2付勢部材67が相対的に大きく変位している場合(例えば、遮蔽部材61が退避位置にある場合)に比して、付勢力Fbは小さくなる(図9に示す例では、Fb=0)。
このため、例えば図9の上図に示すように、遮蔽部材61を退避位置X0から遮蔽位置X1に移動させようとした場合、少なくとも遮蔽部材61が退避位置X0から動き始める瞬間は、第2付勢部材67による付勢力Fbが寄与することになる。この場合、ワイヤー66による張力Tと、第2付勢部材67による付勢力Fbとの和(=T+Fb)が、第1付勢部材64による付勢力Faと、回動部材63の摺動抵抗に起因した摩擦力Fとの和(=Fa+F)を上回ること(すなわち、T+Fb>Fa+F)が要求される。
一方、図9の下図に示すように、遮蔽部材61を遮蔽位置X1から退避位置X0に移動させようとした場合、少なくとも遮蔽部材61が遮蔽位置X1から動き始める瞬間は、第2付勢部材67による付勢力Fbは寄与しない。この場合、第1付勢部材64による付勢力Faが、ワイヤー66による張力Tと、回動部材63の摺動に起因した摩擦力Fとの和(=T+F)を上回ること(すなわち、Fa>T+F)が要求される。
ところで、回動部材63には摺動不良が生じる可能性がある。その場合、遮蔽部材61によって吐出口10bが塞がれないように、遮蔽部材61を退避位置X0から遮蔽位置X1へ移動させることなく、退避位置X0のまま保持したい、という課題がある。また一方で、回動部材63に摺動不良が生じた場合、摩擦力Fが正常時よりも増大するものと考えられる。
そこで、本願発明者らは、第2付勢部材67による付勢力Fbの大きさを調整することで、回動部材63に摺動不良が生じていない場合、すなわち、前述の摩擦力Fが相対的に小さい場合は、「T+Fb>Fa+F」の関係が成立するように付勢力Fbを設定するとともに、回動部材63に摺動不良が生じている場合、すなわち、前述の摩擦力Fが相対的に大きい場合は、「T+Fb<Fa+F」の関係が成立するように付勢力Fbを設定することにした。
このように、第2付勢部材67を設けるとともに、その付勢力Fbを適切に設定することで、摺動不良時に、遮蔽部材61を退避位置X0に保持することが可能となる。
なお、本実施形態では、遮蔽機構60によって吐出口10bを遮蔽する場合に、遮蔽部材61を吐出口10bから所定間隔だけ離間させている。これにより、遮蔽部材61を移動させるためのアクチュエータの駆動力(第2付勢部材67等)が小さくても、遮蔽機構60を実現できる。その結果、アクチュエータのサイズも小さくなり、小型化された印字ヘッド1の内部に収納することができる。
(第2支持部68)
図4等に例示するように、第2支持部68は、加振器11、ノズル12および偏向電極15(特に右電極15b)と、ワイヤー66および第2付勢部材67と、の間に配置されており、筐体10の前面を区画するカバーに対して固定されている。
本実施形態に係る第2支持部68は、ノズル12、偏向電極15等からワイヤー66を遮るための隔壁として機能する。このように構成することで、ワイヤー66等の部材にインクが付着するのを抑制することができる。
(第3支持部69)
図8等に例示するように、第3支持部69は、第1支持部65とともに回動部材63を挟持することで、この回動部材63のための軸受として機能する。また、前述のように、この第3支持部69は、ワイヤー66のための接地電極としても機能するように構成されている。そのために、この第3支持部69は、筐体10の外面を区画する壁部(例えば、筐体10の前面を区画するカバー)に対して電気的に接触するように構成されている。
<遮蔽機構60の動作>
遮蔽機構60によって吐出口10bを遮蔽する場合、制御部101が、ワイヤー66に通電をする。ワイヤー66は、通電を受けて発熱して縮む。ワイヤー66が縮むと、回動部材63が中心軸63cまわりに回転し、遮蔽部材61を反時計回り方向に回動させる。遮蔽部材61は、回動によって斜め後方へと移動し、ガター16と吐出口10bとの間に介在するようになる。遮蔽部材61を介在させることで、ガター16によって回収されなかったインクまたは溶剤を遮ることができるようになる。
一方、吐出口10bの遮蔽を解除する場合、制御部101が、ワイヤー66への通電を停止する。ワイヤー66は、自然冷却によって延びる。ワイヤー66が延びると、第1付勢部材64による付勢力にしたがって回動部材63が中心軸63cまわりに回転し、遮蔽部材61を時計回り方向に回動させる。遮蔽部材61は、回動によって斜め前方へと移動し、ガター16と吐出口10bとの間のスペースから離間するようになる。遮蔽部材61を離間させることで、吐出口10bの遮蔽を解除して、これを開放することができる。
<遮蔽機構60に関連した処理>
ところで、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、電源スイッチがONにされても、印字加工を直ちには開始しない。インクジェット記録装置Iは、印字加工を開始する前に所定の立上処理を実行する。この立上処理においては、溶剤を用いて印字ヘッド1を洗浄した後に、インクの吐出が開始される。立上処理の開始直後に吐出されるインクは、前述したインク軸を形成し、ガター16によって回収される。
同様に、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、電源スイッチがOFFにされようとしたときには、その動作を直ちには停止しない。インクジェット記録装置Iは、動作を停止する前に、前述の立下処理を実行する。この立下処理においては、ノズル12から溶剤を吐出させて、これに残存したインクを洗浄および回収することができる。そのために、印字ヘッド1は、立下処理においてノズル12からインクを噴出させることができる。そうして噴出されたインクは、立上処理におけるインク軸と同様に、ガター16によって回収される。
なお、本実施形態における「電源スイッチ」には、物理的な押し釦に加えて、操作表示部103等に表示されるタッチパネルも含む。そして、電源スイッチのOFF操作とは、押し釦等を物理的に押下する操作に加えて、操作用端末800、操作表示部103等を通じて指令されるシャットダウン操作も指す。電源スイッチのON操作についても同様である。
ここで、一般的なインクジェット記録装置を用いた場合、例えば、立上処理に際してノズル12からインクを吐出させた瞬間に、空気抵抗等に起因して、インクの飛翔方向が不安定になる可能性がある。インクの飛翔方向が不安定になると、インクがガター16に衝突してしまい、正常に回収されない虞がある。
この場合、ガター16に回収されなかったインクは、ミスト化して装置の外部に漏れ出すことになる。そうして漏れ出したインクによって、ワークWが汚れる可能性がある。
対して、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、適切なタイミングで遮蔽機構60を動作させることにより、インクの漏出に起因したワークWの汚れを抑制することができる。
具体的に、制御部101は、インクジェット記録装置Iに電源を投入してから印字が開始されるまでの間、ノズル12から吐出されるインクまたは溶剤が遮られるよう、遮蔽機構60を介して吐出口10bを遮蔽する。
詳しくは、制御部101は、少なくともノズル12がインクの吐出を開始してから所定期間が経過するまでの間は、ノズル12から吐出されるインクまたは溶剤が遮られるよう、遮蔽機構60によって吐出口10bを遮蔽する一方、所定期間が経過した後は、遮蔽機構60による吐出口10bの遮蔽を解除する。
ここで、前記所定期間は、ユーザが手動で設定してもよいし、印字条件として予め記憶部102に記憶させてもよい。後者の場合、所定期間は、例えば、立上処理の実行期間としてもよい。
所定期間として立上処理の実行期間を用いる場合、制御部101は、電源投入後の立上処理の期間中、遮蔽機構60における遮蔽部材61を遮蔽位置へと移動させることで、筐体10の吐出口10bを遮蔽することになる。ここで、電源を投入した時点で遮蔽部材61が遮蔽位置に配置されている場合は、遮蔽部材61を移動させずに、遮蔽位置のまま保持すればよい。
また、立上処理が完了したことをフラグとして吐出口10bの遮蔽を解除してもよいし、不図示のタイマにより時間を計測し、その計測時間が所定値に達したときに遮蔽を解除してもよい。
同様に、本実施形態に係る制御部101は、偏向電極15により非偏向とされたインクがガター16に回収されている状態にあってノズル12によるインクの吐出を停止させる際に、遮蔽機構60を介して吐出口10bを遮蔽する。
詳しくは、制御部101は、例えば立下処理を開始してからノズル12がインクまたは溶剤の吐出を停止するまでの間は、ノズル12から吐出されるインクまたは溶剤が遮られるよう、遮蔽機構60によって吐出口10bを遮蔽する一方、インクまたは溶剤の吐出が停止した後は、遮蔽機構60による吐出口10bの遮蔽を解除する。
ここで、ノズル12がインクまたは溶剤の吐出を停止するまでの間の期間は、ユーザが手動で設定してもよいし、印字条件として予め記憶部102に記憶させてもよい。後者の場合は、例えば、立下処理の実行期間を用いることができる。
立下処理の実行期間を用いる場合、制御部101は、立下処理の期間中、遮蔽機構60における遮蔽部材61を遮蔽位置へと移動させることで、筐体10の吐出口10bを遮蔽することになる。前述のように、電源スイッチをOFFにした時点で遮蔽部材61が遮蔽位置に配置されている場合は、遮蔽部材61を移動させずに、遮蔽位置のまま保持すればよい。
また、立下処理が完了したことをフラグとして吐出口10bの遮蔽を解除してもよいし、不図示のタイマにより時間を計測し、その計測時間が所定値に達したときに遮蔽を解除してもよい。
以下、遮蔽機構60を作動させるタイミングの具体例について、立上処理および立下処理の詳細を交えつつ説明する。
図10は、インクジェット記録装置Iの基本動作を例示するフローチャートである。このフローチャートは、立上処理をはじめとするインクジェット記録装置Iの基本動作と、遮蔽機構60を作動させるタイミングと、の前後関係を例示している。
まず、図10のステップS1では、インクジェット記録装置Iの電源スイッチがOFFからONにされて、インクジェット記録装置Iに電源が投入される。
そして、ステップS1から続くステップS2では、制御部101が印字ヘッド1に制御信号を出力し、遮蔽機構60を作動させる。具体的に、制御部101は、遮蔽機構60における遮蔽部材61を遮蔽位置に移動させ、筐体10の吐出口10bを遮蔽する(インク吐出口:閉)。
ステップS2から続くステップS3において、制御部101が立上処理を実行する。
図11は、インクジェット記録装置Iの立上処理を例示するフローチャートである。このフローチャートは、図10におけるステップS3の詳細を例示している。すなわち、図11における4つのステップS301~ステップS304が、図10のステップS3を構成している。
また、図12Aは立上処理における工程Aを説明するための図であり、図12Bは立上処理における工程Bを説明するための図であり、図12Cは立上処理における工程Cを説明するための図である。
ステップS301においては、制御部101が工程Aを実行し、インクジェット記録装置Iにおけるインクおよび溶剤の経路を昇圧する。この工程Aにおいては、溶剤を準備するために、制御部101は、第16バルブV16を開いた状態で、第12バルブV12を閉状態で待機させる。その状態で溶剤ポンプP2が作動することで、溶剤カートリッジ105aに収容された溶剤が、第1溶剤経路31を介して第12バルブV12付近まで供給される(図12Aの太線を参照)。
また、インクを準備するために、制御部101は、第14バルブV14を閉状態で待機させる。その状態でインクポンプP1が作動することで、メインタンク104bに蓄えられたインクが、第4インク経路24を介して第14バルブV14付近まで供給される(図12Aの太線を参照)。
また、ガター16を準備するために、制御部101は、第10バルブV10および第1バルブV1を開状態で待機させる。その状態でガターポンプP3が作動することで、ガター16によって回収されたインクまたは溶剤を、第5インク経路25および第2分岐部52を介してメインタンク104bまで送り戻すことができるようになる(図12Aの太線を参照)。
工程Aにおいて、制御部101には、圧力計(図3等を参照)の検知信号が入力される。制御部101は、そうした検知信号に基づいて、第4インク経路24の圧力が規定値以上になるまで待機する。
ステップS301から続くステップS302では、制御部101が工程Bを実行し、ノズル12から溶剤を吐出させる。この工程Bにおいては、制御部101が第12バルブV12を開くことで、ノズル12から溶剤が吐出される。そうして吐出された溶剤は、ガター16によって回収される。この工程Bは、1秒未満の短時間にわたって実行されるため、他の工程に比して、少量の溶剤が吐出されることになる。そのため、工程Bにおいて吐出される溶剤は、第1バルブV1を介して第5インク経路25からメインタンク104bに送り戻される(図12Bの太線を参照)。
なお、工程Bにおいて多量の溶剤が噴射される場合は、第1バルブV1ではなく第3バルブV3が開放されて、第5インク経路25からコンディショニングタンク105bへ溶剤が送り戻される。
ステップS302から続くステップS303では、制御部101が工程Cを実行し、ノズル12からインクを吐出させる。この工程Cにおいては、インクを吐出させるために、制御部101は、第12バルブV12を閉じて第14バルブV14を開く。これにより、ノズル12から軸状のインク(インク軸)が吐出される。そうして吐出されたインクは、ガター16によって回収される。そうして回収されたインクは、第1バルブV1を介して第5インク経路25からメインタンク104bに送り戻される(図12Cの太線を参照)。
ステップS303から続くステップS304では、制御部101が、ノズル12から吐出されるインクへの加振、並びに、帯電電極13および偏向電極15への印加を開始させる。これにより、インクを粒子化させたり、帯電させたり、偏向させたりすることが可能となる。
ステップS304に示す処理が終了するとリターンされて、図11に示す制御プロセスから図10に示す制御プロセスに戻る。そして、制御部101は、ステップS3から続くステップS4を実行する。
具体的に、このステップS4においては、制御部101が印字ヘッド1に制御信号を出力し、遮蔽機構60を作動させる。具体的に、制御部101は、遮蔽機構60における遮蔽部材61を退避位置に移動させ、筐体10の吐出口10bへの遮蔽を解除する(インク吐出口:開)。これにより、インクジェット記録装置Iによる印字加工の準備が整うこととなり、同装置は印字可能状態となる。
ステップS4から続くステップS5において、制御部101は、粒子状のインク(インク粒)をワークWに着弾させることで、そのワークWに対して印字加工を行う。
具体的に、ワークWに印字加工を行う場合、加振器11によって加振されたインクがノズル12から吐出される。このインクは、コントローラ100のインク供給部104から適宜供給されるようになっている。ノズル12から吐出されたインクは、その吐出直後に粒子化し、帯電電極13によって帯電される。帯電電極13によって帯電されたインク粒は、帯電検出センサ14によって帯電状態が検出された上で、偏向電極15を通過する。
そして、偏向電極15によって飛翔方向が偏向されたインク粒は、筐体10内の飛翔空間S1を通過して、印字ヘッド1の外部に吐出される。印字ヘッド1から吐出されたインク粒は、ワークWの表面上に着弾する。ここで、インク粒の着弾位置は、各インク粒の帯電量と、偏向電極15への印加電圧を介して制御される。
また、前述のように、本実施形態に係るインクジェット記録装置Iは、コンティニュアス方式のインクジェットプリンタとして構成されているため、立上処理後の印字可能状態にあっては、印字加工を実行しないときであっても、ノズル12からインクが吐出され続けるようになっている。このときに吐出されるインクは、偏向電曲15によって偏向されない(換言すれば、「非偏向」とされる)。非偏向とされたインクは、印字加工に関与することなく、ガター16により回収されて装置内部を循環し、再利用される。
ここで、印字加工が滞りなく完了し、インクジェット記録装置Iが正常にシャットダウンされる場合を考える。具体的に、ステップS5から続くステップS6において、インクジェット記録装置Iの電源スイッチがONからOFFに切り替えられようとしたものとする。
この場合、ステップS6において、制御部101が印字ヘッド1に制御信号を出力し、遮蔽機構60を作動させる。具体的に、制御部101は、遮蔽機構60における遮蔽部材61を遮蔽位置に移動させ、筐体10の吐出口10bを遮蔽する(インク吐出口:閉)。
ステップS6から続くステップS7において、制御部101が立下処理を実行する。
図13は、インクジェット記録装置Iの立下処理を例示するフローチャートである。このフローチャートは、図10におけるステップS7の詳細を例示している。すなわち、図13における5つのステップS701~ステップS705が、図10のステップS7を構成している。
また、図14Aは立下処理における工程Dを説明するための図であり、図14Bは立下処理における工程Eを説明するための図であり、図14Cは立下処理における工程Fを説明するための図である。
ステップS901においては、制御部101が、ノズル12から吐出されるインクへの加振、並びに、帯電電極13および偏向電極15への電圧印加を停止する(インクの粒子化、帯電、偏向:ON→OFF)。これにより、インクの粒子化、帯電および偏向が停止され、ノズル12からは軸状のインク軸が吐出されるようになる。
ステップS701から続くステップS702では、制御部101が、インク軸の吐出を停止させる(インクの吐出停止)。具体的に、このステップS702では、インクの吐出を停止するために、制御部101は、第14バルブV14を閉じる。これにより、ノズル12からインクが吐出されないようになる。
ステップS702から続くステップS703では、制御部101が、溶剤の間欠吐出を実行する(溶剤の間欠噴出)。具体的に、制御部101は、溶剤を間欠的に吐出させるために、図14Aに例示する工程Dと、図14Bに例示する工程Eと、を交互に実行する。溶剤を間欠的に吐出することで、インクジェット記録装置I、特に印字ヘッド1をなすノズル12を洗浄することができる。
このうち、工程Dにおいては、制御部101は、第16バルブV16と、第12バルブV12と、第10バルブV10と、第1バルブV1と、を開く。その状態で溶剤ポンプP2およびガターポンプP3が作動することで、溶剤カートリッジ105aに収容された溶剤が、第1溶剤経路31を介してノズル12から吐出されてガター16により回収される。ガター16により回収された溶剤は、第5インク経路25および第2分岐部52を介してメインタンク104bに送り戻される(図14Aの太線を参照)。
図13に示す処理を開始した直後は、第5インク経路25に多くのインクが残存していると考えられるため、工程Dにおける溶剤は、コンディショニングタンク105bではなく、メインタンク104bへと送り戻されるようになっている。
また、工程Eにおいては、制御部101は、第12バルブV12を閉じて、第6バルブV6を開く。そうすると、循環ポンプP4が及ぼす負圧によって、ノズル12に残存した溶剤が、吸引経路27、第1分岐部51、第6インク経路26、第1バルブV1、第8インク経路28を介してメインタンク104bに吸い込まれるようになる(図14Bの太線を参照)。
なお、工程Eにおいては、第12バルブV12を閉じずに、開いたままとしてもよい。その場合、溶剤カートリッジ105aからノズル12へ溶剤が供給されつつも、そうして供給された溶剤がそのまま、吸引経路27から吸い込まれるようになる。こうすることで、第6バルブV6を流れる溶剤の流量を向上させ、より十分に洗浄することができるようになる。
工程Dと工程Eは、複数回(例えば5セット)にわたって繰り返される。ここで、ステップS903において工程Dを実施する時間(例えば1秒未満)は、工程Eを実施する時間(例えば数秒程度)よりも短い。
工程Eにおいて第12バルブV12を閉じた後に、工程Dにおいて第12バルブV12を開くことで、溶剤が間欠的に噴射されるようになる。工程Dから工程Eへ移行する際に、数秒程度にわたって第12バルブV12を閉じてもよい。こうすることで、第12バルブV12付近における溶剤の圧力を高めることができ、第12バルブV12を開いたときに、溶剤を勢いよく吐出することができるようになる。
ステップS703から続くステップS704において、制御部101が工程Dのみを実行し、ノズル12から溶剤を吐出させる。このステップS704において工程Dを実施する時間は、例えば30秒程度であり、ステップS703において工程Dを実施する時間よりも長い。ステップS704を実行することで、主に、ガター16に通じる第5インク経路25を洗浄することができる。
ステップS704から続くステップS705において、制御部101が工程Fを実行し、印字ヘッド1から溶剤を回収する。具体的に、この工程Fにおいて、制御部101は、第10バルブV10および第3バルブV3を開く。その状態でガターポンプP3が作動することで、ノズル12に残存した溶剤が、第5インク経路25および第2分岐部52を介してコンディショニングタンク105bに吸引される(図14Cの太線を参照)。このステップS705を実行することで、洗浄に用いた溶剤を回収することができる。
工程Fにおいて、制御部101は、第6バルブV6も開く。その状態で循環ポンプP4が作動することで、ノズル12に残存した溶剤が、吸引経路27、第1分岐部51、第6インク経路26および第2分岐部52を介してコンディショニングタンク105bに吸引される(図14Cの太線を参照)。
ステップS705が実行される前に、ステップS704において溶剤を吐出させたため、第5インク経路25には相対的に多くの溶剤が残存していると考えられる。そのため、工程Fにおける溶剤は、メインタンク104bではなく、コンディショニングタンク105bへと送り戻されるようになっている。
ステップS705に示す処理が終了するとリターンされて、図13に示す制御プロセスから図10に示す制御プロセスに戻る。そして、制御部101は、ステップS7から続くステップS8を実行する。
具体的に、このステップS8においては、制御部101が印字ヘッド1に制御信号を出力し、遮蔽機構60を作動させる。具体的に、制御部101は、遮蔽機構60における遮蔽部材61を退避位置に移動させ、筐体10の吐出口10bへの遮蔽を解除する(インク吐出口:開)。
そして、ステップS8から続くステップS9では、インクジェット記録装置Iへの電源供給が遮断され、インクジェット記録装置Iは、その動作を停止する。
<遮蔽機構60による遮蔽について>
本実施形態によれば、印字ヘッド1には、インクおよび溶剤のための吐出口10bを開閉する遮蔽機構60が設けられる。そして、この遮蔽機構60を制御する制御部101は、インクジェット記録装置Iに電源を投入してから印字が開始されるまでの間、遮蔽機構60を介して吐出口10bを遮蔽することにより、インクまたは溶剤がワークWに着弾されないようにする。これにより、インクジェット記録装置Iへの電源投入時に、インクまたは溶剤の漏出を抑制することができる。
また、図10のステップS5に例示するように、制御部101は、所定期間が経過した後は、遮蔽機構60による遮蔽を解除する。これにより、例えば立上動作が完了してインクの飛翔方向が安定化した後に、吐出口10bへの遮蔽を解除することができるようになる。
また、図2Bおよび図4等に例示するように、偏向電極15は、インクの飛翔方向に沿って延び、かつ互いに間隔を空けて相対する一対の金属板(具体的には、左電極15aおよび右電極15b)から成り、移動機構をなすアーム部62、回動部材63、第1付勢部材64、ワイヤー66および第2付勢部材67は、一対の金属板の双方に対して外方(具体的には、右方)に配置されている。このように配置することで、偏向電極15を通過するインクと干渉させることなく、移動機構をレイアウトすることができる。
ここで、図4等に例示するように、遮蔽機構60は、偏向電極15をなす一対の金属板のうち、相対的に高電位となる左電極15aではなく、接地電極としての右電極15bに近接して配置されている。このように配置することで、左電極15aからの放電に起因した印字不良を抑制することができる。
また、図6A等に例示するように、遮蔽部材61をガター16と吐出口10bとの間に介在させることで、ガター16にインクが衝突したときに、そのインクが吐出口10bを通じて外部に漏れ出すのを抑制することができる。
また、図15Aおよび図15B等に例示するように、ノズル12から吐出されるインクまたは溶剤の進行方向(直下方)に対して側方(前方)から遮蔽部材61を移動させることで、インクまたは溶剤をより確実に遮ることができる。
特に、図15B等に例示するように、遮蔽部材61は、吐出口10bの短手方向(図例では前後方向)に沿って動作(例えば、回動)することで、遮蔽位置(実線参照)と退避位置(鎖線参照)との間を移動する。このように構成することで、例えば遮蔽部材61を吐出口10bの長手方向(図例では左右方向)に沿って回動させるような構成と比較して、遮蔽機構60をコンパクトに構成することができる。
また、図10のステップS8に例示するように、インクジェット記録装置Iへの電源投入時ばかりでなく、例えばインインクジェット記録装置Iの電源遮断時にインクの吐出を停止させる際にも、遮蔽機構60によって吐出口10bを遮蔽することができる。これにより、インクジェット記録装置Iの電源遮断時においても、インクまたは溶剤の漏出を抑制することができる。
<遮蔽機構60の変形例>
図15Aは本実施形態に係る遮蔽機構60を概略的に示す側面図であり、図15Bは本実施形態に係る遮蔽機構を概略的に示す平面図である。また、図16は遮蔽機構60の第1変形例を示す図15A対応図であり、図17は遮蔽機構60の第2変形例を示す図15A対応図であり、図18は遮蔽機構60の第3変形例を示す図15A対応図であり、図19は遮蔽機構60の第4変形例を示す図15B対応図である。
以下、印字ヘッド1の第1変形例を単に「印字ヘッド」と呼称するとともに、これに符号「1001」を付す。同様に、印字ヘッド1の第2変形例、第3変形例および第4変形例をそれぞれ「印字ヘッド」と呼称するとともに、それぞれに符号「2001」、「3001」および「4001」を付す。
また、遮蔽機構60の第1変形例を単に「遮蔽機構」と呼称するとともに、これに符号「1060」を付す。同様に、遮蔽機構60の第2変形例、第3変形例および第4変形例をそれぞれ「遮蔽機構」と呼称するとともに、それぞれに符号「2060」、「3060」および「4060」を付す。
図15Aおよび図15Bに例示するように、本実施形態に係る遮蔽機構60は、遮蔽部材61を反時計回りに回動させることで、これを退避位置から遮蔽位置へと移動させていたが、この構成には限定されない。
例えば、図16に示す遮蔽機構1060は、その遮蔽部材1061を時計回り方向に回動させることで、これを退避位置(鎖線参照)と遮蔽位置(実線参照)との間で移動させることができる。
またそもそも、遮蔽部材を回動させる構成は必須ではない。
例えば、図17に示す遮蔽機構2060は、その遮蔽部材2061を前後方向にスライド移動させることで、これを退避位置(鎖線参照)と遮蔽位置(実線参照)との間で移動させることができる。
また、前記実施形態に係る遮蔽機構60、第1変形例に係る遮蔽機構1060、および第2変形例に係る遮蔽機構2060は、いずれも筐体10内に配置されていたが、この配置には限定されない。
例えば、図18に示す遮蔽機構3060は、筐体10の外部に配置されており、この筐体10の下面に沿わせるように、遮蔽部材3061を前後方向にスライド移動させることができる。
また、前記実施形態に係る遮蔽機構60は、ノズル12から吐出されるインクまたは溶剤の進行方向(紙面下方向)と直交する中心軸63cまわりに遮蔽部材61を回動させるように構成されていたが、この構成には限定されない。
例えば、図19に示す遮蔽機構4060は、インクまたは溶剤の進行方向に沿って延びる回転軸まわりに遮蔽部材4061を回動させることで、これを退避位置(鎖線参照)と遮蔽位置(実線参照)との間で移動させることができる。
<その他の実施形態>
前記実施形態では、ワイヤー66を加熱することで、これを伸び縮みさせるように構成されていたが、本開示は、この構成には限定されない。例えば、モータによってワイヤー66を引き込むように構成してもよい。あるいは、ワイヤー66を設けることなく、モータと回動部材63と連結し、モータによって回動部材63を回転させるように構成してもよい。
また、前記実施形態では、遮蔽機構60は、印字ヘッド1における筐体10の下面付近に配置されていたが、本開示は、そうしたレイアウトには限定されない。遮蔽機構60は、例えば、筐体10の上下方向中央部、および、該中央部よりも上側の部位に配置してもよい。